弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Bの上告を棄却する。
     原判決中被告人Aに関する部分を破毀する、同被告人に関する本件を大
阪高等裁判所に差戻す。
         理    由
 被告人B本人の上告趣意および被告人Aの弁護人鍛冶利一同柳田守正、同志方篤
の各上告趣意は末尾に添えた書面記載のとおりである。
 被告人B本人の上告趣意第一、二点について。
 論旨は、原審は被告人が原審においてした証人の申請を悉く却下し被告人の供述
を措信せず司法警察員作成調書および第一審調書のみによつて判決したのであるが、
もし原審が被告人の供述を考慮に入れ被告人申請の証人を訊問すれば原判決と異つ
た結論が出たかも知れないと主張し種々の事実を記述している。しかし、原審公判
調書によれば、被告人は原審において一人の証人をも申請したことが認められず、
被告人も原判示と同趣旨の供述をしていることがわかるし、原判決の証拠説明によ
れば、原判決は被告人の原審における供述を証拠としており、所論のように原審公
判廷外の供述を証拠としているものではない。論旨は、結局原審の事実認定を非難
するに帰するので採用することができない。
 同第三、四点について。
 論旨は、第一、二審における被告人の供述は、会社の体面を保持するために被告
人の責任として解決しようとした誤まれる正義感から全社員の身代りとなつたもの
で、このことはCの日記および遺言めいた書類の採用を願えばわかるというのであ
る。しかし、このような主張は原判決の法令違反を主張するものではなく適法な上
告理由ではないので採用することができない。
 同第五点について。
 論旨は、原審が被告人に対して言渡した懲役二年六月の刑はその量定が甚だ過大
で著しく正義に反するというのであるが、このような主張は上告の適法な理由に当
らないので採用することができない。以上のように、被告人Bの本件上告はすべて
理由がない。
 被告人A弁護人鍛冶利一同柳田守正の上告趣意第一点について。
 論旨は、原判決は相被告人Bの原審公判廷における供述を証拠として判示第一の
事実を認定しているが、被告人Aに対する関係においては右Bの供述は証拠調を経
ない違法な証拠である。けだし、被告人Aは原審第一回公判期日には出頭しなかつ
たため相被告人Bと審理を分離され、第二回公判期日以後併合審理されたものであ
るが、原判決が証拠とした前記Bの供述は第一回公判においてなされたものである
から、これを被告人Aに対する関係において証拠とするには同被告人に対する審理
を併合した第二回以後の公判期日において証拠調をしなければならないというので
ある。
 よつて、原審公判調書を調べてみると、第一回公判期日には被告人Aが欠席した
ため所論のように審理が分離され、同期日には相被告人Bに対してのみ審理がなさ
れ同被告人の訊問および証拠調が行われたこと、第二回公判期日には両被告人の審
理は併合されたけれども同公判期日には被告人Aに対してのみ被告人の訊問および
証拠調がなされたが被告人Bの供述を録取した前記第一回公判調書については同日
以後の公判期日において被告人Aに対する関係においてついに証拠調が行われない
で結審されたことがわかるのである。してみると、被告人Bの原審第一回公判期日
における供述を被告人Aの判示事実認定の証拠とした原判決には、証拠調を行わな
い証拠によつて犯罪事実を認定した違法があるものであり、しかも前記Bの供述は
被告人Aにとつて極めて不利益な証拠であるから、右の違法は判決に影響を及ぼす
べきこと明白である。それゆえ論旨は理由があるので。その他の論旨および弁護人
志方篤の上告趣意を判断するまでもなく原判決は被告人Aに対する関係においては
破毀を免れない。
 よつて、被告人Bについては旧刑訴法第四四六条被告人Aについては同法第四四
七条第四四八条ノ二を各適用して主文のとおり判決する。
 以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二五年七月四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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