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裁判例


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主文
1原判決主文第2項を取り消す。
2控訴人組合らの訴えを,いずれも却下する。
3控訴人会社の本件控訴を棄却する。
4第1事件に係る控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む)は控。
訴人会社の負担とし,第2事件に係る訴訟費用(参加によって生じた費用
を含む)は,第1,2審とも,控訴人組合らの負担とする。。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人会社の控訴の趣旨
()原判決主文第1項を取り消す。1
()被控訴人が都労委平成9年(不)第12号事件について,平成13年12
0月16日付けでした命令のうち,主文第1ないし第3項を取り消す。
()訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。3
2控訴人組合らの控訴の趣旨
()原判決主文第2項を取り消す。1
()被控訴人が都労委平成9年(不)第12号事件について,平成13年12
0月16日付けでした命令のうち,主文第4項及び第5項を取り消す。
()訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。3
3控訴の趣旨に対する被控訴人の答弁
()控訴人会社の訴えについて1
ア本案前の答弁
控訴人会社の訴えを却下する。
イ本案の答弁
控訴人会社の控訴を棄却する。
()控訴人組合らの訴えを却下する。2
()訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人会社の3
負担とし,その余を控訴人組合らの負担とする。
第2事案の概要
,,()1控訴人会社は昭和44年6月30日に住友機械工業株式会社住友機械
と浦賀重工業株式会社(浦賀重工)とが合併してできた会社であり,各種機械
の製造及び船舶の製造を主な業としている。控訴人組合は,もとは浦賀重工の
従業員によって組織されていた労働組合であり,現在は,控訴人会社の浦賀艦
船工場及び追浜造船所に勤務する従業員によって組織されている。控訴人Aら
12名は,浦賀重工の前身の浦賀船渠株式会社に入社し,本件の救済申立時,
控訴人会社の従業員であった者であり(現在は,定年により退職した者がい
る,また,いずれも控訴人組合の組合員である。。)
2昭和44年の住友機械と浦賀重工との合併後,控訴人会社と控訴人組合との
間で紛争が続出したが,両者の間において,
()昭和55年3月31日,昇格問題の一部について,控訴人組合と控訴人1
会社との間で合意が成立し,控訴人Aら12名は,過去に遡って又は同年4
月に昇格することとなり(昭和55年合意,)
()昭和58年3月31日,上記合意に伴い基本給の是正を合意するととも2
,「(),に浦賀分会控訴人組合は昭和57年度以前の各年の昇格については
以後一切の異議の申立てを行わない」等を内容とする確認書を取り交わし,
()同年12月27日,中央労働委員会(中労委)において,協定書を取り3
交わし「会社(控訴人会社)は,浦賀分会(控訴人組合)に不当労働行為,
,。」との疑問を抱かせるような行為があったことに対し遺憾の意を表明する
「会社(控訴人会社)は,本和解協定の趣旨を本件該当事業所の全管理職に
周知し,今後,この種紛争が発生しないよう努力する・・「会社(控訴人」
会社)と分会(控訴人組合)は,すでに合意成立している昭和55年3月3
1日付合意書,昭和58年3月31日付確認書を本協定と一体のものとして
取り扱う」などの事項について一括した和解が成立し(昭和58年和解,。)
()控訴人組合申立て(昭和62年)に係る,控訴人組合員に対する昇格差4
別の是正を求める救済申立てについて,平成元年3月31日付けで和解が成
立し,控訴人B,同C,同D,同E,同F,同G,同H(Bら7名)が,過
去に遡って又は同年4月に昇格することとなった(平成元年和解。)
3ところが,平成8年4月に控訴人組合員の昇格がなかったことから,控訴人
組合らは,平成9年3月26日,被控訴人に対して,控訴人Aら12名が昇格
差別を受けており,これは不当労働行為(不利益取扱い)に該当すると主張し
て,控訴人会社に,①控訴人Aら12名に対して,昇格させること,②控
訴人Aら12名に対して,昇格を前提とする将来の給与,賞与及び過去の給与
,(),差額賞与差額並びにこれらに対する付加金遅延損害金の支払をすること
③組合員であることを理由として,昇格差別を行って,支配介入・不利益取
扱いをしてはならないこと,④陳謝文の掲示をすることを求める救済申立てを
した(以下「本件救済申立て」という。。)
これに対し,被控訴人は,(ア)控訴人会社に対し,控訴人A,同I,同J
(以下「控訴人Aら3名」という)を平成8年4月1日付けで上級職1級に。
それぞれ昇格させたものとして取り扱い,昇格していたならば支払われたであ
(。),,ろう賃金一時金を含むとの差額の支払を命じ(イ)控訴人会社に対し
控訴人組合に1週間以内に,今後このような行為を繰り返さない旨の文書を交
付することを命じ,(ウ)控訴人会社に対し,上記(ア),(イ)を履行したとき
は,速やかに被控訴人に文書で報告することを命じたが,(エ)控訴人K,同
