弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人露木脩二の上告理由について
 一 本件は、銀行である上告人が株式会社Bから手形割引の依頼を受けて預かっ
ていた第一審判決別紙約束手形目録記載の約束手形(以下「本件手形」という。)
につき、同社が破産宣告を受けた後に破産管財人である被上告人が返還を求めたと
ころ、上告人が、これを拒絶した上、本件手形を支払期日に取り立てて上告人のB
に対する貸付金債権の弁済に充当したので、被上告人が、これを不法行為であると
主張し、上告人に対し、本件手形金額に相当する九八万六二九〇円の損害賠償請求
をした事案である。
 二 原審の適法に確定した事実関係等は、次のとおりである。
 1 Bは、上告人との間で、平成三年三月二五日付けで銀行取引約定書(以下「
本件約定書」という。)を差し入れて銀行取引約定を締結した。
 2 本件約定書五条一項では、Bが手形交換所の取引停止処分を受けたときには、
上告人から通知催告等がなくても同社の上告人に対する一切の債務について当然に
期限の利益を失う旨の記載があるほか、四条三項には、「担保は、かならずしも法
定の手続によらず一般に適当と認められる方法、時期、価格等により貴行において
取立または処分のうえ、その取得金から諸費用を差し引いた残額を法定の順序にか
かわらず債務の弁済に充当できるものとし、なお残債務がある場合には直ちに弁済
します。」と、同条四項には、「貴行に対する債務を履行しなかった場合には、貴
行の占有している私の動産、手形その他の有価証券は、貴行において取立または処
分することができるものとし、この場合もすべて前項に準じて取り扱うことに同意
します。」と記載されている。
 3 上告人は、平成五年一月二五日、Bに対し、返済期限を同年四月三〇日とす
る約定の下に四〇〇〇万円を貸し渡した。
 4 Bは、同年三月二四日、上告人に対し、本件手形(手形金額九八万六二九〇
円)の割引を申し込み、上告人は、信用照会の結果を見てから本件手形の割引を実
行することとして、本件手形を預かった。
 5 上告人は、翌日である三月二五日、Bが振り出した決済見込みのない手形が
手形交換から回ってきたので、本件手形の割引を実行することを見送った。
 6 Bは、同日と翌二六日に手形を不渡りとし、同月三一日、銀行取引停止処分
を受け、遅くともこの時点において、前記3の債務について期限の利益を喪失した。
 7 B(以下「破産会社」という。)は、同月三〇日、破産の申立てをし、同年
四月一五日午前一〇時に破産宣告を受け、被上告人が破産管財人に就任した。
 8 被上告人は、同年五月一二日ころ、上告人に対し、本件手形の返還を求めた
ところ、上告人は、これを拒絶した。
 9 上告人は、本件手形の支払期日である同年六月一〇日に手形交換によって本
件手形を取り立て、破産会社に対する前記3の貸付金債権の弁済に充当した(当時
の残債権額は、本件手形金額を上回るものであった。)。
 三 原審は、右事実関係の下において、次のように判示して、被上告人の本訴請
求を認容した。
 1 上告人は、本件手形について商事留置権を取得した。
 2 右商事留置権は、破産会社が破産宣告を受けたことにより、特別の先取特権
とみなされるが、この場合、留置権としての効力は、失効したものと解するのが相
当である。
 3 本件約定書四条三項の「担保」には、約定担保権のみが含まれ、特別の先取
特権のような法定担保権は含まれない。
 4 同四条四項は、銀行が占有している動産、有価証券がある場合に、商事留置
権の有無にかかわらず銀行においてそれを取り立てあるいは換価し、債権の回収に
充てられるように銀行に取立て、処分権を与えたものであり、その根拠は債務者か
らの委託であって、債務者の破産により右権限は消滅すると解されるから、同条項
を根拠に本件手形について破産法二〇四条一項にいう任意処分権があるとはいえな
い。
 5 よって、上告人が被上告人による本件手形の返還請求を拒絶し、本件手形を
法定の手続によらずに任意に取り立てて、破産会社に対する貸付金債権の弁済に充
当したことは違法である。
 6 右違法行為により、被上告人(破産財団)は、本件手形金相当額の損害を被
った。
 7 上告人の相殺の主張は、不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権とする
もので、民法五〇九条により許されない。
 四 しかしながら、原審の右2、4、5の判断は是認することができない。その
理由は、次のとおりである。
 1 原審の適法に確定した前記事実関係によれば、上告人は、本件手形の占有を
適法に開始し、遅くとも破産会社が銀行取引停止処分を受けた平成五年三月三一日
には本件手形に対して商事留置権を取得したものということができ、これと同旨の
原審の右1の判断は、正当として是認することができる。そして、破産会社に対す
る同年四月一五日の破産宣告後は、破産法九三条一項によって、右商事留置権が破
産財団に対して特別の先取特権とみなされることになる。
