弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     抗告人江商株式会社の抗告はこれを却下する。
     抗告人株式会社丸本、同Aの抗告はいずれもこれを棄却する。
         理    由
 抗告人江商株式会社の抗告の要旨は次のとおりであつて、同抗告人は、証拠とし
て疎第一ないし第十二号証を提出した。
 抗告人江商株式会社は本件競売の申立人であつて、競売法第二十七条所定の利害
関係人であるところ、本件競落代金百二十万円(土地代金八十万円、建物代金四十
万円)は、時価(土地は三百四十四万三千五百円、建物は百八十二万四千二百円
に)比しあまりにも低廉であつて、再度競売を実施せらるるときは裕に高価に売却
せらるべき可能性があり、従つて本件競落許可決定により損失を被るべき場合であ
るので、右決定に対し即時抗告をなしたのであるが、原決定の基礎となつた競売手
続には次のような違法がある。
 (一) 本件競売の目的たる土地は二筆あるので、競売期日の公告にその公課及
び最低競売価額を掲載するにあたつては、各別にこれを定めて記載しなければなら
ないのにかかわらず、一括してこれを記載したのは違法である。
 (二) 本件競売の目的たる土地は株式会社丸本の所有であつて、建物はAの所
有である。そしてAは株式会社丸本から右土地を期間の定なく賃借し、右地上に右
建物を建設所有し、これを株式会社丸本に賃貸している関係にあり、右建物につい
ては登記ありかつ引渡を了しているので、右二箇の賃貸借はいずれも競落人その他
の第三者に対抗しうべきものである。従つてこれを競売期日の公告に掲載すべきで
あるにかかわらず、競売裁判所は右賃貸借の存在について何ら調査することなく、
漫然賃貸借なしとして公告したのは違法である。
 (三) 数個の不動産を一括競売に付するためには、利害関係人の同意をうるこ
とを要するにかかわらず、本件において、原裁判所がこれをうることなく二筆の土
地を一括して競売に付したのは違法である
 (四) 本件競売調書には、昭和二十八年九月二十五日午前十時競買価額を申出
づべき旨の催告をなしBの競買申出があつて同十一時終局を告知した旨の記載があ
るが、同日静岡地方裁判所浜松支部において、、本件のほか同庁昭和二十八年
(ケ)第三六号、同年(ヌ)第一二号各競売事件の競売が執行吏Cの担当の下に午
前十時から実施されており、三件同時に競売期日を開き競売を実施することは物理
的に不可能であるので、右三件が共に午前十一時に終局せる旨の記載よりすれば、
少くとも二件は催告後満一時間を経過していないものとみるのほかなく違法であ
る。
 (五) 本件競売の目的たる建物には、東側に間口一間奥行七間の木造トタン葺
平家がいわゆる葺下げにして建築されているが競売裁判所は右事実を無視してこれ
を競売期日の公告に掲載せず、又最低競売価額を定めるにあたつても右事実を参酌
していない。もし右事実が公告上明瞭であるときは、より高価の競買申出をなす者
もあるべく、申立人たる抗告人はこれにより損害を被る次第である。
 (六) 本件競売の目的たる土地建物に対する鑑定人Cの評価(土地八十万円、
建物四十万円)は、時価(土地三百四十四万三千五百円、建物百八十二万四千二百
円)に比しあまりにも低廉にすぎ、実質的には、ないにひとしいものであつたので
競売裁判所はよろしく職権を以て再鑑定を命ずべきであつたのにかかわらず、漫然
右鑑定人の評価を採用してこれを以て最低競売価額となしたのは違法である。
 (七) 鑑定人Cは、本件競売を実施した執行吏であつて、裁判所の命に服する
義務あるものであるから、競売裁判所が同人を鑑定人に選任したのは違法である。
 (八) 本件競売期日の公告が掲示されたという静岡地方裁判所浜松支部の掲示
板は、箱であつて、表面は金網を張りその上は硝子張りであり、手が出せないか
ら、その硝子を通じて公告が一目瞭然によみうるよう掲示されねばならないのにか
かわらず、その箱の内部に「競売関係公告綴」と表紙に記載ある一冊の公告綴が一
本の釘にかけてあるだけであつて、しかもその裏側には錠が施してあるので、一般
人はついに公告があるかないか判らない状態であり仮に右錠が執務時間中はかけら
れてないとしても。これをあけて内の公告をみるには余程の勇気と努力を要するも
のというべく、本件競売期日の公告がかかる状態において掲示されていたとすれば
それは公告なきにひとしいものである。
 (九) 競落期日の調書には利害関係人の出頭、不出頭を明確にしなければなら
ないのにかかわらず、昭和二十八年九月二十五日の本件競落期日調書にかかる記載
のないのは違法である。
 (一〇) 本件競売申立は根抵当権の実行としてなされたものであるから、その
競売申立をなすにあたつては、現実に存在する債権を疎明させることを要するにか
かわらず、これをさせなかつたのは、競売申立の要件をかくものであつて、従つて
