弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
         理    由
 本件控訴趣意は弁護人赤井力也の差し出した末尾添付の控訴趣意書記載の通りで
ある。
 論旨は、住居とは少くとも人の居住を志向すること(食卓と寝台の設備あるこ
と)を必要とする。然るに本件店舗はAが初めから居住を志向しない場所であるこ
とは争のない事実であるから、被告人がAの本件店舖にはいつたことは住居侵入の
所為としては違法性を欠き住居侵入罪を構成しない。
 また被告人がAの商品を同人の店舗から其の住所に搬出したのは、被告人におい
て自己の所有である右店舗の工事の都合上やむを得ざるに出た行為であり、個人的
自由資本主義の経済組織と大工業的機械の発達した現時にあつては常に見られる現
象であつて、結果において業務妨害となつても、その方法は威力を以てしたものと
いうことはできない。従つて刑法第二百三十四条の業務妨害罪を構成しない。然る
に原判決は本件告人の所為を住居侵入罪及び業務妨害と認定して各その法条を適用
したのは法の解釈を誤り擬律錯誤の違法があるという。
 しかし人が自ら占居して商売を営む店舗は、たとい外に住宅を有し同店舖には食
卓と寝台の設備なく寝泊り<要旨>しない場合であつても刑法第百三十条に所謂「人
の住居」であることは同条の解釈上当然のことである。また刑法第二百三十
匹条の対象たる威力を用いて人の業務を妨害する行為の「威力を用いる」上は暴行
脅迫、社会的経済的優越の力又は地位を利用して人の自由な意思を抑圧する勢力を
示すことで、店舗を明渡させるために実力を以て内部の商品を運び出すが如き行為
がそのうちに包含されることは勿論である。原判示函館市a町b番地の四所在のA
の店舗は、同人が昭和二十一年十月頃からBより転借し尓来文房具、簿記帳、紙類
等の販売を営んで来ていた場所であることは原判決の示した原審公判調書における
被告人の供述記載検察官作成のAの供述調書により明かであつて、右は刑法第百三
十条の住居というに該り、被告人は昭和二十五年四月頃Aの営業中なる原判示店舖
を階下の一部とする家屋の所有権を取得するに及び、自らその場所で菓子製造販売
の業を営むことを企図し、同年七月頃からBを通じてAに対し右店舖の明渡方を要
求していたが、Aがその明渡を為し兼ねているうち、被告人は同年九月十六日朝四
時頃から六時頃にかけて、Aに無断で実力を以て右店舖内からその商品の全部と陳
列棚、ウインドウ、机等一切の備品を小型自動車四台で函館市内c町のAの居宅に
搬出した事実は原判決の示した右証拠及び検察官作成のC供述調書を綜合して認め
られ、その所為は刑法第二百三十四条の威力を用いてAの業務を妨害したことに該
り、原判決がその挙示する前記証拠によつて原判示事実を認定し原判示摘示の法条
を適用したことは正当であつて、原判決に何等法の解釈適用を誤つた違法がない。
論旨は理由がない。
 よつて本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却し
主文の通り判決する。
 (裁判長判事 原和雄 判事 小坂長四郎 判事 東徹)

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