E,同F及び同Gに関する平成7年3月以前の昇格を求める申立てを却下し,
(。,「」(オ)その余の申立てを棄却した本件命令本判決では本件都労委命令
ともいう。。)
4本件は,控訴人会社が,被控訴人に対し,本件都労委命令のうち救済命令を
発した部分の取消しを(第1事件,控訴人組合らが,本件都労委命令のうち)
申立てを却下,棄却した部分の取消しを(第2事件)それぞれ求めた事案であ
り,控訴人組合及び控訴人Aら3名は,被控訴人のために第1事件に補助参加
をし,控訴人会社は,行政事件訴訟法22条の規定に基づき第2事件に参加し
ている。
,,()5争点は()本件救済申立ての一部は申立期間労働組合法27条2項1
経過後にされたものか否か,()控訴人会社が控訴人Aら12名を昇格させ2
なかったことは,不当労働行為(不利益取扱い)に該当するか否か(昇格差別
判断の対象期間,職能管理制度の実態,昇格格差の存在,格差の合理的理由の
存否,不当労働行為意思,()被控訴人の命じた救済方法の選択は適法かと)3
(,,,。)。いう点であるただし後記のとおり当審において新たな争点が加わった
6原審は,次のとおり判示し,双方の請求をいずれも棄却した。
()平成7年3月以前(昭和63年,平成元年)の昇格を求める部分につい1
て,申立てを却下し,その他(平成7年4月1日及び平成8年4月1日の昇
格を求めるもの)について,救済申立期間内の適法な救済申立てであると判
断したことは適法である。
()ア本件訴訟においては,控訴人Bら7名に関しては平成2年以降の昇格2
について,控訴人A,同I,同J,同L,同Kの5名に関しては昭和58
,。年以降の昇格について昇格差別があったか否かを検討すべきことになる
イ控訴人会社では,職能管理制度の実施下においても,勤続年数や同一資
格の在籍年数と昇格との間には,ある程度の幅を持った一定の年数が経過
する間には昇格をするのが通例であるという程度の関係があることを否定
することはできない。
ウ控訴人会社の職能管理制度における昇格決定は,そもそも評価自体が完
全に客観的とはいえないし,その制度上,昇格者の決定に関し,課長が昇
格候補者を選任する段階で恣意の入る余地があるというべきであり,これ
が是正される手段もないことが認められる。
()ア控訴人Aら3名は,平成8年4月において,昇格に遅れがあり,この3
格差のかなりの部分は昭和58年和解の後に生じたものと認めることがで
きる。
イ控訴人Lは,平成8年4月において,昇格に遅れがあったと認めること
ができる。
ウ控訴人Bら7名は,平成8年4月1日において,昇格の格差があったと
,,,は認められないし平成7年4月1日の昇格を求めている控訴人B同C
同D,同G,同Hについて,平成7年4月1日において昇格の格差があっ
たとも認められない。
,,,エ控訴人Kについても控訴人Bら7名と同様に特別の事情がない限り
,。平成8年4月1日において昇格の格差があったと認めることはできない
()ア控訴人組合員は,控訴人組合に所属していることが昇格の遅れに関係4
している傾向がみられるといわざるを得ず,控訴人組合員の個々の昇格に
ついても,控訴人組合に所属していることが影響している疑いを否定する
ことができない。
イ上級事務技術職1級の要件は,実際には,文言上定められている内容の
高度さにかかわらず,かなり緩やかに運用されていたと考えざるを得ず,
少なくとも,控訴人Aら3名が所属している職場における事務技術職の養
成工においては,上級職2級に属している者であって,平均的水準を超え
る能力を有していれば,上級職1級の資格要件を充足するとして扱われて
いたものと推測される。
ウ控訴人Aら3名は,平成8年4月当時,控訴人Aが所属する職場内の上
級職2級の従業員の中で,平均的水準を超えた能力を有していたと認めら
れる。
エ控訴人Lは,平成8年4月の時点で,上級職2級としては平均的な水準
を超える能力を有していたことが窺われるが,控訴人会社が控訴人Lを平
成8年4月1日に上級職1級への昇格をしなかったことに合理性がないと
はいえない。
オ控訴人Bら7名及び控訴人Kは,昇格格差があったとは認められない。
()控訴人Aら3名の平成8年4月1日の昇格に関し,同控訴人らが控訴人5
組合に所属していることが控訴人会社による昇格評価に影響し,同控訴人ら
が昇格候補者に選ばれず,昇格しなかったという結果につながったものと認
めるのが相当である。
()被控訴人に救済方法についての裁量の逸脱,濫用があったとは認められ6
ない。
7原判決後の経過
()原判決に対し,控訴人会社及び控訴人組合らは,それぞれその敗訴部分1
を不服として本件各控訴をした。
()控訴人組合らによる,本件都労委命令の主文第1ないし第3項について2
の,中労委に対する再審査の申立てについて,中労委は,原判決後の平成1
8年8月2日付けで,別紙のとおり,その申立てを一部認容する命令(以下
「本件再審査命令」という)を発した。。
()そこで,控訴人組合らは,平成19年3月16日,第2事件についての3
訴えの取下書を当裁判所に提出し,同取下書は,同日控訴人会社に対し,同
月22日に被控訴人に対しそれぞれ送達されたが,控訴人会社は,同月29
日「訴え取下げに対する異議申述書」を当裁判所に提出し,もって,同取,
下げに異議を述べたため,同取下げは,効果を生じなかった。
8前提となる事実,争点,争点についての当事者の主張は,当審における新争
点及び同争点についての当事者の主張を次のとおり付加するほか原判決の事,「