その競売開始は違法であり、これに基く競落は許すべきでない。
 よつて「原決定を取り消す。本件競落はこれを許さない。」との旨の裁判を求め
る。
 抗告人株式会社丸本、同Aの抗告の要旨は次のとおりであつて、右抗告人らは、
証拠として甲第一号証を提出した。
 (一) 本件競売申立は根抵当権の実行としてなされたものであるところ、抗告
人らは、従来申立人と無担保取引を継続して来たのを根抵当権を設定すれば倍額に
増加するという申立人の申出を信じて右根抵当権を設定したのである。しかるに申
立人は前言をひるがえし取引額の増額をしないのみならず全然取引を停止したの
で、右根抵当権設定契約は要素の錯誤により無効である。
 (二) 仮に右根抵当権の設定が無効でないとしても、申立人は、昭和二十八年
五月抗告人らに対し右根抵当権の被担保債権の弁済を同年十二月末日まで猶予する
旨約したので、本件競売は続行すべからざるものであるにかかわらず、これを続行
したのは違法である。
 よつて「原決定を取り消す。本件競落を許さない。」との裁判を求める。
 右に対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 利害関係人は競落の許否についての決定により損失を被るべき場合においてはそ
の決定に対して即時抗告をなすことをうることは、競売法第三十二条、民事訴訟法
第六百八十条の明定するところであつて、本件において、抗告人江商株式会社が競
売法第二十七条所定の利害関係人であることは記録上明らかであるが、本件競売手
続の違法なることにより右抗告人が損失を被ることは、その提出にかかる証拠方法
によつては未だ十分に証明されたとなすことができない。けだし各利害関係人はそ
の被るべき損失を証明すべき責任を負うこと固より当然であるところ、右抗告人
は、本件競売の申立人であつて、債務者及び所有者とことなり、本件競落により<要
旨第一>当然損失を被る者ということはできず、その被るべき違法の損失は、結局そ
の主張のような違法がなかつたならばより高価に競売されたはずであ
り、その売得金から弁済を受くべき立場にある抗告人がその価額と本件競落代金と
の差額を失うことに帰するのであるが、右抗告人がこのような損失を被るべきこと
は、その主張自体によるも、その提出した証拠によるもこれを認めることができな
いので、右抗告人の抗告は、既にこの点において不適法であるといわねばならぬ。
しかしながら、本件抗告は、競売法第三十二条民事訴訟法第六百八十二条第二項に
より抗告人株式会社丸本、同Aの申立にかかる抗告と互にこれを併合したものであ
り、又後の抗告事件においては、裁判所は、職権を以て競売手続の違法の有無を審
査し、抗告の当否を決する職責をもつているものであり、なお抗告人江商株式会社
の抗告理由中には前記損失の有無と関連をもつものとして主張されているものもあ
るので、あるいは無駄かも知れないのであるが、逐次その抗告理由について判断す
ることとする。
 (一) 記録によれば、競売裁判所は所論の二筆の土地を併合して競売に付した
のであつて、又その一筆を以て債権及び費用を弁済しうる場合でないのであるか
ら、競売期日の公告にその公課及び最低競売価額を掲載するにあたり、これを各別
に記載せずして、合算して記載したのは当撰であつて、抗告人主張のような違法は
ない。
 (二) 競売法第二十四条第五項民事訴訟法第六百四十三条第一項第五号第三項
によれば、競売法による競売の申立には、競売の目的たる地所、建物につき賃貸借
がある場合には、その期限並びに借賃、及び借賃の前払又は敷金の差入があるとき
は、その額を証すべき証書を添附すべく、この要件を証明することができないとき
は、<要旨第二>申立に際し、その取調方を裁判所に申請できるのであるが、裁判所
は取調の申立のない限り、職権を以て、取調を命ずべきでないから、賃
貸借の有無ついても賃貸借がないものとして手続を進行させるよりほかないのであ
る。そして、本件において、申立人である抗告人の競売申立書によれば、目的たる
土地建物につき賃貸借関係がない旨記載せられてあり、又格別賃貸借取調の申立も
していないのであるから、原裁判所が所論の賃貸借の有無につき何ら調査すること
なく、賃貸借のないものとして競売手続を進行したのは当然であつて、本件競売手
続には所論のような違法の点がないばかりでなく、抗告人の右抗告理由は、自らな
した申立書記載の賃貸借関係なしとの言に反するものであつて、許すべきでない。
 <要旨第三>(三) 数個の不動産に対して同時に競売の申立があるときは、これ
を各別に競売に付すると一括して競売に付するとは、競売裁判所の裁量
によつて決しうるところであつて、各別に競売することは売却条件ではないのであ
るから、競売裁判所は、これが一括競売を命ずるにあたり、必ずしも利害関係人の
同意をうることを必要としないのである。固より競売裁判所は、一括競売が箇別競
