弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人等の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却す
る。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理
人は主文同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は
 被控訴人において本件土地の賃貸借契約において賃借人が地上建物を賃貸人に無
断で他に譲渡した場合には何等の催告を要せず契約を解除することができる特約が
あつた。本件賃貸借終了の日は昭和二十五年十一月十四日であり、その終了までは
賃料を終了後は賃料に相当する損害金の支払を求める。被控訴人が本件土地の明渡
を請求する根拠は控訴会社に対しては賃貸借契約解除に因る賃貸借の終了を理由と
し、控訴人Aに対しては所有権に基くものであると述べ、控訴人等の抗弁に対し
(一)控訴人主張の本件地上の建物の売渡担保の点は否認する。仮に売渡担保であ
るとするも内部関係外部関係とも所有権は移転しているものである。(二)控訴人
Aの買取請求権行使について、本件車庫は建築以来二十数年を経過し堀立様式の粗
末なもので腐朽甚だしく無価値のものであるから何人にも買取請求権の発生する余
地はない。仮りに買取請求権が発生する余地ある物件であるとしても建物買取請求
権はその目的物件に附随する性質を有するものでないから、目的物の移転と共に当
然移転しない。従つて本件地上物件について控訴人Aは買取請求権を有しないと述

 控訴人において本件土地を控訴会社が被控訴人から昭和二十一年五月十一日附で
期間を昭和二十年十一月十日から向う十ケ年の約定で賃借する旨の契約をしたこ
と、右契約約款中に控訴会社から本件地上の家屋を売却する際には被控訴人の承諾
を受けるものとする趣旨の約定のあつたこと及び本件車庫が昭和二十五年十二月十
八日以降公簿上控訴人Aの所有名義となつていることは何れもこれを認めるが
(一)当初約定の賃料が一坪につき一ケ月金五円であつたこと及び(二)控訴会社
が地上建物を無断で他に譲渡したときは催告を要せず被控訴人が何時でも契約を解
除し得る旨の特約があつたことは何れもこれを否認する(賃料は一坪月額八十二銭
五厘であつた)。本件車庫は訴外Bが昭和十三年四月頃被控訴人から本件土地を借
受け、その地上にこれを建設して同人が所有していたところ、その後昭和十七年頃
訴外株式会社C工業所がこの建物を右Bから譲受けると共に被控訴人から本件土地
を賃借し、次で昭和二十年十一月頃控訴会社が右工業所からこの建物を譲受け、昭
和二十一年五月十一日附で被控訴人との間に本件土地の賃貸借契約を締結したもの
である。しかしこの建物につき右Bは保存登記をしなかつたからそのままで所有名
義か移転して来た。しかるに偶々控訴会社が前者に支払うべき建物の代金を一時訴
外Dから融通を受けた関係で、同人に対する担保の趣旨で公簿上の所有名義を同人
に移すこととし、先づ右Bの保存登記を為しその余の中間登記を省略して昭和二十
五年七月二十二日Bから直接Dに所有権の移転登記をした。しかし控訴会社は事実
上これが所有権者たる他位を離れる意思ではないから依然これを占有して事業を継
続した。ところが近時産業界の金融梗塞の重圧は小企業者に至大の打撃を与へ、控
訴会社も事業の運営資金に悩んだため、控訴人Aから資金の融通を受け同人と提携
して本件建物を共同で使用し共に操業することとし、先にDから借受けた債務を弁
済すると共に控訴人Aの債権確保の為本件車庫の所有名義を同人に移し昭和二十五
年十二月十八日その所有権移転登記をした。そこで控訴人等の抗弁として(一)本
件建物をD名義としたのは前叙の通り債権担保の趣旨で単に公簿上所有名義を移し
たのみで控訴会社は事実上これが所有権者としての地位を離脱したものではない。
(二)仮に実質的に所有権譲渡と同一視せられるものとしても被控訴人主張のよう
な解除の特約は存在せないからこれを前提とする被控訴人の解除の意思表示は無効
である。(三)しかのみならず昭和二十五年七月本件車庫の所有名義をDに移転し
た後、被控訴人から異議が出たので被控訴人に右車庫の買取を求めたところ価格の
点で被控訴人の応諾するところとならず却つてこれを他へ処分すべきことを示唆し
たので、控訴人Aの出資を得てこれを同人名義としたものであり、今更無断譲渡を
理由として被控訴人が異議を述べることは失当である。(四)被控訴人が本件車庫
の所有名義がDとなつたことを理由として契約の解除を主張する真意は敢て本件土
