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主文
1()原判決中,控訴人P1,同P2が,同控訴人らと被控訴人との間で,1
同控訴人らが被控訴人の給与規定に基づく一般職標準本俸表の適用を受け
る雇用関係上の地位にあることの確認を求める請求に関する部分を取り消
す。
()上記確認請求にかかる訴えをいずれも却下する。2
2控訴人P3,同P4,同P1,同P2の控訴及び控訴人P4,同P1,同
P2の当審における請求の拡張に基づき,原判決中,同控訴人らの金銭請求
に関する部分を次のとおり変更する。
()被控訴人は,以下の各控訴人らに対し,以下の金員を支払え。1
ア控訴人P3に対し,842万7000円及び
内630万円については平成7年7月20日から,
内180万円については平成9年1月31日から,
内32万7000円については平成9年2月8日から,
各支払済みまで年5分の割合による金員。
イ同P4に対し,2355万0200円及び
内880万円については平成7年7月20日から,
内200万円については平成9年3月20日から,
内230万円については平成11年2月20日から,
内250万円については平成13年3月20日から,
内160万円については平成14年7月20日から,
内120万円については平成15年7月20日から,
内430万円については平成19年3月1日から,
内85万0200円については平成19年3月8日から,
各支払済みまで年5分の割合による金員。
ウ同P1に対し,2260万円及び
内870万円については平成7年7月20日から,
内200万円については平成9年3月20日から,
内230万円については平成11年2月20日から,
内250万円については平成13年3月20日から,
内160万円については平成14年7月20日から,
内120万円については平成15年7月20日から,
内430万円については平成19年3月1日から,
各支払済みまで年5分の割合による金員。
エ同P2に対し,1800万円及び
内410万円については平成7年7月20日から,
内200万円については平成9年3月20日から,
内230万円については平成11年2月20日から,
内250万円については平成13年3月20日から,
内160万円については平成14年7月20日から,
内120万円については平成15年7月20日から,
内430万円については平成19年3月1日から,
各支払済みまで年5分の割合による金員。
()上記控訴人ら4名のその余の請求及び控訴人P4,同P1,同P2の2
当審における拡張請求中その余の請求をいずれも棄却する。
3控訴人P5,同P6の控訴及び控訴人P5の当審における拡張請求をいず
れも棄却する。
4訴訟費用は,控訴人P5,同P6と被控訴人との間では,第1,2審を通
じ,被控訴人に生じた費用の3分の1と同控訴人らに生じた費用は同控訴人
らの負担とし,その余の控訴人らと被控訴人との間では,第1,2審を通じ,
被控訴人に生じた費用の3分の2と同控訴人らに生じた費用の全部を4分し,
その3を同控訴人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
5この判決は,2項()に限り,仮に執行することができる。1
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人ら
()原判決を取り消す。1
()控訴人P1,同P2と被控訴人との間で,同控訴人らが被控訴人の給与2
規定に基づく一般職標準本俸表の適用を受ける雇用関係上の地位にあること
を確認する。
()被控訴人は,3
ア控訴人P3に対し,5724万6780円,及び内3757万0580
円に対する平成7年7月20日から,内1967万6200円に対する平
成9年1月31日から,各支払済みまで年5分の割合による金員
イ同P5に対し,7351万8995円及び内3054万4995円に対
する平成7年7月20日から,内634万1700円に対する平成9年3
月20日から,内777万円に対する平成11年2月20日から,内83
4万0400円に対する平成13年3月20日から,内596万6300
円に対する平成14年7月20日から,内396万3900円に対する平
成15年7月20日から,1059万1700円に対する平成19年3月
1日から,各支払済みまで年5分の割合による金員
ウ同P4に対し,8546万3635円及び内3111万8535円に対
する平成7年7月20日から,内648万6000円に対する平成9年3
月20日から,内755万8200円に対する平成11年2月20日から,
内656万3500円に対する平成13年3月20日から,内543万0
300円に対する平成14年7月20日から,内373万5000円に対
する平成15年7月20日から,内2426万2500円に対する平成1
9年3月1日から,各支払済みまで年5分の割合による金員
エ同P1に対し,7760万2095円及び内3105万4695円に対
する平成7年7月20日から,内650万8600円に対する平成9年3
月20日から,内758万3700円に対する平成11年2月20日から,
内669万1900円に対する平成13年3月20日から,内553万3
200円に対する平成14年7月20日から,内395万8400円に対
する平成15年7月20日から,内1596万2000円に対する平成1
9年3月1日から,各支払済みまで年5分の割合による金員
オ同P2に対し,6695万1515円及び内2506万4515円に対
する平成7年7月20日から,内601万8600円に対する平成9年3
月20日から,内738万7100円に対する平成11年2月20日から,
内676万1000円に対する平成13年3月20日から,内485万5
000円に対する平成14年7月20日から,内329万9900円に対
する平成15年7月20日から,内1356万5400円に対する平成1
9年3月1日から,各支払済みまで年5分の割合による金員
カ同P6に対し,2327万1990円及び内1886万0890円に対
する平成7年7月20日から,内441万1100円に対する平成8年7
月31日から,各支払済みまで年5分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
()訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。4
()()について仮執行宣言53
2被控訴人
控訴棄却の申立
第2事案の概要等
1事案の概要
控訴人P1(以下,個別の控訴人について,単に姓のみを表記する,同。)
P2は被控訴人の社員であり,控訴人P3,同P5,同P4,同P6(旧姓○
○)は,被控訴人の社員であった者である(いずれも女性の事務職。同P。)
5,同P4は,原審の口頭弁論終結の時点において被控訴人の社員であったが,
その後定年で退職した。
本件は,被控訴人に対し,控訴人らが,①控訴人らと同期の一般職の男性
社員との間に賃金格差があるのは,違法な男女差別によるものである,②被
控訴人は,平成元年8月から定年を57歳から60歳に延長するのと併せて5
5歳に達した事務職を専任職に転換させその賃金を引き下げたが,これは違法
な年齢及び男女差別である(対象者は控訴人P3,③被控訴人は,平成9)
年4月から55歳に達した社員の調整給及び付加給を引き下げたが,これは違
法な年齢及び男女差別である(対象者は控訴人P5,同P4,同P1,と主)
張して,()一般職の男性社員に適用されている一般職標準本俸表の適用を1
受ける地位にあることの確認(その後退職した控訴人P3,同P6は取り下げ
た,()ア控訴人らと同年齢の一般職の標準本俸(月例賃金,一時金)及。)2
び退職金と控訴人らが現に受領した本俸(月例賃金,一時金)との差額及び退
職金との差額の支払(本俸の差額請求者は控訴人ら全員。退職金の差額請求者
は,控訴人P3,同P6,イ定年延長に伴う55歳からの月例賃金引き。)
下げについて引き下げ前との差額の支払(請求者は控訴人P3,ウ55歳)
からの調整給及び付加給引き下げについて,引き下げ前との差額の支払(請求
者は控訴人P5,同P4,同P1,()慰謝料及び弁護士費用の支払(請)3
求者は控訴人ら全員,()付帯請求として遅延損害金の支払をそれぞれ求)4
めた事案である(差額分は賃金又は不法行為(民法709条)もしくは債務不
履行(民法415条)に基づく賃金相当額の損害賠償金として請求。請求期間
は,平成4年4月から平成15年7月まで。ただし,退職した控訴人P3,同
P6は退職時まで。。)
原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。そこで,控訴人らはこれを不
服として控訴した。
当審において,控訴人P5は平成15年9月に,同P4は平成19年2月に
いずれも定年退職を迎えたため,上記()の請求を取り下げ,上記()アの内退12
職金の差額請求を追加し,更に,控訴人P3,同P6を除く4名の控訴人らは,
平成15年8月から平成19年2月までの本俸(月例賃金及び一時金)の差額
の請求(ただし,控訴人P5は,退職した平成15年9月までの請求)を拡張
し,控訴人P5,同P4,同P1は,55歳からの調整給及び付加給引き下げ
について引き下げ前との差額の請求(控訴人P5は,平成15年8月分,9月
分の合計9万0400円,同P4は,平成15年8月分から平成19年2月分
までの110万9400円,同P1は,平成15年8月分から平成19年2月
分までの194万3600円)を拡張した(当審において控訴人らが請求を拡
張した金額,その内訳,算出過程は,別紙1()ないし()記載のとおりであ15
る。。)
2争いのない事実等は,以下の()記載のとおり追加,訂正するほか,原判決1
「事実及び理由」の第2章第2に記載のとおりであり,争点及び争点に関する
当事者の主張は,当審における当事者の主張を後記3項のとおり付加するほか,
原判決「事実及び理由」の第2章第3,第3章に記載のとおりである(ただし,
以下の()記載のとおり追加,訂正する)から,これを各引用する。2。
()ア原判決5頁25行目の「短大」の次に「α短期大学(一部商科」1())
を加える。
イ同6頁11行目から12行目にかけて「高校卒業,昭和38年9月高等
職業技術校英文タイプ科修了後」を「横須賀市立β高校卒業後,建設会,
社に就職したが,昭和38年1月に退職し,同年9月神奈川県立γ高等職
業技術校英文タイプ科を修了後」と改め,同頁20行目の「現在に至っ,
ている」を「,平成15年9月被控訴人を定年退職した」と改める。。。
ウ同頁25行目の「高校」を「都立δ高校」と改め,同7頁4行目の「穀
物部」を「同部」と改め,同頁9行目から10行目にかけての「現在に至
っている」を「,平成19年2月被控訴人を定年退職した」と改める。。。
エ同7頁14行目から15行目にかけての「高校を卒業後」を「都立ε,
高校を卒業後(控訴人P1は,被控訴人入社後,ζ大学第二社会学部に入
学し,卒業した」と改める。。),
オ同8頁1行目の「大学」を「η大学学芸学部国際関係学科」と改める。
カ同頁11行目の「専門学校」の次に「θ」を加える。()
キ同9頁11行目,10頁3行目,4行目,24行目,25行目,13頁
21行目,22行目,24行目(2か所,14頁1行目,15頁16行)
目,21行目,16頁20行目の「本棒」を「本俸」と各改める。
ク同9頁21行目の末尾に,以下の記載を加える「すなわち,昭和41。
年度,入社初年度の標準本俸は男性の方が1500円高く設定され(1万
9000円と1万7500円,勤続年数の長い社員の標準本俸は,両者)
の昇給額の相違により,勤続が長くなる程差が拡大し,例えば18歳入社
で勤続15年の社員の場合,男性では5万6800円であるのに対し,女
性では3万3200円であった(乙23」)。
ケ同10頁12行目の末尾に,以下の記載を加える「すなわち「昭和。,
41年度標準本俸昇級表」は「社員ノ部」は年齢により「準社員ノ部」,
は勤続年数によりそれぞれ金額が定められていたが,入社初年度の標準本
俸は社員の方が1300円高く設定され(1万9000円と1万7700
円,勤続年数の長い職員の標準本俸は,両者の昇給額の相違により,勤)
続が長くなる程差が拡大し,例えば18歳入社で勤続15年の職員の場合,
社員(年齢33歳)では4万8500円であるのに対し,準社員では3万
3000円であり,更に勤続年数が長い場合,定昇額の相違(社員の場合,
1年増すごとに2000円ないし2200円が増加したのに対し,準社員
の場合,1年増すごとに1000円が増加したにすぎない)によりその。
差が大きかった(乙24」)。
コ同11頁23行目から24行目にかけての「昭和59年協約」を「昭和
59年協定」と改める。
サ同15頁15行目の「月棒」を「月俸」と改める。
()ア原判決20頁13行目,25行目,同21頁6行目から7行目にかけ2
てと同頁15行目の「原告P5,同P4,同P1,同P2」を「控訴人P
1,同P2」と改める。
イ同30頁8行目の「仕事に違い」を「仕事の違い」と改める。
ウ同38頁の3行目から23行目までを次のとおり改める。
「2よって,控訴人らは,被控訴人に対し,労働基準法13条に基づき,
控訴人らと同年齢の男性一般職の賃金額及びこれをもとにして算出さ
れる一時金額と控訴人らが現実に受領した賃金額及び一時金との差額
賃金(①平成14年7月分までは原判決別表1の「請求金額一覧表」
の「賃金差額」欄の「合計」欄の金額。その詳細は,同別表1の各控
訴人別の「賃金差額一覧表」のとおり。②平成14年8月分から平成
15年7月分まで(一時金については,平成14年冬季分まで)は同
別表2の各控訴人別の「賃金差額表()ないし()」の「月例賃金」欄14
及び「一時金」欄のとおり。③同年8月分から平成19年2月分まで
(一時金については,平成15年夏季から平成18年冬季まで)は別
紙1()ないし()欄のとおり)とこれに対する支払日の後である各15。
起算日(平成7年7月分までは同月20日,同年8月分から平成9年
3月分までは同月20日(ただし,控訴人P3は退職日である同年1
月31日,控訴人P6は退職日の後である平成8年7月31日,平)
成9年4月分から平成11年2月分までは同月20日,平成11年3
月分から平成13年3月分までは同月20日,平成13年4月分から
平成14年7月分までは同月20日,平成14年8月分から平成15
年7月分までは同月20日,平成15年8月分から平成19年2月分
までは同年3月1日)から各支払済みまで民法所定年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を求める。
また,控訴人P3,同P6,同P5,同P4は,同控訴人らが一般
職標準本俸表の適用を受ける地位にあるとした場合に支払われるべき
同控訴人らと同年齢の者(男性)の退職金額と,同控訴人らが現実に
受領した退職金額との差額退職金(控訴人P3,同P6については,
原判決別表1の「請求金額一覧表」の「退職金差額」欄の金額。その
詳細は,同別表1の各控訴人別の「退職金差額表」のとおり。同P5
については,別紙1()記載の965万7800円,同P4について2
は,別紙1()記載の923万5400円)と前同様の遅延損害金の3
支払(起算日は,控訴人P3は平成9年1月31日,同P6は平成8
年7月31日,同P5,同P4は,いずれも平成19年3月1日)を
併せて求める」。
エ同39頁2行目から9行目までを次のとおり改める。
「よって,控訴人P5,同P4,同P1は,付加給カット額(平成1
4年7月分までは原判決別表1の「請求金額一覧表」の「付加給カッ
ト額」欄の金額。その詳細は,同別表1の各控訴人別の「付加給カッ
ト額表」のとおり。平成14年8月分から平成15年7月分までは同
別表2の各控訴人の「賃金差額表()ないし()」の「付加給カット13
額」欄のとおり。同年8月分から平成19年2月分までは別紙1()2
ないし()欄のとおり)と前同様の遅延損害金の支払(起算日は,4。
付加給カットがされた期間に応じ,上記(控訴人ら)ウと同じ。ただ
し,控訴人P4,同P1については,平成12年4月分から平成13
年3月分までの遅延損害金の支払を除く)を併せて求める」。。
3当審における当事者の主張
A(控訴人らの主張)
()原判決の争点2(差別の有無及び違法性)について1
ア本件労働関係の同一性と賃金格差の不合理性
(ア)契約の同一性に関する基本問題
控訴人らの労働契約関係と同時期に入社した男性社員の労働契約関
係は同一である。すなわち,いずれも期間の定めを条件としない労働
契約を締結して定年までの雇用を前提として勤務することが期待され,
労働時間,仕事の内容・場所は就業規則上何らの差異もなかった。被
控訴人が,見習い社員とか準社員といった呼称の違いを設け,主観的
に男女を異なる育成体系の下に置くことを意図していたとしても,労
働契約内容としてそのことが明示されることはなかった。当該就業規
則には,一定年数経過後は同じ社員として処遇する旨記載しているの
であるから,少なくとも,その年数を超えて働いた以上,男女は同一
の労働契約関係に置かれていたといえる。
(イ)勤続年数や配置・キャリア形成の同一性
原判決は,転勤によって形成される知識・経験・業務処理能力は異
なっており,転勤を予定するかどうかが男女間の業務知識や業務処理
能力の格差を決定づけると判断した。
しかし,営業部門においては,商品取引に関する専門的知識・経験
が求められることから,一貫して特定の商品取引を担当することが熟
練の形成には合理性があるから,一般の企業のように,人事ローテー
ションとして転勤を必然的なものとする人事管理は,被控訴人におい
てはかえって弊害がある。こうした事情もあって,被控訴人において,
国内外の転勤を必要とせず,また実際にも転勤を経験しない社員は相
当数存在した(甲19,46,339の1,2及び甲340(鉄鋼部
門の実情を調査した結果)などを参照。被控訴人においては,転。)
勤のないまま定年を迎える社員が少なくなく,職掌別制度を導入する
以前には相当数の男性社員が転勤をしていなかった。転勤未経験で管
理職になった者も多く,中には副社長になった者もいる。熟練を形成
するために転勤が必要で,そのために男女を区別して雇用管理をした
というのは,明らかに事実に反する。現に,その当時(昭和40年)
の総合商社において,海外駐在員の比率はきわめて低く,また,被控
訴人において,そのころ国内取引が主要な利潤の源泉となっていた。
(ウ)勤続年数・配置・キャリア形成の同一性
a原判決及び被控訴人の誤り
控訴人らは,いずれも勤務を重ね,男性社員と同一ないし同等の
職務に従事してきた。被控訴人は,成約業務については,転勤によ
って形成される職能を不可欠のものとするかのように主張するが,
仮にそうした職能というものがあるとしても,それを転勤以外の手
段方法によって身に着けることは不可能ではない。転勤がなくとも,
勤務の継続・研修・職務経験を通じて形成された職能と担当職務は,
以下のとおり同一である。
b従業員の学歴と採用
被控訴人においては,昭和40年代に至るまで男性社員について
も高卒者を採用し,学歴の如何を問わず,男性社員に適用する賃金
テーブルに基づいて賃金を支払い,管理職とし,場合によっては役
員に登用してきた。したがって,控訴人らの学歴がキャリア形成に
何がしかの支障となるようなものではなかった。
c研修
被控訴人における実務研修は男女同一に実施されており,試験結
果も男女で異なることはない。英語研修の費用負担は男女で異なる
ものの,資格の取得ないし試験結果についても男女で差異を認める
ことはできない(甲43,44,286。職掌別賃金制度が導入)
されてからも,基本的には一般職・事務職が同一の研修を受けてき
た。平成4年に実施された新人研修においては検定試験が行なわれ
ているが,その結果は,一般職・事務職(男女)で差異などなく,
同等の業務知識を求められていた。これは,被控訴人も認めるよう
に,男女で能力差がない以上,当然の結果というべきである。
d勤続年数
一般的な勤続年数の傾向によって男女を集団的に異なる取扱をな
すのは差別である。勤続することによる熟練の形成は男女で異なる
わけはない。控訴人らも勤務を継続して熟練を形成してきたのであ
って,この点において男女のキャリア形成は同一というべきである。
eキャリア形成と担当職務
以上のように,商社におけるキャリア形成は,部門ごと,商品ご
とに熟練を形成していくシステムになっており,転勤を必然的なも
のとするわけではなかった。
また,90年代に入るまではTOEICの点数にかかわらず,男
性であればほとんど例外なく管理職に昇進しており,しかも,被控
訴人は控訴人らと同等の勤務年数にある男性社員には,TOEIC
を改めて受験するよう求めるものでもない。時代環境も変化した9
0年代に入社した若い社員に求めるキャリア形成を,時代を無視し
て,そのまま控訴人らに当てはめる不合理は明白である。
(エ)困難度による職務二分論の誤りと職務の同等性・同一性
a控訴人らの職務は一般職定義規定に対応するものであり,原判決
の職務二分論と「困難度」による相対化は重大な誤りであること
原判決は,処理の困難度の差異によって二分することが可能であ
るとして,制度をつくった被控訴人の主張を超えて,職務を二分す
るものさしを困難度というさらに曖昧模糊としたものに置き換えて,
男女別コース制なる制度をでっち上げ,かつ職掌別賃金制度の会社
説明にかかる基幹職=一般職,補助職=事務職という図式を勝手に
変更してしまい,処理の困難度という指標に基づいて担当職務を相
対化した。このような判断は,以下のとおり誤りである。
b商社業務を二分して社員を募集・採用・配置してきたという不合

(a)商社は,取扱商品,取引の形態(取引地域で分類したときに
は,国内・輸出・輸入・海外(三国間)というカテゴリーがあり,
さらに,取引の形態からみると紐付き・代行,店売り・仕切り・
裁量などの違いがある,経済社会における機能と役割がきわめ)
て多様であって,業務もこれに対応してさらに複雑多様である。
(b)多様かつ複雑な業務は,社員間の協力関係のもとに推進され
て初めて利益を計上することができる。そのような協力関係を成
立させるのに必要な情報共有化とこれを駆使した力の発揮が必要
なところで業務を二分して,処理の困難度において差異を設ける
こと自体不合理である。
(c)被控訴人は,成約業務のなかでも新規取引の「開拓」的側面
を強調し,この点に特化された一般職業務とこれを補佐するに過
ぎない事務職業務とでは全くその性質が異なることを強調する。
しかし,実際は,マーケティングから成約に至るプロセスにおい
て,すべて一人の一般職社員が担うようなものではない。商権拡
大で活かされるのは,日常の活動を通じて積み上げられてきた取
引先との信頼関係や情報網であって,その形成には内勤社員の貢
献,とりわけ企業の信頼を背負って履行業務に従事している社員
の力と働きが非常に大きい。こうした業務の実体によれば,業務
を二分して困難度に差異があるとする判断は誤りである。
()利益に直結する業務か否かによって業務を二分するという被控d
訴人の主張は,屁理屈に近い言い訳に過ぎず,この職務の二分法
は実態にそぐわない。
c被控訴人の業務区分の恣意性
被控訴人の主張の前提になっている「基幹的業務」や「定型的事
務的補助業務」の区分,また「基幹業務を推進する社員層」や「定
型的事務的補助業務を担当する社員層」の区分は,全く非論理的な
誤った恣意的区分である。一般に,会社の業務を「基幹業務」と
「定型的事務的補助業務」に二分することなど不可能であり,その
区別の意味は全く無内容で,企業組織の現実からも遊離している。
被控訴人の主張する「区分」は,実は「業務の区分」ではなく,
「会社が将来期待している者」と「会社が将来期待していない」者
との「区分」で,女性差別の意図に基づいた恣意的区分で,女性差
別意思の表現である。
d被控訴人の区分と控訴人らの待遇
被控訴人は,基幹業務=成約業務,補助業務=履行業務として,
履行業務担当者はあくまで成約担当者のアシストをするに過ぎない
と主張している。しかし,補助業務とは,職務としての独立性のな
い付随的性質を有するものであるところ,控訴人らが従事してきた
履行業務は独立性・自立性を有し,会社が主張する基幹と補助の分
類及び定義からすれば,まさに基幹業務というべきであり,控訴人
らはすべて一般職として処遇されるべきであった。
e処理の困難度による二分法の差別性
原判決は,業務の二分法に基づいて募集・採用,配置・昇進にお
ける処遇において男女を区別することを容認したうえ,賃金格差も
その結果であって,男女の業務がその多くの部分を異にする以上は
賃金格差は違法とはいえないなどと判断するが,これこそ性に基づ
く差別的基準に依拠したものという以外にない。
f公正な職務評価の手法
控訴人らは,ILO100号条約に定められている「同一価値労
働同一賃金」原則の基本にたって,性による偏りのない中立的基準
を定立し,比較対照者との間で職務評価を実施し,鑑定意見書(甲
274)を提出した。
評価ファクターへの得点の配分=ウェイトの付与は,商社業務に
求められる評価要素として何が重要かという見地から,職務評価フ
ァクターを設定する意図と位置づけを考慮して決定された。上記鑑
定意見書によれば,控訴人らと対照者の担当職務の価値の比は,P
7・控訴人P5では100:92,P8・控訴人P3では100:
111,P9・控訴人P2では100:95,P10・控訴人P4
では100:100,P11・控訴人P6では100:102とな
り,控訴人らが,比較対照者に比して,勝るとも劣らないほぼ同等
の価値の職務を遂行していることを明らかになった。ところが,控
訴人らに支給されてきた賃金は,高くても一般職男性社員の67パ
ーセントの水準,低い者は48パーセントの水準でしかない。
この鑑定結果によれば,原判決が,処理の困難度による職務の差
異が本件賃金格差の要因であるとし,賃金格差の要因について法的
側面から,募集・採用・配置・昇進差別の結果であると判断したこ
との誤りは明白である。
g職務の重なり合いと労働契約関係の同一性
被控訴人において,男女社員が担当する職務は広範囲にわたって
重なり合っており(一般職が履行業務を担当し,事務職が成約業務
を担当していることもある,それゆえに,職掌を二分して賃金。)
格差の根拠を職務に求める仕組みは不合理である。
被控訴人は,成約業務においては新規開拓業務,職能部門におい
ては運輸業務における実査業務を取り上げて,これが一般職業務の
真髄をなすものであるかのように主張して,これを担当していない
控訴人らと一般職の職務は異なると主張する。
しかし,営業分野において,継続取引の商権を確保することは新
規取引開拓と比較して勝るとも劣らない重要性があり,むしろ,継
続取引による安定した利益の確保があればこそ,新規開拓から発生
するリスクを引き受けることが可能という関係にある。そして,商
権を確保するには,契約の確実な履行による信頼関係の確立が不可
欠であり,契約の履行に伴うリスクやトラブルを時々の状況に対応
して迅速かつ適切に解決することや,確実に利益を計上することに
向けた工夫と努力が求められ,これに要する知識や経験は,新規取
引分野を開拓する場合の工夫や努力に匹敵する。新規の取引分野を
開拓する業務は,常時抱えているというものではなく,プロジェク
トなどはごく限られた稀にみる案件であり,しかもこうした案件は,
組織の力によって推進されるものである。
また,原判決が,控訴人らが担当していたクレーム処理の発生頻
度や成約業務に従事していた期間を問題にすることは妥当でない。
クレーム処理は,履行業務にはつきもので,契約どおりの履行を可
能とするためには常時対応しなければならないものであるから,発
生頻度を問題にすること自体が不当である。控訴人らが担当してき
た成約業務は,当該期間においては恒常的に発生している業務であ
り,これについても頻度や比重を問題にすること自体不当である。
(オ)控訴人らと被控訴人との労働契約関係-一般職・総合職賃金テー
ブルの適用を受ける(男性)社員との同一性
以上のとおり,被控訴人と控訴人らの労働契約関係は,その労務提
供面において,一般職・総合職賃金テーブルの適用を受けてきた社員
の被控訴人との労働契約関係と実質的に同一・同等であって,何らの
差異も認めることはできない。職掌別賃金制度実施以前の旧兼松,江
商,被控訴人においては,控訴人らと成立した労働契約関係は,男性
社員と同一というべきであり,特段に勤務地を限定したり,補助定型
業務に従事するという職務限定合意を内容とするものでもない。それ
にもかかわらず,被控訴人は,男女別年令本俸表により女性と男性と
の間に著しい賃金格差を生じさせていたのであり,合理的な理由が認
められない限り,その賃金格差は性の違いによるものと推認される。
そして,男女別年令本俸表による著しい賃金格差には,なんら合理的
な理由は認められない。
原判決が認定した男女別コース制は,控訴人らについて勤務地及び
職務に限定を受けた労働契約関係が成立していることを前提にしなけ
ればありえない認定であるところ,控訴人らと被控訴人との間で成立
した労働契約関係において,控訴人らの勤務地を限定したり,職務を
補助定型業務に限定したりすることを内容とする合意はなく,労働契
約の労務提供面において,男性社員と何らの差異はない。このことは,
以下の点から,明らかである。
a勤務地及び職務限定合意の有無
被控訴人は「女性は転勤がないものとして採用した「補助定,」
型業務に従事することを予定して採用した」とし,男性と労働契約
が違うから賃金差別には合理的な理由がある旨を主張している。
本件において,控訴人ら入社時において,控訴人らを転勤の対象
者から除外したり,職務を限定するような就業規則等会社規定は一
切存在しない。それどころか,被控訴人の就業規則(乙3の1)に
は,女性労働者を含め「従業員は転勤を命じられたときには,正当
な理由のない限りこれに従わなければならない」との規定(15
条)があり,就業規則等の定めから「勤務地限定の合意」や職務を
限定する合意の成立を認めることができない。加えて,被控訴人が
控訴人らを採用するに際して,勤務地及び職務を限定するような特
段の意思表示をなすこともなく,かえって控訴人P2,同P6を採
用するに際しては,世界を股にかけた仕事であることを強調し,勤
務地や職務を限定するようなものとは認識しがたい表示を行った。
定型的補助的業務のみに従事するという合意が成立したと認めら
れるためには,使用者が労働者に対して従事する業務を限定して明
示し,労働者がそれを了解したという具体的な合意の存在が立証さ
れなければならない。契約当事者の一方(使用者)のみの期待や意
思をもって「定型的事務的補助業務」の合意があったとし,男女,
別賃金体系による入社後の長年の賃金格差を正当化することは,労
働契約が双方当事者の意思の合致(合意)により成立するという契
約論の基本を無視するものである。
b就業規則等
以下に述べるように,控訴人らが入社した当時,就業規則等諸規
定に勤務地を限定し,あるいは従業員の業務内容や職種についての
定めは存在しない。
(a)旧兼松(控訴人P3・同P1)
旧兼松では,就業規則6条において,社員の資格を,参与・社
員・見習社員・準社員・傭員を掲げていた(乙1の1)が,採用
手続に関しては,従業員採用に際し予め提出させる履歴書等の書
類(48条)及び採用決定後提出させる誓約書(50条)を定め,
社員,見習社員の採否は常務席において決定し,準社員,傭員の
採否は営業所長及び本店総務部長が予め採用人員について常務席
の許可を得た上決定する(49条)とのみ定めていた。また,資
格に関する上記の定めを受けた従業員資格の決定ならびに変更内
規(乙1の2)では,上記の社員資格を列挙したうえ,2条で大
卒見習社員は1年以内,高卒見習社員は2年以内に社員に昇格す
るとされ,3条で,準社員は勤務年数経過後考査によって社員に
資格変更できることが定められ,高卒者は8年後,大卒者は4年
後とされていた。このように,旧兼松の昭和38年10月の就業
規則(乙1の1,給与規則(乙19「従業員資格決定ならび)),
に変更内規(乙1の2)など旧兼松の諸規定には,配転や転勤」
に関する規定は一切なかった「社員「準社員」の資格も,転。」
勤や職務とは全く関係のないものであり,旧兼松の規定上,従業
員の内一定の者は転勤がなく勤務地が限定されているとか,職務
が基幹業務と補助業務に分かれており,控訴人らが補助業務に従
事するものであるといった職務限定はなかった。
(b)江商(控訴人P5・同P4)
控訴人P5と同P4が入社した江商においては,就業規則(乙
2)で「従業員とは社員,準社員,傭員又は見習生としての身,
分を持つものをいう(2条1項)と定め「見習生の期間は6」,
ヶ月以内とし,学歴,能力,職種等に基き銓衡の上,社員,準社
員,傭員に任命し,傭員並びに準社員は勤続年数及び勤務成績に
より銓衡の上,準社員又は社員に昇格することができる(2条」
3項)と定めていた。そして,24条の「従業員が転勤,出張を
命ぜられたときは別に定める旅費規定により旅費及び手当を支給
する,25条の1の「従業員が海外に転勤,出張を命ぜられ。」
た時は別に定める海外勤務規定により処遇する」との定めがあ。
り「社員「準社員」の資格を問わず従業員が転勤,出張が命,」
ぜられたときの規定があり,男女とも転勤,出張を命ぜられるこ
とがある内容になっていた。江商の諸規定には,このほかに配転
や転勤に関する規定は一切なく,職務が基幹業務と補助業務に分
かれており,控訴人らが補助業務に従事するものであるとの職務
限定もなかった。
(c)合併後の諸規定(控訴人P2・同P6)
昭和42年4月の合併後に控訴人P2と同P6が入社した被控
訴人では,合併直後の昭和42年8月の就業規則(乙3の1)で
「従業員の資格を次の通りとする。参与,社員,見習社員,準社
員,傭員(6条)と定め,採用に関しては「会社は就職を希。」,
望するもののうち,選考試験に合格し,所定の手続きを経たもの
を採用する(35条「従業員として採用決定したものは,。」),
所定の誓約書を会社に提出しなければならない(36条)と。」
定めるのみであった。また,給与規則(乙21)は「給料とは,
社員,見習社員,準社員,傭員については本俸および手当をい
う(2条「昇給の時期は原則として毎年4月とし,昇給額は」),
各人の能力,技能,勤怠成績その他資格を判定して決定する」
(8条)と定めていた。上記就業規則には「就職を希望するも,
ののうち,選考試験に合格し,所定の手続きを経たものを採用す
る。採用したものには辞令を交付し,入社日,給料,勤務部署を
通知する」と定めていた(35条)が,いかなる社員として採。
用したかについての辞令項目は存在しなかった(乙3の1。ま)
た,これを受けた「資格の決定ならびに昇格に関する規定(乙」
3の2)は,2条で,新たに採用する従業員は,本社入社後の職
種に応じ,見習社員・準社員・傭員・嘱託等の資格とするとされ,
昇格要件が定められている。大卒見習社員は1年以内,高卒見習
社員は2年以内に社員に昇格し,準社員は高卒8年後,短大6年
後,大卒4年後に社員に資格を変更するとされる。
そして,上記就業規則15条で「従業員は会社の都合により転
務または転勤を命じられたときには,正当な理由のない限りこれ
に従わなければならない。転勤の場合は別に定める規定により転
勤手当等を支給する。従業員が,転務,転勤,休職,退職,解職
となったときは,その上司の指揮に従い,事務を後任に引き継が
なければならない,33条で「従業員が海外に勤務,出張を。」
命じられたときは,別に定める海外勤務規定による」と定めて。
いた。そして,社員の資格によって職務に差異があるとの定めや
職務を限定するとの定めもなかった。
これに対して,賃金は,合併後においても男女別賃金テーブル
が適用されてきた。
このように,合併後の被控訴人の就業規則等の規定において,
勤務地を限定する旨の記載も「基幹的業務」とか「定型的事務,
的補助業務」の記載も一切なかったから,就業規則等の規定を根
拠に,控訴人P2と同P6が「定型的事務的補助業務」に従事す
るとの合意をしたと認めることはできない。また「見習社員,,」
「準社員「社員」の資格に関する規定は,従事する業務や職」,
種についての規定ではなかった。それは,被控訴人が,女性であ
る控訴人P2が「準社員」のときに「B体系(女性)賃金テー」
ブルを適用し「社員」のときも「A体系(男性)賃金テーブ,」
ルを適用せず「B体系(女性)賃金テーブルを適用したことか」
ら明らかである。被控訴人の「A体系(男性)と「B体系」」
(女性)の2つの年齢本俸表は,業務内容や職種の労働契約の違
いによる年齢本俸表ではなく,まさに男女の性の違いによる年齢
本俸表であった。
()職掌別賃金制度d
被控訴人は,職掌別賃金制度を実施した後の昭和60年4月の
就業規則(乙4の1)で,15条を「従業員は,会社の都合によ
り転務または転勤を命じられたときには,正当な理由のない限り,
これに従わなければならない。ただし,事務職および特務職社員
の転勤は原則として行わない。転勤の場合は,別に定める規定に
より,転勤手当等を支給する。従業員が,転務,転勤,休職,退
