弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
○ 理由
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。
よつて検討する。
東京地方裁判所昭和四九年(行ウ)第二六号事件記録によれば、抗告人は、昭和四
七年九月旅券を所持せずに上陸し、以来本邦に滞在していた外国人であつて、昭和
四八年八月三〇日東京出入国管理事務所入国審査官により出入国管理令(以下単に
令という)二四条一号に該当する旨の認定を受け、即時特別審査官に対し口頭審理
の請求をし、特別審査官より右認定に誤りがない旨の判定を受け、更に同令四九条
一項に基づき法務大臣に異議の申立をしたが、同年一〇月三〇日法務大臣より右異
議の申立は理由がない旨の裁決がなされ、同年一一月二二日右裁決の通知を受ける
とともに、同日東京出入国事務所主任審査官から退去強制令書を発布され、その告
知を受けたものである。抗告人は、前記事件において法務大臣の右裁決及び主任審
査官の右退去強制令書発布処分の取消を求め、抗告人が令二四条一号に該当する者
であることを前提として、第一に抗告人は政治難民であるから右各処分は確立され
た国際法規ないし憲法九八条二項に違反すると主張し、第二に令二四条は同条に該
当する外国人についても退去を強制するか否かについて裁量の余地を与えており、
令五〇条も令二四条に該当する場合でも法務大臣は特別に在留を許可すべき事情が
あると認めるときはその者の在留を特別に許可することができる旨を定めているの
に、法務大臣が抗告人に対し特別に在留を許可せず、抗告人の異議申立を理由がな
いと裁決したことは、裁量権を逸脱し、または、これを濫用した違法があると主張
しているものであることが認められる。そして、抗告人が本件文書提出命令の申立
において提出を求める文書(以下本件文書という)は、抗告人の令四九条一項に基
づく異議申立に対してなされた審査に関する稟議書及びそれに附属するいわゆる裁
決諮問委員会における議事録中抗告人の異議申立についてなされた審議部分という
のであつて、前記事件記録及び本件記録によれば、本件文書は法務大臣が前記裁決
をする過程で作成された文書であり、抗告人が本件裁決等の違法事由として主張す
る前記事項のうち第二の主張に関する立証に供しようとするものであることが認め
られる。
ところで、法務大臣が令五〇条に基づいてなす特別在留許可処分は私人の有する権
利、資格をはく奪し、あるいは、制限する性質の処分ではなく、むしろ、権利、資
格を有しない者に対する特別の措置の性質を有する処分であつて、いわゆる自由裁
量行為であると解され、その処分をなす手続について法令上の定めはなされていな
い。いわゆる裁決諮問委員会なるものも担当職員が法務大臣を補佐するための意見
具申の方法として事実上設けられているにすぎないものと認められる。したがつ
て、本件文書は、行政処分の適正公平を担保するために法令上その作成が予定され
ているような文書ではなく、法務大臣が前記裁決をするに当り、その適正を期する
ために、行政庁内部においてもつぱら自己使用の必要上作成されたにすぎないもの
と解される。
右にみたような法務大臣の本件裁定の性質、本件文書の作成目的等を考慮すると、
行政処分の違法性を争う訴訟の特殊性を斟酌しても、本件文書は民訴法三一二条三
号後段の文書には該当しないものと解するのが相当である。
よつて、本件文書提出命令の申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理
由がないからこれを棄却し、抗告費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用
して、主文のとおり決定する。
(裁判官 外山四郎 海老塚和衛 小田原満知子)
抗告の趣旨
一、原決定を取消す。
二、相手方は、左記各文書を当裁判所に提出せよ。
との決定を求める。

抗告人の出入国管理令第四九条第一項の規定に基づく異議申立に対してなされた審
査に関する稟議書及びそれに附属するいわゆる「裁決諮問委員会」における議事録
中右抗告人の異議申出についてなされた審議部分。
一、原決定は、「抗告人の出入国管理令第四九条第一項の規定に基づく異議申立審
査に関する稟議書は、「相手方が同条第三項の裁決をするに当りその判断の適正を
期する等もつぱら行政事務執行の便宜上自己使用のためにのみ作成した文書である
から民事訴訟法第三一二条第三号後段の文書に該当しない」と判断した。
二、しかし、右同条三号にいわゆる挙証者と所持者との間の法律関係について作成
された文書とは、挙証者と文書の所持者との間の法律関係それ自体を記載した文書
