弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一、第一審第一事件(原審昭和四一年(ワ)第一〇、二六二号事件)に関する控訴
をいずれも棄却する。
二、第一審第二事件(原審昭和四二年(ワ)第四、四一六号事件)に関する原判決
を取り消す。
 第一審第二事件被告は同事件原告に対し別紙第二目録中の請求金額欄に記載の各
金員およびこれに対する昭和四一年七月一七日から完済にいたるまでの年五分の割
合による金員を支払わなければならない。
三、第一審第一事件に関する控訴費用は同事件被告らの負担とする。
 第一審第二事件に関する訴訟費用は第一および第二審とも同事件被告の負担とす
る。
四、この判決のうち第二項の第一審第二事件原告の勝訴部分に限り仮に執行するこ
とができる。同事件被告において別紙第二目録中の請求金額欄に記載の各金員と同
額の担保を供するときはこれを免れることができる。
五、第一審第一事件被告らにおいて原判決主文第一項に記載の各金員と同額の担保
を供するときは同第一項の仮執行を免れることができる。
       事   実
 第一審第一事件被告らおよび同第二事件原告代理人は、「原判決を取り消す。第
一審第一事件原告の請求を棄却する。第一審第二事件被告は、同事件原告に対し
て、別紙第二目録中の請求金額欄に記載の各金員およびこれに対する昭和四一年七
月一七日から完済にいたるまでの年五分の割合による金員を支払わなければならな
い。訴訟費用は第一および第二審とも第一審第一事件原告・同第二事件被告の各負
担とする。」との判決を求め、
 第一審第一事件原告および同第二事件被告代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上および法律上の主張は、原判決書の事実欄に記載されている
のと同じであるから、これを引用する。(証拠省略)
       理   由
一、第一審第一事件について
 当裁判所も第一審第一事件原告(本項にかぎり、以下「原告」という)の請求は
正当であると判断するところ、その理由は、次に付加するほか、原判決書の理由欄
のうち当該部分に記載されているのと同じであるから、これを引用する。
(1) 第一審第一事件被告ら(本項にかぎり、以下「被告ら」という)は、労働
組合が組合員の一部にストライキを命じた場合には、その組合員の給与喪失分を補
償することが労働組合として当然の義務であると主張する。右のような場合に労働
組合が所論のような補償措置を講ずることは、そのストライキに参加した組合員に
とつて望ましいことではあろうが、それは組合員各自の同志的連帯意識にかかるこ
とであつて、ストライキと労働組合との性質上から当然に法律上の具体的債権債務
関係として発生するものと解することはできない。したがつて、所論は採用の限り
でない。
(2) また被告らは、原告組合が被告らに対してストライキを命じ、その間の賃
金を失わせながら、その損失をストライキに参加した被告らのみに負担させ、スト
ライキ非参加の他の組合員においてこれを負担しない処置をとつたが、このように
組合員を平等に扱わないことは法律上許されないところであると主張する。所論の
ように労働組合が組合員の一部にストライキを命じ、これに参加した組合員が給与
喪失の損害を受けた場合、その損失をいかに填補するか、またその方法、程度いか
んは、ストライキの実施方法と同様に各労働組合において自治的に決めるべき問題
であるといわねばならない。ところで、原告は本件ストライキに際しこれに参加し
た組合員の賃金カツト分にあたる金員を東京労働金庫から借り入れ、これを右の参
加組合員に貸しつけ、ストライキ終了後に全組合員から徴収した資金により右貸付
分を補償することを予定していたことは原告の自認するところである。しかしなが
ら、当審における原告組合代表者尋問の結果によると、右補償はいつたん右被貸付
組合員から貸付金の返済を受けたうえ、改めてストライキ非参加組合員に右補償の
ため必要とする資金の徴収割当を各種の事情を考慮して決め、その割当にかかる徴
収金で補償措置をとるべきはずであつたのであり、いまだ被告らからの右貸付金返
還もなく、その後被告らが原告組合から脱退した関係もあつて、ストライキ非参加
組合員に対する右割当もできず、したがつて右補償措置の正式決定にいたらないで
いることがうかがわれるので、同補償措置が行なわれないからといつて、組合員の
間に不平等な取扱いがあるともいえないし、被告らにおいて原告組合に対し賃金カ
