弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中上告人A1の被上告人に対する所有権移転登記抹消登記手続請
求及び建物明渡請求並びに損害金請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を
福岡高等裁判所に差し戻す。
     その余の上告を棄却する。
     上告を棄却した部分についての上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人堤千秋、同堤克彦及び同横山茂樹の上告理由について
 第一 上告人A1の所有権移転登記抹消登記手続請求について
 一 原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。
  訴外Dと同上告人及び訴外Eとの間で、昭和三六年一〇月二六日、同上告人は
Dに対し金八一万四〇〇〇円の貸金債務を負担していることを認め、これを同三七
年三月一五日限り支払う、Eは同上告人の右債務につき連帯保証する、同上告人が
右債務の履行を怠つたときは、債務の弁済に代えてその所有の本件建物の所有権を
Dに移転する、同上告人あるいはEが期限前に右建物を第三者に売却しようとした
ときは同人らは期限の利益を失う、との契約が成立し、同年一一月七日右契約に基
づいて本件建物にDのためF名義で所有権移転請求権保全の仮登記が経由された。
その後同年一二月同上告人とEが右建物につき第三者と売買契約を締結したため、
同人らは期限の利益を失い、右債務の弁済期が到来した。そこで、Dは、昭和三七
年二月一四日夕方佐世保市内のG商事株式会社の事務所にEを連行し、Dにおいて
本件建物を他に売却処分してその代金を右債権の弁済にあてるため、Eに対して、
右建物の所有権をDに移転することを求め、かつ、右処分による登記手続に必要な
同上告人の委任状、印鑑証明書の交付等を強要し、右会社の事務員らとともにこれ
に、応じないEに暴行を加え、翌一五日朝まで同人を一睡もさせなかつた。同日D
らの強要に畏怖したEは、Dらとともに同上告人方に赴き、同上告人名義の白紙委
任状を作成し、同上告人の印鑑証明書とともにこれをDに交付した。Dは、昭和三
七年二月二三日被上告人に右建物を仮登記のまま代金一三一万円で売却し、その代
金の支払を受け、右仮登記を被上告人に移転し、同日、被上告人において、仮登記
に基づく本登記を経由し、Dは右代金を本件貸金債権の弁済にあてた。
 二 右事実によると、Dと同上告人との本件代物弁済契約は、債権担保のための
仮登記担保契約であることが明らかである。そして、仮登記担保契約において、債
務者が債務の履行を遅滞したとき、債権者は、目的不動産を換価処分する権能を取
得し、原則として、換価のため、目的不動産を適正評価額で自己の所有に帰属させ、
債務者に仮登記の本登記手続及び目的物の引渡しを求めることができるのであるが、
その場合、右評価額が債権額及び換価費用を超え、債権者において右超過額を清算
することを要するときは、債権者が清算金を債務者に提供するまで、換価処分は完
了せず、債務者は債務を弁済して仮登記担保関係を消滅させ、目的不動産の完全な
所有権を回復することができるのであつて、右清算金提供の時までは、目的不動産
の所有権は、債権者の換価処分権によつて制約されてはいるが、なお債務者にある
と解するのが相当であり、債権者の債務者に対する目的不動産を自己の所有に帰属
させるとの意思表示だけで目的不動産の所有権が債権者に移転するものではないと
いわなければならない(最高裁昭和四六年(オ)第五〇三号同四九年一〇月二三日
大法廷判決・民集二八巻七号一四七三頁、同昭和四五年(オ)第三一〇号同五〇年
七月一七日第一小法廷判決・民集二九巻六号登載予定各参照)。
  ところで、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対して換価のため、
目的不動産の所有権を自己に帰属させる旨意思表示をするとともに、仮登記のまま
目的不動産を売却処分した場合においては、第三者は、債務者の債務の履行遅滞に
より債権者が取得した目的不動産についての換価処分権能に基づく処分によつて目
的不動産を譲り受けたのであるから、右不動産について適正な手続により仮登記の
本登記を経たときは、その完全な所有権を取得し、債務者がこれを否定することは
できないものと解されるが、仮登記担保契約の趣旨に照らし、清算が未了である場
合には、右登記の経由されるまでは、債務者は債権者に債務を弁済して仮登記担保
関係を消滅させ目的不動産の完全な所有権を回復することができるのであつて、な
お目的不動産の所有権は債務者にあると解するのを相当とする。そうすると、第三
者が右登記を債務者の意思に基づかない等違法な手続によつて経由した場合には、
債務者は、目的不動産を所有しているわけであるから、右登記の抹消を求める利益
を有し、第三者に対して右登記の抹消登記手続を請求することができるものといわ
なければならない。
 三 ところが、原判決は、債権者DがEに対して本件不動産の所有権を自己に移
転するよう求めたことによつて直ちに右所有権がDに移転し、同上告人がその所有
権を喪失したとし、また、被上告人の本件建物についての仮登記の本登記が違法な
手続によつてされたか否かを問わず、同上告人は被上告人に対して右登記の抹消登
記手続を請求することができないとしたものであつて、右判断は、前記判示に反し、
違法であるといわなければならない。そして、原審の確定した前記事実によつても、
被上告人の経由した右登記が適法な手続によつてされたとは認められず、むしろ、
右事実によると、その手続に瑕疵のあつたことがうかがわれるのであるから、原審
判断の前記違法は、原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるといわなけれ
ばならない。よつて、上告代理人堤らの上告理由第一点は理由があり、原判決中同
上告人の被上告人に対する所有権移転登記抹消登記手続請求を棄却した部分は、破
棄を免れず、右請求について、登記手続が適法にされたか否か等更に審理を尽す必
要があるので、右部分を原審に差し戻すことを相当とする。
 第二 上告人A1の本件建物明渡及び損害金請求について
 原審は、DがEに対して本件建物所有権の移転を求めたことによつて同上告人が
本件建物の所有権を喪失したとして所有権に基づく同上告人の右請求を棄却すべき
であると判断したのであるが、右判断の違法であることは、第一に前述したところ
によつて明らかであるから、上告代理人堤らの上告理由第一点は理由があり、原判
決中右請求に関する部分は破棄を免れず、右部分を原審に差し戻すことを相当とす
る。
 第三 上告人有限会社A商事の損害賠償請求について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らし、正当として是
認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専
権に属する事実の認定、証拠の取捨を非難するものであつて、採用することができ
ない。
 第四 上告人A1の占有回収の訴について
 右訴は出訴期間経過後に提起されたものであるとしてこれを却下した原審の認定
判断は、正当である。論旨は、採用することができない。
 第五 結論
 以上のとおりであるから、原判決中、上告人A1の被上告人に対する所有権移転
登記抹消登記手続請求及び建物明渡請求並びに損害金請求に関する部分を破棄し、
右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻し、同上告人の被上告人に対する占有
回収の訴及び上告人有限会社A商事の被上告人に対する損害賠償請求については、
いずれも上告を棄却することとする。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に
従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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