弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴をいずれも棄却する
         理    由
 弁護人諌山博の控訴趣意は、同弁護人及び各被告人提出の控訴趣意書記載のとお
りである。
 右に対する判断。
 弁護人の控訴趣意第一点、被告人Aの同第一ないし第九点、被告人Bの同第一点
(判示第一、威力業務妨害の事実誤認、法令適用の誤)について。
 原判決挙示の関係証拠に徴すれば、被告人両名は、判示のようないきさつのもと
に、鉱害補償に関する判示C鉱業所側の措置をもつて、誠意に欠くるものありとし
て憤慨し、共謀の上、同鉱業所第二竪坑の捲上機械の運転を停止させる目的をもつ
て、判示の頃判示捲場に同道し、ともに同捲場の窓口によぢ上つて立ちふさがつた
こと、被告人Aは両手を挙げ、被告人Bは片手に傘を携さえ片手を挙げて、折柄同
捲上機械を運転操業中の運転手Dに対し、被告人Aにおいて、「捲を止めろ」と連
呼怒号したこと、因つて運転手Dは、巳むなくその運転を一時中止するに至つたこ
とがいずれも明らかである。
 なるほど弁護人所論のように、被告人両名が立ちふさがつた捲場の窓口と運転手
Dの位置とは、その間の距離約九米をへだて、中間には廻転中の捲上機械等の障碍
物が横たわつていて、右の窓口から運転手Dの身辺に直行して直接同人の身体に危
害を加えることは至難の情況にあつた事実、並びに被告人両名こそ、右の窓口をと
おる捲上ロープとの接触等による、身体生命損傷の危険にさらされていた事実は、
いずれも証拠に照らして明らかなところではあるが、その故をもつて被告人らの本
件所為が威力による業務妨害の罪を<要旨>構成しないとする論旨は採用し難い。刑
法第二三四条にいう威力とは、業務遂行の意思を制圧するに足りる不当の勢
威一般を指称し、もとより業務遂行者の身体に対する直接的な危害可能の情況の存
することを要しないものと解すべく、本件のような竪坑捲上機械の運転による捲上
作業に従事する運転手は、物理的にも精神的にも終始安全平穏な状態において操業
を継続すべき職責と権限とを有するものといわなければならない。被告人らが、前
記のように判示捲場の窓口に立ちふさがり、手を挙げて捲上機械運転の中止方を求
めているのに、強いてその運転を継続するにおいては、捲上ロープとの接触等によ
る被告人らの身体生命損傷の危険大なるものがあることは前述のとおりであり、既
にその危険の大なるものがある以上、目前のその危険を免かれるために機械の運転
を中止するのは、人の身体生命の安全をはかり、これが損傷を避けようとする、人
倫必然の要請であるから、このような事態を故意に作出する被告人らの前記挙措
は、捲上機械運転手の業務遂行の意思を優に制圧するに足りる不当の勢威に当り、
刑法第二三四条にいう威力に当るものと解せざるを得ない。のみならず、捲上ロー
プとの接触等による身体生命損傷の前記の危険は、ひいて、被告人らの身体が捲上
機械にまきこまれる等不慮の災害によつて捲上機械自体に運転上の故障を生ずる虞
なきを保し難いことも見やすいところであるので、被告人らの前記挙措が、運転手
Dの捲上機械の運転上不安の念を一層強からしめたものであることもまたおのずか
ら明らかなところである。
 以上のように、被告人らの前記挙措は、それだけで優に、刑法第二三四条にいう
威力に該当するものであると認められるのであるが、被告人らは更に進んで、判示
のように、もし運転中止の要求に応じなければ運転手Dに対し危害をも加えかねな
いような気勢を示して同人を畏怖せしめた事実も、原判決挙示の証拠殊に、被告人
らの検察官に対する各第一回供述調書、原審検証現場における証人E、同F、同D
らの各供述調書によつて、これを認め得られないことはなく、証拠の証明力に関す
る原審裁判官の判断に特に不合理と目すべき事由があるものとも認められない。
 なお、所論によれば、捲上機械の運転が停止されたのは、捲上の合図がなかつた
のによるものであつて、被告人らの所為によるものでなく、また業務妨害の事実も
存しないというのであるが、そうでなくして判示捲上機械の運転中止が判示のよう
に、被告人らの判示所為によるものであることは原判決挙示の証拠によつて明白で
ある。殊に原審検証現場における証人D、同Gの各供述調書等によれば、被告人ら
の所為によつて捲上機械の運転が妨げられている間に、坑内より幾回となく捲上の
合図がなされたのにかかわらず運転が停止されていたため、坑内には捲上げらるべ
き石炭の実箱約六〇箱、捲上回数約三〇回分、約二〇噸の石炭が停滞させられ、現
に業務の遂行が阻止妨害された事実が明らかであつて、所論は採用の限りでない。
 以上のとおりであつて、この点に関する論旨はすべて理由がない。
 弁護人の控訴趣意第二、三点、被告人Aの同第一〇点ないし第一三点、被告人B
の同第二、三点(判示第二の(二)脅迫に関する事実誤認、法令適用の誤、心神喪
失、判示第三の(一)住居侵入に関する事実誤認、判示第三の(三)傷害に関する
心神喪失)について。
 所論の判示第二の(二)脅迫、判示第三の(一)住居侵入、判示第三の(三)傷
害の各事実、殊に、判示第二の(二)脅迫の犯行当時被告人Aにおいて心神喪失の
情況になかつた事実、判示第三の(一)住居侵入の犯行に際し、被告人Bに犯意の
あつた事実、判示第三の(三)傷害の犯行当時被告人Bにおいて判示のように心神
耗弱の情況にあつたものであつて、心神喪失の情況になかつた事実はいずれも原判
決の挙示引用にかかる証拠によつてこれを認定するのに十分であり、証拠の取捨に
関する原審裁判官の措置、証拠の証明力に関する原審裁判官の判断に、経験法則の
違背等特に不合理とすべき事由なく、原判決に所論のような事実誤認法令適用の誤
等の違法があるものとは認められない。論旨はすべて、理由がない。
 弁護人及び各被告人の控訴趣意その餘の点(量刑不当)について。
 記録並びに証拠に現われている諸般の犯情に照らし、原判決の刑の量定はいずれ
も相当であると認められ、特にこれを不相当とすべき事由なく、所論の諸点を参酌
考量しても、なお原判決の刑の量定が相当でないものとは断じ難い。論旨はいずれ
も採用の限りでない。
 その他原判決を破棄すべき事由がないので、刑訴第三九六条により本件控訴をい
ずれも棄却し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)

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