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平成29年5月31日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成28年(ワ)第7763号特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
口頭弁論終結日平成29年3月2日
判決
原告パンドウイット・コーポレーション
同訴訟代理人弁護士松本慶
同菅礼子
同近藤友紀
同訴訟復代理人弁護士小倉徹10
同補佐人弁理士阿部達彦
同黒田晋平
同田中研二
被告ヘラマンタイトン株式会社15
同訴訟代理人弁護士今西康訓
同宇津呂修
同渡邉りつ子
同補佐人弁理士鈴江正二
同木村俊之20
同吉村哲郎
同渡辺容子
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。25
3この判決に対する控訴のための付加期間を30日と
定める。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙1物件目録記載の製品を製造し,販売してはならない。
2被告は,別紙1物件目録記載の製品の輸入,輸出,販売の申出又は販売のた5
めの展示をしてはならない。
3被告は,別紙1物件目録記載の製品を廃棄せよ。
4被告は,原告に対し,510万円及びこれに対する平成28年3月26日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要10
1本件は,発明の名称を「分断部分を有するセルフラミネート回転ケーブルマ
ーカーラベル」とする特許第5377629号の特許権(以下「本件特許権」とい
い,その特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書及び
図面を併せて「本件明細書等」という。)の特許権者である原告が,別紙1物件目
録記載の製品(以下「被告製品」という。)は,本件特許の願書に添付した特許請15
求の範囲(以下,単に「特許請求の範囲」ということがある。)の請求項1記載の
発明(以下「本件発明1」という。)及び同26記載の発明(以下「本件発明26」
といい,本件発明1と併せて「本件各発明」という。)の各技術的範囲に属するか
ら,被告による被告製品の製造,販売,輸入,輸出,販売の申出及び販売のための
展示(以下,併せて「譲渡等」ということがある。)は,いずれも本件特許権を侵20
害する行為であると主張して,被告に対し,①特許法100条1項に基づき被告製
品の譲渡等の差止めを求め,②同条2項に基づき被告製品の廃棄を求めると共に,
③特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権(損害賠償の対象期間は,平成25
年10月4日から平成28年3月9日までである。)に基づき,損害賠償金510
万円及びこれに対する不法行為後の日である平成28年3月26日(訴状送達の日25
の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
た事案である。
2前提事実等(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により
容易に認められる事実等)
(1)当事者
原告は,エレクトリカル製品及びネットワーク製品の開発製造,販売を目的とす5
る米国法人である(甲4,弁論の全趣旨)。
被告は,電気,電子及び情報通信用配線部材の製造,販売,研究開発,輸出入等
を行っている株式会社である。
(2)本件特許権
原告は,次の内容の本件特許権の特許権者である(甲1,2)。10
特許番号特許第5377629号
登録日平成25年10月4日
出願番号特願2011-508702
出願日平成21年5月8日
公表番号特表2011-52415415
公表日平成23年8月25日
国際出願番号PCT/US2009/043265
国際公開番号WO2009/137756
国際公開日平成21年11月12日
優先権主張番号61/051,97620
優先日平成20年5月9日(以下「本件第1優先日」という。)
優先権主張国米国
優先権主張番号12/437,187
優先日平成21年5月7日
優先権主張国米国25
発明の名称分断部分を有するセルフラミネート回転ケーブル
マーカーラベル
特許請求の範囲別紙2(特許公報)の【特許請求の範囲】記載のとおり
(3)本件各発明の構成要件の分説
ア本件発明1(特許請求の範囲の請求項1記載の発明)は,次のとおり分説す
ることができる(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件1A」5
などという。)。
1A:第1接着領域を有する透明フィルムを備える,ケーブルの識別するため
のセルフラミネート回転ケーブルマーカーラベルであって,
1B:前記透明フィルムは,前記第1接着領域に隣接する非接着性領域を有し,
1C:前記透明フィルムは,前記非接着性領域に隣接する第2接着領域を有し,10
1D:前記透明フィルムの前記第2接着領域は,前記透明フィルムがケーブル
の周囲に巻き付けられる際に,前記非接着性領域の上に少なくとも部分
的に位置するように構成され,
1E:前記透明フィルムは,前記透明フィルムの一方の面上にプリント用領域
を有し,15
1F:ミシン目は前記透明フィルムを横断して延在し,
1G:前記ミシン目により前記透明フィルムの分断線が形成される
1H:ことを特徴とするセルフラミネート回転ケーブルマーカーラベル。
イ本件発明26(特許請求の範囲の請求項26記載の発明)は,次のとおり分
説することができる(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件220
6A」などという。)。
26A:基層上に一列に貼着された複数のセルフラミネート回転ケーブルマーカ
ーラベルであって,
26B:各ケーブルマーカーラベルが,第1および第2接着領域を有する透明フ
ィルムと,25
26C:前記第1接着領域と前記第2接着領域との間の滑らかな非接着領域と,
26D:前記透明フィルム上のプリント用領域であって,前記第1および第2接
着領域の間に位置するプリント用領域と,
26E:前記透明フィルム内のミシン目であって,前記フィルムの分断線を形成
するミシン目と,を備え,
26F:前記基層への前記フィルムそれぞれの前記接着領域に取り外し可能に貼5
着する前記第1および第2接着領域それぞれと,
26G:前記基層に貼着せず,前記基層と前記透明フィルムそれぞれとの間の開
口部であって,選択した透明フィルムを引くように持ち上げる力を受け,
前記基層から前記選択した透明フィルムを取り外せるよう構成されてい
る開口部を形成する前記フィルムそれぞれの非接着領域と,を備える10
26H:ことを特徴とする複数のセルフラミネート回転ケーブルマーカーラベル。
(4)被告の行為
被告は,業として,被告製品を製造,販売し,また,その販売の申出及び販売の
ための展示を行っている。
被告製品は,別紙3被告製品説明書記載の構成を有する,基層上に複数の透明フ15
ィルムが貼着されたセルフラミネート回転ケーブルマーカーラベルセットである
(甲3,8)。被告は,被告製品の構成につき特許権(特許第5859083号。
以下,同特許に係る発明を「被告特許発明」という。)を取得している(甲12,
弁論の全趣旨)。
被告製品は,構成要件1C,1D,1E,1H,26A及び26Hを充足する(被20
告も,これらの点について,争っていない。)。
3争点
(1)被告製品は,文言上本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1)
ア被告製品は構成要件1Aを充足するか(争点1-1)
イ被告製品は構成要件1Bを充足するか(争点1-2)25
ウ被告製品は構成要件1Fを充足するか(争点1-3)
エ被告製品は構成要件1Gを充足するか(争点1-4)
(2)被告製品は,本件発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属するか(争
点2)
(3)被告製品は,文言上本件発明26の技術的範囲に属するか(争点3)
ア被告製品は構成要件26B,26C,26D及び26Fを充足するか(争点5
3-1)
イ被告製品は構成要件26Eを充足するか(争点3-2)
ウ被告製品は構成要件26Gを充足するか(争点3-3)
(4)被告製品は,本件発明26と均等なものとしてその技術的範囲に属するか(争
点4)10
(5)被告は,被告製品の輸入及び輸出をしているか(争点5)
(6)原告の損害及びその額(争点6)
4争点に対する当事者の主張
(1)争点1(被告製品は,文言上本件発明1の技術的範囲に属するか)について
ア争点1-1(被告製品は構成要件1Aを充足するか)について15
【原告の主張】
(ア)構成要件1A充足性
構成要件1Aの「第1接着領域」とは,透明フィルム上に複数存在する接着面を
有する領域のうちの1つを意味するものと解すべきである。
被告製品のラベル10’は,セルフラミネート回転ケーブルマーカーラベルであ20
るところ,同ラベル10’は,透明フィルム上に複数存在する接着面を有する領域
のうちの1つである「第1接着領域16’」を有する透明フィルム14’を備えて
いる。
したがって,被告製品は構成要件1Aを充足する。
(イ)被告の主張に対し25
a本件各発明の作用効果について
本件各発明は,それぞれ特許請求の範囲に記載された構成を備えることにより,
回転できるようにケーブルに付けられ,ケーブル接続の端部を切断することなく瞬
時に終端ケーブルに付けられ,1部品又は2部品の構成であり,プリント用領域を
覆うクリアな保護ラミネート領域を形成し,かつ安価に製造できるケーブルマーカ
ーラベルを提供できるとの作用効果を奏するものである(本件明細書等の段落【05
009】)。
被告は,本件明細書等の段落【0011】,【0021】,【0045】等の記
載を根拠に,本件各発明の作用効果につき「第1接着領域はケーブルに接着された
ままである。」などと主張するが,上記各段落は本件各発明の実施例を説明するに
とどまる(本件明細書等の段落【0013】,【0047】にも,同趣旨が明確に10
記載されている。)。本件各発明において,ユーザは,ラベルをケーブルに取り付
けた後,任意に選択して第1接着領域を直ちに取り除くことができるのであるから,
「第1接着領域がケーブルに接着されたままである」点までもが本件各発明の作用
効果であるとはいえない。実質的に見ても,本件特許の審査段階では本件各発明の
新規性,進歩性は問題とならず,被告も本件訴訟で特許無効の抗弁を提出しないな15
ど,本件各発明は先駆的なものであり,被告が主張するように解釈されるべきもの
ではない。
b「第1接着領域」について
被告は,「第1接着領域」について,「透明フィルムがミシン目に沿って破れた
後にケーブルに接着剤で接着されるままとなることが予定されている領域」と解す20
べきと主張する。しかし,特許請求の範囲の記載には,そのような限定はないし,
実質的に考えても,ユーザは本件各発明に係るラベルにおいて第1接着領域を直ち
に除去することが可能であることからすれば,「第1接着領域」は,単に透明フィ
ルム上に複数存在する接着面を有する領域のうちの1つであることをもって足りる
というべきである。本件明細書等の段落【0011】,【0015】,【0021】25
及び【0024】は,いずれも本件各発明の実施例を説明するものにすぎず,本件
発明1の技術的範囲を限定解釈する根拠とはならない。
【被告の主張】
(ア)本件各発明の作用効果について
本件明細書等の段落【0011】,【0021】,【0045】などの記載から
すると,本件各発明は,次のような作用効果を奏するものと解される。5
「最初に第1接着領域がケーブルに係合され接着された後に,透明フィルムのプ
リント用領域がケーブルの周囲に巻き付けられる。これにより,ケーブル接続の端