職,解雇となったときは,その上司の指揮に従い,事務を後任に
引き継がなければならない」と改正した。ただし,この事務職。
については「原則として」転勤を行わないとの定めは,転勤させ
ない,という定めではなかった。
c学生向け募集パンフレット記載の「応募資格」について
控訴人P2が入社した昭和55年度入社女子学生向け募集パンフ
レット(甲11の1)には「入社後の待遇・勤務」の項には職種,
の記載がないし,勤務地の記載もない。控訴人P6が入社した昭和
57年度入社女子学生向け募集パンフレット(甲11の3)も同様
である。他方,昭和54年度入社男子学生向け募集パンフレット
(乙8)を見ると「応募資格」の中に「自宅通勤可能な方」の記,
載がなく「待遇と勤務」の項に,職種の記載はないが「勤務地,,
東京,大阪,名古屋」と記載されている。
被控訴人が職掌別賃金制度を実施した後の昭和61年度入社社員
用に東京本社人事部長が各学校に送付したと思われる「女子学生ご
推薦お願い」と題する書面(乙103)では「応募条件」として,
「親許通勤で通勤時間90分以内の方」と記載され「入社後の待,
遇・勤務など」の項で「勤務地:東京本社」と記載されている。
しかし「自宅通勤」や「親許通勤」という「応募資格」の問題,
と,労働者が入社後の勤務地が将来にわたって限定される合意をし
たかという問題は,別個の問題である「親許通勤」という応募条。
件は,入社時の当初の勤務地が特定されるという意味はあっても,
将来にわたって勤務地を限定する合意をしたものと考えることはで
きない。
被控訴人の就業規則(乙3の1)15条は「従業員は,会社の,
都合により転務または転勤を命じられたときには,正当な理由のな
い限りこれに従わなければならない」と定めており,控訴人P2。
と同P6が将来にわたって勤務地を限定する特段の合意をしたこと
が立証されない限り,勤務地限定の合意の存在は認められない。
(カ)担当職務を中心とした契約関係の同一性に関する判断
a控訴人P3
(a)控訴人P3は昭和32年入社し,昭和35年3月まで繊維部
織物課において,官需関係の業務を担当し,同年4月から昭和4
3年9月まで繊維部資材課において,官需関係の業務に加え農協
や準官庁関係の販売を拡大させた。控訴人P3は,入社後11年
間という長期間,営業の成約業務を担当した。控訴人P3が携わ
った業務内容は,一般職男性の従事する業務内容と全く同じであ
る。原判決は,控訴人P3が担当した成約業務を無視している。
(b)昭和54年,控訴人P3は運輸部輸入第2課に配転され,こ
こで初めて職能部門の業務に従事した。控訴人P3は職能部門に
配属されて,男女が全く同一の業務を行っているという実務を経
験した。即ち,職能部門においては,同じ業務を量で分ける,要
するに,職能部門の従業員がそれぞれ各部を担当という形式での
業務配分であった。
運輸部輸入第二課の勤務での業務は輸入通関,付保業務であり,
控訴人P3は非鉄金属部のアルミニュウム関係を担当した。通関
業務は貨物を輸入するために税関に申告し,貨物の検査を受け,
輸入許可を得る業務であるが,ここには全く男女の区別はなく,
それぞれが責任を持って行った。
控訴人P3は,その他関税,消費税の支払業務,受渡業務,諸
係の支払及びクレーム業務,税関の事後調査,輸入商品の実査等
を担ってきた。実査について,控訴人P3は昭和61年ころから
川西倉庫の実査を担当した。実査業務は一般職が行うと限られた
ものではなく,人員配置等によって職能部門では,一般職が行っ
たり事務職が担当したりしていた。原判決は,控訴人P3が実査
を担当してきたことを無視している。
(c)物流管理課での業務
控訴人P3は,一般職P8が行っていなかった特認リスト,登
録印の管理(控訴人P3は,いずれもP12課長から引き継ぎ,
P13課長に引き継いだ,物流業者の管理業務(控訴人P3。)
は,P12課長から引き継ぎ,退職時にP13課長に引き継い
だ,社内実務講座の講師(平成3年から退職時まで)などの。)
業務を担当しており,重要な業務である付保業務,受渡査証業務
を一手に担当していた。実査は課長と一般職だけが担当していた
という指摘があるが,誤りで,控訴人P3も,必要に応じ,実査
を担当していた。
控訴人P3は,専任職となり賃金が20パーセントカットされ
てからも,労働時間は変わらず,責任の重い業務(社内実務講座
の初級講座の講師,東京本社営業部の3000万円以上の支払査
証業務,不良債権発生時の緊急連絡体制の一員,資料酪農部第二
課の牧草資料の輸入通関業務)を担当させられた。そのような中
で,控訴人P3は,自己の業務に励み,上司からも高い評価を受
けた。
b控訴人P5
(a)控訴人P5は,旧江商に採用された後紙パルプ部受渡課に配
属され,営業課で契約した商品の出荷手配・売上計上・諸掛り計
算・請求書作成・支払・台帳作成等の受渡業務に従事したが,営
業部門において専任的に受渡業務を担当する部署が設けられてお
り,男女社員が全く同一の業務を担当していた。
(b)控訴人P5が最も長期間担当してきた紙製品等の取引は,国
内取引が主流であって,新規商品はなく,商権が確立された取引
分野においていかに業者との信頼をつなぐかが重要視されており,
これを実行していく履行業務は,その非定型性・裁量性・困難性
に特質があった。控訴人P5は,そうした運送代金・保険料等の
諸掛り交渉,家庭紙の仕入れ・成約業務を自己の責任と判断に基
づき処理してきた。また,控訴人P5が担当したクレーム処理も
同様であった。
(c)控訴人P5は,紙業課における特定企業を相手先とした取引
関係の問題点を指摘して管理職に再三にわたり改善・見直しを求
めてきたが,管理職はこれを実行しなかった。結果的に当該相手
先企業は事実上倒産して被控訴人は莫大な損失を蒙ることになっ
た。控訴人P5が配転を申し出たのは,権限を付与されていない
自己の立場ではどうにもならないのに,問題が顕在化して尻拭い
を強いられることが耐えられなかったからである。配転申出後,
被控訴人は,控訴人P5に対して勤務地を異動する転勤を命じよ
うとし,控訴人P5がこれを拒否すると,平成4年には物資本部
に配転させ,控訴人P5の経験による力と知識にはそぐわない業
務に従事させた。こうした配転の経過を無視して,物資本部にお
ける控訴人P5の業務を秘書的なものであるかのように認定する
原判決の誤りは明白である。
()控訴人P5は,各課決算業務を遂行するに当たり,管理職と同d
等の役割を発揮し,公認会計士への対応も含む監査にかかわる業
務を自己の判断に基づいて処理した。
()控訴人P5は,取引業務を一般職とペアを組んで遂行してきたe
が,昭和62年以降は,紙業課の商量減少によって一般職1,2
名と事務職は控訴人P5のみとなり,国内の契約履行業務のすべ
てを控訴人P5が一人で切り盛りした。そのほか,1980年代
後半から平成4年にかけては,P7(昭和58年7月に主事に昇
格して管理職となり,昭和62年4月に参事補に昇格した)と。
分担し,P7は段ボール原紙,控訴人P5は包装用紙(クラフト
,紙)と新聞用紙の売買を担当した。控訴人P5が担当した職務は
成約業務(価格の交渉・与信限度申請・与信限度枠管理,受渡)
業務(受発注・デリバリー・クレーム処理,売上・仕入業務)
(納品・受領確認・売上・仕入計上・諸勘定計上・支払業務・請
求・代金回収業務・債権債務管理,決算業務(在庫証明の取得)
・残高確認・監査)その他と,きわめて広範囲にわたり,一般職
から指示,指導を受けることはなかった。
c控訴人P4
(a)控訴人P4は昭和40年に,出身高校の就職担当の教師から
紹介されて江商に応募し入社したが,貿易業務を通じて「外国と
の係わりのある仕事」をすることを希望して応募したものである。
(b)控訴人P4が入社以来,主に「比較的困難度の低い」成約以
外の業務についてきたとの原判決の認定は誤りである。控訴人P
4は,入社以来,肥料部肥料課から,食糧第3部肥料課,畜産肥
飼料部肥料課,飼料油脂部飼料第3課,同部肥料米穀課,食料・
物資・非鉄統括営業経理チーム,穀物油脂部油脂課,穀物油脂部
農産課,そして食品農産部食品第三課に異動し,その後商品業務
管理チームに異動して,肥料や食品の営業の職務を行ってきた。
(c)砂糖取引
原判決は,被控訴人の営業職務において,一般職が主として困
難度の高い成約業務に従事し,事務職は困難度の低い職務を担当
したなどと認定しているが,控訴人P4の担当した砂糖の取引の
実態を見れば,そのような原判決の認定の誤りは明らかである。
①精糖取引の購入先・納入先はほぼ固定しており,新規取引は
ほとんどない。したがって,取引先からの注文を受けて価格の
交渉・決定をなし,契約に定められた商品の納入を行い,発生
する顧客からのクレームを解決し,代金の支払と回収を確実に
実行し,製造元との精算業務を処理するなどして利益を計上す
る。控訴人P4は,そのすべての過程を自己の判断に基づいて
完結して処理しており,一般職のP10が関与することはなか
った。控訴人P4が砂糖営業を行っていた約20年間で,とも
に担当者とされた男性社員は7,8人いたが,控訴人P4は,
一貫して男性社員に砂糖取引を教えながら,メインで取引を推
進し,上記の過程を管理して利益を上げてきた。
②控訴人P4の前記職務は,新規成約業務の遂行に必要となる
のと同一の業務知識や交渉能力を必要とする職務である。控訴
人P4が処理してきた「値入」業務は,成約担当者段階で設定
した購入価格について,精糖を受け渡した段階で日本精糖と顧
客毎,精糖毎に最終価格を決定するという業務である。日本精
糖側との値段の食い違いへの対処や,砂糖価格変動期に菓子メ
ーカーや問屋からの値下げ要求を受けて日本精糖からの価格の
掛け合いも行うものであって,これを処理するためには,砂糖
取引や業界についての知識,砂糖相場の値動きの把握,相場下
落のタイミングを捉えて適切な判断を行うことが求められる。
また「委託枠」の割付による売買価格の決定は,業界特有の委
託枠制度の内容や運用実態,砂糖相場,委託枠を販売する顧客
の動向を熟知し,割付先や割付量を適確に判断することが求め
られる。したがって,その職務の遂行には,最もレベルの高い
業務知識の程度や交渉力・説得力,問題解決力,利益目標の達
成に対する責任,注意力・集中力が求められ,処理の困難度の
きわめて高い業務である。履行業務担当者が処理していた「成
約」以降の業務は,海外との決済(①信用状開設②荷為替買取
・送金・交互処理③為替ポジション,受渡業務(①船舶の確)
保②通関手配「クレーム処理「商品管理「代金回収「代)」」」
金支払「決算」等の職務があり,それらを迅速かつ適確に行」
うことが必要である。これらの職務の困難度が成約業務に比較
して低いなどとは,到底いえない。
③控訴人P4が担当してきた成約業務は,相当期間長期に及ん
でおり,担当したその時点では恒常的な業務の一部をなしてい
た。
④被控訴人は,控訴人P4から,平成7年ころ「値入」や「為
替予約」を一方的に奪った。被控訴人による仕事の取り上げは,
控訴人らが訴訟を提起した直後のことであって,前記職務の内
容をあげて一般職の職務と同等であるとしたことへの対応とし
て,差別を隠蔽する意図のもとに行ったものである。
⑤以上から,同じ課に所属した一般職P10の業務と控訴人P
4の業務を具体的に検討した鑑定意見書(甲274)が,その
価値は同等であると評価したのは,妥当である。
d控訴人P1
(a)控訴人P1は,高校在学中に高校の就職係から旧兼松を紹介
され応募した。旧兼松のパンフレットを見て,世界各地に事務所
があると記載されていたため,世界とつながった仕事ができると
期待して応募を決めた。
(b)控訴人P1は,入社後鉄鋼輸出部第1課に配属され,鉄鋼メ
ーカーへの支払業務に従事した。昭和42年に合併し,このころ
から鉄鋼貿易に関する経理処理に従事するようになり,1970
年代には契約内容の詳細の確定,高炉メーカーへの発注,船積手
配,支払,売上計上,決算に至る一貫した業務を任されるように
なった。昭和49年以降は,通産省が実施している鉄鋼需給月報
に関するデータを毎月把握して提出する業務も担当した。昭和5
7年には部長席の仕事を担当し,秘書業務にも従事した。昭和6
0年4月にプロジェクト条鋼チームに異動した後,昭和63年5
月に鉄鋼統括室(以下「統括室」という)に異動した。。
(c)統括室は,対内的には,営業を支援して鉄鋼部門の組織を統
括し,業務計画を策定し,業務実績を集約し,業務計画の実現に
向けてこれを推進するため,鉄鋼取引に関する情報を集約し,こ
れを会社の各部門に有効に生かすため徹底することが,その重要
な役割である。また,統括室は,投資管理も行い,更に,対外的
には,鉄鋼メーカーや業界団体との窓口となり,報告書の提出な
どとともに,鉄鋼メーカーなどからシステム開発の依頼があれば,
その窓口となり,社内を調整する役割を果たしている。鉄鋼(高
炉)メーカーが商社に対して圧倒的な力を持ち優位な立場に立つ
という鉄鋼業界の状況においては,鉄鋼(高炉)メーカーや業界団
体の窓口・調整業務は重要な役割をもっている。
控訴人P1は,以下のとおり,統括室において,これらの重要
な業務について管理職であるP14と同等の職務を行ってきた。
①P14は,平成5年10月に統括室に異動となり,統括室に
おいて控訴人P1とともに働き,平成6年8月に退職したが,
P14の職務内容は退職に当たって作成した引継書(甲14
9)に記載されたものがすべてである。上記引継書に基づきP
14と控訴人P1の職務アイテムを整理したところ,控訴人P
1とP14の職務は重なり合っており,同等のものである。
②控訴人P1とP14の職務を比較すると,P14と同じもの
(商品別売上実績の集約,決算予想・決算,決算発表用資料,
企業間システム開発の窓口・調整,P14退職後に控訴人P)
1が引き継いだもの(日中鋼材共同商談報告,GP速報のコメ
ント作成)がある。さらに,控訴人P1が担当している職務の
中には,三国間取引集計のように管理職から引き継いだものや,
業界団体への報告書の作成や会合への出席のように,他社では
管理職が従事しているものがある。P14が担当していた職務
で「本部月例報告「商品ポジション報告「関係会社月次,」,」,
報告」は,控訴人P1の処理可能な業務である。
P14と控訴人P1の職務の多くは重なり合っており,また,
重なり合っていない職務でも,滞留債権の処理や付保業務のよ
うに,P14の職務より困難度の高い職務もある。控訴人P1
のその他の職務(業務実績の集約,社内広報・情報提供)につ
いても,広範な商品知識,経理知識,鉄鋼取引などに関する知
識と経験を要する重要なものである。P14と控訴人P1の職
務の分担は,処理の困難度の高低によって分けていたのではな
く,同等の職務をそれぞれ分担して担当していたものである。
e控訴人P2
(a)控訴人P2は昭和55年入社以来一貫して鉄鋼貿易部に所属
し,鉄鋼輸出取引業務に携わってきたが,入社時における入社案
内(甲11の1)には「キャリアウーマンを目指すあなたは自分
の才能と個性を生かせる仕事に就きたいと,働く意欲に燃えてい
らっしゃるでしょう」と記されている「自分の才能と個性を生。
かせる職場,そして,国内のみの業務でない「多くの海外支」,
店を持つ」という入社案内説明に希望を抱いて,控訴人P2は被
控訴人に入社した。
(b)業務の実態から,控訴人P2の業務は一般職と同等の価値を
持つ。このことは,以下の点から明らかである。
①控訴人P2は,鉄鋼貿易において輸出を担当し,履行業務に
専念してきたが,この履行業務は,成約担当者が客先との成約
をなした商品について,メーカーに生産を依頼するところから
商品の生産,代金回収に至るまでの全責任を持つ。
②商社の業務が成約と履行業務が一体となって一つの商権を確
立していくこと,即ち商社の業務が「困難度の低い業務」と
「困難度の高い業務」に区分できないことは,明らかである。
商社において,新規開拓は勿論重要であるが,この開拓した客
先の信用を確保し継続していくことが重要であり,この継続取
引の確立の存亡を担っているのは履行業務である。
③控訴人P2の担当する鉄鋼貿易に関する業務の特殊性は,客
先からの依頼が特注品の商品であり,買先のメーカーの8,9
割が高炉メーカーであるところにある。成約が整った商品は一
つ一つが特注品の為,工場への生産依頼=発注業務が重要な仕
事である。高炉メーカーはコンピュータの集中管理のもとにあ
り,非常に微妙で,発注作業に絶対間違いは許されない。もし,
間違えば,商品ができないというだけでなく,間違った商品が
生産されることが十分予想され,間違いが起これば会社に多大
の損害をもたらす。以上のようなことから,その業務は一層複
雑なものとなっており,経験年数,熟練度等が当然に要求され
る業務である。以上から,ベテランである控訴人P2の存在は,
被控訴人において欠かせない。
④各商社は,高炉メーカー主導で商社からメーカーに渡す注文
書や請求データ等のコンピュータ化を進め,メーカーごとにシ
ステムを組む等鉄鋼業界に対応して進めてきたため,被控訴人
においても,これを扱う履行担当者の業務はますます複雑とな
り,大きな責任が控訴人P2等の事務職にかかっている。
⑤控訴人P2は,発注業務に始まり,以後,荷揃,船積の業務,
諸掛のチェック,与信枠管理,代金回収業務まで一貫して責任
を負っているが,同人は誠実にその職務を全うしている。その
中で,与信枠管理は,昭和62年から63年ころまでは,一般
職が行っていたが,鋼管の担当者が一人となり,そのため,控
訴人P2が引き継いで行ってきた。同じ鉄鋼部門でも他の扱い
商品の場合は,一般職が行っている。
⑥控訴人P2の比較対象者であるP9は控訴人P2より6年勤
続年数が長く,控訴人P2よりは相当の先輩格で,比較時期で
ある昭和63年7月から平成3年4月までの期間は,P9にと
って,管理職になる一歩手前の時期であったが,鑑定意見書
(甲24)によれば,職務の価値は,P9100に対し,7
控訴人P295である。
f控訴人P6
(a)控訴人P6が従事していた職務及び同人が在籍した部署での
一般職が従事していた職務についての原判決の事実認定は,全く
誤っている。
(b)鑑定意見書(甲274)は,平成6年10月から平成8年7
月まで羊肉チームとして職務を分担して担当していた控訴人P6
とP11(一般職)の職務について,7つの職務アイテム(価格
・取引条件の交渉,契約履行状況・船積み予定の把握,船積書類
の内容確認,荷渡,在庫管理,為替ポジション管理,決算)につ
いて同一の職務に従事していたこと,両者が担当していた各職務
アイテムの担当職務はほぼ同等の職務評価であったことを明らか
にしている。
(c)P11が担当した市場調査・情報収集の職務は,取引商品の
開拓や顧客獲得のために欠かせないものであるが,P11が担当
していた羊肉取引の特徴は,被控訴人が取り扱う羊肉の消費地は
北海道であるところ,そこでは札幌支店のP15(専任職)が北
海道の成約を一手に引き受けていたこと,羊肉は主にニュージー
ランドから輸入していたが,ニュージーランドからの輸入は同国
の食肉公社(ANZCO)からの買い付けであったこと,国内の
販売先はハムソーセージメーカーであり,新規案件はほとんどな
くマーケット状況も一定していたことなどから,P11による市
場開拓の余地はかなり限定されていた。以上のことからも,羊肉
チームにおいて,控訴人P6は主として処理の困難度の低い業務
に従事し,P11は主として処理の困難度の高い業務に従事して
いたなどという判断は全くの誤りである。
イ職掌別人事制度の問題点
(ア)被控訴人において,昭和60年まで男女別賃金体系をとっていた
が,職掌別賃金制度は女性差別を正当化し固定化するとの女性の反対
にもかかわらず,現実に従事している職務内容を検討することもなく,
意見を聞くこともなく,職掌別人事制度を同年強制的に導入した。職
掌別人事制度は,それまでの男女別賃金体系をそのまま移行させた
(従来の男女別賃金体系を,A体系を一般職本俸表に,B体系を事務
職本俸表に,そのまま移行させた)ものであり,女性差別は「仕事。
の違いである」と隠蔽された。。
職掌別人事制度導入後,控訴人らを含む女性事務職の仕事は高度化,
OA化と共に,質量ともに飛躍的に拡大していった。ところが,被控
訴人は,職掌別人事制度を導入することによって,男女別賃金体系を
覆い隠し,仕事が違うという虚構をつくりあげ,男女間の賃金格差を
拡大することに大きな努力を傾注し,一般職・事務職の賃金格差を拡
大させていった。
同制度導入後,女性の本俸が27歳の男性本俸を超える年齢が年々
高くなったことに象徴されるように,男女の賃金格差はますます拡大
していった。昭和60年,職掌別人事制度導入時には,女性本俸が2
7歳の男性本俸を超える年齢は50歳になり,平成4年には女性本俸
は最高額に達しても,27歳の男性本俸を超えることはなくなった。
(イ)更に,平成9年の新人事制度の導入は,旧一般職を一般職と総合
職とに分離することによって,制度上,職務の違いが強調され,事務
職と一般職・総合職の賃金格差は一層拡大された。
(ウ)職務区分の不合理性
職掌区分の不合理性については,前記ア(エ)記載のとおりである。
(エ)以上検討したように,合理性のない制度である職掌別人事制度は,
以下のとおり,法的根拠を欠くものである。
a原判決は,職掌別人事制度の導入以前から「男女別コース処遇」
なるものが存在していたと認定しているが,職掌別人事制度の導入
前に存在していたものは,労働基準法4条に違反する男女別賃金体
系にほかならない(昭和22年の労働省の通達-基発17号-にも
違反する「男女別コース処遇」という言葉を使うことによって,。)。
原判決は労働基準法4条に違反する違法な男女別賃金体系を合法化
したものである。
b均等法制定後,コース制を装うことによって男女差別が維持され
るという問題が生じ,労働省婦人局(当時)は数々の通達を出し,
コース制のあり方を示した。これらの通達などから「適正なコー,
ス制」の要件を次のように要約できる(甲281「P16鑑定意見
書。」)
(a)予め明確に設定された複数のコースから,労働者があるコー
スをその自由な意思で選択できること
(b)コース分けの基準が合理的,性中立的であること
(c)それぞれのコースにおける処遇がコース分けの基準となった
職種,資格等と合理的な対応関係にあり,性差別的要素がないこ

c(a)ところが,職掌別人事制度は,以上全ての要件を欠くもので
あり,本件において,被控訴人に「男女別コース採用・処遇」が
存在したとしても,前記通達からすると,法的に容認できないも
のであり,不適正なコース制である。
(b)コース選択の自由という点からすれば,その保障のために,
被控訴人はコース分けがあること及びその内容について労働者に
対し明確に説明する義務があったはずである。ところが,昭和6
0年の職掌別人事制度においても,労働者にコース選択の自由が
あったわけでなく,女性社員は強制的に事務職に振り分けられた。
さらに,コース分け基準の合理性・性中立性という点からみる
と「成約業務を中心とする主に処理の困難度の高い職務」と,
「成約以後の履行を中心とする処理の困難度の低い業務」という
基準は明確ではなく,勤務地限定・無限定あるいは転勤の有無が
コース分けの合理的な基準であることにも疑問があり,職務内容
と常に必然的な結びつきを持っているわけではないし「将来幹,
部社員に昇進することが予定されているもの」という基準はあく
まで「予定」という使用者の主観的願望にすぎないから,合理的
でない。
また,処遇とコース分けの基準との対応関係という点からみた
ときには,①「処理の困難度」の高い業務と低い業務という業務
に関する基準,②勤務地限定・無限定という基準,③幹部社員に
昇進することが予定されているかどうかという基準が,本件にお
ける男女の相当な賃金格差とどのように対応しているかは不明で
ある。
(c)以上によれば,コース制の存立要件からみると,職掌別人事
制度の導入以前において,システムとしてのコース制は存在して
いないといわざるを得ず,仮に職掌別人事制度がコース制の存立
要件を満たすとしても,合理性が著しく欠落する不適正なコース
制である。
ウ職掌転換制度について
(ア)被控訴人の職掌転換制度の概要
a昭和60年1月の職掌別人事制度導入時以降
被控訴人は,昭和60年1月の職掌別人事制度導入時にあわせて
職掌転換制度を定めた。それによれば,事務職から一般職への転換
が認められる者は,①対象者を「事務1級資格者として能力・実績
優秀な者」とし,②転換試験受験資格要件を「一般3級研修必須履
修科目終了者」とし,かつ,③転換試験に合格した者である。その
うえ,被控訴人は,事務職から一般職に転換する場合の運用として,
本部長の推薦を要件とした。転換後の職務等級は一般2級に格付け
された。なお,転換試験は,小論文,一般常識,職業適性検査で運
用していた。
b平成9年4月の新人事制度導入時以降
原判決別紙3記載のとおりである。
c平成13年4月以降
被控訴人は,平成13年4月1日の転換者から職掌転換要件を一
部改定した。それによれば,事務職から一般職への転換が認められ
る者は,①対象者を「事務1級以上かつ考課評点AB以上」とし,
②転換試験受験資格要件を「次の一般1級昇級要件を満たしている
者((Ⅰ)一般職実務検定全教科合格《財務・経理・運輸・審査A」
》,B・法務AB,(Ⅱ)日商簿記3級,(Ⅲ)日商ワープロ3級)とし
かつ,③転換試験(適性検査,小論文,役員面接)に合格した者で
ある。転換後の職務等級は一般1級に格付けされた。
(イ)職掌転換制度の特徴は,以下の4点である。
第1点は,事務職から一般職への転換を希望する場合に,①「対象
者」で制限し,②「転換試験受験資格要件」で制限したうえ,③「職
掌転換試験」で制限するという三重の制限を設定しているものである。
第2点は,昭和60年の職掌別人事制度導入時以降平成8年までの
転換要件では「本部長の推薦」を要件としており,平成13年4月以
降の転換要件では「考課評点AB以上」を要件としており,職掌転換
試験を受験すること自体の制限要件として,上司の評価を含んでいる
ことである。
第3点は,事務職から一般職への転換試験の受験資格要件として,
当初は,一般職最下位の職務等級である一般3級の研修必須履修科目
終了者としていたものを,平成9年4月以降は,一般職最上位の職務
等級である一般1級の昇級要件を満たしている者として,制限要件を
厳しくしたことである。
第4点は,職掌別人事制度が導入された昭和60年以前に入社した
男性であるが故に一般職とされた男性社員は満たす必要のない要件を,
昭和60年以前に入社し,女性であるが故に事務職とされた控訴人ら
にも転換試験の受験資格要件としたことである。
(ウ)本件の転換制度の不合理性
a転換要件の不合理性
(a)前記のとおり,被控訴人は,事務職から一般職への転換試験
の受験資格要件として,当初,一般職最下位の職務等級である一
般3級の研修必須履修科目終了者としていたものを,平成9年4
月以降,一般職最上位の職務等級である一般1級の昇級要件を満
たしている者として,制限要件を厳しくした。転換のチャンスは
広く柔軟に設定すべきであるにもかかわらず,一般職最上位の職
務等級である一般1級の昇級要件を満たしていなければ転換試験
の受験すらできないというのは不合理である。
(b)被控訴人は,平成9年4月から「TOEIC600点以,
上」を受験資格要件とした。しかし,被控訴人においては,一般
職や総合職で国内取引等を担当してその業務に従事する上で英語
能力を必要とされない者が多数存在する。また,一般職や総合職
で「TOEIC600点以上」の資格がない者も多数存在する。
それにもかかわらず「TOEIC600点以上」を受験資格要,
件として,事務職から一般職への転換に制限を加えるのは不合理
である。
(c)被控訴人は,平成9年4月から「一般職実務検定全教科合,
格」を受験資格要件とした。これは,一般職最上位の職務等級で
ある一般1級への昇級要件の一つなのであり,このように一般職
がその業務に従事しながら一般1級に昇級するための実務検定に
合格しなければならないことを,一般職への転換試験の受験を希
望する事務職に課すことに合理性はない。
()被控訴人は,平成13年4月以降,事務職から一般職への転換d
試験の受験を認める対象者を「考課評点AB以上」の者に制限し
た。
上司及びさらに上の上司(本部長)から優秀と評価された者の
みが職掌転換試験を受験できるという点で,以前の「能力・実績
優秀な者」及び「本部長の推薦」の条件と実質上同じであり,不
合理である。なお,控訴人らは被控訴人に対して平成7年に本件
訴訟を提起したため,被控訴人から「好ましからざる社員」と評
価され,恣意的な人事考課をされてきており,控訴人P2を除き,
AB以上の評点をされた者はいない。
b転換後の処遇の不合理性
(a)転換後の配置の問題
被控訴人において,平成10年以降は,営業の職場にいた女性
については転換に際して原則として非営業の職場に異動している。
このように,一般職への転換に際し,職務経験を積んできた職場
で働き続けることができる保証はなく,営業の職場から非営業の
職場に異動させられれば,これまでの知識や経験が生かすことが
できなくなる。このような点からも,控訴人らのように性別を理
由に事務職に振り分けられた女性にとっては,一般職に転換を認
められたとしても,男性であれば受けることのない不利益を受け
ることになる。
(b)転換後の賃金の問題
平成9年4月以降の職掌転換制度では,転換後は一般1級に格
付けされ,本俸は一般1級初年度に位置づけられることになった。
一般1級初年度は男性の26歳の賃金水準であり,長年勤務
し続けてきた控訴人らにとって,事務職から一般職に転換を認め
られたとしても,その賃金は男性の26歳の水準でしかないこと
になる。
c各控訴人らと職掌転換制度
(a)控訴人P3
控訴人P3は,平成元年に一般職への転換を上司に申し出たが,
上司は高年齢を理由にこれを受け入れず,転換試験の受験すらで
きなかった。
(b)控訴人P5
控訴人P5は,職掌別人事制度自体が女性差別であり,男性は
無条件でなる一般職に女性は試験を受けなければなれないのはお
かしいと考え,また,転換して非営業の職場に異動された場合に
は営業の職場で長年勤務して積んできた知識や経験が生かされな
くなることからも,職掌転換制度による転換を希望しなかった。
(c)控訴人P4
控訴人P4は,職掌別人事制度自体が女性に対する賃金差別で
あると考え,転換したからといって差別が解消されないと考えた
ので,職掌転換制度による転換を希望しなかった。
()控訴人P1d
控訴人P1は,一般職への職掌転換を希望し,平成13年には
一般職実務検定全教科に合格した。しかし,同年4月から「考課
評点AB以上」に対象者が制限されたため,考課評点Bを付けら
れていた控訴人P1は,職掌転換試験を受験できなかった。
()控訴人P2e
控訴人P2は,平成13年度以降は考課評点がABであり,職
掌転換の対象者となり得る状況であった。しかし,控訴人P2は,
営業の職場で長年勤務してきたが,転換して非営業の職場に異動
された場合には営業の職場で長年勤務して積んできた知識や経験
が生かされなくなることからも,職掌転換制度による転換を断念
している。
()控訴人P6f
控訴人P6は,平成元年に事務1級になったときから毎年上司
に一般職への転換希望を申し出ていたが,上司の回答は「現下の
組織体制では一般職への転換を必要としていない」というもので
あり,転換試験の受験すらできなかった。
エ賃金格差の違法性
以上のことを踏まえると,本件の賃金格差の違法性は,以下のとおり
明らかである。
(ア)原判決が認定した男女別コース制は制度や契約としてそもそも存
在しないものであり,本件訴訟で問題となっている職掌別人事制度に
おける男女賃金格差について,控訴人ら入社時の「男女のコース別の
採用,処遇」によって生じたとするのは誤りである。
(イ)本件においては,賃金決定に以下のような特徴があり,これが募
集・採用,配置から生じた格差であるということはできない。
a第1に,被控訴人における男女別賃金は,被控訴人の労使が,男
女の生計維持にかかる経費の違いに基づく「生活賃金」として合意
されてきたものであり,労働者の能力や職務,責任,成果といった
要素に基づいて労働契約の労務提供面を評価して決定したものでは
なかった。
b第2に,男性社員の中でも相当多数が男性賃金テーブル及び一般
職・総合職賃金テーブルの適用を受けながら転勤によって経験を積
む社員ばかりではなかったし,他方,控訴人らは処理の困難度の高
い業務に従事し,男性社員と同一の労働関係のもとにあったのであ
り,こうした実態をみても,募集・採用,配置の結果として賃金に
差異が生じたとする判断は何らの根拠もない。
c第3に,この職掌別賃金制度を議題とした労使交渉の席上,職務
の重なり合いは被控訴人も認めてきたところであり,他方で,男女
賃金格差を問題にした労使交渉の席上における被控訴人の説明は,
女性の一般的な勤続年数の差異のみであった。
(ウ)労働基準法4条違反について
本件で問題となっている男女間の著しい賃金格差は,年齢別事務職
賃金表(年齢別)と年齢別一般職賃金表(年齢別)の違いによるもの
で,被控訴人の性による差別意思は長期にわたる強固なものであり,
労働基準法4条(なお,1951年ILO総会において採択され,1
953年5月に発効した100条約を1967年に批准するにあたっ
て,労働省は労働基準法4条の見直しを必要とするものではない旨の
見解を国会答弁において表明し,労働基準法4条は,この条約に定め
る原則を織り込んで法秩序を形成していることを明らかにしてい
る)に違反する。労働基準法4条は「使用者は,労働者が女性で。,
あることを理由として,賃金について,男性と差別的取扱いをしては
ならない」と定めており,その私法規範としての要件は幅が広く,。
男女が同一価値労働に従事していることは,その成立要件ではない。
仮に,労働基準法4条違反と直接判断しないとしても,少なくとも労
働基準法4条に照らして社会的に許されない賃金の差別的扱いである
と解すべきである。
(エ)職掌の配置差別と公序(民法90条)違反について
仮に労働基準法4条に違反しないと判断された場合であっても,被
控訴人が昭和60年に実施した職掌別人事制度における男女の職掌配
置の差別は,二つの職掌への配置が二つの賃金体系に直結して,職掌
への配置と賃金が直接連動しているから,賃金以外の労働条件につい
ての差別であり,公序良俗に反するものとして無効となり,もしくは
不法行為となるものである。このことは,労働基準法が施行された昭
和23年当時から違法と評価されるべきだが,改正前の民法1条の2,
民法90条,労働基準法3条,4条の規定(労働基準法3条,4条の
背景には近代市民法の普遍的な原理である均等待遇原則がある)に。
加えて,努力義務規定(努力義務といっても,高次の法的な義務であ
る)であっても配置について差別的取扱いをすべきでない旨の旧均。
等法が制定,施行(昭和61年)された以降において,賃金に連動す
る職掌の配置差別が,公序に違反し社会的に許容されない不法行為で
あることは明らかである。
()原判決の争点3(専任職賃金カットの違法性)について2
ア専任職賃金制度導入の経緯等に関する事実誤認
原判決が認定した専任職賃金制度を導入した経緯は,以下の事実誤認
がある。
(ア)被控訴人の専任職制度提案の趣旨
原判決は,組合の60歳定年延長要求を受けて専任職制度を導入す
ることにしたとして,被控訴人が何をどう考えてこれを決断したのか
は認定するものの,その理由に実質的な合理性・必要性があったのか
については何も判断していない。
原判決の認定した被控訴人の専任職制度の提案趣旨は,控訴人ら女
性社員に専任職制度を適用しなければならない合理的な根拠を示した
ものではない。すなわち,原判決の認定によっても,被控訴人は,一
般職・管理職の増加が人件費及びポストの点で問題であるとの趣旨か
ら同制度を提案したというのであり,事務職とされていた控訴人ら女
性社員については,全く関心の対象外とされていた。しかも,一般職
・管理職の増加を指摘する点においては,当時の被控訴人において,
57歳で定年になるまで一般職に留め置かれた社員はおらず,40歳
も過ぎれば男性であれば誰もがポストの有無には関係なく管理職に格
付けされて,一般職よりはるかに高額な賃金の支給を受けていた。ま
た,ポストの点でも,役職にかかわらず管理職としての資格をもって
賃金を決定してきた被控訴人において,上記の制度の提案趣旨では十
分な説明にならない。
さらに,増額が予想される人件費の試算で前提とされていた人件費
予測228億円が実際には206億円に過ぎず,その根拠に乏しいこ
とが明らかになった。しかも,控訴人ら女性社員に関する試算が全く
試みられなかったというほど,女性社員は人件費において無視された。
(イ)制度導入の経過に関する事実誤認
原判決の事実認定は,制度導入に至るまでの労使交渉の本質的な部
分には目を向けない誤った認定である。すなわち,昭和63年9月の
専任職制導入等の会社提案に対しては,職場集会などでも女性組合員
を中心として「特に役職者でない女性を含めるのはおかしい」とい。
