弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
(1)処分行政庁東京都知事が株式会社AB支社及び株式会社Cに対して平成
18年8月29日付けでした建築基準法59条の2第1項に定める許可処分
を取り消す。
(2)処分行政庁東京都知事は前項の許可処分に係る建築物について建築主に
対して建築工事の施工の停止を命ぜよ。
2予備的請求
(1)処分行政庁東京都知事が株式会社AB支社及び株式会社Cに対して平成
18年8月29日付けでした許可処分のうち,別紙図面1のアイウエアの各
点を順次直線で結んだ線で囲まれた範囲内の部分及び同図面のサシスセサの
各点を順次直線で結んだ線で囲まれた範囲内の部分に係る部分を取り消す。
(2)処分行政庁東京都知事は前項の許可処分に係る建築物の別紙図面1のア
イウエアの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた範囲内の部分及び同図面の
サシスセサの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた範囲内の部分について建
築主に対して建築工事の施工の停止を命ぜよ。
第2事案の概要
1本件は,東京都知事(以下「都知事」という)が株式会社AB支社及び株。
式会社C(以下,両者を併せて「本件建築主ら」という)に対して本件建築。
(「」。)主らが建築を予定する別紙物件目録記載の建築物以下本件建築物という
について建築基準法59条の2第1項に定める総合設計許可処分(以下「本件
」。),(「」許可処分というをしたところ本件建築物に係る敷地以下本件敷地
という)の隣地に建築されている建築物(以下「原告ら建築物」という)の。。
一室に居住し,又はこれを所有する原告らが,本件建築物は原告らの日照,眺
望,静謐かつ清浄な居住環境,プライバシー等を侵害するものであるから,本
ひつ
件許可処分は違法である旨主張して,被告に対し,主位的に,本件許可処分の
取消し及び都知事が本件建築物について本件建築主らに対して建築工事の施工
停止命令をすることの義務付けを求め,予備的に,本件許可処分のうち別紙図
面1のアイウエアの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた範囲内の部分(以下
「本件西端住戸部分」という)及び同図面のサシスセサの各点を順次直線で。
結んだ線で囲まれた範囲内の部分(以下「本件駐車場部分」といい,本件西端
住戸部分と併せて「本件各特定部分」という)に係る部分の取消し並びに都。
知事が本件建築物の本件各特定部分について本件建築主らに対して建築工事の
施工停止命令をすることの義務付けを求める事案である。
2前提事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨により
容易に認めることができる事実等はその旨付記しており,それ以外の事実は当
事者間に争いがない。
(1)当事者等について
ア原告D,原告E及び原告Fは,本件敷地の隣地に建築されている原告ら
建築物(α,地上○階建て)の○階,○階及び○階の東端に位置する住戸
にそれぞれ居住する者である。
原告Gは,原告ら建築物の○階の東端に位置する住戸を将来居住する予
定で所有している者である。
本件建築物と原告ら建築物及び原告らの住戸の位置関係は,おおむね別
紙図面2のとおりである(甲2の4枚目,6,乙14,弁論の全趣旨)。
イ都知事は,本件建築物について,建築基準法59条の2第1項に定める
総合設計許可及び同法9条1項に定める建築工事の施工停止命令をする権
限を有する特定行政庁である。
ウ本件建築物及び原告ら建築物の南側には,東西に流れるβ川が位置して
いる。
(2)本件訴訟の経緯等について
ア本件建築主らは,都知事に対し,平成18年4月28日,本件建築物に
ついて,建築基準法59条の2第1項に定める総合設計許可を求める旨の
申請をした(乙3)。
,,イ東京都においては総合設計許可制度の積極的な運用を図ることとして
国土交通省による通達等国の総合設計に係る許可準則の趣旨等を踏まえつ
つ,東京都の特性を加味して,東京都における具体的な総合設計許可の基
準及び規制緩和の程度を明確化した東京都総合設計許可要綱(平成19年
3月31日18都市建企第557号による改正前の昭和63年7月13日
63都市建調第100号。以下「改正前許可要綱」という。乙9)及び東
京都総合設計許可要綱実施細目(昭和63年7月13日63都市建調第1
06号。乙1)を定めていた。同実施細目では,第7,2(1)において,
総合設計許可をしようとする場合において,第一種低層住居専用地域及び
第二種低層住居専用地域並びに商業地域以外の用途地域における計画建築
物の高さが45m以上の場合には,総合設計許可に利害関係を有する者の
出席を求めて公聴会を行うものとされているところ,本件敷地の用途地域
,.,は準工業地域であり本件建築物の高さは7850mであったことから
都知事は平成18年6月23日同規定に基づく公聴会を開催した乙,,。(
4,8の4枚目,11)
ウ都知事は,東京都建築審査会に対し,平成18年7月6日,本件建築物
に係る総合設計許可をすることについて,建築基準法59条の2第2項,
44条2項に規定する同意を求め,同審査会は,同月24日,これに同意
した(乙5から7まで)。
