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平成18年(行ケ)第10453号審決取消請求事件
平成19年6月14日判決言渡,平成19年5月10日口頭弁論終結
判決
原告アイオワステイトユニヴァーシティリサーチファウンデーショ
ンインコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士西郷義美
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人綿谷晶廣,唐木以知良,田中敬規,鈴木由起夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が不服2003−10562号事件について平成18年6月6日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,その出願に係る特許についての拒絶査定に対する不服審判請求
を成り立たないとした審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件出願
出願人:アイオワステイトユニヴァーシティリサーチファウンデーショ
ンインコーポレイテッド(原告)
発明の名称:「鉛を含まないはんだ」
出願日:平成10年2月3日(国際出願)
出願番号:特願平10−534831号
優先権主張:1997年(平成9年)2月10日(米国)
(2)本件手続
拒絶査定日:平成15年4月28日
審判請求日:15年6月11日(不服2003−10562号)
手続補正日:平成18年2月10日(甲8)
審決日:平成18年6月6日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
謄本送達日:平成18年6月16日(原告に対し)
2発明の要旨(甲8)
本件特許出願に係る発明は,平成18年2月10日付け手続補正により補正され
た明細書(以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1∼23に記
載された事項により特定されるものと認められるところ,審決が対象とした発明
は,そのうち請求項21,22に係る発明(以下,請求項の番号に従って,「本願
発明21」,「本願発明22」といい,これらを合わせて「本願発明」という。)
であり,その要旨は,以下のとおりである。
「21.鉛を含まないはんだは,重量%で,
3.5ないし7.7重量%の範囲のAg,
1.0ないし4.0重量%の範囲のCu,
0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの少なくとも1種の添加元素又は合
計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方の添加元素,
並びに,残部の重量%がSnからなることを特徴とする鉛を含まないはんだ。」
「22.鉛を含まないはんだは,重量%で,
3.0ないし4.0重量%の範囲のAg,
0.5ないし4.0重量%の範囲のCu,
0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの少なくとも1種の添加元素又は合
計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方の添加元素,
並びに,残部の重量%がSnからなることを特徴とする鉛を含まないはんだ。」
3審決の理由の要点
審決は,本願発明21,22は,①下記刊行物1記載の発明(以下「刊行物1発
明」という。)及び下記刊行物4∼6に開示された周知技術に基づき,当業者が容
易に発明をすることができ(以下「審決判断1」という。),②下記刊行物2記載
の発明(以下「刊行物2発明」という。)及び下記刊行物4∼6に開示された周知
技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができ(以下「審決判断2」とい
う。),③下記刊行物3記載の発明(以下「刊行物3発明」という。)及び下記刊
行物4∼6に開示された周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができ
たものである(以下「審決判断3」という。)から,特許法29条2項の規定によ
り特許を受けることができず,本件特許出願は拒絶されるべきである,とした。
刊行物1特開平5−50286号公報(甲1)
刊行物2特開平8−215880号公報(甲2)
刊行物3米国特許第5527628号明細書(発行日1996年6月18日。
甲3)
刊行物4特開平6−269983号公報(平成6年9月27日公開,甲4)
刊行物5特開平2−179388号公報(平成2年7月12日公開,甲5)
刊行物6特開平2−179385号公報(平成2年7月12日公開,甲6)
審決の理由中,審決判断1に係る,本願発明21と刊行物1発明との対比,相違
点についての判断,本願発明22と刊行物1発明との対比及び判断,審決判断2に
係る,本願発明21と刊行物2発明との対比及び判断,本願発明22と刊行物2発
明との対比及び判断,審決判断3に係る,本願発明21と刊行物3発明との対比及
び判断,本願発明22と刊行物3発明との対比及び判断の部分は,以下のとおりで
ある(略称並びに章の番号及び記号について,本判決で指定したものに改めた部分
がある。)。なお,審決の理由中,「本願明細書」とあるのは,平成18年2月1
0日付け手続補正により補正された後の明細書を意味するが,審決が引用する部分
は,全部特許法184条の4に基づく明細書の翻訳文(甲7添付)に記載がある。
本判決が「本願明細書」の記載として引用する部分も同様である。
(1)審決判断1
ア本願発明21と刊行物1発明との対比
刊行物1には,・・・「Ag3.0%超5.0重量%以下,Cu0.5∼3.0重量
%,および残部Snの組成を有する合金から成る,耐熱疲労特性に優れたはんだ付け部を形成
する高温はんだ。」という発明(刊行物1発明)が記載されていると認められる。
・・・
本願発明21と刊行物1発明を対比すると,刊行物1発明のはんだは,合金成分としての鉛
を含まないものであることが明らかであるから,両者は,
「鉛を含まないはんだは,重量%で,
3.5ないし5.0重量%の範囲のAg,
1.0ないし3.0重量%の範囲のCu,
並びに,残部の重量%がSnからなる鉛を含まないはんだ。」である点で一致するが,次の
点で相違する。
相違点:
本願発明21では,鉛を含まないはんだが「0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの
少なくとも1種の添加元素又は合計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方
の添加元素」を含有するのに対し,刊行物1発明では,鉛を含まないはんだがFe,Coを含
有することについて規定されていない点。
イ相違点についての判断
本願明細書の下記摘示A∼E等の記載によれば,本願発明のはんだは,Cu母材に適用され
た場合,高Sn含量の鉛を含まないはんだに共通してみられる高温のエージングでのCuの拡
散的移動による金属間界面の成長がFe,Coの添加元素により抑制され,はんだ継手の耐ク
リープ破壊性,耐疲労破壊性等の機械的強度が向上するとされている。
摘示A:「Sn−Ag−Cu共晶はんだの唯一の重大な欠陥は,はんだ/Cu母材界面で,
特に高温のエージングで金属間層成長をしやすい傾向があることが判っており,この特徴は,
実質的に全ての高含量Snの,Pbを含まないはんだに共通している。」(本願明細書4頁1
9∼22行)
摘示B:「添加元素は,はんだ付け性を低下することなく,ミクロ組織の高温安定性及び熱
的−機械的疲労強度を改良する方法で形態構造を有利に改良するおよび/または特に高温エー
ジングからの金属間界面の成長を抑えることが出来る,Ni,Fe及び同様な作用をする元素
