弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 被告町長が,A株式会社に対し,別紙1物件目録1(4)~(10),2~12記載の不動
産について,別紙2一覧表記載の平成元年度第3期から平成12年度第4期まで
の各期別の固定資産税延滞金の徴収を怠っていることが違法であることを確認す
る。
2 被告町長が,A株式会社に対し,別紙1物件目録1(4)~(10),2~12記載の不動
産について,別紙2一覧表記載の平成13年度第1期から第4期までの各期別の
固定資産税延滞金の徴収を怠っていることが違法であることを確認する。
3 原告らの被告町長に対するその余の請求及び被告税務住民課長に対する請求を
いずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを3分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告町長の負担と
する。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 第1事件
被告らが,A株式会社に対し,別紙1物件目録1(4)~(10),2~12記載の不動
産について,別紙2一覧表記載の平成元年度第2期から平成12年度第4期ま
での各期別の固定資産税延滞金(合計3347万6100円)の徴収を怠っている
ことが違法であることを確認する。
(2) 第2事件
被告町長が,A株式会社に対し,別紙1物件目録1(4)~(10),2~12記載の不
動産について,別紙2一覧表記載の平成13年度第1期から同年度第4期まで
の各期別の固定資産税延滞金(合計179万3600円)の徴収を怠っていること
が違法であることを確認する。
(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告らはB町の住民である。
(2) A株式会社は,遅くとも平成元年以降,別紙1物件目録1(4)~(10),2~12記
載の不動産(以下「本件課税対象物件」という。)を所有又は共有している。
(3) Aは,平成元年分から平成12年分までの固定資産税を延滞して支払った。平
成元年度第2期から平成12年度第4期までの固定資産税にかかる延滞金(以
下「本件延滞金(1)」という。)は,別紙2一覧表記載のとおりであり,合計3347
万6100円である。
(4) Aは,平成13年度分の固定資産税を延滞して支払った。平成13年度第1期
から第4期までの固定資産税にかかる延滞金(以下「本件延滞金(2)」といい,本
件延滞金(1)と併せて「本件各延滞金(3)」という。)は,別紙2一覧表記載のとおり
であり,合計179万3600円である。
(5) 被告らは,本件各延滞金(3)の徴収を違法に怠っている。ここで,「徴収」とは,
滞納処分のみならず,現実の延滞金徴収に向けて実効性のある措置をとること
を意味する。
ア 被告らが租税債権の消滅時効の中断の措置を講じることは,消極的な手段
にすぎず,これだけではB町は現実に収入を得ることができないし,Aが倒産
した場合には回収が困難となる。積極的に,本件各延滞金(3)を徴収する手段
を講じるべきである。
イ Aは,第13期(平成10年4月1日~平成11年3月31日)に44万3905円,
第15期(平成12年4月1日~平成13年3月31日)に305万6106円,第16
期(平成13年4月1日~平成14年3月31日)に202万0643円の当期利益
を計上している。租税債権は一般債権に優先するから,被告らが本件各延滞
金(3)を徴収することは可能である。
ウ Aは,第13期,第15期及び第16期の損益計算書で,当期利益を計上して
いるが,これらには本件各延滞金(3)は計上されておらず,粉飾決算である。
被告らは,この粉飾決算を許したまま,漫然と本件各延滞金(3)の徴収を放置
している。
Aの第17期貸借対照表によれば,それまでは,「負債の部」の「固定資
産」,「その他の負債」に計上していた本件各延滞金(3)を,突如「負債の部」の
「流動資産」,「長期未払金」として計上している。本件各延滞金(3)は,本税を