部を切断することなく瞬時に終端ケーブルに付けられ,1部品又は2部品の構成と
なる。次に,透明フィルムのうちケーブルの接線方向の力を受けたプリント用領域
及び第2接着領域がプリント用領域の巻き付けに伴いこれに覆われたミシン目に沿10
って透明フィルムの第1接着領域から分かれる。第1接着領域はケーブルに接着さ
れたままである。分離後,第2接着領域は,プリント用領域にわたって保護層を形
成する。これにより,プリント用領域を覆うクリアな保護ラミネート領域を形成で
き,かつ,安価に製造できる。プリント用領域の下に位置する第1接着領域の外側
非接着性表面とプリント用領域の裏面とが接着剤を含まないので,プリント用領域15
は,ケーブルの周囲における360度の回転を実現できる。」
(イ)「第1接着領域」について
構成要件1Aの「第1接着領域」とは,本件明細書等の段落【0011】,【0
015】,【0020】,【0021】,【0024】の記載や上記(ア)で主張した
本件各発明の作用効果からして,「透明フィルムがミシン目に沿って破れた後にケ20
ーブルに接着剤で接着されるままとなることが予定されている領域」と解すべきで
ある。本件明細書等には,「透明フィルム上に複数存在する接着面を有する領域の
うち非接着領域から切り離されると同時にケーブルから取り去られる領域」が「第
1接着領域」であった場合に,どのようにして本件発明1の課題が解決されるかに
ついては何らの記載も示唆もないし,どのような具体的構成を採用すれば「非接着25
領域から切り離されると同時にケーブルから取り去る」ことができるかについての
記載も示唆もない。よって,「透明フィルム上に複数存在する接着面を有する領域
のうち非接着領域から切り離されると同時にケーブルから取り去られる領域」をも
「第1接着領域」に含まれると解する余地はないというべきである。
被告製品の「第1接着領域16’」は,最終的にケーブルから取り除かれてしま
うため,「ケーブルで接着されるままとなることが予定されている領域」に当たら5
ない。
(ウ)小括
したがって,被告製品は構成要件1Aを充足しない。
イ争点1-2(被告製品は構成要件1Bを充足するか)について
【原告の主張】10
(ア)構成要件1B充足性
構成要件1Bの「隣接」とは,その一般的な語義からして,「となりあってつづ
くこと。近隣関係にあること。」と解すべきである(甲11)。
被告製品の透明フィルム14’は,第1接着領域16’の少なくとも一部と隣接
する非接着性領域20a’,20b’を有する。15
したがって,被告製品は構成要件1Bを充足する。
(イ)被告の主張に対し
被告は,「隣接」について,「ラベルの巻き付け方向に沿って第1接着領域と非
接着性領域とが隣り合っていること」と解すべきと主張する。しかし,本件明細書
等の段落【0011】は,本件各発明の実施例を説明するものにすぎず,本件発明20
1の技術的範囲を限定解釈する根拠とはならない。
【被告の主張】
(ア)「第1接着領域」について
争点1-1において主張したとおり,被告製品は「第1接着領域」を有しない。
(イ)「隣接」について25
a「隣接」の解釈
構成要件1Bの「隣接」とは,本件明細書等の段落【0011】の記載のほか,
本件明細書等には非接着性領域が第1接着領域に続いてケーブルに巻き付けられる
実施例しか開示されていないことからして,「ラベルの巻き付け方向に沿って第1
接着領域と非接着性領域とが隣り合っていること」と解すべきである。本件明細書
等には,「隣接」を上記以外の意義と解した場合に,本件発明1の課題がいかにし5
て解決されるかについて何らの記載もなく,その示唆もないから,上記以外の解釈
をとる余地はないというべきである。
b被告製品の構成
左下の図(別紙3被告製品説明書の図1)において,被告製品の「第1接着領域
16’」は符号16’,「非接着領域20a’,20b’」はそれぞれ符号20a’,10
20b’で示される部分であるが,被告製品をケーブルに巻き付ける際の作業手順
は右下の図(被告製品のカタログ〔甲3〕記載の使用方法図)のとおりであり,「第
1接着領域16’」と「非接着領域20a’,20b’」とは,同時にケーブルに
巻き付けられ,「ラベルの巻き付け方向に沿って隣り合って」はいない。したがっ
て,被告製品において「第1接着領域16’」と「非接着領域20a’,20b’」15
とは,構成要件1Bにいう意味で「隣接」しているとはいえない。
(ウ)小括
以上の理由により,被告製品は,構成要件1Bを充足しない。
ウ争点1-3(被告製品は構成要件1Fを充足するか)について
【原告の主張】
(ア)構成要件1F充足性
構成要件1Fの「ミシン目」とは,「フィルムの分断・分離を容易にする弱化線」
をも含むと解すべきである。また,「横断」とは,「フィルムの外周縁のうちの一5
点から他点まで延在」していることをもって足りると解すべきである。
被告製品において,下図(別紙3被告製品説明書の図1)の赤色点線部分に示す
とおり,フィルムの分断・分離を容易にする弱化線であるところの「切れ目22’」
は,透明フィルム14’の外周縁のうちの一点から他点まで延在している。
なお,仮に,「切れ目22’」が,透明フィルム14’を貫通して基層に至るま
でいったん完全に切り離されていたとしても,次図(別紙3被告製品説明書の図2)
のとおり,「端部接続部分EP」が切り離されていないことは明らかであるところ,
「切れ目22’」(赤色点線部分)と「端部接続部分EP」とから構成される部分
は,なおフィルムの分断・分離を容易にする弱化線ということができる。15
したがって,被告製品は構成要件1Fを充足する。
(イ)被告の主張に対し
a「ミシン目」について
被告は,「ミシン目」について,「物の接するところに点線状の孔によって生じ5
るすじ」と解すべきと主張する。しかし,特許請求の範囲の記載上,ミシン目は「分
断線」を形成するものとされていること,本件明細書等の段落【0010】,【0
012】,【0014】,【0018】,【0021】,【0030】等には,ミ
シン目は分離・分断のために存在する旨が記載されている一方で,ミシン目につい
て他の技術的意義を記載した箇所はないことなどからして,構成要件1Fの「ミシ10
ン目」とは,点線状の孔の有無にかかわらず,フィルムの分断・分離を容易にする
弱化線をも含むものと解すべきである。
また,被告は,被告製品における「切れ目22’」では,透明フィルム14’が
その表面から裏面まであらかじめ切り離されていると主張するが,「切れ目22’」
は,第1接着領域と透明フィルムの中央部分とを完全に分離しているわけではない15
し,仮に,いったん切り離されていたとしても,上記(ア)のとおり,なお「端部接続
部分EP」と併せてフィルムの分断・分離を容易にする弱化線であることに変わり
はないというべきである。
b「横断」について
被告は,「横断」について,一般的な語義に基づく解釈を主張する。しかし,特
許請求の範囲の記載上,一直線に横切ることまでを要するとはされていないほか,
上記aにおいて主張した「ミシン目」の技術的意義からすれば,構成要件1Fの「横
断」とは,透明フィルムの外周縁のうちの一点から他点まで延在し,その線に沿っ
て分離・分断を可能にすれば足りるものと解するのが相当である。5
【被告の主張】
(ア)「ミシン目」について
構成要件1Fの「ミシン目」とは,一般に「ミシン」とは点線状の孔を意味する
こと(乙1)からして,「物の接するところに点線状の孔によって生じるすじ」を
意味することが特許請求の範囲の記載上明確である。10
被告製品の「切れ目22’」は,その一端から他端までの全ての箇所において,
あらかじめ「透明フィルム14’」をその表面から裏面まで切り離している(乙2,
3)。このことは,「基層28’」にまで切れ目が入っていることからも明白であ
るし,そもそも大量生産する被告製品にあって,透明フィルム14’を完全に切断
することなく,切れ目22’を「薄皮一枚つながっている」ような構成とすること15
は不可能である。
したがって,被告製品の「切れ目22’」は,「点線状の孔によって生じるすじ」
ではないから,構成要件1Fの「ミシン目」に相当しない。
(イ)「横断」について
a「横断」の解釈20
構成要件1Fの「横断」とは,一般的な意味からして,「横または東西の方向に
よこぎること」であり,「よこぎる」とは,一般に「一方の側から他の側に行くこ
と」を意味する(乙1)。したがって,構成要件1Fにおいて,「ミシン目」は透
明フィルムの一方の側から横方向の他の側に行くことを要する。
この点について,原告は,「横断」の意義を,「フィルムの外周縁のうちの一端25
から他端まで延在していること」と主張するが,仮に,そのように解するならば,
下図に示される構成のケーブルマーカーラベルも本件発明1の技術的範囲に含まれ
ることとなるが,このような構成では,ミシン目が切断された後に回転できるよう
にケーブルに付けることができないなど,原告が主張するところの本件発明1の作
用効果を奏しないことが明らかである。このことからも,「ミシン目は…横断して
延在し」とは,ミシン目が透明フィルムの一方の側から横方向の他方の側に行くこ5
とを要するとすべきといえる。
b被告製品の構成
被告製品の「切れ目22’」は,下図(別紙3被告製品説明書の図1)の赤い点
線に見られるように,透明フィルム14’の中央部分を取り囲むように設けられて10
おり,透明フィルムを「横断」していない。
(ウ)小括
以上の理由により,被告製品は構成要件1Fを充足しない。
エ争点1-4(被告製品は構成要件1Gを充足するか)について
【原告の主張】5
(ア)構成要件1G充足性
構成要件1Gの「分断線」とは,「分断」という語が有する「まとまりあるもの
を断ちきって別れ別れにすること」という意義及び「線」という語が有する「糸の
ように細く長いもの。すじ」という意義からして,「まとまりあるものを断ちきっ
て別れ別れにするすじ」と解すべきである(甲11)。10
被告製品の「切れ目22’」は,まとまりある1枚の透明フィルム14’を断ち
きって別れ別れにするすじを形成している。
したがって,被告製品は構成要件1Gを充足する。
(イ)被告の主張に対し
被告は,「分断線」について,特許請求の範囲のみでは意義が判然としないとし15
て,本件明細書等の記載を参酌して「第1接着領域がケーブルに貼着された後に巻
き付け方向の力を受けて破られることにより,第1接着領域がケーブルに貼着され
たままの状態になるよう,第1接着領域と非接着性領域とを断ちきって別れ別れに
する細く延びたもの」と解すべきと主張する。しかし,上記(ア)のとおり,「分断線」
という語は,特許請求の範囲の記載それ自体から明確に解釈できるというべきであ
るし,被告が根拠とする本件明細書等の段落【0011】,【0021】,【00
45】は,いずれも本件各発明の実施例を説明するものにすぎず,本件発明1の技
術的範囲を限定解釈する根拠とはならない。
【被告の主張】5
(ア)「分断線」の解釈
構成要件1Gの「分断線」の意義について,特許請求の範囲の記載のみからはそ
の意義が判然としないので,本件明細書等の段落【0011】,【0021】,【0
045】等の記載を参酌すると,「第1接着領域がケーブルに貼着された後に巻き
付け方向の力を受けて破られることにより,第1接着領域がケーブルに貼着された10
ままの状態になるよう,第1接着領域と非接着性領域とを断ちきって別れ別れにす
る細く延びたもの」と解すべきである。
仮に,原告が主張するように,「分断線」は「まとまりあるものを断ちきって別
れ別れにするすじ」という意義にすぎないと解するのであれば,次の図のように,
「第1接着性領域」と呼ばれる部分と「第2接着性領域」と呼ばれる部分の位置関15
係を交換した場合であっても,当該ケーブルマーカーラベルは本件発明1の技術的
範囲に含まれることとなるが,このようなラベルをケーブルに巻いても,プリント
用領域を覆うクリアな保護ラミネート領域が形成されないことはおろか,ラベルを
ケーブルに回転可能に取り付けることさえできず,原告が主張するところの本件発