」,。実及び理由の第2の1ないし5に記載のとおりであるからこれを引用する
ただし,原判決14頁18行目から19行目にかけての「上記再審査申立てに
対する再審査の命令はまだ出されていない」を「上記再審査申立てに対し,。
原判決後の平成18年8月2日付けで,本判決別紙の「主文」のとおり,本件
再審査命令を発した」と改める。。
()当審における新争点1
本件再審査命令が発せられたことにより,控訴人会社及び控訴人組合らの
本件各訴えが不適法になるか。
()上記新争点についての当事者の主張2
ア被控訴人の主張(本案前の主張)
控訴人会社及び控訴人組合らの本件各訴えは,不適法であって,却下さ
れるべきである。
(ア)労働組合法(以下「労組法」という)27条の19第2項,第3。
項による本件訴訟の適法性
控訴人組合らは,本件都労委命令に対し,再審査の申立てと本件a
の取消訴訟(第2事件)の提起を並行して行ったが,中労委による本
件再審査命令が発せられたことにより,労組法27条の19第3項に
より,本件再審査命令に対してのみ取消しの訴えを提起することがで
きることになり,本件控訴はできないことになった。
また,控訴人会社を原告とする本件訴訟(第1事件)についてみb
ても,労組法27条の19第2項は,行政訴訟の原則である原処分主
義の例外をなすものであるから,再審査命令に対する取消訴訟におい
て,再審査命令に係る手続上,内容上の一切の違法を主張することが
できるということができる。そうすると,再審査命令を不服とする行
政訴訟でその命令が取り消された場合その取消判決は初審命令原,,(
処分を発出した都道府県労働委員会を拘束する行政事件訴訟法以)((
下「行訴法」という)33条1項)から,再審査命令と併せて初審。
命令まで取り消す法的利益はないというべきである。したがって,控
訴人会社の取消しの訴え(第1事件)も,不適法である。
(イ)労組法27条の15第1項による本件都労委命令の効力の消滅
労組法27条の15第1項ただし書は「救済命令等は,中央労働a,
,,委員会が第25条第2項の規定による再審査の結果これを取り消し
又は変更したときは,その効力を失う」と規定しているところ,本。
件再審査命令は,本件都労委命令の一部を変更したから,これにより
本件都労委命令はその効力を失った。ところで,上記規定の文言から
は,再審査命令が初審命令の一部を取り消し,又は変更したとき,初
審命令のうち効力を失う範囲を限定しているとの解釈を直接引き出す
ことは困難であり,むしろ,初審命令が効力を失う場合を「再審査の
結果,これを取り消し,又は変更したとき」に限定していることから
すると,その場合に該当する場合は初審命令全体が再審査命令に吸収
されて初審命令は消滅するため,初審命令の全体が効力を失うと解す
るのが自然である。したがって,本件各訴えは,訴えの利益を失い,
不適法になった。
仮に上記規定の趣旨が「中労委の命令が初審命令を取り消し,又b,
は変更したときには,初審命令のうち再審査申立てに係る部分はその
効力を失う」ということであったとしても,本件においては,次の。
諸点から見て,救済の申立事実が不可分であって,救済部分と棄却・
却下部分を分離することが困難であるから,本件再審査命令により本
件都労委命令の効力は全て消滅したというべきである。
()再審査の範囲a
控訴人組合らの再審査の申立ての範囲は,控訴人Aら3名を含め
た12名についての賃金昇格差別に係る事実であり,初審で救済を
申し立てた範囲全体であって,中労委は,その全体を再審査した上
で,本件都労委命令を一部変更する本件再審査命令を発したのであ
るから,本件再審査命令によって,本件都労委命令の全体の効力が
失われたというべきである。
()申立事実の不可分性b
本件は,控訴人会社の賃金昇格差別という一箇の不当労働行為事
件とみるべきである。総論は12名全員に共通したものであり,控
訴人Aら3名とその余の9名とで分けて訴訟をするとなると,総論
部分で異なる司法判断が併存することになってしまう。
()再審査と行政訴訟の関係c
労組法27条の16,同条の15から見て,一つの不当労働行為
に対する救済命令に係る行政訴訟は,1回で解決を図るというのが
法の趣旨であると解される(東京高裁平成15年(行コ)第1号同
年4月23日判決・判例時報1830号146頁(藤田運輸事件)
参照。したがって,仮に控訴人Aら3名とその余の9名で事件を)
分けられるとしても,控訴人組合らは,控訴人Aら3名についての
救済申立てに対する初審命令の一部(棄却部分)について再審査申立
てをし,控訴人会社は,Aら3名についての救済申立てに対する初
審命令の一部(認容部分)に対し本件訴訟を提起したものであるか
ら,一つの不当労働行為に対する一箇の救済命令の当否を労使のそ
れぞれが問題にする関係にあるのであって,二つの訴訟において個
別に判断されるべきではない。そうすると,先に中労委が初審命令
を一部変更したような本件事案においては,労組法27条の15に
より初審命令はその効力を失い,初審命令の取消しを求める行政訴
訟も訴えの利益を失って,中労委の命令に対する取消訴訟に行政訴
訟が一本化されると解すべきである。
イ控訴人組合らの主張(本案前の主張)
控訴人会社の本件訴えは,不適法であって,却下されるべきである。
(ア)中労委命令の法的性質
中労委の再審査は,初審の審査資料を継承しつつ,再審査で新たa
に収集された資料を加えて,再審査申立ての当否(不当労働行為の成
