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平成25年12月5日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(行ケ)第10012号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年11月14日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士加藤朝道
同内田潔人
同青木充
被告特許庁長官
指定代理人久島弘太郎
同藤原直欣
同窪田治彦
同中村達之
同山田和彦
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2011-20325号事件について平成24年9月3日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)原告は,発明の名称を「内燃機関」とする発明について,平成18年(2
006年)9月1日(優先権主張日平成17年(2005年)9月5日,優
先権主張国ドイツ)を国際出願日とする特許出願(特願2008-5295
16号。以下「本願」という。)をした。
原告は,平成22年12月15日付けの拒絶理由通知を受けたため,平成
23年3月18日付けで本願の願書に添付した特許請求の範囲及び明細書(
甲8)を変更する手続補正(甲10)をしたが,同年5月24日付けの拒絶
査定を受けた。
原告は,同年9月20日,拒絶査定不服審判を請求するとともに,同日付
けで本願の願書に添付した特許請求の範囲及び明細書を変更する手続補正(
甲14)(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書を,図面と併せて
「本願明細書」という。)をした。
(2)特許庁は,上記請求を不服2011-20325号事件として審理を行
い,平成24年9月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
(以下「本件審決」という。)をし,同月18日,その謄本が原告に送達さ
れた。
(3)原告は,平成25年1月12日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲1
4。以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】
シリンダヘッドを有する少なくとも一のシリンダと,少なくとも一のカム軸
と,加圧循環潤滑系と備え,過給機を備えていても過給機を備えていなくても
よく,
付設するシリンダヘッドを有する少なくとも一のシリンダを備える小圧縮機
が空気を供給し且つ少なくとも一のカム制御による過給バルブと協働する,4
サイクル内燃機関であって,
内燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路(14)が,内
燃機関の吸入の終了後に,内燃機関のシリンダヘッド(16)に構成されてい
る行程の短い少なくとも一の過給バルブ(15)によって,4サイクル工程の
吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的に維持されている
ようにサイクルに合わせて開かれること,
小圧縮機は専らカム制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダのサイク
ルに合った過給のためにカム軸(2)の回転数をもって作動するか,または,
小圧縮機は専らクランク制御され,吸入行程或いは過給行程が過給路(14)
からの過給流れの重なりで乱されないために過給気を前制御し,内燃機関の少
なくとも一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸(2)の回転数
をもってまたはカム軸(2)の回転数に比べて各シリンダに対してサイクルに
合った上昇回転数をもって作動すること
を特徴とする4サイクル内燃機関。」
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,
本願発明は,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2002
-303144号公報(甲1。以下「引用文献」という。)に記載された発
明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
るから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないという
ものである。
(2)本件審決が認定した引用文献に記載された発明(以下「引用発明」とい
う。),本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア引用発明
「シリンダヘッド13を有するシリンダブロック12と,カムシャフト
