弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成20年1月10日宣告
平成19年第409号
強盗未遂,強盗致死被告事件
判決
主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,A,B及びCと共謀の上,Cをおとりにいわゆるツーショットダイヤ
ルを使って呼び出した男性から金品を強取しようと企て,
第1平成19年1月21日午前2時5分ころ,北九州市a区b町c番d号付近路
上において,普通乗用自動車を運転していたD(当時28歳)に対し,その運
転車両の直前に,Bが運転し,A及び被告人らが同乗していた普通乗用自動車
を急停車させて,上記Dの運転車両を急停車させた上,所携の特殊警棒(平成
19年小倉領第873号符号第125号)で同車両の窓ガラス等を強打して叩
き割るなどの暴行を加え,Dの反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが,D
が逃走したことから,その目的を遂げなかった
第2同月28日午前1時40分ころa区e町f番g号付近路上においてE当,,(
時30歳)に対し,その顔面等を所携の上記特殊警棒で殴打し,その頸部を腕
で締め付けながら,その脚部等を同警棒で殴打し,さらに,その顔面,側腹部
等を足蹴にするなどし,上記Eが被告人らから逃れようとするや,上記警棒及
び金属バット(平成19年小倉領第873号符号第147号)を把持し,怒声
を上げながら上記Eを追跡するなどの暴行,脅迫を加え,Eの反抗を抑圧して
金品を強取しようとしたが,Eが逃走したことから,その目的を遂げず,その
際,上記暴行,脅迫により,Eをして同所先海中に転落させ,よって,そのこ
ろ,同所付近において,Eを溺死させて死亡させた
ものである。
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為刑法60条,243条,236条1項
判示第2の所為刑法60条,240条後段
刑種の選択(第2)無期懲役刑を選択
併合罪の処理刑法45条前段,46条2項本文
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
,,,本件はいずれも未成年であった被告人を含む3名が15歳の少女と共謀の上
その少女をおとりとして援助交際をしようと誘い出した男性から金銭を強取する,
いわゆる援交狩りを企て,被害者が運転する車両を停止させ窓ガラスを割るなどの
暴行を加えたが,被害者が逃げたため金員を強取できなかった強盗未遂1件(第1
の犯行,及び,その一週間後に,計画どおり誘い出した被害者に対し,こもごも)
暴行,脅迫を加え,逃げ出した被害者を追い詰めて海に転落させて溺死させた強盗
致死1件(第2の犯行)の事案である。
本件各犯行に至る経緯や動機についてみるに,被告人は,仕事もせず,遊興に興
じて金銭に事欠く生活を送っていたところ,同様に経済的に逼迫していた遊び仲間
の共犯者Aから金を稼ぐために援交狩りをする計画を持ちかけられ,遊び金欲しさ
に,これに応じて犯行に加わったものであって,手っ取り早く金が入手できるので
あれば強盗も厭わないという安易で,粗暴,利欲的かつ身勝手な動機に酌量の余地
は全くない。
被告人らは,援助交際をしようという男性ならば金銭が奪われたりしても後ろめ
たさもあって捜査機関に届け出ることはないと思い,援助交際のためにまとまった
金額を所持する男性に狙いをつけ,Aの交際相手であるCを犯行場所に被害者をお
びき出すおとり役とし,Bが移動のための犯行使用車両を準備し,被害者に暴行,
脅迫を加えるために,Aが特殊警棒を,被告人が金属バットを準備し(この点に関
し,威嚇目的だけであったとする被告人の公判供述は信用できない,犯行場所。)
について,被告人らが住む山口県下関市から近いものの隣県であるため犯行が発覚