支払った時点で即時に返済時期が到来している債務であるにもかかわらず,
これを被告町長との分割返済の合意もないままに,長期未払金として計上す
ることは,Aが,本件各延滞金(3)を直ちに支払わなくてもよい債務と認識して
いることを示している。
税金の滞納者が差押えを免れるために「支払う意思はあります。」と言いな
がら,その支払をしないで先延ばしにするのは,税金の滞納者の常套手段で
あり,そのような弁解を聴取しているからといって,本件各延滞金(3)の徴収を
しないことの怠慢を正当化できるものではない。
エ 地方団体の徴収金である本件各延滞金(3)は,一括納付が原則であるが,
仮に徴収猶予を認める場合には,地方税法15条の規定に従ってなされるの
でなければ違法となる。
同条は,地方団体の徴収金の徴収猶予の要件等について規定しており,
同条1項各号に該当する場合において,地方団体の徴収金を一時に納付す
ることができないと認めるときは,その納付することができないと認められる金
額を限度として,その者の申請に基づき,1年以内の期間に限り,その徴収を
猶予することができると規定しており,同条3項において猶予した期間内に納
付することができないやむを得ない理由があると認めるときは,期間延長でき
るが,既に徴収ができる期間と併せて2年を超えることができないと規定して
いる。
このような地方税法の趣旨にかんがみれば,同法15条1項の要件を満た
さない場合において徴収猶予を行うことは違法であるし,また,要件を満たし
ている場合においても,2年を超える期間の徴収猶予は違法である。
したがって,被告町長に対する分割納付誓約書を提出させて,2年を超え
る期間の長期にわたる事実上の徴収猶予を行うことは,地方税法の規定に反
し違法である。地方団体の長が,納税義務者に対して2年を超える期間の分
割納付誓約書を提出させて,2年を超える期間の分割納付を認めるような裁
量権は,地方税法上,どこにもその根拠となる規定はなく,また,条例にも根
拠規定はないのであるから,裁量によって救済される余地はない。
オ 被告らがAから担保を徴しないのも違法である。
地方税法16条は,地方団体の長が同法15条の規定により徴収を猶予し
た場合には,その猶予に係る金額に相当する担保を徴さなければならないと
規定し,1号から6号までの担保を掲げている。これは義務的規定であり,徴
収猶予の場合には担保の徴収は不可欠である。
地方税法は,徴収を猶予するについても担保の徴収を義務付けているにも
かかわらず,被告らがAから担保を徴収しないまま,2年以上の期間を超える
分割納付誓約書を提出させて,事実上の徴収猶予をすることは,地方税法に
反し違法である。
地方団体の長にこのような裁量の余地はなく,地方税法にも条例にも,こ
のような取扱いの根拠となる規定は存在しない。
カ 被告らは,Aの現金や預金を差し押さえることが可能である。なぜなら,第1
7期の貸借対照表によると,Aは,平成15年3月31日現在,現金68万240
0円及び第三銀行御浜支店の当座預金,普通預金,売上管理,受託事業の
各口座を持っているほか,百五銀行熊野支店,中京銀行熊野支店,新宮信
用阿田和支店,三重南紀農協にも普通預金口座を有しているからである。
これに対し,被告らは,第三銀行の預金を差し押さえても,同行が相殺する
から意味がないと主張するが,銀行の債権は税金に劣後する債権であるし,
B町とも取引関係にありAに役員派遣までしていた同行が,税金の差押えに
対抗して相殺の措置をとるとは現実的に考えられない。
キ Aは,巨額の負債を抱えていて,いつ倒産してもおかしくない状態にあり,被
告らが,債権回収のための措置をとらないで放置していることは違法である。
Aは,前年度からの租税等の未払債務の履行を引き続き延期するとして
も,平成16年度で,市中金融機関への返済額(設備)5451万円,(運転)27
00万円,建設協力金返済額1516万9000円,B町への借入返済額3000
万円,これらの支払利息合計1458万3000円,総額1億4126万2000円
の資金が必要となるが,予想されるキャッシュフローは6500万円しかなく,