エ都知事は,本件建築主らに対し,平成18年8月29日,下記の条件を
付して,本件建築物の容積率制限を269.26%から388.65%へ
と緩和する旨の本件許可処分をした。改正前許可要綱においては,総合設
計をその種類に応じて6種類に分類し,各々の特性に応じた具体的許可基
準等を定めていたところ,本件許可処分は,そのうちの市街地住宅総合設
計(市街地住宅の供給の促進に資することを目的として,住宅の用途に供
(。)する部分の床面積の合計容積率の不算入措置の対象となる部分を除く
が敷地面積に割増容積率を乗じて得た数値以上となる建築計画に適用する
総合設計)に該当する。なお,本件許可処分においては,容積率以外の制
。(,,,限についての緩和はされていない甲1乙38の5枚目及び6枚目
9,弁論の全趣旨)

1東京都総合設計許可要綱実施細目に従って,公開空地の維持管理,標
示及び報告を行うこと。
2市街地住宅総合設計制度の特例に従って,共同住宅の維持管理,標示
及び報告を行うこと。
3風向・風速計を適宜配置し,建設前後の風向,風速の変化の実態を把
握し,障害が生じた場合は速やかに有効な措置を行うこと。
,,。4駐車場は居住者及び来客者用としその他の目的で利用しないこと
オ原告らは,東京都建築審査会に対し,平成18年10月26日,本件許
可処分の取消しを求める旨の審査請求をした(甲8,乙18)。
カ原告らは,平成19年6月1日,本件許可処分の取消し及び本件建築物
の建築工事の施工停止命令の義務付け等を求める旨の本件訴えを提起し
た(当裁判所に顕著な事実)。
キ東京都建築審査会は,平成19年9月3日,原告らの前記オの審査請求
を棄却する旨の裁決をした(乙18)。
3争点
(1)原告適格の有無(本案前の争点)
原告らは,本件許可処分の取消し及び本件建築物の建築工事の施工停止命
令の義務付けを求めるにつき「法律上の利益を有する者(行政事件訴訟法」
(以下「行訴法」という)9条1項,37条の2第3項)に当たるか。。
(2)本件許可処分の違法性の有無(本案の争点)
本件許可処分は,原告らの日照,眺望,静謐かつ清浄な居住環境,プライ
バシー等を侵害するものであり,違法であるということができるか。
4当事者の主張の要旨
(1)争点(1)(原告適格の有無)について
(原告の主張)
ア(ア)総合設計許可を定めた建築基準法59条の2第1項は,当該建築物
により日照や眺望を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を
個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含んでいる。
原告らの住戸は,本件建築物の西側隣地の境界付近に位置しており,
本件建築物が建築されることによって,現在享受している日照,眺望,
静謐かつ清浄な居住環境,プライバシー等の権利利益を侵害される。な
お,原告Gは,原告ら建築物に現在は居住していないが,将来居住する
予定で原告ら建築物の一室を所有している。
したがって,原告らは,本件許可処分の取消しを求めるにつき原告適
格を有する。
(イ)また,本件建築物の工事の施工の停止が命じられないことにより,
原告らの日照,眺望,静謐かつ清浄な居住環境,プライバシー等が害さ
れることから,原告らは,本件建築物の建築工事の施工停止命令の義務
付けを求めるについても原告適格を有する。
イ被告が主張するように,北側斜線制限(建築基準法56条1項3号)又
は日影規制(同法56条の2)の有無により原告適格の有無を区別しよう
とするのは,上記両規定により保護される区域外の住民については,建築
基準法上,日照保護の必要がないというものであり,独自の見解である。
(被告の主張)
ア建築基準法59条の2第1項の規定の趣旨及び目的は,建築物の敷地上
に平面的にも立体的にも必要とされる空間を確保することにより,相互に
隣接し,あるいは周辺の一定範囲に位置するという関係にあるがゆえに一
種の運命共同体的な関係にある他の建築物を保護し,もってその居住者及
び所有者の具体的な利益の保護を図るものであるから,同項が保護する周
辺の他の建築物の居住者及び所有者の具体的利益は,上記のような量的な
空間規制による周辺の建築物の保護という方法によって保護されるのにな
じむものに限られる。
眺望,静謐かつ清浄な居住環境及びプライバシーは,いずれも量的な空
間規制による周辺の建築物の保護という方法によって保護されるのになじ
むものとはいえず,建築基準法59条の2第1項がこれらの利益を個別的
かつ具体的利益として保護していると解することは困難である。
したがって,原告らが主張する被侵害利益のうち,日照以外のものは原
告適格を基礎付ける被侵害利益とはなり得ない。
イ本件敷地は,建築基準法及び東京都日影による中高層建築物の高さの制
限に関する条例(昭和53年東京都条例第63号。以下「本件条例」とい
う。乙10)において,日影規制の対象区域とされていない。また,原告
ら建築物に係る敷地は,同法及び本件条例において,日影規制の対象区域
とされておらず,また,北側斜線制限による保護も及んでいない。
したがって,原告らは,日照被害に関しても,本件許可処分の取消しを
求める法律上の利益を有しているとはいえない。
(2)争点(2)(本件許可処分の違法性の有無)について
(原告の主張)
ア主位的請求について
(ア)建築基準法59条の2第1項による総合設計許可には裁量の余地は