27とを備え,
エンジンEのシリンダヘッド13に支持したカムシャフト27の一端側
の側面を覆うカバー51に支持され,かつ第1,第2シリンダヘッド60
U,60Lを有するシリンダブロック54を備える過給機Cが,空気を供
給し且つカムシャフト27に設けた過給カム41により開閉駆動する過給
バルブ26と協働する,単気筒4サイクルエンジンEであって,
エンジンEの吸気ポート21とは分離される過給パイプ75,過給ポー
ト23が,エンジンEの吸気行程の末期に,エンジンEのシリンダヘッド
13に構成され,かつカムシャフト27に設けた過給カム41により開閉
駆動される過給バルブ26によって,短期間だけ開かれること,
過給機Cはクランクシャフト52が回転するとコネクティングロッド6
5を介して第1,第2ピストン62U,62Lがシリンダ54a内を上下
動するものであり,クランシャフト52はカムシャフト27の一端に同軸
スプライン結合されている
単気筒4サイクルエンジンE。」
イ本願発明と引用発明の一致点
「シリンダヘッドを有する少なくとも一のシリンダと,少なくとも一の
カム軸とを備え,
付設するシリンダヘッドを有する少なくとも一のシリンダを備える小圧
縮機が空気を供給し且つ少なくとも一のカム制御による過給バルブと協働
する,4サイクル内燃機関であって,
内燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路が,内燃機
関のシリンダヘッドに構成されている行程の短い少なくとも一の過給バル
ブによって,4サイクル工程のサイクルに合わせて開かれること,
小圧縮機は専らクランク制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダ
のサイクルに合った過給のためにカム軸の回転数をもって作動する
4サイクル内燃機関。」である点。
ウ本願発明と引用発明の相違点
(相違点1)
本願発明においては,内燃機関が,加圧循環潤滑系を備え,過給機を備
えていても過給機を備えていなくてもよいのに対し,
引用発明においては,内燃機関が,加圧循環潤滑系を備えているのか否
か明らかでなく,過給機を備えているのか否かも明らかでない点。
(相違点2)
本願発明においては,「内燃機関の過給路が,内燃機関の吸入の終了後
に,4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまた
は部分的に維持されているようにサイクルに合わせて開かれる」のに対し,
引用発明においては,「内燃機関の過給路が,内燃機関の吸入の末期に,
4サイクル工程のサイクルに合わせて開かれる」点。
(相違点3)
本願発明においては,
(i)小圧縮機は専らカム制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダ
のサイクルに合った過給のためにカム軸の回転数をもって作動するか,ま
たは,
(ii)小圧縮機は専らクランク制御され,吸入行程或いは過給行程が過
給路からの過給流れの重なりで乱されないために過給気を前制御し,内燃
機関の少なくとも一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸の
回転数をもってまたはカム軸の回転数に比べて各シリンダに対してサイク
ルに合った上昇回転数をもって作動するのに対し,
引用発明においては,小圧縮機は専らクランク制御され,内燃機関の少
なくとも一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸の回転数を
もって作動する点。
第3当事者の主張
1原告の主張
(1)取消事由1(一致点の認定,相違点2及び3の認定の誤り)
本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点のうち,「内燃機関の
他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路が,内燃機関のシリンダヘ
ッドに構成されている行程の短い少なくとも一の過給バルブによって,4サ
イクル工程のサイクルに合わせて開かれる」との部分(以下「A部分」とい
う場合がある。)及び「小圧縮機は専らクランク制御され,内燃機関の少な
くとも一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸の回転数をもっ
て作動する」との部分(以下「B部分」という場合がある。)は,本願発明
の解決原理ないし基本的技術思想を無視し,本願発明の必須の構成要件の一
部を恣意的に抽出して一致点と認定したものであるから,誤りである。
すなわち,本願発明の解決原理ないし基本的技術思想は,オットーサイク
ル,ディーゼルサイクル又はミラーサイクル(吸入行程の途中でバルブを閉
じ,混合気の流入を制限して圧縮比を上げないようにしたもの)の4サイク
ル内燃機関において,内燃機関の吸入の終了後(終了直後)に小圧縮
機による過給(後過給)を正確なタイミングで行うことを可能とする