う発言が相次ぎ,被控訴人の労使は平成元年4月導入を見送り,継続
審議とせざるを得なかった。その後,同年6月,被控訴人は労働組合
に協議再開を申し入れ,労働組合本部は賃金カット率が25パーセン
トから20パーセントに改善されていることを大きな根拠として,妥
結に向ったが,女性組合員の反対の声はきわめて強く,それでも受入
れを採択しようとする執行部の動きに対抗する形で,控訴人らを含む
女性代表者有志4名が同年7月に「定年制延長並びに人事制度の一『
部改定』にあたっての申し入れ」を組合本部に提出し,全員投票によ
って妥結を決定すべきであると申し入れた。ところが本部委員会はこ
れを無視した。
原判決は,事務職からの反対意見が出されたことは認めながらも,
労働組合が組合員の反対意見をも聞いたうえで労使協議を行ったと認
定するが,労働組合は組合員の意見を聞いたといえるような事実は存
在しないのであって,アンケートなどは,これを否定する証拠とはな
りえない。
さらに,労働組合婦人部は少数派集団である女性の利益を労働組合
に反映させるための有力な手段となっており,男女別賃金体系をとっ
ている場合には,労働組合が女性の利益を公正に代表していたといえ
るかどうかを検討するうえで,婦人部や代議員組織を通して女性の利
益が労働組合に反映されていたかはとりわけ重要である。ところが,
昭和60年4月に職掌別人事制度が実施された際に,労働組合は,婦
人部会に男性を配置し,昭和61年には,女性組合員の意見を反映さ
せてきた婦人連絡員を廃止した。労働組合は控訴人P3ら女性の反対
意見が反映されることを妨害し,抑圧してきたのである。
(ウ)不利益性に関する事実誤認
専任職制度の導入によって,控訴人P3は,55歳から60歳まで
の5年間働き,従前の賃金であれば3年分の給与しか受け取ることが
できないもので,2年間はただ働きということになった。原判決は,
定年までのトータルで金銭の多寡を評価するが,労働者にとって,定
期的に支払われる月例賃金が確保されるかが決定的である。原判決は,
こうした賃金に関するもっとも重要な原則とその趣旨を無視して,そ
の不利益性を評価している。
被控訴人は,制度導入にあたり,男性社員の賃金水準が社会一般の
同年代の生計維持にとりどれほど影響があるのかを検討し,標準世帯
の収入を下回ることはないとの判断のもとに20パーセントカットを
行ったのに対し,控訴人ら女性の生活状況について爪の垢ほどの検討
もしなかった。同じ20パーセントカットであっても,もともと低賃
金で27歳の男性社員の賃金の額を超えることのなかった女性社員に
対する打撃は大きかった。
さらに,女性社員は,専任職制度が導入され,その職務は全く変わ
ることはないのに,賃金上の不利益を受けたのみならず,専任職制度
の導入による55歳以降の賃金カットにより著しい精神的苦痛を受け
た。
控訴人P3は専任職となり,月6万8000円,年120万円の減
収になった。子どもの高校入学にあたり生活費も増え,従来の預貯金
を取り崩して生活費の不足を補って生活せざるをえないという著しい
不利益を蒙った。そして,同人は,賃金減額によって労働者としての
誇りと自信を損なわれ,著しい精神的ダメージを受けた。
イ平成元年覚書の控訴人P3への適用の有無
原判決は,専任職制度導入を合意した労使の覚書は労働協約として控
訴人らを拘束すると判断したが,以下のような誤りがある。
(ア)平成元年覚書による専任職制度導入についての判断の誤り
a定年延長の社会的要請にしたがったという判断の誤り
原判決は「同覚書は,定年延長という社会的要請に応じるため,
のものであったこと「一般に,定年延長は,年功賃金による人件」
費の負担増加を伴うのみならず中高年労働者の役職不足を深刻化し,
企業活力を低下させる要因ともなるから,定年延長に伴う人件費の
増大,人事の停滞等を抑えることは経営上必要なことといえる」と
した。
しかし,中高年の労働者も労務を提供して利益を生み出している
のであるから,定年延長と賃金カットと直結させるのは,あまりに
も杜撰な事実認定である。同様に,中高年労働者の役職不足を深刻
化させ,企業活力を低下させる要因ともなるとする部分は,事実に
反する。定年延長に伴う人件費の増大,人事の停滞等を抑えること
は経営上必要なことといえる部分は,全く根拠を示していない。
b専任職制度導入の必要性・合理性に関する判断の誤り
原判決は,今後さらに高齢化が進み,役職不足も拡大する見通し
である反面管理職の賃金体系からみても,仮に20パーセントをカ
ットしても一般職の賃金より高額であり,経営体力が十分とはいえ
ない状況にあったというが,いずれも具体的な根拠を示していない。
仮に役職不足が生じるとしても,役職者を役職からはずし単なる管
理職とすればよいだけで,一律に20パーセントの賃金カットをす
る根拠とはならない。また,人件費についても,営業利益からすれ
ば,被控訴人は当時トップであったのであり,賃金カットの必要性
に欠ける。さらに,従前どおり57歳で退職するという選択権が社
員に与えられるべきであるのに,被控訴人は,その選択権を認めな
かった。
c退職金の累積ポイント制導入
専任職制度とともに,退職金制度がそれまでの本俸リンク方式が
変更され,累積ポイント方式が導入されることになり,ポイントは
勤続ポイントも職能ポイントも,事務職は一般職より低く設定され
た。それまでの退職金制度において低賃金に押さえられてきた女性
事務職にとって,累積ポイント方式の導入により著しい不利益を被
ることになった。これも,専任職制度の導入・適用と同じく,経営
上の必要性もないのに,ことさら女性の賃金や退職金を低下させる
ことだけを目的に行われたものというべきである。
(イ)平成元年覚書の控訴人P3への適用に関する法律判断の誤り
原判決は「平成元年覚書の締結に至るまでには,被控訴人と組合,
との間で交渉が重ねられるとともに,組合は,職場説明会やアンケー
トの実施などを行い,また反対意見も踏まえた上,全国代議員総会で
被控訴人の提案を可決したのであるから(第4章第2の2()カ(ウ)2
b,女性組合員が専任職賃金カットに反対し,平成元年覚書締結の)
過程においてその意見が容れられなかったからといって,組合が平成
元年覚書を締結したことが,組合員から与えられた授権の範囲を逸脱
し,労働組合の交渉権や労働協約締結権を濫用したものとはいえな
い」とした。
しかし,労働組合は,専任職制度導入について女性組合員が根拠を
示して,その不合理及び打撃性を訴えて再検討を促し,最終的には強
く導入に反対しても,これを全く拒否した。労働組合は,女性組合員
の声が組合に影響力を与えないよう,婦人部に男性を配置したり,婦
人連絡員制度を廃止するなどしてきた。
そして,労働組合が女性を公正に代表していないことに加え,女性
組合員が受ける著しい不利益にもかかわらず,労使がこれを検討の対
象にもせず,しかも女性社員については専任職制導入の経営上の必要
性など全くなく,平成元年覚書の締結が特定又は一部の組合員をこと
さら不利益に扱うことを目的として締結されたとしか考えられない事
情が認められることなどを総合すると,平成元年覚書には,労働協約
の効力を及ぼすことのできない特段の事情があるというべきである。
更に,被控訴人の労使はユニオンショップ協定を締結しているため,
控訴人P3は,制度の適用を受けたくなければ労働組合を脱退する以
外になく,そのことは雇用関係上の地位を失うという深刻な不利益と
直結する。このような労働組合の拘束性に基づく不合理きわまりない
重大な不利益が生じることも勘案すると,平成元年覚書は,控訴人P
3に対し拘束力を有しないものというべきである。
(ウ)就業規則不利益変更の合理性について
原判決は,平成元年8月の就業規則の変更は合理性があるというが,
原判決の判断は就業規則の不利益変更法理として重大な問題があるこ
とに加え,最高裁の判例にも反するものである。労働組合との合意が
あるからといって,その点に格段の重要な意味をもたせて合理性の推
定を認めることは,許容されるべきでない。
以上のとおり,本件就業規則による労働条件の不利益変更は,女性
社員に対し必要性が全くなく不合理であることが著しいものであって,
労働者を拘束しない。
(エ)労働基準法3条・4条,民法90条違反等
a控訴人P3は55歳達齢時には27歳の男性社員と同じ低賃金で
あった。仕事の内容は全く変わらず質量とも増えていたにもかかわ
らず,専任職導入により一方的に賃金を20パーセント減額された
ことは,労働基準法4条に反する。
bしかも,平成元年覚書は,女性の賃金を切り下げる目的でなされ
たものであり,労働基準法3条に反する。
c更に,①低賃金である女性に対してさらに重大かつ深刻な経済的
・精神的ダメージをもたらしているのに,②その適用による生活へ
の影響や個別具体的な必要性・合理性についての検討を怠ること著
しく,③むしろ全く考慮の対象としなかったといってもよいほど
「どうでもよい」扱いとして,④単に年齢が55歳に到達したとい
うだけの事由に基づき一方的に賃金を減額し,⑤そのうえ,その反
対給付である働きだけは従前以上のものを求める,という不公正で
あること著しい不利益変更は,公序,国際的公序(ILOの「高齢
労働者に対する勧告」など,年齢を理由とする差別禁止)に反して,
違法・無効である。
()原判決の争点4(控訴人P5及び同P4,同P1に対する付加給・調3
整給カットは違法か)について。
ア調整給・付加給のカットの経緯等
(ア)付加給に関する事実認定の誤り
付加給は,扶養家族をもつ女性,独立生計者と認められた女性にと
っては低賃金を緩和するものとなっていたので,付加給のカットは女
性に対し,給与面で重大な不利益を被らせるもので,原判決は事実認
定を誤っている。
原判決は「55歳以降生活費は大幅に低下するとする統計から支給
しなくても支障がないと考えた」と認定したが,原判決が前提として
いるのは総務省統計局による世帯類型別一世帯当たりの収入と支出
(1ヶ月平均)で,夫が世帯主である世帯のもので,控訴人らを含む
女性事務職の賃金は同統計の額にはるかに及ばない低賃金である。原
判決の「55歳以上の者に支給しなくても支障がない」という考え方
は,女性は夫に扶養されているものであるという固定観念を前提とし
なければ成り立たない。
(イ)調整給に関する事実認定の誤り
調整給のカットは,稀に事務職特級に昇格した女性は別として,そ
れ以外の事務職の女性に55歳達齢による賃金カットをもたらすもの
で,まさに中高年女性を狙い撃ちにしたものであり,原判決の事実認
定は,このことを全く無視している。
専任職制度導入による事務職の賃金減額は何らの必要性も合理性も
なく中高年女性の賃金減額のみを目的としたものであり,このことは
55歳達齢による調整給・付加給の不支給と全く同様である。
イ平成9年協定の適用の有無
(ア)平成9年協定を労働協約と認めた判断の誤り
原判決は,平成9年協定は労働協約であると認めたが,書面化され
ているとした協定書には「1『新人事制度』とは,次の各号の文書に
よって会社より提案されたものに基づき,労使間で確認された内容を
さすものとする。()1995年12月14日付『人事制度改定案1
(骨子』()1996年12月6日付『新人事制度最終実行案』)2
()1997年1月17日付『新人事制度最終実行案の追加訂3
正」と記載されているのみで,労使の合意内容が同一書面のなかに』
記載されておらず,3つの文書を照合して初めて確認できるものであ
った。このような書面は,労組法が労働協約として予定する書面とは
いえず,労働協約とは認められない。
(イ)平成9年協定に関する合理性判断の誤り
付加給・調整給カットは,中高年の女性を狙い撃ちにした賃金カッ
トであり,性別を理由とする不合理な差別であり,公序良俗に違反す
るものである。
ウ平成9年協定の協議経過に関する事実認定の誤り
原判決は,控訴人らの主張を無視し,現実に起こった事実(労働組合
は,平成元年に婦人部を労働厚生婦人部とし,部長に男性を配置するな
ど,実質的に婦人部を廃止し,女性の意見を労働組合に反映させるため
の機関を自ら廃止してしまったこと。労働組合が,調整給カットに関し
て,全く関心をはらうことなく,組合員への説明をしなかったこと。労
働組合は,控訴人らが平成元年9月に東京都苦情処理委員会へ苦情の申
立てをしたことがテレビのニュース番組で報道されたことに反発して,
控訴人らを非難する内容のビラを配布したこと)をねじ曲げて,労働。
組合が公正に利益調整をしたと認定したもので,重大な事実誤認である。
エ調整給カットについての労働組合の態度
被控訴人は平成7年12月に労働組合に「人事制度改定案」を提示し,
労働組合はその提案を組合ニュースに掲載したが,それは解りにくいも
のであった。労働組合は組合員に対する説明を掲載したニュースを配布
したが,その中では,「新人事制度改革シリーズ」で事務職について変更
はないと説明していた。
労働組合は,平成9年2月,労働組合の主張が一部認められたとして,
同年4月導入を組合員に対し正式に提案した。被控訴人はこの時点で,
一般職及び事務職の専任職制度を廃止することを受け容れており,調整
給の調整にかかる事項として,55歳以降の従業員の調整給カットを示
唆するものは含まれておらず,組合員には全く知らされていなかった。
労働組合は新人事制度について組合員に情報提供をしたが,その際,
組合ニュースに掲載された最終実行案には,膨大な賃金データの欄外に
調整給は55歳以降カットすると記載されていただけであった。控訴人
らは,労働組合が最終実行案をまるごと受け容れ実施するものとして確
認することなど全く知らされていなかった。
ところが,原判決が,最終実行案の膨大な賃金データの片隅に記載さ
れていることを指してだまし討ちではないとしたのは,重大な事実誤認
である。
オ原判決の法的な判断に関する誤り
55歳達齢による調整給・付加給カットは専任職制度による賃金カッ
トと同様に,仕事の内容は全く変わらないのに,一方的に女性の賃金を
低額に抑制することを意図して賃金を減額したものであり,労働基準法
4条に反する。また,賃金減額措置は,55歳に到達したというだけを
もって行なうものであり,年齢を理由とする不利益な取扱いは,何らの
合理的な根拠もなく,また自己の努力によっては克服できないことを事
由とする不利益であることからすると,労働基準法3条,4条の趣旨に
反し,民法90条の適用によって,違法・無効というべきである。
B(被控訴人の主張)
()原判決の争点2(差別の有無及び違法性)について1
ア本件労働関係の同一性と賃金格差の不合理性
(ア)控訴人らの主張はいずれも争う。
(イ)商社の基幹業務と補助業務
商社における基幹業務は,営業部門,職能部門を問わず,商社の業
務遂行の過程における商社機能そのものに直結する業務であり,企業
の究極的存立意義である社会価値,ひいては企業利益の本質的創出業
務である。他方,商社における定型的事務的補助業務は,ルーティン
化された事務的庶務的業務であり,策定された社内の基準に則って処
理し,規則性があるとの意味で定型的な業務であり,基準が予め用意
されていない場面においては,基幹業務担当者の指示の下で行うとい
う意味で秘書的・補助的業務である。以上から,基幹業務と定型的事
務的補助業務との間には,質的な明確な違いが存在する。
被控訴人は,規模が拡大し,商社としての機能を発展させるにつれ,
他の商社と同様,また,相当規模の企業一般と同様「基幹業務」と,
「事務的補助的業務」につき,それぞれを担当する社員層を置き,業
務遂行の効率化・合理化を図ってきた。
以上から,被控訴人において,社員層として,基幹業務を担当する
社員層と定型的事務的補助的業務を担当する社員層とがある(それ以
外に,特定業務を担当する社員層も擁した。基幹業務担当社員層。)
は,商社の本来的業務・機能を担当する社員層であり,輸出入・国内
取引推進者及び職能部門スタッフとして,商社の本来的業務を,対外
折衝・企画立案・調査研究・内部調査などにあたって遂行する社員層
及びその育成過程にある者をいい,勤務地の限定はない。これに対し,
定型的事務的補助的業務を担当する社員層は,基幹業務遂行者を補佐
し,事務的秘書的業務を担当する者をいい,業務は,上司の指示また
は定められた規則・規定手続・慣行等に基づいて遂行するが,経験と
学習により担当業務遂行能力の高度化が期待され,原則として,勤務
地の変更はない。そして,被控訴人において,職務上必要とされる能
力・適性(基幹業務を担当する社員には,企画力・折衝能力・英語力
が必要である,業務内容の難易,業務の規則性の有無(基幹業務。)
を担当する社員には,自己の権限の範囲で,主体的に企画・立案・判
断し,職掌・レベルに応じたノルマの達成・専門能力の習得・発揮が
求められる,業務の繁忙さの有無(基幹業務を担当する社員には,。)
予定外の展開にも機敏に対応する取り組みが求められ,必要に応じて
長短期の国内外の出張もこなし,取引先・相手方次第で,繁忙さに身
を置くことが必要である,業務の代替性の有無(基幹業務を担当。)
する社員には,代替性がない)の各要素において差異がある。。
(ウ)職掌別人事制度導入前の人事制度
a被控訴人が担当業務別人事制度を設けていた事実
被控訴人は,旧兼松・江商・合併後の被控訴人を通じて,控訴人
らの採用の以前から,会社が期待する職種・仕事の違いによって,
明確に社員を区分し,各社員層について,入社時の資格に応じた採
用区分別に担当業務を区分し,その業務に応じた処遇を行う人事制
度が存在した。
b各控訴人らは,異動を伴う転勤のない条件で,事務的・補助的業
務を担当する社員層として採用され,事務的・補助的業務の範疇に
ある被控訴人における業務を担当してきた。
c被控訴人は,控訴人ら採用の時点から,いずれの時期にあっても,
「基幹業務担当社員層」と「事務的・補助的業務担当社員層」を明
確に区分し,募集・選考・採用において,別個の手続により,それ
ぞれの担当業務に見合う資質・適性を問い,雇用契約の締結に至っ
たこと,入社後の研修につき,それぞれ別個の研修内容で,担当業
務遂行に必要な研修を実施してきたこと,入社後の配属・異動の有
無につき「住居の移動を伴う転勤」がある社員であるかない社員,
であるか,雇用契約締結時から明確であったこと,業務執行責任に
つき,基幹業務担当社員層はこれを負い,事務的補助的業務担当社
員層はこれを負わないことは明確であり,また,いずれの社員層も,
担当業務の評価基準が業務執行責任との関わりで評価され考課を受
けているか否かを,当然認識していた。
d以下の事実から,被控訴人に別の社員層があることは知らなかっ
たという控訴人らの主張が虚偽であることは,明らかである。
(a)被控訴人は,募集(募集案内・求人票,会社説明会,内定者
を対象に実施するガイダンス等・選考(誓約書・推薦状等の提)
出・採用において,基幹業務担当社員層と事務的・補助的業務)
担当社員層とを別個に行ってきた。控訴人らが被控訴人のそのよ
うな手続を知らなかったということは,有り得ない。
(b)入社時の辞令交付と就業規則の配付により,事務職として採
用された者は,転勤の有無を含む採用条件の異なる社員層が存在
することについて,明確に認識をすることとなる。
(c)被控訴人は,入社後の研修につき,担当業務の必要に応じた
内容で,基幹業務担当社員層と事務的・補助的業務担当社員層に
対し,一部重なることがあったとしても,それぞれ別個に実施し
ていた。
()入社後の配属・異動につき,控訴人らは,店限採用であること,d
出身学校の推薦により採用手続に臨んでいること,他に勤務地の
限定のない条件で採用された社員層があることを熟知していた。
()被控訴人の事務的・補助的業務担当の社員として採用された社e
員層は,日常の業務遂行において,一般職をアシストする業務を
担当することにより,実践的に自己の担当する業務を認識する。
イ職掌別人事制度の内容の問題点
(ア)控訴人らの主張はいずれも争う。
(イ)被控訴人と労働組合は,昭和60年,職掌別人事制度の導入を合
意した。同制度において「会社の基幹業務を担当し,対外折衝・企,
画立案・調査研究・内部調達等に当たる社員層及びその育成過程にあ
る者」である「一般職掌」と「基幹業務遂行者を補佐し,主として事
務的秘書的業務を担当する社員層」である「事務職掌」とが規定され
たが,被控訴人において,制度導入前から担当業務区分別の雇用管理
が行われてきたもので,制度移行にあたり,担当業務に変動はなかっ
た。控訴人らは,事務職掌社員とされ,従前どおり事務的補助的業務
を担当し,制度導入により何ら変更はなかった。
(ウ)したがって,職掌別人事制度の導入以降も,事務職掌社員は,自
己の担当する業務(事務的・補助的業務担当)が何であるかというこ
と,別の社員層(基幹業務を担当する社員層)が存在することを認識
していたことは,前記ア(ウ)d記載のとおりである。職掌別人事制度
の導入とともに採用された職掌転換制度に応募し,事務職から一般職
への転換者,更には転換後に総合職・管理職等になった社員が存する
事実は,被控訴人において,異なる身分・資格の社員層が存する事実
が前提であり,控訴人らもこのような認識を有しているはずである。
(エ)昭和60年以降の被控訴人の「新卒採用職掌別・男女別内訳」
は,別紙2記載のとおりであり,一般職新卒採用の女性は,昭和62
年2名,平成3年1名,平成9年・10年・11年各2名,平成13
年1名,14年・15年各3名,平成16年2名であり,一般職新卒
採用者に占める女性の割合は,ここ数年2割前後に上っている。
事務職から一般職への転換者は,昭和62年から平成16年までに,
計32名に上り,この内,総合職への転換者もあり,内2名が平成1
6年7月末現在課長職にある。
一般職の新卒女子採用の実績と職掌転換制度の運用実績により,一
般職掌の女性社員は確実に増加し,平成16年4月現在で,一般職社
員92名中,女性は21名と,約23パーセントを占めるに至ってい
る。
一方,事務職新卒採用については,被控訴人は,均等法の施行以降,
男女を問わず募集を行っているが,男性の応募はなく,応募者は全て
女性であるという実情にある。
ウ職掌転換制度について
(ア)原判決記載の争いのない事実等を除き,控訴人らの主張はすべて
争う。
(イ)旧転換制度について
昭和60年1月の職掌別人事制度の導入に伴い,被控訴人は労働組
合との協議を経て旧転換制度を設けた。旧転換制度は,一般職から管
理職への転換,事務職から一般職への転換,一般職から事務職への転
換を認める制度であった。この旧転換制度により,事務職から一般職
に転換した者は,昭和62年10月に初めての転換者が出て以来,平
成7年7月までの間に9名であった。被控訴人では,社内の実務講座
があり,事務職も希望すれば勤務時間中に一般職と同一内容の講座を
受講できたが,控訴人らは,旧転換制度が求める要件の一つである一
般研修必須履修科目の履修をしていない。
原判決は「旧転換制度は・・・本部長の推薦があってはじめて転,
換対象者となるとされていることからすれば,事務職が一般職への転
換を希望しても,本部長の推薦がない限り転換制度そのものも受験で
きず,転換の機会それ自体を奪われることになっている」と判示する
が,当該判示部分には事実誤認がある。すなわち,被控訴人が事務職
から一般職への転換に本部長の推薦があることを前提としたのは,一
般職としての適性や潜在能力を見極めるためには現場の最高責任者で
ある本部長の理解と推薦が重要であると判断したからであった。しか
し,旧転換制度においても,本部長の推薦の有無にかかわらず転換希
望は人事部に伝わる制度となっており,本部長の推薦が得られない場
合には人事部がその理由を本部長に確認するという取扱いになってい
たから,当然,本人希望と本部長の意向との間に齟齬がある場合には,
制度上も一定の調整が予定されていたのであって,上記判示部分は旧
転換制度の運用上の一局面を過大視したものと言わざるを得ない。
(ウ)新転換制度について
平成9年4月に実施された新人事制度は,社内風土の変革と実力主
義の徹底を目的に旧制度の管理職・一般職に対する人事処遇制度の骨
組を大きく変更したものであり,企業の存亡をかけた改革に事務職だ
けをその埒外に置くことはできないとの認識の下,被控訴人と労働組
合との間で協議を重ね,同年3月25日,労働協約を締結し,同年4
月1日から実施した。事務職についても処遇面での改定が行われ,そ
の一環として,より高い職務の付与とより高い処遇への途を可能な限
り広げることを目的として,新たな転換制度(新転換制度)が設けら
れた。
新転換制度によって,職掌間の転換を可能とするものであること
(職掌に関する規定3条,事務職から一般職の職掌転換について,)
旧転換制度における「能力・実績優秀な者」との要件がなくなったこ
と,本部長の推薦が不要とされたこと,転換試験の内容が「適性検査
(一般職新卒採用時に実施しているものと同一,小論文,役員面)
接」と改められたことなどから,合理的である。
転換可能時期も事務職として大卒で入社してから最短で4年後,2
6才時に転換試験を受けることが可能となった。しかも,転換後は一
般1級に格付けられるのであるから,新転換制度の導入によって,事
務職で入社した社員も一般職で入社した社員の次年度から一般1級に
転換が可能となった。さらに,高齢の事務職にも職掌転換の途を開く
ため,事務特級からも転換が可能となった。
新転換制度では,事務職から一般職への転換後は一般1級に格付け
られることとされていたため,整合性及び公平性の観点より,一般1
級昇級要件を満たしていること,その1つとして「TOEIC600
点」という転換要件を設けたものであり,職掌の区分に応じて積まれ
た知識・経験が異なった者についてその転換をする以上,職掌の転換
に際して一定の資格要件の具備を求めるのは当然のことであり,何ら
不当なものではない。この点,一般職実務検定の講義,試験に要する
時間的負担に関し,通常業務との調整が十分可能であることは,何よ
りも転換者数の実績から明らかであり,実務検定試験は1回限りのチ
ャンスではなく,複数年をかけて各教科に合格することも可能なもの
であった。
なお,平成13年4月1日より「TOEIC600点以上」は総,
合職への転換要件に変更されたため,現在では一般職への転換要件で
はない。
新転換制度の導入によって,実際に職掌転換者は増加している。
(エ)平成13年4月の転換要件の緩和と合理性
新転換制度は,組合との労働協約により平成13年4月1日の転換
者から転換要件が緩和され,事務職から一般職への転換について,対
象者がそれまでの「事務1級以上」から「事務1級以上かつ考課評点
AB以上」とされ,転換後の配属も「転換時に職務の変更を人事部が
確認する(他部門への異動も含む」が付け加えられる一方で,転。)
換試験受験資格要件の1つであった「TOEIC600点以上」が削
除された。そして,それまでの知識,経験を異にする一般職への転換
に当たり,事務職としての一定の能力を要求することは不合理なこと
ではなく「考課評点AB以上」を加えたことは,何ら転換制度の合,
理性を減殺するものではないこと,転換時に他部門への異動を含めて
職務変更を人事部が確認することも,対象者にとって特段不利益では
ないこと「TOEIC600点以上」が削除されたことはより転換,
を容易にするものであることから,平成13年4月の転換要件の緩和
は,被控訴人の転換制度が合理的であることをより強固に裏付けるも
のである。
新転換制度は,事務職から一般職への転換対象者は「事務1級以上
かつ考課評点AB以上」とされたが,平成11年度から平成14年度
までの事務特級及び事務1級の評点分布は,AB以上が約50パーセ
ントから70パーセントを占めているのであって,転換の対象者とし
て考課評点AB以上の者とすることは,何ら不合理なものでもない。
(オ)平成16年の職掌転換制度の合理性
さらに,被控訴人は,職掌転換の選択肢(間口)を広げる趣旨から,
平成16年4月1日から,組合との協議(同年3月1日,16日開催
の団体交渉など・妥結(同年3月18日付け覚書締結)を経て,新)
転換制度における事務職から一般職(一般1級)への職掌転換制度を
残したまま,新たに事務2級以上の事務職社員に一般2級への転換制
度を追加して設けた(以下「平成16年転換制度」という。この。)
ように職掌転換の選択肢を広げた平成16年転換制度が合理的なもの
であることは当然である。
(カ)転換後の処遇
事務職から一般職への職掌転換後の業務は,転換者本人の希望や被
控訴人のニーズを総合的に勘案して個別に決定しているものであり,
大多数の転換者は事務職時代と同一部門で一般職の業務を担当してい
るというのが真相である。転換者は,一般職としてのキャリアアップ
を希望して転換に応募しているのであって,そのような転換者を引き
続き同一部門に配置するか,それとも別部門に配置するかというのは,
正に千差万別の判断であり,被控訴人において,転換者は必ず配置転
換するなどという一律の運用をしてきた事実もない。
被控訴人において,職掌転換後の配置が転換者本人の希望も考慮し
た上で個別かつ適切に決定してきた。
エ本件賃金格差の違法性
(ア)控訴人らの主張はいずれも争う。
(イ)企業が憲法上有する採用の自由を前提として,近時の裁判例は,
いわゆる男女別雇用管理(男性は基幹要員として採用・育成・処遇し,
女性は補助的要員として採用・処遇する男女別コース制)は,均等法
成立以前の時期,及び同法において採用・配置・昇進の均等取扱いが
努力義務とされていた時期については,公序に反するものではないと
等しく判示するところである。
(ウ)旧均等法における政府のガイドラインは,女性に対する機会保障
のために女性のみのコースを設置すること自体適法としていた。
その後平成9年6月11日改正均等法が可決成立し,同月18日に
公布され,これにより,募集・採用,配置・昇進の差別が禁止される
に至り,これが平成11年4月1日から施行された。
ところで,最高裁判所は「法律行為が公序に反することを目的と,
するものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点
の公序に照らして判断すべきである(最高裁判所平成15年4月1」
8日第二小法廷判決,民集57巻4号366頁)と判断している。
控訴人らは,いずれも昭和32年から同57年までの間に被控訴人
(旧兼松,江商を含む)に採用されたものであるが,その当時,担。
当業務区分に応じて採用を区別することが公序良俗に反するものでは
なかったことは,近時の裁判例が等しく判示するとおりである。従っ
て,旧均等法の制定・施行によって,違法性を帯びることのない採用
の区別によって生じた控訴人らと一般職社員との間の賃金格差が,遡
及的に違法性を帯びることなどあり得ない。
()原判決の争点3(専任職賃金カットの違法性)について2
ア専任職賃金制度導入の経緯等に関する事実誤認との主張について
控訴人らの主張はすべて争う。控訴人らは,被控訴人が主張した定年
延長及び専任職制度の必要性について「控訴人ら女性社員に専任職制,
度を適用しなければならない合理的な根拠を示したものではなかった」
などと主張するが,定年延長による人件費増大は管理職・一般職のみに
生じる問題でなく,被控訴人が,定年延長に際して,管理職・一般職は
もとより事務職をも対象として,社員の年齢別人員構成を検討し,将来
像をシュミレーションしていたことは原審において主張したとおりであ
る。一般職・事務職の区別なく同一の制度導入を行ったことに男女差別
の入り込む余地はない。
定年延長と専任職掌の新設に関する被控訴人の提案を受け,労働組合
は,団体交渉を行うとともに,組合員に対し,職場説明会を開いたり,
アンケートを実施したり,団体交渉の内容を知らせたり,質問状を被控
訴人に提出したりし,被控訴人は説明資料を配付したりした。その後,
労働組合は,平成元年7月10日の全国代議員総会で被控訴人の提案を
賛成多数で可決し(70名のうち賛成54名,被控訴人との間で平成)
元年覚書を締結した。
このように,平成元年覚書の締結にあたっては,組合の意思決定機関
である全国代議員総会が開催され,採決によって可決承認されているの
であって,組合の民主的な意思決定手続を経たことは明らかである。
控訴人らは,昭和60年に労働組合が婦人部会に男性を配置し,昭和
61年に婦人連絡員を廃止したことを取り上げて「労働組合は女性の,
利益を公正に代表するどころか,女性の反対意見が反映されることを妨
害し,抑圧してきた」などと主張しているが,平成元年覚書の締結時点
の組合代議員の構成は事務職に不利となるものでなく,平成元年覚書は,
事務職である代議員も含めて多数の代議員の賛成に基づいて締結された
ものであって,事務職の不利益を意図して締結されたものでないことは
明らかである。
イ平成元年覚書の控訴人P3への適用の有無について
控訴人らの主張はいずれも争う「労働協約は,組合員の個々の労働。
契約について規範的効力を有するものであり(労働組合法16条,そ)
の変更内容が組合員に不利益を及ぼす場合であっても,当該協約が締結
されるに至った経緯,使用者の経営状況,変更内容に照らし,同協約が
特定の又は一部の組合員をことさら不利益に扱うことを目的として締結
されたと認められる特段の事情がない限り,不利益を及ぼされた組合員
にも効力が及ぶものである」こと,及び平成元年覚書には特定の又は一
部の組合員をことさら不利益に扱うことを目的として締結されたと認め
られる特段の事情が存しないことは,原判決が正しく判断したとおりで
ある。また,定年延長に伴う人件費の増大は事務職にも当てはまるもの
であるから,事務職の賃金水準等の見直しの必要性が認められること,
専任職賃金カット等の就業規則変更に合理性が認められることも,原判
決が正しく判断したとおりである。
よって,平成元年覚書は控訴人P3にも効力が及ぶもので,且つ同年
8月に変更された就業規則は控訴人P3を拘束する。
()原判決の争点()(控訴人P5及び同P4,同P1に対する付加給・調34
整給カットは違法か)について。
控訴人らの主張は全て争う。原判決の認定は正当である。
付加給の廃止に当たっては,総合職B,C,一般職及び事務職のいずれ
にも公平に配慮しているのであって,付加給廃止に伴う措置が事務職に特
段の不利益な制度でなく,年齢や性別を理由とする不合理な差別などに該
当しないことは明らかである。
平成9年協定の締結に至るまで,被控訴人と労働組合との間で約1年間
交渉が重ねられ,労働組合は,職場説明会やアンケートの実施などを行い,
組合としても対案を出すなどし,控訴人P5らの平成9年協定締結への反
対意見をも踏まえた上,全国代議員総会で被控訴人の最終実行案を可決し
たものである。女性組合員が付加給・調整給カットに反対し,平成9年協
定の締結過程においてその意見が容れられなかったからといって,平成9
年協定が特定の又は一部の組合員をことさら不利益に扱うことを目的とし
て締結されたと認められる特段の事情があるとはいえず,また,労働組合
が平成9年協定を締結したことが,組合員から与えられた授権の範囲を逸
脱し,労働組合の交渉権や労働協約締結権を濫用したものともいえない。
第3当裁判所の判断(以下,書証について,特に枝番を特定する必要がある場合
を除き,枝番の記載を省略する)。
1争点1(確認の利益)について
控訴人P1,同P2は,両名と被控訴人との間で,同控訴人らが被控訴人の
給与規定に基づく一般職標準本俸表の適用を受ける雇用関係上の地位にあるこ
とを確認するとの裁判を原審以来求めており,当審においても,この点につい
て,請求の趣旨の訂正,変更の手続をとっていないことは,本件記録上明らか
である。
ところで,前記のとおり,被控訴人は,平成9年4月から新人事制度を導入
し,職掌を再編するとともに各職掌ごとに職務等級を設定し(それらの詳細は
原判決別紙2の(),()参照,従来の一般職のうち,主事補は総合職C1級12)
に,一般1級(以下「旧一般1級」ということがある)は総合職C2級に,。
一般2級(以下「旧一般2級」ということがある)は一般1級(以下「一般。
1級」又は「新一般1級」という)に,入社2年目以上の一般3級は一般2。
級(以下「一般2級」又は「新一般2級」という)に,入社1年目の一般3。
級は一般3級に,従来の事務職のうち,事務主任は事務特級(以下「事務特
級」又は「新事務特級」という)に,事務1級は事務1級(以下「事務1。
級」又は「新事務1級」という)に,入社2年目以上の事務3級及び事務2。
級は事務2級(以下「事務2級」という)に,入社1年目の事務3級は事務。
3級に,それぞれ格付けし,職掌及び職務等級ごとに基本給テーブルを異にし
た。
以上のような職掌の再編があったことを前提とすると,上記2名の控訴人ら
が原審以来求めている「被控訴人の給与規定に基づく一般職標準本俸表」は,
現在既に存在しないこととなる。
以上から,現在既に存在しない地位について雇用関係上の地位にあることの
確認を求める訴えは,確認の利益を欠くもので,不適法である。原判決中,こ
の訴えについて本案判断をして請求を棄却した部分を取り消し,この請求に関
する訴えを却下すべきものである。
2争点2(差別の有無及び違法性)について
()男女間の賃金格差の有無について1
ア人事制度の推移