少なく,許可に当たっては,周辺住民の意見を尊重し,個々人の個別的
利益及び周辺環境の向上に特段の配慮をしなければならないというべき
である。
本件建築物は,隣接する原告ら建築物の敷地境界に接近して建築され
るため,原告らの住戸は日照やβ川の眺望が害される上,同じく敷地境
()界に近接して建築される本件建築物のうち駐車場部分本件駐車場部分
からの騒音,排気ガス及び視線に昼夜を問わずさらされる。
a原告らの住戸には日の出から正午まで日照があるが,本件建築物が
,。建築されると日の出からおおむね午前11時までの日照が遮られる
午前中の日照が遮られることは,生活環境の激変であり,耐え難い苦
痛となる。
b原告らの住戸からは,何ら制限されることなく,住戸南側から南東
方向に広がるβ川を臨むことができた。しかし,本件建築物が建築さ
れると,東側は全面の,南側は約7割の視界が遮られることとなり,
圧迫感を感じるなど居住環境が激変する。また,原告らの住戸は,販
売当時,眺望の良さを売りにしていたが,東側及び南側の眺望を失う
ことにより資産価値が大幅に低減する。
c本件敷地には,大型の本件駐車場部分が併せて建築されるところ,
原告らは,本件駐車場部分からの騒音,排気ガス及び視線に昼夜を問
わずさらされることにより,静謐かつ清浄な居住環境及びプライバシ
ーが害される。また,本件駐車場部分にはスプリンクラーが設置され
ていないため,内部で火災が発生した場合,迅速に消火することがで
きず,本件駐車場部分内の多数の車両に引火して爆発することで,原
告らに大きな影響が及ぶ。このように,周辺環境,安全及び防火への
配慮を欠いた本件駐車場部分の建築計画を含む本件許可処分は,総合
設計許可制度の趣旨に反する。
d総合設計許可制度は,当該建築物により日照を阻害される周辺の他
の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益としても保護すべ
きものとする趣旨を含むのであるから,許可をするには,改正前許可
要綱に定める基準を満たしているだけでは足りず,具体的な計画に即
して個々の周辺住民の不利益を検討することが必要である。
本件建築物は,近隣住民への配慮を欠いたものであり「市街地の環,
境の整備改善に資する(建築基準法59条の2第1項)ものとは到底」
いえない。したがって,本件許可処分は,裁量権を逸脱し,又は濫用し
てされたものであって,同項に反し違法である。
(イ)上記のとおり,本件許可処分は違法であるから,本件許可処分に基
づく本件建築物の容積率の緩和は無効である。
したがって,本件建築物は,建築基準法上の容積率の制限を超えた違
法建築物であるから,同法9条1項に基づき,都知事は,速やかに本件
建築物の工事の施工の停止を命じなければならない。
イ予備的請求について
(ア)総合設計許可により周辺住民の住環境が悪化する場合,総合設計許
可全体の取消しだけでなく,住環境悪化の原因となる一部分についての
みを取り消すこともできるというべきである。
原告らの日照,眺望等に対する侵害及び排気ガスによる汚染を防止す
るためには,本件建築物のうち居住棟部分の1階から7階までにおける
()。西端の各部屋に係る部分本件西端住戸部分を削ることが必要である
また,原告らの静謐かつ清浄な居住環境及びプライバシー,安全並び
に防火を確保するためには,本件駐車場部分の西側外壁面を防火性能を
有した遮音壁にすることなどが必要である。
したがって,本件許可処分のうち,本件各特定部分に係る部分は取り
消されるべきである。
(イ)本件許可処分のうち本件各特定部分に係る部分が取り消された場
合,本件各特定部分について建築することは違法である。
したがって,建築基準法9条1項に基づき,都知事は,速やかに本件
建築物のうち本件各特定部分についての工事の施工の停止を命じなけれ
ばならない。
(被告の主張)
ア(ア)建築基準法59条の2第1項に定める総合設計許可の要件及び規制
緩和の程度については,法令上具体的基準を定めた規定はなく,特定行
政庁の専門的判断にゆだねられている。
,,東京都においては総合設計許可制度の積極的な運用を図ることとし
改正前許可要綱を定め,東京都における総合設計許可の基準及び規制緩
和の程度を明確化しているところ,本件建築物の建築計画は,建築基準
法施行令及び改正前許可要綱に定める基準をいずれも満たしている。
(イ)また,改正前許可要綱は総合設計許可の要件となる基準を広く一般
に示したものであり,当該基準は許可に当たっての必要条件としての性
格を持つものであるから,建築計画が許可の条件を十分に満たすか否か
については,改正前許可要綱の基準を満たすことに加え,当該建築物の
建築計画が市街地の環境の整備改善に資するか否かを総合設計許可制度
の趣旨及び基本目標に照らして判断する必要がある。この点,本件建築
物の建築計画は,①歩道状空地,貫通通路及び広場状空地の存在により
周辺の市街地環境の向上に寄与すること,②スーパー堤防事業に協力す
ることにより周辺市街地の防災強化に資するものであること,③共同住
宅を建設することにより市街地環境の整備改善等に資するものであるこ
となどから,周辺市街地の環境改善等に配慮したものであり,市街地の
環境の整備改善に資するということができる。
イ(ア)本件建築物の建築後に原告らの住戸に生じる約6時間の日影のうち