手段として,「少なくとも一の過給路が,内燃機関の吸入の終了後に,…
少なくとも一の過給バルブ(15)によって,4サイクル工程の吸入行程或
いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的に維持されているようにサ
イクルに合わせて開かれる」構成を採用するとともに,小圧縮機がカム制御
式の場合には,「小圧縮機は専らカム制御され,内燃機関の少なくとも一の
シリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸(2)の回転数をもって作
動する」構成を,小圧縮機がクランク制御式の場合には,「小圧縮機は専ら
クランク制御され,吸入行程或いは過給行程が過給路(14)からの過給流
れの重なりで乱されないために過給気を前制御し,内燃機関の少なくとも一
のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸(2)の回転数をもって
またはカム軸(2)の回転数に比べて各シリンダに対してサイクルに合った
上昇回転数をもって作動する」構成を採用し,これにより小圧縮機によって
過給される高速回転可能な4サイクル内燃機関を提供したものである。
しかるところ,本願発明の「少なくとも一の過給路が,内燃機関の吸入
の終了後に,…少なくとも一の過給バルブ(15)によって,4サイクル工
程の吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的に維持され
ているようにサイクルに合わせて開かれる」構成のうち,「内燃機関の吸入
の終了後に」,「4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として全
体的にまたは部分的に維持されているように」との部分は必要不可欠な構成
であるにもかかわらず,この構成を省いて,A部分のみを一致点として抽出
することは,本願発明の解決原理ないし基本的技術思想を無視するものとい
えるから,誤りである。
また,同様に,小圧縮機がクランク制御式の場合には,「吸入行程或いは
過給行程が過給路(14)からの過給流れの重なりで乱されないために過給
気を前制御」する構成が本願発明の必要不可欠な構成であるにもかかわらず,
この構成を省いて,B部分のみを一致点として抽出することは,本願発明の
解決原理ないし基本的技術思想を無視するものといえるから,誤りである。
そして,本件審決が認定した本願発明と引用発明との相違点2及び3は,
その前提とする一致点の認定に上記のとおりの誤りがあり,その誤りに依拠
して認定したものであるから,不適切であって失当である。
(2)取消事由2(相違点2の容易想到性の判断の誤り)
本件審決は,「圧縮機などの過給装置付き内燃機関において,内燃機関の
他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路が,内燃機関の吸入の終了
後に,4サイクル行程の吸入行程或いは過給行程が行程として維持されてい
るようにサイクルに合わせて開かれる」ことが周知技術(以下「周知技術1」
という。)であると認定した上で,引用発明において,周知技術1を適用し,
相違点2に係る本願発明のように特定することは,当業者が格別困難なく想
到し得るものである旨判断した。
しかしながら,本件審決には,引用発明に周知技術1を適用することの動
機付けが示されていない。
また,周知技術1には,相違点2に係る本願発明の構成のうち,「全体的
にまたは部分的に維持」との部分が含まれていないから,引用発明に周知技
術1を適用したからといって,相違点2に係る本願発明の構成となるわけで
はない。すなわち,「全体的にまたは部分的に維持」については,「全体的
に維持」とは,オットーサイクルあるいはディーゼルサイクルの場合を,「
部分的に維持」とは,ミラーサイクルの場合をそれぞれ意味し,「全体的に
または部分的に維持」との記載により,オットーサイクルあるいはディーゼ
ルサイクルとミラーサイクルとの間のカム軸調整装置を用いたサイクル変換
が可能であることも意味するが,引用文献及び周知技術1には,それらのサ
イクルに関する言及が一切ない。このため,「全体的にまたは部分的に維持」
と,小圧縮機を介した後過給とを組み合わせるという本願発明の解決原理な
いし基本的技術思想は,引用文献及び周知技術1から導き出すことはできな
い。
さらに,本願発明は,相違点2に係る構成だけで構成されているのではな
く,総合的な構成により把握されるべきものであるから,そもそも相違点2
を孤立的に取り上げて判断すること自体が誤りである。たとえ,引用発明に
周知技術1を適用したとしても,それに基づくクランク制御される小圧縮機
では,時間に関して厳密な後過給のための前制御機構(前制御用のバルブ)
が本願発明に必要不可欠であるのに,本件審決においては,このことが全く
触れられていない。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