被控訴人は,控訴人らの請求期間において,控訴人ら事務職と一般職と
では,適用する賃金体系を異にしている。その経緯は,以下のとおりであ
る。
(ア)旧兼松では,見習社員を経て社員となる従業員の賃金体系と準社員
を経て社員となる従業員の賃金体系とは異なっており,前者の賃金体系
の適用を受けるのはほとんど男性であり,後者の賃金体系の適用を受け
るのはすべて女性であった(乙26によれば,昭和40年当時,旧兼松
本店に女性であるP17課長がいたことが認められるが,女性でそのよ
うな地位についたのは,例外中の例外であった。控訴人P3,同P。)
1は旧兼松に入社し,上記後者の賃金体系の適用を受けていた者である。
江商では,社員の賃金体系と準社員の賃金体系とは異なっており,前
者の賃金体系の適用を受けるのはすべて男性であり,後者の賃金体系の
適用を受けるのはすべて女性であった。控訴人P5,同P4は江商に入
社し,上記後者の賃金体系の適用を受けていた者である。
旧兼松と江商が合併した後の被控訴人では,見習社員及び見習社員か
ら社員に昇格した従業員の賃金体系と準社員及び準社員から社員に資格
変更された従業員の賃金体系とは異なっており,前者であるA体系の賃
金体系の適用を受けるのはほとんど男性であり,後者であるB体系の賃
金体系の適用を受けるのはすべて女性であった。控訴人P3,同P1,
同P5,同P4は,旧兼松と江商の合併後はB体系の適用を受け,また,
合併後の被控訴人に入社した控訴人P2,同P6もB体系の適用を受け
た。
(イ)被控訴人は,昭和60年1月職掌別人事制度を導入し,A体系適用
の主事補以下の者を一般職に,B体系適用の者を事務職に編入し,適用
する標準本俸表も一般職と事務職で異にした。
(ウ)被控訴人は,平成9年4月新人事制度を導入し,職掌を再編すると
ともに各職掌ごとに職務等級を設定し(それらの詳細は原判決別紙2の
(),()参照,従来の一般職のうち,主事補は総合職C1級に,一般12)
1級は総合職C2級に,一般2級は一般1級に,入社2年目以上の一般
3級は一般2級に,入社1年目の一般3級は一般3級に,従来の事務職
のうち,事務主任は事務特級に,事務1級は事務1級に,入社2年目以
上の事務3級及び事務2級は事務2級に,入社1年目の事務3級は事務
3級に,それぞれ格付けし,職掌及び職務等級ごとに基本給テーブルを
異にした。新人事制度導入以前事務1級であった控訴人P5,同P4,
同P1,同P2は新人事制度の導入により事務1級に格付けされ,その
職務等級の基本給テーブルの適用を受けた。
イ賃金格差の程度
新人事制度導入以前の控訴人ら事務職標準本俸表の適用を受ける事務職
社員と一般職標準本俸表の適用を受ける一般職社員との賃金等(本俸と調
整手当(本俸の15パーセント)と住居手当(非独立)の年齢ごとの格)
差は,概ね原判決別紙4(本判決においても,別紙3として添付する。以
下「別紙3」という)の旧事務職と旧一般職のグラフのとおりであり,。
旧事務職は定年退職まで勤務したとしても27歳(入社から約5年目)の
一般職の賃金に達することはない。また,新人事制度導入後(平成9年度
の時点)の各等級ごとの基本給の比較は,概ね別紙3の新事務各級と新一
般各級のグラフのとおりであって(甲83,控訴人P5(第1回,事))
務職社員と一般職社員との間に相当な格差があると認められる。補足する
と,以下のとおりである。
(ア)新事務1級は定年退職まで勤務したとしても,27歳(入社から約
5年の社員)の新一般1級の賃金に達することはない(なお,甲249
によれば,昭和60年度の標準本俸表でも,事務職48歳の本俸(21
万1200円)は,一般職27歳の本俸(21万3400円)に及ばな
かった。。)
(イ)新人事制度において,事務職が事務1級になれるのは,最短でも2
7歳である(甲3の2。すなわち,事務職は早くても27歳にならな)
いと,事務1級になれないが,その時期に事務1級になったとしても,
事務特級にならないかぎり(事務特級になるには,A評価が2年連続す
ることを要するが,全体から見る事務特級になるのは少数であり(乙1
72,後記のとおり,考課は事柄の性質上純粋に客観的なものではあ)
り得ず,被控訴人において,公平には行われていない疑いが否定できず,
控訴人ら(現職のうち退職間際の控訴人P1を除いた控訴人P2)が事
務特級に昇任することは,後記のとおり,容易ではないと思料する,。)
その後定年退職まで30年以上勤務しても,27歳の新一般1級の賃金
に達することはないし,新事務特級であっても,28歳の新一般1級の
賃金に達することはない。
(ウ)新人事制度の導入前において,入社4年目から7年目の一般2級は,
それ以前の基本業務修得期を経験した上の基幹業務担当期として位置付
けられ,その期間を経過した時点(入社後8年目,約30歳)で一般1
級に格付けられ自立することが期待されていた(甲3の2。新人事制)
度により,従前の一般2級が新一般1級に格付けられたから,27,8
歳の新一般1級は,未だ養成途中と見るのが相当である。新事務1級は
もとより事務特級であっても,退職まで勤務したとしても,このような
養成途中である27歳あるいは28歳の新一般1級の賃金に達しないの
である。
(エ)新賃金制度への制度移行時において,それまでの一般1級が総合職
)。C2級に,主事補が総合職C1級に自動的に格付けられた(乙160
その後,総合職C1級・2級は総合職Cに統合されたが,総合職Cへの
最短到達年齢は29歳であるところ,30歳では総合職が男性に2名お
り,32歳では男性の大半が総合職に格付けされ,33ないし35歳の
男性では各年齢1名,2名の一般職の者以外は全員総合職となり,36
歳以上の男性には極めて例外的な場合を除いて一般職がなく,ほぼ全員
が総合職C以上に移行している(平成16年3月時点での社員の格付け
の分布を示した平成16年8月31日付け被控訴人準備書面添付の別紙
2,同年11月18日付け被控訴人準備書面添付の別紙1によれば,一
般1級の平均年齢は32歳(勤続8.07年,総合職Cの平均年齢は)
36歳(勤続13.01年)である。控訴人ら(現職の中で一番若。)
い控訴人P2(昭和▲年▲月生まれ)は,平成16年3月時点で,46
歳,勤続24年であった)と同年代の男性社員の大半は,既に総合職。
B(平成16年3月末の時点において,平均年齢46歳(勤続年数は2
2.03年)に昇進していた。)
ウ賃金格差の時代による変遷
被控訴人における男女間の賃金格差の時代による変遷は,概ね以下のと
おりである(甲6,7,248ないし250,259,弁論の全趣旨。)
(ア)合併時(昭和42年)の男女別,年齢別の本俸,男性の賃金を10
0パーセントとした場合の女性の賃金比率は次のとおりである(甲6。
以下の比率は,小数点3位以下は切り捨てる。。)
男性(A体系)女性(B体系)比率
歳万円万円%18210001950092.85
歳万円万円%22280002400085.71
歳万円万円%30472003330070.55
歳万円万円%35591003930066.49
歳万円万円%40705004530064.25
歳万円万円%45815005130062.94
(イ)昭和45年の男女別,年齢別の本俸,男性(A体系)の賃金を10
0パーセントとした場合の女性(B体系,男性(C体系。特務職-自)
動車運転手など)の賃金比率は次のとおりである(甲248。)
男性(A体系)女性(B体系)比率男性(C体系)比率
歳万円万円%万円%25532004300080.824500084.58
歳万円万円%万円%30742005200070.085220070.35
歳万円万円%万円%35938006140065.456120065.24
歳万円万円%万円%401130007060062.476720059.46
(ウ)昭和48年の男女別,年齢別の本俸,男性(A体系)の賃金を01
0パーセントとした場合の女性,男性(C体系)の賃金比率は次のとおり
である。
男性(A体系)女性(B体系)比率男性(C体系)比率
歳万円万円%万円%25846006820080.618150096.33
歳万円万円%万円%301208008160067.549220076.32
歳万円万円%万円%351520009360061.5710370068.22
歳万円万円%万円%4017840010410058.3511440064.12
(エ)昭和6年の男女別,年齢別の本俸,男性(一般職)の賃金を100
0パーセントとした場合の女性,男性(特務職)の賃金比率は次のとおり
である(甲10の2,甲249。)
男性(一般職)女性(事務職)比率男性(特務職)比率
歳万円万円万円%2517920014640081.69%17910099.94
歳万円万円%万円%3025500017210067.4920830081.68
歳万円万円%万円%3531140018960060.8823120074.24
歳万円万円%万円%4034700019890057.3124620070.95
歳万円万円%万円%4536240020670057.0325200069.53
(オ)平成7年の男女別,年齢別の本俸,男性(一般職)の賃金を100
パーセントとした場合の女性,男性(特務職)の賃金比率は次のとおりで
ある(甲250,263。)
男性(一般職)女性(事務職)比率男性(特務職)比率
歳万円万円万円%2525570020870081.61%25540099.88
歳万円万円%万円%3036290024460067.4029670081.75
歳万円万円%万円%3544160026840060.7732810074.29
歳万円万円%万円%4048940028060057.3334670070.84
歳万円万円%万円%4550580028930057.1935280069.75
(カ)新人事制度(平成9年4月導入)において,基本給の運用が改めら
れ,定期昇給があるのは,一般1級は34歳まで,新事務1級は39歳
までとされた(甲259。このことは,別紙3においても,明らかで)
ある。
(キ)以上のようなそれぞれの数値,その比較から,少なくとも合併以降
は,男性(A体系)の賃金が女性(B体系)の賃金に比べて優遇され,男女
間の格差が拡大したこと,昭和48年以降はその格差,比率はほぼ固定
したこと,女性(B体系)の賃金を男性(C体系-特務職)の賃金と比較す
ると,昭和45年の時点で,両者の賃金はほぼ同額で,40歳では女性
の方が高かったが,昭和48年の時点で,男性(C体系)の賃金の方が女
性(B体系)の賃金より約10パーセント以上(25歳では,19.50
パーセント)高くなり,昭和60年の時点では,その格差が拡大し(い
ずれの年齢においても,21パーセント以上,平成7年の時点におい)
ても,その比率はほぼ同じであったことが認められる。そして,旧均等
法8条の施行(昭和61年4月1日)後も,改正均等法6条の施行(平
成11年4月1日)後も,被控訴人において,上記男女間(一般職と事
務職との間)の賃金格差は,縮小することはなかったものと認められる。
エまとめ
以上のとおり,控訴人らの請求する期間中,被控訴人において,ほとん
どすべての男性従業員(一般職)に適用される賃金体系とすべて女性であ
る従業員(事務職)に適用される賃金体系とは異なっており,両者の間に
は相当な格差がある(本訴の請求期間の一部である平成7年の賃金の額を
比較すると,女性(事務職)は男性(一般職)と比べて,25歳において
81.61パーセント,30歳において67.40パーセント,35歳に
おいて60.77パーセント,40歳,45歳において約57パーセント
程度に過ぎない。。)
()格差が生じた理由について2
ア検討方針
控訴人らは,この格差は女性差別によるものであると主張するのに対し,
被控訴人は,従事する業務の差異によるものであると主張するところ,上
記()記載のように,勤続期間が近似すると推認される同年齢の男女の社1
員間,あるいは,職務内容や困難度に同質性があり,一方の職務を他方が
引き継ぐことが相互に繰り返し行われる男女の社員間において賃金につい
て相当な格差がある場合には,その格差が生じたことについて合理的な理
由が認められない限り,性の違いによって生じたものと推認することがで
きると解されるから,以下,まずこの格差が生じた理由について検討する。
イ事実の確定
後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)被控訴人の業務について(甲272,321,乙28,43,16
6,246,253,258,259,261,264,証人P18,
同P19)
被控訴人は,大手総合商社の一つであり,売上高が巨額である(平成
9年3月期の年間売上高は2兆0900億円であったが,その後,別会
社との部門統合,不動産事業からの撤退,組織の簡素化などを図り,平
成16年3月期の年間売上高は8185億円となった,取扱い商品。)
やサービスがIT,食料,鉄鋼・プラント,ライフサイエンス,エネル
ギー,繊維など多種多様である,取引形態が国内取引,輸出入取引,三
国間取引など多種多様である,取引機能のほか,事業投資,金融・情報
機能,物流機能,プロジェクト組成,リスク負担等多様な機能を営んで
いる,グローバルネットワークを有する(平成9年当時は世界58国に
。。143か所のビジネス拠点を有していた)といった特徴を持っている
この総合商社としての基本的特徴は,旧兼松,江商の時代も同様であ
った。
国内取引と貿易取引に2分すると,平成2年3月期においては,国内
が33パーセント,貿易が67パーセント,平成5年3月期においては,
国内が46パーセント,貿易が54パーセントという比率であった。
(イ)従業員の募集・選考・採用について(甲11,12,16,64,
77,101,104,122,134,乙8,16ないし18,26,
43,48,49,56,57,69,88,98,99ないし107,
112,112の1,乙125,証人P18,控訴人P3,同P1(原
審及び当審,同P5,同P4(原審及び当審,同P2(原審及び当))
審,同P6))
a旧兼松では,従業員の募集・選考・採用形態を,見習社員と準社員
とでは異にしていた。見習社員については,4年制大学卒業見込みの
者を対象に自由応募形式で募集し,数回の面接,最終的には役員面接
を経た上,その採否を常務席で決定した。準社員については,高等学
校,専門学校,女子短期大学及び女子大学のうち過去に採用実績のあ
る学校等に推薦を求める学校推薦方式をとり,推薦された者について
営業所長が面接し,営業所長及び本店総務部長が採否を決定した。
控訴人P3,同P1は,このようにして旧兼松に準社員として採用
されたが,同控訴人らは,採用当時,旧兼松において見習社員,準社
員の区別があることを知らなかったし,辞令上準社員と記載された点
を除き,会社からこれを積極的に知らされることもなかった。
b江商では,男女とも見習生として採用したが,社員となる者につい
ては人事部が採用責任者として全国で採用活動を行い,自由応募制と
学校推薦を併用して募集,採用した。準社員となる者については,指
定校制度をとり,江商が指定する学校が推薦する学生に試験,面接等
を行った上,担当業務が事務職であること,転勤はないこと,初任給
等の条件を伝え,各支店長の権限で採用していた。
江商では,高卒者について,社員となる者の筆記試験問題と準社員
となる者の筆記試験問題とでは,問題を異にしていた。
控訴人P5,同P4は,このようにして江商に準社員として採用さ
れたが,同控訴人らは,採用当時,江商において社員,準社員の区別
があることは知らなかったし,辞令上準社員と記載された点を除き,
会社からこれを積極的に知らされることもなかった。
c(a)合併後の被控訴人の募集,採用方法は,昭和60年の職掌別人
事制度導入以前は,旧兼松と基本的に同様であった。
控訴人P2,同P6が採用された昭和55年ないし昭和57年当
時,被控訴人は,見習社員については,単年度の人員計画並びに中
長期的展望に立った人員計画に基づきその年の採用人員案を人事部
で策定して経営会議で決定した上,全国の4年生大学卒業予定者に
対し,就職雑誌に企業広告を掲載したり,会社が作成した会社案内
をダイレクトメールで送付したりして会社のPRを行い,また,採
用実績のある4年生大学には求人票を送付して,自由応募形式で応
募を受け付け,応募してきた学生に対し,英語の筆記試験,面接,
適性検査などを経て最終的に役員面接試験を経て採否を決定したが,
見習社員として採用されたのはすべて男性であった。
準社員については,単年度の人員計画に基づき退職による欠員を
補充するために必要とされる人数を予測し,その年度の必要人員と
の差を補充するため採用人員案を策定して経営会議で決定した上,
採用する店ごとにその地域で採用実績のある学校に,職種を「一般
事務,応募条件を「親元通勤であること」などとする求人票を送」
付し,当該学校から推薦があった者について,会社説明会(その参
加者は女性だけである,面接,一般常識の筆記試験,適性試験。)
を経て,最終的には人事部長から権限委譲を受けた東京本社人事部
長,大阪支社人事部長及び名古屋支社人事総務部長が面接して採否
を決定し,役員面接は行われなかった。準社員として採用されたの
はすべて女性であった。なお,被控訴人は,準社員向けの会社案内
の内容も,社員向けのものとは異にしていた。
(b)被控訴人は,採用内定者に対し採用内定請書の提出を求めたが,
同請書には,条件の一つとして,準社員の場合は「貴社の指示に,
従い,所定の期日に出社いたします」とされていたが,見習社員の
場合は「貴社の指示に従い,所定の期日及び任地に出社致しま,
す」とされていた。
被控訴人は,見習社員として採用する者と準社員として採用する
者について,内定式,入社前ガイダンスを両者の別に行い,入社式,
導入研修の期間,内容も別に行い(ただし,見習社員として採用し
た者と東京本社配属の準社員との入社式は東京本社で合同で行われ,
東京本社での入社式当日の研修は,会社の歴史等全従業員に必要な
部分は合同で行われた,配属後の研修も,全従業員に共通して。)
必要なEDPS研修(帳簿システムに関する研修)のほかは,別内
容,別日程で行ったが,後記(オ)e記載のとおり,遅くとも平成4
),年には新人研修において,導入研修(マナー研修,簿記研修など
OJTリーダー研修,簿記研修,OA研修基礎編,EDPS研修・
検定,実務基礎講座,フォローアップ研修が一般職と事務職とで一
緒に行われていた。
入社に際し,入社式などで新入社員に対して辞令が交付され,辞
)。令には,準社員,見習社員などの身分が記載された(証人P18
控訴人P2,同P6は,このようにして被控訴人に準社員として
採用されたが,同控訴人らは,入社したころ,辞令,就業規則を受
け取った(被控訴人に入社したころ就業規則をもらったことを控訴
人P2は原審における本人尋問において認めており,他の控訴人ら
も同様であったと推認できる)から,それらにより被控訴人内に。
おける男女による社内での取扱いに相異があることを知ることは可
能であったものと推認されるが,同控訴人らが,入社直後の時点に
おいて,就業規則を熟読するなどして社員,準社員などの区別があ
ることを認識したとの的確な証拠はない。
d昭和60年の職掌別人事制度導入後,被控訴人は,一般職について
は,業務内容や勤務地に限定のないこと等の条件を明示した募集広告
又は求人票による公募の形式で募集した。他方,事務職については,
採用の実績のある短期大学・高等学校・専門学校等の就職窓口を通じ
て募集し,学校推薦による応募者についてのみ採用試験を実施してい
たが,その際には,人事部担当者が,事務職の募集であること,職種
が一般事務であること,親元通勤であること,業務の概要,勤務地が
一定場所であり変更がないこと等の条件を明示した。
その後被控訴人は,事務職について,一般職と同様に公募の形式を
とるようになったが,その際にも,事務職の募集であること,業務の
概要等の条件を明示していた。
(ウ)統計調査(甲38,321,乙45,212,213,216,2
17,証人P18)
a労働省の賃金構造基本統計調査によれば,昭和40年当時女性の平
均勤続年数は10年未満の者が91.1パーセントであったが,昭和
50年は82.5パーセント,昭和57年は79パーセントであった。
昭和47年の総理府の「婦人に関する意識調査」によれば「子供,
ができてもずっと職業を続ける」という考えは女性で11.5パーセ
ントに止まり,昭和50年の「男女平等に関する世論調査」では,
「結婚や出産を機会に勤めを辞めることはよくない」と答えたのは女
性で13パーセントに止まるが,既に働きに出ている既婚婦人の勤務
継続意思はかなり強く,6ないし7割が「今の仕事をずっと続けた
い」と答えている。
女性の平均勤続年数は,昭和35年(1960年)に4.0年であ
ったのが,昭和55年(1980年)には6.1年,平成7年(19
95年)には7.9年となった。
勤続年数20年以上の女性労働者は,昭和40年で1.1パーセン
ト,昭和55年で3.4パーセントであったが,その後昭和56年は
3.8パーセント,昭和57年は4.1パーセント,昭和58年は4.
2パーセント,昭和59年は4.6パーセント,昭和60年は5.5
パーセントと推移した。
b被控訴人の女性従業員の平均年齢は,昭和50年3月の時点では2
5.9歳(平均勤続年数は5.4年,昭和55年3月の時点では2)
9.3歳,昭和59年3月の時点で30.1歳,平成元年3月から平
成4年3月までの間は,31.8歳から32.8歳であった。これに
対し,男性従業員の平均年齢は,平成元年3月から平成4年3月まで
の間,41.5歳から42.7歳であった。
昭和61年12月の時点において,被控訴人に勤務する女性従業員
(618名)のうち,50歳以上が37人,40歳以上50歳未満が
70人,30歳以上40歳未満が179人おり,30歳以上の女性従
業員は合計286人で女性全体の約46.2パーセントを占めた。
(エ)控訴人らが従事した業務
a控訴人P3(甲14,64,65,91ないし93,173,17
4,198,207,236の1,甲265,316,345,35
2,乙10,60ないし62,86,195,274,証人P20,
控訴人P3本人)
(a)控訴人P3は,昭和32年5月の旧兼松への入社以来,営業部
門である繊維部織物課,同部官需課において,官需関係の業務に従
事し,契約書や見積書,請求書の作成,集金等を行った。
繊維部織物課では,装丁材料の仕入れ,納品の業務に従事し,仕
入れ材料の選定,織物業者からの仕入れ価格の決定,装丁業者への
納入価格の決定をしたことがあった。
(b)その後昭和44年10月職能部門である運輸部(同部は,輸出
入及び国内取引における物品の輸送,保管,荷役,受渡等に関わる
業務全般を行う部である)に異動し,繊維部門のデリバリーの仕。
事を担当する内繊運輸課で契約後の履行に関する業務に従事し,国
内運輸課,輸入第2課,輸入課でも,同様の業務に従事した。この
うち,輸入第2課では,主に商品の通関手続関係の業務に従事し,
通関業務を確実にするために,通関にトラブルがあると,現場に行
きスムーズに通関ができるように対処したり(アルミニウムのスク
ラップの中に印刷,絵画の原板が混入していた時,控訴人P3がそ
の原板に傷を付け,スクラップであることを証明し,被控訴人が不
利益を被らないように対処したことがあった,サーベイヤーに。)
連絡するなどし,荷傷の保険請求に必要な海事検定の検査において
サーベーヤーに依頼し,検査に立会い,被控訴人に有利になるよう
に対応し,荷捌き(ヤードでの滞留をなるべく少なくして納入先に
迅速に商品を届けること)関係では,コストがかさまないよう,シ
ャーシー,トラック等の手配に努めていた。
()その後昭和62年6月,控訴人P3は運輸部物流管理課に異動c
した。同課は,各営業部が行う国内物流実務の適正化を目的とし,
その管理機能を担う課であり,以下のような業務を行っている。以
下の①ないし⑥は国内物流管理業務であり,⑦ないし⑫は各部署に
対する支援,協力業務であり,⑬は物流管理課としての収益業務で
ある。
①在庫商品,預け品の在庫実査業務
社内のストックリストに基づき,在庫の額,滞留期間,取引内
容,取引先の特殊性等を勘案して実査先及び実査商品を選定し,
関係先との事前打ち合わせを経て実査先を訪問し,保管状況,商
品の確認,情報収集を行い,実査結果は実査報告書として運輸グ
ループ長宛に報告すると共に,関係営業部課に注意,指導を行い,
以後の改善状況を把握する業務。
②期末在庫照合業務(半期ごとに実施)
半期ごとに期末の在庫商品について,在庫先から入手した在庫
証明書と社内のストックリストを照合し,不突合部分については,
各営業部課から,その明細・理由・処理の説明を受けて内容を確
認した上,公認会計士の監査を受ける業務。
③商品代金支払時の受渡書類の確認(事後)及び特認仕入先(社
内の取り決めで一定の受渡書類の受領の省略が認められている支
払先)の見直し並びに代金支払時の数量査照
各営業部が行っている商品の受領,代金支払が社内ルールに沿
っているかを受渡書類により事後的に確認して報告書を作成・配
付したり,支払額3000万円以上で,かつ,社内ランクで一定
ランク以下の取引先に対する支払についての事前の数量チェック
をしたり,商品代金支払時に特認仕入先であることを査照したり,
特認仕入先の見直しを各営業本部長に要請したり(問題点がある
場合には,審査部の意見を聴取した上再検討を要請することもあ
る)する業務。。
④運輸関係業者並びに荷渡指図書及び入庫確認査照の責任者印の
各登録関係の手続業務
使用する運輸業者について,格付け,期間に応じ,その登録を
したり,各営業部の荷渡指図書及び入庫確認査照の責任者印の登
録(印鑑登録書を受領し,関係部署にコピーを配付するとともに
原本を物流管理課でファイルする)をする業務。。
⑤損害保険関係業務(契約,付保額の適正化の指導,求償手続)
動産総合保険,運送保険,賠償責任保険についての,付保等の
手続,証券類の保管等を行う業務。
⑥社内の事故防止対策連絡会及び随時検査分科会の事務局業務
⑦各営業部が行なっている国内物流実務に関する情報提供及び助

⑧営業部取扱い商品の運輸部関係会社への紹介,運輸部取引先の
商品資材等の需要に関する情報の営業部への提供及び助言
⑨他の部署(監査室等)による調査への協力
⑩商品管理,損害保険についての社内実務講習
⑪運輸部通報の作成
⑫社員の転勤に伴う国内引越業務
⑬物品販売
()平成4年4月1日当時,物流管理課は,管理職1名(課長,一d)
般職1名,事務職1名(控訴人P3)からなり,控訴人P3は,具
体的に以下のような仕事を担当した。
①上記()②について,情報システム部から入手したストックリc
ストにより在庫先一覧表を作成した上「期末在庫照合に関する,
依頼書」を添付して各営業部に配付し,各営業部のチェックを受
けて回収する,在庫先に対し,運輸部長名の在庫証明書の送付依
頼状を発送し,回収についての督促等をする,在庫証明書回収後,
情報システム部から入手した期末ストックリストとともに各営業
部に配付し,営業部での照合,確認を受けて回収する,在庫証明
書とストックリストを照合する,といった業務を担当していた。
その照合の結果,不一致がある場合,控訴人P3を含む照合業務
の担当者が,その原因を調べ,不一致が在庫管理上問題がないか
どうかを判断し,必要ならば更に調査をすることもあった。また,
一致している場合の中にも,不正が隠されていることもあり,控
訴人P3は長年の経験からその不正(実例としては,仕入れ年月
日の改ざん)を見抜いたこともあった。
この仕事は,控訴人P3が配属される前は,P21課長とP1
2主事が行っており,控訴人P3が配属となった後は,P12課
長と一般職と控訴人P3が行い,P20課長になってからは,控
訴人P3と一般職が分担した。この仕事は,会社の流動資産が会
社のルールどおり正しく保管されているか,不良在庫,架空在庫
がないかを管理,チェックするもので,重要な意義を有する。
また,公認会計士の棚卸し実査の際には,控訴人P3が具体的
な数字の意味について説明することもあった。
②上記()③のうち,商品代金支払時の受渡書類の事後確認につc
いては,調査対象とされた部署について書類の有無,数量の不突
合等をチェックして控訴人P3が報告書の原案を作成し,管理職
の確認を得て完成させ,その報告書を関係先に配付したり,ファ
イリングを行い(控訴人P3が配属になるまでは,これらの仕事
は一般職が担当していた,支払額3000万円以上で社内ラ。)
ンクで一定ランク以下の取引先に対する支払について,営業部が
持ち込む出金伝票,請求書,納品書,受渡書類の有無,数量の確
認を行って運輸部印を押印し(平成4年2月に不良債権防止策と
して被控訴人に導入されたもので,当初は課長,一般職,控訴人
P3がそれぞれ査証印を所持して独立に仕事を行っていたが,当
該一般職の仕事に問題があったため,課長と控訴人P3の2人だ
けがその仕事に携わった,特認仕入先については,各営業本。)
部長の承認書をファイルで確認して支払時の査照を行う特認仕入
先の見直しを取引実績,信用状況などを総合して検討し,控訴人
P3が運輸本部長宛てに報告し,各営業本部長宛書面の配付等を
行った。なお,控訴人P3は上記検討,報告を,P20課長が就
任する直前の平成6年6月までの間行い,その後は同課長が上記
検討,報告を行った。
③上記()④について,その登録手続のほか,年3回の登録運輸c
業者の見直しの際に,登録台帳から期限満了の近づいた業者の一
覧表を作成し,管理職の内容確認を経て各部課に回覧する。なお,
平成4年ころからP20課長が就任する直前の平成6年6月まで
は,控訴人P3は,新規登録業者の可否などについて原案を作成
していた。
④上記()⑤について,各種保険料・手数料の計算,支払伝票・c
社内振替伝票の作成,繊維動産総合保険の更新手続に必要な,
「動産総合保険限度額一覧」と「動産総合保険申込書」の作成,
各年度中の付保対象取引先あるいは付保限度額の変更についての
保険会社への変更通知の提出等を行う。
⑤上記()⑥について,会合出欠者の確認,昼食の手配,同⑦,c
⑧について,そのアドバイスや紹介等,同⑨について調査の対象
となる資料の取得,コピー等を行い,同⑩について,新人の一般
職,事務職を対象とする基礎講座を担当し(なお,この基礎講座
は,控訴人P3が退職した後は,P20課長が担当した,同。)
⑫について,運輸業者への支払時の出金伝票の作成,同⑬につい
て,案内の送付,注文の集計,発送依頼等の手続を行っていた。
控訴人P3が担当した基礎講座について,そのテキスト,レジ
ュメ,テストの模範解答は課長の内容確認を得ることとされてい
たが,そのことは一般職が担当した講座についても同様であった。
引っ越し業務については,一般職が休んだ時には控訴人P3が
この業務を担当することがあったし,トラックを緊急に手配する
必要が生じたときの連絡網にも控訴人P3を含む課員全員の名前
が記載されていた。
なお,控訴人P3は昭和63年4月1日事務主任に昇進したこ
とは争いのない事実等(引用にかかる原判決6頁8行目)記載の
とおりであり,個人的なことではあるが,平成2年には難関の試
験の1つである通関士の試験に合格した。
()第100期のRC(甲65の1。第100期は,平成5年4月e&
1日から平成6年3月31日までである。以下,RCについては,&
期だけを記載することとする)の上司(P22)所見欄には,。
「運輸業務知識は輸入,国内とも十分でOA機器の取扱いにも習熟
しており,身軽に行動してくれ,特に註文する事はない。本年度も
複合取引の金額目標を設定し,努力してもらう事とした。営業の実
務担当者に業務の基礎知識を機会ある毎に教え込む事を期待した
い「年令を感じさせない業務処理の能力とスピードがある。査。」,
証に来た若手女子社員にも,ていねいに社内ルールを教えている。
今後も同様に願いたい」と,第102期のRC(甲65の3)。&
の上司(P20)所見欄には「専任職ではあるが,業務の改善・,
複合取引等には意欲的である。幅広い業務知識をもって,営業部へ
の教育,指導に努力することを期待する」と記載されている。。
()他方,物流管理課の一般職は,主に上記()①について,実査先fc
選定後の業務(実査先の選定は主に管理職が行う)を担当した。。
実査業務は,社内ルールの遵守,事故防止及び在庫圧縮等の観点か
ら,物流管理課では重要な業務と位置づけられ,運輸業務のみなら
ず,実査,経理関係の知識,経験も要求される。実査件数は年間で
50件ほどに達している。その他,一般職は,同②は一時期に大量
の書類の照合が必要になることから,事務職とともに担当し,棚卸
し実査にも立ち会い,同⑦,⑧,⑩,⑫も担当した。
()以上の認定事実を総合すると,以下のとおり認められる。g
控訴人P3は,昭和32年5月に旧兼松に入社して以来,前記の
とおり営業部門,その後職能部門で職務を行い,専門知識と経験を
積み,退職まで長く勤務した運輸部においては,その専門知識と経
験を生かして,運輸部輸入第2課で通関関係手続事務,同部物流管
理課において期末在庫照合業務,商品代金支払時の受渡書類の確認
(事後)及び特認仕入先の見直しの検討,その運輸本部長宛ての報
告並びに代金支払時の数量査照(ただし,上記検討・報告は,P2
0課長が就任するまでの間,新規登録業者の可否などについての)
原案作成(平成4年ころからP20課長が就任する平成6年7月ま
での間)など,かなりの専門性が必要な仕事を担当してきた。控訴
人P3の専門性については,前記RCにおいて上司も認めるとこ&
ろである。
そして,代金支払時の数量査照など,控訴人P3は,課長,一般
職とは別に,査証印を所持して独立に仕事を行い,一般職の仕事に
問題があったため同人が行うのは相応しくないとされた間も,控訴
人P3は同業務を担当していた。
その他,同部物流管理課において,各業務の分担,その変更など
を見てみると,一般職と事務職がそれぞれ担当する仕事には一応区
別があるが,それは決して固定的なものではなく,流動的なところ
もあった。
b控訴人P5(甲77,148,168,197,204,266,
346,353,乙14,16の2の1,乙67,71,72,75,
83ないし85,87,181,188,275,証人P19,控訴
人P5(原審第1,2回))
(a)控訴人P5は,昭和38年10月江商に採用後配属された紙パ
ルプ部受渡課では,営業課で契約した商品の出荷手配,売上計上,
諸掛り計算,請求書作成,支払,台帳作成等の受渡業務に従事した。
化繊パルプ課に配置換え(昭和40年1月)となってからは,国内
取引に関する業務として,請求書の作成,売上・仕入計上,出金手
配,集金,手形による支払などの業務を行い,輸入業務では,契約
後のL/C(信用状)の開設から保険の付保業務,通関手続,乙仲
業者への出荷の手配,売り先への見積書・請求書の作成,クレーム
処理等を担当した。このように化繊パルプ課では,家庭紙と化繊用
パルプについて,成約以外の業務を担当した。クレーム処理(ただ
し,クレームといっても,重大なものから軽微なものまであること
は容易に推認されるところ,控訴人P5の担当したクレーム処理が
どの程度のクレームの処理であるかは不明であり,当時の同人の地
位,経験から考えて,自ずから一定の限度内のことと考えるのが相
当である)や,運送代金や保険料等の諸掛りをいくらにするかを。
相手方と交渉することもあった。家庭紙については,商品の仕入れ
や電話での成約業務もすることがあった(ただし,成約といっても,
大小いろいろあり,控訴人P5の担当した成約がどの程度のもので
あるかは不明であり,当時の同人の地位,経験から考えて,自ずか
ら一定の限度内のことと考えるのが相当である。。)
(b)昭和49年4月紙業課勤務となり,以後20数年間同課に勤務
した。
紙業課の業務内容は,洋紙及び板紙等の国内取引,輸出取引,輸
入取引,三国間取引であった。なお,紙業課には,課全体の年間売
上総利益のノルマが課せられていたが,このノルマについては課長
が全体的責任を負い,課内において各管理職に配分したノルマを課
した。課長,管理職は,ノルマ達成の有無,その程度により,ボー
ナスの査定,成績の評価,将来の昇級において考慮されるが,ノル
マは基本給の決定には直接関係はない。事務職は,個人としてはノ
ルマが課されていなかったが,課全体に課されたノルマを実現する
ためには,課長,管理職が職務を適切に遂行することが必要なこと
は勿論のことであるが,事務職の行う事務が適切に行われることが
必要であり,ノルマの実現には,事務職の課長,管理職への協力が
不可欠である。
紙業課は,平成4年4月1日現在,管理職3名(うち1名は課
長,一般職1名(平成2年10月に途中入社した者,事務職4))
名(うち1名が控訴人P5)からなり,控訴人P5は,①段ボール
原紙の国内取引(段ボール原紙メーカーから段ボール原紙を仕入れ,
段ボールメーカーに販売する取引,②家庭紙の関係会社への販売)
取引(被控訴人の関係会社である兼松カネカが特定の家庭紙メーカ
ー(日清紡,大王製紙,カミ商事)から仕入れを行う取引に被控訴
人が介在する取引,③段ボールシートの国内販売(段ボールシー)
トメーカーから段ボールシートを仕入れ,製缶業者に販売する取