明1の作用効果を奏しないことが明らかである。このことからも,「分断線」は,20
「第1接着領域がケーブルに貼着された後に巻き付け方向の力を受けて破られるこ
とにより,第1接着領域がケーブルに貼着されたままの状態になるよう,第1接着
領域と非接着性領域とを断ちきって別れ別れにする細く延びたもの」と解すべきも
のであるといえる。
(イ)被告製品の構成
被告製品の「切れ目22’」は最初から切れているものであって,つながってい
るものが巻き付け方向の力を受けて破られるというものではないし,第1接着領域
がケーブルに接着されたままになるよう第1接着領域と非接着性領域とを断ちきっ5
て別れ別れにするものでもない。よって,被告製品の「切れ目22’」は,構成要
件1Gの「分断線」に相当しない。
したがって,被告製品は構成要件1Gを充足しない。
(2)争点2(被告製品は,本件発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属す
るか)について10
【原告の主張】
仮に,①構成要件1Fの「ミシン目」が「物の接するところに点線状の孔によっ
て生じるすじ」と解され,他方,被告製品の「切れ目22’」が,透明フィルム1
4’の表面から裏面までを全て切り離している点において,また,②構成要件1F
の「横断」が「一直線に横切るもの」と解され,他方,被告製品の「切れ目22’」15
が,透明フィルム14’の中央部分を取り囲むように設けられている点において,
被告製品が構成要件1Fを文言上充足しないとしても,本件においては,次のとお
り均等侵害が成立するというべきである。
ア均等の第1要件(非本質的部分)
特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の20
従来技術との比較から認定されるべきものであり,従来技術と比較して特許発明の
貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,
これを上位概念化されたものとして認定されるべきである。
本件各発明は,ケーブルマーカーラベルについての発明であるが,本件明細書等
に従来技術として記載されているケーブルマーカーラベルは,ケーブルの周囲を回
転することができないもの,ケーブルに取り付ける際にケーブルの一点を切断しな
くてはならないもの,ケーブルのサイズに合わせたりプリント部を保護するための5
ラミネート領域を設けたりできないものなどしかなく,ケーブルの一端を切断する
ことなく取り付けることができ,ケーブルのサイズに合わせることができ,ラミネ
ート領域を有し,かつケーブルの周囲を回転することができるケーブルマーカーラ
ベルは,本件第1優先日前には存在しなかったものである。このため,本件特許の
審査過程では,本件各発明の新規性・進歩性は問題とならなかった。これらのこと10
からして,本件各発明の従来技術に対する貢献の程度は大きいものである。
したがって,本件発明1の本質的部分を認定するに際して,特許請求の範囲の一
部を上位概念化することが許されるべきであるから,本件発明1の本質的部分は,
次のとおり認定することができる。
「透明フィルムを備える,ケーブルの識別をするためのセルフラミネート回転ケ15
ーブルマーカーラベルであって,第1接着領域,第2接着領域及び非接着領域を備
え,かつ一方の面上にプリント領域を有する透明フィルムが,ケーブルの周囲に巻
き付けられた後,少なくとも部分的に第2接着領域が非接着領域の上に位置するよ
うに構成され,上記透明フィルム上に存在する分断部分から同フィルムを分断・分
離することにより,ラベル自体が回転することを可能とした点。」20
そうすると,フィルムの分離・分断をするための分断部分が,点線状の孔を有す
るすじ(「ミシン目」)であるか否か,及び,これが一方向に向かって一直線に延
在している(「横断」)か否かという相違部分は,本件発明1の本質的部分に係る
ものではない。
イ均等の第2要件(置換可能性)25
本件発明1は,上記アに主張した本質的部分を備えることにより,ケーブルマー
カーラベルについて,回転できるようにケーブルに付けられ,ケーブル接続の端部
を切断することなく瞬時に終端ケーブルに付けられ,1部品又は2部品の構成であ
り,プリント用領域を覆うクリアな保護ラミネート領域を形成し,かつ安価に製造
できるという作用効果を奏するものである。
そして,本件発明1の構成のうち,①「点線状の孔によって生じるすじ」である5
ところの「ミシン目」との構成を,切り離された「切れ目22’」との構成又は「切
れ目22’」と「端部接続部分EP」からなる構成に置き換え,②「ミシン目」に
ついて「一直線に横切る」という意味の「横断して延在し」との構成を,「切れ目
22’」が一方の「端部接続部分EP」から他方の「端部接続部分EP」までコの
字型に延在しているとの構成に置き換えたとしても,同置換え後の被告製品は,回10
転できるようにケーブルに付けられ,ケーブル接続の端部を切断することなく瞬時
に終端ケーブルに付けられ,1部品又は2部品の構成であり,プリント用領域を覆
うクリアな保護ラミネート領域を形成し,かつ安価に製造できるという,本件発明
1の目的を達することができるから,本件発明1と同様の作用効果を奏するもので
ある。15
ウ均等の第3要件(置換容易性)
(ア)第3要件充足性
本件発明1に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書等の記載上,「ミシン目」
の形状は何ら限定されていないこと,被告製品の製造当時(なお,被告特許発明に
係る特許の出願日は平成26年9月29日である。),物品に添付するラベルの技20
術分野において,ラベルに形成された分断線に沿って当該ラベルを複数の部分に分
断するような分断ラベル及び当該分断線の形状を,コの字状を含む非直線状とする
ことは周知技術であったこと(甲21ないし30),被告には,本件特許権の侵害
を回避する動機付けがあったこと,被告製品に係る構成を採用したことによる顕著
な効果も見られないことなどからすれば,本件発明1の構成のうち,①「ミシン目」25
との構成を,「切れ目22’」との構成又は「切れ目22’」と「端部接続部分E
P」からなる構成に置き換え,②「ミシン目」が「横断して延在し」との構成を,
「切れ目22’」が一方の「端部接続部分EP」から他方の「端部接続部分EP」
までコの字型に延在しているとの構成に置き換え,被告製品に係る構成とすること
は,被告製品の製造当時,当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)被告の主張に対し5
被告は,均等の第3要件における「容易に想到することができた」とは,特許法
29条2項所定の「容易に発明をすることができた」とは異なり,当業者であれば
誰もが,特許請求の範囲に明記されているものと同じように認識できる程度の容易
さをいうなどと主張するが,「容易」「想到」という語が使用されている以上,特
許法29条2項と同様の基準により「容易に想到することができた」かが判断され10
るべきである。
被告は,被告製品製造当時の技術水準を示す証拠はケーブルマーカーラベルに関
するものに限られるべきと主張するが,本件明細書等の段落【0046】には,本
件各発明が「流体管,軸方向に取り外し可能な制御線,チューブ状の静的構造」等
に使用可能であることが明記されているほか,常識的に見ても,技術水準を示す証15
拠をケーブルマーカーラベルに関するもののみに限定することは不当である。
被告は,分断線の形状をコの字型とすることが周知技術であるとしても,第1接
着領域をラベルの両角部の2点固定とすることついては動機付けがないと主張する
が,第1接着領域をラベルの両角部の2点固定とした構成は,本件発明1の技術的
範囲に含まれるのであるから,かかる構成とする動機付けが求められるものではな20
い。
エ均等の第4要件(容易推考性の不存在)及び第5要件(意識的除外等の不存
在)
被告製品は,本件第1優先日の時点における公知技術と同一又はこれから上記時
点に容易に推考できたものではない。25
また,本件特許の出願経過等に照らしても,被告製品が,本件発明1に係る特許
請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。
【被告の主張】
本件においては,次のとおり,均等の第1要件,第2要件及び第3要件のいずれ
も充たされていないから,均等侵害は成立しない。
ア均等の第1要件(非本質的部分)5
特許発明の本質的部分を認定するに際し,特許請求の範囲の記載の一部について
これを上位概念化すること自体が許容されるとしても,明細書に開示された技術的
思想ないし課題解決原理を超えることは許されないというべきである。
本件明細書等に開示された本件発明1の技術的思想や課題解決原理を踏まえると,
本件発明1の本質的部分は,次のとおり認定されるべきである。10
「透明フィルムを備える,ケーブルの識別をするためのセルフラミネート回転ケ
ーブルマーカーラベルであって,透明フィルムが分断線に沿って破れた後にケーブ
ルに接着剤で接着されたままとなることが予定されている第1接着領域,透明フィ
ルムの巻き付け方向に沿って第1接着領域と隣り合っている非接着領域及び第2接
着領域を備え,かつ一方の面上にプリント用領域を有する透明フィルムがケーブル15
の周囲に巻き付けられた後,少なくとも部分的に第2接着領域が非接着領域の上に
位置するように構成され,第1接着領域がケーブルに貼着された後に,上記透明フ
ィルム上に形成され横断する分断線が巻き付け方向の力を受けて透明フィルムが破
られることにより,第1接着領域がケーブルに接着剤で固定されたままとなり,か
つ,プリント用領域と第2接着領域とが回転することを可能とした点。」20
被告製品のラベル10’は,「第1接着領域16’」をケーブルからはがさなく
ては,回転自在な部分は形成されない。換言すると,被告製品の「第1接着領域1
6’」は,「非接着性領域20b’」から分離した瞬間にケーブルから分離される。
したがって,本件発明1と被告製品との相違部分は,本件発明1の本質的部分に
係るものであるといえるから,均等の第1要件を充足しない。25
イ均等の第2要件(置換可能性)
争点1について主張したとおり,本件各発明の作用効果は,次のとおりであると
解される。
「最初に第1接着領域がケーブルに係合され接着された後に,透明フィルムのプ
リント用領域がケーブルの周囲に巻き付けられる。これにより,ケーブル接続の端
部を切断することなく瞬時に終端ケーブルに付けられ,1部品又は2部品の構成と5
なる。次に,透明フィルムのうちケーブルの接線方向の力を受けたプリント用領域
及び第2接着領域がプリント用領域の巻き付けに伴いこれに覆われたミシン目に沿
って透明フィルムの第1接着領域から分かれる。第1接着領域はケーブルに接着さ
れたままである。分離後,第2接着領域は,プリント用領域にわたって保護層を形
成する。これにより,プリント用領域を覆うクリアな保護ラミネート領域を形成で10
き,かつ,安価に製造できる。プリント用領域の下に位置する第1接着領域の外側
非接着性表面とプリント用領域の裏面とが接着剤を含まないので,プリント用領域
は,ケーブルの周囲における360度の回転を実現できる。」
他方,被告製品は,第1接着領域16’とプリント用領域20b’が同時にケー
ブルに接合され接着された後に,そのプリント用領域20b’がケーブルの周囲に15
巻き付けられる。そして,透明フィルム14’のうち切れ目22’の外側のいった
ん巻き付けられた部分が解かれ,これに伴い,第1接着領域16’も取り去られる。
このため,本件発明1では,第1接着領域をケーブルから取り外すには,回転可
能となったラベル部分をケーブルに沿って移動させるなど,意識的な動作を要し,
第1接着領域を取り外すか否かはユーザが任意に選択できるのに対し,被告製品で20
は,第1接着領域16’を取り外す動作が不要である反面,これを取り外すか否か
をユーザが選択することはできない。
