弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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             主       文
       本件控訴を棄却する。
             理       由
 本件控訴の趣意は,弁護人津村健太郎作成の控訴趣意書に記載されているとお
りであるから,これを引用する。
第1 法令適用の誤り及び事実誤認の論旨について
   所論は,要するに,被告人に自首が成立するのに,自首には当たらないと
認定し,法律上の減軽をしなかった原判決には,事実の誤認及び法令適用の誤り
がある,というのである。
   そこで,検討すると,原判決が(弁護人の主張に対する判断)の項におい
てした自首の成否に関する認定及び説示は,当裁判所も概ね正当なものとして是
認することができるから,原判決には,所論のいう事実の誤認及び法令適用の誤
りはない。以下,付言する。
 1 原審の記録によれば,本件捜査の経過などについて,次のような事実が認
められる。
 (1) 被害者Aは,平成13年4月12日以降,行方不明になっており,被害者
の妻は,同年5月18日,広島県a警察署へ家出人捜索願を届け出た。警察にお
いて,被害者の捜索を開始し,被害者の電話の利用状況や出入国の状況などその
行動に関して調査をすると共に,同人の勤務先である有限会社Bに関する捜査照
会を行い,Cが同社の代表取締役であり,以前,被告人がその取締役の地位にあ
ったことを把握し,さらに,被告人の同年4月12日ころの行動について,当時
の勤務先に対する聞き込みなどの内偵捜査を進めていた。
 (2) 被告人は,同年4月12日の本件各犯行後,比較的近接した時期から,B
の関係者など複数の人物に対し,被害者の死体が地中に埋められているなどと本
件各犯行をほのめかす発言をしており,Cも,被害者の死体を埋めたBの資材置
き場における整地や掘削作業について,神経を尖らせるようになり,同年7月1
0日ころ,地中に埋められていたブルドーザーが一部露出するや,従業員らの前
で異常なまでに過敏な反応を示したため,Bの従業員の間では,ブルドーザーと
共に被害者の死体が埋まっているのではないかとの話しが持ち上がっていた。
 (3) また,警察官が作成した報告書等の記載をみると,例えば,被告人の本件
当時の勤務先に対する聞き込み捜査の結果を記載した平成13年10月26日付
け捜査状況報告書(原審検29号証)には,「被疑者Dに対する殺人・死体遺棄
被疑事件につき捜査した結果は次のとおりであるから報告する。」と記載されて
おり,他方,被害者を被照会者とする同年11月14日付け捜査関係事項照会書
(原審検5号証)には,その照会事項として,「下記の者,殺人,死体遺棄被疑
事件の被害者として捜査中のものであるが,入出国事実の有無。」と記載されて
いる。
 (4) そして,被告人は,平成14年1月23日,広島地方裁判所a支部におい
て,別件の覚せい剤取締法違反の罪で懲役3年の判決を受け,同月25日,上訴
放棄によりこの判決が確定し,b刑務所で服役していたところ,2日間にわた
り,警察官2名の訪問を受けて,被害者に関する事情聴取を求められた。被告人
は,1日目は,本件事件について供述しなかったが,ポリグラフ検査の実施に応
じ,2日目に,本件殺人及び死体遺棄の犯行を認める供述をし,上申書を作成し
た。そして,被告人は,同年2月27日,本件殺人及び死体遺棄の被疑事実によ
り通常逮捕された。
 2 そうすると,原審の記録によっても,警察は,被害者の家出人捜索願を受
けて,内偵捜査を行い,遅くとも平成13年10月下旬ころの時点で,被告人が
本件殺人及び死体遺棄の被疑者であるとの疑いを抱き,その後も,意識的に捜査
を進めていたのであって,被告人の自供を得る前の時点で,捜査機関において,
被告人が本件各犯行の犯人であるとの相当高い蓋然性をもって特定していたと認
めることができる。
 3 さらに,当審において取り調べた捜査状況報告書(当審検1,2号証)に
よれば,被告人は,本件各犯行後,知り合いの建設会社社長及び義理の娘に対
し,犯行内容について具体的に告げていたこと,警察は,他の事件に関する捜査
の過程でその状況を把握し,平成14年2月中旬ころまでに両名から詳細な事情
聴取を行い,供述調書を作成し,あるいは上申書の提出を受けたこと,引き続き
関係者に対する事情聴取などの捜査を行い,被告人に対する容疑を固めた後,同
月21日及び22日,服役中の被告人に対して,被害者に関する事情聴取を行っ
た結果,被告人が自供したことが認められる。
 4 以上によれば,本件犯行の全容が明らかになったのは,被告人の自供によ
るところが大きいものの,警察官が服役中の被告人に対して事情聴取した際に
は,被告人が本件犯行の犯人であるという高度の蓋然性をもって特定した上で,
被告人に任意の供述を促したとみるべきであり,被告人の自供は,犯罪事実が捜
査機関に発覚する前になされたとはいえないから,自首は成立しないとした原判
決の認定は相当であり,原判決に,所論のいう事実の誤認及び法令適用の誤りは
ない。
   論旨は理由がない。
第2 量刑不当の論旨について
   所論は,要するに,被告人を懲役20年に処した原判決の量刑は重きに失
