弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人佐藤禎、同澤田憲治の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要及び記録によって認められる本件訴訟の経過
等は、次のとおりである。
 1 第一審判決添付物件目録(一)、(二)記載の各不動産(原判決において更正さ
れたもの。以下「本件不動産」といい、個々的には「(一)1の土地」のようにいう。)
は、もと、D、その妻であるE、同人らの子である上告人A1及びFが単独所有し、
又は共有していたものであるが、Dが昭和四五年五月二九日に、また、Eが昭和五
八年一月一一日にそれぞれ死亡したため、本件不動産は、いずれも相続により同人
らの子である上告人A2、同A1、G及びFの四人の共有となった。
 2 その後、G及びFがその持分を譲渡したことから、現在では、(一)の各土地
は、上告人A1が一二分の六、被上告人が一二分の五、上告人A2が一二分の一の
持分割合で、また、(二)の各土地建物は、上告人A1が四分の二、被上告人及び上
告人A2が各四分の一の持分割合で、それぞれ共有している。
 3 本件不動産は、いずれも至近距離内に位置し、Dが病院の開設許可を受けて
以来、(二)5の建物が病院本体、医師等の休憩所として、(二)3の建物が看護婦寮
として、(二)4の建物が車庫、看護婦寮として、それぞれその敷地である(一)の各
土地及び(二)1、2の土地と共に、一体として病院の運営に供されている。現在、
本件不動産においては、上告人A1が、開設許可を得て、上告人A2の夫と共にH
病院の名称で病院経営を行っている。
 4 被上告人は、靴類の製造販売等を目的とする株式会社であり、平成二年四月
にFからその持分を買い受けたものであるが、上告人らとの間の分割協議が調わな
かったため、本件不動産の共有物分割を求める本件訴えを提起した。被上告人は、
本件不動産の分割方法として、競売による分割を希望している。
 5 これに対し、上告人らは、救急病院として地域社会に貢献しているH病院の
存続を図るためには、上告人らによる経営の継続が不可欠であると主張して、自ら
が本件不動産を取得し、被上告人に対してその持分の価格を賠償する方法(以下「
全面的価格賠償の方法」という。)等による分割を希望している。
 二 本件は、以上のとおり、病院、その附属施設及びこれらの敷地として一体的
に使用されている土地建物を対象とした共有物分割の訴えであるところ、原審は、
民法二五八条による共有物分割の方法として、全面的価格賠償の方法を採ることは
できない旨を判示し、本件について全面的価格賠償の方法による共有物分割を認め
る余地があるか否かについては審理判断することなく、本件不動産を競売に付して、
その売得金を持分の割合に応じて分割すべきものとし、これと同旨の第一審判決を
相当として上告人らの控訴を棄却した。
 三 しかしながら、民法二五八条の解釈適用に関する原審の右の判断は是認する
ことができない。その理由は次のとおりである。
 1 民法二五八条二項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、
共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著
しく価格を損じるおそれがあるときは、競売による分割をすることができる旨を規
定している。ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手
続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、
裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性
質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられ
る。したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売に
よる分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。
 そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当
たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、
過不足の調整をすることができる(最高裁昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四
月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)のみならず、当該共有物の性
質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況
及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理
性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得
させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物
を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させるこ
ととしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するとき
は、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から
他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法
による分割をすることも許されるものというべきである。
 2 これを本件についてみるに、前記一の事実関係等によれば、本件不動産は、
病院、その附属施設及びこれらの敷地として一体的に病院の運営に供されているの
であるから、これらを切り離して現物分割をすれば病院運営が困難になることも予
想される。そして、被上告人が競売による分割を希望しているのに対し、上告人ら
は、本件不動産を競売に付することなく、自らがこれを取得する全面的価格賠償の
方法による分割を希望しているところ、本件不動産が従来から一体として上告人ら
及びその先代による病院の運営に供されており、同病院が救急病院として地域社会
に貢献していること、被上告人が本件不動産の持分を取得した経緯、その持分の割
合等の事情を考慮すると、本件不動産を上告人らの取得とすることが相当でないと
はいえないし、上告人らの支払能力のいかんによっては、本件不動産の適正な評価
額に従って被上告人にその持分の価格を取得させることとしても、共有者間の実質
的公平を害しないものと考えられる。
 3 そうすると、本件について、全面的価格賠償の方法により共有物を分割する
ことの許される特段の事情の存否について審理判断することなく、競売による分割
をすべきものとした原判決には、民法二五八条の解釈適用の誤り、ひいては審理不
尽、理由不備の違法があるというべきであり、この違法が原判決の結論に影響を及
ぼすことは明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があるから、原判決は破棄
を免れない。
 4 そして、本件不動産の分割については、右の全面的価格賠償の方法によるこ
との許される特段の事情の存否のほか、現物分割と価格賠償とを併用することの当
否(前記のとおり、本件不動産は一体として病院の運営に供されているが、記録に
よれば、上告人らは、本件訴訟の過程において、(一)1、(二)1、2の土地及び(
二)3の建物を被上告人に取得させる内容の現物分割を提案していたことも認めら
れるから、本件不動産の一部は必ずしも病院の運営に不可欠ではないことがうかが
われる。そうすると、本件については、具体的な事情のいかんによっては、本件不
動産中、右の各不動産を被上告人の取得とし、その余を上告人らの取得とした上、
価格賠償の方法によって過不足の調整をする分割方法を採ることも考えられないで
はない。前記大法廷判決参照)等について、更に審理を尽くさせる必要があるから、
本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    高   橋   久   子
            裁判官    井   嶋   一   友
            裁判官    藤   井   正   雄

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