から成る群から選ばれる。ニッケル及び鉄に加えて,この目的のため,別の同様な作用をする
添加元素には,比較的高コストであり入手が不確実なため,比較的好ましくないコバルト(C
o)が挙げられる。各添加元素は,少なくとも約0.01重量%の量で単独で加えてもよく,
はんだ合金組成物の約0.5重量%を超えないのが好ましい。」(同6頁23行∼7頁1行)
摘示C:「1種以上の添加元素を加えると,はんだ付けされる母材又は部材が一般的にCu
の場合,Cu6Sn5の薄い層を一般的に含む凝固したままの金属間界面の形態構造が改良さ
れ,特に凝固したままの金属間界面の厚さが薄くなる。更に重要なことは,1種以上の添加元
素を加えると,母材又は部材が一般的にCuである場合,形態構造が改良され,そして一般的
にCu6Sn5とCu3SnのCu基の層を含む高温でエージングされた金属間界面の成長速
度が抑えられる。・・・形態構造の改良は,優先的な成長ファセット又は金属間界面の表面を
壊し,その代わりファセットのない,平坦でない界面成長表面を作る作用をするメカニズムに
よって達成されるようである。・・・置換的な元素添加物により金属間相に発生する余分の歪
のために,母材又は部材から,成長中の金属間界面へCuが拡散的に移動するのを抑制するよ
うに作用するメカニズムによって,成長の抑制が行なわれるようである。また,1種以上の添
加元素を加えることによって,母材又は部材から,はんだ本体へのCuの拡散的移動が抑制さ
れることは,はんだミクロ組織の中の界面に近い金属間相,特にCu6Sn5の形成や過剰の
成長を抑える役目をする。」(同7頁2∼19行)
摘示D:「本発明のはんだを高温でエージングした金属間界面は,界面層の厚さを最小限に
抑えて,はんだミクロ組織の本体の界面に近い溶質減損ゾーンの程度を減らす穏やかな速度で
成長する。溶質減損ゾーンは,強度が大幅に落ちた純粋なSnから実質的に成っている。これ
らの2つの特徴,即ち所与のエージング曝露に対する薄くなった金属間界面,及び減少した溶
質減損ゾーンによって,前記のはんだ継手の耐クリープ破壊性及び耐疲労破壊性が向上す
る。」(同9頁22∼27行)
摘示E:「本発明のはんだ合金によって促進されると思われる金属間界面を通るCu拡散が
最小に抑えられると,はんだミクロ組織の界面の近くの金属間の大きい析出相が大幅に減る。
エージング後の大抵のSn基はんだに,このような大きい鋭い縁部の金属間粒子,一般的にC
u6Sn5,があると,疲労き裂の核生成を促進することがある。前記の析出物の著しい減
少,又は或る場合には消失によって,本発明のはんだ合金の大きくなった耐疲労性が更に増加
する。」(同9頁28行∼10頁5行)
これに対し,刊行物4・・・には,「Agを重量比で5∼20%,Snを重量比で70∼9
0%,Cuを重量比で0.05∼10%,Pdを重量比で0.05∼2%さらにFe,Co,
Niの少なくとも一種を重量比で0.05∼1%からなることを特徴とするAg系はんだ。」
が記載され,また,この高Sn含量の鉛を含まないはんだにおけるFe,Co成分に関し,・
・・「Fe,Co,Niを重量比で0.05∼1%とした理由は,0.05%未満では,濡れ
性および機械的強度の向上が期待できないためであり,1%を超えると,固溶し難いことに加
えて偏析の原因となって諸特性の低下を招くことになる。」と記載されており,Ag,Cu等
を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだにおいて,機械的強度の向上等のために,Fe,
Co等の1種以上を0.05∼1重量%添加することが開示されているといえる。
また,刊行物5・・・には,「Agを重量比で10∼30%,Snを重量比で70∼90
%,Cu,In,Gaの一種以上を重量比で0.05∼5%さらにFe,Niの一種以上を重
量比で0.05∼1%からなることを特徴とする低融点Agはんだ。」が記載され,また,こ
の高Sn含量の鉛を含まないはんだにおけるFe成分に関し,・・・「Fe,Niの一種以上
を重量比で0.05∼1%に限定した理由は,0.05%未満では機械的強度の向上が期待で
きないためであり,1%を超える添加では固溶し難くなり,むしろ諸特性の低下を招くことに
なる。」と記載されており,Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだにおい
て,機械的強度の向上等のために,Fe等を0.05∼1重量%添加することが開示されてい
るといえる。
さらに,刊行物6・・・には,「Agを重量比で10∼30%,Snを重量比で70∼90
%さらにFe,Ni,Coの一種以上を重量比で0.05∼1%からなることを特徴とする低
融点Agはんだ。」が記載され,また,この高Sn含量の鉛を含まないはんだにおけるFe,
Co成分に関し,・・・「Fe,Ni,Coの一種以上を重量比で0.05∼1%に限定した
理由は,0.05%未満では機械的強度の向上が期待できないためであり,1%を超えると固
溶し難いことに加えて偏析の原因になってむしろ諸特性の低下を招くことになる。」と記載さ
れており,Ag等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだにおいて,機械的強度の向上等
のために,Fe,Co等の1種以上を0.05∼1重量%添加することが開示されているとい
える。
以上の刊行物4∼6の開示に見られるように,Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含
まないはんだにおいて,機械的強度の向上等のために,Fe,Coの1種以上を0.05∼1
重量%添加することは,本願の優先日前において周知の技術といえる。
してみれば,刊行物1発明のAg,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだにお
いて,鉛を含まないはんだが「0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの少なくとも1種
の添加元素又は合計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方の添加元素」を
含有するように構成することは,前示の周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものと
いうべきである。
しかも,本願明細書に記載された,Cu母材に適用された場合,高Sn含量の鉛を含まない
はんだに共通してみられる高温のエージングでのCuの拡散的移動による金属間界面の成長が
Fe,Coの添加元素により抑制され,はんだ継手の耐クリープ破壊性,耐疲労破壊性等の機
械的強度が向上する等の効果は,はんだをCu母材に適用し,高温でエージングした場合に得
られるものであると認められるところ,本願発明は,そのようなCu母材への適用や高温での
エージングについて限定されていないから,そのような効果は,本願発明21(乃至本願発明
22)が必ず奏する効果とはいえない。また,・・・Fe,Coの1種以上が添加された高S
n含量の鉛を含まないはんだをCu母材に適用することは周知のことであるし,また,はんだ
付け後に高温でエージングすることも周知であることを考慮すると,前記効果は,前示の周知
技術において既に得られていた効果を確認したものとするのが相当であって,格別に顕著なも
のともいえない。
したがって,本願発明21は,本願の優先日前に国内において頒布された刊行物1に記載さ
れた発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ本願発明22と刊行物1発明との対比及び判断
本願発明22と刊行物1発明を対比すると,両者は,
「鉛を含まないはんだは,重量%で,
3.0超ないし4.0重量%の範囲のAg,
0.5ないし3.0重量%の範囲のCu,