返済が成り立たないことは客観的に明らかである。そして,このような返済資
金が不足する状況は,平成17年度以降も続くのである。
ク 被告らが,Aから受け取った分割納付金を,平成14年度から平成16年度の
固定資産税に充当せず,本件延滞金(1)に充当したのは,地方税法14条の5
第1項の本税優先の規定に反し,違法である。
被告らは,Aから分割納付金を受領して本件延滞金(1)が減少したと主張し
ているが,これは本件裁判の対策であり,これを延滞中の固定資産税に充当
すれば,本件各延滞金(3)はまったく減少しないまま推移していることになる。
(6) 原告らは,平成14年7月24日,B町監査委員に対して,本件延滞金(1)の徴
収措置を講じるよう求める住民監査請求を行ったが,同年9月18日に棄却され
た。
(7) 原告らは,平成16年2月17日,B町監査委員に対して,本件延滞金(2)の徴
収措置を講じるよう求める住民監査請求を行ったが,同年4月16日に棄却され
た。
(8) よって,原告らは,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,被告らに対し,
本件延滞金(1)の徴収を怠っていることが違法であることの確認を,被告町長に
対し,本件延滞金(2)の徴収を怠っていることが違法であることの確認を求める。
2 請求原因に対する認否及び反論
(1) 請求原因(1)~(4),(6),(7)の事実は認める。
(2) 請求原因(5)の事実は否認ないし争う。
ア Aは,平成10年8月24日,本件延滞金(1)について350万円を納付し,被告
町長は,内金255万4500円を平成元年度第1期分の延滞金に,残金94万
5500円を同年度第2期分の延滞金の一部に充当した。また,Aは,平成15
年10月29日付け「固定資産税に係る延滞金の納付について」と題する文書
(以下「本件計画書」という。)に基づき,平成15年度に150万円,平成16年
度(同年9月21日現在)に60万円を納付した。このように,Aは延滞金につい
て1円も支払っていないわけではない。
イ 被告町長は,本件各延滞金(3)について,地方税法15条に定める徴収猶予
を認めているわけではない。
被告町長は,Aに対し,本件各延滞金(3)につき,告知,督促の手続をなし,
その納付を求めているが,同社は納付の強い意思を持っているものの,長期
にわたる不況の影響もあってその経営は厳しい状況にあり,毎年度発生する
新たな固定資産税本税を支払うのが精一杯の状態で,本件各延滞金(3)を納
付する余裕がないので,この納付についてはしばらく猶予してほしいと申し出
ている。被告町長としては,地方税法の本税優先の精神に則り,新たに発生
している固定資産税本税の納付を本件各延滞金(3)の納付に優先させている
が,平成14年度の本税の納付も納期限が過ぎているにもかかわらず,未だ
納付されていない状態であり,同社の説明は虚偽ではないと考えている。
そして,Aは,決算書において本件各延滞金(3)を計上しており,被告町長
がその納付について,Aに納税催告した際も,同社は誠実なる納入支払の意
思を表明していた。
さらに,Aは,平成15年10月29日,本件計画書を提出し,これに記載され
た分割納付額に従い,同月31日から納付が開始された。本件計画書には,
平成19年度以降の納付の時期,金額等について具体的な記載がなく,平成
18年度までの分割納付予定額も年額150万円と少額であるので,被告町長
としてはこれを了承したわけではなく,早期に完納するよう申し入れたところで
あるが,Aの納税意思がこれまでより具体的に示されたといえる。
これらのことから,被告町長は,Aには本件各延滞金(3)を支払う意思があ
るものと判断している。
被告町長は,本件各延滞金(3)につき滞納処分としての差押えも検討はし
たが,滞納処分をしても本件各延滞金(3)の納付につながらないだけでなく,
新たに発生する固定資産税本税等の納付を確定的に不能にするおそれがあ
るため,滞納処分を控えているのであり,徴収権者である被告町長には,この
ような裁量権があるというべきである。
原告らは,被告町長が地方税法15条に基づく徴収猶予をしているかのよう