(3)取消事由3(相違点3の容易想到性の判断の誤り)
本件審決は,「圧縮機の駆動形態として,カムを用いた駆動形態(カム制
御)或いはクランク機構を用いた駆動形態(クランク制御)」が周知技術(
例えば,甲7の第3ないし8図記載の実施例,別紙6参照。以下「周知技術
2」という。)であると認定した上で,周知技術2で例示した甲7(実願昭
55-38324号(実開昭56-139828号)のマイクロフィルム)
の第3図及び第4図にクランク制御を採用した駆動形態が,第4ないし8図
にカム制御を採用した駆動形態が示されているように,どちらの駆動形態を
採用するかは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるから,引用発明に
おいて,小圧縮機の駆動形態として,クランク制御による駆動形態に代えて
カム制御による駆動形態を採用し,「小圧縮機は専らカム制御され,内燃機
関の少なくとも一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸の回転
数をもって作動する」ように構成(相違点3に係る本願発明の構成)するこ
とは,当業者が格別困難なく想到し得るものである旨判断した。
しかしながら,甲7は,本願発明にいう「カム制御」される小圧縮機を開
示するものではなく,本件審決の周知技術2の認定は誤りである。
すなわち,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)においては,「カム制
御」の用語について,「カム制御による過給バルブ」,「小圧縮機は専らカ
ム制御され」と記載され,この「カム制御」の記載は「または,小圧縮機は
専らクランク制御され」と対比した形式での記載となっているから,「カム
制御」が「クランク制御」とは異なる意義で用いられているといえる。本願
発明において,小圧縮機が「カム制御」される場合は,小圧縮機を制御する
カムの急峻勾配の制御曲線と,行程の短い過給バルブを操作するカムの急峻
勾配の制御曲線とは一致し,過給路が開いているときには過給気も流れ,過
給路が閉まっているときには過給気は流れないのに対し,小圧縮機が「クラ
ンク制御」される場合は,小圧縮機を制御するクランクの緩勾配のサイン形
状の制御曲線と,行程の短い過給バルブを操作するカムの急峻勾配の制御曲
線とは一致せず,小圧縮機と内燃機関との間において時間に関して厳密な協
働は不可能である。つまり,小圧縮機が「クランク制御」される場合は,避
けられない誤った時点における過給路内の圧力上昇に伴い,過給バルブのバ
ルブクリアランスに基づいて発生する過給路からの過給流れの重なりが吸入
行程を乱すことになり,このことを防止するための前制御(前制御用のバル
ブ)が必要不可欠である。
そして,4サイクル内燃機関に関する技術分野では,「カム」とは,基本
的に4サイクルの吸排気バルブを作動させるものであって,これらのバルブ
の厳密な制御のために,ピストンの往復サイクルに対し,所定のタイミング
をもって弁開閉を行うよう,所定のリフト量を有するカム山が所定の位相(
角度位置)をもってシャフトに設けられているものをいうことが,技術常識
であり(甲18),本願発明にいう「カム」は,このようなカムを意味する。
被告は,この点に関し,乙1及び2を根拠として挙げて,カムには,円板
を偏心させて回転させるものが含まれることは技術常識である旨主張する
が,この主張は,機械の一般用語としてのみ妥当するにすぎず,4サイクル
内燃機関に関する技術分野には妥当しないから,失当である。
しかるところ,甲7の第5図及び第6図における実施例では,「偏心円カ
ム28」がクランク軸1に設けられており,第7図における実施例では,「
円形の溝カム30」がクランク軸1に対して偏心して設けられており,第8
図における実施例では,「偏心円(真円)カム32」がクランク軸1に設け
られており,これらの「偏心円カム」あるいは「溝カム」は,「偏心機構」
である。このような偏心機構は,単にクランクを小さなアーム径としたもの
にすぎず,「偏心機構制御」の制御曲線は緩勾配のサイン形状の制御曲線と
なり,クランク制御の場合と同じであるから,小圧縮機が「偏心機構制御」
される場合は,内燃機関の後過給をサイクルに合わせて(時間に関して厳密
に)実行することはできない。
したがって,甲7記載の「偏心円カム」あるいは「溝カム」による制御は,
本願発明にいう「カム制御」に含まれず,甲7は,本願発明にいう「カム制
御」される小圧縮機を開示するものではない。
そうすると,本件審決の周知技術2の認定は誤りであるから,相違点3に
係る本願発明の構成が容易想到であるとした本件審決の上記判断は,誤りで
ある。
(4)手続違背
審査官作成の平成23年11月29日付けの前置報告書(甲15)では,
平成23年5月24日付けの拒絶査定において周知例として引用された特開
平11-44289号公報(甲2)の引用が撤回されており,その周知例の
引用に基づく拒絶査定の見解が妥当ではなかったことを審査官が自認したも