引,④段ボール原紙の中芯の輸入取引(国内の特定の販売先に販)
売するため,台湾の製紙メーカーから段ボール原紙の中芯を輸入す
るロング取引(仕入れを販売に先行させる取引,⑤洋紙の国内))
販売取引(主にチラシ用の洋紙をメーカーから仕入れて印刷業者等
に販売する取引,⑥新聞用紙の国内販売取引(特定の製紙メーカ)
ーと特定の新聞社との新聞用紙取引に介在する取引)及び⑦その他
の業務(出張旅費,交通費,接待交際費,雑費などについて支払伝
票を作成し,営業経理部に持ち込む。決算後の内部監査,公認会計
士監査の際,必要に応じ,担当者として資料を提示したり,補足説
明をする)に携わり,他の事務職3名はその他の商品取引(輸出。
取引,三国間取引)の業務に携わっていた。
控訴人P5は,①について,成約より後の業務を担当し,仕入先
が販売先に段ボール原紙を納入すると同時に仕入先が被控訴人に発
行する納品書に基づいて,仕入価格,商品名,数量,販売価格,納
入日等をコンピュータにインプットする作業を行い,コンピュータ
にインプットした結果として自動アウトプットされる請求書,納品
書を管理職に提出し,課長の確認を得てそれらを販売先に送付する
作業を行った。代金回収は,控訴人P5が課長の承認を得た領収書
発行依頼票を財務部に提出して領収書の発行を受け,管理職がその
領収書を持って販売先からの手形集金を行うが,控訴人P5は,管
理職の指示を受けて,手形集金に赴くこともあった。集金後,控訴
人P5は入金伝票を起票し,管理職の確認と課長の確認印を受けて,
財務部に提出した。仕入代金の支払は,控訴人P5が仕入先からの
請求書及び納品書に基づき出金伝票を起票し,課長の確認印を受け,
営業経理部に提出した。控訴人P5は,メーカーからの請求書が遅
れ,被控訴人の社内手続上メーカーが求める支払期日に支払ができ
ないときは,メーカーと直接やりとりして,支払期日を繰り延べす
ることもあった。
段ボール原紙の取引は,取引慣習により最終単価が確定するのは
取引実行後であり,それまでの代金支払は仮払で,後日精算をする
ことが必要であり,この精算事務は煩瑣であり,それを正確に行う
ことは被控訴人が利益を確実にあげるために重要であった。
②,③については,集金業務を除き,①と同様の業務を行った。
④については,成約後管理職が作成した契約台帳に基づいて,そ
の内容を転記して,輸入先に提出するコンファメーション・オブ・
パーチェスをこの取引が開始した当初に管理職が作成したものを見
本として所定フォームにタイプアップする,輸入紙が入荷したとの
連絡を受けると,パッキングリストから商品名,数量を輸入紙出荷
台帳に転記し,併せて入庫伝票を作成する,特定の国内販売先から
出荷指図があったときには,管理職不在の場合には,倉庫会社に対
して電話で出荷を指示する,電話による出庫指示の後に発行される
デリバリーオーダーの文書は,管理職,課長が確認するが,特定の
国内販売先に出荷が行われるごとにその内容を輸入紙出荷台帳に転
記して記録する,出庫がなされると倉庫会社から出荷案内書が発行
されるので,これに基づいて出庫伝票を作成し,その内容をコンピ
ュータにインプットし,コンピュータからアウトプットされる納品
書,請求書を課長の印鑑を受けて客先に発送するといった業務を行
った。
⑤,⑥については,①と同様の業務を行った。⑤につき,控訴人
P5は,担当者が取り決めた大枠の受注枠の中で,業者から注文を
取りメーカーに連絡して具体的に成約することもあった。また,控
訴人P5は,平成元年ころに沖縄タイムス,大王製紙と被控訴人の
3者間の新聞巻取紙についての売買契約書を,あらかじめ決められ
た大枠の取引条件をもとに作成したことがあった。
なお,控訴人P5は,甲77の1,甲168,197,本人尋問
(第1回)において,1980年代後半から1992年(平成4
年)までの間,管理職のP7(昭和62年4月に参事補に昇格し
た)が段ボール原紙の価格交渉などを,控訴人P5が包装用紙,。
新聞用紙の価格交渉などをそれぞれ担当,分担していたと供述する。
しかし,本件証拠上,控訴人P5が上記認定事実以上の権限を行使
していたと認めるに足りる適切な証拠はない。ところで,証拠(乙
14,67,75,84,証人P19)及び弁論の全趣旨によれば,
平成7年当時,同課において,リーダー,サブリーダーと事務職と
の間には,職務権限の区別が明確にされていたと認められる(控訴
人P5も,前記のとおり,上記価格交渉などを担当,分担していた
。,のは平成4年までと供述する)ところ,控訴人P5の前記供述は
そのような大きな権限を行使していた同人がある時点から,いかな
ることが原因でその権限を行使しなくなったのか,その際,どのよ
うなやり取りが課内でされたのかなどが不明であり,にわかに信用
できない。
⑦については,支払伝票の作成に際し,認められる費用かどうか
を控訴人P5が事実上判断したこともあった。なお,取引業務に関
し,控訴人P5は,段ボールメーカーに対する機械の販売による延
べ払い業務(数年にわたって契約代金を回収する業務)について毎
月の回収,入金伝票処理をしたり,客先からのクレーム処理につい
て対応することもあった。
他方,課長は,紙業課の取引全体に関わり,管理し承認しており,
課長以外の管理職及び一般職は,商品分野及び取引形態ごとに営業
を担当し,いずれも,仕入・販売双方の取引先との交渉を通じて契
約を成立させることを主たる業務としており,取引先と連絡を取り
ながら,価格交渉,取扱い数量に関する交渉等を行っていた。ただ
し,新人の一般職には,経験を積ませる意味で,事務職の仕事も担
当させたことがあった。
()控訴人P5は,平成4年11月,物資本部勤務となり物資本部長c
付きとなった。これに先立つ同年初めころ,控訴人P5は上司であ
るP23課長に配転を申し出た。控訴人P5は,以前から職場(紙
業課)において不満を持ち(控訴人P5によれば,管理職,一般職
の仕事のやりかた(値差の管理の仕方,特定の取引先との交際費の
使用方法など)に問題があり,上司に進言するなどしたが,それが
聞き入れられず,それで不満を持ったという。これに対し,被控訴
人の従業員は,それは控訴人P5の個人的な不満,課内の特定の人
間との人間関係上の問題にすぎないという。乙67,その不満が)
原因での申出であった。上記異動が決定される前の同年2,3月こ
ろ,被控訴人は,控訴人P5に対し,同人の住所地に近い被控訴人
横浜支店への異動を打診したが,控訴人P5はこれを拒否した。同
年4月から,控訴人P5の後任者が紙業課に配属となり,控訴人P
5は,異動先が決まらないまま同課において同後任者と共に今まで
の仕事を担当した。
以上のとおり,控訴人P5の申出があってから異動まで10か月
ほどの期間が経過しており,この人事異動は,通常の人事異動とは
異なる性質の異動であった。
()物資本部における控訴人P5の仕事は,①物資本部長の秘書業務d
(電話の取り次ぎ,週1回の,本部長,部長及び課長の予定表作成
及び社内関係先への送付,本部長の出張等の切符の手配,会議室等
部屋の予約,旅費,交際費の精算手続,慶弔関係の電報の手配,挨
拶状及び礼状のワープロによる清書と送付,経費の振替伝票の起票,
本部長の各種書類のファイリング等,②定時的業務(年1回行う)
ものとして,物資本部の業務計画のワープロによる清書と社内関係
先への送付,商品ポジション枠と本部内統一ルールのワープロによ
る清書と社内関係先への送付,為替持高限度枠,自動損切幅申請書
のワープロによる清書と社内関係先への送付があり,毎月行うもの
として,海外駐在員が送付してくる紙パルプに関する情報の社内関
係先,客先への送付とファイリング,海外各店の業績のワープロに
よる清書と社内関係先への送付とファイリング,月例報告書のワー
プロによる清書と社内関係先への送付とファイリング,本部連絡会
の開催案内状の作成と参加者のチェック,会議室の確保と昼食の手
配,コンピュータからアウトプットされる商品ポジション表の関係
先への送付とファイリングがある,③随時行う業務(取引先へ。)
の挨拶状のワープロ作成と送付,出張,交際費の清算,計画管理資
料等のアウトプットデータのファイル,業界誌のコピーの海外店へ
の送付等)などであった。
()平成10年4月,紙パルプ・物資本部は,化学品・紙パルプ本部e
と組織変更し,控訴人P5は,東京紙パルプ部部長席付きに異動し,
以後,部長の秘書業務,部の総務的業務(以上の業務として,部長
のスケジュール調整(出張時の切符の手配など,紙パルプ部門の)
統計資料作成,海外店への資料送付及び海外店からの資料回収,会
議室等部屋の予約,慶弔関係の電報の手配等がある)と,それだ。
けでは仕事が少ないから,併せて部内の2つの課の事務職業務に従
事した。控訴人P5は平成15年9月被控訴人を定年で退職した。
()以上の認定事実を総合すると,以下のとおり認められる。f
控訴人P5は,昭和38年10月に江商に入社して以来,前記の
とおり紙関係の営業部門に長く勤務し,その後平成4年11月から
退職まで10年11か月間にわたり物資本部などで勤務した。
このうち平成4年11月以降に担当したのは秘書業務,定時的業
務などであり,それなりに習熟を要するとしても,とくに専門性が
要求される職務ではなく,庶務的な仕事であったと認められる。
長く勤めた紙業課において控訴人P5が担当した業務は,一定の
範囲内での成約業務もあったが,主に履行業務であった。
c控訴人P4(甲101,116,169,196,203,231,
267,310,314,337,341,乙11,93ないし97,
185,276,306,証人P10(原審及び当審,控訴人P4)
(原審及び当審))
(a)控訴人P4が担当した業務は,以下のとおりである。
食糧第3部肥料課(昭和40年7月以降)では,兼松肥料株式会
社関連の取引の担当となり,兼松肥料から送られてくる工場受払日
報をもとに,使った原料,できた肥料の数量,受注量・納入量等を
集計して,兼松肥料への加工賃,原料代,販売先であるたばこ組合
及び農協への配合肥料売上代金を確定して計上し,兼松肥料への支
払及び売上代金の集金をしていた。その後,取引方法は,被控訴人
が兼松肥料に原料を売却し,できあがった商品を購入してたばこ組
合と農協に販売する売り仕切り・買い仕切り方式に変わったが,控
訴人P4は,その処理が簡略化された分,それ以外の肥料の受・発
注と集金を分担した。
飼料油脂部飼料第3課(昭和55年4月以降)では,肥料の受・
発注と経理を担当し,顧客から電話で受注し,それに基づき肥料メ
ーカーに発注し,納品を指示し,納品日が来れば納品を確認して売
り上げ,請求書を作成・発送した。メーカーへの支払をするよう財
務部へ連絡し,また顧客からの手形集金ないし振込金入金確認後の
入金帳簿処理もした。納入遅れのトラブルがあった場合には,それ
に対応することもあった。
肥料米穀課(昭和56年10月以降)では,種子を輸入する仕事
も担当した。同課には,昭和58年4月食糧物資非鉄統括営業経理
チーム(事務職と一般職が一緒になってチームを組んでいた。一般
職の中には,現在欧州兼松副社長の地位にあるP10もいた)が。
新設され,控訴人P4は同チーム員として食糧関係について,営業
活動が社内のルールや指示に則って行われているかを経理面からチ
ェックし,査証した。その過程において,営業部への問い合わせ,
売掛金の回収督促,問題ある損益処理の是正要求等をすることもあ
った。
油脂課(昭和60年5月以降)では,国内取引について,兼松食
品との取引を担当するとともに,輸出業務のうち,成約後の船積み
手配,売上計上,入出金を担当した。兼松食品との取引では,成約
を確認して売上計上し,集金も行っていた。また,昭和63年ころ
から平成元年7月までの間,輸出入ラードの成約の仕事(相手は香
港兼松)を担当したが,価格の決定については,一般職と同様,課
長の決裁を得た。仕事柄,英語力が必要であった。第96期期央の
RC(甲116の1)には,控訴人P4の輸出入ラードの成約に&
関する同上期の目標として10パーセントの増額を目標としたこと
が記載されている。この仕事の前任者,後任者は,いずれも一般職
である。
農産課(平成元年8月以降)では,砂糖関連の業務を担当した。
平成2年4月,食品第3課勤務となった。その当時,食品第3課
の取扱商品は,コーヒー(生豆・製品,砂糖(原糖・精糖,ハ))
チミツ及びロイヤルゼリーであり,年間取扱い額は,コーヒーが最
も多かった(平成7年当時で約124億円であり,砂糖は約35億
円,ハチミツ,ロイヤルゼリーが合計約2億7000万円であっ
た。。)
砂糖関係の取引は,日本精糖向けの原糖を東京穀物取引所粗糖市
場から買い付け,同社に販売する業務と,同社が加工し製品化した
精糖を国内の砂糖問屋,飲料メーカー及び菓子メーカー向けに販売
する業務とがあり,ハチミツ及びロイヤルゼリー関係の取引は,国
内のそれらの製造メーカー向けの原料を中国から輸入して販売する
というものである。
平成4年度において,控訴人P4と同人とペアを組んだ一般職1
人の計2人が担当した業務の売上,その内訳は,砂糖関係が約23
億円で,2人で担当した業務全体の約91パーセントを占め,ハチ
ミツ,ロイヤルゼリー等の健康食品が約7000万円,全体の約4
パーセントであったものが,平成7年度において,砂糖関係が約2
4億円,全体の約80パーセント,健康食品が約2億円,全体の約
6パーセントとなり,平成11年度において,砂糖関係が約15億
円,全体の約65パーセント,ハチミツ,ロイヤルゼリー等の健康
食品が約3億円,全体の約13パーセントとなった。以上のように,
砂糖関係の取引は,減少の傾向にある反面,それ以外の健康食品が
増加した。
(b)食品第3課には課全体の年間売上総利益についてノルマが課さ
れていたが,このノルマについては課長が責任を負い,課内におい
ては,各一般職に配分してノルマが課された。課長,一般職(一般
1級以上は,ノルマ達成の有無,その程度により,ボーナスの査定,
成績の評価,将来の昇級において考慮されたが,ノルマは基本給の
決定には直接関係はなかった。事務職は,個人としてはノルマが課
されていなかったが,課全体に課されたノルマを実現するためには,
総合職,一般職が職務を適切に遂行することが必要なことは勿論の
ことであり,事務職の行う履行事務が適切に行われることが必要で,
ノルマの実現には,事務職の課長,一般職への協力が不可欠である。
平成7年4月1日現在,食品第3課は,管理職1名(課長,一)
般職4名,事務職3名(うち1名が控訴人P4)からなり,控訴人
P4は,一般職1名とともに,前記のとおり,①砂糖,②ハチミツ,
ロイヤルゼリー,その他の健康食品,その他(茶,コーヒー製品
等)の取引業務に携わった。
()主要な業務である砂糖の取引は,以下のとおりである。c
①砂糖取引のうち原糖取引については,一般職が,日本精糖との
商談,原糖の東京穀物取引所粗糖市場での買付け,日本精糖への
引渡しを行った。控訴人P4は,一般職が砂糖の買い付けを行う
と,口頭ないし簡単なメモで限月,ロット数,価額の伝達を受け,
直ちに製糖メーカーに対し買付報告書を作成し,ファックスした。
②精糖取引については,一般職が,各月毎に,日本精糖と販売数
量(日本精糖からの購入分と日本精糖への加工委託分の振分を含
む)を決定し,また,砂糖問屋,飲料メーカー,菓子メーカー。
等のユーザーと価格,販売数量等の取引条件を交渉の上,取引成
約を行い,控訴人P4は,以上により決定された内容の範囲内で,
精糖のデリバリー(受渡)の業務(各ユーザーからの電話での出
荷依頼を受け,その内容をファックスで日本精糖に取り次ぎ,そ
の内容(売先・納入場所・品種・数量・価格)を台帳に転記する
作業,台帳の内容のコンピュータヘのインプット作業,契約メ)
モの作成を行った。
③更に,控訴人P4は,糖度計算の業務や,平成5年4月以降,
農畜産振興事業団関係の手続把握とその管理の仕事(農畜産振興
事業団との取引について,同事業団に対して砂糖メーカーが届出
をする手続が必要であり,控訴人P4の担当した仕事は,その手
続が完了して動かせる状態になっている数量等を正確に把握し,
管理する仕事で,重要な業務である)を担当した。この農畜産。
振興事業団関係の手続把握とその管理の業務は,控訴人P4が担
当する以前は,総合職が担当していた。
④入出金関係のうち,支払については,請求書受領後,控訴人P
4が出金伝票を作成し,課長の承認を取得した上,出金伝票を営
業経理部に提出し,入金については,財務部での入金確認の後,
控訴人P4が入金伝票を作成し課長の確認を受け,財務部に提出
していた。
⑤控訴人P4は,精糖に関する受発注に関して,国内の継続的に
取引がある問屋,メーカーなど数社に対し,毎月の発注実績を把
握した上,注文の少ない顧客に電話を掛けるなどして発注を要請
することもあった。また,同人は,値入(成約担当者の設定した
日経平均に連動させた取引価格を最終的に精糖を受け渡した段階
(顧客への納入日の翌日)で電話により購入価格等をすりあわせ,
確認する業務)を担当しており,ときには,日本精糖と被控訴人
との間で価額認識が違っている場合があり,そのような場合,控
訴人P4が成約担当の一般職から取引の経過を聞き,日本精糖の
担当者と価格の決定についてすりあわせをする場合もあった。ま
た,市況価格の急落などにより生じる砂糖相場の上げ下げなどに
基づき注文先から値下げの申入れがあった場合,内容によっては,
控訴人P4が日本精糖に対し,そのような顧客の申入れを伝達し,
日本精糖に検討を要請することもあった。
また,毎月必ず消化すべき精糖販売の委託枠(日本精糖から3
か月ごとに契約価格(課徴金の分だけ安い価格)を決め,かつ納
入運賃を日本精糖が負担するとの約定で被控訴人が販売委託され
ている分)190トンについては,一定数量までは委託枠を使用
する顧客は一応決まっているが,控訴人P4は,どの取引先の納
入分に適用すれば利益が多いか,どのように割り当てれば消化残
が出ないかなどを考慮しながら,委託枠の使用を判断していた。
⑥更に,控訴人P4は,平成3年ころから2年ほどの間,輸出業
務(相手方は香港兼松)の成約部分を担当し,値決め,そのため
の交渉も行った。同輸出業務は,月額1000万円程度と比較的
少額な取引であったが,精糖相場と為替相場を勘案しながら,控
訴人P4がメーカー(日本精糖,香港兼松と交渉しながら行う)
ことが必要な取引であった。価格の決定にあたっては,控訴人P
4は,最終的に課長の了解を取ったが,課長が不在な時は事後承
認ということもあった。それらの事後承認が得られなかったり,
そのことが原因で控訴人P4が被控訴人において問題とされたこ
とはなかった。
この仕事は,控訴人P4の前も後も,男性社員(一般職)が担
当した。以上のような香港兼松との取引にあたり,同社との連絡,
交渉は,英語(英文のテレックス)により行われることがあった。
⑦また,客先から被控訴人が売った商品(砂糖)についてクレー
ムがあった場合(例えば,砂糖の袋が破れている,砂糖が固結し
ているなど,控訴人P4がそれに対応し,倉庫業者と折衝す。)
ることもあった。
()ハチミツ及びロイヤルゼリーなどの健康食品の取引については,d
一般職が購入先及び顧客との直接交渉を経て取引成約を行い,控訴
人P4は,売買契約書の作成,船積台帳への転記,作成した書類の
相手方への発送,取引関係書類の契約ごとのコピーのファイリング
等,信用状開設のアプリケーションの作成,財務部への提出などの
業務,輸入ネゴ書類(T/R伝票)の作成,財務部への提出などの
業務,貸物到着後の通関保管業者への荷捌兼通関指示明細書及び荷
渡指図書等の作成,関係者への配布あるいは送付,客先への請求書,
入金確認後の入金伝票の作成などの履行業務を行った。
()控訴人P4は,平成4年ころから平成5年ころまでの間,ミネラe
ルウォーターの代行輸入の仕事を1人で担当したことがあった。こ
れは,ポッカコーポレーション(以下「ポッカ」という)からミ。
ネラルウォーターの注文を受け,被控訴人がポッカの輸入代行とし
て,トルコのメーカーに注文し,これをポッカに引き渡すというも
ので,控訴人P4はポッカと現地のメーカーとが被控訴人の仲介に
より取り決めた条件に基づき,船積みやデリバリーに必要な書類作
成,クレーム処理等を担当した。クレーム処理としては,控訴人P
4は,ポッカからのクレーム(ミネラルウォーターを入れた段ボー
ルが歪んでしまったなどのクレーム)を受け,トルコのメーカーに
英文のテレックスを送り対策を要求したこともあったし,対策を立
てるため運輸部の担当者とともに港のヤードにコンテナを見に行っ
たこともあった。
()その他,控訴人P4は,精糖の販売量の集計を台帳に基づき行い,f
課内集計表(月報)の作成や業界の関係団体への報告を行ったり,
交際費,交通費等の雑費の伝票作成,コピー等の庶務に従事した。
()平成13年の基本考課表(甲314)において,控訴人P4の能g
力について,第1次評定者は93点を付け,その理由として「物,
事を責任を持って完遂している。組織全体に対する考え方もきちん
としており,業務を安心して任せられる」と記載している。。
()以上の認定事実を総合すると,以下のとおり認められる。h
控訴人P4の担当した業務は履行業務が中心であったが,同人が
単独で成約業務(油脂課での輸出入ラードの成約,食品第3課での
砂糖の輸出業務,代行輸入の仕事をかなりの期間担当したことも)
あった。更に,同人は,日常的にも食品第3課において,農畜産振
興事業団関係の手続把握とその管理の仕事,値入の仕事,日本精糖
と被控訴人との間で価額認識が違っている場合の処理,精糖販売の
委託枠の管理,その判断など,専門知識,一定以上の交渉力が必要
な仕事も担当してきた。また,そのような業務を遂行する過程で,
英語力が必要であった。
他方,一般職は,食品第3課において,砂糖の三国間取引,海外
に合弁会社を設置した上での海外の高付加価値砂糖の製造・輸入販
売,砂糖に代わる新規利益商材の開拓等に取り組み,その結果,砂
糖関係の取引は減少の傾向にあった反面,それ以外の健康食品の取
引が増加の傾向にあった。これは,証拠(甲341,乙97,18
5,276,306,証人P10(原審及び当審)によれば,平)
成5年4月に同課に配属となったP10が中心となって,その当時
将来性があまり期待できなかった一般的な砂糖取引に代わり,砂糖
の三国間取引,海外(中国)に合弁会社を設置した上での海外の高
付加価値砂糖の製造・輸入販売,砂糖に代わる新規利益商材(健康
食品)の開拓等に取り組み,一定の成果を上げたものと認められる。
しかし,このP10のような仕事を被控訴人における全ての一般
職が行い,同じような成果をあげているものではないと認められ,
普遍化することはできない(後記e()③参照。g)
d控訴人P1(甲134,144ないし147,149,170,1
99,205,273,315,330ないし332,乙15,12
9,131,133,138ないし157,169,186,277,
291,292,証人P24,控訴人P1(原審及び当審))
(a)控訴人P1は,入社した昭和41年3月15日から昭和44年
9月30日まで鉄鋼輸出部第1課において,鉄鋼メーカーへの支払
に関する業務を担当した。
鋼板課(昭和44年10月1日から昭和63年4月まで)では,
一般職が取り決めた契約内容について,成約の履行以後の業務を担
当し,契約内容の詳細の確認,高炉メーカーへの発注,船積手配,
支払,売上計上,決算に至る仕事を担当した。昭和49年ころから
昭和63年4月ころまでは,通商産業大臣官房調査統計部が実施す
る鉄鋼需給月報に関するデータの毎月の把握とその提出の仕事も担
当した。P1は,被控訴人のそれまでの実績統計表においては売り
先と買い先との結びつきがなかったため,商品コードの後に高炉メ
ーカーの略語を入れて,それがわかるような工夫をした。
昭和57年には,部長席付きとなり,部長のスケジュール管理,
取引先とのアポイントメント,メーカーと面談する際の必要な過去
の取引実績などのデータ把握,海外の取引先からの被控訴人への訪
問者(外国人)のアテンド等の秘書業務を担当した。
昭和63年4月には,プロジェクト条鋼チームで,ネパールやバ
ングラデシュへのパンザーマスト(鋼板組立柱)の輸出について,
契約後の履行業務を担当したが,1名しかいない成約担当者が出張
で不在の時は,担当者の代わりに,個人宛ての請求書など問題があ
る支払について対応したこともあった。
(b)昭和63年5月統括室勤務となった。統括室は,被控訴人の鉄
鋼部門において,営業本部とは別個・独立の部門長直属の組織であ
り,鉄鋼部門の営業における支援機能を果たすこと,すなわち,部
門長のスタッフとして案を作成したり,部門長・本部長の意向を先
回りして把握して資料を整え,案を作成し本部に提出するなどし,
鉄鋼部門の長期・短期戦略に関わる一切の事項を視野に入れて,営
業を支援することを目的としている。統括室は,具体的には,①
鉄鋼部門全般に係わる方針の立案・その作成等に関し,部門長・本
部長を補佐する業務(部門長・本部長が組織の強化改善を検討して
いく過程において,各部又は取り扱い商品の実態把握のための資料
の作成や関係者ヒアリング等の実施と報告を行うこと,部門が抱え
る問題点(遊休資産や不良債権等)の発見及び対応策を提言するこ
と,組織の改編や人事異動がある場合,その記録・報告書を作成し,
社内外への説明報告を行うこと等,②鉄鋼部門全般の経営・営)
業活動の把握と部門長及び本部長への報告(業務計画作成にあたっ
て,部門長席・本部長席案及び各部計画立案・作成の援助をするこ
と,鉄鋼部門業務計画の遂行状況を把握し,問題点の発見及び対応
策の提言をすること,国内関係会社・海外店・海外関係会社の業務
計画遂行状況の管理及び報告をすること,各部の商品ポジション
(先物・現物の買い持ち・売り持ち)の管理と報告をすること,各
部の不良債権を把握し本部長報告の補佐をすること,鉄鋼部門が持
つ株式の取得・売却の検討・立案と報告をすること,職務権限移譲
ルールを作成すること「鉄鋼部門の概要(部門史。組織・人員,,」
業績,内外関係会社紹介等をまとめた冊子で年刊)を作成するこ。
と等,③鉄鋼業界各種団体との折衝(各部にまたがる高炉ミル)
(新日本製鉄,日本鋼管,川崎製鉄,住友金属,神戸製鋼,日新製
鋼,中山製鋼の7社をいう)との売買基本契約を締結し,基本契。
約書を作成すること,高炉ミルヘの被控訴人の決算報告・役員人事
異動の報告等を行うこと,各種業界団体の会合への出席,会合提出
資料の作成を行い,幹事会社となった場合には事務局機能を担うこ
と,④その他(業界紙・業界誌等の取材・広告等への対応,国)
内外の鉄鋼業界情報の収集,整理・保管・回付,鉄鋼部門の関連備
品の管理,部門長席及び本部長席の秘書業務,客先の人事異動及び
冠婚葬祭時の電報手配等)の業務を行っている。
()統括室の構成員は,昭和63年5月以降平成7年3月まで,控訴c
人P1以外は全て管理職である参事,参事補の男性2,3名であり,
同年4月1日以降は,管理職2名(うち1名は室長,事務職2名)
(うち1名が控訴人P1)となった。
控訴人P1は,①室長・管理職の指示の下,室長・管理職が取
りまとめた資料を整理し,又はワープロ・コンピュータを使用して
入力・印刷・コピー及びその配布を行う業務(室長・管理職が立案
作成した鉄鋼部門の業務計画をコンピュータに入力する,コンピュ
ータに記録済みの鉄鋼部門業務計画を管理職の指示により取り出し,
一覧表に入力する,室長・管理職が作成し,本部長の承認を得た人
員組織図をワープロ入力する,月次の各部・各課及び国内支店の行
事表作成に関し,管理職の指示に基づきコンピュータよりデータを
取り出し,一覧表に入力する,これに管理職が業績のコメントを入
れ,室長の承認を得た後,コピーをとり,室長が指示している宛先
に配布する,4月1日付け組職変更あるいはその後の人事異動に基
づいて職務権限移譲通知書を作成する,その他,室長・管理職が統
括室の業務遂行上必要とする資料の整理,作成文書の入力等を,そ
の都度指示を受けて行うといった業務,②上記「鉄鋼部門の概)
要」の作成に関し,過去の各種資料及び集計した諸資料やコンピュ
ータデータをチェックし,部門データとして加工,集計し,コピー
をとって冊子としての体裁をそろえ,各拠店長に配布する,月次報
告として発行される「鉄鋼連絡メモ」又は「鉄鋼本部連絡メモ」
(各部・各課・支店・海外店の紹介,人事異動,部門長・本部長出
張予定等の連絡を内容とするもの。以下「鉄鋼連絡メモ」とい
。,う)の作成につき,掲載の内容を企画立案し,室長の承認を得て
関係先に部門紹介の原稿依頼を行い,また,掲載すべき情報を聴取
・チェックし定型フォームにタイプし,室長の承認を得て,宛先に
配布する(控訴人P1は,鉄鋼連絡メモの1号(昭和63年5月)
から134号(平成11年7月)までの編集,発行に関わった,。)
被控訴人がメンバーとなっている各種業界団体の登録代表者に変動
がある場合,変更通知書を作成し,室長の承認を得て関係先に配布
する,業界の定期刊行物・業界誌・業界紙を資料作成用に整理し,
保存・保管し,管理職の包括的又はその都度の指示の下,各部にコ
ピーを配布する,統括室作成文書等を整理・保管するといった業務,
営業実績を集約するため,月次の実績を集約して文書(甲145,
乙129)化する業務及び年2回の決算期に際し各部署の実績を集
約して控訴人P1がパソコンを使用して文書化する,③入出金に
関する業務として,毎月末又は月初に,各部・各課及び国内支店・
出張所への月次賦課金・負担金又は支払金の振替・入出金伝票(記
入金額は,鉄鋼部門業務計画に基づき決定された額である)を作。
成し,室長の承認を受けた後,営業経理部に持ち込む,各種業界団
体の会費等の請求につき,定期定例のものについては室長の包括的
指示の下,臨時のものについては室長の個別的指示の下,支払伝票
及び振替伝票を作成し,いずれの場合も室長の承認を得て,営業経
理部に持ち込む,業界団体の一つである鋼材倶楽部への支払につき,
営業部の報告数量に基づき,室長の包括的指示の下,4半期毎に支
払伝票・振替伝票を作成し,室長の承認を得て営業経理部に持ち込
む,ノートに記載された室員の外出交通費立替額を月末に取りまと
め,支払伝票を作成し,室長の承認を得て営業経理部に持ち込む,
室長・管理職の立替にかかる統括室運営経費(会議費,接待費,事
務費,広告費等)につき,その指示の下に支払伝票を作成し,室長
の承認を得て営業経理部に持ち込むといった業務,④決算業務と
して,決算期前の2月と8月に,各部課の決算予想を鉄鋼部門とし
て集約する業務及び鉄鋼部門全体の決算を点検して集約する業務,
⑤債権債務の管理(金利の管理-後記キューバに対する滞留債権
の管理など,保険の管理(包括保険のチェックなど,リース物))
件の管理業務,⑥庶務的業務として,毎朝,関係先から受信した
ファックス・郵便物・テレックス等を受け取り関係者に配布する,
室長・管理職の指示を受けて,会議室使用の予約・手配をし,会議
出席者に資料を配布する,毎月初めに,統括室の出勤簿の交換を行
う,統括室の備品,文房具の管理,管理職接客の際のお茶出し等と
いった業務を行った。
()①これらのうち,鉄鋼連絡メモに関する仕事は,控訴人P1が異d
動した後は管理職(P25)が担当した「鉄鋼連絡メモ」は毎。
月初旬に継続的に発行されており,前月の10日までに,控訴人
P1は掲載する記事の企画書を準備し,原稿を依頼する依頼書も
同時に用意して室長に提出していた。これに対し,室長は,それ
を見た上異議がなければ,了承する意味の印鑑を依頼書に押捺し
た。集約した原稿の確認,訂正依頼,レイアウトの工夫なども,
控訴人P1が1人で行っていた。
前記のとおり,控訴人P1は,その仕事を11年間以上継続し
て担当したもので,同人の企画,編集などの仕事は,質の高いも
ので,室長は控訴人P1にその仕事を概略任せていたものと推認
できる。統括室のP14が退職に先立ち平成6年8月3日P26
室長に宛てて作成した引継書(甲149)においても「本部連,
絡メモ(P1さんがTAKECARE」と記載されている。)
②上記「鉄鋼部門の概要」の作成に関して,過去の各種資料及び
集計した諸資料やコンピュータデータをチェックし,1年間の商
品別実績データとして加工,集計する作業は,平成12年8月ま
で,管理職であるP27,P14と控訴人P1の3人が行い,控
訴人P1は輸出取引の仕向国別,商品別実績データを作成し,P
14は国内取引データを作成していた。P14は,前記引継書
(甲149)に,この「統計関係資料作成」を「かなり時間がか
かりしんどい作業」と記載している。控訴人P1は,この仕事を
行うにあたり,いちいち室長の指示を受けることなく,一応独自
に仕事を完成させ,その上で室長に成果を示し,その決裁を得て
いた。
③控訴人P1が平成9年以降行っていた上記営業実績を集約化す
る仕事のうち月次の実績を集約した文書(甲145,乙129)
の中のコメント部分を作成する仕事,年2回の決算期に際し各部
署の実績を集約してパソコンを使用して文書化する仕事は,控訴
人P1の異動後は,管理職(P28)が担当した。
④控訴人P1が担当していた鉄鋼部門の組織図作成,一覧表の作
成等についても,控訴人P1の異動後は,管理職(P28)が担
当した。
⑤前述のとおり,控訴人P1は,被控訴人において保険の管理
(包括保険のチェックなど)の業務を担当していたが,川崎製鉄
がまとめ役であるブラジルのツバロン製鉄所の投資保険について
時間的余裕がないとき,控訴人P1が本来川崎製鉄が行うべき貿
易保険機構等に対する保険料,保険金額の変更手続を行った。
また,控訴人P1は,金利の管理業務を担当したが,昭和63
年9月に被控訴人鉄鋼部門に存在した対キューバ滞留債権約40
億円を統括室に移管する際には,各課ごとの各勘定の中からキュ
ーバ関連債権を抜き出し,決済繰延計画に従って新期日に組み替
えて統括室の各勘定に付け替えることにも携わった。その後控訴
人P1の進言に基づき,それに基づく金利負担を営業外損失とし
て処理することが承認された。
また,控訴人P1は,リース物件の管理業務を担当したが,被
控訴人の子会社である兼松総合ファイナンスとのリース物件につ
いて,あらかじめ決められた値段に基づき,契約やこれに基づく
リース料(年2回)の支払時期を何時にするかなどの交渉を担当
したこともあった。
また,控訴人P1は,販売費把握のためのコンピュータのシス
テム化を兼松コンピュータシステムが行う際,実務に精通してい
るユーザー側の1人として意見を述べ,管理職に対し具体的な提
案をした。
()控訴人P1は,平成11年9月13日鉄鋼貿易部第2課に異動とe
なり,1年目は欧米向けの条鋼の輸出業務について,2年目以降は
東南アジア向けのステンレスの条鋼形鋼の輸出業務について,成約
後の履行に関する業務を行っている。控訴人P1は,平成19年4
月末日で被控訴人を定年退職する予定である。
()以上の認定事実を総合すると,以下のとおり認められる。f
控訴人P1は,昭和63年5月に統括室に勤務することとなった
以降,前記認定のとおり,多様な仕事を適切に処理してきた。
このうち,鉄鋼連絡メモに関する仕事は,控訴人P1が11年間
以上継続して担当したもので,同人の企画,編集などの仕事は,質
の高いもので,室長は控訴人P1にその仕事を概略任せていたもの
と推認できる。控訴人P1が異動した後はその仕事を管理職(P2
5)が担当したのも,その証左である。
次に「鉄鋼部門の概要」の作成に関する控訴人P1の仕事は,,
同人のほか,管理職であるP27,P14が行っていたが,控訴人
P1が行っていた仕事(輸出取引の仕向国別,商品別実績データの
作成)は,P14が「かなり時間がかかりしんどい作業」と記載し
た仕事(国内取引のデータの作成)と同質の仕事であり,控訴人P
1は,その仕事を行うにあたり,いちいち室長の指示を受けること
なく,一応独自に仕事を完成させ,その上で室長に成果を示し,そ
の決裁を得ていた。
以上の認定事実から明らかなように,控訴人P1は,統括括室に
おいて,定型的な仕事のほかに,鉄鋼連絡メモの企画,編集など,
一定程度以上の裁量のある仕事を担当し,個々の仕事の進め方につ
いて上司(室長)の指示命令を受けることなく独自の考えに従い行
っていたものである。
更に,控訴人P1は,金利負担を営業外損失として処理すること
を進言し,それが承認されたり,リース物件の管理業務を担当し,
契約やこれに基づくリース料(年2回)の支払時期を何時にするか
などの交渉を担当するなど,専門性,一定程度以上の交渉力が要求
される仕事を担当したこともあった。
e控訴人P2(甲122ないし124,127ないし133,171,
194,201の1,甲244,268,275,306,309,
322,325ないし327,335,336,347,乙12,1
14ないし122,126ないし128,187,265,279,
305,証人P9(原審及び当審,控訴人P2(原審及び当審)))
(a)控訴人P2は,入社(昭和55年4月)以来一貫して鉄鋼輸出
業務に携わり,主に成約後の履行業務,具体的には,採算の見積も
り(成約前に一般職が行う採算見積より正確度の高い見積もり。そ
のためには,取引,各種諸掛りに対する正確な知識が必要であり,