並びに,残部の重量%がSnからなる鉛を含まないはんだ。」である点で一致するが,次の
点で相違する。
相違点:
本願発明22では,鉛を含まないはんだが「0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの
少なくとも1種の添加元素又は合計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方
の添加元素」を含有するのに対し,刊行物1発明では,鉛を含まないはんだがFe,Coを含
有することについて規定されていない点。
上記相違点について検討するに,上記相違点は,上記イで述べたと同様に,前示の周知技術
に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。
したがって,本願発明22は,本願発明21と同様に,本願の優先日前に国内において頒布
された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものである。
(2)審決判断2
ア本願発明21と刊行物2発明との対比及び判断
刊行物2には,・・・「はんだ組成が,Sn残部,Ag0.5∼3.5重量%,Cu0.5
∼2.0重量%からなる無鉛はんだ。」という発明(刊行物2発明)が記載されていると認め
られる。
本願発明21と刊行物2発明を対比すると,刊行物2発明の「無鉛はんだ」は,「鉛を含ま
ないはんだ」といえるから,両者は,
「鉛を含まないはんだは,重量%で,
3.5重量%のAg,
1.0ないし2.0重量%の範囲のCu,
並びに,残部の重量%がSnからなる鉛を含まないはんだ。」である点で一致するが,次の
点で相違する。
相違点:
本願発明21では,鉛を含まないはんだが「0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの
少なくとも1種の添加元素又は合計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方
の添加元素」を含有するのに対し,刊行物2発明では,鉛を含まないはんだがFe,Coを含
有することについて規定されていない点。
上記相違点について検討するに,上記相違点は,上記(1)のイで述べたと同様に,前示の周
知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。
したがって,本願発明21は,本願の優先日前に国内において頒布された刊行物2に記載さ
れた発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ本願発明22と刊行物2発明との対比及び判断
本願発明22と刊行物2発明を対比すると,両者は,
「鉛を含まないはんだは,重量%で,
3.0ないし3.5重量%の範囲のAg,
0.5ないし2.0重量%の範囲のCu,
並びに,残部の重量%がSnからなる鉛を含まないはんだ。」である点で一致するが,次の
点で相違する。
相違点:
本願発明22では,鉛を含まないはんだが「0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの
少なくとも1種の添加元素又は合計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方
の添加元素」を含有するのに対し,刊行物2発明では,鉛を含まないはんだがFe,Coを含
有することについて規定されていない点。
上記相違点について検討するに,上記相違点は,上記(1)のイ等で述べたと同様に,前示の
周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。
したがって,本願発明22は,本願発明21と同様に,本願の優先日前に国内において頒布
された刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものである。
(3)審決判断3
ア本願発明21と刊行物3発明との対比及び判断
刊行物3のクレーム第1項・・・の記載からみて,刊行物3には,
「鉛を含まない電気伝導性のはんだであって,約3.5ないし約7.7重量%のAg,約1.
0ないし約4.0重量%のCu,並びにSnから実質的になる残部,から実質的になり,Sn
は,はんだ強度と耐疲労性を向上する金属間化合物の形成を促進するため少なくとも約89重
量%の量で存在することを特徴とする鉛を含まないはんだ。」という発明(刊行物3発明)が
記載されていると認められる。
本願発明21と刊行物3発明を対比すると,両者は,
「鉛を含まないはんだは,重量%で,
3.5ないし7.7重量%の範囲のAg,
1.0ないし4.0重量%の範囲のCu,
並びに,残部の重量%がSnからなる鉛を含まないはんだ。」である点で一致するが,次の
点で相違する。
相違点:
本願発明21では,鉛を含まないはんだが「0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの
少なくとも1種の添加元素又は合計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方
の添加元素」を含有するのに対し,刊行物3発明では,鉛を含まないはんだがFe,Coを含
有することについて規定されていない点。
上記相違点について検討するに,上記相違点は,上記(1)のイ等で述べたと同様に,前示の
周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。
したがって,本願発明21は,本願の優先日前に国内又は外国において頒布された刊行物3
に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
る。
イ本願発明22と刊行物3発明との対比及び判断
本願発明22と刊行物3発明を対比すると,両者は,
「鉛を含まないはんだは,重量%で,
約3.5ないし4.0重量%の範囲のAg,
約1.0ないし4.0重量%の範囲のCu,
並びに,残部の重量%がSnからなる鉛を含まないはんだ。」である点で一致するが,次の
点で相違する。
相違点:
本願発明22では,鉛を含まないはんだが「0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの
少なくとも1種の添加元素又は合計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方
の添加元素」を含有するのに対し,刊行物3発明では,鉛を含まないはんだがFe,Coを含
有することについて規定されていない点。
上記相違点について検討するに,上記相違点は,上記(1)のイ等で述べたと同様に,前示の
周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。
したがって,本願発明22は,本願発明21と同様に,本願の優先日前に国内又は外国にお
いて頒布された刊行物3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものである。
第3当事者の主張の要点
1原告主張の審決取消事由の要点(相違点についての判断の誤り)
審決判断1∼3における,本願発明21,22と刊行物1∼3発明との間の一致
点及び相違点の認定はいずれも認める。
審決は,以下のとおり,本願発明及び刊行物1∼6記載の各発明の技術事項の理
解を誤って,審決判断1∼3における,本願発明21,22と刊行物1∼3発明と
の相違点についての判断を誤ったものであるから,取り消されるべきである。
(1)本願発明の技術事項
本願発明は,主成分がAg,Cu,Snからなる「Ag,Cu等を含有する高S
n含量の鉛を含まないはんだ」において,母材とはんだとの間に「金属間界面層」
が形成されることを前提とし,Agの重量%を比較的低く,かつ,狭い範囲(3.