否及び救済命令の当否)を審査するものであり,その性格は基本的に
,。,,民事訴訟の控訴と同様続審であるそして労組法27条の15は
上級審としての中労委が,再審査申立ての理由を認容し,下級審であ
る都道府県労働委員会の初審命令を取り消す場合には,初審命令に代
わって自判をするものとされ,それにより初審命令が効力を失うこと
。,,を定めたものであるしたがって中労委命令が初審命令を取り消し
変更したときは,初審命令は,効力を失い,その内容の一部でも独立
して固有に効力を有することはないと解するのが相当である。
労組法は,行政不服審査法の規定を一切準用しておらず,中労委b
は,同法上の審査庁ではなく,中労委命令は同法上の裁決とは異なる
ものである。したがって,労組法は,原処分主義を採用しておらず,
初審たると再審査たるとを問わず,救済申立てを認容した命令が使用
者に対する公権力的命令としての処分である。
中労委の審査し得る不服の範囲は緩やかに解されるべきであり,c
不服申立ての対象とされていない都道府県労働委員会の救済命令につ
いて,中労委が自判して,救済命令の対象として主文に掲げることは
できる。
不当労働行為の審査においては,労働委員会は,事件を全体としd
てみるのであって,不当労働行為の命令は不可分のものである。した
がって,ある不当労働行為についてある救済命令が発せられた場合,
それが一箇又は複数の救済方法又はそれらの一部であったとしても,
その救済命令は,全体として,正常な労使関係秩序の回復,確保を目
的とした一箇の行政処分であるというべきである。
よって,中労委命令が初審命令の一部を変更したときは,その中e
労委命令は,変更されなかった部分も含めて一箇の不可分の行政処分
であり,初審命令は効力を失うというべきである。
(イ)取消訴訟の対象
再審査の命令に対する行政訴訟は,再審査申立ての棄却命令の取a
消しを求めるものではなく,中労委の発した当該不当労働行為申立て
に関する救済命令,棄却命令あるいは却下決定の取消しを求めて提起
されるのであり,使用者は,中労委の発した救済命令の全てについて
取消訴訟を提起しなければならない。
このように解すると,訴訟経済に反するとも考えられるが,労組b
法は,27条の16の規定に代表されるように,法的安定性を優先し
ているのであって,中労委命令と初審命令の矛盾抵触を防ぐ必要があ
る。
労働者の場合,再審査申立てと取消訴訟の並行中に再審査申立てc
に対する中労委命令が発せられた場合には,その初審命令に対する取
消しの訴えが却下される。それにもかかわらず,使用者が初審命令に
対する取消訴訟と中労委が変更した部分の命令に対する取消訴訟を並
行して提起できると解するのであれば,公平の原則に反することにも
なる。
なお,控訴人会社は,中労委命令における控訴人Aら3名に対すd
る救済命令について,取消訴訟を提起していないから,同命令は確定
している。
ウ控訴人会社の主張
控訴人会社の本件訴えは,適法である。
(ア)訴えの利益について
控訴人会社は,本件都労委命令により,控訴人Aら3名の昇格にa
ついて不利益を受けているのであるから,同命令の取消しを求めて行
政訴訟を提起し,本案判決を受ける訴えの利益がある。
他方,中労委は,控訴人会社に対し,控訴人Aら3名についてはb
何ら不利益な処分をしていないから,控訴人会社が控訴人Aら3名に
ついて中労委の取消しを求めて行政訴訟をすることはできない(行訴
法9条。したがって,本件訴訟(第1事件)について訴えの利益が)
ないとして却下されると,控訴人会社は,初審命令の取消しについて
司法判断を受ける途を閉ざされ,裁判を受ける権利を失うことになる
し,これまでの労力や費用が無駄になってしまう。
被控訴人は,労組法27条の19第2項を根拠に上記のとおり主c
張する。しかし,同項は,使用者が初審命令に対し取消訴訟を提起せ
ずに再審査申立てをした場合に,中労委の命令に対してのみ取消訴訟
を提起することができることを定めた規定であるから,再審査申立て
をせずに初審命令に対して取消訴訟を提起した控訴人会社の訴えにつ
いて,これを却下する理由にならない。
(イ)中労委命令が発せられた場合の初審命令の効力
労組法27条の15は,初審命令は,それに対する再審査の申立a
てによっても効力を停止せず,使用者は再審査申立後も,中労委が初
審命令を取り消すか,変更しない限り,履行の義務を負っていること
を明らかにしたものである。かかる趣旨からすれば,同規定によって
効力を失うのは,中労委命令によって取り消され,又は変更された部
分に限られると解すべきである(それ以外の部分については,使用者
は,履行の義務を負っている「初審命令の全体」や「初審命令の。)。
うち再審査申立てに係る部分」が効力を失うとの考え方は,法的にも
理論的にも,根拠がない。
1通の命令書であっても,複数の当事者がおり,あるいは,不当b
労働行為も複数の場合には,一人の一つの不当労働行為ごとに一つの
処分が存在し,その一つの処分に瑕疵があって,これが取り消され,
あるいは変更されたとしても,その効果は瑕疵のない他の処分には及
ばず,他の処分は依然有効である。
したがって,本件再審査命令により控訴人D及び控訴人Hに対すc
る初審命令が取消し,変更されても,その効果は,控訴人Aら3名に
ついての初審命令には及ばず,同命令は依然有効である。
被控訴人は,総論部分を共通にする事案について,二つの司法判d
断が併存するのは相当でないとするが,現行法制はそのような矛盾を