ツト分にあたる金員の補償を請求する具体的な権利を有しているということもでき
ない。
二、第一審第二事件について
 第一審第二事件原告で選定当事者たるAおよび選定者ら(以下、上記の者を併せ
て「選定当事者ら」という)が別紙第二目録中の組合員期間欄に記載の期間(その
うち別紙第三目録に記載の者の組合脱退の年月日は同第二目録に記載のそれと異る
が、同第三目録記載のその年月日はここでは考慮に入れない。)第一審第二事件被
告(本項にかぎり、以下「被告」という)組合の組合員であつたこと、選定当事者
らが被告組合の斗争資金積立規程にもとづき、同組合の組合員であつた期間、毎月
二〇〇円を同組合に預託していたこと、選定当事者らが組合員資格を失つたのは、
選定者らが自ら被告組合を脱退したためであること、右の預託金は組合員が退職、
死亡等の理由により組合員資格を失つた場合には、毎年複利計算により東京労働金
庫の利息を付して計算した合計額を組合員に返還する定めであつたことは、いずれ
も当事者間に争いがない。
 第一審第二事件原告(本項にかぎり、以下「原告」という)は、右の預託金は、
選定当事者らのように脱退によつて組合員資格を失つた場合にも預託者に対して返
還されるべきものであると主張するので、これを審究する。
 成立に争いのない甲第三七号証、乙第四号証によると、前記斗争資金積立規程は
組合所定の手続を経て昭和三八年六月二〇日より施行されており、同規定にもとづ
く斗争資金積立の目的は、(イ)罷業その他斗争時における組合員の生活資金を確
保して斗争目的の完遂をはかる、(ロ)労働金庫利用による福利厚生活動を強化推
進する、(ハ)組合員の退職資金として将来の生活安定に資するにあり(第一
条)、積立金は毎月給料日に各人の給与から差し引いて徴収し、一週間以内に東京
労働金庫大井支店(以下、「労金大井支店」という)に預入し、預入をするには組
合名義で一括預金することとし、届出印鑑は組合印を使用し、労金大井支店の発行
する預金通帳は組合が保管するものとし(第三、第四条)、組合は組合員各個人別
に斗争資金積立票を作成し、積立入金の都度正確に記入して、個人別の積立金現在
高と積立年月とを常に明らかにしておくことを要するが、組合は右の処理を労金大
井支店をして行なわせることができる(第五条)、組合の執行委員会は毎年一回八
月上旬に組合員各個人に対し七月三〇日現在におけるその積立金現在高を通知する
が、組合はその通知を労金大井支店をして行なわせることができる(第六条)、積
立金の払い戻しは、(a)長期の斗争に際し、斗争委員会が争議によつて組合員の
生活が困難になつたと認め、組合大会に提案してその決議を得た時、(b)退職、
死亡等の事由により組合員資格を喪失した時、(c)組合が解散する時の三場合以
外には認めない(第七条)、積立金の運用については、右にあげた(a)の事由が
ある時にも、積立金の払戻しをせず、これを貸金担保として東京労働金庫から生活
資金の借り入れをすることができ、また福利厚生その他組合活動を推進強化するた
めにも、組合大会の決議を得て預金担保に差し入れることができる(第九条)と規
定されていることが認められる。右の事実および成立に争いのない甲第四三ないし
第四五号証、原審における証人Bの証言、原告A本人尋問の結果ならびに当審にお
ける被告組合代表者尋問の結果を総合すると、被告組合が前記斗争資金積立規程を
制定したのは、労働条件を改善するにはストライキで斗う必要があり、そのために
は資金的裏付けを必要とするからであつたこと、被告組合がはじめて部分ストをし
たのは昭和四一年の春斗に際して行なわれた本件ストライキであること、右部分ス
トに参加した組合員の一部が賃金カツトを受けたため、被告組合では前記斗争資金
積立規程の定めるところにより、東京労働金庫より右積立金にもとづく預金を担保
として昭和四一年五月二八日に金八〇万三、四四一円を借り受け、これをもつて賃
金カツトを受けた組合員に貸しつけたこと、争議終了後、貸付金の大部分の返済を
受け、一部の未返済分が残つているが(第一審第一事件の請求分参照)、被告組合
では他から融通し東京労働金庫に対しては弁済期間に右借受金債務を完済したこと
が認められ、これに反する証拠はない。
 右の事実、とくに組合員の積立にかかる拠出金については、その金額はもとよ
り、これに対する利息まで加算して拠出組合員ごとに分別明細にしておき、これを
拠出組合員に通知すべきものとされており、一括してストライキの場合の特定目的