5∼7.7重量%又は3.0∼4.0重量%)に,また,Cuの重量%を比較的低
く,かつ,狭い範囲(1.0∼4.0重量%又は0.5∼4.0重量%)に設定し
た上で,添加元素として,FeとCoのうち少なくとも1種を0.5重量%以下,
又はFeとCoの双方で1.0重量%以下で添加することにより,本願明細書の
「形態構造の改良は,優先的な成長ファセット又は金属間界面の表面を壊し,その
代わりファセットのない,平坦でない界面成長表面を作る作用をするメカニズムに
よって達成されるようである。」(7頁9∼11行目)との記載のように,金属間
界面層の成長を抑え,そして,「本発明のはんだを高温でエージングした金属間界
面は,界面層の厚さを最小限に抑えて,」(9頁22∼23行目)との記載のよう
に,金属間界面層を薄くし,これにより,「はんだとCu母材の間の界面が疲労き
裂成長の弱い通路」(2頁24行目)とならないようにし,結果的に,金属間界面
層の強度を高めることを目的としている。
そして,本願図面中の[図3A](エージングしていないミクロ組織)及び[図
3B](エージングしたミクロ組織)には,本願発明において,添加元素としての
「Fe」を添加した場合の「金属間界面層」が,「Lu」及び「La」として開示
されている。
(2)刊行物1∼3記載の発明の技術事項
刊行物1∼3は,「Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」
を開示するものの,本願発明の添加元素である「Fe,Co」を開示しておらず,
また,「Fe」,「Co」を添加することについて示唆もなく,「添加元素『F
e,Co』の添加によって金属間界面層を改良」するという本願発明の技術思想を
開示するものではないから,刊行物1∼3発明の「はんだ」と本願発明の「Ag,
Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」とは,本質的に相違するもの
である。
ア刊行物1
刊行物1は,添加元素として「Sb」のみを開示し,本願発明の添加元素である
「Fe,Co」を開示していない。また,「本発明では,Sn主成分に少量のAg
とCu,さらに必要により少量のSbを添加しただけで高温特性と耐熱疲労特性が
顕著に改善できるものであり,他の金属が添加されると,これらの特性を劣化させ
てしまうため,他の金属は不純物として混入されるもの以外は添加されないように
する。」(段落【0013】)との記載があるように,刊行物1発明における添加元素
の「Sb」は,「高温特性と耐熱疲労特性」のために添加されるものであり,[表
1](段落【0016】)に示されるように,「2重量%のSb」を添加することによ
って液相線温度(L.P)を235℃に上昇させる「高温はんだ」の提供に寄与す
るものであるから,本願発明の添加元素である「Fe,Co」が,「金属間界面層
を改良」するために添加されることと比較して,添加元素を添加する目的において
相違する。
このように,刊行物1発明と本願発明とでは,「添加元素の種類」及び「添加元
素を添加する目的」が相違するものである。
イ刊行物2
刊行物2には,「添加元素を添加する」ことを示唆する記載はない。
ウ刊行物3
刊行物3には,「濡れ性向上,疲労強度強化及び/又ははんだ結合粒度改良」の
ために,添加元素として,任意に,Si,Sb,Zn,Mg,Ca,希土類元素や
ミッシュメタル等を添加すること,添加元素としてNiを使用することは避けるべ
きことが記載されており,本願発明の添加元素である「Fe,Co」が,「金属間
界面層を改良」するために添加されることと比較して,添加元素を添加する目的に
おいて相違する。
このように,刊行物3発明と本願発明とでは,「添加元素の種類」及び「添加元
素を添加する目的」が相違するものである。
(3)刊行物4∼6記載の発明の技術事項
刊行物4∼6は,「Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」
を開示し,また,添加元素としての「Fe,Co」等を開示するものの,本願発明
とは,主成分が本質的に相違しており,しかも,添加元素を添加する目的は,「濡
れ性の向上やはんだの機械的強度の向上をはかる」ためであって,「添加元素『F
e,Co』の添加によって金属間界面層を改良」するという本願発明の技術思想を
開示するものではないから,刊行物4∼6に開示された「はんだ」と本願発明の
「Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」とは,本質的に相違
するものである。
ア刊行物4について
本願発明21は,「3.5ないし7.7重量%の範囲のAg」と「1.0ないし
4.0重量%の範囲のCu」とを含み,本願発明22は,「3.0ないし4.0重
量%の範囲のAg」と「0.5ないし4.0重量%の範囲のCu」とを含むもので
ある。
これに対し,刊行物4に開示されたはんだは,「5.0∼20重量%」の範囲の
Agと,「0.05∼10重量%」の範囲のCuとを含み,しかも,Pdを含有し
た「Ag系はんだ」であって,Agの含有量が本願発明より多く,かつ,含有量の
範囲が本願発明より広く設定され,また,Cuの含有量の最大値が本願発明のCu
の含有量の最大値よりも多く,かつ,含有量の範囲が本願発明より広く設定されて
いる。
したがって,刊行物4に開示された「Ag系はんだ」と,本願発明の「Ag,C
u等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」とは,Ag等の主成分が本質的
に相違するものである。
また,刊行物4に,「Pbを除いて共晶型合金のAg−Snを基本成分とするこ
とにより溶融点を下げ,Agの存在により耐蝕性および電気伝導性,熱伝導性の改
善をはかり,さらにCuの存在によってはんだそのものの機械的強度の向上をはか
り,また,Pd,Fe,Co,Niの存在によってNiやコバール系の母材への濡
れ性の向上を図るものである。」(段落【0005】),「Fe,Co,Niを重量比
で0.05∼1%とした理由は,0.05%未満では,濡れ性および機械的強度の
向上が期待できないためであり,1%を超えると,固溶し難いことに加えて偏析の
原因となって諸特性の低下を招くことになる。」(段落【0007】)と記載されてい
るとおり,刊行物4に開示されたはんだにおいて,「Fe,Co」等の添加元素
は,「濡れ性の向上」のために添加されるものであって,「金属間界面層を改良」
するために添加される本願発明の添加元素の「Fe,Co」とは,その目的におい
て相違するものである。
イ刊行物5について
上記のとおり,本願発明は,「3.5∼7.7重量%の範囲のAg」(本願発明
21)又は「3.0∼4.0重量%の範囲のAg」(本願発明22)と,「1.0
∼4.0重量%の範囲のCu」(本願発明21)又は「0.5∼4.0重量%の範
囲のCu」(本願発明22)とを含むものである。
これに対し,刊行物5に開示されたはんだは,「10∼30重量%」の範囲のA
gを含み,任意に「0.05∼5重量%」の範囲のCuを添加した「Ag系はん
だ」であって,Agの含有量が本願発明よりも多く,かつ,含有量の範囲が本願発
明より広く設定されており,また,本願発明ではCuの含有を必須の構成要件とし
ているのに対し,刊行物5に記載されたはんだは,Cuの添加を任意としている。
