弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人A、同B及び被告人Cはいずれも無罪。
         理    由
 本件控訴理由は記録添付の控訴趣意書の通りであつて、その要旨は被告人三名は
共に無罪であると主張するにある。従つてここにこれを引用することとする。
 第一点 原判示第一の一、二及び第二詐欺の事実について。
 弁護人は、原判決は判示第一の一、二及び第二事実を認定して被告人等を詐欺罪
に問擬したけれども、右は事実の誤認であると主張する。
 よつて記録を調査するに、原判決は被告人等は本件a川堤外民有地の土砂等は大
阪府知事の許可なくして採掘することが出来ず何等その許可を受けていないのに拘
らず、既に右採掘について大阪府河川課係官より許可を受けているものの如く虚構
の事実を申向け、判示第一の一、二の被害者D及び判示第二の被害者Eを各誤信せ
しめ因て各判示の砂利採取権付土地を売買する名の下にその代金を受取り又は交付
せしめてこれを騙取成した旨判示しているのである。
 よつて右詐欺罪の成否を考究するに、当審証人F及びGの各証言によれば同証人
等はいずれも大阪府河川課の係員として河川事務を取扱つた経験を有するものであ
るが、右経験するところから推測して供述したところによれば、土木建築請負業者
とか砂利採取業者とか河川の砂利採取に関する業務に従事している者は砂利採取に
ついて本人の名において当局の許可を要するものであることを熟知しておるのが通
常であること、また砂利採取業者が砂利を採取する場合には事前に許可の条件等に
ついて当局と打合せをするのが慣例であるからかかる許可申請があれば不許可にな
る事例はたいこと、本件堤外民有地についてD及びEのいずれからも事前に許可に
ついて打合せを受けた事実のないことが明らかである。
 しかして原判決挙示の証拠によれば、本件被害者Dは土木建築請負業兼砂利採取
販売業を営んでおり、被害者Eも砂利の採取販売を業とするものであるのである。
従つてたとえ本件堤外民有地について原判決説示のように大阪府知事の許可が必要
であるとしても本件被害者D及びEのように砂利採取を業とする者が被告人等の言
辞を誤信し因て、各被害者において許可を受ける必要なしと考えて本件土地を買受
けたということは措信できない。殊に河川法第二十一条によれば「本章ニ依リ与ヘ
タル許可ニ依リテ生スル権利義務ハ地方行政庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ他人
ニ移スコトヲ得ス」と規定されているので、たとえ被告人等において真に当局の許
可を得ていたとしても右各被害者が自己の名において砂利を採取するためには右権
利の移譲につき更に当局の許可を要することが明らかである。従つて本件被害者と
称するD及びEは被告人等が当局の許可を得ていたという理由で本件土地と共に砂
利採取権を取得することができないことは右説示の通りであるから、右両名は本件
堤外民有地の買取りに因り毫も財産上不法の損害を被つたとはいえないし、又被告
人等においても右砂利採取権は当局の許可がなければ移譲することができないので
あるから本件により特に不法の利益を得たということもできない。むしろ原判決挙
示の証拠と右当審証人の各供述を綜合すればD及びEは共に本件許可の要否又は有
無について全く無関心の態度で本件土地を買受けた上、現実に砂利を採取した事実
が明らかである。しかるに、原判決が右各事実を認定して被告人等を詐欺罪に問擬
したのは事実誤認の譏を免れない。
 第二点 判示第三の一、二窃盗の事実について。
 弁護人は、原判決は判示第三の一、二の事実を認定して被告人Bを窃盗罪に問擬
したけれども右は事実の誤認であると主張する。
 よつて記録を調査するに、原判決挙示の証拠によれば被告人Bは一、昭和二十六