是認している。
なお,被控訴人の指摘する藤田運輸事件の判決は,一人についてe
の一つの不当労働行為の事実について複数の救済方法が問題とされた
行政処分が一つの事案であり,また,労組法27条の16の適用が問
題とされ,中労委の命令が出される前に使用者が提起した取消訴訟が
確定した事案であって,本件とは異なる。
第3当裁判所の判断
1本案前の主張について
()控訴人組合らの第2事件に係る訴えについて1
,,ア控訴人組合らは本件都労委命令の主文第4項及び第5項を不服として
取消訴訟(第2事件)を提起するとともに,中労委に対し再審査申立ても
したところ,中労委は,原判決後の平成18年8月2日付けで,別紙のと
おり,その申立てを一部認容する本件再審査命令を発した。
,,,イところで労働組合又は労働者は都道府県労働委員会の命令に対して
取消訴訟を提起するとともに中労委に対し再審査申立てをすることができ
るが,中労委が命令を発したときは,その命令に対してしか訴訟を提起す
ることができなくなり,当該取消訴訟は不適法となる(労組法27条の1
9第3項,第2項。したがって,本件再審査命令が発せられた本件にお)
いては,控訴人組合らの第2事件に係る訴えは,不適法になったものであ
り,却下を免れない。
()控訴人会社の第1事件に係る訴えについて2
,(),ア被控訴人は控訴人会社を原告とする本件訴訟第1事件についても
労組法27条の19第2項が,行政訴訟の原則である原処分主義の例外を
なすものであるから,再審査命令に対する取消訴訟において,再審査命令
に係る手続上,内容上の一切の違法を主張することができるということが
でき,そうすると,再審査命令を不服とする行政訴訟でその命令が取り消
された場合,その取消判決は,初審命令(原処分)を発した都道府県労働
委員会を拘束するので,再審査命令と併せて初審命令まで取り消す法的利
益はないと主張する。
しかし,控訴人会社は,本件都労委命令に対し,再審査の申立てをしな
いで,取消しの訴えを提起したのであるから,労組法27条の19第1項
により同取消しの訴えを提起することができるのは当然である。被控訴人
は,同法27条の19第2項が原処分主義の例外をなすものであることを
理由に,控訴人会社の第1事件に係る訴えは不適法である旨主張するが,
同規定は,使用者が初審命令に対し取消訴訟を提起せずに再審査申立てを
した場合に,中労委の命令に対してのみ取消訴訟を提起することができる
ことを定めた規定であるから,再審査申立てをしないで行った控訴人会社
の取消訴訟を不適法とするものではない。
また,被控訴人は,本件都労委命令を取り消す法的利益がない旨の主張
もする。しかし,本件都労委命令の主文第1ないし第3項は,控訴人会社
に対し,控訴人Aら3名を平成8年4月1日付けで上級職1級にそれぞれ
昇格させたものとして取り扱い,昇格していたならば支払われたであろう
賃金と,現に支払われた賃金との差額を支払うこと,控訴人組合に対し今
後このような行為を繰り返さないなどと記載した文書を交付すること,こ
れらを履行したときは,すみやかに都労委に文書で報告することを命ずる
ものであって,控訴人会社に不利益を与える内容のものである上,同部分
に対して再審査申立てはされていないのであるから,控訴人会社には,本
件都労委命令のうちの同主文に係る部分の取消しを求める法的利益がある
というべきである。
イ被控訴人は,また,本件再審査命令が,本件都労委命令の一部を変更し
たから,労組法27条の15第1項ただし書の規定により,本件都労委命
令はその効力を失った旨主張する。
しかし,本件都労委命令は,複数の当事者について発せられたものであ
って,法的には,当事者ごとに発せられた命令が1通の命令書に記載され
ていると解するのが相当であるから,救済命令等が取り消され,又は変更
されたか否かも,当事者ごとに判断すべきである。そして,本件都労委命
令中の控訴人Aら3名に係る部分は,本件再審査命令においても取り消さ
れたり,変更されたりしていないのであるから,上記規定により効力を失
ったと解するのは相当でない。
ウ被控訴人は,本件において,①再審査の範囲(中労委が,本件都労委命
令全体を再審査した上で,同命令の一部を変更したこと,②申立事実の)
不可分(本件は,控訴人会社の賃金昇格差別という一つの不当労働行為事
件とみるべきであること,③再審査と行政訴訟の関係(一つの不当労働)
行為に対する救済命令に係る行政訴訟は,1回で解決を図るというのが法
の趣旨であり,控訴人Aら3名の申立てについても,これを認めた部分に
対する取消訴訟と棄却した部分に対する取消訴訟とが並立することになる
ような扱いは相当でないこと)を指摘する。
しかし,上記イで説示したとおり,本件都労委命令は,当事者ごとに複
数の命令がされていると解すべきであるから,上記①,②の点を考慮して
も,本件都労委命令のうち控訴人Aら3名に係る部分の効力が失われたと
解することはできない。また,上記③については,確かに,控訴人会社の
第1事件に係る訴えを適法と解すると,これと本件再審査命令に対する控
訴人組合及び控訴人Aら3名の取消訴訟とが別個に係属することを認める
ことになるが,労組法はかかる事態の発生を許容しているというべきであ
る。
エ控訴人組合らは,労働者の場合,再審査申立てと取消訴訟の並行中に再
審査申立てに対する中労委命令が発せられた場合には,その初審命令に対
する取消しの訴えが却下されるのに,使用者が初審命令に対する取消訴訟