のと解される。その上で,上記前置報告書において,新たな周知例(特開昭
55-137315号公報(甲3),実願昭59-75685号(実開昭6
0-187331号)のマイクロフィルム(甲4))が引用されて反論が行
われているが,周知技術を認定するための周知例といえども,新たな文献の
引用であるため,前置審査において審判請求時の補正後の出願について拒絶
査定の理由と異なる理由を発見した場合に当たり,拒絶理由通知をすべき必
要性があったものといえる。
本件審決においては,相違点2について,甲4のほか,追加して引用した
甲5ないし7に基づいて認定した周知技術1を適用して容易想到である旨を
判断し,また,相違点3について,初めて引用した甲7に基づいて認定した
周知技術2を適用して容易想到である旨を判断した。このように追加して引
用された甲5ないし7は,周知技術を認定するための周知例といえども,新
たな文献の引用であるため,拒絶査定不服審判において拒絶査定の理由と異
なる理由を発見した場合に当たり,拒絶理由通知をすべき必要性があったも
のといえる。
しかるところ,本件の前置審査及び本件審判手続において拒絶理由通知が
されなかったから,本件審決には,特許法163条2項において準用する同
法50条及び同法159条2項において準用する同法50条の規定に違反す
る手続違背がある。
(5)まとめ
以上のとおり,本件審決には,本願発明と引用発明との一致点の認定,相
違点2及び3の認定の誤り,相違点2及び3の容易想到性の判断の誤り並び
に手続違背があり,本件審決は,違法であるから,取り消されるべきである。
2被告の主張
(1)取消事由1に対し
ア本件審決は,引用発明における「カムシャフト27に設けた過給カム4
1により開閉駆動される」は,本願発明における「4サイクル工程のサイ
クルに合わせて」に相当すると認定した上で,本願発明においては,内燃
機関の過給路が,内燃機関の吸入の終了後に,4サイクル工程の吸入行程
或いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的に維持されているよう
にサイクルに合わせて開かれるのに対し,引用発明においては,内燃機関
の過給路が,内燃機関の吸入の末期に,4サイクル工程のサイクルに合わ
せて開かれる点を相違点2と認定したものである。
このように原告が主張する本願発明の「内燃機関の吸入の終了後に,…
吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的に維持されて
いるように」という発明特定事項は,相違点2として認定しているから,
この点に関する一致点の認定及び相違点2の認定の誤りをいう原告の主張
は理由がない。
イ本件審決は,引用発明における「クランクシャフト52はカムシャフト
27の一端に同軸スプライン結合されている」は,本願発明における「内
燃機関の少なくとも一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸
(2)の回転数をもって作動する」に相当すると認定した上で,本願発明
は,小圧縮機は専らカム制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダの
サイクルに合った過給のためにカム軸の回転数をもって作動するか,又は
小圧縮機は専らクランク制御され,吸入行程或いは過給行程が過給路から
の過給流れの重なりで乱されないために過給気を前制御し,内燃機関の少
なくとも一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸の回転数を
もってまたはカム軸の回転数に比べて各シリンダに対してサイクルに合っ
た上昇回転数をもって作動するかを選択的な発明特定事項として有するの
に対し,引用発明は,本願発明の上記発明特定事項のうち,「小圧縮機は
専らクランク制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダのサイクルに
合った過給のためにカム軸の回転数を持って作動する」という発明特定事
項しか有していない点を相違点3として認定したものである。
このように原告が主張する小圧縮機がクランク制御式の場合における「
吸入行程或いは過給行程が過給路(14)からの過給流れの重なりで乱さ
れないために過給気を前制御」する構成を本願発明の発明特定事項として
認定し,引用発明がその構成を有しない点を相違点3として認定している
から,この点に関する一致点の認定及び相違点3の認定の誤りをいう原告
の主張は理由がない。
ウ以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
(2)取消事由2に対し
本件審決は,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の「少なくとも一の
過給路(14)が,内燃機関の吸入の終了後に,…少なくとも一の過給バル
ブ(15)によって,4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程が行程とし