半分の約3時間は,原告ら建築物自身によって生じる自己日影である。
自己日影を加えて日照被害が重大であるとする主張は身勝手すぎる。
そもそも,原告ら建築物に係る敷地には日影規制が及ばないのである
から,建築基準法上,違法の問題は生じない。
(イ)周辺の特定の場所へ与える日影は,建築物の規模だけでなく設計の
バリエーションによっても大きく異なるため,容積率の緩和が直ちに原
告らの住戸への日照の侵害に直結するわけではない。さらに,本件許可
処分においては,高さ制限の緩和がされていないことから一般の建築規
制と同じ制限をクリアしているのであり,この点からも,本件許可処分
が直接的に原告らの住戸への日照の阻害を増大させたとまではいえな
い。
(ウ)原告ら建築物に係る敷地には日影規制は及ばないが,本件敷地の北
側の道路に面する一定区域に存する日影規制を考慮し,同区域と同様の
日影規制が原告ら建築物に係る敷地にも及ぶものと仮定して,本件建築
物は設計されている。
本件建築物の西側部分について,原告ら建築物と同じ7階建てにする
とともに,敷地境界線から約6mの距離を確保している。また,本件西
端住戸部分を北側に約2m後退させている。
このように,本件建築物は,原告らの日照確保に配慮している。
ウ原告らが主張するところの眺望権なるものは,無限定に認められるもの
ではない。
原告らが享受していた眺望は,本件敷地が有効に利用されていなかった
ことによる反射的利益にすぎない。本件敷地周辺は,準工業地域に指定さ
れ,日影規制がなく,一区画の面積が大きい敷地が多いため,複数の高層
マンションが建築されている。そのような状況から,原告らは,本件敷地
にも高層マンションが建築され,自己の享受する眺望利益の内容に変動が
生じ得ることは容易に予測できたはずである。
また,原告らの住戸からの眺望は,原告ら建築物自身によって遮られて
いる部分も少なくない上,本件建築物の建築によっても,β川の眺望は得
られることから,一般的に是認し得る程度を超えて甚大な眺望被害が生じ
るとまではいえない。
さらに,本件建築物は,日照について述べたのと同様に,原告らの眺望
にも配慮している。
エ原告らの主張する本件駐車場部分の設置による静謐かつ清浄な居住環境
及びプライバシーに対する被害は,抽象的で具体性がなく,本件許可処分
の取消しを求める原告適格を基礎付けるものとはなり得ない。そもそも,
本件許可処分による容積率緩和と原告らの主張する本件駐車場部分により
発生する被害とは何ら直接的な関係がない。また,本件駐車場部分は建築
基準法,消防法等に適合しており,消防施設の点においても何ら違法でな
い。
また,本件建築主らは,近隣住民との協議により,当初計画を一部変更
して,プライバシー対策及び光害対策として,本件駐車場部分にルーバー
状の壁を設置したり,騒音の低減を図る床仕様を採り入れるなどの十分な
配慮をしている。
オ以上によると,本件許可処分は適法である。
第3争点に対する判断
1争点(1)(原告適格の有無)について
(1)行訴法9条は取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう
当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処
分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的
,,に侵害されるおそれのある者をいうのであり当該処分を定めた行政法規が
不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめ
ず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとす
る趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護
された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され,又は必然的に侵害さ
れるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するもの
というべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保
護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の
規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分に
おいて考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきであり,この場合に
おいて,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的
を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益
の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に
違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが
害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照(以上に)