 2 そこで、検討するに、破産財団に属する手形の上に存在する商事留置権を有
する者は、破産宣告後においても右手形を留置する権能を有し、破産管財人からの
手形の返還請求を拒むことができるものと解するのが相当である。けだし、破産法
九三条一項前段は、「破産財団ニ属スル財産ノ上ニ存スル留置権ニシテ商法ニ依ル
モノハ破産財団ニ対シテハ之ヲ特別ノ先取特権ト看做ス」と定めるが、「之ヲ特別
ノ先取特権ト看做ス」という文言は、当然には商事留置権者の有していた留置権能
を消滅させる意味であるとは解されず、他に破産宣告によって右留置権能を消滅さ
せる旨の明文の規定は存在せず、破産法九三条一項前段が商事留置権を特別の先取
特権とみなして優先弁済権を付与した趣旨に照らせば、同項後段に定める他の特別
の先取特権者に対する関係はともかく、破産管財人に対する関係においては、商事
留置権者が適法に有していた手形に対する留置権能を破産宣告によって消滅させ、
これにより特別の先取特権の実行が困難となる事態に陥ることを法が予定している
ものとは考えられないからである。そうすると、商事留置権を有する上告人は、破
産会社に対する破産宣告後においても、被上告人による本件手形の返還請求を拒絶
することができ、本件手形の占有を適法に継続し得るものというべきである。
 3 次に、上告人が自ら本件手形を取り立てて債権の弁済に充当することができ
るか否かについてみる。
 本件約定書四条四項は、銀行の占有する動産及び有価証券の処分等という観点か
ら定められ、これらに商事留置権が成立すると否とを問わず適用される約定である
と理解されてきたものである。しかし、右条項の定めは、抽象的、包括的であって、
その文言に照らしても、取引先が破産宣告を受けて銀行の有する商事留置権が特別
の先取特権とみなされた場合についてどのような効果をもたらす合意であるのか必
ずしも明確ではない上、右特別の先取特権は、破産法九三条一項後段に定めた他の
特別の先取特権に劣後するものであることにもかんがみれば、銀行が動産又は有価
証券に対して特別の先取特権を有する場合において、一律に右条項を根拠として、
直ちに法律に定めた方法によらずに右目的を処分することができるということはで
きない。
 しかしながら、支払期日未到来の手形についてみた場合、その換価方法は、民事
執行法によれば原則として執行官が支払期日に銀行を通じた手形交換によって取り
立てるものであるところ(民事執行法一九二条、一三六条参照)、銀行による取立
ても手形交換によってされることが予定され、いずれも手形交換制度という取立て
をする者の裁量等の介在する余地のない適正妥当な方法によるものである点で変わ
りがないといえる。そうであれば、銀行が右のような手形について、適法な占有権
原を有し、かつ特別の先取特権に基づく優先弁済権を有する場合には、銀行が自ら
取り立てて弁済に充当し得るとの趣旨の約定をすることには合理性があり、本件約
定書四条四項を右の趣旨の約定と解するとしても必ずしも約定当事者の意思に反す
るものとはいえないし、当該手形について、破産法九三条一項後段に定める他の特
別の先取特権のない限り、銀行が右のような処分等をしても特段の弊害があるとも
考え難い。そして、原審の適法に確定した事実関係等によれば、上告人は、手形交
換によって本件手形を取り立てたもので、本件手形について適法な占有権原を有し、
かつ特別の先取特権に基づく優先弁済権を有していたのであって、その被担保債権
は、本件手形の取立てがされた日には既に履行期が到来し、その額は手形金額を超
えており、本件手形について上告人に優先する他の特別の先取特権者が存在するこ
とをうかがわせる事情もないのである。
 以上にかんがみれば、本件事実関係の下においては、上告人は、本件約定書四条
四項による合意に基づき、本件手形を手形交換制度によって取り立てて破産会社に
対する債権の弁済に充当することができるのであり、上告人の行為は、被上告人に
対する不法行為となるものではない。
 五 以上と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるというべ
きであり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、この趣旨
をいうものとして理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決
は破棄を免れない。そして、前記説示に徴すれば、不法行為に基づく損害賠償を求
める被上告人の本訴請求は理由がなく、被上告人の本訴請求を棄却した第一審判決
は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    金   谷   利   廣
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    元   原   利   文

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