以上のとおり,本件発明1と被告製品とは,その作用効果が異なるというべきで
あるから,均等の第2要件を充足しない。
ウ均等の第3要件(置換容易性)25
均等の第3要件にいう「対象製品等の製造等の時点において容易に想到すること
ができた」とは,均等侵害を認めるべき趣旨に鑑みれば,特許法29条2項所定の
「容易に発明をすることができた」という場合とは異なり,当業者において,特許
請求の範囲に明記されているのと同じように認識できる程度の容易さをいうものと
解される。
被告製品に係る発明については,特許権が設定されているところ(被告特許発明),5
同特許の願書に添付した明細書には,本件特許の公表特許公報が挙げられている(甲
12の段落【0004】参照)。頒布された刊行物に記載された発明から容易に発
明をすることができない発明でなくては,特許を受けることができないことからす
れば,被告特許発明について特許がされているということは,被告製品の構成は,
本件発明1から容易に発明をすることができないということである。そうすると,10
本件発明1との相違部分に係る被告製品の構成について,当業者が,特許請求の範
囲に明記されているのと同じように認識できるほどに,容易に想到することができ
たとはいえない。
原告は,被告製品の製造当時の技術水準を示す証拠として,甲21号証ないし3
0号証を提出するが,これらの技術文献は,いずれもケーブルマーカーラベルに関15
するものではないから,周知技術を立証する証拠として用いることはできないとい
うべきである。
仮に,原告が主張するように,「ラベルを複数の部分に分離する分断線としての
コの字型等の形状」が周知技術であるとしても,本件発明1から被告製品の構成に
到達するには,更に「ラベル短手方向にわたって第1接着領域が設けられた本件特20
許の実施例との差別化を図ろうとして,第1接着領域をラベルの両角部に設けて2
点固定とすること」を要するものであり,この点が容易とされる根拠はないという
べきである。
したがって,均等の第3要件を充足しない。
(3)争点3(被告製品は,文言上本件発明26の技術的範囲に属するか)につい25

ア争点3-1(被告製品は構成要件26B,26C,26D及び26Fを充足
するか)について
【原告の主張】
(ア)構成要件26B,26C,26D及び26F充足性
本件発明26の「第1接着領域」は,本件発明1の「第1接着領域」と同様に,5
透明フィルム上に複数存在する接着面を有する領域のうちの1つを意味するものと
解すべきである。
被告製品におけるラベル10’は,複数存在する接着面を有する領域のうちの1
つである「第1接着領域16’」及び「第2接着領域24’」を有する透明フィル
ム14’を備え,第1接着領域16’と第2接着領域24’との間に滑らかな「非10
接着領域20a’,20b’」を備え,第1接着領域16’と第2接着領域24’
の間に位置する「プリント用領域20b’」を透明フィルム14’上に備えている。
また,第1接着領域16’と第2接着領域24’は,いずれも基層28’に取り外
し可能に貼着されている。
したがって,被告製品は構成要件26B,26C,26D及び26Fをいずれも15
充足する。
(イ)被告の主張に対し
被告は,被告製品の「プリント用領域20b’」は,「第1接着領域16’」と
「第2接着領域24’」との「間」に位置していないと主張する。
しかし,「プリント用領域20b’」は,「第1接着領域16’」と「第2接着20
領域24’」とにより,その三辺が取り囲まれるように配置されているから,位置
的にみて「第1接着領域16’」と「第2接着領域24’」との「間」に位置して
いるということができる。また,被告製品のラベル10’をケーブルに接着すると
きには,「第1接着領域16’」,「プリント用領域20b’」,「第2接着領域
24’」の順に接着していくから,機能的にみても「プリント用領域20b’」は,25
「第1接着領域16’」と「第2接着領域24’」との間にあるということができ
る。
【被告の主張】
(ア)「第1接着領域」について
本件発明26の「第1接着領域」は,本件発明1の「第1接着領域」と同様に,
「透明フィルムがミシン目に沿って破れた後にケーブルで接着剤で接着されるまま5
となることが予定されている領域」と解すべきところ,被告製品の「第1接着領域
16’」は,最終的にケーブルから取り除かれてしまうため,「ケーブルで接着さ
れるままとなることが予定されている領域」に当たらず,本件発明26の「第1接
着領域」に相当しない。
(イ)「前記第1および第2接着領域の間に位置するプリント用領域」について10
a「間に位置する」の解釈
構成要件26Dの「プリント用領域」が「前記第1および第2接着領域の間に位
置する」とは,本件明細書等の段落【0020】,【0021】,【図3】,【図
4】などを参酌すると,「プリント用領域」が「巻き付け方向に沿って第1接着領
域と非接着領域と第2接着領域とが並んでいるときの第1接着領域と第2接着領域15
とに挟まれた部分」に位置することを要すると解すべきである。
原告は,「第1接着領域」と「第2接着領域」により,「プリント用領域」の三
辺が囲まれていれば,「第1接着領域」と「第2接着領域」との「間」に位置する
といえるかのように主張するが,三辺が取り囲まれていればなぜ「間」に位置する
といえるのか不明である。また,仮に,「プリント領域」が「間」に位置すること20
の意義を,単に「2つの領域に挟まれている」と解すれば足りると解するならば,
次図のようなケーブルマーカーラベルも本件発明1の技術的範囲に含まれることと
なるが,このようなラベルが原告の主張するところの本件発明1の作用効果を奏し
ないことは明らかである。このことからも,「プリント用領域」が「前記第1およ
び第2接着領域の間に位置する」とは,「プリント用領域」が「巻き付け方向に沿25
って第1接着領域と非接着領域と第2接着領域とが並んでいるときの第1接着領域
と第2接着領域とに挟まれた部分」に位置することを要するといえる。
b被告製品の構成
被告製品の「プリント用領域20b’」は,下図(別紙3被告製品説明書の図1)5
のとおり,「第1接着領域16’」と「第2接着領域24’」の「間」には位置し
ていない。
この点について,原告は,被告製品のラベル10’をケーブルに接着するときに
は,「第1接着領域16’」,「プリント用領域20b’」,「第2接着領域24’」10
の順に接着していくとして,機能的にみても「プリント用領域20b’」が「間」
に位置するといえると主張するが,被告製品のラベル10’をケーブルに接着する
際には,「第1接着領域16’」と「プリント用領域20b’」とは,同時にケー
ブルに巻き付けられるのであるから,原告の主張は誤りである。
(ウ)小括
以上の理由により,被告製品は構成要件26B,26C,26D及び26Fをい
ずれも充足しない。
イ争点3-2(被告製品は構成要件26Eを充足するか)について
【原告の主張】5
本件発明26の「ミシン目」は,本件発明1の「ミシン目」と同様に,点線状の
孔の有無にかかわらず,フィルムの分断・分離を容易にする弱化線をも含むものと
解すべきである。
被告製品のラベル10’は,透明フィルム14’内にその分断・分離を容易にす
る「切れ目22’」を備えており,「切れ目22’」は,透明フィルム14’の分10
断・分離を容易にする弱化線といえる。
したがって,被告製品は構成要件26Eを充足する。
【被告の主張】
本件発明1と同様に,本件発明26の「ミシン目」とは,「物の接するところに
点線状の孔によって生じるすじ」と解すべきところ,被告製品の「切れ目22’」15
は,その一端から他端までの全ての箇所において,あらかじめ「透明フィルム14’」
がその表面から裏面まで切り離されているから,本件発明26Eの「ミシン目」に
相当しない。
したがって,被告製品は構成要件26Eを充足しない。
ウ争点3-3(被告製品は構成要件26Gを充足するか)について20
【原告の主張】
(ア)構成要件26G充足性
構成要件26Gの「開口部」とは,一般的な意義からして「外に向かって開いた
穴」と解すべきである(甲11)。
下図(別紙3被告製品説明書の図1)において,被告製品のラベル10’には,25
接着剤が塗布されていないために基層28’に貼着されていない「開口部OP」が
形成されている。「開口部OP」は,「外に向かって開いた穴」ということができ
る。
そして,選択した透明フィルム14’の開口部OPを引くように持ち上げると,
開口部OPがこの力を受け,基層28’から透明フィルム14’を取り外すことが5
できる。
したがって,被告製品は構成要件26Gを充足する。
(イ)被告の主張に対し
被告は,被告製品の基層28’及び透明フィルム14’を折り曲げても基層28’
と透明フィルム14’との間が広がらないとして,「開口部」の存在を否定するが,10
そのことのみをもって直ちに「開口部」の存在を否定する理由とはならないという
べきである。
また,被告は,被告製品において透明フィルム14’を基層28’からはがす際
には,白丸角のある部分をつまんで持ち上げるように構成されているとも主張する
が,被告製品の使用者は,「開口部OP」部分をつまんで持ち上げることもできる15
のであるから,「開口部」の存在を否定する理由とはならないというべきである。
【被告の主張】
被告製品には「開口部」が設けられていない。このことは,被告製品の基層28’
及び透明フィルム14’を折り曲げても基層28’と透明フィルム14’との間が
広がらないこと(乙2の写真1参照)からも明らかである。
また,被告製品は,透明フィルム14’を基層28’からはがす際に,白丸角の
ある上部角(下図〔別紙3被告製品説明書の図2〕に係る部分)をつまんで持ち上
げるように構成されており,原告が主張するように「開口部OP」を持ち上げてラ
ベル10’をはがそうとすれば,「端部接続部分EP」に力がかかって破断するお5
それがある。よって,被告製品は,「選択した透明フィルムを引くように持ち上げ
る力を受け,前記基層から前記選択した透明フィルムを取り外せるよう構成されて
いる開口部」を有しない。
したがって,被告製品は構成要件26Gを充足しない。10
(4)争点4(被告製品は,本件発明26と均等なものとしてその技術的範囲に属
するか)について
【原告の主張】
仮に,構成要件26Eの「ミシン目」が「物の接するところに点線状の孔によっ
て生じるすじ」と解され,他方,被告製品の「切れ目22’」が,透明フィルム115
4’の表面から裏面までを全て切り離している点において,被告製品が構成要件2
6Eを文言上充足しないとしても,本件においては,以下のとおり均等侵害が成立
するというべきである。
ア均等の第1要件(非本質的部分)
本件各発明の従来技術に対する貢献の程度が大きいことは,争点2について主張20
したとおりである。
したがって,本件発明26の本質的部分を認定するに際して,特許請求の範囲の
一部を上位概念化することが許されるべきであるから,本件発明26の本質的部分
は,次のとおり認定することができる。
「透明フィルムを備える,ケーブルの識別をするためのセルフラミネート回転ケ5
ーブルマーカーラベルであって,第1接着領域,第2接着領域及び非接着領域を備
え,更にプリント用領域を備え,上記透明フィルム上に存在する分断部分から同フ
ィルムを分断・分離することにより,ラベル自体が回転することを可能とした点。」
そうすると,フィルムの分離・分断をするための分断部分が,点線状の孔を有す
るすじ(「ミシン目」)であるか否かという相違部分は,本件発明26の本質的部10
分に係るものではない。
イ均等の第2要件(置換可能性)
本件発明26は,上記アに主張した本質的部分を備えることにより,ケーブルマ
ーカーラベルについて,回転できるようにケーブルに付けられ,ケーブル接続の端
部を切断することなく瞬時に終端ケーブルに付けられ,1部品又は2部品の構成で15
あり,プリント用領域を覆うクリアな保護ラミネート領域を形成し,かつ安価に製
造できるという作用効果を奏するものである。