年三月七日大阪府知事より大阪府泉北郡b町c橋下流約三百米のa川川床内の砂
利、砂、栗石合計十坪の払下許可を受け所轄大阪府土木出張所に於て所定の手続を
経て採取鑑札の下附を受け採取期間を昭和二十六年三月十七日より同月二十八日迄
と指定せられたところ右指定の採取期間前には採取することが出来ないのに拘らず
砂利採取人夫頭Hに指示して右期間前の三月八日頃より同月十六日頃迄の間に砂
利、砂、栗石合計約三坪九合を採取し、二、右採取期間経過後更に許可を受けない
で昭和二十六年三月二十九日頃より同年四月二十八日頃迄の間に砂利、砂、栗石等
約十坪三合を採取した事実を認めることができるけれども、右事実をもつて直ちに
窃盗罪を構成するものということはできない。原審で調べている証拠によれば本件
a川の砂利採取についての交渉の経過にかんがみ被告人Bには本件砂利の不法領得
の意思のあつたことが認められないし、且つ本件砂利はa川の川床内のものである
から、右砂利について当局が刑法窃盗罪による保護を必要とする程度の占有を取得
維持していた事実は認められない。従つて原判決第三事実は破棄を免れない。すな
わち、刑法上の窃盗罪で保護すべき法益は刑法によつて保護する価値があり刑法に
よつて保護する必要があり、且つ刑法によつて保護する<要旨>ことが可能でなけれ
ばならない。しかるに河川の砂利(原判示砂利、砂、栗石を含む)は上流の大きい
石がくだけ、流水に押されて下流に流されて行くうちますます小さくくだけ
て砂利となり自然に発生するものである。また河川の流水の増減、遅速等によつて
その移動性は変化に富んでいるが大体において下流に行くに従つてゆるやかになり
河川の川口及び附近の海底にまで流されてそこに堆積するに到るのである。従つて
流水のように流動的ではないけれどもその自然に発生し自然に移動してやまない砂
利の本質から本件のような砂利に対し当局は実力支配の可能な地位を有することが
できない。かかる砂利に対しては刑法的保護の価値も必要もないといわねばならな
い。
 本件のような砂利採取については社会通念上警察的取締方法をもつて禁止又は制
限すれば足り河川の管理上支障なき限りむしろ砂利採取権を設定することが相当で
ある。これがために河川法は第三章において「河川ノ使用ニ関スル制限並警察」を
定め、同法第十九条において「流水ノ方向、清潔、分量、幅員若ハ深浅又ハ敷地ノ
現状等ニ影響ヲ及ホスノ虞アル工事、営業其ノ他ノ行為ハ命令ヲ以テ之ヲ禁止若ハ
制限シ又ハ地方行政庁ノ許可ヲ受ケシムルコトヲ得」と規定し、同条に基き明治三
十五年大阪府令第四十六号河川敷地内土石砂利及生産物取締規程が制定せられ、砂
利等の採取には当局の許可を要し許可なくして採取した者は拘留又は科料に処する
旨規定したのであるが、昭和二十七年大阪府規則第七十一号大阪府河川管理規則が
制定せられ附則第三項で右取締規程は廃止せられたのである。同規則第四条によれ
ば本件のような砂利等河川の生産物の採取については大阪府知事の許可を要する旨
定め、同規則第三十七条は右第四条に違反した者に対しては罰金拘留又は科料に処
する旨定めているのである。しかも右第四条の許可申請事項について不許可処分を
する場合を第十条で法定し本件のような許可を受けることが容易であることが明示
されている。もとより右規則は本件犯行後に制定せられたものであるが同規則が河
川法に基いて制定せられたものである以上右規則制定の前後により右河川法第十九
条の法意を左右するものではないことを示すものである。以上説明の通りであるか
ら本件のような砂利の不法採取の事実があれば右取締規程を適用すべきであつて刑
法窃盗罪を適用すべき限りではない。
 右の通り原判決は破棄を免れないが当審で直ちに判決できるものと認め刑事訴訟
法第三百九十七条第四百条但書を適用して次の通り判決する。
 本件公訴事実の要旨は、
