弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

        主    文
   1 本件控訴を棄却する。
   2 控訴費用は控訴人の負担とする。
        事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人が平成14年4月12日付でした原判決別紙物件目録記載1の物
件に対する平成14年度固定資産税の賦課処分は,これを取り消す。
 3 訴訟費用は,被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 1 次項に当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決「第2 事案
の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
 2 当審における控訴人の主張
  (1) 本件建物は,建物自体の使用収益ができないわけではないが,その存在
のために必要な敷地の利用が法律上許されていない。すなわち,本件建物は,競
売事件の物件明細書にも敷地利用権がないと記載され,敷地利用者との間の訴訟
においても本件建物の収去を命ずる判決がされるのが通常であるところ,このよ
うな場合には土地に「定着」した建造物ということはできず,建物には該当しな
いというべきであり,また,「用途に供し得る状態」にあるということもできな
い。
  (2) 固定資産税が財産税に属し,本件建物が固定資産税の課税客体に該当す
るとしても,敷地利用権を有する建物と敷地利用権を有しない建物とでは建物の
財産価値は異なり,後者にあっては,同一建物として存在させるためには移築費
用分の負担を要するのであるから,建物としての価値を失ったものというべきで
あり(課税標準額は約2800万円とされているが,競落代金はその税額の約8
分の1相当額である373万円である。),また,双方について同一額の固定資
産税を付加するのは公平とはいえず,著しく公平を欠くものであって,憲法29
条2項,30条に違反する。
  (3) 固定資産税と不動産取得税の課税客体は同一であり,その課税標準額も
その趣旨(財産の価値を税額算定の基礎とする点)も同一であるところ,控訴人
が本件建物を競落により取得したことによる不動産取得税(県税)については,
一旦112万9800円の賦課処分がされたが,後に賦課取消しにより全額につ
き減額処分がされている。
第3 当裁判所の判断
 1 地方税法342条1項により固定資産税の課税客体とされる「固定資産」
とは「土地,家屋及び償却資産を総称する」とされ(同法341条1号),同号
にいわゆる「家屋」とは,同法341条3号によれば「住家,店舗,工場(発電
所及び変電所を含む。),倉庫その他の建物をいう。」とされているところ,こ
こにいわゆる「建物」とは不動産登記法にいう建物とその意義を同じくし,した
がって建物登記簿に登記されるべき建物,すなわち屋根及び周壁又はこれに類す
るものを有し,土地に定着した建造物であって,その目的とする用途に供し得る
状態にあるものをいうものと解すべきである。
   そして,前記(引用の原判決)の争いのない事実等に加え,証拠(乙3の
1,3の2の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,本件建物は,本件賦課期
日において,屋根及び周壁又はこれに類するものを有し,土地に定着した建造物
であって,その目的とする用途に供し得る状態にあったことが認められるから,
本件建物は地方税法341条3号にいわゆる「建物」に当たるものというべきで
ある。
 2 控訴人は,本件建物には敷地利用権がないため,これをもって「土地に定
着した建造物」とはいえず,また,「その目的とする用途に供し得る状態」にも
なかったとして,地方税法341条3号にいわゆる「建物」には当たらない旨主
張する。
   しかし,固定資産税は,家屋等の資産価値に着目し,その所有という事実
に担税力を認めて課する一種の財産税であって,固定資産の所有者がこれを使
用,収益,処分することにより得られるであろう利益に着目して課されるもので
はないから,固定資産税の課税客体となる「家屋」といえるか,すなわち,土地
に定着した建造物か否か,その目的とする用途に供し得る状態にあるか否かなど
の判断は,建造物自体の物理的状態を基礎として社会通念によって決せられるべ
きものであり,敷地利用権の有無によって左右されるものではない。
 3 控訴人は,本件建物が固定資産税の課税客体に該当するとしても,敷地利
用権を有しない建物は移築費用分の負担を要するのであるから,建物としての価
値を失ったものというべきであり,敷地利用権を有する建物と同一額の固定資産
税を付加するのは著しく公平を欠くものであって,憲法29条2項,30条に違
反する旨主張する。
   しかし,上記判示のとおり,そもそも固定資産税は家屋等の資産価値に着
目し,その所有という事実に担税力を認めて課される一種の財産税であって,当
該建物の敷地利用権の有無が建物自体の取引価格に影響することがあるとして
も,当該建物自体の価値を直ちに左右するものということはできない。仮にこれ
を考慮するとしても,敷地利用権の有無は固定的なものではなく,また,賦課期
日における敷地利用権の有無を認定判断することは課税技術的に必ずしも容易な
ことではないから,これを考慮することは,固定資産の持つ資産価値に着目しつ
つ明確な基準の下に公平な課税を図るべき固定資産税制度の趣旨に沿うものとい
うことはできない。控訴人の憲法違反の主張は独自の見解であり,採用できな
い。
 4 控訴人は,固定資産税と不動産取得税の課税客体は同一であり,その課税
標準額もその趣旨(財産の価値を税額算定の基礎とする点)も同一であるとこ