と中労委が変更した部分の命令に対する取消訴訟を並行して提起できると
解するのであれば,公平の原則に反する旨主張する。しかし,使用者が初
審命令に対し取消訴訟を提起した場合も,その後中労委の命令により初審
命令の一部が変更された場合には,同変更された部分についての上記取消
訴訟は不適法になるのであって,上記アないしウの判断が公平の原則に反
することにはならない。
そして,控訴人組合らの他の主張を考慮に入れても,救済命令等は当事
者ごとにされていること等に照らすと,控訴人会社の第1事件に係る訴え
を不適法ということはできない。
オ以上のとおりであるから,控訴人会社の第1事件に係る訴えは,適法で
,,。あってこれに反する被控訴人及び控訴人組合らの主張は採用できない
2控訴人会社の第1事件に係る請求について
()当裁判所も,控訴人会社の請求は理由がないものと判断する。その理由1
は,次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3に記載のと
おり(ただし第1事件に係る部分)であるから,これを引用する。当審にお
ける証拠調べの結果によっても,上記判断は左右されない。
ア原判決45頁7行目の「もっとも」から11行目の「選抜があることに
。」「,,,なるまでをもっとも第1次評定者は評定期間中の対象者の行動
成果等からみて,昇格候補者になることがあり得ないと判断される者につ
いては,必要能力項目5項目について○か×かの評価を行うことさえしな
いで,昇格候補者としない扱いである」と,20行目の「課長が」から。
21行目末尾までを「評定会議で昇格候補者とされなかった者が,審議会
で昇格候補者となることはない」と各改める。。
イ同47頁17行目の「そして」から20行目末尾までを「そして,控訴
人会社における全体の状況について的確な証拠のない本件においては養,「
成工昇格状況(原判決別表1−1)から窺える昇格の傾向が控訴人会社」
における一般的な傾向であると推認するのが相当である」と改める。。
ウ同48頁1行目の「この点は後述する(2()ア(ウ),53ページ」を3)
「後述するとおり,上級職2級から上級職1級に昇格する者の割合はけっ
して少ないわけではないこと「養成工昇格状況(原判決別表1−1)及,」
び「勤続年数と昇格者数(原判決別表1−2)とによれば,上級職1級」
に昇格する者は,勤続33年を中心に概ね勤続31年から35年までの間
,,に昇格すると認められることからすると上級職1級への昇格についても
勤続年数や在籍期間が影響していると認めることができる」と改める。
エ同50頁10行目の「可能であるし」から12行目の「否定することは
できない」までを「可能である」と改め,13行目から17行目までを次
のとおり改める。
「そして,昇格候補者は,最初に課長によって決定されるところ,Mの
陳述書(甲2の6)中には,第1次評定者の評定で昇格候補者とされて
いない者が評定会議において昇格候補者となることがある旨の記載があ
る(ただし,本件の中労委での再審査申立事件の審理におけるMの証言
中には,これに反する趣旨の部分もある(甲3の72頁)が,第1次)。
評定者が昇格候補者としていない者について,評定会議で必要能力項目
5項目について具体的に検討されてこれが肯定され,昇格候補者になる
というのは,現実には考えにくく(Mの指摘する例も,具体性に欠け,
その真偽について判断することが困難であるまたMの上記証言甲。),,(
3)によれば,現在の評定制度は,昭和55年に社員職能管理制度が導
入されてから変わっていないことを認めることができるが,その後控訴
人組合と控訴人会社との間で昇格格差の是正をめぐる紛争が続き,平成
元年和解で過去に遡って又は同年4月に昇格することが合意されている
ことも,評価が恣意的になる可能性があることを物語っているというべ
きである。
また,証拠(甲2の1・6,3)によれば,控訴人会社と控訴人組合
との間で,昇格問題について交渉の機会が持たれていることが認められ
るが,このことが上記の恣意的な扱いを完全に是正することになるとま
では認められない」。
オ同53頁2行目の「しかし」の次に「上記の昇格率は,在籍者全体に,
おける昇格者の割合であって,その職能資格,学歴等が明確でないから,
,」上記の昇格率をもって直ちに昇格格差がないと断ずることはできないし
を加える。
カ同53頁15行目から54頁19行目までを次のとおり改める。
「「養成工昇格状況(原判決別表1−1)によれば,そこに記載され」
た36名のうち15名(約41.7%)が上級職1級に昇格しているこ
とを認めることができる。また,控訴人Aら3名に係る「救済申立時の
資格状況(別表2−1から2−3まで)によれば,本件救済申立て当」
時,控訴人Aと同学歴,同年齢(52歳,同期の従業員12名のうち)
5名(約41.7%)が上級職1級に,控訴人Iと同学歴,同年齢(5
4歳,同期の従業員23名のうち5名(約21.7%)が上級職1級)
に,控訴人Jと同学歴,同年齢(53歳,同期の従業員20名のうち)
12名(60%)が上級職1級以上にそれぞれ昇格していることを認め
ることができる。そうだとすると,上級職2級から上級職1級に昇格す
る者の割合はけっして少ないわけではないといえる」。
キ同64頁2行目の「全員」の前に「上記の各表に記載された同組合員」
を加え,8行目から9行目にかけての「あるのではないかという疑いを払
拭することができない」を「あると推認するのが相当である」と改める。