そして,本件発明26の構成のうち,「点線状の孔によって生じるすじ」である
ところの「ミシン目」との構成を,切り離された「切れ目22’」との構成又は「切
れ目22’」と「端部接続部分EP」からなる構成に置き換えたとしても,同置換20
え後の被告製品は,回転できるようにケーブルに付けられ,ケーブル接続の端部を
切断することなく瞬時に終端ケーブルに付けられ,1部品又は2部品の構成であり,
プリント用領域を覆うクリアな保護ラミネート領域を形成し,かつ安価に製造でき
るという,本件発明26の目的を達することができるから,本件発明26と同様の
作用効果を奏するものである。25
ウ均等の第3要件(置換容易性)
本件発明26の構成のうち,「ミシン目」との構成を,「切れ目22’」との構
成又は「切れ目22’」と「端部接続部分EP」からなる構成に置き換えることは,
当業者には本件特許権の侵害を回避する動機付けがあることからすれば,被告製品
の製造時点において容易であったというべきである。
エ均等の第4要件(容易推考性の不存在)及び第5要件(意識的除外等の不存5
在)
被告製品は,本件第1優先日の時点における公知技術と同一又はこれから上記時
点に容易に推考できたものではない。
また,本件特許の出願経過等に照らしても,被告製品が,本件発明26に係る特
許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。10
【被告の主張】
ア本件発明26と被告製品との相違部分について
本件発明26と被告製品とを対比すると,原告が仮定的に主張する相違部分のほ
かにも,本件発明26において「前記透明フィルム上のプリント用領域であって,
前記第1および第2接着領域の間に位置するプリント用領域」とされるのに対し,15
被告製品では「フィルム14’上のプリント用領域であって,第1接着領域16’
の間に位置するプリント用領域20’」である点においても両者は相違している。
イ第1,第2,第3要件を充足しないこと
また,争点2について述べたのと同様の理由により,均等の第1,第2及び第3
要件を充足しないというべきであるから,均等侵害は成立しない。20
(5)争点5(被告は,被告製品の輸入及び輸出をしているか)について
【原告の主張】
被告製品が被告を一員とする企業グループのグローバルサイトの製品ページに掲
載されていること,被告のウェブサイトに「統一規格の製品を世界9カ国で製造し
ており,どの市場でも互換性のある高品質製品の入手が可能です。」と記載されて25
いることからすれば,被告は,被告製品の輸入及び輸出しているものと推認される
(甲9)。
【被告の主張】
被告が被告製品を輸入及び輸出しているとの原告主張は,否認する。この点の立
証責任は原告にあるし,そもそも,何かをしていないことを立証することは不可能
である。5
(6)争点6(原告の損害及びその額)について
【原告の主張】
ア逸失利益の損害
被告による被告製品の販売は,本件特許権の侵害を構成し,原告は,これにより
損害(逸失利益)を被っているところ,その額は,少なくとも10万円である。10
イ弁護士費用・弁理士費用
被告による被告製品の譲渡等は,本件特許権の侵害を構成するところ,原告は,
その救済を求めるため,本件訴訟を弁護士及び弁理士に依頼した。上記侵害行為と
相当因果関係のある弁護士費用・弁理士費用としては,500万円が相当である。
【被告の主張】15
原告の主張は否認し,又は争う。
第3当裁判所の判断
1本件各発明について
(1)特許請求の範囲の記載
本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記前提事実(3)のとおりである。20
(2)本件明細書等の記載
本件明細書等には,次の記載がある。
ア技術分野
【0002】「本発明は,どの位置においても読み取れるようにケーブルの周囲
を回転するケーブル識別ラベル,より詳しくは,分断部分を有するセルフラミネー25
トケーブルマーカーラベルであって,取付け後にケーブル上でラベルを回転するこ
とができ,既に接続されているケーブルを外すことなく終端ケーブルに適用するこ
とができるセルフラミネートケーブルマーカーラベルに関する。」
イ背景技術
【0003】「制御,操作,および他のシステム間における電気的および機械的
接続を形成するために使われるケーブルは,ケーブルが移設,そのようなシステム5
への追加,変更,修理,および/または故障点検メンテナンスのために識別される
ように,適切にラベルが付けられることが重要である。」
【0004】「ケーブルにマークを付けるために使用される現在入手可能なラベ
ルは,粘着面および反対側の印刷可能な面を有し,印刷可能な面にはケーブルマー
カーのマークが付けられる。ラベルの粘着側はケーブルを被覆する外側絶縁層に貼10
着し,ラベルはケーブルの周囲を回転することはできない。」
【0005】「他の現在入手可能なケーブルマーカーラベルは,中空の円筒状ラ
ベルに円筒状ラベルの外面に刷り込まれたケーブル識別マークを有する。これらの
ラベルは,ケーブルに付けられた際に回転できるが,ケーブルのこれらの円筒状ラ
ベルの1つをケーブルに取り付けるためにケーブルの一端を切断するか,取り付け15
の前に円筒状ラベルをケーブルに付けなければならない。」
【0007】「現在入手可能な別のケーブルマーカーは,ラベルストリップの正
面に書き込み領域を有する回転式ラベルストリップを備え,書き込み領域の反対の
ラベルストリップの裏面は,部分的に粘着性を有している。ストリップの一端部は,
ケーブルに巻かれ,粘着面に貼着する。このストリップは,ケーブルのサイズに合20
わせることや,汚れまたは抹消からプリントされたマークを保護するための保護用
ラミネート領域を設けることはできない。」
ウ発明が解決しようとする課題
【0009】「従って,回転できるようにケーブルに付けられ,ケーブル接続の
端部を切断することなく終端ケーブルに付けられ,瞬時にケーブルに付けられ,125
部品または2部品の構成であり,プリント用領域を覆うクリアな保護ラミネート領
域を形成し,かつ安価に製造できるケーブルマーカーラベルが必要とされている。」
エ課題を解決するための手段
【0010】「分断部分を有するセルフラミネートケーブルマーカーラベルは,
取り付け後にケーブル上のラベルの回転を可能にするように形成される。これは,
ラベルをケーブル上において回転して,任意の位置から読み取ることを可能にする。5
一実施形態におけるラベルは,フィルムの一側の面の第1部分上に塗布された第1
接着剤領域を有する透明フィルム材料のストリップを備え,フィルムの第2部分は,
低摩擦係数を有し接着剤を含まない滑らかな裏面を有するプリント用またはプリン
ト済ラベル領域を備え,フィルムの第3クリアラミネート部分は,第1接着領域の
ようにフィルムの同面の第3部分上に塗布された第2接着領域を有する。分断ミシ10
ン目は,第1接着領域とプリント用ラベル領域との連結部またはその近傍でフィル
ムに適用される。透明フィルム材料は,ケーブルの外形に実質的に付加されないほ
ど薄い。」
【0011】「フィルムは,約450°に亘ってケーブルの周囲に巻き付けられ,
第1接着層はケーブルに係合し貼着するとともに,巻き付けが360°以上に延在15
するとフィルムの所定部分に係合し貼着する。ケーブルの周囲へのフィルムの巻き
付けは,フィルムのプリント用またはプリント済非接着性ラベル部分が,約450°
の長さに亘ってケーブルの周囲に巻き付けられるまで継続する。接線方向の力がラ
ベルの巻き付けられていない部分にかけられる間,ケーブルは回転しないように保
持される。フィルムの第2プリント済ラベル部分および第3接着部分が,ミシン目20
に沿ってフィルムの第1部分から破れ,第1フィルム部分はケーブルに接着剤で固
定されたままである。分離後,第3ラミネート部分は,ラベルの周囲にフィルムを
巻き続けることによって,ラベルの上面に接着剤で貼着される,すなわち,回転式
ラベル部分のプリント用領域に亘って保護層を形成する。プリント済ラベル部分お
よびクリアラミネート部分は,第1フィルム部分の外側非接着性表面の周囲を自由25
に回転する。プリント済ラベル部分の下に位置するフィルムの外向き面と,プリン
ト済ラベル部分の裏面とは,接着剤を含まないので,プリント済ラベル部分は,ケ
ーブルの周囲における360°の回転を実現できる。」
【0013】「本発明のいくつかの実施例は,添付図により図示される。この図
には,本発明を理解するのに縮尺が合っている必要はなく,詳細図も必要ないこと,
または,把握しづらい他の詳細部を省略して表すことを理解できるだろう。もちろ5
ん,本発明はここで示される特定の実施例に必ずしも限定されないことは理解でき
るだろう。」
オ図面の簡単な説明
【0014】「【図1】本発明の実施形態の回転式フィルム・ラベル複合ストリ
ップの実施形態の断面図であり,図示した実施形態のフィルムの異なる部分および10
ミシン目の箇所を示している。
【図2】図1に図示された本発明の実施形態のフィルム・ラベル複合ストリップ
の平面図であり,フィルムの第1接着剤感圧領域の箇所,第2プリント用またはプ
リント済ラベル部分,第3ラミネート部分,および,図示した実施形態の第1およ
び第2部分間のミシン目の箇所を示している。15
【図3】ケーブル周囲の図1および2に示される本発明の実施形態の透明フィル
ム・ラベル複合ストリップを巻き付けるステップを図示しており,ミシン目に沿っ
てフィルムを破り,フィルムのラミネート保護部分をラベルのプリント用領域を覆
うように適用し,ケーブルに付けられた時点でラベルを回転する。」
カ発明を実施するための形態20
【0015】「図1および図2を参照すると,本発明のセルフラミネート回転ケ
ーブルマーカーラベルの実施形態が図示されている。図1は,ケーブル12の周囲
に巻き付けられた複合フィルム・ラベルストリップ10を示す。一般的にケーブル
12は,ケーブルジャケット(図示せず)に覆われている。図1および図2を参照
すると,複合フィルム・ラベルストリップ10は,ビニール,ポリオレフィン,ポ25
リエステル,または他の好適な材料のような透明な柔軟性材料で作られる薄いフィ
ルム材料の細長いストリップ14を備える。フィルム材料14は,裏面18(図示
せず)に塗布された接着剤を有する第1部分または領域16を備える。ストリップ
14の第2部分は,プリント用またはプリント済ラベル領域20を備える。接着剤
は,プリントラベル領域20の裏面には塗布されず,領域20の反対側の,ストリ
ップ14の裏面は,低摩擦外向面を有する。一実施形態において,プリントラベル5
領域20は,ストリップ14の裏面18とは反対側のストリップ14の第2面上に
位置する。ミシン目22は,ストリップ14を通じるとともに,第1接着領域16
とプリントラベル領域20との連結部またはその近傍においてストリップ14を横
断するように延在する。また,ストリップ14は,第3部分24が,後述する目的
のためにクリア透明ラミネート領域を形成するように,裏面に塗布された透明接着10
剤領域26を有する第3透明ラミネート部分24を含む。」
【0016】「図2を参照すると,ストリップ14の前方端はAとして示され,
ミシン目22の概略位置はBとして示され,プリントラベル領域20の端はCとし
て示されている。図1において説明した本発明の実施形態に見られるように,スト15
リップ14がケーブル12の周囲に最初に巻き付けられるとき,AB間においてス
トリップ14に沿って延在する接着領域16は,ケーブル12に第1接着領域16
を貼着し,ケーブル12の周囲にストリップ14をさらに巻き付けるための固定部
を形成する。図示される実施形態では,ストリップ14の第1接着領域16は,第
1接着領域16がケーブル12の直径に比例する周囲長に亘ってケーブル12に貼
着されるように,ケーブル12の周囲を360°以上の長さ,例えば図2に示唆さ
れるように450°の長さで巻き付けられる。また,第1接着領域16は,図1に
図示される実施形態において90°以上に亘ってストリップ自体に貼着される。」