に主張しているが,被告町長は徴収猶予をしたことはなく,直ちに差押えの滞
納処分をとることなく,自発的な納付を促しているにすぎないのである。
ウ 被告町長は徴収猶予をしたことがないのであるから,これを前提とする担保
の請求について考慮する余地はない。
エ Aは第三銀行に対して多額の債務を負担しており,仮に被告町長が第三銀
行御浜支店の預金を差し押さえても,第三銀行から相殺権を行使されて,納
付にはつながらない。
被告町長が滞納処分として差押えの手続をとっても本件各延滞金(3)の全
額の徴収にはつながらず,同社を倒産に追い込み,その結果,本件各延滞
金(3)の徴収が確定的に不能となるおそれが大きく,さらに今後新たに発生す
る固定資産税本税の納付も確定的になされなくなるおそれも大きい。
Aは,第三銀行等に対し,約2億円の借入債務を負担していて,この返済に
ついては期限の利益を有しているが,本件各延滞金(3)の滞納処分として差
押えをすると,上記借入債務の返済について期限の利益を喪失し,全額を即
金で支払わなければならなくなる。
Aの収入で最も大きいのは,キーテナントである株式会社Cからの賃料収
入であるが,Cとの契約では差押えを受けたときは,Cは賃貸借契約を解除す
ることができることとなっており,賃料収入がなくなるおそれが大きい。
Aの預金は,その大半が第三銀行に対してなされていて,仮にこの預金に
対し差押えの手続をとっても,同行から相殺権を行使される可能性が極めて
高く,徴収にはつながらない。
Aの各テナントに対する賃料債権を差し押さえても,抵当権者が抵当権に
基づく物上代位を行使すれば,結局,徴収にはつながらない。
オ 以上のように,Aの現状においては,滞納処分としての差押えをしても本件
延滞金の徴収にはつながらないのみならず,かえって,そのことがAを倒産に
追い込み,残余の延滞金の徴収を確定的に不可能ならしめるおそれが大き
いのみならず,今後発生する固定資産税本税の徴収をも不可能ならしめるお
それが大きい。このため,被告町長は本件各延滞金(3)の滞納処分を控えて
いるのであり,その判断に誤りはなく,裁量権の正しい行使というべきである。
理由
1 請求原因(1)~(4),(6),(7)の事実は当事者間に争いがない。
2 請求原因(5)について
(1) 法令の定め
ア 地方税の徴収猶予について
地方団体の長は,納税者がその事業につき著しい損失を受けたとき,その
他これに類する事実があったときで,これに基づき税金を一時に納付すること
ができないと認められるときは,その納付できないと認められる金額を限度と
して,納税者の申請に基づき,1年以内の期間に限り,その徴収を猶予するこ
とができ(地方税法15条1項4号,5号),徴収を猶予した場合において,その
期間内に納付することができないやむを得ない理由があると認めるときは,納
税者の申請により,合計して2年を超えない限度で徴収猶予期間を延長する
ことができる(同条3項)。
地方団体の長が徴収を猶予する場合,特別の事情のない限り,猶予に相
当する金額の土地や保険に付した建物等を担保として徴収しなければならな
い(同法16条1項)。
地方団体の長は,徴収猶予期間内は,新たに督促及び滞納処分(交付要
求を除く。)をすることができず(同法15条の2第1項),徴収の猶予を受けた
者の財産の状況その他の事情の変化によりその猶予を継続することが適当
でないと認められるときは,地方団体の長は,徴収猶予を取り消し,一時に徴
収することができる(同法15条の3第1項3号)。
イ 固定資産税の徴収について
納税者が納期限までに固定資産税を完納しない場合,市町村の徴税吏員
は,納期限後20日以内に,督促状を発しなければならず(地方税法371条1
項),滞納者が督促を受け,その督促状を発した日から起算して10日を経過
した日までにその督促に係る固定資産税を完納しないときは,市町村の徴税
吏員は,当該固定資産税に係る地方団体の徴収金につき,滞納者の財産を
差し押えなければならない(同法373条1項1号)。
ウ 地方税と抵当権付き債権の優先関係について
納税者が地方団体の徴収金の法定納期限等以前にその財産上に抵当権