しにくく,かつ,以前Aが援交狩りをしたことのある北九州市のh地区にすること
を打ち合せ,犯行予定場所を下見し,人気のない犯行の容易な場所を見つけた上,
Cに対しては,犯行場所にうまく誘い出すよう事細かに指示を出すなどして強盗を
企図したものであり,狡猾かつ周到な計画的犯行である。
第1の犯行についてみるに,被告人らは,ツーショットダイヤルを用いて援交狩
,,,りの相手を物色し被害者Dを呼び出すことに成功するとCをしてDに接触させ
,,,Cと連絡を密に取りながらDをh地区に誘き出しB運転車両で同地区まで赴き
DとCが乗車する車両を見つけ,車で近付きその様子を窺ったところ,不審に思っ
たDが車両を発進させ逃げようとしたことから追跡し,被害者車両の直前にB運転
車両を切り込み急停車させて進路を塞ぎ,AとBが車両から降りて,Aが特殊警棒
で被害者車両後部座席の窓ガラスを叩き割るなどしたものであって,一歩間違えば
衝突事故を起こしてDに重傷を負わせる危険性もあった犯行であり,凶暴で危険な
態様である。
被告人らは,Dが逃走した後も,被害者車両に同乗していたCを通じて,援助交
際の対価の支払を持ちかけてあくまでも現金を得ようとし,それが失敗に終わった
後も,被害者車両のナンバーをもとにDを探し出して金品を得ようとまでしたので
あって,その金銭獲得の意思は極めて強く,犯行後の行動も劣悪である。
Dは,被告人らによって突然急停車させられた上,特殊警棒で車両ごと襲いかか
られて,窓ガラスを割られ,修理代として約12万5000円を要する被害に遭わ
されたのであって,理由も分からず襲われた恐怖感の大きさは想像に難くなく,後
に,狡猾で卑怯な罠にはめられそうになったことも分かって立腹し,被告人らに対
する厳重処罰を希望しているのも当然である。しかるに,被告人らからは被害弁償
や慰謝の措置は一切されていない。
被告人は,第1の犯行において,犯行への参加をすぐさま表明して,自ら金属バ
ットを準備し,犯行の際には,犯行使用車両内に止まって,積極的に追跡や逃走を
容易にするという役割を果たしており,他の共犯者と同様の責めを免れない。
第2の犯行についてみるに,被告人らは,第1の犯行を敢行したものの金銭を獲
得できず,相変わらず遊興費に窮したことから,再度援交狩りを企て,第1の犯行
からわずか1週間後に犯行を敢行したものである。
被告人らは,前回同様,犯行に使用する車両を調達し,前回使用した特殊警棒及
び金属バットを準備した上,ツーショットダイヤルを用いて,確実に現金を持参さ
せるために援助交際の対価を交渉しながら援交狩りの相手を8人くらい物色し,遂
に被害者Eを門司港駅付近に呼び出すことに成功し,Cと落ち合うまでに時間がか
かると分かると,その間を利用して,成功はしなかったものの他の男性を相手に援
交狩りをして金員を得ようとした。その後,CがEと落ち合い,Eをhの倉庫付近
の岸壁へと誘導し,Eが岸壁付近のベンチに座ったところで,被告人らは再度犯行
の手順を確認した上,当初の謀議どおり,特殊警棒を持ったAを先頭に,金属バッ
トを持った被告人,Bの3名が,Eに近づいた。Aが「誰の女に手出しよるか」。
と怒号しながら,いきなり所携の特殊警棒でEの顔面を数回殴打し,Eが逃走する
と3名で追跡し,追いついたBがEの背後からその頸部を腕で締め付け,Aが「ど
う落とし前つけるんか」などと脅しながら,特殊警棒で脚部等を多数回殴打し,。
被告人が「お前何逃げよんか」などと言いながら,金属バットで路面を殴打して。
,,,,威嚇しEが土下座して謝っているにもかかわらずさらに被告人やBにおいて
Eの顔面や側腹部等を足蹴にするなどした。隙を見てEが再び逃走して岸壁の方へ
向かうと,被告人が先頭になって3名で怒声を上げながら追跡し,Eを岸壁近くの
行き止まりとなったフェンス方向まで追い詰めたことから,逃げ場を失ったEは海
にそのまま転落した。このように被告人らの金銭獲得の意思は極めて強固であり,