のため組合の債務について担保に供されることはあつても、組合の資金として支出
費消されることもなく、一定の場合には拠出者に利息を加算して払い戻されること
などとされているところによると、前記斗争資金積立規程にもとづき、被告組合に
対し組合員が拠出する金員は、組合員として組合の経費支出のために拠出する一般
組合費や、拠出者が必ずしも所属組合員たる資格を要せず支出について組合規約上
の制約のない資金カンパのように、拠出した後は拠出者とのつながりが失われ、組
合の資金としてそれぞれの目的のために支出費消され、またはそのような支出費消
のために準備されて、もはや拠出者に返還するすべも必要もないものとは、全くそ
の性格を異にし、組合員が組合員たる資格を保有する間は、前記積立規程に掲げる
目的を達成するため組合が所定の方法によつて運用することを委託した組合員個人
の積立預託金としての性格をもつものとみるのが相当である。このように右拠出金
は個人の積立預託金としての法的性質を有するのであるから、特定の組合員が組合
員たる資格を失つた場合には、組合組織上の一員として前記積立規程の目的を維持
達成する資格と意義とが失われ、組合に対しその払戻しを求めた場合には、組合と
しては、預金者たる組合員よりの払戻しを不要とする旨の承諾または前記規程中に
特定の場合にはその払戻しをしない旨の明文の規定があるときを除き、その払戻請
求を拒み得ないと解すべきである。そうすると、前記斗争資金積立規程第七条に所
定の積立金払戻の事由として、「死亡、退職等」とするなかには、組合員がその意
思にもとづき組合を脱退した場合をも包含するといわなければならない。この点に
つき、原審証人Bの証言および当審における被告組合代表者尋問の結果中には、右
に反し組合員が組合を脱退した場合、とりわけ争議継続中に脱退したときは払い戻
しをしない趣旨であるとの供述部分があるが、これらはいずれも被告組合の立場を
顧慮してなされた意見にすぎないので採用に価いせず、また右B証人の証言中に
は、前記斗争資金積立規程の制定当時同人は組合の副執行委員長であつて、その制
定大会において脱退した者に積立金を払い戻すか否かについて論議されたが、その
際に副委員長の立場でそのような場合には払い戻さないと説明し、大会議事録中に
その旨が記載されていると思う旨の供述があるけれども、原審における原告A本人
尋問の結果および当審における被告組合代表者尋問の結果によると、右はいずれも
記憶違いであつたことが明らかであるから、右証言部分は採用に価いせず、他に前
記認定を妨げるのに足りる証拠はない。
 ところで、選定当事者らが被告組合を脱退してその組合員たる資格を失つている
ことは前示のとおりであるが、同人らが前記積立金払戻しを不要とする旨の承諾を
したことについては何らの主張立証がなく、前記積立規程中に組合員資格の喪失に
よる積立金の払戻を要しない旨の明文がないのはもとより、その他その旨の規約の
ないことも前記の諸事実に徴して明らかであるから、被告組合としては選定当事者
らに対し、その請求を待つまでもなく、これを支払うべき義務があるといわなけれ
ばならない。
 そして、選定当事者らがいずれも昭和四一年七月一六日以前に被告組合を脱退し
たこと、同人らが前記積立規程に定めるところより拠出した預託金(積立金)の元
利金が右同日現在において別紙第二目録中の請求金額欄に記載の各金額であること
はいずれも当事者間に争いがない。
 以上に認定したところによると、他に特別な事由の主張もないので、被告は原告
に対して、右の各金員およびこれに対する履行期後の昭和四一年七月一七日から完
済にいたるまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務が
あるといわねばならない。
三、よつて、第一審第一事件原告の請求を認容した原判決は相当であつて、同事件
被告らの控訴はいずれも理由がないため棄却を免れないが、第一審第二事件原告の
請求を排斥した原判決は失当であるからこれを取り消したうえ、同原告の請求を認
容し、第一審第一事件の控訴費用の負担については、民訴法九五条、八九条、九三
条を、第一審第二事件の訴訟費用の負担については、同法九六条、八九条を、仮執
行の宣言およびその免脱の宣言については、同法一九六条をそれぞれ適用して、主
文のとおり判決する。
(裁判官 畔上英治 上野正秋 岡垣学)
(別紙省略)

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