弁護士法人ITJ法律事務所

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平成13年(ネ)第1569号 損害賠償請求控訴事件(平成14年4月11日口
頭弁論終結。原審・東京地方裁判所平成9年(ワ)第3190号甲、第9068
号)
     判    決
 控訴人(原告)    アルプス・カワムラ株式会社(文中では「原告」と表
記)
 訴訟代理人弁護士   近藤博、近藤誠、小又紀久雄
 補佐人弁理士     伊藤捷雄
 被控訴人(被告)   ヒューゴ・ボス株式会社(文中では「被告ヒューゴ」と
表記)
 被控訴人(被告)   フーゴ・ボス・アクチエンゲゼルシャフト(文中では
「被告独フーゴ」と表記)
 被控訴人ら訴訟代理人弁護士 畠澤保、安永雅俊、市川達也
     主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
「原判決を取り消す。
 被告らは、連帯して、原告に対し、1億1556万8903円及びこれに対する
被告ヒューゴについては平成9年5月22日(訴状送達の日の翌日)から、被告独
フーゴについては平成9年11月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。」
 との判決並びに仮執行宣言。
第2 事案の概要
 事案の概要、争点及び争点についての当事者の主張は、原判決事実及び理由欄の
「第二 事案の概要等」に記載のとおりである。当審における争点も、原判決にお
けるものと同一である。
 前提となる事実認定も、原判決事実及び理由欄の「第三 当裁判所の判断」の
「一 当裁判所の認定した事実関係」に説示されているとおりである。
第3 当裁判所の判断
 1 株式会社西友に対してした被告ヒューゴの販売中止請求行為の不正競争行為
該当性
 (1) 平成7年7月ころ、原告は、原告が通常使用権を有する本件登録商標「
」を付したネクタイについての商談を株式会社西友との間でまと
め、イ号標章「」(正確には原判決別紙第一目録の(2))を使
用した下げ札、織ネームを付したネクタイを2561本製造し、同年8月から同年
9月までに、合計766本を(株)西友に納品し、同社はその店舗でこれらのネク
タイを販売した。
 被告ヒューゴは、同年9月13日ころ、(株)西友が販売するこれらのネクタイ
に付された標章は、被告登録商標「BOSS」(被告独フーゴが商標権者、被告ヒ
ューゴが専用使用権者)の商標権及び専用使用権を侵害する旨の警告文書を原告及
び(株)西友に対して送付した。このため、原告は、(株)西友から右商品の取引
停止の通知を受け、納品済みのネクタイ766本のうち、未売却分486本の返品
を受けた。
  本件登録商標(省略)    被告登録商標(省略)
 (2) 原判決摘示のこれら事実関係において、原告が本件登録商標「
」の通常使用権者として製造・納品したネクタイの販売が被告登
録商標「BOSS」の商標権を侵害するとして、(株)西友に対し販売の中止を求
めた被告ヒューゴの行為が、不正競争防止法2条1項14号(平成13年法律第8
1号による改正前においては、原判決が示す13号に相当)所定の不正競争行為に
該当するかどうかが、本訴の第1の争点である。
 (3) 当裁判所も、原判決がした判断(事実及び理由欄の「第三 当裁判所の判
断」の「二 争点についての当裁判所」の1の項)に説示されているとおりの理由
及び次に示す理由により、原告主張の上記不正競争行為性は認められないと判断す
る。
 ここにおける争点で争われているのは、被告登録商標「BOSS」の禁止権の効
力の範囲と、本件登録商標「」の使用権の効力の範囲であり、い
ずれも原告が使用したイ号標章「」との関係で問題となってい
る。そこで、原判決の上記判断に補足して以下判断を加える。
 まず、被告登録商標「BOSS」の禁止権の範囲についてみてみるに、そこから
普遍的に生じる称呼が「ぼす」であり、そこからは通常「社長」「親分」などの観
念を生じるので、イ号標章「」から普遍的に生じる称呼「ぼす
くらぶ」が、「親分たちの集まり」「社長たちの集会場」などの観念を生じること