したがって,刊行物5に開示された「Ag系はんだ」と,本願発明の「Ag,C
u等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」とは,主成分が本質的に相違す
るものである。
また,刊行物5には,添加元素として「Fe」が開示されているが,「Fe,N
iの一種以上を重量比で0.05∼1%に限定した理由は,0.05%未満では機
械的強度の向上が期待できないためであり,1%を超える添加では固溶し難くな
り,むしろ諸特性の低下を招くことになる。」(2頁左上欄12∼16行目)との
記載があるように,その添加元素は「はんだの機械的強度の向上」のために添加さ
れるものであって,「金属間界面層を改良」するために添加される本願発明の添加
元素の「Fe,Co」とは,その目的において相違するものである。
ウ刊行物6について
上記のとおり,本願発明は,「3.5∼7.7重量%の範囲のAg」(本願発明
21)又は「3.0∼4.0重量%の範囲のAg」(本願発明22)と,「1.0
∼4.0重量%の範囲のCu」(本願発明21)又は「0.5∼4.0重量%の範
囲のCu」(本願発明22)とを含むものである。
これに対し,刊行物6に開示されたはんだは,「10∼30重量%」の範囲のA
gを含むが,Cuを含有しない「Ag系はんだ」であって,Agの含有量が本願発
明よりも多く,かつ,含有量の範囲が本願発明より広く設定されており,また,本
願発明ではCuの含有を必須の構成要件としているのに対し,刊行物6に記載され
たはんだは,Cuを含有しないものである。
したがって,刊行物6に開示された「Ag系はんだ」と,本願発明の「Ag,C
u等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」とは,主成分が本質的に相違す
るものである。
また,刊行物6に,「Fe,Ni,Coの一種以上の存在によってはんだそのも
のの機械的強度の向上をはかるものである。」(1頁右欄15∼17行目),「F
e,Ni,Coの一種以上を重量比で0.05∼1%に限定した理由は,0.05
%未満では機械的強度の向上が期待できないためであり,1%を超えると固溶し難
いことに加えて偏析の原因になってむしろ諸特性の低下を招くことになる。」(2
頁左上欄4∼8行目)と記載されているとおり,刊行物6に開示されたはんだにお
いて,「Fe,Co」等の添加元素は,「はんだそのものの機械的強度の向上」の
ために添加されるものであって,「金属間界面層を改良」するために添加される本
願発明の添加元素の「Fe,Co」とは,その目的において相違するものである。
エ刊行物4∼6記載の発明の目的,効果等
(ア)刊行物4∼6が,「添加元素『Fe,Co』の添加によって金属間界面層を
改良」するという本願発明の技術思想を開示するものでないことは,上記ア∼ウに
引用した刊行物4∼6の記載部分中に,いずれも「固溶」との文言が含まれてお
り,これらの刊行物は,強度の向上を,添加元素の添加による「固溶強化」によっ
て図ろうとしていることが示唆されていることによっても明らかである。
したがって,刊行物4∼6記載の発明は,本願発明と,「はんだ」としての構
成,目的,効果が相違するものである。
(イ)刊行物4∼6に記載された「Ag系はんだ」の溶融温度(溶融点)は,刊行
物4記載のものが「280℃」(段落【0009】「表1」),刊行物5記載のものが
「330℃」(3頁「表」),刊行物6記載のものは「330℃以上」(3頁
「表」)であり,かつ,刊行物4の「Niやコバール系の母材」(段落【0005】)
との記載,刊行物5の「セラミックスと金属との接合においては,セラミックス側
にMo−Mn等をメタライズしてはんだ(ろう材)との適合性をはかり,」(1頁
右欄3∼5行目)との記載,刊行物6の「セラミックスと金属との接合において
は,セラミックス側にMo−Mn等をメタライズしてはんだ(ろう材)との適合性
をはかり,」(1頁右欄2∼4行目)との記載にかんがみて,刊行物4∼6に記載
された「Ag系はんだ」は,「ろう付け」に使用されるものである。
これに対し,本願明細書に「はんだ合金の溶融の開始は,約217℃で起こり,
この温度は,Sn−4%Ag−1.7%Cu(重量%)の基本共晶合金の共晶溶融
温度である。」(8頁22∼24行目)と記載されているとおり,本願発明に係る
はんだの溶融温度は「約217℃」であって,刊行物4∼6に記載されたものより
低く,かつ,「ろう付け」に使用されるものではない。
したがって,この点でも,刊行物4∼6記載の発明は,本願発明と,「はんだ」
としての性質や目的が相違するものである。
(4)上記のとおり,刊行物1∼3発明は,「添加元素『Fe,Co』の添加によ
って金属間界面層を改良」するという本願発明の技術思想を開示しておらず,「F
e」,「Co」を添加することについて記載も示唆もない。
他方,刊行物4∼6記載の発明は,主成分が本願発明と本質的に異なるのみなら
ず,「Fe」,「Co」を添加する目的が,本願発明と異なっており,「添加元素
『Fe,Co』の添加によって金属間界面層を改良」するという本願発明の技術思
想を開示するものではない。
したがって,刊行物4∼6により,「Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を
含まないはんだにおいて,機械的強度の向上等のために,Fe,Coの1種以上を
0.05∼1重量%添加すること」が周知技術として認められるとしても,その
「Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」は,本願発明の「A
g,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」と本質的に異なるもので
あるのみならず,当該周知技術における,Fe,Coの添加は,本願発明の上記技
術思想に基づくものではないから,刊行物1∼3発明に上記周知技術を適用する動
機付けはなく,また,刊行物1∼3発明に上記周知技術を適用したとしても,本願
発明の目的を達成するための構成に想到することができず,本願発明と同様の作用
効果を奏することもできない。
したがって,審決の,審決判断1∼3における,本願発明21,22と刊行物1
∼3発明との相違点についての判断は誤りであり,本願発明は,当業者が容易に発
明をすることができたものということはできない。
2被告の反論の要点
(1)審決は,審決判断1∼3における,本願発明21,22と刊行物1∼3発明
との各相違点についての判断において,刊行物4∼6に基づき,Ag,Cu等を含
有する高Sn含量の鉛を含まないはんだにおいて,機械的強度の向上等のために,
Fe,Coのうち1種以上を0.05∼1重量%添加することは,本願の優先日前
において周知の技術であることを認定し,この周知技術に係るはんだは,刊行物1
∼3発明のはんだと,Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだで
ある点で共通すること,しかも,この周知技術を刊行物1∼3発明に適用できない
とする事情も存在しないことから,当該周知技術を刊行物1∼3発明に適用するこ
とにより,当業者は,本願発明の各相違点に係る構成に容易に想到し得たものであ
ると判断したものであり,この判断に誤りはない。
(2)原告は,刊行物4∼6が,「添加元素『Fe,Co』の添加によって金属間
