弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人増井和男、同小貫芳信、同吉池浩嗣、同宮城直之、同吉野孝義、同山
垣清正、同中村好春、同亀井幸弘、同三次直哉、同栗谷桂一、同吉田泰則、同水谷
稔の上告理由について
 一 破産者所有の不動産を目的とする担保権の実行としての競売手続において交
付要求がされたときは、交付要求に係る請求権に基づき破産宣告前に国税徴収法又
は国税徴収の例による差押え(参加差押えを含む。以下この項において同じ。)が
されている場合を除き、交付要求に係る配当金は、破産管財人に交付すべきものと
解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
 1 破産法は、総債権者の公平な満足を実現するために、破産管財人に破産財団
の管理、処分の権利を専有させ、破産管財人を破産手続遂行のための中心的な機関
とし、その広い裁量と責任の下に手続の円滑な進行を期し、もって、その目的の達
成を図っているということができる。そして、同法においては、国税徴収法又は国
税徴収の例により徴収することのできる請求権(以下「国税等」という。)は、財
団債権とされ(破産法四七条二号)、国税等に優先する同法四七条三号に規定する
破産管財人の報酬等の共益費用に次いで(最高裁昭和四〇年(オ)第一四六七号同
四五年一〇月三〇日第二小法廷判決・民集二四巻一一号一六六七頁参照)、随時弁
済を受けることとされている(同法四九条)。
 2 破産法七一条一項は、破産財団に属する財産に対し国税徴収法又は国税徴収
の例による滞納処分をした場合においては、破産宣告はその処分の続行を妨げない
旨を規定しているところ、右規定は、破産宣告前に開始された滞納処分は破産宣告
後も続行することができる旨を特に定める趣旨に出たものであり(最高裁昭和三九
年(行ツ)第四七号同四五年七月一六日第一小法廷判決・民集二四巻七号八七九頁
参照)、滞納処分を続行して破産手続によらずに当該滞納処分に係る国税等の弁済
を受けることができるとの趣旨をも含むものと解すべきである。これに対し、国税
徴収法に規定する交付要求は、同法の規定の上では滞納処分の一種として位置付け
られているが、徴収職員が自ら強制換価手続を行って国税等の徴収を図るものでは
なく、既に他の執行機関により開始されている強制換価手続に参入して国税等の満
足を得ようとするものであるから、徴収職員が自ら手続を進めることを前提とする
破産法七一条一項の滞納処分には当たらないと解される。
 3 前記のような破産手続の目的、破産管財人の地位、権限に加え、破産法が破
産手続遂行の特別の例外として破産宣告前に開始された滞納処分の続行を認めたも
のの、交付要求はその例外に当たらないことに徴すれば、交付要求に係る国税等に
ついては、滞納者が破産宣告を受けた後は、破産宣告前に自らも滞納処分による差
押えをしていた場合を除き、別除権の行使としての不動産競売手続において、その
売却代金から直接弁済を受けることはできず、破産法に規定する手続により、破産
管財人の合理的判断に基づいて随時弁済を受けるべきものと解するのが相当である。
   右のとおりに解しても、破産宣告前であれば、国税等については、滞納処分
による差押えをすることによって、破産法に規定する手続によらないで弁済を受け
ることができるのであるから、国税等の権利者に対し格別の不利益を課することに
はならないというべきである。所論指摘の点は、いずれも以上の解釈を左右するも
のではない。
 二 これを本件について見るに、原審が適法に確定したところによれば、(1) 
D株式会社は、大阪地方裁判所に対し、Eの所有する本件不動産について抵当権の
実行としての競売の申立てをし、同裁判所は、平成三年九月三〇日、競売開始決定
をした、(2) Eは、同年一〇月一一日、破産宣告を受け、被上告人が破産管財人
に選任された、(3) 東大阪税務署長は、同月二三日、右不動産競売事件の執行裁
判所に対し、第一審判決別紙租税債権目録(一)記載の国税につき、交付要求をした、
(4) 平成五年五月二五日に開かれた右不動産競売事件の配当期日において、(3)
の国税のうち法定納期限を平成元年三月一五日とする国税について配当の額を七万
一五〇〇円とし、これを被上告人に交付するとの内容の配当表が作成された、とい
うのであり、上告人は、Eが破産宣告を受ける前に、本件不動産について滞納処分
による差押えをしていなかったことがうかがわれる。したがって、上告人が直接右
配当金の交付を受けることはできないというべきであり、右配当金を破産管財人で
ある被上告人に交付すべきであるとした原審の判断は正当として是認することがで
きる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    元   原   利   文
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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