ろ,控訴人が本件建物を競落により取得したことによる不動産取得税について
は,一旦賦課処分がされたが,後に賦課取消しにより全額につき減額処分がされ
ており,同一に扱うべき旨を主張する。
   調査嘱託の結果によれば,a県b地域事務所長は,控訴人の本件建物の取
得に対し,平成13年12月3日付け納税通知書で通知した不動産取得税に関
し,平成14年2月4日に「賦課取消」を理由に「0円」とする不動産取得税減
額通知をしたことが認められる。しかし,上記判示のとおり固定資産税は固定資
産の所有自体に着目して課される財産税であるのに対し,不動産取得税は不動産
の取得自体に着目して課される流通税であって,その趣旨,目的を異にするもの
であるから,不動産取得税と同一に扱わねばならない理由はなく,同税の賦課が
取り消されたことは固定資産税の賦課に影響を及ぼすべき事柄ということはでき
ない(なお,調査嘱託の結果によれば,控訴人に対してされた上記の不動産取得
税減額通知は,本件建物が移築するために取得したものであるため,不動産の承
継取得としての課税は取り消し,移築後に原始課税をするとの趣旨に基づくもの
であり,不動産取得税としても課税しない趣旨というものではない。)。
 5 以上によれば,控訴人の請求は理由がないから,これを棄却した原判決は
相当であって,本件控訴は理由がない。よって,本件控訴を棄却することとし,
控訴費用の負担につき行訴法7条,民訴法67条1項,61条を適用して,主文
のとおり判決する。 
   広島高等裁判所第3部
       裁判長裁判官   下   司   正   明
          裁判官   能   勢   顯   男
 
          裁判官   齋   藤   憲   次
(原判決「第2 事案の概要」)
第2 事案の概要
   本件は,本件建物の所有者である原告が,被告がした本件建物に対する本
件処分が違法である旨主張して,その取消しを求めた事案である。
 1 争いのない事実等(末尾に証拠等を掲記していない事実は当事者間に争い
がない。)
  (1) 本件建物は,不動産競売事件(広島地方裁判所福山支部平成12年(ケ)第
154号)の対象物件であり,原告は,平成13年7月3日,競落により本件建物の所有
権を取得し,同日,原告を所有者とする所有権移転登記手続がなされた。
    原告は,同日以降,本件処分の賦課期日である平成14年1月1日(以下
「本件賦課期日」という。)を経て現在に至るまで,本件建物の所有者であり登
記名義人である。
  (2) 本件建物の前記競落前の権利関係等(甲1,2,4,5,弁論の全趣旨)
    本件建物の前記競落前の所有者は,株式会社Aであり,株式会社Aは,
B株式会社に対し,本件建物を賃貸し,B株式会社は,Cに対し,本件建物を転
貸していた。
    Cは,前記競落前から本件建物を占有していたが,前記不動産競売事件
の一件記録中には,Cに関する記載はなかった。    
  (3) 本件建物の敷地の権利関係(甲2,4,5)
    本件建物は,別紙物件目録記載2及び3の各土地(以下「本件敷地」とい
う。)上にある。
    同目録記載2の土地の所有者は,B株式会社である。
    同目録記載3の土地の所有者は,Dである。
    Dは,株式会社Aに対し,同目録記載3の土地を無償で貸している。
  (4) 原告は,本件敷地の利用権を有さず,B株式会社から,平成13年7月
19日付けの内容証明郵便により,本件建物の収去を請求された(甲2,6,弁論の
全趣旨)。
  (5) 被告は,平成14年4月12日付けで本件処分をした。
    本件処分は,本件建物の本件賦課期日における固定資産税課税標準額で
ある2824万5000円に,標準課税率である1.4/100を乗じ,固定資産税額を39万
5400円(百円未満切り捨て)と算定したものであった。
  (6) 原告は,被告に対し,平成14年5月24日付けで,本件処分の取消しを求
める異議申立てをした。
    被告は,同年6月6日付けで,上記異議申立てを棄却した。
 2 争点
   本件処分の適法性
 3 争点に対する当事者の主張
  (1) 原告の主張
   ア 原告は,前所有者の株式会社Aと異なり,本件建物を使用,収益する
ことができず,本件建物を解体して収去する義務を負っている。また,原告は,
Cの本件建物の占有を解除しない限り,本件建物を収去することもできない。
     本件建物は,原告が競落したことにより,建物としてのすべての権能
を失っており,その財産的価値は零であり,原告は,本件建物について一切の行
政サービスを受けることができない。
     したがって,原告は,本件建物を構成する各建築材料を取得したにす
ぎず,本件建物は,本件賦課期日において,固定資産税の課税客体となる「建
物」ではなかったというべきである。
     そうすると,本件処分は,「建物」が存在しないにもかかわらずなさ
れたものであるから,違法であり,取消しを免れない。
   イ 仮に,地方税法が,本件建物が固定資産税の課税客体に該当する旨定
めているとすれば,このような規定は,本件のような稀なケースに対応できず,
著しく不公平な課税をなすものであるから,憲法29条2項及び30条に違反し無効と
いうべきである。
  (2) 被告の主張
    固定資産税の課税客体となる「家屋」(地方税法341条3号)とは,不動
産登記法上の「建物」と同義であるところ,本件建物が,本件賦課期日におい
て,外気遮断性,土地定着性,用途性を備えた不動産登記法にいう「建物」とし
て存在していたものであり,したがって,本件建物が固定資産税の課税客体とな
る「家屋」に該当することは明らかであるから,本件処分に何らの違法はない。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