界面層を改良」するという本願発明の技術思想を開示するものではなく,刊行物4
∼6記載のはんだにおいて,「Fe,Co」等の添加元素を添加する目的は,本願
発明の「金属間界面層の改良」という目的とは異なると主張する。
しかしながら,仮に,本願発明が「金属間界面層の改良」を目的として「Fe,
Co」を添加するものであるとしても,本願発明は,金属間界面層を改良すること
により,機械的強度を高めるものであるから,結果として,本願発明と,刊行物4
∼6に基づく周知技術との間で,作用効果上の差異はない。
(3)原告は,本願発明に係るはんだの溶融温度は約217℃であり,刊行物4∼
6に記載されたものの溶融温度より低く,かつ,本願発明は,刊行物4∼6に記載
されたものは「ろう付け」に使用されるものであるのに対し,本願発明は「ろう付
け」に使用されるものではないから,刊行物4∼6記載の発明は,本願発明と「は
んだ」としての性質や目的が相違すると主張する。
しかしながら,本願発明21,22の要旨は,上記第2の2のとおりであって,
はんだの溶融温度を規定するものではないから,本願発明の溶融温度が刊行物4∼
6に記載されたものの溶融温度より低いとの主張は,発明の要旨に基づかないもの
である。
また,一般に,金属材料同士を接合する場合に,母材より融点が低い金属を溶融
し,母材の間に流入させる方法である「ろう接」において,流入させる金属を「ろ
う材」と呼ぶが,ろう材のうち,融点が450℃以下のものを「はんだ」又は「軟
ろう」,450℃以上のものを「硬ろう」と呼んでおり,それぞれのろう材による
ろう接を,「はんだ付け」(又は「軟ろう付け」),「ろう付け」という(乙
1)。
したがって,「はんだ付け」と「ろう付け」とは,融点が母材より低いろう材を
接合部の間に流入させて接合を行うという原理において,全く異なるところはな
い。しかも,刊行物4∼6に開示されたはんだは,原告の主張によっても,いずれ
も溶融温度が450℃以下であるから,本願発明や刊行物1∼3発明と同様に,
「はんだ付け」に用いるものであり,原告の上記主張は,この点においても失当で
ある。
第4当裁判所の判断
1審決判断2について
便宜上,審決判断2のうち,本願発明21についての判断から検討する。
(1)刊行物2発明が,「はんだ組成が,Sn残部,Ag0.5∼3.5重量%,
Cu0.5∼2.0重量%からなる無鉛はんだ。」というものであること,本願発
明21と刊行物2発明が,「鉛を含まないはんだは,重量%で,3.5重量%のA
g,1.0ないし2.0重量%の範囲のCu,並びに,残部の重量%がSnからな
る鉛を含まないはんだ。」である点で一致し,「本願発明22では,鉛を含まない
はんだが『0.5重量%を超えない範囲でFeとCoとの少なくとも1種の添加元
素又は合計が1.0重量%を超えない範囲で前記FeとCoとの双方の添加元素』
を含有するのに対し,刊行物2発明では,鉛を含まないはんだがFe,Coを含有
することについて規定されていない点。」で相違することは,当事者間に争いがな
い。
(2)そして,刊行物2には,以下の記載がある。
「はんだ組成が,Sn残部,Ag0.5∼3.5重量%,Cu0.5∼2.0重量%からア
なる無鉛はんだ。」(特許請求の範囲の請求項1)
「【発明が解決しようとする課題】従来の無鉛はんだは,Snを主成分としてそのほかにイ
Zn,In,Sb,Bi等の元素を添加して,欠点として考えられる融点が高くなり,ぬれ性
が劣り,機械的強度が低くなることを改善してきた。しかしながら,個々の元素は,一長一短
があり,たとえば,Znは,大気中で酸化を受けやすくぬれ性も悪くなる。Sbは,若干の毒
性を有する元素であり,Inは,産出量が少なく供給に問題を有しコスト高となる。Biは,
主として鉛の副産物でありBiを取り出すには鉛が産出される必要があり,鉛の使用制限に伴
って安定供給性の面で問題がある。従って,すべての欠点を補足することができる組成を有す
るはんだは,未完成のままである。」(段落【0003】)
「【作用】本発明は,上記の構成により,次のような作用を有する。主成分SnにAgウ
を添加することにより,溶融温度を低下させると共に機械的強度を改善する効果があるが,添
加量が0.5重量%未満では,その効果は不十分で,一方3.5重量%を超えると添加しても
その効果は少なく,コスト高となる。主成分SnにAgを添加したものにCuを添加するこ
とにより,組織の微小化を計り,機械的強度は更に改善される。Cu添加量は,0.5重量%
未満では,その効果は少なく,2.0重量%を超えると,溶融温度が高くなり,部品やプリン
ト基板に熱的損傷を与える。本発明は,Sn,Ag,Cuの元素を上記組成範囲で混合させ
ることにより,溶融温度をSn−Pb共晶はんだの融点(183℃)にできるだけ近づけるこ
とができると共に,ぬれ性及び機械的強度の優れた無鉛はんだを提供することができる。」
(段落【0005】∼【0008】)
「【発明の効果】本発明の無鉛はんだは,溶融温度を低くでき,ぬれ性及び機械的強度もエ
良好である。さらに入手し易い元素を使用しているので,長期的に安定な供給が可能で,比較
的低コストで提供できるものである。」(段落【0016】)
以上の記載によると,刊行物2発明は,Snを主成分とした無鉛はんだにつき,
はんだの主成分であるSnに,Agを0.5∼3.5重量%添加することにより溶
融温度を低下させるとともに機械的強度を改善し,Cuを0.5∼2.0重量%添
加することにより組織の微小化を計り機械的強度を更に改善して,その結果とし
て,溶融温度が低く,ぬれ性及び機械的強度が良好なはんだとしたものであると認
められる。
(3)他方,刊行物4∼6には,以下の記載がある。
ア刊行物4
「【請求項1】Agを重量比で5∼20%,Snを重量比で70∼90%,Cuを重(ア)
量比で0.05∼10%,Pdを重量比で0.05∼2%さらにFe,Co,Niの少なくと
も一種を重量比で0.05∼1%からなることを特徴とするAg系はんだ。」(特許請求の範
囲)
「【課題を解決するための手段】そこで,本発明は,Agを重量比で5∼20%,S(イ)
nを重量比で70∼90%,Cuを重量比で0.05∼10%,Pdを重量比で0.05∼
2%さらにFe,Co,Niの少なくとも一種を重量比で0.05∼1%からなるものであ
り,Pbを除いて共晶型合金のAg−Snを基本成分とすることにより溶融点を下げ,Agの
存在により耐蝕性および電気伝導性,熱伝導性の改善をはかり,さらにCuの存在によっては
んだそのものの機械的強度の向上をはかり,また,Pd,Fe,Co,Niの存在によってN
iやコバール系の母材への濡れ性の向上をはかるものである。」(段落【0005】)
「本発明においてAgを重量比で5∼20%に限定した理由は,5%未満では,耐蝕性(ウ)
および電気伝導性,熱伝導性の向上が十分ではなく,20%を超えると液相点が上昇してはん
だとは言い難くなる。また,Cuを重量比で0.05∼10%に限定した理由は,0.05%
未満では,機械的強度の向上が期待できないためであり,10%を超えると液相点の上昇が問
題となってしまう。」(段落【0006】)
「Pdを重量比で0.05∼2%に限定した理由は,0.05%未満では,濡れ性の(エ)
向上が期待できず,2%を超えると液相点および価格の上昇が問題となる。また,Fe,Co,
Niを重量比で0.05∼1%とした理由は,0.05%未満では,濡れ性および機械的強