【0017】「図1に示される実施形態では,第1接着領域16が,ケーブル15
2の周囲に全体で450°巻き付けられる際に,ミシン目22は図1に示される位
置Bにあり,そのとき位置Bは,位置Aから約90°に位置する。しかしながら,
第1接着領域16は,ケーブル12の直径によって別の円周距離範囲を亘ってケー
ブル12の周囲に巻き付けられてもよい。上述の巻き付け角度パラメーターは,例
示に過ぎなく,他の巻き付け円周距離が,本発明の要旨を逸脱することなく使用さ10
れてもよい。」
【0018】「図1を参照すると,ストリップ10がケーブル12に付けられる
とき,プリントラベル領域20は,プリントラベル領域20が360°以上の長さ
に亘って第1接着領域16を覆うように,ラベルストリップ14の第1接着領域上
面に亘って延在する。図1に示される実施形態では,プリントラベル領域20は,15
位置Cに示されるように,ミシン目22の位置Bを越えて450°延在する。他の
角距離でも好適であり得る。プリントラベル領域20は接着剤裏面を有さないので,
後述するように,プリントラベル領域20は,ミシン目において破られると,スト
リップ14の第1接着領域16の非接着性上面の周囲における円周回転運動が可能
になる。ストリップ14の第3透明ラミネート部分24は,図1の示される実施形20
態において位置Dまでの180°以上の距離によってプリントラベル20に亘って
延在する。しかしながら,様々なケーブルの12の直径の結果により他の角距離範
囲が使用されてもよい。ラミネート部分24は,接着領域26によってプリントラ
ベル領域20の表面に貼着され,プリントラベル領域20を覆う保護用透明カバー
を形成し,取り付けられたラベルを読み取れる位置に手で回転する際に,プリント25
されたマークが汚れるのを防ぐ。」
【0019】「一実施形態において,本発明は,直列に基層28に取り外し可能
に貼着されるストリップ14を有するロールや他の好適な容で複数のストリップ1
4が利用者に提供されることを検討する(図14)。ストリップ14の両端部の接
着剤部分16,26は,図15に示されるように,ラベルがケーブル12に付けら
れる際に各ストリップ14が手で基層から取り外されるように,基層28にストリ5
ップを取り外し可能に貼着する。基層28上の各ストリップ14は,ミシン目22
を含む。一実施形態では,基層28は,ストリップ14のプリントラベル領域20
の下方の空間34とともに,2つ平行な部分30,32で形成される。」
【0020】「図3~図7は,ケーブル12に複合フィルム・ラベルストリップ10
10を取り付ける独創的な方法を示す。先ず,プリント用またはプリント済ラベル
領域20を有する1枚のストリップ材料14が,基層28の部分30,32から手
で取り外される(図15)。図3に示されるように,ストリップ14の第1接着領
域16は,接着裏面18が第1部分16をケーブル12に固定するように,ケーブ
ルに12にきつく巻き付けられる。図1における位置AB間に見られるように,第15
1接着領域16は,接着領域16の所定部分が接着領域16の既に巻き付けられた
部分の表面を覆い貼着するように,ケーブル12の周囲に360°以上巻き付けら
れる。」
【0021】「図4および図5を参照すると,巻き付け作業は,プリントラベル
領域20が,ストリップ14の第1領域16の非接着性表面に亘って巻き付けられ5
るように継続する。示される実施形態では,ラベル領域20は,ケーブル12の周
囲を約450°の長さに亘って巻き付けられ,図1および図4に見られるようにB
からCまで延在する。次に,ストリップ14のラミネート部分24の加圧接着領域
26は,実施形態では約90°の延長に亘ってラベル領域20の一部分に部分的に
接着剤で貼着される。図5に示されるように,巻き付けるステップは,プリントラ10
ベル領域20から外方に延在するストリップ14の第3ラミネート部分24の外側
断片25をともなって,この時点で中断される。次に,ケーブル12は,回転しな
いように保持され,ラベル領域20が把持され,ミシン目に沿ってプリントラベル
領域20から第1接着領域16を分離するのに十分なねじり力をかけながら,巻き
付け方向におけるケーブル12の接線方向に引っ張られる。ミシン目が破られた後,15
図6に示されるように,加圧接着ラミネート24の残りの断片25が,ラベル領域
20に亘って巻き付けられ貼着される。ミシン目22が破られると,プリントラベ
ル領域20は,図7に表現されるように,360°以上の長さに亘ってフィルム1
4の第1接着領域16の滑らかな表面と接触するプリントラベル領域20の滑らか
な裏面により,フィルム材14の第1接着領域16の滑らかな表面の周囲を両方向5
に自由に回転する。示される実施形態では,プリントラベル領域20の滑らかな裏
面は,プリントラベル領域20と領域16の非接着性表面との間に低い摩擦係数を
もたらすためにシリコンでコーティングされている。」
【0046】「本発明は,回転式セルフラミネートマーカーラベルをケーブルに
付ける実施形態として説明されてきた。このラベルは,任意の方向において読み取10
りを容易にするためにケーブルの周囲を回転することができる。ここで開示された
ラベル構造および応用方法は,識別ラベルを,流体管,軸方向に取り外し可能な制
御線,チューブ状の静的構造,または同類物などの他の装置に適用するために使用
可能であることを理解できるだろう。」
【0047】「本発明の上述の図示した実施形態は,本発明が適用され得る態様15
を網羅しているものではないことを記載するべきである。むしろ,開示した実施形
態は,すぐに理解できるように,本発明の例示的および事例的実施形態としてのも
のである。本発明の範囲は,本明細書によって限定されることなく,以下の請求項
の範囲によって定義されることを意図する。」
(3)本件各発明の概要20
特許請求の範囲の記載(前記(1))及び本件明細書等の記載(上記(2))によれば,
本件各発明の概要は,次のとおりと認められる。
ア本件各発明は,電気的,機械的接続を形成するケーブルに付して同ケーブル
を識別するためのマーカーラベルに関する。(【0002】,【0003】)
従来のケーブルマーカーラベルにおいては,ラベルがケーブルに貼着するために25
ケーブルの周囲を回転することができない,ケーブルを切断するかケーブル設置前
にラベルを付さなくてはならない,ケーブルのサイズに合わせることやプリント部
分を保護するためのラミネート領域を設けることができないなどの問題点があった。
(【0004】,【0005】,【0007】)
イ本件発明1は,ケーブルマーカーラベルについて,構成要件1Aないし1H
の構成,とりわけ,フィルムの一側の面に接着剤が塗布された透明な第1接着領域5
と,接着剤が塗布されていない滑らかな裏面を有するプリント用領域と,第1接着
領域に塗布されているのと同面に接着剤が塗布された透明な第2接着領域を有する
ストリップに,ミシン目が第1接着領域とプリント用領域との連結部又はその近傍
において同ストリップを横断するように延在しているとの構成を採用することによ
り,ケーブルにラベルを装着する際に,第1接着領域をケーブルに接着させてこれ10
をラベルを回転させて装着する起点とし,その後接着剤が塗布されていないプリン
ト用領域と接着剤が塗布されている第1接着領域とをミシン目で切り離すことを可
能とし,ケーブル接続の端部を切断することなく終端ケーブルに瞬時に,回転でき
るように付けられ,1部品又は2部品の構成であり,プリント用領域を覆うクリア
な保護ラミネート領域を形成し,かつ安価に提供できるケーブルマーカーラベルを15
実現するものである。(【0009】ないし【0011】,【0015】等)
本件発明26は,ケーブルマーカーラベルについて,構成要件26Aないし26
Hの構成,とりわけ,第1接着領域及び第2接着領域を有する透明フィルムと,透
明フィルム上のプリント用領域であって,前記第1接着領域と第2接着領域の間に
位置するプリント用領域と,透明フィルム内にこの分離線を形成するミシン目とを20
備える各ケーブルマーカーラベルが,基層上に一列に複数貼着されており,透明フ
ィルムと基層との間に,選択した透明フィルムを引くように持ち上げるために接着
されていない開口部を設ける構成を採用することにより,本件発明1と同様の作用
機序を可能とし,回転できるようにケーブルに付けられ,ケーブル接続の端部を切
断することなく終端ケーブルに付けられ,瞬時にケーブルに付けられ,1部品又は25
2部品の構成であり,プリント用領域を覆うクリアな保護ラミネート領域を形成し,
かつ安価に提供できる複数のケーブルマーカーラベルを実現するものである。(【0
009】ないし【0011】,【0014】,【0019】等)
2争点1(被告製品は,文言上本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1)争点1-3(被告製品は構成要件1Fを充足するか)について
ア「ミシン目」について5
(ア)構成要件1Fは,「ミシン目は前記透明フィルムを横断して延在し」と規定
するところ,「ミシン」は,通常,「点線状の孔」との意義を有し,「目」は,通
常,「物の接する所。また,そこに生ずる筋」との意義を有することからすれば(以
上につき,乙1〔広辞苑第四版〕),「ミシン目」とは,「点線状の孔により形成
される筋」を意味するものと解される。10
(イ)この点について,原告は,本件明細書等の記載からして,本件発明1におい
て「ミシン目」を設ける技術上の意義は,分離・分断を容易にすることにあるから,
「ミシン目」は,点線状の孔の有無にかかわらず,「フィルムの分断・分離を容易
にする弱化線」をも含むと主張する。
しかしながら,本件明細書の段落【0011】には,本件発明1に係るケーブル15
マーカーラベルの使用方法につき,次のとおり記載されている。
「フィルムは…ケーブルの周囲に巻き付けられ,第1接着層はケーブルに係合し
貼着するとともに,巻き付けが360°以上に延在するとフィルムの所定部分に係
合し貼着する。ケーブルの周囲へのフィルムの巻き付けは,フィルムのプリント用
またはプリント済非接着性ラベル部分が…ケーブルの周囲に巻き付けられるまで継20
続する。接線方向の力がラベルの巻き付けられていない部分にかけられる間,ケー
ブルは回転しないように保持される。フィルムの第2プリント済ラベル部分および
第3接着部分が,ミシン目に沿ってフィルムの第1部分から破れ,第1フィルム部
分はケーブルに接着剤で固定されたままである。分離後,第3ラミネート部分は,
ラベルの周囲にフィルムを巻き続けることによって,ラベルの上面に接着剤で貼着25
される…。」(判決注:下線を付した。)
上記記載によれば,本件発明1に係るケーブルマーカーラベルは,まず第1接着
領域がケーブルに貼着され,その後ラベルを巻き付けている間,ラベルを巻き付け
る方向への力がかかっても,ラベルは,その第1接着領域によってケーブルを保持
し,その後,プリント用領域(上記段落【0011】では「第2プリント済ラベル
部分」と称される部分)がケーブルに巻き付けられるまで,第1接着領域とプリン5
ト用領域及び第2接着領域(上記段落【0011】で「第3接着部分」又は「第3
ラミネート部分」と称される部分)とはミシン目によって分離されず,これが巻き
付けられた後に,ミシン目に沿って分離されるものとされている。
そうすると,本件発明1において「ミシン目」を採用する技術的意義は,ケーブ
ルへのラベルの巻き付けの初期段階においては,巻き付ける力がラベルにかかって10
も第1接着領域とプリント用領域及び第2接着領域とが分離しない程度にこれらの
部分を保持しつつ,その後プリント用領域がケーブルに巻き付けられた後に,巻き
付け方向に更に力を入れることによって,第1接着領域とプリント用領域及び第2
接着領域とがミシン目を境に分離することを可能にするものとして,「一定の保持
力」と「分断容易性」とを兼ね備えた分断線を形成することにあるものと解される。15