を設定しているときは,その地方団体の徴収金は,その換価代金につき,そ
の抵当権により担保される債権に次いで徴収する(地方税法14条の10)。
エ 地方税の優先関係について
納税者の財産につき地方団体の徴収金の滞納処分による差押えをした場
合において,他の地方団体の徴収金の交付要求があったときは,当該差押え
に係る地方団体の徴収金は,その換価代金につき,当該交付要求に係る地
方団体の徴収金に先立って徴収する(地方税法14条の6)。
オ 無益執行の禁止について
差し押さえることができる財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び
徴収すべき固定資産税に先立つ他の国税,地方税その他の債権の金額の合
計額を超える見込みがないときは,その財産は,差し押さえることができない
(地方税法373条7項,国税徴収法48条2項)。
(2) 認定事実
証拠(甲2,10~14,17の1~5,18の1,19,20,乙1,2,3の2,7の1~
6・10~19,8の1・2,9の1・2,10,11,12の1・2,証人)及び弁論の全趣旨によ
れば,以下の事実が認められる。
ア B町決裁規程4条1項,別表2(3)によると,督促状及び催告書の発付や差押
え登記を行うことは被告税務住民課長の専決事項とされているが,滞納処分
はこれに含まれておらず,被告町長の決裁事項である(乙1,10)。
イ Aは,昭和61年5月28日,B町立阿田和中学校の跡地の有効活用を図ると
ともに,B町経済の活性化を目的として,B町や三重県らが出資して設立され
た第三セクターの株式会社であり,平成15年3月31日時点での持ち株数
は,B町2万5590株(議決権比率80.56%),三重県3160株(同9.95
%)などとなっている(甲10)。
Aは,上記中学校跡地に,ショッピングセンター,観光センター,レストラン
及び地域の文化活動や情報発信を支援する地域活性化センターからなる複
合施設(以下「本件施設」という。)を有しており,「道の駅」に登録されている。
本件施設には,ショッピングセンターの中核テナントとしてCが入店しており,
B町も一部を賃借し,町民センターとして利用している。
ウ 被告町長は,平成元年度以降,Aに対して,本件課税対象物件に係る固定
資産税の課税を行った。
しかし,Aは,本件施設を開業以来赤字が続き,経営不振となったため,平
成元年度から平成13年度まで,固定資産税は納期限から遅滞して納付さ
れ,別紙2一覧表のとおり,本件各延滞金(3)が発生した。
被告町長は,平成元年度第1期分から平成13年度第4期分までの固定資
産税につき,各納期限以降,別紙3のとおり督促状及び催告書を発付し,さら
に毎年度の固定資産税が納付され延滞金が確定するたびに,Aに対して,延
滞金額を明記した通知書等を送付し,納付の催告を行った。
なお,Aは,三重県に対して,不動産取得税延滞金も滞納している(甲18
の1)。
エ B町は,平成10年4月30日,Aに対し,9億5000万円を貸し付けた。
オ Aは,平成10年8月24日,延滞金の平成元年度第1期分255万4500円と
同第2期分の94万5500円の合計350万円を納付した。
カ 被告税務住民課長ら町職員は,Aの代表者と平成11年8月26日から平成1
4年8月15日までの間に25回折衝し,固定資産税延滞金の納付の催告や経
営状態の聴取等を行った。
Aは,平成11年8月26日,「未納の町税債務の承認及び納付確約書」と題
する文書を提出し,未納付町税及び延滞金債務を承認した(甲2)。
キ Aは,平成15年10月29日,被告町長に対し,「固定資産税に係る延滞金
の納付について」と題する文書(本件計画書)を提出した(甲14,乙3の2)。こ
れには,以下のとおり,記載されている。
「 平素は,弊社運営にあたり,格別のご指導とご配慮を賜り厚くお礼申し上げ
ます。
さて,弊社は資金繰りの関係から,B町の固定資産税に係る延滞金を滞
納しており,誠に恐縮に存じております。現在の資金収支状況では滞納額全
額の一括納付はできない状況であります。
つきましては,下記のとおり,平成15年10月31日までに金500,000