も否定することはできない。しかし、イ号標章「」がカタカナ
ではなくアルファベットで綴られていること、「CLUB」の文字列は「BOS
S」の文字列から半文字分ほど離して綴られていることからして、日本で流通する
商品に付される標章、特に本件登録商標や被告登録商標の指定商品である被服等に
付される標章の場面でみれば、「BOSS」なる表記において、「社長」「親分」
などの観念を想起させることもあるが、他方において、「ボス」なる表記による場
合とは異なり、外観に着目して簡明で斬新な銘柄との観念を強く想起させるもので
あって、それが、被服等の商品分野の取引者に与える印象は強いものがあると認め
るのが自然である。そして、イ号標章「」の「BOSS」の文
字列から離して綴られている「CLUB」の文字列を含む商標出願ないし登録は、
900件を上回る量に上ること(口頭弁論終結後に提出の甲121の1=特許庁電
子図書館検索結果)からすると、「CLUB」の文字列に別の文字列が並記されて
いれば、「CLUB」の文字列は、別の文字列に吸収されてしまう印象を生じるの
が通例であると認められる。
 甲121の1の検索結果の中には「CLUB」の文字列だけで登録されている商
標も一部存し(ただし、その検索結果を更にみてみると、「CLUB」の文字列だ
けの商標でないものも相当数あることは、当裁判所の特許庁電子図書館への検索結
果によって明らかである。)、その場合には「CLUB」だけから何らかの観念が
想起されることになるが、そのような商標の類似の範囲、使用権の範囲については
別途検討されるべきであり、そのことは本件の判断に影響を及ぼすものではない。
 そうすると、イ号標章「」の要部は「BOSS」の文字部分
にあり、この部分は被告登録商標「BOSS」と、外観、称呼、観念において共通
するものであるから、イ号標章「」は被告登録商標と類似する
ものというべきである。
 一方、本件登録商標「」は、「BOSSCLUB」の文字列を
一体にワンワードにして(「BOSS」の文字列と「CLUB」の文字列の間にス
ペースを入れず)、しかも強調されたゴシック体で表されたものであって、外観か
らアルファベットを一連にして並べたものの印象を受ける。そこからは「ぼすくら
ぶ」と一連に称呼されるものと認められ、本件登録商標「」から
は、観念としてさして意味のあるものが想起されるものではない(「ボス」の「ク
ラブ」といっても特定の意味付けは機能せず、一般の取引者にとって、そこから何
らかの具体的な意味を持つ一義的な観念が取引の実際において想起されるものと認
めることはできない。)。このような外観、称呼、観念に係る本件登録商標「
」に係る本件商標権は、上記認定のように、要部において「BO
SS」の外観(モダーンローマン体のアルファベット)を含んで「ぼす」の称呼を
生じさせ、「社長」「親分」の観念のほか簡明で斬新な銘柄との観念も生じさせる
イ号標章「」を、その使用権の範囲に含むものではないといわ
ざるを得ない。
 (4) 控訴人は、甲第65号証の1~300のアンケート結果に基づき、被告登録
商標「BOSS」の知名度は10.9%にすぎないと主張する。このアンケート結
果は、控訴人も主張するように無作為の抽出による対象者に対してされたものであ
るが、被服など本件登録商標や被告登録商標の指定商品の分野に明るい者からみて
商標により商品の出所混同を生じるか否かも、商標の類否判断においては重要であ
るから、控訴人主張の10.9%の知名度の事実の下においてでさえ、イ号標章「
」が使用され、被告ヒューゴが原告及び株式会社西友に警告文
書を送付した平成7年のころにおいても、被告登録商標「BOSS」の知名度は相
当程度存していたものと推認される。控訴人は、サントリーの「BOSS」商標を
使用した著名商品が存在することから、被告登録商標「BOSS」はダイリュージ
ョンを引き起こしているとも主張する。しかし、サントリーの「BOSS」商標
は、パイプをくわえた苦み走った男のイメージの図形と共に表された缶コーヒーの
商標として著名になっていることは当裁判所にも顕著な事実である。反面におい
て、被告登録商標の指定商品の分野において、サントリーの「BOSS」商標を付
