弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人東城守一、同山本博、同舎川昭三、同平田辰雄の上告趣意第一点について。
 所論は、公共企業体等労働関係法一七条一項は憲法二八条に違反するものである
から、右条項の禁止に違反してなされた争議行為の手段としての本件ピケツテイン
グを違法としてこれに対する制圧行為を警察官の適法な職務行為と判断した原判決
は、憲法二八条の解釈適用を誤るものであるというのである。
 しかし、公共企業体等労働関係法一七条一項は、憲法二八条に違反するものでは
なく、このことは、すでに当裁判所の判例とするところであり(昭和三九年(あ)
第二九六号同四一年一〇月二六日大法廷判決、刑集二〇巻八号九〇一頁)、今日で
もその変更の必要を認めない。したがつて、所論は、その前提において採用するこ
とができない。
 同第二点について。
 所論は、判例違反をいうが、所論引用の判例(前記昭和四一年一〇月二六日大法
廷判決)は、原判決宣告後のものであるから、刑訴法四〇五条二号の判例というこ
とができない。したがつて、所論は前提を欠き、上告適法の理由にあたらない。
 ところで、職権をもつて調査すると、原判決は、全逓のような国が経営する公共
企業体の職員で組織される労働組合は、公共企業体等労働関係法の適用を受け、同
法一七条一項により争議行為が禁止されているのであるから、本件争議行為、した
がつてその手段たるピケツテイングが一般の企業の場合と異なりそれ自体違法な行
為であり、威力業務妨害罪を構成するものであるとの前提に立つて、これに対して
した警察官の排除行為を適法な職務行為であるとしているのである。
 しかし、同条項に違反してなされた争議行為にも、労働組合法一条二項の適用が
あるものと解すべきであり、このことは、すでに当裁判所の判例とするところであ
る(前記昭和四一年一〇月二六日大法廷判決)。しかも、原判決が参照している昭
和三七年(あ)第一八〇三号同三八年三月一五日第二小法廷判決(刑集一七巻二号
二三頁)は、右大法廷判決によつて変更されているところである。したがつて、こ
れと異なる見地に立つて、公共企業体等労働関係法一七条一項に違反するというだ
けの理由で、ただちに本件ピケツテイングを違法であるとした原判決は、法令の解
釈適用を誤つたものであり、この点の判断いかんによつては、本件ピケツテイング
の違法性にはもとより、警察官のした排除行為の適法性にも影響を及ぼすものと認
められるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければな
らない。
 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、刑訴法四一一条一号により、原判
決を破棄し、右の点についてさらに審理を尽くさせるため、同法四一三条本文によ
り、本件を東京高等裁判所に差し戻すこととする。
 この判決は、裁判官石田和外、同草鹿浅之介、同長部謹吾、同下村三郎、同松本
正雄、同村上朝一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官石田和外、同草鹿浅之介、同長部謹吾、同下村三郎、同松本正雄、同村上
朝一の反対意見は、次のとおりである。
 弁護人東城守一ほか三名の上告趣意第一点および第二点の判例違反の主張につい
ての判断は、多数意見と同じであり、同第三点は、憲法二一条違反をいうが、実質
は単なる法令違反の主張であつて、いずれも上告適法の理由にあたらない。しかし
ながら、多数意見が職権で判断した点については、同調することができない。
 公共企業体等労働関係法一七条一項は、公共企業体等に対するいつさいの争議行
為を禁止しているのであるから、これに違反してなされた争議行為は、すべて違法
であつて、正当な争議行為というものはありえない。したがつて、このような争議
行為には、労働組合法一条二項の適用ないし準用はないものと解すべきである。そ
の理由の詳細は、昭和三九年(あ)第二九六号同四一年一〇月二六日大法廷判決(
刑集二〇巻八号九〇一頁)における裁判官奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外の
反対意見と同趣旨であるから、ここにこれを引用する。そして、右見解によると、
原判決が、公共企業体等労働関係法一七条一項に違反してなされた本件ピケツテイ
ングを違法なものとしたのは、もとより相当であるといわなければならない。
 以上のとおりであるから、本件上告は、棄却されるべきものである。
 裁判官草鹿浅之介は、右の反対意見に次の意見を付加する。
 わたくしの意見は、右大法廷判決において述べたとおりであるから、ここにこれ
を引用する。
 裁判官松本正雄は、右の反対意見に次の意見を付加する。
 わたくしの意見は、昭和四二年(あ)第一三七三号同四五年六月二三日第三小法
廷決定(裁判所時報五四九号所載)におけるわたくしの反対意見の二と同趣旨であ
るから、ここにこれを引用する。
 検察官長戸寛美、同冨田正典 公判出席
  昭和四五年九月一六日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    石   田   和   外
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷
 裁判官 松田二郎は、退官のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官    石   田   和   外

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