 第一、 被告人等三名共謀の上
 一、 昭和二十五年四月頃被貴人Aが土木建築請負業I株式会社社長Dよりコン
クリート土管製造所の賃貸斡旋方を依頼されるや被告人等三名共同でb町所在a川
堤外民有地をDに売却斡旋して利益を得ようと企て、同人に対し堤外民有地を買え
ば製造所に使用する外砂利を採取し得る利便もあるから賃借でなく買受けて呉れと
勧めた結果、その頃J所有に係る大阪府泉北郡b町de番地のfa川左岸高水敷内
所左山林堤外民有地一反七畝二十五歩を代金六万万千円で買受けた上これをDに転
売するに際し、右a川堤外民有地の土砂等は大阪府知事の許可なくして採掘するこ
とが出来ず何等その許可を受けていないのに拘らず既に右採掘について大阪川河川
課係官より諒解を得ている旨恰も口頭で許可を受けているものの如く虚構の事実を
申し向け、同人をしてその旨誤信せしめ右土地を土管製造所に供する外砂利を採取
し得ることを主たる理由として代金二十万円で買受けることを承諾せしめ、因て同
人からb町役場に於て砂利採取権付土地売買代金名下に同月下旬頃金十万円次いで
登記終了後同年五月頃金十万円合計二十万円を受取り以てこれを騙取し、
 二、 昭和二十五年七月中旬頃前記Dより更に砂利採取場所を物色中であること
を聞くや被告人等三名共同でK所有に係るb町dg番地のha川左岸高水敷内所在
雑種地堤外民有地四反六畝二十五歩を代金十五万円で買受けた上これをDに転売す
ることとし前同様堤外民有地の土砂等は大阪府知事の許可なくして採掘することが
出来ず何等その許可を受けていないのに拘らず、Dに対し既に右採掘について大阪
府河川課係官より諒解を得ている旨恰も口頭で許可を受けているものの如く虚構の
事実を申し向け、同人をしてその旨誤信せしめ因て同人よりb町役場に於て右砂利
採取権付土地売買代金名下にその頃金十万円次いで登記終了後同月二十二日頃Lを
介して金二十万円合計三十万円を交付させいこれを騙取し、
 第二、 被告人Cは昭和二十六年二月十四日頃自己所有に係るb町di番地のj
a川左岸高水敷内所在山林堤外民有地一反三畝四歩の砂利採取権を砂利採取業者E
に譲渡するに際し、当時既に所轄鳳土木出張所係員等より知事の許可たくして堤外
民有地の砂利を採取することが出来ないことにつき注意を受けた関係上これを知悉
して居り、而もその許可を受けていたいのに拘らずその情を秘し既に許可済で自由
に採掘出来るものの如く装い同人をしてその旨誤信せしめ、因て同月十五日頃b町
の被告人方に於て同人より右砂利採取権付土地売買代金名下に合計令十二万円を交
付せしめてこれを騙取し、
 第三、 被告人Bは
 一、 昭和二十六年三月七日大阪府知事より大阪府泉北郡b町c橋下流約三百米
のa川川床内の砂利、砂、栗石合計十坪の払下許可を受け所轄大阪府鳳土木出張所
に於て所定の手続を経て採取鑑札の下附を受け採取期間を昭和二十六年三月十七日
より同月二十八日迄と指定せられたところ、右指定の採取期間前には採取すること
が出来ないのに拘らず砂利採取人夫頭Hに指示して採取期間前の三月八日頃より同
月十六日頃迄の間に砂利、砂、栗石合制約三坪九合を
 二、 その後前記採取鑑札に依り指定の採取期間採取したが、採取期間経過後は
許可はその効力を失い爾後改めて払下の許可を受けた後でなければ採取することが
出来ないのに拘らず右期間後布Hをして昭和二十六年三月二十九日頃より同年四月
二十八日頃迄砂利、砂、栗石等合計約十坪三合を、 各不法に採取してこれを窃取
したものであるというにある。
 しかし右各事実はいずれも犯罪の証明がない。
 よつて刑事訴訟法第四百四条第三百三十六条後段を適用して主文の通り判決す
る。
 (裁判長判事 斎藤朔郎 判事 松本圭三 判事 網田覚一)

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