した商品が著名になっていることを認めることはできない(サントリ―株式会社が
商標権者である登録2656927号商標(口頭弁論終結後提出の甲124)は
「BOSS」と「ボス」の文字を並記してなるものであるが、この商標のみを付し
たサントリーの商品が、被服等の本件登録商標や被告登録商標の指定商品の分野で
著名となっている事実を認めるべき証拠はない。)。
 その他、イ号標章「」が被告登録商標「BOSS」の禁止権
の範囲に属さず、本件登録商標「」の使用権の範囲内にあるとし
て、控訴人が当審において種々主張するところをもってしても、上記(3)における判
断が左右されるものではない。
 2 被告独フーゴが本件商標権及び本件専用使用権を譲り受けたことに関する不
法行為性
 (1) 原告は、本件登録商標「」の専用使用権者・株式会社ケ
ンアンドロンから通常使用権の許諾を受け(平成7年3月7日締結の本件使用許諾
契約。本件通常使用権)、この許諾に従って衣料品に標章を付して販売していた。
Bは、本件登録商標「」の商標権者であったが、平成8年3月5
日(移転登録日同年6月10日)、株式会社ケンアンドロン代表者のAに本件商標
権を譲渡した。Aは更に、同年6月10日、本件商標権を被告独フーゴに譲渡した
(移転登録日同年9月24日)。(株)ケンアンドロンは、平成6年5月27日に
設定を受けていた本件登録商標の専用使用権(本件専用使用権)を平成8年5月2
8日をもって被告独フーゴに譲渡した(移転登録日同年7月22日)。これによ
り、本件商標権及び本件専用使用権はいずれも被告独フーゴに帰属することになっ
て、本件専用使用権は混同により消滅し、本件商標権に関する原告の通常使用権も
消滅した。
 原判決の上記摘示事実を前提にした上で、被告独フーゴがAから本件商標権、
(株)ケンアンドロンから本件専用使用権の譲渡を受けたことに関する被告らの行
為が、(株)ケンアンドロンの原告に対する債務不履行に加担して契約を履行不能
にさせ、原告の本件通常使用権の利用を不可能としたものとして、原告に対する不
法行為に該当するか否かが、本訴の第2の争点である
 (2) 当裁判所も、登録されていない通常使用権は、対人的な債権的請求権とし
て、商標権者又は専用使用権者の属人的な契約遵守義務に基礎を置いているもので
あって、(株)ケンアンドロンが本件登録商標「」の本件専用使
用権を被告独フーゴに譲渡したことにより、本件使用許諾契約における(株)ケン
アンドロンの義務が履行不能となり、原告が本件通常使用権に基づきボスクラブ標
章を使用することができなくなったとしても、原告としては、(株)ケンアンドロ
ンに対して債務不履行責任を追求することができるのは別として(現に、原告は
(株)ケンアンドロン及びその代表者Aの責任を追求して損害賠償請求訴訟を提起
し、原判決後の平成13年3月15日、原告が(株)ケンアンドロン及びAから金
銭支払を受けることを骨子とする和解が大阪高等裁判所において成立している(甲
109)。)、被告らに対して不法行為責任を問うことは原則としてできないと判
断するものである。その理由は、原判決事実及び理由欄の「第三 当裁判所の判
断」の「二 争点についての当裁判所」の2の項に説示されているとおりであっ
て、被告らの行為が原告に対する関係で債権侵害としての不法行為を構成するもの
とすべき例外的な事情を認めることはできない本件においては、原告主張の上記不
法行為性は認められないものと判断する。原告が当審において原判決の判断の誤り
を種々主張するところをもってしても、この判断は左右されない。
第4 結論
 以上のとおりであって、本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理
由がない。
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官  永   井   紀   昭
        裁判官  塩   月   秀   平
裁判官 古   城   春   実

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