円を納付させていただき,平成15年11月以降,平成16年3月に至る期間
につきましては,毎月金200,000円を納付いたしますので,平成元年度第
2期から平成13年度第4期分までに係る延滞金37,369,700円の内金と
して充当していただきますようお願い申し上げます。
残余の延滞金につきましては,出来得るかぎり早期に納付させていただく
所存で御座いますが,今後3年間につきましては,下記のとおり分割納付さ
せていただき,その後分割納付額を見直し,早期に完納できるよう努力いた
す所存でございますので,実情ご賢察のうえ,格別のご配慮を賜りますよう
お願い申し上げます。

固定資産税延滞金分割納付額
平成15年度 1,500,000円納付(10月末 500,000円,
11月~3月各 200,000円)
平成16年度 1,500,000円納付(毎月 125,000円)
平成17年度 1,500,000円納付(毎月 125,000円)
平成18年度 1,500,000円納付(毎月 125,000円)」
ク Aは,平成15年10月31日から平成16年3月まで,本件計画書に従って固
定資産税延滞金150万円を納付したが,平成16年4月以降は毎月の返済額
を10万円に減額して納付し(合計60万円),平成16年9月21日時点で残額
3526万9700円となった(詳細は,別紙2一覧表に記載のとおり)。
しかし,被告町長は,Aに対して,本件各延滞金(3)につき滞納処分をとって
いない。
ケ Aの最近の決算状況は,次のとおりである。
(ア) 第16期(平成13年4月1日~平成14年3月31日,乙8の1・2)
当期利益として202万0643円を計上したが,前期から繰り越された当
期未処理損失として12億1840万6572円があった。
資産としては,本件課税対象物件のほか,現金187万5921円,第三銀
行御浜支店売上管理口座に57万5288円のほか,残高3万円未満の預
金口座7口などがあった。
他方,負債としては,B町からの借入金9億5000万円,日本政策投資
銀行からの借入金6100万円,第三銀行からの借入金1億9437万9000
円などがあった。
(イ) 第17期(平成14年4月1日~平成15年3月31日,甲10~13,乙9の
1・2)
当期利益として140万1000円を計上したが,前期から繰り越された当
期未処理損失として12億1700万5000円があった。
資産としては,本件課税対象物件のほか,現金68万2400円,第三銀
行御浜支店の受託事業口座に79万3947円,売上管理口座に26万228
8円,普通預金口座に19万4546円,その他残高10万円未満の預金口
座5口などがあった。
他方,負債としては,B町からの借入金9億5000万円,日本政策投資
銀行からの借入金2500万円,第三銀行からの借入金1億9384万7000
円などがあり,長期未払金として本件各延滞金(3)が挙げられていた。
(ウ) 第18期(平成15年4月1日~平成16年3月31日,甲17の1~5)
当期損失として9843万円を計上し,前期から繰り越された当期未処理
損失として13億1543万6000円があった。
資産としては,本件課税対象物件のほか,現金110万4825円,第三銀
行御浜支店の売上管理口座に55万5610円,受託事業口座に11万478
5円,普通預金口座に6万1477円,その他残高3万円未満の預金口座5
口などがあった。
他方,負債としては,B町からの借入金9億5000万円,日本政策投資
銀行からの借入金450万円,第三銀行からの借入金1億6775万8000
円などがあり,長期未払金として本件各延滞金(3)が挙げられていた。
コ Aは,平成16年6月10日,被告町長に対し,「経営改善計画(案)」を添付し
て,町からの借入金元金及び利息の返済の猶予を求める要望書を提出し(甲
19),同月14日,「現状と今後の展望について」と題する経営状況の調査報
告書をまとめた(甲20)。これによると,Aは,B町からの上記エの借入金につ
き計画どおり返済することは不可能であるとされている。
サ 本件課税対象物件には,いずれも次の抵当権及び根抵当権が設定されて
いる(乙7の1~6・10~19,12の1・2)。
