弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 本件は被告人十数名の集団強盗事件とその中一名の詐欺事件とであるが、原審に
おいてはじめ併合審理されたものが分離されて数個の判決となり、そのうちAほか
三名に関するもの(原判決第一)Bに関するもの(原判決第二)Cに関するもの(
原判決第三)およびDに関するもの(原判決第四)につき、それぞれ上告があつた
のである。右につき提出された被告人A、被告人B、弁護人辻村精一郎(被告人A、
C、B関係)弁護人竹中半一郎(被告人C関係)および弁護人中野峯夫(被告人D
関係)の各上告趣意書は、末尾に添えた別紙記載の通りある。
 (一) 原判決第一に対する被告人Aの上告論旨は、自己の経歴、共犯者との関
係、犯行の動機と状況、贓品の分配、犯行直後ならびに現在の心境および家庭の事
情等を述べたものであつて、結局寛大な裁判を仰ぎたいという歎願にほかならず、
上告の理由にはならない。
 (二) 原判決第二に対する被告人Bの上告論旨は、自身が唯一の日本人で他の
共犯者がすべて年長の朝鮮人であること、本件犯罪行為に参加するに至つた事情お
よび分け前の僅少だつたこと等を述べ、被告人が本件の主犯、主謀者と目指さるべ
きものでないことを強調する。しかし、原審が被告人Bを共犯者中重きをなすもの
と認定したのは記録に照しても相当と考えられ、論旨は結局量刑が他の共犯人に比
して過重だというに帰するから、上告の理由にならない。
 (三) 弁護人辻村精一郎の上告論旨第一点は、被告人Aは単に従属的役割をつ
とめたもので従犯に過ぎぬのを原判決第一が共同正犯として処断したのは擬律錯誤
である、と非難する。しかし、強盗犯人と意思連絡のもとに見張等をした者は、右
共犯者の行為を利用して自己の犯意を実現したものであつて、共同正犯にほかなら
ぬこと、当第三小法廷にもその判例がある(昭和二三年(れ)第三五一号、同年七
月二〇日判決)原判決は被告人Aが他の共犯者と「共謀の上」問題の各強盗行為を
したことを認定しているのであるから、たまたま被告人の分担した行為が従属的な
ものであつたと仮定しても、被告人が共同正犯としての責任を負うべきことは当然
であつて、原判決には論旨のような違法はない。(昭和二三年(れ)第五八二号同
年一一月一〇日最高裁判所大法廷判決参照)
 (四) 同上告論旨第二点は、被告人BおよびCのための刑罰軽減の歎願にほか
ならぬから、上告の理由にならない。
 (五) 原判決第三に対する弁護人竹中半一郎の上告論旨第一点は、原判決には
理由不備の違法があると非難する。すなわち原判決は被告人Cの強盗犯罪事実の証
拠として同人に対する予審第一回訊問調書中の同人の供述の記載を挙げているが、
同調書中には原判決の示すごとき共謀および共同行為に関する供述の記載がないと
主張する。しかし、論旨が引用した右訊問調書の部分にも、被告人Cが他の共犯者
等と強盗を共謀し自ら見張を担当した旨の供述の記載があり、論旨引用以外の部分
にも「共謀の上」の犯行であることが明記されているのであつて、原判決が証拠に
よらずして事実を認定したものという非難は当らない。
 (六) 同上告論旨第二点は、被告人Cは従犯に過ぎないのに原判決はこれを共
同正犯扱いした、と非難する。しかし、原判決が挙げた証拠により共犯の事実が充
分に認められるのであるから、論旨の非難は当らない。
 (七) 同上告論旨第三点は、原判決は漫然と「共謀の上」と言つているだけで
共犯者間の意思連絡の過程を具体的に示していない、と非難する。しかし、共同正
犯については共犯者間に意思の連絡があつたという事実を明確にすれば足り、その
日時場所その他意思連絡の過程などは必ずしもそれを判決に示す必要はないのであ
つて、論旨は理由がない。(前出昭和二三年七月二〇日最高裁判所第三小法廷参照)
 (八) 同上告論旨第四点は、原判決第三に被告人の行つた詐欺の被害金額「四
万三千九百二十円」とあるが、被害者全員の各被害届に記載された被害金額を合算
すると金四万四千九百二十円であり、また被害金額でない自動車賃が被害金額に含