て全体的にまたは部分的に維持されているようにサイクルに合わせて開かれ
る」との記載を「少なくとも一の過給路が,内燃機関の他の吸入路が閉じら
れた後に,少なくとも一の過給バルブによって,過給機による過給を伴う場
合を含む4サイクル工程の吸入行程が行程としてクランク角度が0度ないし
180度の間において全体的に維持されるように開かれるか,または,クラ
ンク角度が0度ないし180度の間において部分的に維持されるように開か
れる」と解釈した。
また,本件審決は,「内燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一
の過給路が,内燃機関の吸入の終了後に,4サイクル行程の吸入行程或いは
過給行程が行程として維持されているようにサイクルに合わせて開かれる」
ことは周知技術(周知技術1)であると認定した。
そして,引用発明のような圧縮機などの過給装置付き内燃機関において,
内燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路を,吸入行程末
期,すなわち,吸気行程から圧縮行程へ切り替わるクランク角度が180度
付近となるタイミングにおいて開く場合,過給路から吸入路へ過給気が吹き
返して過給効果が低減することを防止することは,当業者にとって技術常識
であるから,引用発明において,周知技術1を適用し,内燃機関の吸入の終
了後に過給路を開くような構成とすることは当業者にとって容易であり,そ
の結果,引用発明は,少なくともクランク角度が0度ないし180度の間に
おいて吸入を行うエンジンである以上,4サイクル工程の吸入行程は行程と
してクランク角度が0度ないし180度の間において全体的に又は部分的に
維持されることになるため,相違点2に係る本願発明のように特定すること
は,当業者が格別困難なく想到し得るものである。
したがって,相違点2の容易想到性に関する本件審決の判断に誤りはない
から,原告主張の取消事由2は,理由がない。
(3)取消事由3に対し
アカムには,円板を偏心させて回転させるものが含まれることは技術常識
である(例えば,乙1,2)。また,甲7(7頁19行~9頁12行)に
おいても,「カム」という用語の通常の解釈のもとに,原告が「偏心機構」
であると主張する機構が「カム機構」と表現されている。
上記技術常識に照らせば,本願発明における「カム制御」から「偏心機
構制御」を除外すべき理由はないから,本件審決における周知技術2の認
定に誤りはない。
原告は,この点に関し,甲18を根拠として挙げて,4サイクル内燃
機関に関する技術分野では,上記技術常識は妥当せず,むしろ「カ
ム制御」には,「偏心機構制御」を含まないのが技術常識であるなどと主
張する。
しかしながら,甲18記載の「カム」は,その説明のとおり吸排気バル
ブを開閉するためのカム及びカム形状についてであって,本願明細書の図
1及び3に示された圧縮機を駆動する「カム4」についてのものではない。
甲18は,吸排気バルブを作動させるカムが4サイクル内燃機関の代表的
な部品であることを述べているのであって,その他の部位にカムが用いら
れる場合において,そのようなカムが吸排気バルブ用のカムと同じもので
あると述べているのではないから,圧縮機を駆動する「カム4」について,
カム形状を限定して理解すべきとの技術常識は存在しない。
また,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)は,上記圧縮機カムが急
峻勾配の制御曲線を有すること及びその制御曲線が過給バルブ(15)用
のカム(19)の急峻勾配の制御曲線と一致することをそれぞれ発明特定
事項として記載するものではなく,原告の上記主張は,本願発明の発明特
定事項に基づくものではない。
さらに,本願の出願当初の明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,こ
れらを併せて「当初明細書等」という。)の記載を参照しても,小圧縮機
を制御するカムを,原告主張のカムと限定して理解するための事項は明記
されてないし,当初明細書等の記載から自明ともいえないから,上記原告
の主張は失当である。
以上によれば,本願発明における「小圧縮機は専らカム制御され」とは,
通常の用語の意味において理解すべきである。
イ本願発明におけるカム制御による小圧縮機の駆動形態と引用発明におけ
る小圧縮機の駆動形態を整理すると,両者は,カム軸の回転運動を往復動
へと運動変換して小圧縮機を駆動することで互いに駆動形態が共通してお
り,その共通する回転運動を往復動へと運動変換する手段として,本願発
明は,カムを用いるのに対し,引用発明は,クランクシャフトを用いるも
のである。してみると,回転運動を往復動に運動変換する機構として,カ
ム機構及びクランク機構は,広く種々の技術分野で用いられる慣用技術で
あり,両慣用技術を適宜選択して技術を具体化することに,当業者の格別
の創意は要しないといえる。