度の向上が期待できないためであり,1%を超えると,固溶し難いことに加えて偏析の原因と
なって諸特性の低下を招くことになる。」(段落【0007】)
「【発明の効果】以上詳細に説明した本発明によると,Ag,Snを基本成分とし,C(オ)
u,Pdを加え,さらにFe,Co,Niの少なくとも一種を加えたことにより,従来のSn-
Pb系のはんだに較べて引張り強度,剪断強度および硬さ等の機械的特性が大きく向上し,N
iおよびコバール上の広がり性(濡れ性)も顕著に向上した。」(段落【0011】)
イ刊行物5
「Agを重量比で10∼30%,Snを重量比で70∼90%,Cu,In,Gaの一(ア)
種以上を重量比で0.05∼5%さらにFe,Niの一種以上を重量比で0.05∼1%から
なることを特徴とする低融点Agはんだ。」(特許請求の範囲)
「〔課題を解決するための手段〕本発明は,Agを重量比で10∼30%,Snを重(イ)
量比で70∼90%,Cu,In,Gaの一種以上を重量比で0.05∼5%さらにFe,N
iの一種以上を重量比で0.05∼1%からなるようにしたものであり,共晶型合金のAg−
Snを基礎成分とすることにより,溶融点を下げ,Agの存在により耐食性及び電気・熱伝導
性の改善をはかり,Cu,In,Gaの一種以上の存在によってはんだそのものの機械的強度
の向上をはかるものである。なお,本発明においてAgを重量比で10∼30%に限定した
理由は,10%未満では耐食性および電気・熱伝導性が希望する値に達しないためであり,3
0%を超えると製造時の加工性が低下すると共に液相点が上昇してはんだとは言い難くなる。
また,Cu,In,Gaの一種以上を重量比で0.05∼5%に限定した理由は,0.05
%未満では機械的強度の向上が期待できないためであり,5%を超えると液相点が上昇するこ
とに加えて偏折の原因になる。Fe,Niの一種以上を重量比で0.05∼1%に限定した
理由は,0.05%未満では機械的強度の向上が期待できないためであり,1%を超える添加
(1頁右欄10行∼2頁では固溶し難くなり,むしろ諸特性の低下を招くことになる。」
左上欄16行)
ウ刊行物6
「Agを重量比で10∼30%,Snを重量比で70∼90%さらにFe,Ni,Co(ア)
の一種以上を重量比で0.05∼1%からなることを特徴とする低融点Agはんだ。」(特許
請求の範囲)
「〔課題を解決するための手段〕本発明は,Agを重量比で10∼30%,Snを重(イ)
量比で70∼90%さらにFe,Ni,Coの一種以上を重量比で0.05∼1%からなるよ
うにしたものであり,共晶型合金のAg−Snを基礎成分とすることにより,溶融点を下げ,
Agの存在により耐食性及び電気・熱伝導性の改善をはかり,Fe,Ni,Coの一種以上の
存在によってはんだそのものの機械的強度の向上をはかるものである。なお,本発明におい
てAgを重量比で10∼30%に限定した理由は,10%未満では耐食性および電気・熱伝導
性が希望する値に達しないためであり,30%を超えると製造時の加工性が低下すると共に液
相点が上昇してはんだとは言い難くなる。また,Fe,Ni,Coの一種以上を重量比で
0.05∼1%に限定した理由は,0.05%未満では機械的強度の向上が期待できないため
であり,1%を超えると固溶し難いことに加えて偏析の原因になってむしろ諸特性の低下を招
くことになる。」(1頁右欄8行∼2頁左上欄8行)
(4)上記(3)のとおり,刊行物4∼6には,いずれも鉛を含まないはんだにおい
て,溶融点を下げるために,共晶型合金のAg−Snを基礎成分とし,Agの存在
によって耐食性及び電気・熱伝導性の改善を図るべく,Agの配合量の下限を,耐
食性及び電気・熱伝導性の効果(刊行物5,6においては所望の効果)を確保し得
る5重量%(刊行物4)又は10重量%(刊行物5,6)と,その上限を,製造時
の加工性の低下や液相点の上昇を顧慮して20重量%(刊行物4)又は30重量%
(刊行物5,6)とし,機械的強度を改善するために,Cu等を0.05∼10重
量%(刊行物4)又は0.05∼5重量%(刊行物5)の範囲で添加した上(刊行
物6にはCuの添加に関する記載はない。),さらに,機械的強度の向上等を期し
て,Fe,Co等のうち1種以上を0.05∼1重量%の範囲で添加する技術が記
載されている。
そして,刊行物4∼6が,本件特許出願に係る優先権主張日(平成9年2月10
日)のおおむね2年半∼6年半前の公開に係る公開特許公報であることを考慮すれ
ば,本件特許出願に係る優先権主張日において,Ag−Snを基礎成分として溶融
点を下げた鉛を含まないはんだにおいて,機械的強度を改善するためにCu等を添
加し,さらに,Fe,Co等のうち1種以上を0.05∼1重量%の範囲で添加し
て機械的強度の向上等を図ることは,周知の技術事項であったと認めることができ
る(なお,Cuを添加することが周知技術であることは,刊行物4,5に基づき,
十分に認めることができる。)。
しかるところ,刊行物2発明も,SnにAgを添加することにより溶融温度を低
下させ,さらに,Cuを添加することにより機械的強度を改善した無鉛はんだであ
ることは上記(2)のとおりである。そして,機械的強度の向上は,はんだの技術分
野において,当業者が常に考慮すべき技術課題であることは明らかであるから,機
械的強度の向上を期して,刊行物2発明に,上記周知技術を適用し,Fe,Coの
うち少なくとも1種を,0.05∼1重量%の範囲で添加することは,当業者であ
れば通常試みる程度のことといわざるを得ない。したがって,刊行物2発明に,上
記周知技術を適用し,本願発明21の相違点に係る構成とすることは,当業者が容
易に想到し得るものというべきである。
(5)原告の主張について
ア原告は,刊行物2には,「添加元素を添加する」ことを示唆する記載はな
く,「添加元素『Fe,Co』の添加によって金属間界面層を改良」するという本
願発明の技術思想を開示するものではないから,刊行物2発明の「はんだ」と本願
発明の「Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだ」とは,本質的
に相違するものであると主張するが,審決は,刊行物2発明につき,Fe,Coを
含有することが規定されていないことを前提として,この点を,本願発明21と刊
行物2発明との相違点として認定しているのであるから,原告の上記主張は,審決
を正解するものではなく,失当であることが明らかである。
イ原告は,刊行物4∼6は,「Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含ま
ないはんだ」を開示し,また,添加元素としての「Fe,Co」等を開示するもの
の,本願発明とは,主成分(Agの含有量,Cuの含有の有無及び含有量)が本質
的に相違していると主張する。
しかしながら,審決は,相違点についての判断において,刊行物2発明に,刊行
物4∼6記載の発明の構成を直接適用したものではなく,刊行物4∼6の記載に基
づき,「Ag,Cu等を含有する高Sn含量の鉛を含まないはんだにおいて,機械
的強度の向上等のために,Fe,Coの1種以上を0.05∼1重量%添加するこ
と」を周知技術であると認定した上,刊行物2発明に,当該周知技術を適用して,
本願発明21の相違点に係る構成とすることが容易想到であると判断したものであ
る。そして,上記(4)のとおり,「Ag−Snを基礎成分として溶融点を下げた鉛