金利の動向に対する正しい理解が必要である,契約内容を確定。)
し,客先へは売り契約書,メーカー宛には注文書を作成して交付し,
為替予約,保険付保,信用状に関連する業務を行うほか,船積み手
配,検査手配,荷揃いに関する業務,出荷に関する業務,売上計上,
入出金処理,諸掛りのチェック,決算業務を行った。
入社後の鋼板第2課では,成約担当の男性社員と組んで主にイン
ドネシア向けの鋼板輸出業務を担当し,2年目から東南アジア・中
国向けの鋼板輸出と厚板の仕事を担当し,昭和61年4月から鋼管
チームで配管器材を担当し,昭和62年からは,配管器材以外の鋼
管の履行業務も担当し,平成3,4年ころには,中南米向けのブリ
キ,建材条鋼の三国間取引等も担当した。平成11年からは,鋼管
ブリキの仕事に加え,鋼板建材条鋼,新日本製鉄への支払,三国間
取引も担当した。
(b)平成7年当時の鋼管・建材課において,控訴人P2が担当した
具体的な業務は,以下のとおりである。
鋼管・建材課の業務内容は,鋼管・配管器材・条鋼類の輸出取引
(日本の鉄鋼メーカーの製品を海外店経由で海外客先向けに輸出す
る取引,ビレット(鋼片)及び条鋼類の三国間取引(海外で生産)
された鉄鋼製品を他国に販売する取引,鋼管の国内取引(国内鉄)
鋼メーカーの製品を国内の需要家に販売する取引)並びに鋼管継手
の輸入取引(海外から日本の鉄鋼製品需要家向けに必要な鉄鋼製品
を輸入する取引)であった。
),平成7年当時,鋼管・建材課は,管理職2名(うち1名は課長
一般職2名,事務職2名(うち1名が控訴人P2,寄留者1名)
(他社からの出向受入者)からなり,控訴人P2は,鋼管の輸出,
輸入及び国内取引の業務に従事した。
鋼管・建材課には年間売上総利益のノルマ(平成7年当時,売上
総利益2億2800円)が課され,これについては課長が全責任を
負ったが,課内の他の管理職(1名,一般職(2名)にもノルマ)
が配分された。課長,一般職(一般1級以上)は,ノルマ達成の有
無,その程度により,ボーナスの査定,成績の評価,将来の昇級昇
格で考慮されたが,その時点での基本給の額には関係はない。事務
職は,個人としてはノルマが課されていなかったが,課全体に課さ
れたノルマを実現するためには,総合職,一般職が職務を適切に遂
行することが必要なことは勿論のことであり,事務職の行う履行事
務が適切に行われることが必要で,ノルマの実現には,事務職の管
理職,一般職への協力が不可欠である。
控訴人P2が従事した輸出取引に関する業務としては,引合,契
約書の作成,船積み,与信限度額管理,支払,入金がある。引合に
関し,控訴人P2は,海外店から受信したテレックス又はファック
スを一般職の各担当者,管理職,課長又は部長に配布し(テレック
スやファックスに記載されているオファーに対する返事には関与し
ない。オファーに対する返事は,管理職や一般職の各担当者が自分
でテレックスを打って行う,管理職,一般職が作成した文書を。)
ファックスで取引先等に送信する業務を行った。
契約書の作成に関し,控訴人P2は,管理職,一般職が行った取
引交渉で成約に至ったものについて,一般職が作成したオーダーコ
ンファメーション(商品,スペック,サイズ,数量,船積時期,サ
プライヤー(鉄鋼メーカー,客名,仕入価格,売価格,支払条件)
等が英語と数字で記載された書類。乙114)に基づき,船積台帳
の記載,契約書の作成,注文書の作成などを行った。それらの際に,
控訴人P2は,オーダーコンファメーションを受け取ると,その記
載を正確に読み取り,各メーカーごとに異なるフォームにあった注
文の表記(コード)に従い,オーダーコンファメーションの記載内
容をコンピュータにインプットすることとなる。
しかし,オーダーコンファメーションには,上記注文に必要な全
ての項目が網羅されているわけではない(タイ向けの客先の注文を
例に取ったオーダーコンファメーションと注文書との対照表である
甲124参照。同書証に記載された「本来色別」は,オーダーコン
ファメーションには記載がない)ので,記載のない項目は,控訴。
人P2が補充する。控訴人P2は,メーカーのフォームにあった注
文の表記をするため,各社が作成した注文書作成のマニュアルを参
照したり,時にはメーカーの担当者と連絡を取り合い,打ち合わせ
をすることもある。そのような読み取り,連絡,打ち合わせをする
際には,当然各商品に対する十分な知識,製造工程に対する理解が
必要である。これらの作業に基づき控訴人P2がコンピュータに情
報をインプットすると,鉄鋼メーカーとの電送による最終オーダー
確認,最終のオーダー確認後の電送による鋼鉄メーカーへの注文,
客とのセールスコントラクトの作成,契約メモ(会計処理)の作成
がされる。控訴人P2は,一般職の作成したオーダーコンファメー
ションを受け取った後,同一商品の注文でも,納入先(顧客)の希
望(鋼管の管端保護やステンシルなど)に基づきメーカーに連絡し
てその希望を実現させることが可能かメーカーの担当者に確認する
ことがあった。
それらの発注に際しミスがあると,顧客(注文者)にとって不要
な製品が出来上がり,被控訴人がそれによる高額な損害を引き受け
ることが必要となる。実際,被控訴人において,平成2年ころ,切
板の発注に誤りがあり,同社が損害額を支払ったことがあった。控
訴人P2が担当している商品は特注品であり,単価が高いため,万
が一ミスがあると,被控訴人に莫大な損失を与えることとなる。
取立手形による決済方法を採る場合,船積みに際し与信限度額を
遵守することが必要であった。控訴人P2が担当していたメキシコ
のVELCON社向けの取引において,与信限度額管理が必要であ
り,同人が昭和63年ころから同社との取引の終了した平成16年
まで,その与信限度額管理の仕事(定められた与信限度額の範囲内
の取引かを手形の残高を把握し,管理する仕事)を担当した。この
仕事は,控訴人P2が担当する以前は,一般職(P29,昭和50
年入社)が担当していた。
船積みに関し,契約書,注文書,オーダーコンファメーション,
信用状等の取引関係書類のコピーがファイルされた船積みホルダー
を作成し,一般職のチェックを受けた船積みホルダーを運輸部へ提
出する(船積書類の作成,通関のほか,船積関連業務は,運輸部が
行う。輸出代金,ネゴ(為替手形の買取)に関する書類は,運輸部
から財務部へ渡り,営業部では,関与しない。そして,運輸部。)
からインボイスのコピーを受領後,船積台帳にインボイスに基づく
数量を記載し,インボイスを添付し,一般職の確認,管理職の承認
を得た後,入出庫伝票をインプットする。これにより入出庫処理が
コンピュータで自動的になされる。
輸出する鉄鋼製品について第三者検査が必要な契約もあるが,平
成2年から8年ころまでの間,インドネシア向けの輸出に必要なS
GSの検査手続は控訴人P2が担当した(甲123,127。他)
方,ロイドの検査手配は一般職が担当し(乙122,イラン向け)
の輸出に必要なIEIの検査手続は平成6年からは一般職(P3
0)が,平成13年11月からは総合職(P31)がそれぞれ担当
した。
支払に関し,メーカーから請求書を受領した場合は,その内容を
確認して出金伝票を作成し,課長,部長の承認を得た後,営業経理
部へ提出する。
入金に関し,財務部からの入金確認後,入金伝票を作成し,一般
職,課長の確認を得た後,財務部へ提出する。
控訴人P2が従事した輸入取引業務,国内取引業務も,輸出取引
業務で述べたところと,基本的には同様である。
控訴人P2は,その他に,各種資料及び伝票,帳票のファイル
(日本の輸出統計等の業界資料,輸出組合,特定商品輸出組合から
の資料,社内資料,メーカーからの通知,月報等をコピーし,所定
のホルダーにファイルしたり,伝票・帳票をファイルする,庶。)
務(接待交際費や交通費等の雑費の伝票作成,コピー等)業務も行
った。
()控訴人P2は,同人が担当していた上記仕事の遂行に関して,c
既述の点以外に,以下のようなことを行い,また,配慮をした。
①船積みについて,荷揃いが契約どおり確実にできるようにする
ため,控訴人P2は毎月自発的にメーカーに進捗状況を確認した
り督促したり,客先(VINCENT社,SUPERIOR社な
ど)に確認したりし(甲123,130,注文数量とメーカー)
の製品数量が異なる場合には,客先と被控訴人の契約内容により
受渡許容の範囲内であるときは控訴人P2が回答したり,その範
囲を超えて客先の了解が必要なときは被控訴人の海外店に控訴人
P2が連絡を取り(英文で行うこともある)確認し,それをメ。
ーカーに伝達することがあった。以上のような仕事を行うために
は,商品,工程に関する十分な知識,英語力が必要であった。
なお,それらの荷揃い確認の仕事は,控訴人P2とともに一般
職も行っており,平成14年当時は,総合職(P32,P33)
もこの仕事を担当していた。
②平成11年までは,客先からの代金は外貨入金,メーカーへの
支払は外貨建てでの円決済であったので,為替差損の問題が生じ
る(精算日(出荷日から一定の日)の為替レートで円の支払がさ
れる)ため,控訴人P2は,精算日及びそれを決定する出荷日。
のチェックとそれに関連して被控訴人財務部に連絡したり,精算
日を客先に伝える事務を行うこともあった。
③支払については,控訴人P2は,請求に係る諸掛りが見積もり
どおりかを点検し,違いがあるときは実際の諸掛りの請求に間違
いがないかについても確認していた。
④決算においては,被控訴人では66チャージと称して諸掛りを
一括管理していたため,決算時にこれを会計基準に則って費目ご
とに金額を確定する必要があり,控訴人P2は,その作業に労力
を要した。
⑤控訴人P2は,昭和63年ころ以降,仕事の一環として,メー
カーや被控訴人のシステム開発について,経験豊富な実務担当者
としてシステム開発を担当していた株式会社兼松コンピュータシ
ステム(その後株式会社日本オフィスシステムになる)の担当。
者等に意見を述べた。控訴人P2は,システムが完成して起動す
るまでの間,頻繁にその打ち合わせを行い,起動後も,検討の必
要が生じる毎に,その検討に関わった。更に,控訴人P2は,平
成14年11月以降行われたJFEスチールの代金決済システム
の説明会に,成約担当者,統括室の社員とともに被控訴人を代表
して参加した。その際行われたデータテストには,控訴人P2が
被控訴人の中心として関わった。
()控訴人P2は,産休後の昭和61年4月ころ,鋼管チームに配置d
換えとなり,配管器財の履行業務を担当することとなったが,成約
担当者の海外転勤にともない,ネリキ社との成約業務を昭和62年
から1年間近く担当した。
()第101期のRC(甲325)には,控訴人P2の仕事ぶりにe&
ついて,上司(P9)は「多忙を極めていることは,自他共に認,
識している。事務職の補充も今期は考える所存。深みのある業務内
容との希望に添える様,機会の創造を試みる「同社員の努力の。」,
積み重ねによりOA化もかなり充実して来ている。メーカー側のO
A化に伴い商社側も不可欠となっており同社員の貢献多とするも
の「事務職の補充を実現。部全体の事務もスムーズに回って来。」,
ている。営業担当者へのサポートもうまく実行していると評価す
る」と記載している。。
第102期のRC(甲326)には,控訴人P2の仕事ぶりに&
ついて,上司(P9,P34)は「部,課の方針をよく理解し,,
積極的に仕事に取り組んでくれており,その協力姿勢は高く評価し
たい。具体的に部の業績のupに繋がる様にしなければ申し訳けな
い(営業担当全員決意を新たにするところ(P9「きちん。。)」),
とした事務処理,課員のサポート等その姿勢も含めて高く評価出来
る(P34)と記載している。。」
第112期のRC(甲309の2)には,控訴人P2の仕事ぶ&
りについて,上司(P35)は「新物流/企業間/JFEシステ,
ム等,システムが不安定な状態の中,正確かつタイムリーな業務を
遂行したことが認められます」と記載している。。
()以上の認定事実を総合すると,以下のとおり認められる。f
控訴人P2は,被控訴人に入社以来,上記()(成約事務)を除d
き,終始鉄鋼部門の履行業務を担当してきた。同人の担当する同業
務は,定型的な要素が比較的強いことは否定できないが,その事務
を適切に処理するためには,取り扱う商品,その製造工程に対する
十分な知識が必要である。また,海外取引に関わることから,英語
力が必要である。更に,一般職,総合職に比べると少ないが,対外
的な第三者との連絡,交渉が必要な場合があり,一定程度以上の交
渉力が要求される。また,控訴人P2が担当する履行業務は,取り
扱う商品が特注品であり,単価が非常に高いため,万が一ミスがあ
ると,被控訴人に莫大な損失を与えることとなるので,控訴人P2
には細心な注意力が要求される。
そして,このような履行業務を確実に行うことが,利益の確保に
つながり,被控訴人に対する取引先の信用を維持するために不可欠
である。事務職は,個人としてはノルマが課されていなかったが,
課全体に課されたノルマを実現するためには,事務職の行う履行事
務が適切に行われることが必要であり,ノルマの実現には,事務職
の管理職,一般職への協力が不可欠であることは前記のとおりであ
る。そして,控訴人P2は,その職務を十分に果たしてきた(前記
RC,証人P9。なお,控訴人P2が担当した仕事の中には,&)
以前一般職が担当したものもあり,控訴人P2の仕事と類似の仕事
を総合職,一般職が担当したこともある。
()他方,証人P9(原審及び当審)は,要旨以下のとおり証言すg
る。
①管理職や一般職は,期初に課において策定した業務計画に従い,
個々に業務目標を設定し,課の業務計画の達成のために,方針を
定め,戦略を練って営業(販売)活動を行っている。例えば,輸
出取引における成約業務は,一般職又は管理職が,海外客先から
海外店経由や直接テレックスないしファックスで引合を入手した
後,これを商取引の経験とノウハウを駆使して分析検討し,その
引合に最も適当な鉄鋼メーカーを選定し,最善の売り条件を引き
出すため,それまでに築き上げられたメーカーとの人的関係に基
づき,交渉を行い,その後に被控訴人としての売り条件を海外店
にテレックスで伝え,売り条件,買い条件が合致するまで客先あ
るいは鉄鋼メーカーと交渉を行い,被控訴人にとってより高い利
益率で成約するという過程をたどる。被控訴人としての売り条件
を適切に設定するためには,市場,商品の需給状況,市況,同業
他社の動静,客先の情報分析が必要である。以上のような仕事を
行うために,一般職には,交渉力,語学力,商品知識,情報収集
力が相当程度必要である。
②昭和49年に入社したP9が一般職であったころ行った成約事
務として,以下のような実例がある。
昭和56年ころ,S製鉄がボウズ管のままで数万トンを買って
くれる需要家を探しているとの情報をP9が入手し,海外の駐在
員に連絡し,その結果,アメリカ合衆国ヒューストン店駐在員か
ら,油井掘削用に使われる油井管の継ぎ手製造業者(Texas
Arai社)に売れるとの情報が寄せられ,S製鉄に紹介し,
月1000トン(当時約3億5000万円)の新規商権を樹立す
ることができた。
昭和57年ころ,国内の一般職が,S特殊鋼が自社で供給でき
る細物の鋼管だけに限って油井管業界での他用途開拓を切望して
いるとの情報を入手した。アメリカ合衆国ヒューストン店のP9
は,この情報に基づき,労力を費やした結果,同国において原油
汲み上げ用の鋼管の目詰まりを掃除するための極細のパイプの需
要があるとの情報を入手し,国内の一般職に伝達し,S特殊鋼に
紹介し,取引が成立した。この取引が端緒となって,被控訴人は,
その後,特殊ネジ付きチュービングを専門とするアメリカ合衆国
のSTEELSERVICE社と出会い,K製鉄などを紹介し,
継続的な取引が行われ,平成9年には合弁で新たな販売会社を設
立するまでに至り,この商権に基づき,被控訴人は現在年間2億
円の収益をあげている。
昭和60年ころ,VincentMetal社と非常に良好
な関係を築いていたアメリカ合衆国ヒューストン店のP9は,国
内一般職の努力,協力も得て,それまで被控訴人の同業他社であ
るT社がVincentMetal社に対しS金属の構造用鋼
管を供給していたのに代わって,被控訴人がVincentM
etal社に対しS金属の構造用鋼管を供給することに成功した。
③本件において,上記P9の証言は,以下のとおり評価すべきで
ある。
まず,上記②の3つの話は,いずれもP9の経験,実績に関す
る具体例であるところ,同人は昭和49年4月被控訴人に入社し,
平成4年4月東京本社鉄鋼貿易第1部第3課課長となり,平成7
年7月兼松米国会社副社長兼ヒューストン支店支店長に,平成1
4年6月同社社長にそれぞれ就任した後,平成18年6月被控訴
人本社の取締役に就任した者であり(乙128,305,証人P
9(原審及び当審,多数いる被控訴人の男性社員の中でも特))
に秀でた実績を上げた者であると推認される。男性一般職の大多
数又は過半数の者が,P9のような実績を上げているとの証拠は
ない。本件において,控訴人らが被控訴人に対して求めているの
は,一般職の男性社員との賃金格差の是正であり,平均的な能力,
業績あるいは平均を下回る能力,業績の者も含む一般職の社員を
比較の対象とすべきである。
以上から,P9の証言する実例を普遍化し,本件の判断に斟酌
するのは,適切ではない。
f控訴人P6(甲18,104ないし107,117ないし121,
172,195,202,269,349,乙13,108ないし1
11,113,184,278,証人P36,控訴人P6)
(a)控訴人P6は,入社(昭和57年4月)後の畜産部畜産第1課
では,馬肉チームの配属となり,ブラジル産馬肉の輸入業務を担当
し,契約貨物の船積み等についての海外店とのテレックスのやりと
り,船積み書類のチェック,通関予定についての通関業者との連絡,
顧客との荷渡しや為替予約についての打ち合わせ,海外店との貨物
代金決済処理,契約書,請求書の作成,売上の計上,入出金業務,
手形の集金,決算資料の作成等,契約締結後終了までを担当した。
その後,控訴人P6は,チキンチームの輸入業務も担当した。
昭和57年11月に配属された畜産第3課での担当業務もほぼ畜
産第1課時と同様であった。なお,控訴人P6は,畜産第3課への
異動に当たり,担当業務のうち馬肉関連業務は男性社員(一般職)
に,チキンチームの仕事は女性社員(事務職)にそれぞれ引き継い
だ。
その後,控訴人P6は,昭和58年6月に再度畜産第1課に異動
となり,羊肉チームの仕事を担当し,その後チキンチームや馬肉チ
ームの仕事も兼任した。
控訴人P6は,平成4年10月羊肉チームごと畜産第2課に異動
となり,一時牛肉チームの仕事もした後,平成7年4月羊肉チーム
ごと畜産第3課に異動し,平成8年7月の退職まで羊肉チームの仕
事をした。
(b)平成7年4月当時,畜産第3課の業務内容は,冷凍・冷蔵豚肉
及び冷凍・冷蔵羊肉等の輸入取引(海外から日本の畜肉商品取扱需
要家向けに畜肉商品を輸入し販売する取引)及び国内取引(需要家
からの引合いのうち,同課で取り扱っていないブランドあるいは在
庫のない商品の場合に,国内の他社から買い取りそれを販売する取
引)であった。このうち,国内取引は,被控訴人(担当は一般職)
と国内の客先との間においては先物で契約を締結しており,それ以
外の取引は,少量の商品不足の場合行われるもので,量的には全体
から見れば少なく,値段も基本的に既に決まっていたから,損益面
では大きな影響を与えるものではなかった。
課には年間売上総利益のノルマが課せられ,課長が責任を負った
が,課内においては,ノルマが分配の上一般職に配分された。課長,
一般職(一般1級以上)は,ノルマ達成の有無,その程度により,
ボーナスの査定,成績の評価,将来の昇級昇格で考慮されたが,そ
の時点での基本給の額には関係はない。事務職は,個人としてはノ
ルマが課されていなかったが,課全体に課されたノルマを実現する
ためには,総合職,一般職が職務を適切に遂行することが必要なこ
とは勿論のことであり,事務職の行う履行事務が適切に行われるこ
とが必要で,ノルマの実現には,事務職の管理職,一般職への協力
が不可欠である。
当時,畜産第3課は,管理職1名(課長,一般職4名,事務職)
),3名(うち1名が控訴人P6,寄留者1名(派遣社員)からなり
控訴人P6は,一般職1名とともに羊肉商品取引業務に従事してい
たが,その具体的内容は,以下のとおりである。
①輸入取引に関する業務について,契約書の作成に関しては,課
長及び一般職が輸入客先との輸入取引及び国内販売先との販売取
引を同時平行して交渉し,輸入と国内販売の両方の取引について
成約に至ったものについて,一般職が商品名,スペック,数量,
仕入先,客先,船積時期,ブランド,仕入価格,売単価及び支払
条件等を記載して作成した「成約表」に基づき,契約台帳に成約
表の内容を転記するとともに,成約表に基づいて契約内容をコン
ピュータにインプットし,自動アウトプットされた「契約書」を
成約表とともに,一式書類として一般職に提出し,一般職の確認
後,さらに課長に提出して捺印された契約書を国内販売客先に送
付するという業務を行った。
船積みに関しては,控訴人P6が船積み予定表を作成し,それ
を一般職にも渡し,海外からの船積みの案内がテレックス又はフ
ァックスで控訴人P6又は一般職宛てに送られてくると,控訴人
P6がその内容を確認し,貨物が契約どおり間違いなく積まれて
いるかなどを確認した(甲107(控訴人P6の作成した引継
書)には,ニュージーランドの書類には,特に気を付けてチェッ
クするようにと記載されている。同人が,問題があると判断。)
した時は,客先と連絡を取りながらシッパーに指示を出した。な
お,甲117号証は,控訴人P6がオーストラリアの業者に対し,
ファックスで指示をした時のものである。
控訴人P6は,上記船積みの案内のテレックス又はファックス
に問題がなければ,船積台帳に転記し,その後,被控訴人社内に
常駐している通関代行業者の担当者に船積み案内の書類を渡して
連絡をした。
輸入決済に関しては,海外への支払は,海外からの書類の到着
が銀行から被控訴人外国為替課経由で連絡が入るので,その後に
控訴人P6は一般職が作成した成約メモに記載された支払条件に
基づいた決済方法で支払伝票を起票し,一般職及び課長の確認印
を受けた後,外国為替課に提出するという業務を行った。
商品デリバリーに関しては,控訴人P6は,商品の通関,入庫
があったときに,その明細を船積台帳に転記し,主に同人が取引
先とデリバリーの日程等を決め,デリバリーの明細を記載した
「受渡し明細書,荷渡し依頼書」を作成し,同人でも一般職でも
商品の受け渡しに対応できるように,それらの書類をファイルし,
保管した。また,控訴人P6は,この書類を倉庫会社にファック
スし,また,デリバリーに関する情報をコンピュータにインプッ
トし,一般職及び課長の確認を受けた後,請求書は取引先に,荷
渡依頼書は倉庫会社に送付するという業務を行った。
代金回収に関しては,財務部から入金確認の連絡を受けた後,
控訴人P6が入金伝票を起票し,一般職,課長の確認後,財務部
へ提出するという業務を行ったが,顧客からの入金は畜産部の取
扱いがまとめて行われるので,その内訳の調査に時間と労力を要
することが多かった。また,入金が遅れた場合には,控訴人P6
が客先へその問い合わせを行った。
なお,為替予約に関しては,契約条件により予約リスクを被控
訴人が負担する場合と顧客が負担する場合とがあり,後者の場合
は顧客の判断に従って処理し,前者の場合は為替をいつの時点の
レートでとるかは一般職が判断したが,それについて控訴人P6
が一般職に助言することもあった(甲18の3。)
②国内販売に関する業務について,継続的な取引先からの注文が
あった場合には,一般職又は控訴人P6が受けていた。羊肉は相
場の変動が激しくはないが,どれくらいの価額でオファーを出せ
るか,被控訴人の口銭(利益)をどれだけ取るかなどを即座に判
断することが必要であった。
控訴人P6が,注文を受けた後にデリバリーに関する業務,請
求書及び入金伝票等の起票,コンピュータ入力及びアウトプット
の作業を行うことは輸入取引業務の場合と同様であった。
定期的でない国内販売の注文に関しても,控訴人P6が注文を
受けることもあった。
特定の仕入先(1社)から仕入れ,特定の客先(2社)に売り
渡す国内業務があるが,これは,一般職が,仕入先及び販売先と
交渉して成約に至ったものについて,商品名,スペック数量,納
期,仕入価格,売価格及び支払条件等を,控訴人P6に提示し,
以後,同人が,輸入取引業務の場合と同様,契約内容をコンピュ
ータにインプットする作業,デリバリーに関する業務,契約書,
請求書及び入金伝票の起票を行った。
控訴人P6がビーフチームに在籍していた時,同人は,牛肉の
国内取引の成約事務を担当したことがあった(甲105の9の平
成5年4月28日の欄。)
③その他に,控訴人P6は,取引周辺業務として,諸掛り出金
(主に倉庫の保管料で,倉庫会社から請求書を受領し,チェック
の上出金伝票を起票して,一般職及び課長の確認を受ける,。)
各種伝票,帳票のファイル,商品ポジション表(被控訴人札幌支
店に対して畜産第3課が有する羊肉商品の在庫を連絡するため,
予め定められた書式で毎月2回,その時点での在庫内容をまとめ
た資料。船積台帳とストックリストを照合して作成する)の作。
成,為替ポジション表(輸入取引に伴う外貨決済の予定をまとめ
た表。成約表に基づき随時作成する)の作成,残高確認(決算。
期に各取引先に対する売掛債権の残高が営業経理部から連絡され
るので,この内容を畜産第3課の資料と照合する作業)を行って
いた。
④海外との契約締結のための交渉は一般職が担当していた。
控訴人P6は,一般職が出張などで不在の時は,控訴人P6が
契約の締結を担当することもあったと供述する。そして,その実
例として,平成5年1月に,一般職(P37)が出張で不在の際,
被控訴人札幌支店(担当者は専任職のP15)の依頼を受けて,
控訴人P6がオーストラリアの業者と直接ファックスで連絡し,
買い希望値段,売り希望値段を連絡して,成約にこぎつけたこと
があったと供述し,甲105号証の8,甲106号証の1ないし
7を提出する。
しかし,甲105号証の8(このノートは,控訴人P6が個人
的に記載していたものにすぎない,106号証の1ないし7。)
に記載された取引は,被控訴人札幌支店(担当者はP15)の指
示(指値)に基づき,控訴人P6がそれを仲介したものにすぎな
い。ところで,同取引より前に行われた海外取引に関する証拠は
なく,同取引の行われた平成5年1月という時期は,控訴人らが
被控訴人を相手方として東京都品川労政事務所に平成4年6月に
あっせんの申立てを行った以降の時期である(控訴人P6,弁論
),の全趣旨。以上から,それらの書証,控訴人P6の供述により
同人の同主張を認めることはできない。
⑤被控訴人の牛肉取引に関し,架空取引により在庫と売掛金があ
わないという問題が生じ,控訴人P6は平成5年3月以降約3か
月間,客先への架空売り上げの有無等に関する複数人による調査
に携わった。
⑥控訴人P6は平成8年7月に被控訴人を退職したが,控訴人P
6が担当していた業務の大半は,派遣会社からの派遣社員(被控
訴人に以前事務職として勤務していた者)が引き継いで行った。
⑦第101期のRC(甲18の2)の「上司所見」には「豊&,
富な経験を生かし業務遂行能力は優秀「業務に対する情意及」,
び遂行能力共豊富な経験を生かし優秀」と記載されている。
,()他方,一般職は,期初に課において策定した業務計画に基づきc
個々に業務目標を設定し,課の業務計画達成のために,現地(オー
ストラリア,ニュージーランド)の状況,客先の状況などを調査し
て方針・戦略を考えたり,それを修正したり,プロジェクト計画
(たとえば,それまでアジア・ニュージランド・ミート社が独占し
ていた同国の羊肉の輸出権を兼松ニュージーランド会社が獲得した
ことなど)に,課長とともに取り組んだりしていた。。
(オ)関連する事柄(甲19,43,44,78,79,125,17
5,200,236の3,7,甲272,278,284ないし28
7,293ないし300,304,305,323,324,328,
329,339,340の2,乙45ないし47,182,280,
281,182,証人P18,同P38,控訴人P3,同P5,同P
1(原審及び当審,同P4(原審及び当審,同P2(原審及び当))
審,同P6))
a被控訴人東京本社メカトロニクス第1部第1課に勤務していた事
務職のP39(平成元年入社。ι大学ロシア語学科卒)は,ロシ。
ア語が堪能で,ロシア向けファクシミリ等の輸出案件について,平
成2年ころから,一般職の指導の下に成約業務を担当したことがあ
った。この案件は,合計数十万円から数百万円の小規模なもので,
仕入先も売先も確実なものであった。また,同人はロシアからの来
客のアテンド業務も担当した。
b被控訴人東京本社畜産部において豚肉輸入・国内販売業務に従事
していた事務職であるP38(昭和51年入社)は,入社後ある。
時点以降(証人P38は,入社して3年ほどした時点では,食品輸
入の履行業務を担当しており,その後もかなり長い期間同業務を担
当した趣旨のことを認めており,後記チルドポークが我が国に輸入
されるようになったのは,昭和61年ころ以降であったという,。)
豚肉の輸入や国内取引についての成約業務を担当した。
P38が担当した成約業務の対象商品の1つにチルドポークがあ
るが,冷凍生肉であるチルドポークは屠殺から60日後に賞味期間
が切れるので期限が切れる前に冷凍する必要があり,冷凍すると半
値以下になってしまうため,通関から1週間が商売の勝負を決する
時期であった。このため,P38は被控訴人の取引先と交渉して,
被控訴人の口銭を高くなるように努力し,成果を上げた。
第100期から第109期までのRCには,P38がチルドポ&
ークの販売の開拓を担っている,男女を問わず後進の指導に当たっ
ていることが具体的に記載されている(第100期(甲294)の
上司所見-「営業活動の一翼を担い,特にチルドポークの商売に於
いては,一部客先とのネゴを含むルーティンを担当してもらってい
る,第101期(甲295)-「事務から商売までの多岐に亘。」
る内容を担当している。~商売では,チルドの煩雑なポジション調
整,契約の管理さらには売買も担当している。豊富な社内経理知識
でもって,男女を問わず,後進の指導もお願いしたい「P40。」,
君をして「P38さんが居なければ,チルドは回りません」と言。
わせる仕事振りである,第104期(甲298)-「最後のP。」
38頼みでよく無理を聞いてもらっていますが,これからも宜敷
く。。」)
P38は,チルドポークの新規取引先として,雪印食品,米久,
日本ハム,西友,稲毛屋,全農を開拓した。
c平成8年当時,被控訴人東京本社運輸部国際物流課では,男女
(一般職と事務職)が混在して本船のブッキングの仕事をしており,
男女間で仕事の内容に顕著な相違は見いだせない(甲175。この
ことは,被控訴人に限られたことではなく,他の大手商社において
も同様な状況であったことは,甲90においても,窺われる。。)
そして,被控訴人東京本社運輸部国際物流課に限られず,前記のよ
うな控訴人らが勤務した職場の状況などから,被控訴人の他の部署
においても,似たような状況があったことが推認できる。
d被控訴人東京本社新規事業開発部では,平成元年4月にL&L
(レディース・ライフ&リビング)チームを発足させ,女性事務職
に女性の感性を生かせる商品(化粧品など)の企画・販売・集金等
を実施させたことがあった。同チームは,上司(部長)の承認の下
に女性事務職3人がこれらの業務に従事し,平成6年3月に解散し
た。上記事実は,部長という管理職の承認が必要であったとしても,
平成元年4月の段階で女性事務職が商品(化粧品など)の企画・販
売・集金等を実施していたという点で参考となる。
e被控訴人において,商社勤務者の基礎知識と位置づけられていた
日商簿記検定試験の結果は,一般職と事務職の間で遜色はなく,最
低限必要とされる社内常識と位置づけられている社内実務検定試験
(財務・経理運輸,審査A,審査B)の結果も同様であった(甲4
3(平成4年6月実施のもの,44(同年12月実施のもの。)))
また,平成4年度の新人研修,平成7年度の社内実務講座におい
て,事務職と一般職が,同じ研修を受けていた。たとえば平成4年
新人研修において,導入研修(マナー研修,簿記研修など,OJ)
Tリーダー研修,簿記研修,OA研修基礎編,EDPS研修・検定,
実務基礎講座,フォローアップ研修が一般職と事務職で一緒に行わ
れていた(甲125,284ないし287。)
f被控訴人において,長く勤務している一般職,総合職の中にも海
外勤務,国内の転勤のいずれも経験していない者も現に少なくない
(甲19によれば,平成6年副社長で被控訴人を退職したP41は,
入社以来33年間被控訴人大阪支社において勤務したことが認めら
れる。また,総合商社において,取り扱う商品の種類が多岐に。)
及び,各取引分野毎に専門性があることから,一部門に長く勤務す
ることが多い。
以上から,転勤の経験の有無,期間は,被控訴人において,職務
に習熟し,専門性を獲得するために不可欠な要件であるとは認めら
れない(もっとも,大手総合商社である被控訴人において,取り扱
う商品によっては,海外勤務の経験が有益であり,その経験が大所
高所の判断を行うにあたり必要となることもあると思料されるが,
一般的に職務に習熟し,専門性を獲得するために不可欠な要件であ
るとは認められない。。)
g一般職の中で,営業部門に配置されながら,営業に向かず,実績
を上げることができない者もおり,それでも一定の時期に出向とな
ったり,任意に退職するまでは一般職としての待遇を受けることと
なる。昭和61年10月当時の資格分布は次のとおりであった。
被控訴人の32歳までの一般職全員と34歳の一般職全員が一般
1ないし3級の資格にあり,それより上の年齢の一般1ないし3級
はおらず,33歳,34歳の一般職で主事補の資格にある者が出始
め,35歳から38歳までは全員が主事補の資格,39歳から41
歳では,管理職である主事の資格を有する者が出始めるが,主事補
も半数近くいた。42歳以降では,主事やその上の参事補以上の資
格の者が大半であるが,51歳くらいまで各年齢に数人の主事補が
いた(証人P18は,年齢が40代後半であるのに,主事補という
社員のことを「能力がない。業務遂行能力が主事レベルに達しな,
い」と証言する。なお,甲236の3も同趣旨と理解できる。。。)
h被控訴人が発行する広報誌「KGMonthly(甲344」
の1ないし9。発行時期は平成元年から平成8年まで)には,被。
控訴人において,そのころ事務職の女性がそれぞれの部署で,成約,
価格交渉,ファンドマネージャー等の仕事で活躍していることが紹
介されている(同誌が対外的に会社をアピールするという編集方針
があったことは否定できない(乙47)が,ここに記載されている
ことが事実に基づかないものであるとは認められない。。)
(カ)被控訴人の人事制度改定の経緯等及び均等法の成立
被控訴人の人事制度改定の経緯等及び均等法の成立については,以
下のとおり付加するほか,原判決78頁4行目から88頁3行目まで
の記載を引用する。
a原判決79頁11行目の末尾に「しかし,被控訴人は,上記提,
案を行うに先立ち,被控訴人の各職場において,男性社員と女性社
員の仕事の相違,成果などを具体的に調査したことはなかった(証
人P18」を加える。)。
b同頁19行目の末尾に「しかし,被控訴人の職掌別人事制度が(
旧均等法の趣旨に合致したものであるかについては,後に検討す
る」を追加する。。)
c同80頁11行目から12行目にかけての「少なからずいた」の
次に「控訴人P3,同P5,同P4,同P1,P38らは,職,(
掌別人事制度の導入に反対するため,被控訴人東京本社に勤務する
女性の約85パーセントの署名を急遽集め,組合に提出した(甲1
09,110,278,乙33」を加える。)。)
d同81頁5行目から7行目までの「一般職の採用は,平成10年
までに女性8名,男性約260名であった。なお,被控訴人は,平
成9年,平成11年,平成12年には事務職を採用しなかった」。
を「一般職の採用は,昭和60年から平成10年までの間は,女性
が7名で,男性が683名であり,平成11年から平成16年まで
の間は,女性が11名で,男性が54名であった。平成16年4月
の時点で,被控訴人の一般職掌は,男性が71名,女性が21名で
あった。なお,被控訴人は,平成6年,7年,9年,11年,12
年には事務職を採用しなかった(乙260,261」と改める。。)
e同84頁3行目から4行目の「前者の場合は,後者の場合に比
べ」を「後者の場合は,前者の場合に比べ」と改める。,,
f同87頁12行目の「平成14年4月までの間に合計16名であ
った」を「平成14年4月までの間に合計16名であり,同年5月
以降平成18年4月までの間に合計13名(うち3名は一般2級へ
の転換)であった(乙262,293」と改める。)。
g同頁12行目から14行目にかけての「新転換制度において事務