つき,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決
・民集59巻10号2645頁参照。)
また,行訴法37条の2第3項及び4項は,いわゆる非申請型の義務付け
の訴えの原告適格の有無の判断について行訴法9条2項の規定を準用してい
るのであるから,非申請型の義務付けの訴えの原告適格の有無の判断につい
ても,取消訴訟の原告適格におけるのと同様の見地から検討すべきである。
(2)そこで,上記の見地から,原告らが本件許可処分の取消し及び本件建築
物の建築工事の施工停止命令の義務付けを求めるにつき「法律上の利益を有
する者」に当たるか否かについて検討する。
ア建築基準法は,建築物の敷地,構造等に関する最低の基準を定めて,国
民の生命健康及び財産の保護を図ることなどを目的とするものである1,(
条)ところ,同法59条の2第1項は,同法52条又は57条の2の容積
率制限,同法55条又は56条の高さ制限の特例として,一定規模以上の
広さの敷地を有し,かつ,敷地内に一定規模以上の空地を有する場合に限
り,安全,防火,衛生等の観点から支障がないと認められることなどの要
件の下に,これらの制限を緩和することを認めている。建築密度,建築物
の規模等を規制することにより,建築物の敷地上に適度な空間を確保し,
もって,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採
光等を良好に保つとともに,当該建築物に火災その他の災害が発生した場
合に,隣接する建築物等に延焼するなどの危険を抑制するという容積率制
限や高さ制限の規定の趣旨,目的等をも考慮すれば,同法59条の2第1
項の規定は,これらの制限の緩和を認めて大規模な建築物を建築すること
を可能にする一方で,必要な空間を確保することにより,当該建築物及び
その周辺の建築物における日照,通風,採光等を良好に保つなど快適な居
住環境を確保することができるようにするとともに,当該建築物が地震,
火災等により倒壊,炎上するなど万一の事態が生じた場合に,その周辺の
建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことのないよう適切な設計がされ
ていることなどを審査し,安全,防火,衛生等の観点から支障がないと認
められる場合にのみ許可をすることとしているものと解される(最高裁平
成9年(行ツ)第7号同14年1月22日第三小法廷判決・民集56巻1
号46頁,最高裁平成9年(行ツ)第159号同14年3月28日第一小
法廷判決・民集56巻3号613頁参照。)
以上のような建築基準法59条の2第1項の趣旨及び目的,同項が総合
設計許可を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等に加え,同
法の目的(1条参照)をも勘案すると,同法59条の2第1項は,上記許
可に係る建築物の建築が市街地の環境の整備改善に資するようにするとと
もに,当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者
の健康を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むも
のと解すべきである。そうすると,総合設計許可に係る建築物により日照
を阻害される周辺の他の建築物の居住者は,総合設計許可の取消しを求め
るにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格
を有すると解するのが相当である。
イもっとも,上記のとおり,建築基準法59条の2第1項は,建築される
建築物の規模及び形態を抑制し,建築される建築物の敷地上に必要な空間
を確保することにより,周辺の他の建築物を保護し,これを通じて当該建
築物の居住者及び所有者の具体的利益の保護を図るものであるから,同項
が保護する周辺の他の建築物の居住者及び所有者の具体的利益は,上記の
ような量的な空間規制による周辺の建築物の保護という方法によって保護
されるのになじむものに限られるというべきである。
そして,建築物の周辺住民のプライバシーは,建築される建築物に設置
される窓及びベランダの数,位置,大きさ及び形状,屋上を含む当該建築
物の利用形態等によってその侵害の有無及び程度が直接に左右されるもの
であるから,必ずしも上記のような量的な空間規制によって保護されるの
になじむものということはできない。また,建築基準法59条の2第1項
が個々人の個別的利益として眺望を保護していると解するのは困難であ
る。そうすると,眺望及びプライバシーについては,総合設計許可の取消
訴訟における原告適格を基礎付ける利益ということはできないと解するの
が相当である。
ウ証拠(甲7,10,20,乙13)及び弁論の全趣旨によると,本件建
築物は,冬至において,原告Dの住戸に対し,南側につき日の出から午前
11時ころまで,東側につき日の出から午前11時30分ころまで,原告
Eの住戸に対し,南側につき日の出から午前10時30分ころまで,東側
につき日の出から午前11時ころまで,原告Gの住戸に対し,南側につき
日の出から午前10時ころまで,東側につき日の出から午前10時30分
ころまで,原告Fの住戸に対し,南側につき日の出から午前9時30分こ
ろまで,東側につき日の出から午前10時ころまで,それぞれ日影を生じ