したがって,本件発明1の「ミシン目」は,単に「フィルムの分断・分離を容易
にする弱化線」であることをもって足りると解することはできないから,原告の上
記主張は採用することができない。
イ「横断して延在し」について
(ア)構成要件1Fは,ミシン目が透明フィルムを「横断して延在し,」と規定す20
る。ここで,「横断」とは一般に「横又は東西の方向によこぎること」を,「よこ
ぎる」とは一般に「横の方向に通り過ぎること」をそれぞれ意味し(乙1〔広辞苑
第四版〕),また,「延在」とは,一般に「延びて存在すること」を意味するから,
構成要件1Fの「ミシン目」は,透明フィルムの一方の端から他方の端へと横切っ
て延びることを要するものと解するのが自然である。もっとも,「ミシン目」が,25
透明フィルムの短手方向に「横断して延在」することを要するのか,その長手方向
に「横断して延在」することを要するのかは,特許請求の範囲の記載のみからでは
判然としない。
そこで,本件明細書等を参照すると,段落【0015】及び【図2】には,次の
記載がある。
「…一実施形態において,プリントラベル領域20は,ストリップ14の裏面15
8とは反対側のストリップ14の第2面上に位置する。ミシン目22は,ストリッ
プ14を通じるとともに,第1接着領域16とプリントラベル領域20との連結部
またはその近傍においてストリップ14を横断するように延在する。…」(判決注:
下線を付した。)
上記記載を斟酌すると,構成要件1Fにいう「ミシン目は前記透明フィルムを横
断して延在し」とは,「ミシン目」が,透明フィルムの短手方向左右にわたって一
方の端から他方の端へと横切って延びていることを要するものと解される。
(イ)この点について,原告は,特許請求の範囲の記載は,ミシン目が一直線に横
切ることを要するとはされていないとか,「ミシン目」の技術的意義からして,透15
明フィルムの外周縁のうちの一点から他点まで延在し,その線に沿って分離・分断
を可能とすれば「横断」しているといえる旨主張する。
そこで検討するに,「ミシン目」が一直線でなく,例えば曲線状のミシン目であ
っても,それが透明フィルムを「横断して延在している」といえる限りは,構成要
件1Fを充足すると解しても差支えないと解される。20
しかしながら,特許請求の範囲の記載によれば,ミシン目は「透明フィルムを横
断して延在し」なければならないところ,単に,一点から他点まで方向を問わずに
ミシン目が存在しているのみでは,「横断して延在」するというのに十分でないと
いうほかはない。また,一般に特許発明の技術的範囲は,明細書の発明の詳細な説
明に開示された実施例の構成に限定されるものではないが,本件明細書等には,上
記【図2】に示される実施例以外に,「ミシン目」が「透明フィルムを横断して延5
在」することにより,本件発明1の課題を解決できる場合を何ら開示していないの
であるから,特許請求の範囲及び本件明細書等に接した当業者が,本件発明1の課
題を解決できる構成として認識する「ミシン目は前記透明フィルムを横断して延在
し」との構成は,上記のとおり,ミシン目が透明フィルムの短手方向左右にわたっ
て一方の端から他方の端へと横切って延びていることを指すものと解するほかはな10
い。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ被告製品の構成
(ア)別紙3被告製品説明書のとおり,被告製品には,下図(別紙3被告製品説明
書の図1)の赤い点線部分に「切れ目22’」が存在している。15
「切れ目22’」は,次の写真(別紙3被告製品説明書の写真3)のとおり,基
層28’からラベル10’をはがしてピンセットでつまんだのみであっても,フィ
ルムが分断されてしまうのであるから,被告製品の製造過程において,いったん完
全に切断され,塗布された接着剤によってかろうじてフィルムをつなげる筋を形成
しているものと認められる。
以上のような「切れ目22’」は,「点線状の孔により形成される筋」といえな
いことは明らかであるし,接着剤によってかろうじてフィルムをつなげる筋では,5
「一定の保持力」と「分断容易性」を兼ね備えるものということもできないから,
本件発明1にいう「ミシン目」に当たらない。
(イ)原告は,被告製品における「切れ目22’」が本件発明1の「ミシン目」に
当たらないとしても,被告製品における「切れ目22’」と「端部接続部分EP」
とから形成される部分(下図〔別紙3被告製品説明書の図2〕参照)は,本件発明10
1の「ミシン目」に相当すると主張する。
しかしながら,大きくコの字状に切断された「切れ目22’」と,極めて短い「端
部接続部分EP」とを併せた部分をもって,「点線状の孔により形成される筋」と
いうことには無理があるというほかない。
また,仮に「切れ目22’」と「端部接続部分EP」とを併せた部分をもって「ミ5
シン目」に当たり得るとしても,同部分は,透明フィルム14’の短手方向左右に
わたって一方の端から他方の端へと横切って延びているものではないので,「横断
して延在し」ているということもできない。
エしたがって,被告製品は,構成要件1Fを充足しない。
(2)争点1-4(被告製品は構成要件1Gを充足するか)について10
構成要件1Gは,「前記ミシン目により前記透明フィルムの分断線が形成され」
と規定するところ,「分断線」とは,その一般的な語義(甲11〔広辞苑第六版〕)
からして,「まとまりあるものを断ちきって別れ別れにするすじ」と解される。
被告製品をケーブルに設置した後に,「第1接着領域16’」を取り外すと,「端
部接続部分EP」が引きちぎられて,透明フィルム14’が分断されることとなる15
から,被告製品における「切れ目22’」及び「端部接続部分EP」からなる部分
は,透明フィルム14’を分断する筋とはいい得るものの,上記(1)のとおり,同部
分は本件発明1の「ミシン目」には当たらない。
したがって,被告製品は,構成要件1Gを充足しない。
(3)争点1の小括20
以上によれば,被告製品は,少なくとも,本件発明1の構成要件1F及び1Gを
充足しないから,構成要件1A(争点1-1)及び構成要件1B(争点1-2)に
ついて検討するまでもなく,文言上,本件発明1の技術的範囲に含まれるものでは
ない。
3争点2(被告製品は,本件発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属す5
るか)について
(1)均等の5要件について
特許請求の範囲に記載された構成に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法
(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,①同部分
が特許発明の本質的部分ではなく,②同部分を対象製品等におけるものと置き換え10
ても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,
③上記のように置き換えることに,当該発明の属する分野における通常の知識を有
する者(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製造等の時点において容易に
想到することができたものであり,④対象製品等が,特許発明の特許出願時におけ
る公知技術と同一又は当業者が当該出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,15
⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外
されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,同対象製品等は,特許請求の
範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと
解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第
三小法廷判決・民集52巻1号113頁〔以下「ボールスプライン事件最判」とい20
う。〕,最高裁平成28年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決
・裁判所時報1672号3頁参照。以下,上記①ないし⑤の要件を「第1要件」な
いし「第5要件」という。なお,本件特許は,優先権主張を伴うものであることか
ら,本件では,上記④の要件における「特許出願時」は,本件第1優先日の時点と
読み替えることになる。)。25
(2)本件発明1と被告製品との相違部分
前記2(1)において詳述したとおり,本件発明1では,「ミシン目は前記透明フィ
ルムを横断して延在し」ている(その意義が「透明フィルムの短手方向左右にわた
って一方の端から他方の端へと横切って延びていること」であることは,前記2(1)
イにて認定説示したとおりである。)ところ,被告製品は,少なくとも,その「切
れ目22’」がいったん完全に切断され,塗布された接着剤によってかろうじてフ5
ィルムをつなげる筋を形成している点,及び「切れ目22’」と「端部接続部分E
P」とを併せても,同部分が透明フィルム14’内をコの字状に形成されている点
において,本件発明1と相違する。
(3)均等の第3要件(置換容易性)について
ア均等の第3要件の意義について10
対象製品等が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の
技術的範囲に含まれるというためには,特許請求の範囲に記載された構成を対象製
品等の構成に置き換えることに,当業者が対象製品等の製造等の時点において容易
に想到することができたことを要する(第3要件)。
均等の成立に第3要件を要するとする趣旨は,特許法の目的,社会正義,衡平の15
理念の観点からして,特許発明の実質的価値は,第三者が特許請求の範囲に記載さ
れた構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することができる技術に
及び,第三者はこれを予期すべきものと解されることにある(ボールスプライン事
件最判参照)。
そうすると,第3要件にいう「当業者」が「対象製品等の製造等の時点において20
容易に想到することができた」とは,特許法29条2項所定の,公知の発明に基づ
いて「容易に発明をすることができた」という場合や第4要件の「当業者」が「容
易に推考できた」という場合とは異なり,当業者であれば誰もが,特許請求の範囲
に明記されているのと同じように,すなわち,実質的に同一なものと認識できる程
度に容易であることを要するものと解すべきである(東京地裁平成3年(ワ)第125
0687号同10年10月7日判決・判時1657号122頁参照)。
これに対し,原告は,第3要件における「容易に想到することができた」という
点について,「容易」「想到」という語が使用されている以上,特許法29条2項
と同様の基準により判断されるべき旨主張する。しかしながら,発明の独占が認め
られるための特許要件たる進歩性の判断基準と,特許請求の範囲に開示された発明
の技術的範囲を画する均等の判断基準とを同一にすべき実質的根拠はないというべ5
きである。上記のとおり,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同
一なものとして容易に想到できる技術であれば,第三者であっても特許発明の実質
的価値が及ぶことを予期すべきといえ,特許請求の範囲が有する公示の要請にもと
ることはないといい得るが,特許請求の範囲に記載された構成から,特許法29条
2項所定の「容易に発明をすることができた」構成にまで特許発明の実質的価値が10
及ぶとなれば,第三者は,特許発明の技術的範囲を容易には理解することができず,
特許請求の範囲が有する公示の要請にもとる事態が生じかねないというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ被告製品について