地を自ら使用する等の事由によるものではなく、他に賃貸する意思は変りなく、近
時附近に裁判所庁舎等諸官公署の建物が復興又は新築せられ街区が漸く整備の機運
に向うにつけ、新規の借地人を求めて、地代の値上げ及び権利金の獲得を唯一の動
機とするものである。控訴人は当初から存する建物をその用法に従つて使用し、被
控訴人の土地所有権を脅かすがごとき何等の所為に出でたものではない。控訴会社
は本件土地を本件車庫がその以前に朽廃せぬ限り今後尚二十余年間賃借する権利を
有する。(借地法第二条第十一条)。然るに一朝これが被控訴人の一方的利益の為
に廃棄せられ建物を取壊さねばならぬものとすれば、控訴人等の被る損害は言ふま
でもなく国家経済上少なからぬ損失である。かように土地所有者個人の利益の追求
のために公共の福祉を犠性にするようなことは正に憲法第十二条民法第一条の規定
に反し許さるべきでない。従つて被控訴人の本件賃貸借契約解除の意思表示は公序
良俗に反し無効である。(五)借地法第十条の場合でも民法第一条により借地法第
四条が適用せられる。従つて地上物件を取得したる第三者は土地の賃貸人に対し前
賃貸借契約と同一の条件を以て更に借地権を設定したるものとみなさるべきであつ
て、この場合に賃貸人が解除権を行使することは信義則に反し権利の濫用である。
(六)以上の抗弁がすべて理由がないとしても、本件車庫はもと本件土地の賃借人
が権限に基いて建設したものであつて、控訴人Aはこれを承継したものであるか
ら、借地法第十条に則り被控訴人に対し時価金三十万円を以て買取を請求し右代金
の支払あるまで本件建物を留置する。(七)被控訴人の賃料及び損害金の請求に対
し、本件土地を控訴会社が借受けた当初の賃料は一ケ月につき金九十一円二銭(坪
当り金八十二銭五厘)であり(甲第三号証の第五条)、この土地の昭和二十四年法
律第八五号臨時宅地賃貸価格修正法による土地の等級が四十九級である(乙第一号
証)。然らば昭和二十四年六月一日物価庁告示第三六八号により同日以降本件土地
の地代は坪当り金一円七十四銭である。もつとも昭和二十五年七月十一日政令第二
二五号が公布せられる以前に控訴会社が被控訴人の要求に応じ坪当り月額金五円の
地代を支払つてきたことはあるが(乙第二号証)これは公定を超えた賃料であるか
ら、たとへ当事者間に異議がなかつたとしても、公定の限度を超えた部分は無効で
ある。その後昭和二十五年七月十一日右政令の実施によつて同日以降本件土地の地
代は地代家賃統制令の適用から除外せられ、当事者が任意に地代を協定できること
となつたが、さればとて先に公定の限度を超えて定められた地代の約定が当然に合
法化されるものとは言へず、さりとて右時期以降当事者間に新な協定が成立した事
実はないから、昭和二十五年八月一日以降の本件土地の地代は一ケ月一坪につき金
一円七十四銭であると述べたる外は原判決の事実摘示と同一であるからここにこれ
を引用する。
 証拠として被控訴代理人は甲第一乃至第十四号証を提出し証人Eの訊問を求め原
審証人E同Fの各証言並びに鑑定人Gの鑑定の結果を援用し乙第一、第二、第四、
第七乃至第九号証、第十号証の一、二及び第十三号証の成立を認め、その他の乙号
各証は不知と述べ、控訴代理人は乙第一乃至第九号証、第十号証の一、二、第十一
号証の一乃至十、第十二号証の一乃至四及び第十三号証を提出し証人H、控訴会社
代表者I並びに控訴人A各本人の訊問を求め原審証人Hの証言を援用し、控訴会社
としては甲第一号証は不知、その他の甲号各証は成立を認むと述べ、控訴人Aとし
ては甲第一、第三、第四号証は不知、その他の甲号各証は成立を認むと述べた。
         理    由
 本件土地を控訴会社が被控訴人から昭和二十一年五月十一日附で期間を昭和二十
年十一月十日から向う十ケ年の約定で賃借する旨の契約をしたこと、右契約約款中
に控訴会社から本件地上の家屋を売却する際には被控訴人の承諾を受けるものとす
る趣旨の約定のあつたこと、本件車庫が昭和二十五年七月二十二日Dに所有権移転
登記せられたこと、更に同年十二月十八日控訴人Aに所有権移転登記せられたこ
と、同年十一月十四日被控訴人が控訴会社に対し本件車庫が被控訴人に無断でDに
譲渡せられたことを理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと
は当事者間に争がない。そこで先づ控訴人の(一)の抗弁につき考へて見るに控訴
人は本件車庫をD名義としたのは同人の債権担保の為で単に登記名義のみを移した
もので控訴会社は事実上所有権者としての地位を離れたものでいと主張するが、こ
れを認むるに足るべき確証なく却て控訴人の主張自体によつて本件車庫は控訴会社
