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平成24年(受)第1311号損害賠償請求事件
平成25年12月10日第三小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人青野洋士ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除
く。)について
1本件は,拘置所に収容されている死刑確定者及びその再審請求のために選任
された弁護人(以下「再審請求弁護人」という。)である被上告人らが,拘置所の
職員の立会いのない面会を許さなかった拘置所長の措置が違法であるとして,上告
人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,その被った精神的苦痛について慰謝料等
の支払を求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)ア被上告人X1は,強盗殺人等被告事件(以下「本件刑事事件」とい
う。)の被告人として起訴され,主として量刑を争っていた。本件刑事事件の第1
審及び第1次控訴審は被上告人X1を無期懲役に処する旨の判決をしたが,検察官
の上告に係る第1次上告審は,原判決を破棄し,本件刑事事件を原裁判所に差し戻
す判決をした。そして,第2次控訴審は死刑判決を,第2次上告審は被上告人X1
の上告を棄却する判決をそれぞれ言い渡し,上記死刑判決は確定した。以後,被上
告人X1は,死刑確定者として広島拘置所に収容されている。
イ被上告人X2及び同X3(以下「被上告人X2ら」という。)は,本件刑事
事件における第2次控訴審の国選弁護人及び第2次上告審の私選弁護人となった弁
護士である。
(2)ア被上告人X1は,平成19年4月1日頃,本件刑事事件の再審請求の弁
護人として被上告人X2らを選任した。被上告人X3は,同年6月5日,拘置所の
職員の立会いのある面会(以下「一般面会」という。)において,被上告人X1に
対し,本件刑事事件の再審請求の準備をする旨伝えた。
イ被上告人X1は,平成19年6月25日,広島拘置所の職員との面接におい
て,被上告人X3から再審請求の準備をする旨伝えられたが心情及び体調面での不
安要素はない旨述べた。
(3)ア被上告人X2らは,平成20年5月2日,被上告人X1の再審請求弁護人
として再審請求に関する打合せのために必要であるとして,広島拘置所の担当部署
に被上告人X1との同拘置所の職員の立会いのない面会(以下「秘密面会」とい
う。)の申出をするとともに,被上告人X2は,同拘置所の職員に対し,被上告人
X1の再審請求に係る弁護人選任届を示した。被上告人X2らは,秘密面会におい
て,再審請求の弁護方針を説明し,新たな精神鑑定についての被上告人X1の意向
を確認するとともに,同弁護方針を裏付ける事実の有無につき,被上告人X1から
事情を聞き出すことなどを予定していた。
これに対し,広島拘置所長は,被上告人らの秘密面会を許さなかった。ただし,
広島拘置所の職員は,被上告人X2らに対し,次回の一般面会の開始後に被上告人
らが再審請求に関して秘密とすることを要する内容の打合せを始める場合におい
て,被上告人X1が立会いをする職員に秘密面会の申出をしたときは,その当否を
検討する旨述べた。被上告人X2は,やむなく被上告人X1と一般面会をした上,
被上告人X1に対し,次回には秘密面会で再審請求に関する打合せをすることがで
きる旨伝えた。
イ被上告人X1は,平成20年5月9日,広島拘置所の職員との面接におい
て,再審請求に迷いがあり,被上告人X2らに対して再審請求をするか否かの結論
を示していない旨述べた。
(4)ア被上告人X2らは,平成20年7月15日,再審請求に関する打合せに
入った段階で秘密面会に切り替えることを予定して,広島拘置所の担当部署に一般
面会の申出をした上,被上告人X1と一般面会を行った。そして,被上告人X2ら
が近況報告等をした後,被上告人X1が立会いをする職員に秘密面会の申出をし
た。しかし,広島拘置所長は,被上告人らの秘密面会を許さなかった。そのため,
被上告人X1が,上記一般面会において,被上告人X2らに対して再審請求をして
ほしい旨述べていたにもかかわらず,被上告人らは,秘密面会をすることができ
ず,再審請求に関する打合せをすることができなかった。
イ被上告人X1は,平成20年7月25日,広島拘置所の職員との面接におい
て,上記アの一般面会の際には再審の話が始まれば立会いがなくなるものと認識し
ていたため,再審の話が始まっても立会いを付けると言われたことに気分を害して
少し興奮した旨述べた。
(5)被上告人X2らは,平成20年8月12日,広島拘置所の担当部署に被上
告人X1との秘密面会の申出をしたが,広島拘置所長は,被上告人らの秘密面会を
許さなかった。そのため,被上告人X2らは,やむなく被上告人X1と一般面会を
した上,被上告人X1にその経緯を説明した。被上告人X2らは,上記一般面会に
おいて,被上告人X1が再審請求をする意思を確認したものの,再審請求に関する
打合せをすることはできなかった。
3原審は,平成20年5月2日,同年7月15日及び同年8月12日における
被上告人らの前記各面会(以下「本件各面会」という。)において秘密面会を許さ