暴行脅迫の態様は凶暴かつ執拗で,Eが命からがら逃げ出したのは当然であり,岸
壁近くまで追跡され逃げ切れず海に転落してしまうことも十分予想される事態であ
った。
被告人らは,Eが衣服を着たまま厳冬の海中へ転落したのを目撃しながら,現場
は岸壁から水面まで約3メートルの高さがあり,付近の水深もかなりの深さがあっ
たことから,早急に救助しなければ死亡する危険性が高かったにもかかわらず,E
,,が溺れているのに嘲るなどしAにおいてタイヤを投げる行為を行ったにとどまり
119番通報をするなどの実効的な救助行為を行わず,自らが捕まらないことを優
先してその場から離れ,被害者車両に付着した指紋をふき取り,その後Cに口止め
をし,被告人らで口裏合わせを行うなどの罪証隠滅工作を行っており,まさにEを
見殺しにした上,さらに刑責の隠蔽まで図ったのであって,事後の情状も極めて悪
い。被告人においては,AとBが助けようと服を脱ごうとするのを止めるなどして
おり,自らEを追い込んで海に転落させておきながら,救助の意思を何ら有してお
らず,人命の尊さに対する配慮が全く欠けている。
Eは,被告人らによる犯行の結果,海へ転落して溺死し,2週間以上も海中に浮
遊していたことから遺体の損傷や腐食が激しく,頭部が白骨化するなど見るも無惨
な姿になって発見されたものである。その結果が重大で痛ましいものであることは
もとより,突然男性3名から襲われて,理不尽で激しい暴行を受け,路上で土下座
までさせられるなど多大な恐怖や苦痛,屈辱を味わい,命からがら逃げようとする
も,それもかなわず酷寒の海で溺れ死んだものであり,同居を間近にしていた妻や
最愛の子をはじめとする親族を残して,子供の成長をみることなく,わずか30歳
の若さでその生命を絶たれた無念さ,心残りのほどは察するに余りある。これに加
え,Eが行方不明中に妻や親族が感じた不安感やEが死亡したと判明したことによ
,,り被った打撃や落胆のほどは甚大であってEの妻や親族の処罰感情が峻烈であり
。,被告人に対し法律が許す最大限の重い刑罰を望んでいるのも当然であるしかるに
被告人らから何ら慰謝の措置はなされていない。
また,被告人らにより北九州市の有数の観光名所であるh地区において1週間の
間に立て続けに2回も,少年らによって本件のごとき凶悪かつ残忍な犯行が敢行さ
れたことによって,社会に与えた衝撃や不安は極めて大きいものがある。
以上によれば,第2の犯行における被告人の刑事責任は極めて重大である。
,,他方第1及び第2の各犯行のいずれも金員を奪取することはできなかったこと
本件各犯行を発案し主導したのはAであること,被告人は本件各犯行を認めて,事
件について詳細に供述しており,反省していること,未成年であり,知的能力の点
ではやや劣っていること,実父が社会復帰後の指導監督を約していることなど被告
人のために酌むべき事情も認められるが,やはり,被告人の犯した犯罪の重大性や
凶器を用いるなどの態様の悪質性,犯行の計画性,金銭獲得意思の強固さ,年長少
年であり,中学校を卒業してすぐ就労するなど職業生活を営んでいた期間も長く社
会性を身に付ける機会もあったこと,非行が多数みられ,本件各犯行当時保護観察
中の身であったことなどからすると,上記のような被告人に有利に酌むべき事情を
最大限考慮したとしても酌量減軽した上,懲役10年を長期とする不定期刑に処す
るのは相当ではなく,無期懲役刑に処するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑無期懲役)
平成20年1月10日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁判長裁判官重富朗
裁判官森岡孝介
裁判官中直也

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