ク同66頁4行目の「のではないかという疑いを拭えない」を「と推認す
ることができる」と改める。
ケ同67頁10行目の「全体でみても」から20行目末尾までを「前記各
表に記載された者全員でみても,40%以上の者が上級職1級に昇格して
いる。このように多くの者が昇格している状況からすると,上位資格要件
の各項目についての評価において,その項目の文言どおり厳格に運用され
ているとは考えられないというべきである」と改める。。
コ同68頁13行目の「それ以前から」から15行目の「平成2年ころに
は」までを「遅くともそのころには」と改める。
サ同71頁1行目の「述べているが」の次に「技術が進歩したことを考,
慮しても」を加え,9行目の「キャダム」から11行目の「述べたり」,,
を削る。
シ同76頁25行目の「A」を「控訴人I」と改める。
ス同84頁13行目の「格付されていないことや」の次に「職長や班長,
になった者もいないこと(乙213,223,丙94」を加え,20行),
目から23行目までを次のとおり改める。
「以上のような控訴人会社と控訴人組合との間の紛争の経緯,控訴人組
合員に所属していることを理由とする昇格の格差の存在等に照らすと,
控訴人Aら3名の平成8年4月1日の昇格に関しても,同控訴人らが控
訴人組合に参加しているために昇格候補者とされず,昇格しなかったと
認めることができ,そうすると,控訴人会社の不当労働行為意思を認め
るのが相当である」。
()「」「()」セ同91頁別表1−1の1Iの上級職3級昇格年勤続年数
の欄の「57」を「82(25」と改める。)
()控訴人会社の当審における主張にかんがみ,説明を付加する。2
ア第1事件は,都労委が,控訴人会社が控訴人Aら3名を平成8年4月1
日付けで上級職1級に昇格させなかったことは同3名が控訴人組合の組合
員であるが故に行われた不利益取扱いに当たるとして行った救済命令(本
件都労委命令の主文第1ないし第3項)につき,控訴人会社がその取消し
を求める事案である。
イなお,控訴人組合及び控訴人Iは,控訴人Iについて,平成7年4月1
日に上級職1級に昇格させなかったことを不当労働行為とし,同日の昇格
を求めて本件救済申立てをしたものであるが,本件救済申立ては平成9年
3月に行われたものであること,その審理において控訴人Iについても平
成8年4月1日に昇格をさせなかったことが不当かどうかについて審理が
されたこと(弁論の全趣旨)からすると,控訴人組合及び控訴人Iは,平
成7年4月1日に昇格させなかったことが不当労働行為と認められない場
合,平成8年4月1日に昇格させなかったことを予備的に不当労働行為と
して主張するものと解するのが相当であって,控訴人Iについての上記救
済命令が,申立ての範囲を逸脱したものとはいえない。
,,,ウ控訴人Aら3名が平成8年4月1日現在控訴人会社の労働者であり
控訴人会社の社員職能管理制度の下,上級職2級の職能資格に格付されて
いたこと,控訴人会社は,控訴人Aら3名を同日付けで上級職1級に昇格
させることはしなかったこと,控訴人Aら3名は,控訴人組合の組合員で
あることは,当事者間に争いがない。
そこで,控訴人会社による上記取扱いが不当労働行為(不利益取扱い)
に該当するか否かを判断するためには,①上記取扱いが不利益取扱いに当
たるか否か,②その不利益取扱いは,控訴人Aら3名が控訴人組合の組合
員であることの故をもってされたものか否かを検討する必要がある。
当裁判所は,上記()で訂正の上引用した原判決記載のとおり,控訴人1
会社の上記取扱いは不利益取扱いに当たり,また,その不利益取扱いは,
控訴人Aら3名が控訴人組合の組合員であることの故をもってされたもの
であると判断するものである。ところで,その判断に関連して,控訴人会
社は,(a)平成元年和解は,控訴人Aら3名にもその効力が及ぶのであ
り,それよりも前の昇格状況を審理の対象にすることはできない,(b)
控訴人Iを平成7年4月1日に昇格させなかったことは不当労働行為では
ないとされており,また,控訴人A及び控訴人Jについても,同日に昇格
がなかったことについて救済命令の申立てをしなかったということは,そ
の時点では不当労働行為がなかったことを自認したものというべきである
から,それ以前の昇格状況を判断の事情に加えることはできない,(c)
控訴人Aら3名と住友重機械労働組合(住重労組)の組合員との間に昇格
格差が存在する事実は認められず,控訴人Aら3名が上級職1級に昇格し
なかったのは,上級職1級に求められる職能資格要件を満たさなかったか
らにすぎない,(d)控訴人会社に不当労働行為意思が存在していたと推
認させる事実はないなどと主張する。そこで,以下検討する。
(ア)平成元年和解の効力及びその前の昇格状況を審理の対象にすること
の是非
一般に,和解は,特段の事情のない限り,その和解の当事者の間で効
力が生じるにすぎないところ,控訴人Aら3名は,平成元年和解の当事
者になっていないし,和解の対象者にも挙げられていないであるから,
。,その和解の効力が控訴人Aら3名に及ぶと解することはできないなお
同和解の際に,控訴人Aら3名の昇格が問題にならなかったからといっ
て,控訴人組合や控訴人Aら3名が,その時点における昇格格差の存在
しないことを自認したことにはならない。
そして,本件で判断すべきは,平成8年4月1日に控訴人Aら3名を
上級職1級に昇格させない措置が不利益取扱いに当たるか否かであると
ころ,その判断に際し,上記和解前の昇格状況を考慮することに何ら問