職から一般職への転換に際し満たすことが要求される昇級要件は,
現在の一般職在職者は全て満たしている」を「新転換制度におい。
て事務職から一般職への転換に際し満たすことが要求される昇級要
件(一般職実務検定全教科合格,日商簿記3級,日商ワープロ3級,
TOEIC600点以上(導入後2年程度は550点)は,新人)
事制度において,一般1級への昇格要件とされている(乙163の
11頁)ものと同一である。しかし,同制度導入後,被控訴人にお
いて,前記昇級要件(特に,TOEIC600点以上(導入後2年
程度は550点)を全て満たさないと一般1級への昇級をさせな)
いとの運用を実際行っていたと認めるに足りる的確な証拠はない
(乙189は,被控訴人の主張に符合する事実が記載されているが,
被控訴人の人事部職員の陳述にすぎず,被控訴人からTOEICの
具体的な点数の開示などはなく,後記認定の鉄鋼本部に所属する一
般職のとったTOEICの点数,社内認定級の成績などから,上記
陳述は,直ちに採用することはできない」と改める。。)。
h同頁24行目の「平成11年4月1日から施行された」を「そ。
の主要部分が平成11年4月1日から施行された」と改める。。
ウ検討
(ア)賃金格差が存在したこと
a争いのない事実等(追加の上引用した原判決9頁19行目から2
1行目まで,同10頁10行目から12行目まで)記載のとおり,
旧兼松,江商は,合併直前である昭和41年度の時点において,男
性に適用される賃金体系と女性に適用される賃金体系とを比較する
と,男性の方が年数が高くなるにつれて女性よりも高く設定されて
いた。
そして,そのような賃金体系は,両社においてそれ以前から長く
継続してきたものであったこと,その当時の他の大手商社において
も似たような賃金体系がとられていたことが推認でき,我が国にお
いて大手商社以外の民間企業においても同様な状況が存在したこと
は公知な事実である。
b合併以後も,被控訴人において,そのような賃金体系には変化が
なかった(なお,初任給については,昭和52年,被控訴人におい
て,男女同額が実現されたが,その後平成3年から再び大部分が男
性の一般職と全員女性の事務職との間で格差がつけられ,実質的に
男性の方が女性より高くなった。乙267,弁論の全趣旨。)
合併以降,男性(A体系)の賃金が女性(B体系)の賃金に比べて優
遇され,男女間の格差が拡大し,昭和48年以降はその格差,比率
はほぼ固定した。
昭和60年1月,被控訴人は,職掌別人事制度を導入し,従前の
A体系適用の参与,主事以上の男性職員は管理職に,A体系適用の
主事補以下の者は一般職に,B体系適用の者(女性)は事務職に,
C体系適用の傭員は特務職に,それぞれ編入したが,給与体系は一
般職,事務職はそれまでの年次別標準本俸体系を基本として維持し,
特務職はそれまでのとおりとした。
職掌別人事制度導入後,新人事制度導入前の控訴人ら事務職標準
本俸表の適用を受ける事務職社員と一般職標準本俸表の適用を受け
る一般職との賃金等(本俸と調整手当(本俸の15パーセント)と
住居手当(非独立)の年齢ごとの格差は,概ね別紙3の旧事務職)
と旧一般職のグラフのとおりであり,また,新人事制度導入後(平
成9年度の時点)の各等級ごとの基本給の比較は,概ね別紙3の新
事務職各級と新一般職各級のグラフのとおりであって,いずれも事
務職社員と一般職社員との間に相当の格差があり,本訴の請求期間
の一部である平成7年の賃金の額を同年齢で比較すると,女性(事
務職)は男性(男子が大部分である一般職)と比べて,25歳にお
いて81.61パーセント,30歳において67.40パーセント,
35歳において60.77パーセント,40歳,45歳において約
57パーセント程度にすぎない。そして,平成4年4月の時点にお
いても,ほぼ同じであったと推認される。また,平成9年4月から
導入された新人事制度において基本給の運用が改められ,一般職の
定期昇給は34歳までとされた。
cなお,視点を変えて,女性(B体系)の賃金を特務職の男性(体C
系)の賃金と比較すると,昭和45年の時点においては,両者の賃
金はほぼ同額で,40歳では女性の方が高かったが,昭和48年の
時点においては,特務職の男性(体系)の賃金の方が女性(B体系)C
の賃金より約10パーセント以上(25歳では,19.50パーセ
ント)高くなり,昭和60年の時点では,その格差が拡大し(約2
),1パーセントないし24パーセント,平成7年の時点においても
その格差の比率はほぼ同じであった。
(イ)賃金格差が生じた理由等
a上記(ア)記載の賃金格差が存在するに至った理由は,以下のとお
りであると認められる(それが合理性を有するかは,後記b以下で
検討する。。)
(a)合併前の旧兼松及び江商において,前記(ア)記載のとおり,
男性に適用される賃金体系と女性に適用される賃金体系が別に設
定され,これを比較すると,男性の方が年数が高くなるにつれて
女性よりも賃金が高く設定され,そのような賃金体系は,以前か
ら長く継続してきた。
(b)その背景には,当時,女性の勤続年数が一般的に短期であり,
そのようなことも関連して,民間企業において女性は一般的に補
助的な業務を担当することが多く,民間企業も,女性に対して,
そのような役割しか期待しないことが多かったという事実が存在
し,合併前の旧兼松及び江商においても,そのような状況であっ
たと推察される(合併から約8年が経過した昭和50年3月の時
点において,被控訴人に勤務する女性社員の平均年齢が25.9
歳であったことは前記のとおりである。。)
()そして,以上のことと関連して,合併前の旧兼松及び江商におc
いては,男女別で異なった募集,採用方法を採り,男性社員の多
くは,総合商社の中心的業務である成約業務を中心とする職務を
担当し,将来幹部社員に昇進することが可能な者として処遇し,
また,その勤務地(海外を含む)も限定しないものとし,女性社
員については,そのような処遇をすることを予定せず,個々の社
員の希望や能力を考慮することなく,主に成約以後の履行を中心
とする業務,庶務に従事する者として処遇し,また勤務地を限定
したというべきであり,入社後の賃金についても,男女別の賃金
体系に基づいて定められていた。
()合併後の被控訴人において,以上のような男女間の職務分担にd
関する考え方に変化はなく,男女別の採用,処遇が続き,成約事
務を重視する企業風土,労働組合の被控訴人に対する賃金増額の
要求において男性重視の方針がとられたこと(前記特務職の男性
社員の賃金と事務職である女性社員の賃金との逆転も,労働組合
の運動が影響していた。甲251,253ないし255)なども
手伝って,男女間の賃金格差はさらに拡大していったものと認め
られる。
()旧兼松,江商,被控訴人は,控訴人らの採用にあたり,控訴人e
らに対して,控訴人らが従事する業務が定型的・補助的業務であ
ると明示的に説明したわけではない。
b上記aについて,必要な限度で補足的に検討する。
(a)まず,同(b)(勤続年数)については,昭和50年3月の時
点において,被控訴人の女性従業員の平均年齢が25.9歳であ
ったが,昭和55年3月の時点では29.3歳となった。実人員
を見ても,昭和61年12月の時点において,被控訴人に勤務す
る女性従業員(618名)のうち,50歳以上が37人,40歳
以上50歳未満が70人,30歳以上40歳未満が179人おり,
30歳以上の女性従業員は女性全体の約46.2パーセントを占
めたこと,女性従業員の平均年齢は,平成元年3月から平成4年
3月までの間で,31.8歳から32.8歳であったことは前記
のとおりである。以上から,昭和55年3月又は昭和61年12
月の時点においては,既に長期間勤務している女性社員がかなり
多かった。
(b)次に,男女のコース別採用,処遇について検討する。
①まず,男性社員の多くは,成約業務を中心とする職務を担当
し,女性社員は,主に成約以後の履行を中心とする業務,庶務
に従事しているという点について検討する。この点については,
一方で,(あ)男性社員(一般職,総合職)の中にも,成約業
務以外の仕事(職能部門など)だけを担当している者が相当数
いるものと推察され(証人P18,同P42,控訴人P3,)
他方で,(い)女性社員の中にも,勤続期間が長く経験を積み,
職務の中で専門知識を身につけて,金額の大小の問題がある場
合もあるが,成約業務に従事している者が少なくないことは前
記イ(オ)記載のとおりである(P39,P38,前記「KG
Monthly」に紹介された者等。)
このような点を考えると,被控訴人において,男女間で,主
に担当する業務が成約業務か履行業務かとの大まかな区別があ
ったこと自体は否定できないが,一般職(男性)のしていた業
務を事務職(女性)が引き継ぎ,事務職(女性)のしていた業
務を一般職(男性)が引き継ぐということもあり,截然とした
区別ではない。
②次に,成約業務と履行業務との価値の相違,評価の点につい
て考える。被控訴人は,一般職には基幹業務を,事務職には定
型的・補助的業務を担当させていたと主張する。
しかし,被控訴人の上記主張は以下のような問題点がある。
(あ)被控訴人は,取引機能を中心に,多様な機能をもつ総合
商社であり,総合商社は,業者と業者との取引に介在し,両
者をつなぐことによって利益を上げることを基本とする企業
であるから,業者と業者をつなぐ契約を成立させること,す
なわち成約業務が中心的業務であるということはいえる。そ
して,成約業務においては,交渉力,外国との折衝が必要な
場合は語学力,豊富な商品知識等が要求されるものであるか
ら,一般的にみて,処理の困難度の高い業務であるというこ
とができる。
しかし,履行業務の遂行においても,専門的知識,一定の
交渉力が必要な場合が多く,英語力・語学力が要求されるこ
ともある。例えば,控訴人P3については,通関業務,30
00万円以上の商品代金の納入確認業務等,控訴人P4につ
いては,農畜産振興事業団関係の手続把握とその管理の仕事,
値入の仕事,日本精糖と被控訴人との間で価額認識が違って
いる場合の処理等,控訴人P1については,統括室勤務にお
ける「鉄鋼連絡メモ」の企画,編集,リース物件の管理業務
等,控訴人P2については,オーダーコンファメーションに
記載のない項目の補充のため,海外の取引先と連絡,打ち合
わせを行ったり,督促,確認を行うこと等は,専門的知識が
必要な例である。
そして,このような履行業務を確実に行うことが,利益の
確保につながり,取引先の被控訴人に対する信用を維持する
ために不可欠である。事務職は,個人としてノルマが課され
てはいなかったが,課,その部署に課されたノルマを実現す
るためには,事務職の行う履行事務が適切に行われることが
必要であり,事務職の管理職,一般職への協力が不可欠であ
る。
(い)控訴人らの実例からも明らかなとおり,管理職,一般職
の仕事であったものを事務職が引き継いだり,その逆が行わ
れたり,職務の分担は流動的な要素も多い。
(う)新事務1級は退職まで勤務したとしても,27歳(入社
後約5年の社員)の新一般1級の賃金に達することはないこ
と,他方,27歳の新一般1級は,未だ養成途中と見るのが
相当であることは,前記のとおりである。一般職の中に,交
渉力,語学力,商品知識等を発揮して成約業務において大き
な成果を上げる者がいることは否定できないが,未だ養成途
中の27歳くらいの一般職がそのような成果を上げることは,
実際上多くはない(当審における控訴人P2。なお,証拠)
(甲344の1,乙306)によれば,平成元年9月当時,
入社5年目,食品農産部に異動となってから約2年を経過し
たP10は,同食品第3課でコーヒーの取引を担当していた
が,その主な仕事は書類の処理などのデスクワークであった
ことが認められる。
c被控訴人は,営業部門における成約業務を中心とする比較的処理
の困難度の高いと考えた業務を一般職(男性)に,比較的処理の困
難度の低いと考えたそれ以外の業務(履行業務,庶務事務)を事務
職(女性)に,従前(合併前も含む)それぞれ主に従事させてき。
た。ところが,女性の勤続年数の長期化・高学歴化,それらに伴う
女性の能力向上,職務の多様化,専門化,OA化などから,次第に
両者の境目が明らかではなくなり,その一部が重なり合っていたり,
女性が成約業務の分野で活躍することが以前より目立って多くなっ
てきたものである。
以上のような変化を踏まえると,少なくとも控訴人らが本訴請求
の対象としている期間においては,被控訴人の行う業務について,
被控訴人が主張するように基幹的業務と定型的・補助的業務と明確
かつ截然と区別(二分)することは困難であり,被控訴人において
は,処理の困難度の高いものから低いものまで,その程度が異なる
ものが様々あり,両者の差異は相対的なものというべきである。
他方,被控訴人は,従業員の募集,採用において,男性と女性と
では,募集方法を異にし,男性は役員面接を行った上採用していた
のに対し,女性は支店長ないし人事部長等限りでの面接によって採
用し,勤務地も女性は親元通勤であることなどの条件を示していた。
また,採用後の研修においても,ある時点までは男女で異なってい
た。
以上から,被控訴人は,男性社員と女性社員とで職務内容が異な
ることを明らかにして採用をしたわけではないが,少なくとも勤務
地については男女を区別しているということができる。したがって,
この募集,採用により,控訴人らと被控訴人との労働契約は,勤務
地を一定地域とする勤務地に限定のあるものとして締結されたと認
めるのが相当であり,このことは,採用後の配置において,控訴人
らは終始東京で勤務しており,全国的な異動の対象とはされていな
いことからも明らかである。すなわち,一般職と事務職では,転居
を伴う勤務地の異動(海外勤務も含む)があるか(原判決別紙2。
,の()参照)否かという差異があった。転勤,特に海外勤務の場合1
本人のみならず,家族などへの影響も大きく,さまざまな負担があ
ることは明らかである。
(ウ)賃金格差の合理的根拠の有無
aはじめに
格差の合理性について判断するには,男女間の賃金格差の程度,
控訴人ら女性社員が被控訴人において実際に行った仕事の内容,専
門性の程度,その成果,男女間の賃金格差を規制する法律の状況,
一般企業・国民間における男女差別,男女の均等な機会及び待遇の
確保を図ることについての意識の変化など,様々な諸要素を総合勘
案して判断することが必要である。そこで,以下,時期を区分して,
検討することとする。
b昭和59年12月まで(職掌別人事制度導入前)
(a)前記のような,旧兼松,江商及び被控訴人での男性社員,女
性社員の募集,採用条件,採用後の配置,異動状況のほか,採用
後の男女の研修体系が異なっていたこと,商社としての活動上全
国又は海外への異動をするものとして予定されているもの(男性
社員)と勤務地に限定のある者(女性社員)とでは積む経験,知
識も自ずから異なると考えられること,控訴人らが入社当時の女
性の平均勤続年数は短かったことを併せ考えると,被控訴人は,
当時の社会情勢を踏まえた企業としての効率的な労務管理を行う
ため,男性社員については,総合商社の中心的業務である成約業
務を中心とする主に処理の困難度の高い職務を担当し,将来幹部
社員に昇進することが予定される者として処遇し,また,その勤
務地も限定しないものとし,女性社員については,そのような処
遇をすることを予定せず,主に成約以後の履行を中心とする処理
の困難度の低い業務に従事する者として処遇し,また勤務地を限
定することとしたものというべきであり,社員の採用にあたって
も,このように男女で異なった処遇をすることを予定していたこ
とから,男女別に異なった募集,採用方法をとっていたものと認
められる。
したがって,旧兼松,江商及び被控訴人は,社員につき,被控
訴人主張のようにまず職種の違いがあることを前提としてではな
く,男女の性による違いを前提に男女をコース別に採用し,その
上でそのコースに従い,男性社員については主に処理の困難度の
高い業務を担当させ,勤務地も限定しないものとし,他方,女性
社員については,主に処理の困難度の低い業務に従事させ,勤務
地を限定することとしたものと認めるのが相当である。
そして,その結果,被控訴人の賃金体系(社員,準社員の別,
A体系とB体系の別,一般職標準本俸表と事務職標準本俸表の別
等)から明らかなように,被控訴人においては,入社後の賃金に
ついても,その決定方法,内容が男女のコース別に行われていた
もので,それに伴い,賃金格差も生じていたということができる。
(b)被控訴人は,控訴人らの入社当時,男女をコース別に採用,
処遇していたもので,このような採用,処遇の仕方は,性によっ
て採用,処遇を異にするというものであるから,法の下の平等を
定め,性による差別を禁止した憲法14条の趣旨に反するもので
ある。
もっとも,憲法14条は,私人相互の関係を直接規律すること
を予定したものではなく,民法90条の公序良俗規定のような私
的自治に対する一般的制限規定の適用を介して間接的に適用があ
るに止まると解するのが相当であるところ,性による差別待遇の
禁止は,民法90条の公序をなしていると解されるから,その差
別が合理的根拠のない不合理なものであって公序に反する場合に
違法となるというべきである。以下,この見地から検討する。
()控訴人らが入社した当時,性による差別を禁じた実体法の規定c
としては,労働基準法4条があり「使用者は,労働者が女性で,
あることを理由として,賃金について,男性と差別的取扱いをし
てはならない」と定めている(当時の文言は「女性「男。,」,
性」ではなく「女子「男子。また,同法3条は「使用者,」,」),
は,労働者の国籍,信条又は社会的身分を理由として,賃金,労
働時間その他の労働条件について,差別的取扱をしてはならな
い」と定めている。。
労働基準法3条は,その文言から明らかなように「賃金,労,
働時間その他の労働条件」に関する差別的取扱を禁止するもので,
募集,採用に関する条件は労働条件に含まれないと解するから,
被控訴人のとった男女のコース別採用,処遇が,直接同条に違反
するものとはいえない。
また,労働基準法4条は,性による賃金差別を禁止しているに
止まるから,採用,配置,昇進などの違いによる賃金の違いは,
同条に直接違反するものではない。控訴人らの入社時期は各自に
よりかなり異なるが,控訴人らが被控訴人に入社した当時の男女
間の賃金格差は,時期が古くなればなるほど,後記()④記載のd
とおり,担当する仕事の相違という要素がかなり強く存在したも
のである。そのような場合,賃金の格差は,職務内容の相違とこ
れに伴う採用,配置,昇進などの違いによるものであり,労働基
準法4条に直接違反するものではない。公序良俗違反の成否,不
法行為の成否の問題として別途判断すべきである。
()そこで,以下,前記賃金の格差に関し,公序良俗違反,不法行d
為の成否について判断する。
控訴人らが入社した当時において,被控訴人が従業員の募集,
採用について,男性については,主に処理の困難度の高い職務を
担当し,将来幹部従業員に昇進することが予定される者であるこ
とから,勤務地に限定のない者として,他方,女性については,
主に処理の困難度の低い業務に従事することが予定される者であ
ることから,勤務地に限定のある者として男女別に行ったことは,
女性に男性と均等の機会を与えなかった点で男女を差別するもの
で,法の下の平等に反するものとして公序に反するのではないか
が問題となるところ,以下の理由から,公序良俗に違反したり,
不法行為が成立するものとは認められない。
①上記のとおり,従業員の募集,採用に関する条件は,労働基
準法3条の定める労働条件ではなく,また,採用,配置,昇進
などの違いによる男女間の賃金の違いという場合には,労働基
準法4条に直接違反するともいえない。
②控訴人らが入社した当時においては,募集,採用,配置,昇
進についての男女の差別的取扱いをしないことを使用者に義務
づける法律はもとより,使用者の努力義務とする旧均等法のよ
うな法律すらも未だ存在しなかった。
③企業には,労働者の採用について広範な採用の自由があるこ
とからすれば,被控訴人が,控訴人らの被控訴人(合併前も含
む)への入社当時,営業部門における成約業務を中心とする。
比較的処理の困難度の高いと考えられた業務を一般に勤続期間
が長く業務上の知識,経験を蓄積することの期待できる男性に,
比較的処理の困難度の低いと考えられたそれ以外の業務(履行
業務,庶務事務)を一般に勤続期間の極めて短い女性に担当さ
せ,従業員の募集,採用について男女に均等の機会を与えなか
ったからといって,公の秩序,善良の風俗に反するものとまで
はいえない。当時の被控訴人以外の民間企業,同業他社におい
て,被控訴人のような男女のコース別の採用,処遇は,決して
珍しいものではなかったことは公知な事実である。
④昭和59年12月までの間,時期を遡れば遡るほど,被控訴
人において,営業部門における成約業務など比較的処理の困難
度の高い業務は,一般に勤続期間の長い男性が,それ以外の処
理の困難度の低い定型的,補助的な業務は一般に勤続期間の極
めて短い女性が,それぞれ中心となって行っていたものと認め
られ,被控訴人が主張する男女のコース別の採用,処遇という
制度と男性及び女性それぞれ担当する職務内容の実態は概ね合
致していたものと推察できる。他方,上記期間のうち後の時期
(昭和50年代など)になると,被控訴人において,女性でも
勤続期間が長く,経験を積み専門的知識を身につけた者がある
程度出てくるようになり,必ずしも上記のように男性と女性が
截然と区分される別の職務を行っているのではなく,男性の行
う職務と女性の行う職務が重なる場合があることは,被控訴人
の人事担当者も認識していた(証人P43)が,昭和58年当
時でも,女性の約半数が5年以内に約90パーセントが10年
以内に退職しているという実情(甲3の1)に照らせば,その
不一致の程度は大きくはなく,前記賃金の格差には,それなり
の合理的な理由が一応あるものというべきであり,この格差の
存在が,雇用関係についての私法秩序や公の秩序,善良の風俗
に反するものとまではいえない。
c昭和60年1月(職掌別人事制度を新設した時期)以降平成9年
3月(新人事制度導入直前の時期)まで
(a)①被控訴人は,昭和60年1月に職掌別人事制度を導入した
が,その内容は前記争いのない事実等(引用にかかる原判決1
2頁5行目から14頁20行目まで)のとおりである。
同制度において,社員を職掌別に,管理職,一般職,事務職,
特務職に区分したが,男性社員のうち,従前のA体系適用の参
与,主事以上の者は管理職に,A体系適用の主事補以下の者は
一般職に,従前B体系適用の女性社員のすべては事務職に,従
前C体系適用の男性傭員は特務職に,それぞれ編入された。給
与体系は,一般職,事務職は,それまでのA体系,B体系の年
次別標準本俸体系を基本として,特務職はそれまでのC体系の
とおりとされたのであるから,その点では,従前のA体系適用
の主事補以下の者,B体系適用の者,C体系適用の者に関する
限り,名称が変更されたのみで,被控訴人の男女のコース別の
処遇が人事制度の改定によって変わったということはできない。
被控訴人の人事制度の改定は,昭和60年6月1日に旧均等法
が公布され,昭和61年4月から施行されることとなるのに先
立ち,同法が成立することを予期して(同法案は,昭和59年
5月14日,第101国会に提出されたが,参議院で審議未了
となり,第102国会で一部修正の上後記のとおり可決成立し
たことは,公知な事実である,これに対処するため,従前。)
の男女のコース別の処遇が,男性,女性がそれぞれ担当する職
務内容の実態と概ね合致しているものとして,一般職,事務職
の区別を設けたものであり,女性でも勤続期間が長く経験を積
み専門知識を身につける者が出て来ており,一般職の男性と事
務職の女性が截然と区別される別の職務を行っているのではな
く,男性の行う職務と女性の職務が重なる場合があるという実
態もそのまま引き継がれていた。
②被控訴人は,職掌別人事制度導入の提案に先立ち,被控訴人
の各職場において,一般職に区分される男性社員と事務職に区
分される女性社員の職務の区別や男性社員と女性社員が同時に
あるいは後を引き継ぐ形で同じ職務を行ったことの有無等の実
情を具体的に調査したり,男性社員と女性社員それぞれの職務
の成果を比較するなどしたことがなかったことは,前記のとお
りであり,職掌別人事制度の導入後にもそのような調査,比較
が行われたことを認めるに足りる証拠はない。
被控訴人の女性社員の平均年齢は,昭和50年3月には25.
9歳であったが,平成元年3月から平成4年3月までの間には,
31.8歳から32.8歳となり,昭和61年12月の時点に
おいて,被控訴人に勤務する女性社員618名のうち,50歳
以上が37名,40歳以上50歳未満が70名,30歳以上4
0歳未満が179名おり,概ね勤続10年を超えると推認でき
る30歳以上の者は286名で,女性全体の約46パーセント,
概ね勤続20年を超えると推認される40歳以上の者は107
名で女性全体の約17パーセントであった。これらの30歳以
上の女性社員はいずれも旧兼松,江商及び被控訴人にコースの
選択の余地なく,女性であるが故の給与体系のもとで勤続して
来たもので,これらの長期勤続の女性社員の中には,一部成約
業務を担当していた者や,履行業務などを担当してはいるが,
専門知識,一定程度の交渉力,英語力・語学力により重要な仕
事を行っている者が相当おり,一般職に職務を引き継いだり,
一般職から職務を引き継ぐなど,一般職と同じ職務を行うこと
があったものと推認できる。その当時被控訴人において,事務
職と一般職との給与の差は,前記()ウ(エ)記載のとおり,か1
なり大きかった。事務職の給与は成約業務にかかわることのな
いことの明らかな特務職と比較しても相当に低いものであった
ことも前記()ウ(キ)記載のとおりである。1
③被控訴人は,職掌別人事制度の導入と併せて旧転換制度を設
けた。
被控訴人は,旧転換制度における事務職から一般職に転換す
る場合の運用として,事務1級昇格後最低2年間を経過し,一
定の評価を得ている者のうち,一般3級研修必須科目である財
務,経理,運輸,審査及び情報システムの実務検定試験に合格
した者が一般職への転換を希望している場合に,本部長の推薦
を経て職掌転換試験として筆記試験(一般職採用時使用程度の
もの。英語,一般常識,職業適性検査の予定であったが,小論
文と一般常識,職業適性検査で運用した)を行った上,人事。
部による面接により転換後の勤務条件を確認していた。
事務職から一般職への転換が認められた場合,転換後は一般
2級に格付けされ,本俸は一般2級初年度に位置づけられてい
た。
しかし,旧転換制度は,事務1級での評価の基準が明確では
ない上,本部長の推薦を経ることが要件の1つとされており,
女性の一般職を部下に持つことを望まない本部長の推薦は得に
くく,転換後の格付けや本俸が一般2級となり,事務職として
長年勤続して経験と知識を積んだ実績が評価されないなど,要
件が厳しく転換後の格付けも低いものであった。
④昭和61年10月当時,一般職は32歳までは全員が一般1
ないし3級で(そのうち遅くとも30歳以上は旧一般1級と推
認される,35歳までには全員が主事補の資格を得,39。)
歳から管理職である主事となる者が出始め,42歳以上では大
半が主事以上の資格を得るが,40歳代後半でも各年齢に数名
主事補のままの者がいる。したがって,一般職は,主事補の資
格までは,多少の早い遅いはあっても到達できるのであり,3
9歳から42歳ころまでに大半の者は管理職の職掌となり主事
の資格を得るように運用されていたものと解される。
⑤職掌別人事制度の採用は,昭和58年11月に被控訴人が労
働組合に導入を提案し,1年余の協議,交渉を経て,昭和59
年12月12日に締結された労働協約である昭和59年協定に
基づき就業規則を改定したものであり,その過程では,被控訴
人東京支社の女性を中心に反対する者も少なからずあったが,
組合の最高議決機関である全代議員総会で賛成多数でされた議
決に基づき,昭和59年協定が締結されたものである。
⑥旧均等法の成立経緯等は,以下のとおりである。
昭和54年,国連において「女子に対するあらゆる形態の差
別の撤廃に関する条約」が採択され,日本も賛成票を投じ,昭
和55年7月,署名した。同条約11条1項は,締約国に,
「男女の平等を基礎として同一の権利を(中略)確保すること
を目的として,雇用の分野における女子に対する差別を撤廃す
るためのすべての適切な措置をとること」を求めるものであっ
た。
それを受けて,我が国は,国内法の整備を行い,昭和60年
5月17日均等法が勤労婦人福祉法の改正案として成立し,6
月1日に公布され,昭和61年4月1日から施行された。均等
法8条は「事業主は,労働者の配置及び昇進について,女子,
労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをするように努めな
ければならない」と定め,事業者に努力義務を課した。前記。
条約は昭和60年6月25日批准され,同年7月1日公布され,
同年7月25日,我が国において効力が生じた。
(b)上記イ及び(a)に認定したところによれば,控訴人らが損害
賠償を請求する期間の始期とする平成4年4月1日の時点におい
て,入社以来34年11月勤続していた控訴人P3(55歳,)
27年勤続していた控訴人P4(45歳,26年勤続していた)
控訴人P1(44歳)の関係では,同控訴人らの前記認定のよう
な職務内容に照らし,同人らと職務内容や困難度を截然と区別で
きないという意味で同質性があると推認される当時の一般1級中
の若年者である30歳(入社後8年で自立が期待された)程度。
の男性の一般職との間にすら賃金についての前記認定のような相
当な格差があったことに合理的な理由が認められず,性の違いに
よって生じたものと推認され,上記3名の控訴人らについて男女
の差によって賃金を差別するこのような状態を形成,維持した被
控訴人の措置は,労働基準法4条,不法行為の違法性の基準とす
べき雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であり,そ
の違法行為は平成4年4月から,控訴人P3については退職した
平成9年1月まで,控訴人P4,同P1については,ここで判断
の対象とした期間の終わりである平成9年3月まで継続したもの
であり,被控訴人にはそのような違法な行為をするについて少な
くとも過失があったものというべきである。また,控訴人P2の
関係では,同人が15年勤続となった平成7年4月1日の時点に
おいては,同人の前記認定のような職務内容,成果,専門性の程
度等を斟酌すれば,前記と同じく,被控訴人の措置は,違法な行
為と評価することができ,その後違法行為が継続しているという
べきである。
すなわち,上記の期間の一般職の給与体系及び事務職の給与体
系は,職掌別人事制度導入前の男女のコース別のA体系(男性)
及びB体系(女性)が基本的に維持されたものであり,上記のよ
うな相当な賃金格差は,A体系,B体系の賃金格差をそのまま引
き継いだものであるところ,そのようなA体系,B体系の格差は,
かつて,女性社員の一般的な勤続年数が極めて短く,処理の困難
度の低い定型的,補助的な業務を中心として担当していたのに対
し,男性社員が成約業務など比較的処理の困難度の高い業務を行
っていたという職務内容の截然とした差異に対応していたもので
あるが,既に昭和50年代から女性でも勤続年数が長く,経験を
積み専門知識を身につけた者が出て来ており,男性と女性が截然
と区分される別の職務を担当するのではなく,男性の行う職務と
女性の行う職務が重なる場合があったところ,昭和50年3月に
は25.9歳であった被控訴人の女性社員の平均年齢は,平成4
年3月には32.8歳となり,昭和61年12月当時で被控訴人
に勤務する女性社員618名のうち,30歳以上の者は約46パ
ーセント,40歳以上の者は約17パーセントと相当の割合を占
め,これら長期勤続の女性社員の中には一部成約業務を担当して
いた者や履行業務であっても経験を積んで専門知識や一定程度の
交渉力,語学力により重要な仕事を行っているものが相当数おり,
少なくとも職掌別人事制度の下で,旧一般1級と同じ職務,同等
の困難度の職務を行うことがあったものと推認され,上記4名
(控訴人P2については後記平成7年4月1日以降)もその中に
含まれていたものであって,そうするとこのような相当数の女性
社員に関しては,女性社員の勤続年数が一般的に極端に短く,処
理の困難度の低い定型的,補助的な業務を中心として担当してお
り,男性社員の職務と截然とした差異があったことに対応するA
体系とB体系をそのまま引き継いだ一般職の給与体系と事務職の
給与体系の間の格差の合理性を基礎付ける事実は平成4年4月1
日の時点で上記年齢の旧一般1級との関係では既に失われていた
(控訴人P2の関係では,同人が勤続15年を経た平成7年4月
1日の時点で,同人と当時の旧一般1級の30歳程度の男性社員
との間に賃金について前記認定のような相当な格差があったこと
に合理的な理由は認められないものとなった)ものである。。
事務職の勤務地が限定されていることは,前記のような一般職
と事務職給与体系の前記のような格差を合理化する根拠とはなら
ない。
また,一般職と事務職の給与の格差は前記のとおりであり,事
務職の女性は定年まで勤務しても,育成途中にあると見られる2
7歳の一般職の賃金に達することはないことを考えると,前記の
ような給与の格差に合理性がないことは明らかである。
職掌別人事制度の導入と併せて旧転換制度が設けられたが,そ
の運用の実情は転換の要件が厳しく,転換後の格付けも低いもの
で,上記のような給与の格差を実質的に是正するものとは認めら
れない。
職掌別人事制度の導入は,控訴人らが所属する労働組合と被控
訴人との労働協約である昭和59年協定に基づくものであるが,
上記のような事情のもとでの男女の差による賃金差別にかかわる
問題であることを考慮すると,そのことをもって前記のような給
与の格差が控訴人P3,同P4,同P1との関係で平成4年4月
1日,控訴人P2の関係では平成7年4月1日以降違法であるこ
とを否定する理由にはならないと解するのが相当である。
被控訴人と同規模の企業,特に被控訴人と同種の企業である九
大商社(男女別のコース制が以前から行われていた。甲277の
2)の男女別の平均月給を掲載した甲321によれば,上記被控
訴人の職掌別人事制度導入から約4年後である平成元年3月の時
点において,被控訴人以外の8社においても被控訴人と同様男女
間の賃金格差が存在し,被控訴人より男女間の格差の率が大きい
商社も少なくないことが認められるけれども,そのことをもって
上記の判断を左右することはできない。
()これに対し,以下のとおり,控訴人P5の関係,控訴人P6のc
関係では,前記のような賃金の格差を違法ということはできない。
また,同控訴人らと同年齢の男性一般職との賃金に前記のような
格差があった点については,同控訴人らの職務と男性一般職の職
務が完全に一致あるいは大部分が一致していたわけではないこと
に照らせば,従事する職務の際による合理的な理由があるものと
解され,前記のような賃金の格差を性の違いによって生じたもの
で違法であるということはできない。
①控訴人P5について
平成4年4月1日の時点において,控訴人P5は,28年6
月勤続していたものだが,不法行為の成否が問題となる平成4
年4月1日以降,同人は専門性が必要な職務を担当していない。
すなわち,同人が平成4年11月以降定年退職までに担当した
のは秘書業務,定時的業務などであり,とくに専門性が要求さ
れる職務ではなく,同年4月から10月までの間においても,
前記のような経緯により既に後任者が配属されているにもかか
わらず,控訴人P5は紙業課においてそれまでの職務をその後
任者と共に行っていたにすぎない。
上記異動(配転)は,控訴人P5の希望に基づき行われたも
ので,そのような希望を出すに至った理由について控訴人P5
は前記イ(エ)bのとおり主張するが,被控訴人,控訴人P5の
上司等に責めに帰すべき事由があったとは認められない。
もっとも,平成4年3月まで行っていた控訴人P5の職務内
容,職務の専門性等に照らし,同人とそれぞれ同年齢の男性の
一般職との間に賃金についての前記認定のような相当な格差が
あったことに合理的な理由が認められなかったならば,同年4
月以降担当した職務に専門性が認められないとしても,不法行
為の成立する余地はないではないと解する。しかし,控訴人P
5が長く勤めた紙業課において担当した仕事は,主に履行業務
であり,段ボール原紙の取引の精算事務は煩瑣で,それらの遂
行には一定の専門知識と経験が必要であったことは否定できな
いとしても,専門知識,一定程度の交渉力,英語力・語学力に
より重要な仕事を行ってきたとは言えない。
以上から,控訴人P5の関係では,前記のような給与の格差
を違法ということはできない。
②控訴人P6
同人は,平成4年4月1日の時点において10年勤続(30
歳)で,退職した平成8年7月10日の時点において約14年
3月勤続(34歳)であり,同人の上記勤続年数,この間の同