し不当である,というのである。
   そこで,検討すると,本件は,被告人が,土木建設会社を経営する共犯者
と共謀の上,その従業員を資材置き場に誘い出して刺殺した上,その死体を同所
に埋めたという殺人及び死体遺棄の事案である。
   被告人は,昭和58年5月,本件と同じ共犯者から協力を求められて殺人
事件を起こし,他の罪と併せて懲役11年の判決を受けて服役した前科があると
ころ,またもや同じ共犯者と共同して,この事件と全く同様の犯行態様による本
件各犯行に及んだものである。
   被告人は,被害者に貸し与えていた自動車を無断で売却されたため,腹立
ちを覚え,被害者について快く思っていなかったが,被告人自身には,被害者を
殺害しなければならないような事情はなかった。それにもかかわらず,被告人
は,仕事面や金銭面で厚く優遇してもらい,強い恩義を感じていた共犯者から,
被害者に面子を潰されたとか,その扱いに困っているなどと愚痴を聞かされて,
軽い気持ちで殺害を意味する発言をし,これを真に受けた共犯者から協力を依頼
されて,実行を決意したというのであって,人命の尊さを軽視した余りに短絡的
な犯行動機に酌むべき事情は全くない。
   犯行の態様についてみると,被告人らは,被害者を人目に付かない資材置
き場に作業の名目で誘い出し,殺害して死体を埋める旨相談し,その計画どお
り,あらかじめ準備していた出刃包丁(なお,原判決は,原判示第1の事実にお
いて,「Cが,あらかじめ準備していた牛刀様の包丁1本」と認定しているとこ
ろ,この凶器は「刺身包丁1本」とするのが相当であるが,この点は判決に影響
を及ぼすものではない。)などの凶器を用いて,2人がかりで至近距離から被害
者の腹部や背部をそれぞれ突き刺して殺害し,犯行の発覚を免れるべく,その死
体を土中深く埋めているのであって,本件は,強固な殺意に基づく計画的で残忍
かつ悪質な犯行である。
   被害者は,若いころには過ちを犯して囚われの身となったこともあった
が,その後,更生して,フィリピン人の妻との間に3人の子供をもうけ,一家の
大黒柱として働いていたにもかかわらず,妻と幼い子供を残したまま,46歳の
若さで凶刃に倒れ,理不尽にも生命を奪われたのであって,その無念の思いは計
り知れない。遺族は,事情を知らないまま,1年近くの間,不安な気持ちで被害
者の帰りを待っていた。そして,本件被害を知らされたものの,未だに亡骸が発
見されず,ただ遺影にお参りする日々を送っているのであって,遺族が受けた衝
撃や悲嘆の思いは,筆舌に尽くしがたい。被害者の妻は,異国の地において,頼
りにしていた夫を失い,家計を維持するために,先天性の障害のある二男を施設
に預けて,朝から夜遅くまで働き続けるという困難な生活を余儀なくされてお
り,誠に哀れで気の毒というほかない。被告人が被害弁償をすることもできない
でいることもあって,遺族の処罰感情が峻烈であるのも無理もない。
   これに加えて,被告人は,本件犯行後,卑劣にも,被害者の母親に対し,
被害者が犯した強姦事件の話しをつけるなどとうそを付いて金を取り上げたり,
数か月間にわたり逃走生活を続けていたのであって,犯行後の情状も芳しくな
い。さらに,被告人には,上記殺人罪によるものや累犯及び確定裁判に当たるも
のを含めて多数の前科があり,規範意識の低下が著しく,その犯罪傾向にはかな
り高いものがある。そして,本件が,死体なき殺人事件として社会に与えた衝撃
や影響も小さくない。
   そうすると,本件の犯情は甚だ悪質であり,被告人の刑事責任は極めて重
大である。
   したがって,本件各犯行の主導的立場にあったのは共犯者であり,被告人
はこれに追従したものであること,警察官からの事情聴取に応じたものとはい
え,自ら本件各犯行の詳細を明らかにして,目撃者や物的証拠がなく,遺体の発
見もなされていない本件事案の解明に協力し,寄与していること,共犯者の供述
が変遷したにもかかわらず,原審公判廷において一貫して本件各犯行を認める供
述をし,被害者の冥福を祈るとともに,遺族の気持ちに思いを致し,亡骸の発見
を切望するなど反省悔悟の情が顕著であること,形式上は離婚したものの妻が被
告人の社会復帰を待っていることなど被告人のために酌むことができる全ての事
情を考慮してみても,被告人に対し,有期懲役刑を選択し,法律上許される刑の
加重をした上で,その最高刑を科した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとまで
はいえない。そして,原判決後,被告人が,更に反省の度を深めていることを併
せ考慮してみても,この判断を左右するものではない。
   論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における訴訟費用につ
いては,刑訴法181条1項ただし書を適用して,被告人には負担させないこと
として,主文のとおり判決する。
  平成15年9月11日
    広島高等裁判所第一部
        裁判長裁判官   久   保   眞   人
 
           裁判官   芦   髙       源
           裁判官   島   田       一

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