させることが認められる。
そうすると,原告らは,いずれも本件建築物により日照を阻害される周
辺の他の建築物に居住し,又は居住しようとしている者ということができ
るから,本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者と
して,原告適格を有するというべきである。
エまた,原告らは,都知事が本件建築物について本件建築主らに対して建
築工事の施工停止命令をしないことにより日照を阻害されるとして,上記
施工停止命令の義務付けを求めているところ,前記ウのとおり,原告らは
いずれも本件建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住し,
又は居住しようとしている者であるから,当該義務付けを求めるにつき法
律上の利益を有する者として,原告適格を有するというべきである。
オ被告は,建築基準法等において,本件敷地及び原告ら建築物に係る敷地
はいずれも日影規制の対象区域とされておらず,また,原告ら建築物に係
る敷地には北側斜線制限による保護も及んでいないことから,原告らは日
照被害に関しても,本件許可処分の取消し等を求める法律上の利益を有し
ているとはいえない旨主張する。
しかしながら,既に述べたとおり,建築基準法59条の2第1項は,総
合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住
する者の健康を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を
,,含むものと解すべきであるから本件許可処分の適法性の問題は別として
被告が主張する事由をもって,原告らが本件許可処分の取消し等を求める
法律上の利益を有していることを否定することができないことは明らかで
あり,被告の上記主張を採用することはできない。
2争点(2)(本件許可処分の違法性の有無)について
(1)ア建築基準法59条の2第1項は,①その敷地内に政令で定める空地を
有し,かつ,その敷地面積が政令で定める規模以上である建築物であるこ
,,,,と並びに②特定行政庁が交通上安全上防火上及び衛生上支障がなく
かつ,その建ぺい率,容積率及び各部分の高さについて総合的な配慮がな
されていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めたことを容
積率制限の緩和等の要件として規定しており,上記②の要件の有無の判断
については,その文言が抽象的であること及び法令上,具体的基準等を定
めた規定が見当たらないことから,特定行政庁の合理的な裁量にゆだねら
れていると解される。
そして,弁論の全趣旨によると,東京都においては,特定行政庁が上記
の判断をする際によるべき具体的な技術基準として,改正前許可要綱を定
めていたこと,改正前許可要綱に定める技術基準について特段不合理とい
うべき点があることはうかがわれないこと,本件建築物は建築基準法,同
法施行令及び改正前許可要綱に定める技術基準をいずれも満たしているこ
とが認められる。
,,,「,イもっとも改正前許可要綱第13運用方針においてはこの基準は
技術基準として,許可の申請に当たっての必要条件としての性格を持つも
のであり,許可の条件を十分に充たすものであるか否かは,具体的な計画
に即し,総合設計制度の趣旨等を勘案して判断する必要がある。したがっ
て,本制度の運用に当たっては,常に趣旨及び基本目標に照らして総合的
見地から行うものとする」と定められていたこと(乙9)から,総合設。
計許可の要件を満たしているというためには,当該建築物が改正前許可要
綱に定める技術基準を満たすことに加え,当該建築物の建築計画が市街地
の環境の整備改善に資するか否かを個別具体的に判断する必要があるとい
うべきである。
,,,(2)そこで本件建築物の建築計画が総合設計許可制度の趣旨等に照らし
市街地の環境の整備改善に資するということができるか否かについて検討す
る。
ア(ア)証拠(乙8の7枚目及び8枚目)及び弁論の全趣旨によると,本件
敷地内には,既存の道路に面して,北側には幅約4mの歩道状空地が,
東側には幅約6mの歩道状空地がそれぞれ配置されていること,本件敷
地内の中央付近及び西側には南北方向の貫通通路が,南側には東西方向
の貫通通路がそれぞれ配置されていること,本件敷地内の北側中央部分
には広さ約1198.00㎡の広場状空地が,北東側部分には広さ約9
16.00㎡の広場状空地が,それぞれ歩道状空地又は貫通通路と一体
となった形で配置されていることが認められる。
上記各歩道状空地は,歩行者の安全かつ円滑な通行に寄与するもので
あり,また,上記各貫通通路によって,河畔へのアクセスのしやすさ及
び回遊性が確保されており,本件建築物の建築計画は親水性の面におい
ても優れた計画となっている。これらに上記各広場状空地を加えた広範
囲にわたる公開空地が存在することは,周辺の市街地環境の向上に寄与
するものということができる。
(イ)証拠(乙8の1枚目及び3枚目)及び弁論の全趣旨によると,東京
都はコンクリート製の直立堤防ではなく盛土により構成された傾斜が緩
やかで幅の広い堤防を背後地の開発と一体的に整備するスーパー堤防整
備事業を実施しているところ,本件建築物の建築計画は,上記スーパー
堤防整備事業に協力するものであることが認められる。