(ア) 平成元年5月15日受付第2781号設定,平成15年5月21日受付第14
10号移転の抵当権
抵当権者 日本政策投資銀行
債権額 4億3000万円
(イ) 平成元年5月15日受付第2783号設定の根抵当権
根抵当権者 株式会社第三銀行
極度額 3億3000万円
(ウ) 平成10年4月30日受付第1597号設定の抵当権
抵当権者 B町
債権額 9億5000万円
シ Aが第三銀行との間で平成元年3月1日に取り交わした銀行取引約定書5条
1項3号によると,Aの第三銀行に対する預金やその他の債権について,仮差
押え,保全差押え又は差押命令がなされたときは,Aは,第三銀行からの通
知催告等がなくても当然に期限の利益を喪失し,直ちに債務全額を弁済する
こととされ,同5条2項2号によると,担保の目的物について差押え又は競売
手続の開始があったときは,第三銀行の請求により一切の債務の期限の利
益を失うこととされている(乙2)。
(3) 被告税務住民課長に対する請求について
上記(2)ア,ウの認定事実によれば,被告税務住民課長は,督促状及び催告
書の発付を怠ったとは認められない。また,被告税務住民課長は,滞納処分に
ついて権限がないから,滞納処分を怠ったとも認められない。さらに,被告町長
による滞納処分がされていないから,被告税務住民課長がこの滞納処分がなさ
れたことを前提とする差押え登記を怠ったとも認められない。
よって,被告税務住民課長が,本件延滞金(1)の徴収を違法に怠ったというこ
とはできず,同被告に対する請求は理由がない。
(4) 被告町長に対する請求について
ア 平成元年度第2期の固定資産税延滞金はすでに納付され残高がなくなって
いるから,被告町長が同延滞金の徴収を怠っているとは認められない。した
がって,以下,被告町長が平成元年度第3期から平成13年度第4期までの
各期別の固定資産税延滞金(以下「本件各延滞金(4)」という。)の徴収を怠っ
ているか否かにつき検討する。
イ 地方税法は,租税法律主義に基づき課税権の主体としての地方公共団体と
納税者としての住民との間の租税に関する法律関係を規制するものであると
ころ,地方税法373条1項は,市町村吏員に対して,督促状を発して10日以
内に徴収金を完納しない滞納者の財産を差し押さえる権限を与えたものであ
るが,他方で,同法15条が,上記(1)アのとおり,地方税の徴収猶予について
規定し,同法15条の5が,滞納者が徴収金の納付について誠実な意思を有
すると認められ,かつその財産を直ちに換価することにより事業の継続又は
その生活の維持を困難にするおそれがあり,換価を猶予することが,直ちに
換価をするよりも滞納にかかる徴収金及び最近に納付すべきこととなる徴収
金の徴収上有利であるときは,換価の猶予のために必要だと認められれば,
地方団体の長は,差押えにより事業の継続又はその生活の維持を困難にす
るおそれがある財産の差押えを猶予することが,2年を超えない範囲でできる
ものとしていることからすると,滞納者に対して滞納処分を行う対象や時期に
ついては,一方では,個々の滞納者の担税力や誠実なる納入意思の有無に
応じてその事業の継続や経済生活の維持がむやみに損なわれることのない
よう配慮しながら,他方では,公平を欠き,偏頗な徴税行為であるとの非難を
受けることのないよう,計画的,能率的かつ実質的にその徴収権の確保を図
るに相当な範囲での裁量が与えられているものと解される。
したがって,固定資産税の滞納分に対する督促状を発してから10日以内
に差押えがされないからといって,当然にこれが地方税法に違反するとはい
えないが,差押え等滞納処分を取られないために実質的に公金徴収権の確
保が図られない場合や,公平を欠き偏頗な徴税行為であるとみられる場合に
は,地方団体の長はその裁量を逸脱し,徴収金の徴収を違法に怠るものと解
するのが相当である。
ウ そこで,被告町長において上記の裁量の逸脱があったか否かにつき検討す
る。
まず,原告らの指摘する第三銀行の預金債権については,仮に差押えをし
ても,1億6000万円を超える反対債権により相殺され,徴収に効果のないこ
とは明らかであるから,預金債権の差押えをしないとしても,本件各延滞金(4)