このように運動変換機構の相違については,一般的に慣用技術であるこ
とをもって容易に想到し得るものであるといえるが,本件審決では,圧縮
機(圧縮機過給を含む。)に関する技術として甲7を周知例として提示し,
圧縮機の駆動形態として,カムを用いた駆動形態(カム制御)あるいはク
ランク機構を用いた駆動形態(クランク制御)は周知技術であり,どちら
の駆動形態を採用するかは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であると
認定したものである。
特に,甲7には,第3及び4図において,回転運動をクランク制御によ
り圧縮機の往復動に変換することに加え,第5ないし8図において,回転
運動をカム制御により圧縮機の往復動に変換することが記載されているの
であるから,圧縮機の技術分野において,クランク制御(クランク機構)
をカム制御(カム機構)へと変更することが示唆されているといえる。
そして,周知・慣用技術であるカム制御(カム機構)におけるカムが,
種々の形状を備えるものであることは当業者にとって周知の知見であるか
ら(例えば,乙2),種々のカム形状を適宜考慮してカム制御を具体化す
ることは,当業者の通常の創作能力の発揮であって,そこに進歩性はない
というべきである。
そうすると,引用発明のカム軸の回転運動を往復動へと運動変換して小
圧縮機を作動させる手段を,周知の種々のカム制御により具体化すること
は,当業者が容易になし得ることであるから,引用発明において,小圧縮
機をクランク制御により駆動する形態に代えて,周知のカム制御により駆
動する形態とすることによって,本願発明における小圧縮機の制御に係る
選択的な構成のうち,「小圧縮機は専らカム制御され,内燃機関の少なく
とも一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸の回転数をもっ
て作動する」構成とすることは当業者が格別困難なく想到し得るものであ
る。
ウ以上によれば,相違点3の容易想到性に関する本件審決の判断に誤りは
ないから,原告主張の取消事由3は,理由がない。
(4)取消事由4に対し
拒絶査定(甲12)の対象となった平成23年3月18日付け手続補正書
(甲10)によって補正された本願の請求項1には,過給路(14)に関し
て,「内燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路(14)
が,…過給バルブ(15)によって内燃機関の吸入の終了後,4サイクル工
程の吸入/過給行程が全体的にまたは部分的に維持されているように,サイ
クルに合わせて制御される」と記載されていた。この記載によれば,過給路
(14)が過給バルブ(15)によって内燃機関の吸入の終了後に「制御」
されることは特定されているものの,当該「制御」の内容は明確に特定され
ておらず,過給路(14)を開くタイミングと内燃機関の吸入の終了との前
後関係が特定されていたとはいえない。これに対し拒絶査定では,請求項1
に係る発明は,拒絶査定で「引用文献」として引用された甲1に記載された
発明に基づいて,当業者が容易に想到し得ると判断した。併せて,上記手続
補正書と同日付けで提出された意見書(甲11)の「(4.2)」において,
引用文献に記載された発明について,「圧縮された空気の燃焼室20への供
給は,本願発明1におけるように吸気行程の終了後ではなく,文字通り「吸
気行程の末期」(下記に記す初期開口の問題もあるので恐らくはこの時期よ
りも早期)であるため,引用発明1では吸気行程が圧縮された空気により邪
魔されることになります。」と原告が主張したのに対し,当該主張は請求項
1に記載された事項に基づくものとはいえないものの,原告における補正等
の検討に資するべく,原告が撤回したと主張する甲2を,過給弁が開く時期
が記載された文献を予め示す趣旨で拒絶査定において例示したものである。
その後,拒絶査定に対する審判請求と同時に行った本件補正(甲14)によ
って,「内燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路(14)
が,内燃機関の吸入の終了後に,…過給バルブ(15)によって,4サイク
ル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的に維持
されているようにサイクルに合わせて開かれる」(下線は,補正箇所を示す
ために審判請求人(原告)が付したものである。)と補正し,初めて「制御」
の内容が明確化された経緯に鑑みれば,審尋(甲15)において甲2を用い
なかったことをもって,原告主張のように「撤回」というべきではない。
また,原告は,審判請求書(甲13)の「(3.2.1.1.3)」にお
いて,本件補正は「過給路(14)が,内燃機関の吸入の終了後に,過給バ
ルブ(15)によって開かれる」ことを明確化するものと主張するとともに,
「(3.4.1.4)」において,「内燃機関の吸入の終了後」に関し,「
内燃機関の吸入バルブがまだ部分的に開いていると給気損失が生じますが,