このように,本件建築物の建築計画は,スーパー堤防の整備を伴うこ
とにより,本件建築物の南側を東西に流れるβ川の洪水及び氾濫,大地
震等における水害を防止する上で有効な計画となっており,周辺市街地
の防災強化に資するものであるということができる。
(ウ)証拠(甲12,乙8の1枚目)及び弁論の全趣旨によると,本件敷
地一帯は,東京都において,工場跡地等の無秩序な土地利用を防止し,
都市型住宅への適正な土地利用への誘導を図るべき地区とされており,
また,足立区において,複合開発誘導地域として住宅等を配した複合的
な土地利用を誘導する地域とされ,かつ,住宅市街地総合整備事業が導
入され,良質な住宅の建築を推進することを整備の基本方針としている
地域であることが認められる。
本件建築物の建築計画は,市街地住宅総合設計を適用して共同住宅を
建築するもので,上記の上位計画に沿ったものであり,市街地環境の整
備改善,良好な住宅ストックの形成,都心居住の推進等に資するもので
あるということができる。
イ原告らは,本件建築物が原告らの日照,眺望,静謐かつ清浄な居住環境
及びプライバシーを侵害するものであるとして,市街地の環境の整備改善
に資するものとはいえない旨主張する。
(ア)日照について
本件建築物が冬至において原告らの住戸に対して日影を生じさせる時
間は前記1(2)ウのとおりであり,また,冬至において原告らの住戸に
は南側につき午後1時ころから日没まで,東側につき午後0時ころから
日没まで原告ら建築物自身による日影が生じること(当事者間に争いが
ない)からすると,本件建築物が建築された後においては,冬至の午前
8時から午後4時までの間の原告らの住戸の南側における日影時間は,
原告Dの住戸につき約6時間,原告Eの住戸につき約5時間30分,原
告Gの住戸につき約5時間,原告Fの住戸につき約4時間30分となる
ということができる。
しかしながら,原告ら建築物に係る敷地は,建築基準法上,日影規制
又は北側斜線制限による保護が及ばない区域である(乙10から12ま
で,弁論の全趣旨)上,原告らの住戸に生じる日影のうち,半分あるい
はそれ以上を占める約3時間分については,原告ら建築物自身による自
己日影であることからすると,本件建築物によって原告らの住戸に生じ
る日影自体が,原告らに対して直ちに重大な損害を与えるものというこ
とはできない。
また,本件敷地の北側の区域のうち,道路境界線からの距離が30m
以上の区域は,用途地域が準工業地域,容積率が200%,高度地区の
指定が第3種である(乙8の4枚目)ため,当該区域についての日影規
制は,冬至において,敷地境界線から5mを超え10m以内の範囲につ
いては4時間以上の日影を,10mを超える範囲については2.5時間
以上の日影をそれぞれ生じさせないこととされている(建築基準法別表
第4の3項,本件条例別表第1の5項)ところ,原告ら建築物に係る敷
地と接する本件敷地の西側については,冬至において,本件建築物によ
る4時間以上の日影を発生させる範囲が敷地境界線から5mの範囲にお
おむね収まるようにされており(乙15,上記日影規制の内容が一定)
程度考慮されたものとなっているということができる。
さらに,本件建築物の居住棟部分の西端から5戸までの部分について
は,原告らの住戸が位置する原告ら建築物の東端部分と同じ7階建てと
,()されている上本件建築物の居住棟部分の西端住戸本件西端住戸部分
は,他の住戸と比べて北側に2m後退している(乙14。加えて,原)
告ら建築物と本件建築物の間の敷地境界線からの距離は,原告ら建築物
が約3mであるのに対し,本件建築物は約6mとされている(乙14)
など,本件建築物については,原告らの住戸に対する日照阻害の程度が
著しくならないよう,種々の配慮がされているということができる。
そうすると,そもそも,本件許可処分は容積率制限のみを緩和するも
のであるところ,建築物が周辺の特定の場所へ与える日影は,当該建築
物の規模だけではなく,形態,配置等といった設計のバリエーションに
よっても大きく異なるものであるから,原告らの住戸に対する日照の阻
害が,本件許可処分による容積率の緩和によって直接的に発生するもの
であるといえるのかには疑問があることを考え併せると,上記のように
本件建築物が原告らの住戸に対して一定程度の日影を生じさせるからと
いって,それをもって,本件建築物が市街地の環境の整備改善に資する
ものとはいえないということはできない。
(イ)眺望について
行訴法10条1項は,取消訴訟においては,自己の法律上の利益に関
係のない違法を理由として取消しを求めることができないとしている。
そして,処分の名あて人以外の第三者が提起した取消訴訟においては,
原告適格を基礎付ける規定以外の処分の根拠規定に違反するという違法
事由は,原告の自己の法律上の利益に関係のない違法というべきである
から,同項により,当該取消訴訟において主張することはできないとい
うべきところ,前記1(2)イのとおり,原告らが主張する眺望利益は,
本件許可処分の取消し等を求めるについての原告適格を基礎付ける利益
には当たらないというべきである。
仮にこの点をおくとしても,①原告らが主張する眺望利益は,原告ら
の生命,身体,健康等に直ちに影響を及ぼす性質のものということはで
きず,また,その内容も周囲の客観的状況等の変化によって必然的に変