なかった広島拘置所長の措置(以下「本件各措置」という。)が被上告人ら全員の
関係において国家賠償法1条1項の適用上違法となるとして,被上告人らの請求を
一部認容した。所論は,秘密面会を許すか否かの措置は刑事施設の長の専門的,技
術的な裁量に委ねられ,本件各措置は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するも
のではないというべきであるとともに,再審請求弁護人には秘密面会をすることに
つき固有の利益が認められるべきではないのに,本件各措置が被上告人ら全員の関
係において国家賠償法1条1項の適用上違法となるとした原審の判断には,法令解
釈の誤りがあるというのである。
4(1)刑事施設の長は,被収容者と外部の者との面会に関する許否の権限を有
しているところ,当該施設の規律及び秩序の維持,被収容者の矯正処遇の適切な実
施等の観点からその権限を適切に行使するよう職務上義務付けられている(刑事収
容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)第
2編第2章第11節第2款)。そして,死刑確定者については,同法121条本文
において,その指名する職員が面会に立ち会うか,又はその面会の状況の録音若し
くは録画をすることを原則としつつ,同条ただし書は,死刑確定者の訴訟の準備そ
の他の正当な利益の保護のため秘密面会を許すか否かの措置を刑事施設の長の裁量
に委ね,当該正当な利益を一定の範囲で尊重するよう刑事施設の長に職務上義務付
けている。
ところで,刑訴法440条1項は,検察官以外の者が再審請求をする場合には,
弁護人を選任することができる旨規定しているところ,死刑確定者が再審請求をす
るためには,再審請求弁護人から援助を受ける機会を実質的に保障する必要がある
から,死刑確定者は,再審請求前の打合せの段階にあっても,刑事収容施設法12
1条ただし書にいう「正当な利益」として,再審請求弁護人と秘密面会をする利益
を有する。
また,上記の秘密面会の利益が保護されることは,面会の相手方である再審請求
弁護人にとってもその十分な活動を保障するために不可欠なものであって,死刑確
定者の弁護人による弁護権の行使においても重要なものである。のみならず,刑訴
法39条1項によって被告人又は被疑者に保障される秘密交通権が,弁護人にとっ
てはその固有権の重要なものの一つであるとされていることに鑑みれば(最高裁昭
和49年(オ)第1088号同53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号
820頁),秘密面会の利益も,上記のような刑訴法440条1項の趣旨に照ら
し,再審請求弁護人からいえばその固有の利益であると解するのが相当である。
上記のとおり,秘密面会の利益は,死刑確定者だけではなく,再審請求弁護人に
とっても重要なものであることからすれば,刑事施設の長は,死刑確定者の面会に
関する許否の権限を行使するに当たり,その規律及び秩序の維持等の観点からその
権限を適切に行使するとともに,死刑確定者と再審請求弁護人との秘密面会の利益
をも十分に尊重しなければならないというべきである。
したがって,死刑確定者又は再審請求弁護人が再審請求に向けた打合せをするた
めに秘密面会の申出をした場合に,これを許さない刑事施設の長の措置は,秘密面
会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ,
又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえその心情の安定を把握する必要性が
高いと認められるなど特段の事情がない限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫
用して死刑確定者の秘密面会をする利益を侵害するだけではなく,再審請求弁護人
の固有の秘密面会をする利益も侵害するものとして,国家賠償法1条1項の適用上
違法となると解するのが相当である。
(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,被上告人らは,被上
告人X1の再審請求に向けた打合せをするために本件各面会につき秘密面会の申出
をしているところ,本件各面会に先立ち,被上告人X1は,広島拘置所の職員との
面接において,被上告人X3から再審請求の準備をする旨伝えられたが心情面での
不安要素はないなどと述べていたというのであり,その他本件に現れた一切の事情
を勘案しても,前記特段の事情があることをうかがうことはできない。
そうすると,本件各措置は,広島拘置所長が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫
用して被上告人らの前記各利益をいずれも侵害したものとして,国家賠償法1条1
項の適用上違法となるというべきである。所論の点に関する原審の判断は,以上の
趣旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大谷剛彦裁判官岡部喜代子裁判官寺田逸郎裁判官
大橋正春裁判官木内道祥)

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