題はない。
(イ)平成7年4月1日以前の昇格状況を判断の事情に加えることの当否
控訴人会社は,控訴人Iを平成7年4月1日に昇格させなかったこと
は不当労働行為ではないとされており,また,控訴人A及び控訴人Jに
ついても,同日に昇格がなかったことについて救済命令の申立てをしな
かったということは,その時点では不当労働行為がなかったことを自認
したものというべきであるから,それ以前の昇格状況を判断の事情に加
えることはできない旨主張する。
しかし,仮に平成7年4月1日に控訴人Aら3名を上級職1級に昇格
させなかったことが不当労働行為に該当しないとの事実を前提にしたと
しても,そのことと,平成8年4月1日に控訴人Aら3名を上級職1級
に昇格させないことが不当労働行為に該当するか否かの判断をする上
で,平成7年4月1日以前の昇格状況を考慮することとは,矛盾するも
のではない。控訴人会社の上記主張は,採用できない。
(ウ)控訴人Aら3名と住重労組員との間の昇格格差の存否,不当労働行
為意思の存否等
控訴人会社は,平成8年4月1日時点において,上級職2級は,a
全体の約60%を占めていること,控訴人Aら3名の各同期における
上級職2級の占める割合をみても,控訴人Iの同期が約58%,控訴
人Jの同期が約30%(更に下位に属する上級職3級も約30%を占
める,控訴人Aの同期が約59%であることに照らすと,控訴人A。)
ら3名が上級職2級の格付であるからといって,格差があるとはいえ
ない,控訴人組合員が昇格で遅れている傾向はない,控訴人会社には
不当労働行為意思がないなどと主張する。
しかし,控訴人Aら3名は「養成工昇格状況(原判決別表1−b,」
1)及び「設計関係職場・養成工の勤続年数と昇格者数(原判決別」
表1−2)から見て,上級職3級に昇格してから,他の労働者と比較
して昇格が遅れてきていること,そのため,平成8年4月1日の時点
でも,同種の職種,同学歴,同卒年,同年入社,同年齢の従業員の中
で下位に属していること,上級職1級に昇格する者は,勤続31年か
ら35年までの間が大半であるところ,控訴人Aら3名は,平成8年
4月1日の時点で勤続37年ないし39年であることを認めることが
できる。
そして,上記表に記載された36名の中で15名が上級職1級に昇
格しているにもかかわらず,控訴人組合員は1人も昇格していないこ
と「救済申立時の資格状況(原判決別表2−1から2−11まで),」
に記載された185名の中で,控訴人組合員が1人も上位資格を有し
ていないこと,控訴人組合員の中で職長や班長になった者もいないこ
と,控訴人組合に所属していた時には昇格が遅かったN,Oが,控訴
人組合を脱退した直後に昇格し,その後は昇格が早くなっていること
などの事情を考慮すると,控訴人会社が控訴人組合を差別的に取り扱
っていることを推認することができる。
以上の事情を総合すると,控訴人Aら3名が平成8年4月1日の時
点で上級職1級に昇格できなかったのは,控訴人会社が,控訴人Aら
3名が控訴人組合員であるために,昇格差別をしたものと推認するの
が相当である。
これに対し,控訴人会社は,控訴人Aら3名が上級職1級に昇格し
なかったのは,上級職1級に求められる職能資格要件を満たさなかっ
たからである旨主張する。しかし,上記()で訂正の上引用した原判1
決記載のとおり,上級職1級の職能資格要件は,厳格に運用されてい
るとは考えられないところであり,また,控訴人Aら3名について,
平成8年4月1日に上級職1級に昇格した住重労組員と比較して,能
力・業績において劣っていると認めるに足りる的確な証拠もない。
そうすると,控訴人会社の主張立証によっても,控訴人Aら3名に
ついての不利益取扱い,不当労働行為意思の存在についての上記推認
は,左右されないというべきであり,この点は,当審における証拠調
べの結果によっても変わらない。
エ以上のとおり,控訴人会社が控訴人Aら3名を平成8年4月1日付けで
上級職1級に昇格させなかったことは,不当労働行為に該当するというべ
きであるが,控訴人は,次に,本件都労委命令が,控訴人会社に対し,控
訴人Aら3名を上級職1級に昇格させたものとして取り扱うことまで命じ
ているのは,控訴人会社の人事権に対する過度の介入であって,労働委員
会に認められた裁量権を逸脱するものであり,違法である旨主張する。
しかし,上級職1級への昇格は,非管理職の中での昇格であること,本
件は,上級職1級への昇格が不当労働行為と認定できる事案であるから,
救済命令によって,控訴人会社の人事権が制約を受けるのはやむを得ない
ことを考慮すると,本件都労委命令の行った救済命令が,労働委員会に認
められた裁量権を逸脱するとまでは認められない。
したがって,控訴人会社の上記主張は,採用できない。
3結論
()以上のとおりであるから,1
ア控訴人組合らの第2事件に係る訴えは,不適法であるから,いずれもこ
れを却下すべきであり,
イ控訴人会社の第1事件に係る請求は,理由がないからこれを棄却すべき
である。
()よって,上記()アと異なる原判決主文第2項を取り消し,控訴人組合ら21
の訴えをいずれも却下し,控訴人会社の本件控訴は理由がないからこれを棄
却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官太田幸夫
裁判官辻次郎
裁判官森一岳

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