人の担当職務の内容に照らし,前記のような給与の格差を違法
ということはできない。
d平成9年4月(新人事制度の導入時)以降今日まで(この期間に
在職期間が含まれる控訴人P5,同P4,同P1,同P2の関係)
(a)①被控訴人は,平成9年3月に人事制度を改め,同年4月か
ら,新人事制度を導入した。その内容は,前記2()ア(ウ)及1
び前記争いのない事実等(引用にかかる原判決16頁25行目
から19頁14行目まで)のとおりである。
新人事制度の骨子は,職掌を,従来の管理職,一般職,事務
職,専任職から総合職掌,特定総合職掌,一般職掌,事務職掌,
専任職掌に再編し,各職掌ごとに職務等級を設定した。専任職
掌は総合職の社員についてのみ存続させ,一般職,事務職につ
いては従来の専任職制度は廃止した。なお,従来の特務職は,
これに該当する社員が子会社へ転籍していなくなったので,廃
)。止された(被控訴人の原審平成15年6月10日付け上申書
新人事制度の導入により,従来の管理職のうち,参事は総合
職Aに,参事補は総合職B1に,主事は総合職B2に,従来の
一般職のうち,主事補は総合職C1に,旧一般1級は総合職C
2に,一般2級は一般1級に,入社2年目以上の一般3級は一
般2級に,入社1年目の一般3級は一般3級に,従来の事務職
のうち,事務主任は事務特級に,事務1級は事務1級に,入社
2年目以上の事務3級及び事務2級は事務2級に,入社1年目
の事務3級は事務3級に,それぞれ格付けされ,職掌及び職務
等級毎に基本給テーブルを異にしている。
控訴人P5,同P4,同P1,同P2は従前の事務1級から
新事務1級に格付けされた。
上記のような職掌及び職務等級毎にその職務内容等を規定し
たが,新人事制度は,従来の一般職社員は一般職掌ないし総合
職掌に,従来の事務職社員はすべて事務職掌に振り分けたもの
で,その際に被控訴人の職場において調査をするなどして,従
来一般職に区分されていた社員(特に男性)と事務職に区分さ
れていた女性社員の職務の区別や一般職に区分されていた社員
(特に男性)と事務職の女性社員とが同じ職務を行ったかどう
か,それぞれの職務の成果等,それぞれの職掌の職務を分析し
たことを認めるに足りる証拠もないから,これらの改定から見
る限り,昭和60年の職掌別人事制度の導入以降,一般職とし
て入社した女性社員,旧転換制度により事務職から一般職に転
換した女性社員がある程度いること(平成9年4月当時,一般
職掌392名中女性は3名,平成10年4月当時,一般職掌3
71名中女性は10名,平成11年4月当時,一般職322名
中女性は15名(被控訴人の平成16年8月31日付け準備書
面別紙4)を考慮しても,昭和60年以前の制度のもとで)。
当然にB体系適用の社員として入社し,勤続してきた女性社員
に着目すれば,昭和60年以前の男女のコース別の処遇を引き
継いだ新人事制度導入前の一般職,事務職の区別の根幹は,改
められたものとはいえない。
②平成9年4月では,職掌別人事制度が導入された昭和60年
1月から12年以上が経過しており,一般職として採用された
女性,旧転換制度で事務職から一般職に転換した女性も少数い
たが,女性社員の大多数は事務職から新事務職掌へ移行したも
のであり,同時点での新事務職掌の女性社員の年齢構成を認定
する的確な証拠はないが,前記認定の昭和61年12月当時の
女性社員(事務職)の年齢構成と平成16年3月当時,事務職
掌の女性約159名中50歳代が約26名,40歳代が約40
名,30歳代が約42名おり,事務職掌の女性全体の中で30
歳以上が約68パーセント,40歳以上が約42パーセントを
占めている(被控訴人の平成16年8月31日付け準備書面別
紙2の棒グラフから読み取った概数に基づいた計算)とを対比
すれば,平成9年4月当時の事務職,女性社員中の40歳以上,
あるいは,30歳代後半の割合は,前記昭和61年12月当時
以上であったものと推認され,これらの長期勤続の女性社員の
中には,一部成約業務を担当した者や,履行業務などを担当し
ているが,専門知識,一定程度以上の交渉力,英語力・語学力
などにより重要な仕事を行っている者(前記認定のとおりの職
務を行っていた控訴人P4,同P1,同P2,前記P39,P
38「KGMonthly」に取り上げられた者などもそ,
の一部である)の割合がかなり増え,一般職から事務職へ,。
あるいは,事務職から一般職へ職務を引き継ぐなど,一般職と
同じ職務を行うことがあったものと推認される。そして,その
ころまでには,雇用の分野における男女差別の撤廃の必要性,
男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることに関する意識が,
一般企業・国民間においてかなり変化・浸透していたものと認
められる。
③平成7年の男女間の賃金格差の程度は,前記()ウ(オ)記載1
のとおりであり,新人事制度が導入された平成9年4月の時点
においても,男女間でほぼ同様の賃金格差があったものと推認
され(別紙3(平成9年度のもの)参照,男女間の賃金の格)
差は,非常に大きかった。
すなわち,控訴人P5,同P4,同P1,同P2が格付けさ
れた新事務1級は定年退職まで勤務したとしても,未だ養成途
中と見るのが相当である27歳(入社から約5年の社員)の新
一般1級(新人事制度導入前の一般2級相当)の賃金に達しな
いもので,その点は事務職掌の中で最も高い事務特級でも同様
である。しかも,平成16年3月の時点での被控訴人の社員の
格付けの分布を見ると,33歳ないし35歳の男性は1,2名
の例外を除いて総合職に格付けられ,36歳以上の男性は,4
5歳に1人一般職がいる以外,総合職に格付けられているのだ
から,男性であれば33歳ないし35歳までに総合職に格付け
されるのが通常である。
④男女間の配置,昇進などを規制する法律自体は,平成9年4
月の時点で昭和61年の時点と基本的には変化がなかった。し
かし,旧均等法の施行から10年以上の長い期間が経過し,雇
用の分野における男女差別の撤廃の必要性,男女の均等な機会
及び待遇の確保を図ることについての意識が,一般企業・国民
間においてかなり変化してきていたことが十分に推認できる。
更に,平成8年11月婦人少年問題審議会における建議が出さ
れ,その後平成9年6月18日に改正均等法が成立し(同法6
,,条は「事業主は,労働者の配置,昇進及び教育訓練について
労働者が女性であることを理由として,男性と差別的取扱いを
してはならない」と定め,配置及び昇進に関する男女労働者。
の平等取扱いを使用者の法的義務とした,平成11年4月。)
1日に施行されることとなる。
以上のような経過を見ると,被控訴人が行った新人事制度の
導入は,上記法律改正の作業の経過も意識した上で行われたも
のと推認できる。
⑤被控訴人は,平成7年12月14日,組合に対し,人事制度
の改定(新人事制度)を提案した。組合も,現行の職掌別人事
制度には問題があるとして改革を求めていた。この被控訴人の
提案を受けて,組合は,説明会やセミナーを開催したり,組合
としての対案を作成したりして約1年3か月にわたり被控訴人
と交渉した。この被控訴人の新人事制度導入の提案について,
控訴人P5,同P1らは,新人事制度では女性事務職が冷遇さ
れるとして,平成9年1月中旬ころ「人事制度を考える会」を
結成し,同年2月中旬ころには134名の反対署名を組合委員
長ら宛に提出するなどの反対活動を行い,組合本部委員会でも
オブザーバーとして反対意見を述べるなどした。
被控訴人は,平成9年3月25日,労働組合と労働協約であ
る平成9年協定を締結し,就業規則を改定して,同年4月1日
から新人事制度を導入したが,それまでの経過は前記認定(原
判決84頁14行目から85頁23行目まで)のとおりである。
(b)上記イ及び(a)に認定したところによれば,新人事制度が導
入された平成9年4月1日の時点において,入社以来32年勤続
の控訴人P4(50歳,31年勤続の控訴人P1(49歳,))
17年勤続の控訴人P2(39歳)の関係では,同控訴人らの前
記認定のような職務内容に照らし,同人らの賃金と同年齢の男性
新一般1級の賃金(新人事制度導入にあたって,旧一般1級が総
合職C2(その後,総合職C1・2は総合職Cに統合された)。
に,旧一般2級が新一般1級に格付けられたものであるが,別紙
3によれば,50歳代及び30歳代末の新一般1級の賃金は概ね
30歳ないし31歳の旧一般1級の賃金に相当するものと推認さ
れる)との間にすら前記認定のような大きな格差があったこと。
に合理的な理由は認められず,性の違いによって生じたものと推
認され,上記3名の控訴人らについて男女の性の違いによって賃
金を差別するこのような状態を形成,維持した被控訴人の措置は,
労働基準法4条,不法行為の違法性判断の基準とすべき雇用関係
についての私法秩序に反する違法な行為であり,その違法行為は
平成9年4月1日から,控訴人P4の関係では同人が退職した平
成19年2月末日まで,同P1,同P2の関係では少なくとも請
求期間の終期である同年2月末日まで継続したものであり,被控
訴人にはそのような違法行為をするについて少なくとも過失があ
るものというべきである。
すなわち,上記の期間の新人事制度下の新事務1級の給与体系
は,職掌別人事制度導入前の男女のコース別のB体系(女性)を
引き継いだ職掌別人事制度における事務職の給与体系を概ね引き
継ぎ,41歳ころ以降昇給がないものとされたものであるのに対
し,新一般1級の給与体系は,男女のコース別のA体系(男性)
を引き継いだ職掌別人事制度における一般職の給与体系を29歳
ころまで概ね引き継ぎ,それから34歳ころまでの昇給率を小さ
くし,34歳ころ以降昇給しないとの修正が加えられたものであ
り,29歳ころまでは昇給率に男女で格段の差があった男女のコ
ース別のA体系とB体系を,職掌別人事制度における一般職の給
与体系と事務職の給与体系を介して,概ね引き継いだもので,そ
の結果生じた賃金格差が29歳以降でもあまり縮小されないこと
によって,上記控訴人ら3名の賃金と同人らの年齢に対応する新
一般1級の賃金との間ですら大きな格差が生じているところ,か
つて,男女のコース別の給与の格差に対応していた男女の職務内
容の截然とした差異など格差の合理性を基礎付ける事実は平成4
年4月段階で,当時の旧一般1級の30歳程度の男性の一般職と
の関係では,既に失われていたことは,前記cのとおりであり,
平成9年4月以降は更にその程度は進行していたというべきであ
る。
また,新一般1級と新事務1級の格差は前記のとおりであり,
新事務1級は定年退職まで勤務しても,まだ養成途中と見るのが
相当な27歳の新一般1級の賃金に達せず,その点は事務職掌の
中でも最も高い新事務特級でも同様であることを考慮すると,前
記のような賃金の格差に合理性のないことは一層明らかである。
新人事制度の導入には新転換制度も伴っており,その後も手直
しされたが,その内容及び新転換制度の存在が,上記の格差を補
い,実質的に是正するものと認められないことは,後記()のとc
おりである。
新事務職掌の勤務地が限定されていることは,前記のような給
与体系の格差を合理化する根拠とならない。
新人事制度の導入は,控訴人らの所属する労働組合と被控訴人
との労働協約である平成9年協定に基づくものであるが,上記の
ような事情のもとでは,そのことをもって,上記の賃金の格差が,
上記3名の控訴人らとの関係で,平成9年4月以降違法であるこ
とを否定する理由にはならないと解するのが相当である。
これに対し,控訴人P5との関係では,前記c()記載のとおc
りの理由から,不法行為の成立を認めることはできない。
なお,控訴人P4,同P1,同P2と同年齢の総合職Cの賃金
に前記のような格差があった点については,3名の控訴人らの職
務と一般職を経て総合職となった男性社員の職務が完全に一致あ
るいは大部分が一致していたことを認めるに足りる証拠がないこ
とに照らせば,従事する職務の差異による合理的な理由があるも
のと解され,前記のような賃金の格差を性の違いによって生じた
もので違法であるということはできない。
()新人事制度に,新転換制度が伴っていること,特に事務職掌かc
ら一般職掌への転換制度があることが,上記違法性の判断に影響
を与えないかについて検討する。
①旧転換制度,新転換制度のそれぞれの内容の概略は,引用に
かかる原判決(12頁20行目から13頁19行目まで,18
頁22行目から19頁3行目まで)記載のとおりである。
②新転換制度の内容の要点は原判決別紙3のとおりであり,新
転換制度では,事務職から一般職への職掌転換について,対象
者を従来同様事務1級以上としたが,旧転換制度における「能
力・実績優秀な者」との要件はなくなり,本部長の推薦は不要
となり,本人の希望と「一般職実務検定全教科合格,日商簿記
3級,日商ワープロ3級,TOEIC600点以上(導入後2
年程度は550点」の昇級要件を満たすこととされ,転換試)
験の内容も従来の「小論文,一般常識,職業適性検査」から
「適性検査(一般職新卒採用時に実施しているものと同一,)
小論文,役員面接」と改められた。
旧転換制度は,対象者が「事務1級資格者として能力・実績
優秀な者」とされ,その要件自体抽象的である上,本部長の推
薦があって初めて転換対象者となるとされていたから,事務職
が一般職への転換を希望しても,本部長の推薦がない限り転換
試験そのものも受験できず,転換の機会それ自体が奪われた
(現に,控訴人P3は,平成元年上司に一般職への転換を申し
出たが,上司は控訴人P3の高齢を理由に受け容れず(控訴人
),P3本人,同P6は,平成元年上司に転換希望を申し出たが
上司からは「現下のFMの組織体制では一般職への転換の必要
性は感じていない」という返事があり(甲18の1,控訴人。
P6,いずれも受験をすること自体できなかった。)。)
この旧転換制度に比べると,新転換制度は改良された点はあ
るが,以下の③記載のような問題点がある。
③まず「一般職実務検定全教科合格,日商簿記3級,日商ワ,
ープロ3級,TOEIC600点以上(導入後2年程度は55
0点」が要件となっている点である。)
新転換制度において事務職から一般職への転換に際し満たす
ことが要求される要件(一般職実務検定全教科合格,日商簿記
3級,日商ワープロ3級,TOEIC600点以上(導入後2
年程度は550点)は,新人事制度において導入された新一)
般1級への昇格要件と同一である。
ところで,まず,被控訴人において,新一般2級から新一般
1級への昇格要件(そのうちでも特に,TOEIC600点以
上(導入後2年程度は550点)をすべて満たさないと一般)
1級への昇格をさせないとの運用を実際にしたと認めるに足り
る的確な証拠がない。
仮に,その点が,被控訴人の主張どおりに運用されていたと
しても,以下のような問題点がある。
証拠(甲334の2,3,甲340の1)によれば,平成9
年5月の時点における鉄鋼本部所属の一般職,管理職の中で,
TOEICを受験していない者が多く,TOEICを受験した
が,550点に点数が達しなかった男性社員(年齢25歳の一
般2級,26歳の一般1級,27歳の一般2級,30歳の総合
職C2,31歳の一般1級,33歳の総合職C2)が6名おり,
その中で,入社してから4年目の26歳の一般1級(495
点,入社してから8年目の30歳の総合職C2(505点,))
入社してから11年目の33歳の総合職C2(460点)の3
名は,一般1級以上の職務等級にある者である。それは平成9
年5月の時点におけるものであるから,前記3名は新人事制度
導入後に前記要件を満たして昇格した者ではない可能性が高い。
次に,上記証拠によれば,同部門において,TOEICを受
験していないが被控訴人の認定級は取得したという者が多い
(41名)が,認定級D(9名,E(5名)という者が認定)
級を取得した者のうちの約3分の1程度おり,それらの者の成
績は決して良くないこと(TOEIC435点の31歳の一般
1級は認定級Eであり,TOEIC505点の30歳の総合職
C2の認定級はEであり,TOEIC460点の33歳の総合
職C2の認定級はDであった)が認められる。なお,平成6。
年10月の時点においても,似たような状況であった(甲29
3。)
ところで,被控訴人において一般職として採用され,数年以
上勤務してきた(その中には,総合職C2に昇進した者も2人
いた)のにTOEICで550点をとれない者がいること,。
認定級で成績が良くない者が約3分の1ほどいること,TOE
ICも認定級の試験も受験していない者が多いこと(その中に
は,英語力が高い者と低い者の両方がいるものと推察でき
る)などの事実は,少なくとも鉄鋼本部で一般職として仕事。
をしていくにあたり,そのポスト,担当業務(たとえば,純然
たる国内部門の担当)によっては,必ずしも高度な英語力が必
須の要件となるものではないと推認できる。なお,被控訴人は,
平成13年4月1日以降,TOEIC600点以上という要件
は,一般2級から一般1級への昇格要件から外し,総合職への
転換要件としたことは前記のとおりであり,このことは上記事
実を裏付けるものといえる。
そのような被控訴人の職場における状況(以上は,鉄鋼本部
についてのことを認定したが,他の部署でも,状況は概ね似て
いると推認できる)を前提とすると,転換により一般職とし。
てのスタートラインに立つための試験を受ける要件として,
「一般職実務検定全教科合格,日商簿記3級,日商ワープロ3
級,TOEIC600点以上(導入後2年程度は550点,)」
特にTOEIC600点以上(導入後2年程度は550点)が
要件となっていた新転換制度の合理性は大いに疑問である。入
社以来主に履行事務を行ってきた事務職の女性の中には,それ
までの旧転換制度において転換の要件になっていなかったTO
EIC600点以上(導入後2年程度は550点)が転換の要
件となったことで,転換試験を受けることを躊躇した者も少な
くなかったものと推認される。
④証拠(甲242,243)によれば,労働省は,平成12年
6月16日「コース等で区分した雇用管理についての留意,「
事項」について」と題する文書を一般に公表したが,そこには
転換制度について,柔軟な運用を図ること,そのためには,転
換が区分間相互に可能であること,転換のチャンスが広いこと,
転換の可否の決定,転換時の格付けが適正な基準で行われるこ
と,転換者に対し,これまでのキャリアルートの違いに考慮し
た訓練を必要に応じ受けさせること,女性の能力活用の観点を
含め,転換を目指す労働者の努力を支援すること等の配慮した
制度設計を行うことが望まれることなどを明らかにしたことが
認められる。
ところが,新転換制度は,上記のような点で,転換のチャン
スが広い制度とは到底認められず,また,女性の能力活用の観
点を含め,転換を目指す労働者の努力を支援する配慮をした制
度とも到底認められない。
⑤更に,被控訴人は,平成13年4月,事務職から一般職への
転換について改め,対象者をそれまでの「事務1級以上」から
「事務1級以上かつ考課評点AB以上」とし,転換試験受験資
格要件の一つであった「TOEIC600点以上」を削除し,
転換後の配属も「転換時に職務の変更を人事部が確認する。
(他部門への異動も含む」を付け加えたことは,前記認定)
(引用にかかる原判決87頁15行目から20行目まで)のと
おりである。
このうち「TOEIC600点以上」を削除した点は合理,
的であるが,他方「考課評点AB以上」を加えた点は問題であ
る。
考課というものは,事柄の性格上純粋に客観的なものではあ
り得ず,まして,在職中に被控訴人を相手方として平成5年9
月東京都の男女差別苦情処理委員会に苦情を申し立て(甲2
4,その後更に平成7年9月本訴を提起し,被控訴人と争っ)
ている控訴人らが考課において不利に取り扱われる危険性,可
能性が十分にある。現に,証拠(甲315,乙189,控訴人
P1(原審及び当審)によれば,控訴人P1は,一般職への)
転換を希望して,多忙な日々の仕事の中で,一般職実務検定全
教科合格,日商簿記3級,日商ワープロ3級という要件を満た
したが,平成元年度以降は,考課評点AB以上の評定を受けら
れず(昭和62年度,63年度には,ABの考課を受けてい
た,転換試験を受験することができず,事務職のままで被。)
控訴人を定年で退職するものと認められる。ところで,同人の
担当した仕事,その専門性,成果については前記認定のとおり
であり,平成元年度以降考課評点AB以上の評定を受けること
ができなかったのは,考課自体の客観性に対する疑い(特に本
訴提起後については本訴提起などが影響している疑いを含
む)を否定できない。。
被控訴人は,考課AB以上を取っている社員が事務1級と事
務特級の総体では平成11年度から平成14年度までの間で全
体の60パーセント以上いる(乙189)から,上記要件を課
することは転換を不当に制約するものでないと主張する。しか
し,そのような高い割合でAB以上の考課を受けている社員が
いるならば,余計控訴人P2を除くその他の控訴人らが考課A
B以上をとれないということは,被控訴人における考課自体の
客観性の欠如,不当性を推認させる。
以上から,新転換制度があり,一定の人数の者がその制度に
より一般職掌へ転換していることは,上記判断に影響を与える
ものではない。
⑥なお,被控訴人は,その後,平成16年に職掌転換制度を改
め,事務2級以上の事務職職員から一般2級への転換制度を設
けた(弁論の全趣旨)が,このことも上記判断に影響を及ぼす
ものではない。
3争点6(差額賃金等相当損害金の請求権)について
()差額賃金相当の損害(退職金の差額相当分以外)1
ア控訴人P3,同P4,同P1との関係では平成4年4月1日以降,控
訴人P2との関係では平成7年4月1日以降,平成9年3月31日まで
(控訴人P3についてはその退職の日まで,同人らの賃金と旧一般1)
級の30歳の男性社員の賃金との間にすら大きな格差があり,この格差
には正当な理由がなく不法行為が成立することは前記のとおりであると
ころ,上記の期間の旧一般1級の30歳の社員の月例賃金及び夏期及び
冬期の一時金を的確に認定するに足りる証拠はなく,また,上記各控訴
人らの賃金が上記年齢の旧一般1級の賃金になった場合,控除されるべ
き租税,社会保険料の増額分を的確に認定するに足りる証拠もないから,
上記の期間の旧一般1級の30歳の社員の月例賃金及び夏冬の一時金あ
るいはその平均値と各控訴人らのこれらに対応する実際の賃金との差額
を損害として的確に認定することはできない。しかしながら,上記控訴
人らに前記差額相当の損害が発生したことは明らかであるので,民事訴
訟法248条の精神に鑑み,前記認定の各事実及び弁論の全趣旨により,
各控訴人につき,月例賃金及び夏冬の一時金を併せて1か月10万円
(年額120万円)の限度の損害額を認定するのが相当である。
イ控訴人P4,同P1,同P2との関係では平成9年4月1日以降,平
成19年2月末日まで(控訴人P4についてはその退職まで,同P1,
同P2については請求の終期まで,同人らの賃金と新一般1級の同年)
齢の男性社員の賃金との間にすら大きな格差があり,この格差には正当
な理由がなく不法行為が成立することは前記のとおりであるところ,上
記の期間の新一般1級の控訴人らと同年齢の社員の月例賃金及び夏期及
び冬期の一時金を的確に認定するに足りる証拠はなく,また,上記各控
訴人らの賃金が上記年齢の新一般1級の賃金になった場合,控除される
べき租税,社会保険料の増額分を的確に認定するに足りる証拠もないか
ら,上記の期間の新一般1級の社員の月例賃金及び夏冬の一時金と上記
各控訴人らのこれらに対応する実際の賃金との差額を損害として的確に
認定することはできない。しかしながら,上記控訴人らに前記差額相当
の損害が発生したことは明らかであるので,民事訴訟法248条の精神
に鑑み,前記認定の各事実及び弁論の全趣旨により,この期間中,各控
訴人につき,月例賃金及び夏冬の一時金を併せて1か月10万円(年額
120万円)の限度の損害額を認定するのが相当である。
ウ以上により,控訴人P3,同P4,同P1,同P2の退職金の差額相
当分以外の差額賃金相当の損害は次のとおりと認める。
(ア)控訴人P3
平成4年4月から平成9年1月まで4年10か月(58か月)
金額580万円
(イ)控訴人P4
平成4年4月から平成19年2月まで14年11月(179か
月)
金額1790万円
(ウ)控訴人P1
平成4年4月から平成19年2月まで14年11月(179か
月)
金額1790万円
(エ)控訴人P2
平成7年4月から平成19年2月まで11年11月(143か
月)
金額1430万円
()退職金相当の損害2
ア平成元年覚書において,退職金及び退職年金制度を従来の本俸リンク
方式から累積ポイント方式に変更したこと,累積ポイント方式とは,勤
続年数と職能資格別に定められた点数(ポイント)を退職金計算の基礎
に置く方式であること,被控訴人は,平成元年3月時点で,平成元年ベ
ースの本俸により各社員の退職金を計算し,これをポイント単価(1万
0600円)で除して得られるポイント数を各人の平成元年3月31日
時点の持ち点とし,同年4月1日以降退職時まで,勤続部分,職能資格
部分ごとに定めた一定のポイントを勤続期間中毎年累積し,退職時まで
に累積されたポイントにポイント単価を乗じた額を退職金額とするとし
たことは,前記認定(引用にかかる原判決15頁21行目から16頁4
行目の「するとした」まで)のとおりである。。
イ証拠(甲191,358,乙9)及び弁論の全趣旨によれば,次の事
実が認められる。
控訴人P3の移行時のポイントは1441.63ポイントであり,退
職時,1617.13ポイント(移行後の勤続ポイントが73,職能ポ
イントが102.50)で,1ポイントあたりの単価1万0900円を
掛けた退職金は1762万6800円であった。
同P4の移行時のポイントは937.09ポイントであり,退職時,
1621.93ポイント(移行後の勤続ポイントが469.84,職能
ポイントが215)で,1ポイントあたりの単価1万0900円を掛け
た退職金は1767万9100円であった。
不法行為の成立が肯定される平成4年4月以降,旧一般1級と比較す
ると,控訴人P3は,職能ポイントにおいて計30ポイント(平成4年
度から平成8年度まで,控訴人P3はいずれも12ポイント,旧一般1
。,級はいずれも18ポイントであった)少ない取扱いを受け,同P4は
勤続ポイントにおいて48ポイント(平成4年度から平成8年度まで,
控訴人P4は,51,48,45,42,36ポイントであり,旧一般
1級は,66,60,54,48,42ポイントであった。なお,平成
11年度以降は,違いはない,職能ポイントにおいて計30ポイン。)
ト(平成4年度から平成8年度まで,控訴人P4は,いずれも12ポイ
ントであり,旧一般1級は,いずれも18ポイントであった。なお,平
成9年度以降は,違いはない。乙204,弁論の全趣旨)少ない取扱い
を受けた(合計78ポイント)ものと試算される。
ウ以上の事実に基づき判断する。
平成4年4月以降,2名の同控訴人らとの関係で,男女の差によって
賃金を差別する状態を形成,維持した被控訴人の措置は,労働基準法4
条,不法行為の違法性の基準とすべき雇用関係についての私法秩序に反
する違法な行為であり,その違法行為が2名の同控訴人らの退職まで継
続したことは,前記認定のとおりである。そして,以上の認定判断を前
提とすると,退職金の算出の際にも,同2名の控訴人らは,上記不法行
為の成立が認められる時点以降,旧一般1級と同様と評価して取り扱う
ことが相当である。
上記試算のとおり,被控訴人は,控訴人P3について30ポイント,
同P4について78ポイント,それぞれ退職金の算定にあたり不利益な
取扱いをしたものと認められるから,1ポイントあたり1万0900円
を掛けて算出した,控訴人P3は32万7000円,同P4は85万0
200円が,それぞれの同控訴人らの損害であると評価し認定するのが
相当である(上記試算は損害の評価のために記録中の証拠に基づいて行
ったものであり,実際の数額が厳密にそのとおりであると判断するもの
ではない。。)
4争点7(控訴人らに慰謝料及び弁護士費用の請求権があるか)について。
()慰謝料1
証拠(控訴人P5,同P6を除く同控訴人ら4名(控訴人P4,同P1,
同P2については,原審及び当審)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人)
P3,同P4,同P1,同P2ら4名は,被控訴人が行った違法な男女差
別の不法行為により精神的な苦痛を被ったものと認められ,被控訴人は,
同控訴人ら4名に対し,同人らが被った精神的な損害について,慰謝料を
支払うべきである。
そして,被控訴人が行った男女差別の態様,前記認定の不法行為の期間,
各控訴人らが受けた個別的な被害,その他本件記録に顕れた一切の事情を
総合考慮した上,前記認定のとおり財産的損害が賠償されることによって
は償うことのできない精神的苦痛に対する慰謝料の額としては,控訴人P
3が120万円,同P4が180万円,同P1が180万円,同P2が1
40万円をもって相当と認める。
()弁護士費用2
本件の事案の性質,審理の経過,認容額などから,不法行為と相当因果
関係のある弁護士費用の額は,控訴人P3については110万円,同P4
については300万円,同P1については290万円,同P2については
230万円と認めるのが相当である。
()まとめ3
以上を合計すると,同控訴人らの各損害額は,控訴人P3については8
42万7000円,同P4については2355万0200円,同P1につ
いては2260万円,同P2については1800万円となる(なお,遅延
損害金については,後記8で判断する。控訴人らは,本訴において,差額
賃金等相当損害金について,不法行為と債務不履行という2つの法律構成
に基づき請求し,当裁判所は,このうち不法行為の成立を認めたが,仮に
債務不履行責任を肯定したとしても,上記認定を上回る損害額を認定する
に足りる証拠はない。。)
5争点3(専任職賃金カットの違法性)について
専任職賃金カットの違法性については,以下の点を付加,訂正するほか,
原判決記載(99頁26行目から103頁12行目まで)のとおりであるか
ら,これを引用する。
()同101頁2行目の「みるのに」を「みると」と改める。1
()同103頁7行目の「以上を総合すれば」から同頁12行目までを2,
「以上を総合すれば,被控訴人がした平成元年8月の就業規則の変更は,
専任職賃金カットを含めて合理性があるというべきであるから,この変更
された就業規則のうち専任職賃金カットの部分は控訴人P3をも拘束する
というべきである」と改める。。
6争点4(付加給・調整給カットの違法性)について
付加給・調整給カットの違法性については,以下の点を付加,訂正するほ
か,原判決記載(103頁13行目から107頁8行目まで)のとおりであ
るから,これを引用する。
()同103頁23行目の「支給しなくてもは」を「支給しなくても」と1
改める。
()同107頁7,8行目を削除し,以下の記載を加える。2
「なお,前記のとおり,当裁判所は新人事制度の導入,それに基づく職掌
別の賃金等の決定を無効と解するが,付加給・調整給カットは,総合職,
一般職,事務職を問わず55歳に到達することにより行われるものであり,
前記無効の問題とは別個の問題であると認めるのが相当である」。
7争点5(差額賃金等の請求権)について
控訴人らは,同年齢の男性一般職と同額の賃金の支給を受ける権利を有す
ることを前提として,被控訴人給与規定の定める一般職標準本俸表の適用を
受ける権利を有するものとして,差額賃金等の請求をするが,それが理由が
ないことは前記3()記載のとおりである。1
更に,控訴人P3に対する専任職賃金カットは,労働基準法4条に違反し
無効であるから,控訴人P3は,この専任職賃金カットがないものとしての
賃金の支給を受ける権利を有し,控訴人P5,同P4,同P1に対する調整
給カットも,同様に労働基準法4条に違反し無効であるから,同控訴人らは,
調整給カットがないものとしての賃金の支給を受ける権利を有するとして請
求するが,専任職賃金カット,調整給カットが無効であるとの同控訴人らの
主張が理由がないことは,前記認定のとおりである。
8結論
以上から,原判決中,控訴人P1,同P2が,同控訴人らと被控訴人との
間で,同控訴人らが被控訴人の給与規定に基づく一般職標準本俸表の適用を
受ける雇用関係上の地位にあることの確認を求める部分についての判断は,
不適法であるからこれを取り消して,同訴えをいずれも却下することとし,
控訴人らの被控訴人に対する請求は,控訴人P3,同P4,同P1,同P2
について,主文第2項()の限度で理由があるから,同控訴人らの控訴及び1
控訴人P3を除くその余の上記3名の控訴人らの当審における請求の拡張に
基づき,同主文の限度で認容し,控訴人P5,同P6の請求は理由がなく,
同控訴人らの控訴及び控訴人P5の当審における拡張請求はいずれも理由が
ないから,各棄却する。
なお,認容する金員に付帯する遅延損害金の起算日及び利率は,以下のと
おりである。
控訴人P3については,平成4年4月から平成7年7月まで40か月の賃
金相当損害金400万円,慰謝料120万円,弁護士費用110万円の合計
630万円は平成7年7月20日から,平成7年8月から平成9年1月まで
18か月の賃金相当損害金180万円は平成9年1月31日から,退職金相
当損害金32万7000円は,同控訴人が退職した平成9年1月31日から
7日が経過した平成9年2月8日(乙204によれば,退職金(年金制度に
よる給付は除く)の支払時期については,退職後7日以内と定められてい。
る。なお,控訴人P4についても,この点は,同じである)から,各支払。
済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払となる。
控訴人P4については,平成4年4月から平成7年7月まで40か月の賃
金相当損害金400万円,慰謝料180万円,弁護士費用300万円の合計
880万円は平成7年7月20日から,平成7年8月から平成9年3月まで
20か月の賃金相当損害金200万円は平成9年3月20日から,平成9年
4月から平成11年2月まで23か月の賃金相当損害金230万円は平成1
1年2月20日から,平成11年3月から平成13年3月までの25か月の
賃金相当損害金250万円は平成13年3月20日から,平成13年4月か
ら平成14年7月までの16か月の賃金相当損害金160万円は平成14年
7月20日から,平成14年8月から平成15年7月まで12か月の賃金相
当損害金120万円は平成15年7月20日から,平成15年8月から平成
19年2月まで43か月の賃金相当損害金430万円は平成19年3月1日
から,退職金相当損害金85万0200円は,平成19年3月8日から,各
支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払となる。
控訴人P1については,平成4年4月から平成7年7月まで40か月の賃
金相当損害金400万円,慰謝料180万円,弁護士費用290万円の合計
870万円は平成7年7月20日から,平成7年8月から平成9年3月まで
20か月の賃金相当損害金200万円は平成9年3月20日から,平成9年
4月から平成11年2月まで23か月の賃金相当損害金230万円は平成1
1年2月20日から,平成11年3月から平成13年3月までの25か月の
賃金相当損害金250万円は平成13年3月20日から,平成13年4月か
ら平成14年7月までの16か月の賃金相当損害金160万円は平成14年
7月20日から,平成14年8月から平成15年7月まで12か月の賃金相
当損害金120万円は平成15年7月20日から,平成15年8月から平成
19年2月まで43か月の賃金相当損害金430万円は平成19年3月1日
から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払となる。
控訴人P2は,平成7年4月から同年7月まで4か月の賃金相当損害金4
0万円,慰謝料140万円,弁護士費用230万円の合計410万円は平成
7年7月20日から,平成7年8月から平成9年3月まで20か月の賃金相
当損害金200万円は平成9年3月20日から,平成9年4月から平成11
年2月まで23か月の賃金相当損害金230万円は平成11年2月20日か
ら,平成11年3月から平成13年3月までの25か月の賃金相当損害金2
50万円は平成13年3月20日から,平成13年4月から平成14年7月
までの16か月の賃金相当損害金160万円は平成14年7月20日から,
平成14年8月から平成15年7月まで12か月の賃金相当損害金120万
円は平成15年7月20日から,平成15年8月から平成19年2月まで4
3か月の賃金相当損害金430万円は平成19年3月1日から,各支払済み
まで年5分の割合による遅延損害金の支払となる。
よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官西田美昭
裁判官犬飼眞二
裁判官窪木稔

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