弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
原判決を破棄し、被上告人の主位的請求を棄却する。
被上告人の予備的請求につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
第一項の部分に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 
         理    由
 上告代理人中島三郎、同中島志津子の上告理由について
 一 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯
するに足りる。これによれば、本件の事実関係の概要等は、次のとおりである。
 1 Dは、昭和二四年当時、第一審判決別紙物件目録五記載の土地(以下「a番
bの土地」という。)、これに隣接する大阪府北河内郡c町大字da番地のeの土
地(以下「旧a番地のeの土地」という。)のほか、右各土地上に存在する木造の
長屋を所有していたが、同年一二月二日、被上告人に対し、a番bの土地を売却し
た。
 2 Dは、昭和三二年五月二八日、被上告人に対して旧a番地のeの土地のうち
前記目録三及び四記載の各部分(以下、それぞれ、「本件東側通路」、「a番eの
土地」といい、被上告人所有の各土地を合わせて「被上告人所有地」という。)並
びに四戸から成る前記長屋のうち被上告人所有地上にある三戸(以下「旧被上告人
所有建物」という。)を、Eに対して旧a番地のeの土地のうち公道と約一三・四
二メートルにわたって接する残りの部分(以下「上告人所有地」という。)及びそ
の上にある前記長屋のうちの残りの一戸(以下「旧上告人所有建物」という。)を
売却した。右各売却に係る上告人所有地と被上告人所有地の位置関係は、第一審判
決別紙図面(一)のとおりであり、右のころ、旧a番地のeの土地については前同
所a番e及び同番fの各土地に分筆する登記が、前記長屋については右のとおり分
棟する登記がされている。なお、旧被上告人所有建物の居住者は、公道との出入り
に関し、幅員一・四五メートルの本件東側通路のほか、上告人所有地のうち西側の
前記目録二記載の幅員一・二五メートルの部分(以下「本件西側通路」という。)
を利用していた。
 3 上告人所有地及び旧上告人所有建物は、昭和三八年三月二五日、EからFに
対して譲渡され、さらに、昭和四三年六月三日、Fから上告人に対して譲渡された。
 4 上告人は、昭和四七年八月、旧上告人所有建物を取り壊し、同年一一月、建
物(以下「上告人所有建物」という。)を建築した。上告人所有建物は、上告人所
有地を敷地とし、その東側の幅員約一・二メートルの部分(以下「玄関前部分」と
いう。)及び本件西側通路を除く部分に、玄関を東向きに構えて配置され、玄関前
部分の南端及び東端に沿って、コンクリートブロック塀(以下「本件ブロック塀」
という。)が設置された。
 5 被上告人は、平成二年、旧被上告人所有建物が老朽化したため、これを取り
壊した。
 6 現在、上告人所有建物は、第三者に賃貸されて飲食店として利用されており、
被上告人所有地は、更地となっている。なお、上告人所有地及び被上告人所有地の
付近は、いわゆる住宅地となっている。
 二 本件において、被上告人は、主位的請求として、建築基準法四三条一項本文
は建築物の敷地は原則として同法所定の道路と二メートル以上接しなければならな
い旨定めているところ(以下、右規定が定める原則を「接道要件」という。)、被
上告人所有地は、接道要件を満たしておらずその用法に従って宅地として使用する
ことができないから、袋地に当たり、被上告人は上告人所有地のうち玄関前部分に
含まれる原判決別紙係争地目録記載の幅員〇・五五メートルの部分(以下「本件係
争地」という。)につき囲繞地通行権を有すると主張し、上告人に対し、右の旨の
確認、本件ブロック塀のうち本件係争地上に存在する部分の収去等を求めている。
 原審は、次のように判示して、被上告人の主位的請求を認容した。
 1 被上告人所有地は、宅地として利用することがその用法に最もかなっている
が、現状のままでは、接道要件を満たさないため、建築物を建築することができな
い。したがって、被上告人所有地は、袋地状態にあるというべきである。
 2 本件東側通路は従前からいわゆる生活道路として使用されていたこと、本件
ブロック塀のうち本件係争地上に存在する部分の収去に要する費用は二〇万四〇〇
〇円程度にすぎず被上告人はこれを負担することを申し出ていること、被上告人は
本件係争地を通路として確保することができれば本件西側通路の通行権に関する主
張を放棄することを申し出ていること、本件係争地が使用できなくなると上告人所
有建物の出入口はやや手狭になり建物の印象が低下するおそれがあるものの、本件
係争地を通路に提供することによる損害については上告人は被上告人に対して償金
を請求することも可能であることなどを考慮すると、被上告人の本件係争地に関す
る囲繞地通行権の主張には、理由がある。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 民法二一〇条は、相隣接する土地の利用の調整を目的として、特定の土地がその
利用に関する往来通行につき必要不可欠な公路に至る通路を欠き袋地に当たる場合
に、囲繞地の所有者に対して袋地所有者が囲繞地を通行することを一定の範囲で受
忍すべき義務を課し、これによって、袋地の効用を全うさせようとするものである。
一方、建築基準法四三条一項本文は、主として避難又は通行の安全を期して、接道
要件を定め、建築物の敷地につき公法上の規制を課している。このように、右各規
定は、その趣旨、目的等を異にしており、単に特定の土地が接道要件を満たさない
との一事をもって、同土地の所有者のために隣接する他の土地につき接道要件を満
たすべき内容の囲繞地通行権が当然に認められると解することはできない(最高裁
昭和三四年(オ)第一一三二号同三七年三月一五日第一小法廷判決・民集一六巻三
号五五六頁参照)。
 ところで、本件において被上告人が囲繞地通行権を主張する理由は、被上告人が
その所有地と公道との往来通行をするについて支障が存在するからではなく、現存
の通路幅では本件係争地の奥にある被上告人所有地上に建築物を建築するために必
要な建築基準法上の接道要件を満たすことができないという点にある。しかしなが
ら、【要旨】前記の事実関係の下において、被上告人が平成二年に旧被上告人所有
建物を取り壊し被上告人所有地に対して接道要件に関する規定が適用されることと
なった当時、本件係争地は既に建築基準法上も適法に上告人所有建物の敷地の一部
とされていたのであって、後に、もし、これを重ねて被上告人の建築物の敷地の一
部として使用させたならば、特定の土地を一の建築物又は用途上不可分の関係にあ
る二以上の建築物についてのみその敷地とし得るものとする建築基準法の原則(同
法施行令一条一号参照)と抵触する状態が生じ、上告人所有建物は同法所定の建築
物の規模等に関する基準に適合しないものとなるおそれもある。そのような事情を
も考慮するならば、右被上告人の主張を直ちに採用することのできないことは明ら
かであり、原審の前記判断は、奥の土地の所有者の必要を配慮する余り、法令全体
の整合性について考慮を欠くものといわなければならない。
 以上の次第で、原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものという
べく、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論
旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れ
ず、右に説示したところに徴すると、被上告人の主位的請求は理由がないから、こ
れを棄却すべきである。しかし、被上告人の予備的請求については、更に審理を尽
くさせる必要があるから、同請求につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田
昌道)

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