まれている、と指摘する。なるほどこれはその通りであつて、原審は各被害届の金
額の合計と記録中の犯罪一覧表に記載された金額とが違つていることに気が附かず、
後者の金額を判決に書き込んだものと思われる。しかし、本件の詐欺は現金を詐取
したのではなく、不渡小切手を振出して金銭の支払を免かれたのであり、また判決
の示した金額の方が上告論旨の主張する金額よりも問題の自動車賃を差引いてもな
おすくなくないのであつて、たといそれが誤記であつても、原判決をくつがえさね
ばならぬほどの欠点ではない。
 (九) 同上告論旨第五点は、原判決第三に被告人Cにつき「住所不定職業無職」
と表示してあるが、第一回公判調書には「職業水産物商住居東京都中央区a町b丁
目c番地」とある、すなわち原判決は旧刑事訴訟法第六九条の規定に違反したもの
である、と非難する。しかし、被告人の氏名、年齢、職業、住居は必ずしも証拠に
よつてのみ認定しなければならぬものではないから、公判調書の記載とちがうとい
うだけで原判決の認定を攻撃するのは必ずしも当らないのみならず、記録によれば、
詐欺罪によつて逮捕された当時の被告人Cはむしろ「住居不定無職」という方が当
つているように思われる。
 (一〇) 原判決第四に対する弁護人中野峯夫の上告論旨は、被告人Dは犯人で
なく、通称をEというための通称FことGとの人違いなのだと主張し、原審は被告
人の第一回予審における自供のみによつて断罪したもの、と非難する。しかし記録
によると、原審は右の自白のみによつて認定したのではなく、他に各種の相当有力
な補強証拠があつたのであるから、論旨は結局原審の事実の認定を攻撃するにほか
ならぬこととなり、上告の理由にならぬ。
 (一一) 同上告論旨はさらに、被告人Dおよび被告人Bの予審における供述が
長期拘禁後の自白であることを指摘する。しかし、たとえ長期拘禁後の自白であつ
ても、拘禁と自白との間に因果関係がないことの明かな場合には、その自白は憲法
第三八条第二項(刑訴応急措置法第一〇条第二項)にいわゆる「不当に長く抑留若
しくは拘禁された後の自白」に当らないものであることは、当裁判所のしばしば判
例とするところである(昭和二二年(れ)第二七一号同二三年六月三〇日大法廷判
決、昭和二三年(れ)第四五〇号同年八月五日第一小法廷判決、昭和二三年(れ)
第五三四号同年九月一八日第二小法廷判決)そして右判例はいずれも、長期拘禁の
後の自白であつても、その自白が単に拘禁前の自白または拘禁直後為された自白を
繰返したに過ぎぬものと認められるときは、長期拘禁とその後の自白との間に因果
関係無しとするのであつて、本件前記両被告人の自白は正にそれに当る。すなわち
本件の記録を繰つて見ると、被告人Dは、昭和二十一年八月三十一日に逮捕されて
同九月四日に第一回の自白をなし、それ以来上告論旨が指摘した昭和二十二年二月
十九日の自白までに合計六回同趣旨の自白または自白の補足を繰返している。また
被告人Bは昭和二十一年八月二十八日に逮捕されて同九月十一日に第一回の自白を
し、それ以来問題の昭和二十二年二月十七日の自白に至るまでに合計七回同趣旨の
自白を繰返しているのである。
 (一二) 同上告論旨はまた、強盗事件の被害者Hの証言の価値を問題にしてい
るが、たとい所論のような事情があつたにしても、その証言を取り上げることが経
験法則に反するとは言い得ない。その他被害者Iの証言および提出の書類等、被告
人等の自白を補強するに足る証拠があつて、原判決には論旨の主張するような証拠
力のない資料を証拠とした違法を認め得ない。
 これを要するに、本件各上告論旨はいずれも理由なきものと認める。
 よつて最高裁判所裁判事務処理規則第九条第四項、旧刑事訴訟法第四四六条に従
い主文のとおり判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 長谷川瀏関与
  昭和二四年五月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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