売に比してより利害関係人に有利である場合でなければ一括競売を命ずべきでない
が、鑑定人C提出の不動産評価書によれば、本件二筆の土地は、事実上一団の土地
であり、かつ内一筆は道路に面していないので、これを一括して競売に付した方が
各別に競売に付した場合より有利であることが実験則上明らかであるから、競売裁
判所がこれを一括して競売に付したのは正当である。
 (四) 執行吏C作成の不動産競売調書によれば、昭和二十八年九月二十五日午
前十時競売期日を開き、競買価額を申出ずべき旨の催告をなし、その後満一時間を
経たる午前十一時終局を告知したことが明らかであつて<要旨第四>競売調書は執行
吏の作成する公正証書であるから、その偽造もしくは変造になる旨の反証を提出す
るのでなければその真正を争うことはできないものというべく、右につ
き何ら証拠を提出せずして右競売調書の記載に反する主張をなす抗告人の抗告理由
(四)は理由がない。
 (五) 本件競売の目的たる建物に所論のような葺下げがあつたとしても、全体
として経済上著しい差異を認めることができず従つてこれが競売期日の公告に記載
せられ、又最低競売価額を定めるに当つて参酌されたからといつて、格別高価の競
買申出をなす者のあることも予想されないので、本件公告を違法とすべきではな
い。
 (六) 最低競売価額決定の基礎となつた鑑定人の評価額が低廉にすぎるとの主
張は、その評価があまりにも乱暴であつて評価に値しないというような場合を除
き、競落許可決定に対する抗告適法の理由となすことができないものであるとこ
ろ、本件において、鑑定人Cのなした評価が評価に値せず実質的にはないにひとし
い場合であることは、抗告人の証拠によつてはにわかにこれを断ずることはできな
いので、結局評価額に関する意見の相違というのほかなく、抗告人の抗告理由
(六)は理由がない。
 (七) 裁判所は鑑定人をして競売に付すべき不動産の評価をなさしめその評価
額を以て最低競売価額となすべき<要旨第五>ことは、競売法第二十八条の明定する
ところであつて、固より鑑定人は公正に鑑定をなすべきものであるが、
何人を鑑定人に選任するかは競売裁判所の意見を以て決すべきことであつて、裁判
所の命令に服する執行吏を鑑定人に選任することもまた妨げあるものでないから、
抗告人の抗告理由(七)もまた理由がない。
 (八) 競売期日の公告は、裁判所の掲示板及び不動産所在地の市町村の掲示板
に掲示してなすべきことは、競売法第二十九条第二項民事訴訟法第六百六十一条の
規定するところであつて、その趣旨とするところは、なるべく多数人をして競売期
日を周知せしめ以て競売の実施を適正ならしむるにあるが故に、これを掲示するに
あたつては、不特定多数人がこれを閲覧するに便利の様配慮するは当然であり、か
つ望ましいことではあるが、たとえ本件公告を掲示した静岡地方裁判所浜松支部の
掲示板がその設備構造において不完全であつたとしても、とにかく不特定多数人が
閲覧しうるよう右掲示板に掲示したことは疑ないところであるから、その掲示方法
を目して所論のように掲示がなかつたものと同一視することができず、しかも抗告
人がこのことにより損失を被るべきことの証明がないのであるから、抗告人の抗告
理由(八)は理由がない。
 <要旨第六>(九) 競落期日の調書は、競売手続の性質による差異の生じない限
り口頭弁論調書についての規定に従つてこれを作成するを適当とし、
又、利害関係人が競落期日に出頭して競落の許可につき陳述をなしたときは、これ
を調書に明確ならしむることを要するものであるけれども、競落期日の調書に利害
関係人の出頭不出頭を明確ならしむることは必ずしも必要でなく、出頭の記載なき
ときは出頭しなかつたものと認むべきものであるから、所論調書にこの点に関する
記載がないからといつて、違法ということはできない。
 (十) 競売法による競売申立書には、競売の原因たる事由を記載すべきこと
は、競売法第二十四条第一項の規定するところであるけれども、その申立が根抵当
権の実行としてなされた場合、申立当時存在した被担保債権の額までも証明する書
類を申立書に添附することは必ずしも必要でないので、本件競売申立には所論のよ
うな違法はない。
 次に抗告人株式会社丸本、同Aの抗告理由について判断する。
 所論(一)の事由は、これを認むべき証拠全然なく、(二)の事由は、甲第一号
証によれば単に当分の間猶予したというに止まりこれだけでは右事由を認めること
ができないので、抗告人らの抗告理由はすべて理由がない。
 その他記録を精査するも、原決定取消の事由となすに足る違法の点を発見するこ
とができないので、右抗告人らの抗告は理由なしとして棄却すべきである。
 よつて主文のとおり決定した。
 (裁判長判事 大江保直 判事 岡咲恕一 判事 猪俣幸一)

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