容ないし制約を被らざるを得ない性質のものであること,②本件建築物
の周辺は準工業地域に指定され,日影規制がない地域であり,一区画が
大きい敷地が多いため,本件敷地周辺には原告ら建築物を含む複数の高
層建築物が建築されており(乙17,原告らにおいても,本件敷地及)
びその周辺の敷地の利用状況によって,自己の享受する眺望利益の内容
に変動が生じ得るであろうことは容易に予測できたはずであること,③
本件建築物の建築によっても,原告らの住戸からβ川の眺望は南方に一
定程度確保されるのであり(乙15,弁論の全趣旨,原告らの眺望利)
益に対する制約が一般的に是認し得る限度を超える甚大なものというこ
とはできないこと,④前記(ア)のとおり,本件建築物の建築計画におい
て原告らの住戸への日照に種々の配慮がされていることによって,原告
らの眺望についても同様に配慮がされているということができること,
⑤周辺建築物からの眺望に対する影響は建築される建築物の設計のバリ
エーションによっても大きく異なるものであるから,原告らの住戸から
の眺望に対する制約が本件許可処分による容積率の緩和によって直接的
に発生するものであるといえるのかには疑問があることについては,前
記(ア)において日照に関して述べたのと同様であることなどを考慮する
と,本件建築物が原告らの住戸からの眺望を一定程度制約するものであ
ることをもって,本件建築物が市街地の環境の整備改善に資するものと
はいえないということはできない。
(ウ)静謐かつ清浄な居住環境及びプライバシーについて
前記1(2)イのとおり,原告らが主張するプライバシーの利益は本件
許可処分の取消し等を求めるについての原告適格を基礎付ける利益には
当たらないというべきである。また,原告らが主張する「静謐かつ清浄
な居住環境」を享受する利益というものは,極めて抽象的で具体性に乏
しく,その内容が不明確であって,それ自体は,本件許可処分の取消し
等を求めるについての原告適格を基礎付ける利益には当たらないという
べきである。
この点,原告らが静謐かつ清浄な居住環境が害される事情として本件
駐車場部分からの騒音及び排気ガスにさらされるということをいう点に
ついては,騒音及び排気ガスの発生により原告らの健康に害が生じる旨
主張するものと理解することもできるが,本件建築主らが近隣住民と本
件建築物の建築に関する協議をし,その結果,①本件駐車場部分から本
件敷地と原告ら建築物に係る敷地の間の境界線までは約6mの距離が取
られ(乙14,16,②本件駐車場部分の騒音対策として走路部分に)
騒音が発生しにくい床仕様が採り入れられたこと(乙16)に加え,本
件駐車場部分が本件建築物の居住者及び来客者が使用する車両の保管と
いう通常の共同住宅における駐車場としての利用形態が採られているこ
と(甲1参照)からすると,原告らの健康に害を与えるほどの著しい騒
音及び排気ガスが発生することをうかがわせる事情は見当たらない。
さらに,原告らは,本件駐車場部分にスプリンクラーが設置されてい
ないことから,火災時における消火活動の遅れによって原告らに被害が
及ぶ旨主張するが,弁論の全趣旨によると,本件駐車場部分は,法令上
スプリンクラーの設置が義務付けられているものではなく,そのほかに
建築基準法,消防法等の規定に適合しない点があるという事情はうかが
われない。
そして,本件建築主らと近隣住民との協議により,プライバシー対策
及び光害対策として本件駐車場部分にはルーバー状の壁が設置されるこ
とになっていること(乙16)などを考慮すると,本件建築物が原告ら
の静謐かつ清浄な居住環境及びプライバシーを侵害するものであるとし
て,市街地の環境の整備改善に資するものとはいえないということはで
きない。
ウ以上によると,本件建築物の建築計画は,周辺市街地の環境改善等に配
慮した建築計画であるということができる。そうすると,特定行政庁であ
る都知事が,本件建築物の建築計画が市街地の環境の整備改善に資すると
判断して本件建築物について本件許可処分をしたことにつき,裁量権の逸
脱又は濫用があったということはできない。
そして,弁論の全趣旨を総合しても,そのほかに本件許可処分に違法な
点は見当たらないから,本件許可処分は適法であるというべきである。
3まとめ
したがって,原告らの主位的請求のうち,本件許可処分の取消しを求める請
求には理由がなく,また,そうである以上,本件許可処分が取り消されること
を前提とする建築工事の施工停止命令の義務付けを求める請求もまた,理由が
ない。
また,既に検討したところに照らすと,原告らの予備的請求のうち,本件許
可処分のうち本件各特定部分に係る部分の取消しを求める請求には理由がな
く,また,そうである以上,本件許可処分のうち本件各特定部分に係る部分が
取り消されることを前提とする本件各特定部分についての建築工事の施工停止
命令の義務付けを求める請求もまた,理由がないことは明らかである。
第4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却す
ることとし,訴訟費用の負担につき,行訴法7条,民訴法61条,65条1項
本文を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官杉原則彦
裁判官松下貴彦
裁判官島田尚人

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