だけでなく、その法律関係に関係のある事項を記載した文書、ないしは、その法律
関係の形成過程において作成された文書をも包含すると解すべきところ、これを行
政庁のなした行政処分の違法を主張してその取消を求める抗告訴訟に即してみれ
ば、当該行政処分がなされるまでの所定の手続の過程において作成された文書であ
つて、右行政処分をするための前提資料となつた文書をも包含するものと解するの
が相当である。けだし、行政処分は、もともと国民のために公正かつ明朗な手続を
経て行われるべきものであり、かつ、行政処分をするための手続の過程において作
成される文書の多くは、行政処分の適正・公平を担保するために作成されるもので
あるから、行政処分の取消を求める抗告訴訟において、前記のように解しても、文
書の所持者である行政庁に対し不当な不利益を課することにはならないといえる
し、また一方、行政処分の違法を争う相手方は右行政処分がなされるまでの手続の
過程において作成される文書を所持していないのが通常であつて、かかる立証に必
要な文書を所持しない挙証者の不利益を補うことにより、抗告訴訟において要請さ
れる実体的真実に寄与することになるからである。
従つて、単に内部文書であるから同条第三号にあたらないとする原決定の解釈には
誤りがある。
三、本件文書について見るに出入国管理令第四九条第一項の規定に基づく異議申立
があつた場合、法務省入国管理局審査課において調査をなした後、いわゆる裁決諮
問委員会が開かれ異議申出について理由があるかないか同令第五〇条第一項の特別
在留許可の要件がないか否かが検討され、法務大臣の裁決に対する意見が提出され
ることになる。(乙第一二号証参照)
ところで、抗告人は、本案訴訟において法務大臣の裁量権の乱用による違法性を主
張しているものであるところ、右法務大臣の裁決のために提出される稟議書及びそ
の附属文書(裁決委員会における議事録とそれに記載された意見)が右裁決(行
政)処分をするための前提資料となつた文書であると解されるから右文書は、抗告
人と相手方との間の法律関係の形成過程において作成されたものというべきであ
り、法務大臣の裁決の基本ともなるべきものである。よつて原決定には法律解釈の
誤りがあるというべきであるというべきである。
よつて、抗告の趣旨記載の決定を求めるため抗告に及んだ。
(原裁判等の表示)
○ 主文
本件申立てを却下する。
○ 理由
一 本件申立ての要旨
民事訴訟法第三一二条第三号後段の規定に基づき相手方の所持する「申立人の出入
国管理令第四九条第一項の規定に基づく異議申出の審査に関する稟議書及びそれに
付属する文書一切」の提出命令を求める。
なお、同号後段の文書には、当該行政処分がされるまでの所定の手続の過程におい
て作成された文書であつて、右処分をするための前提資料となつた文書をも包含す
ると解すべきであるから、本件申立てに係る文書が内部文書であるとしてもこれに
該当する。また、右付属文書は、稟議書に付属した文書一切という以上には特定で
きない。
二 相手方の意見の要旨
本件申立てに係る文書は、相手方が自己使用のため作成した行政庁の内部文書であ
るから、民事訴訟法第三一二条第三号後段に規定する文書に当たらない。よつて、
本件申立ては不適法である。
三 当裁判所の判断
民事訴訟法第三一二条第三号後段の挙証者と文書の所持者との間の法律関係につい
て作成された文書には、所持者が単独で自己使用の必要上作成したものを含まない
と解すべきところ、本件申立てに係る文書のうち、申立人の出入国管理令第四九条
第一項の規定に基づく異議申出の審査に関する稟議書は、相手方が同条第三項の裁
決をするに当たりその判断の適正を期する等もつぱら行政事務執行の便宜上自己使
用のためにのみ作成した内部文書であるから、民事訴訟法第三一二条第三号後段の
文書には該当しないというべきである。
申立人は、当該行政処分がされるまでの所定の手続の過程において作成された文書
であつて、右処分をするための前提資料となつた文書をも包含するものと解すべき
であるから、内部文書といえども同号後段の文書に該当すると主張するけれども、
右の見解は同号後段を拡張解釈するものであつて、採用することができない。
次に、本件申立てに係る文書のうち稟議書以外の文書については、申立人の申立て
によつても、稟議書に付属する文書一切という以上には特定されていないから、そ
れら文書中に、民事訴訟法第三一二条第三号後段に該当する文書が含まれているか
否か一切不明である。
よつて、本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

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