を含まないはんだにおいて,機械的強度を改善するためにCu等を添加し,さら
に,Fe,Co等のうち1種以上を0.05∼1重量%の範囲で添加して機械的強
度の向上等を図ること」が,本件特許出願に係る優先権主張日当時,周知の技術事
項であったと認めることができるのであるから,審決の上記認定判断に誤りはな
い。
原告の主張に係るAg及びCuの含有量という点については,本願発明21は,
刊行物2発明と一致しているのであり(一致点の認定に含まれており,原告は,こ
れを争っていない。),この上更に,この点とは別個の構成に係る相違点について
の判断に適用する周知技術の認定に供した周知例が,Ag及びCuの含有量におい
て,本願発明21と一致しなければならない理由はない。
もっとも,周知例に係るAg及びCuの含有量が,刊行物2発明のそれとかけ離
れており,当該周知例に係るAg及びCuの含有が,刊行物2発明とは全く別異の
技術思想に基づくものであるような場合には,当該周知例に基づく周知技術を,刊
行物2発明に適用する妨げとなることがあり得ないではないので,念のため,上記
(2),(3)の認定事実に基づき,この点につき検討を経ておくことにする。
まず,Agの含有量については,刊行物4∼6に記載されたものは,総じて刊行
物2発明より多いが,かけ離れているとまでいうことはできず,さらに,主成分で
あるSnにAgを添加することにより,はんだの溶融温度を低下させるという目的
において共通であり,ただ,刊行物4∼6に記載されたものは,Agの存在によっ
て耐食性及び電気・熱伝導性の改善を図るべく,Agの配合量を更に足しているに
すぎないと認められるのであるから,Agの配合量に関しては,刊行物4∼6に記
載されたものが,刊行物2発明のそれとかけ離れており,Ag及びCuの含有が,
刊行物2発明とは全く別異の技術思想に基づくものであるということはできない。
また,Cuの配合量については,刊行物4,5に記載されたものは,刊行物2発明
の配合量の範囲を全部含んでおり,Cuを添加する目的も,機械的強度の改善であ
る点で一致するから,Cuの配合に関しても,刊行物4,5に記載されたものが,
刊行物2発明のそれとかけ離れており,Ag及びCuの含有が,刊行物2発明とは
全く別異の技術思想に基づくものであるということはできない。
そうすると,原告の上記主張は,失当であって,これを採用することはできな
い。
ウ原告は,刊行物4∼6が,「Fe,Co」等を添加する目的は,「濡れ性の
向上やはんだの機械的強度の向上をはかる」ためであって,「添加元素『Fe,C
o』の添加によって金属間界面層を改良」するという本願発明の技術思想を開示す
るものではないから,刊行物4∼6に開示された「はんだ」と本願発明とは,本質
的に相違するものであると主張する。
しかしながら,刊行物4∼6に,Fe,Coの添加によって金属間界面層を改良
することが記載されていないとしても,刊行物4∼6に基づいて認定し得る上記周
知技術を,刊行物2発明に適用することが容易であることは,上記(4)のとおりで
あり,その適用の結果,本願発明21の相違点に係る構成となし得るのであるか
ら,この刊行物2発明に上記周知技術を適用したものにおいては,「金属間界面
層」に関する性質や挙動も本願発明21と同じものとなることは明らかである。周
知例である刊行物4∼6に記載されたFe,Coの添加の目的が,本願発明21と
異なっていたとしても,当該周知例に基づく周知技術を刊行物2発明に適用する妨
げとはならないし,また,適用の結果が本願発明21と同一の構成となる以上,本
願発明21と本質的に相違する発明であるとすることはできない。
エ原告は,刊行物4∼6に記載された「Ag系はんだ」の溶融温度(溶融点)
は,刊行物4記載のものが「280℃」,刊行物5記載のものが「330℃」,刊
行物6記載のものは「330℃以上」であり,かつ,これらは,「ろう付け」に使
用されるものであるところ,本願発明に係るはんだの溶融温度は「約217℃」で
あって,刊行物4∼6に記載されたものより低く,かつ,「ろう付け」に使用され
るものではないから,刊行物4∼6記載の発明は,本願発明と,「はんだ」として
の性質や目的が相違すると主張する。
しかしながら,上記第2の2のとおり,はんだの溶融温度は,本願発明21の要
旨が規定するところではないから,溶融温度の相違そのものに基づく主張は,発明
の要旨に基づかないものとして失当であるというほかない。
また,仮に,「ろう付け」に使用されるものでないことが,本願発明21のはん
だとしての構成に関わるものであり,かつ,刊行物4∼6に記載されたものが「ろ
う付け」に使用されるものであるとの原告の主張を前提としても(もっとも,実際
には,刊行物4∼6に記載されたものが,「はんだ付け」に使用されるものであっ
て,「ろう付け」に使用されるものでないことは,後記のとおりである。),本願
発明21は,「ろう付け」に使用されるものではないとの点で,刊行物2発明と一
致しているのであり(刊行物2発明が「ろう付け」に使用されるものであって,本
願発明21と「はんだ」としての性質や目的が相違するとの主張はない。),この
上更に,この点とは別個の構成に係る相違点についての判断に適用する周知技術の
認定に供した周知例が,「ろう付け」に使用されるものではないとの点で,本願発
明21と一致しなければならない理由はない。
そうすると,原告の上記主張は,仮に,刊行物4∼6に記載されたものが,溶融
温度や,「ろう付け」に使用されるものであるとの点で,刊行物2発明と異なって
いた場合,そのことが,刊行物4∼6に基づく周知技術を,刊行物2発明に適用す
る妨げとなるとの主張としてのみ意味を持つにすぎない。
そこで,この点につき検討するに,刊行物2の表1(段落【0010】)によれば,
刊行物2発明の溶融温度(液相線)は,224∼231℃であることが認められ,
刊行物4∼6に記載されたものより,総じて低いということはできる。しかしなが
ら,昭和63年11月20日日刊工業新聞社発行の「図解金属材料技術用語辞典」
初版1刷(乙1)には,「ろう接」の項に「ろうは母材となじみのよい純金属また
は合金で,融点が450℃以上のものを硬ろう,450℃以下のものをはんだ(ま
たは軟ろう)とよび,それぞれのろうによるろう接を,ろう付およびはんだ付(ま
たは軟ろう付)とよんでいる.」との記載があり,これによれば,刊行物2発明は
もとより,刊行物4∼6に記載されたものも,いずれも「はんだ付け」に用いられ
るものであって,「ろう付け」に使用されるものではないことが認められるから,
刊行物4∼6に記載されたものが「ろう付け」に使用されるものであるとする原告
の主張は失当であり,また,このことから,上記溶融温度の相違は,刊行物4∼6
に基づく周知技術を,刊行物2発明に適用する妨げとはならないと推認することが
できる。
したがって,原告の上記主張も失当である。
(6)そうすると,審決判断2における本願発明21と刊行物2発明との相違点に
ついての審決の判断に,原告主張の誤りはない。
2以上によれば,その余の取消事由につき判断するまでもなく,原告の請求は
理由がないから,これを棄却すべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
石原直樹
裁判官
古閑裕二
裁判官
杜下弘記

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