前記(2)のとおり,本件発明1では,「ミシン目は前記透明フィルムを横断して延15
在し」ている(その意義が「透明フィルムの短手方向左右にわたって一方の端から
他方の端へとよこぎって延びていること」であることは,前記2(1)イにて認定説示
したとおりである。)ところ,被告製品は,少なくとも,その「切れ目22’」が
いったん完全に切断され,塗布された接着剤によってかろうじてフィルムをつなげ
る筋を形成している点,及び「切れ目22’」と「端部接続部分EP」とを併せて20
も,同部分が透明フィルム14’内をコの字状に形成されている点において,本件
発明1と相違している。
ここで,本件発明1は,「一定の保持力」と「分断容易性」とを兼ね備えた「ミ
シン目」が,「透明フィルムを横断して延在」することにより,ラベルを巻き付け
る際に第1接着領域を起点としつつ,ラベルを巻き付けた後に第1接着領域とプリ25
ント用領域とを切り離して,回転可能なケーブルマーカーラベルを実現しているも
のであるところ,「ミシン目」が有する技術的意義に鑑みれば,これをいったん完
全に切り離した「切れ目22’」に単に置き換えるのみでは,「ミシン目」が有し
ていた「一定の保持力」が実現しないことが明らかである。そこで,被告製品は,
「ミシン目」を「切れ目22’」に置き換えるのみならず,これを透明フィルム1
4’内でコの字状に屈折させ,かつ,その各端部にそれぞれ「端部接続部分EP」5
を設け,「端部接続部分EP」及び「切れ目22’」よりもラベル短手方向外側に
「第1接着領域16’」を位置させることにより(下図〔別紙3被告製品説明書の
図1及び同2〕),ようやく「第1接着領域16’」をラベルを巻き付ける際の起
点としつつ,ラベルを巻き付けた後に「第1接着領域16’」と「プリント用領域
20b’」とを切り離し,回転可能なケーブルマーカーラベルを実現するに至るも10
のである。
かかる被告製品の構成については,たとえ物品に添付するラベルの技術分野にお
いて,ラベルにコの字状を含む非直線状の分断線を形成し,この分断線に沿って当
該ラベルを複数の部分に分断することが周知技術であったとしても(甲21ないし15
30),当業者であれば誰もが,本件発明1に係る特許請求の範囲に明記されてい
るのと同じように認識できる程度に容易であるとはいい難いというほかはない(な
お,被告特許発明に関しては,本件特許の公表特許公報記載の発明を先行技術とす
る審査がされた上で,特許がされているところ,被告製品が同発明の実施品である
ことは,当事者間に争いがない。)。
なお,原告は,被告製品における「第1接着領域16’」をラベルの両角部の2
点固定とする構成について,本件発明1の技術的範囲に含まれるものであるから,
かかる構成とする動機付けは不要であると主張するが,ここで問題となるのは,本
件発明1に係る特許請求の範囲の記載から,被告製品の本件発明1との相違部分に5
係る具体的構成が容易に想起できるかという点にあるのであって,その具体的構成
には,「第1接着領域」を,ラベル内のどの部分に設けるかという点も当然に問題
となるのであるから,被告製品が,本件発明1の「第1接着領域」に当たり得る部
分を備えていることと,分断線をコの字状に形成することが周知技術であることの
みをもっては,被告製品の構成が,本件発明1に係る特許請求の範囲に明記されて10
いるのと同じように認識できるとはいい難いというべきである。
したがって,被告製品が,均等の第3要件を充足するものとは認められない。
(4)争点2の小括
以上によれば,被告製品は,少なくとも均等の第3要件を充足しないから,本件
発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属するものとは認められない。15
4争点3(被告製品は,文言上本件発明26の技術的範囲に属するか)につい

(1)争点3-1(被告製品は構成要件26B,26C,26D及び26Fを充足
するか)について
ア「前記第1および第2接着領域との間に位置するプリント用領域」について20
構成要件26Dは,「前記第1および第2接着領域との間に位置するプリント用
領域」と規定するところ,「間」とは,一般に「二つのものに挟まれた部分」を意
味することから(広辞苑第六版),本件発明26の「プリント用領域」は,「第1
接着領域」と「第2接着領域」に挟まれていることを要するというべきである。
しかるところ,被告製品における「プリント用領域20b’」(下図〔別紙3被25
告製品説明書の図1〕の符号20b’)は,各「第1接着領域16’」(同符号1
6’)に挟まれているとはいえても,「第1接着領域16’」と「第2接着領域2
4’」とに挟まれているということは困難である。
原告は,被告製品のラベル10’をケーブルに接着するときには,「第1接着領
域16’」,「プリント用領域20b’」,「第2接着領域24’」の順に接着し5
ていくから,機能的にみて「プリント用領域20b’」が「第1接着領域16’」
と「第2接着領域24’」との間にあると主張するが,証拠(甲3)によれば,被
告製品の使用方法は下図のとおりであって,「第1接着領域16’」と「プリント
用領域20b’」とは,ほぼ同時にケーブルに接することになるから,「『第1接
着領域16’』,『プリント用領域20b’』,『第2接着領域24’』の順に接10
着していく」と断ずることができるか判然としないし,この点を措くとしても,位
置として「間に位置する」といえないものを,その使用方法により「間に位置する」
と認めることは困難というほかないから,原告の主張を採用することはできない。
イ以上によれば,被告製品は,少なくとも,構成要件26Dを充足しない。
(2)争点3-2(被告製品は構成要件26Eを充足するか)について
構成要件26Eの「ミシン目」は,本件発明1について前記2(1)で認定説示した
ところと同様に,「点線状の孔により形成される筋」を意味するものと解されると
ころ,被告製品における「切れ目22’」や,「切れ目22’」及び「端部接続部5
分EP」からなる部分のいずれもこれに当たらないことも,既に認定説示したとこ
ろと同様である。
したがって,被告製品は,構成要件26Eを充足しない。
(3)争点3の小括
以上によれば,被告製品は,少なくとも,本件発明26の構成要件26D及び210
6Eを充足しないから,構成要件26B及び26C(争点2-1で判断しなかった
ところ)並びに構成要件26G(争点2-3)について検討するまでもなく,文言
上,本件発明26の技術的範囲に含まれるものではない。
5争点4(被告製品は,本件発明26と均等なものとしてその技術的範囲に属
するか)について15
上記4のとおり,本件発明26が「前記第1および第2接着領域との間に位置す
るプリント用領域」(構成要件26D)及び「ミシン目」(構成要件26E)を備
えているのに対し,被告製品は,少なくとも,「プリント用領域20b’」が「第
1接着領域16’」と「第2接着領域24’」との間に位置するとはいえない点,
及び被告製品の「切れ目22’」又は「切れ目22’」と「端部接続部分EP」か20
らなる部分は「ミシン目」には当たらない点において,本件発明26と相違する。
しかるところ,原告は,前者の相違部分,すなわち,被告製品の「プリント用領
域20b’」が「第1接着領域16’」と「第2接着領域24’」との間に位置す
るとはいえないとの相違部分について,同部分が均等の要件を充足する旨の主張を
しない。25
また,この点を措くとしても,前記3において認定説示したところと同様の理由
により,後者の相違部分に係る被告製品の構成が,本件発明26に係る特許請求の
範囲に明記されているのと同じように認識できるとはいい難く,少なくとも均等の
第3要件を充足しない。
したがって,被告製品は,本件発明26と均等なものとして,その技術的範囲に
属するものとは認められない。5
6結論
以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく,原告の本件請求はい
ずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部10
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
天野研司
裁判官笹本哲朗は,転勤につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官
嶋末和秀25
(別紙1)
物件目録
製品名TABTAGラベル360°ラベル
(セルフラミネートタイプ)5
製品番号TAGN71T-4010
以上
(別紙3)
被告製品説明書
1被告製品を撮影し,また,模式図とした結果は,後記写真1ないし同3並びに
図1及び同2のとおりである。5
2被告製品の構成を本件発明1の構成要件に則して説明すると,次のとおりであ
る。
1a:ラベル10’は,ケーブルを識別するためのセルフラミネート回転ケー
ブルマーカーラベルである。ラベル10’は,第1接着領域16’を有10
する透明フィルム14’を備える。
1b:透明フィルム14’は,第1接着領域16’の少なくとも一部と隣接す
る非接着領域20a’,20b’を有する。
1c:透明フィルム14’は,非接着領域20a’,20b’に隣接する第2
接着領域24’を有する。15
1d:透明フィルム14’の第2接着領域24’は,透明フィルム14’がケ
ーブルの周囲に巻き付けられる際に,非接着領域20a’の上に少なく
とも部分的に位置する。
1e:透明フィルム14’は,その一方の面上にプリント用領域20b’を有
する。20
1f:透明フィルム14’上には,図1の赤い点線部分に示す形状の切れ目2
2’が存在している。
1g:透明フィルム14’は,切れ目22’に沿って切断される。
1h:セルフラミネート回転ケーブルマーカーラベルである。
3被告製品の構成を本件発明26の構成要件に則して説明すると,次のとおりで
ある。
26a:セルフラミネート回転ケーブルマーカーラベルであるラベル10’が,
基層28’に一列に貼着されている。
26b:ラベル10’は,第1接着領域16’及び第2接着領域24’を有する
透明フィルム14’を備える。5
26c:ラベル10’は,滑らかな非接着領域20a’,20b’を備える。
26d:ラベル10’の透明フィルム14’は,その上にプリント用領域20b’
を備える。第1接着領域16’,第2接着領域24’及びプリント用領
域20b’の位置関係は,図1のとおりである。
26e:ラベル10’の透明フィルム14’内には,図1の赤い点線部分に示す10
形状の切れ目22’が形成されている。
26f:透明フィルム14’の第1接着領域16’及び第2接着領域24’は,
基層28’に取り外し可能に貼着されている。
26g:開口部OPにおいて,透明フィルム14’は,基層28’に貼着されて
いない。15
26h:複数のセルフラミネート回転ケーブルマーカーラベルである。
写真1(被告製品を剥離紙から剥がし,ピンセットで黒い背景にかざした状態)
10’ラベル
20a’非接着領域
20b’非接着領域
16’第1接着領域
16’第1接着領域
24’第2接着領域
22’切れ目
14’フィルム
OP開口部
EP端部接続部分
EP端部接続部分
写真2(被告製品が剥離紙に接着している状態)
10’ラベル
20b’非接着領域
(プリント用領域)
16’第1接着領域
20a’非接着領域
16’第1接着領域
22’切れ目
24’第2接着領域
28’基層
OP開口部
EP端部接続部分
写真3(被告製品の第1接着領域16’をつまみ,黒い背景にかざした状態)
22’切れ目
24’第2接着領域
20a’非接着領域
20b’非接着領域
(プリント用領域)
22’切れ目
22’切れ目
OP開口部EP端部接続部分
EP端
部接続
部分
図1
符号「16’」及び「24’」に示される斜線領域には,基層(28’)側に接
着剤が塗布されている。
図2(被告製品の白丸印部分を拡大した図)

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