がこれをDに対し売渡担保に供したものと認められるから、反証のない限り本件車
庫の所有権は内部関係、外部関係ともDに譲渡せられたものと認むるを相当とす
る。次に控訴人は(二)の抗弁として被控訴人主張のような解除の特約を否認する
ので考へるに、控訴会社がその成立を争はない甲第三号証(本件土地賃貸借契約
書)によればその第三条に「乙(控訴会社)及ビ保証人ニ於テ夫々本土地上ノ家屋
ヲ売却セントスルトキハ甲(被控訴人)ノ承諾ヲ受クルモノトス」とあるのみでこ
れに違反した場合に被控訴人主張のような特約の存在は認められずその他これを認
むるに足る証拠はないが本件地上家屋を売却するには被控訴人の承諾を要すること
は当事者間に争なく、賃借人が賃貸人の承諾を得ずして賃借権を譲渡し第三者をし
て賃借物の使用又は収益を為さしめたるときは賃貸人は賃貸借契約を解除すること
ができることは民法第六百十二条第二項に明定するところであるから、たとへ賃借
権の譲渡がなくても、賃貸人の承諾なくして、第三者に地上物件を譲渡し、第三者
をしてその敷地を使用せしめることによつてその敷地の賃借権を譲渡したと同じよ
うに認められる場合にはこれを理由として賃貸人は賃借人に対し賃貸借契約を解除
することができるものと言はなければならない。そこで本件において控訴会社が本
件車庫をDに譲渡するについては被控訴人の承諾を得なければならないのであつ
て、この承諾を得なかつたことは原判決理由中この点に関する認定と同一であるか
らここにこれを引用する。当審において控訴人の提出援用する全証拠によるも右の
認定を覆へすに足らない。しからば被控訴人の契約解除の意思表示は有効であつて
本件賃貸借契約は昭和二十五年十一月十四日解除せられたものと認めなければなら
ない。従つてその後に本件車庫の所有権移転登記を受けたる控訴人Aは法律上何等
の権限なくして本件土地を占拠するものと言わなければならない。控訴人は(三)
本件車庫の所有名義を控訴人Aに移転するについては被控訴人の暗黙の同意を得た
と主張するがこれを認むるに足る何等の証拠なく、又控訴人は(四)被控訴人の解
除権の行使は公序良俗に反し無効であると主張するが、前示認定のように被控訴人
の本件解除権の行使は控訴会社の義務違反を原因とするものであるばかりでなく、
控訴人の全立証によつても被控訴人は控訴人主張のような不当な動機原因によつて
本件賃貸借を解除するものであることが認められないから被控訴人の解除権の行使
は正当であつて敢てこれを以て公序良俗に反するものと言うことはできない。なお
控訴人の(五)の権利濫用の抗弁は借地法第十条の場合にも同法第四条の適用があ
ることを前提とするものであるからその主張自体が違法である。最後に控訴人Aの
(六)の抗弁について考えるに借<要旨>地法第十条の買取請求権は地上物件の譲渡
当時譲渡人の賃借権が賃貸人に対する関係において有効に存在することを要
し、その当時この敷地の賃貸借関係が既に消滅している場合には、同条の買取請求
権は発生しない。本件において控訴人Aが本件車庫を譲受けた当時既に本件賃貸借
が消滅していたことは前段認定の通りであるから控訴人Aに買取請求権のないこと
は明白である。そこで控訴会社は賃貸借契約の終了により、控訴人Aは不法占拠者
として本件土地を明渡すべき義務あることが明かであるから、被控訴人の控訴会社
に対する本件土地の明渡、控訴人Aに対する本件地上物件の収去による本件土地の
明渡を求むる本訴請求を正当と認める。最後に被控訴人の延滞賃料及び損害金の請
求について考へるに、昭和二十五年七月十一日政令第二二五号の施行により同日以
降本件土地の地代は地代家賃統制令の適用から除外せられたことは控訴人の自認す
るところであつて、同日以前に坪当り一ケ月金五円の地代の支払はれたことは成立
に争なき乙第二号証によつて明かであるから、被控訴人の求むる同年八月一日から
同年十一月十五日までの右割合による金額の範囲内の賃料及び損害金一ケ月金五百
六十円及び原審における鑑定人Gの鑑定の結果により認められる同月十六日から昭
和二十六年二月未日まで本件土地につき一坪当り一ケ月金十円、同年三月一日から
本件土地の明渡に至るまで一坪当り一ケ月金十三円の割合による賃料に相当する損
害金の本訴請求を正当と認める。よつてこれと符合する原判決を相当と認め民事訴
訟法第三百八十四条第一項第九十五条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 田中正雄 判事 平峯隆 判事 藤井政治)

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