の徴収を違法に怠っているとはいえない。他の預金債権についても,反対債
権があり相殺されるか,残高が少額であることからすると,やはり徴収を違法
に怠っているとはいえない。
また,本件施設に入店するテナントに対する賃料債権については,仮に差
押えをしても,第三銀行が平成元年5月15日付け根抵当権に基づく物上代
位を行使すれば,法定納期限がこれに遅れるため本件各延滞金(4)は劣後
し,徴収に効果のないことは明らかであるから,賃料債権の差押えをしないと
しても,本件各延滞金(4)の徴収を違法に怠っているとはいえない。
しかし,本件課税対象物件については,本件各延滞金(4)に優先する日本
政策投資銀行及び第三銀行の被担保債権を弁済してもなお剰余があり(平成
13年度における固定資産税1148万3000円を税率1.4%で割った約8億
2000万円が本件課税対象物件のおおよその時価であると考えられ,他方,
上記優先債権は平成16年3月31日時点で約1億7200万円である。),滞納
処分としての差押えをすれば,本件各延滞金(4)を徴収することが十分に可能
であると認められる。
もっとも,差押えをし公売すると,B町の貸付金9億5000万円の回収も困
難となるが,租税法は,一般的標準により,多数の人を相手方として公平かつ
普遍的に租税を課することを建前とするものであるから,同じB町の貸付金と
はいえ,その回収可能性に配慮することは相当ではない。
そして,本件各延滞金(4)は,古いものでその発生以来15年以上もの長期
間にわたって未納となっていること,Aは平成10年8月24日に350万円を納
付したほか,平成15年10月29日付けの本件計画書に基づき,平成15年度
に150万円,平成16年度(同年9月21日現在)に60万円を納付したもの
の,現在の毎月10万円ずつの分割納付では完納までに30年近くかかり,さ
らに,これ以外に平成14年度分以降の固定資産税本税も滞納し,これに対
する延滞金も発生しているという状況からすれば,差押えを控えても徴収につ
ながるとはおよそ認め難い。
そうとすると,被告町長が本件課税対象物件について滞納処分をしないこ
とは,実質的に公金徴収権の確保が図られないものであるとともに,公平を欠
き偏頗な徴税行為であるともいうべきであって,被告町長はその裁量を逸脱
し,徴収金の徴収を違法に怠るものと認められる。
この点,被告は,Aが本件計画書を提出していることをもって,納付の意思
はさらに明らかになったと主張するが,Aはこれを提出後1年も経過しないうち
に,1か月当たりの支払額を12万5000円から10万円に減額していることか
らすると,同計画書に従って支払われる見込みすら低いといわざるを得ない。
これに対し,被告は,1か月当たりの支払額を20万円に増額し,そのうち1
0万円を平成14年度固定資産税に,10万円を本件各延滞金に充てることに
なったとも主張するが,本件計画書の提出に際して,本件各延滞金(4)の分割
返済と並行して,平成14年度以降の固定資産税本税を速やかに支払うこと
は当然予定されていたというべきであり,1か月当たりの返済額を増額したと
の評価は採用できない。
証人Dは,本件課税対象物件は権利関係が複雑で,公売には時間を要す
るなどと供述するが(乙10),Aの本件各延滞金(4)の滞納状況からすれば,
時間がかかるとしても地方税法所定の手続をとるべきであって,滞納処分をと
らない理由とはなり得ない。
3 結論
以上によれば,原告らの被告町長に対する請求は,平成元年度第3期から平成
13年度第4期までの各期別の固定資産税延滞金の徴収を怠っていることの違法
確認を求める限度で理由があるから認容すべきであり,被告町長に対するその余
の請求及び被告税務住民課長に対する請求はいずれも理由がないから棄却すべ
きである。
よって,主文のとおり判決する。
津地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官   内 田 計 一
裁判官   上 野 泰 史
裁判官   後 藤   誠

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