その理由は,小圧縮機により供給される圧縮空気が,開いている内燃機関の
吸入バルブを通じて阻止されずに漏れ出してしまうためです。」と主張した。
そこで,新たに明確化され,かつ,特定された請求項1に係る発明に対し,
審尋において,吸入行程の後に過給行程を実施することは周知技術にすぎな
いことを指摘し,当該周知技術を示す例として,主吸気ポートが全閉する直
前において,過給ポートから主吸気ポートへの吹き返しが生じないタイミン
グで過給ポートを開弁する技術が記載された甲3と,吸気弁が閉弁した直後
に過給用の高圧空気を燃焼室に供給する第3弁を開弁する技術が記載された
甲4とを示し,原告に意見を求めた。これに対し,原告は,審尋に対する回
答書(甲16)の「(5.5)」において,「引用発明2(被告注:甲3に
記載された技術内容)では,…主吸気ポート6が…吸気下死点B.D.C以
降全閉される直前において過給バルブ17が開作動され,…吸気行程と過給
行程とは期間的にオーバーラップするものとなっています。」と主張すると
ともに参考図を示し,「吸入の終了後」とは,吸気行程末期であって過給ポ
ートからの吹き返しを生じない時期を含まず,吸入路が閉じられた後の意味
であることを明確にした。
そこで,本件審決では,相違点2の判断に際し,引用文献(甲1)に記載
された発明と甲4によって示される周知技術とに基づく容易想到性判断の枠
組は維持しつつ,甲5ないし7を当該周知技術を示す例として付加した。な
るほど,審尋で示した周知文献と本件審決で示した周知文献とは一部異なっ
ているが,過給路(14)が開かれるとされる「内燃機関の終了後」におけ
る「終了」時点が,審尋とそれに対する回答書とによって具体化され,それ
でもなお引用発明と甲4によって示される周知技術とに基づく容易想到性判
断の枠組は維持されるという経緯や,回答書の「(5.5)」において,「
引用考案3(被告注:甲4に記載された技術内容)では,確かにその第7図
を見ると「吸気弁開」の直後に「第3弁開」とあります」と記載しているこ
とに鑑みると,原告は回答書を提出する段階において,甲4によって示され
る周知技術を十分に認識していたといえることから,原告にとって反論の機
会が奪われたということはできないといえる。
したがって,本件審決の審理手続に手続違背があったとすることはできな
いから,原告主張の取消事由4は理由がない。
(5)まとめ
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願発明は,
引用発明及び周知技術(周知技術1及び2)に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができないとした本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(一致点の認定,相違点2及び3の認定の誤り)について
(1)本願明細書の記載事項等について
ア本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとお
りである。
イ本願明細書(甲8,10,14)の「発明の詳細な説明」には,次のよ
うな記載がある(下記記載中に引用する図1及び2については,別紙1を
参照)。
(ア)「本発明は,小圧縮機によって過給される4サイクル内燃機関に関
するものである。ここで小圧縮機とは,その排気量が内燃機関の一シリ
ンダの排気量よりも小さいことを意味するものとする。」(段落【00
02】)
(イ)「【背景技術】乗用車のエンジンでは高性能域で過給機を利用す
ることが技術水準(従来技術)であるのに対し,二輪車部門では送給(
給気)特性と生産コストの理由から高回転数のコンセプトが優先され
る。」
「WO02/20958A1[特許文献1]からメンブラン式バル
ブによって前制御される吸入路を備え,該吸入路にばね付勢されるバル
ブによって制御される過給路が連結される内燃機関が公知である。内燃
機関のシリンダヘッドは吸入バルブを備える。」
「WO02/084089A1[特許文献2]は圧縮機によって過
給される内燃圧縮機関を提示する。圧縮(過給)機と内燃機関は過給路
で直接連結される。その結果,過給の際圧縮機の排気量は内燃機関の排
気量より大きく設計される。このタイプの構成では小圧縮機の場合より
も往復動圧縮容量の大きい圧縮機となる。」
「DE2746022A1[特許文献3]は,過給機付き多気筒
4サイクル内燃機関を提示し,ここではクランクで制御される小圧縮機
が,分離して配設される過給路(複数)を通って空気を供給する。過給
路(複数)は分離しては制御されない。」
「US5,785,015A[特許文献4]からは,クランクで制
御される圧縮機を備える内燃機関が公知である。これは2サイクル内燃
機関において混合気形成のために採用され,主たる(ないし第一義的,
primaer)過給機能を有するものではない。」
「CH539198A[特許文献5]はすべり弁(Schieber)式制
御によって過給される内燃機関を提示する。この構成は主たる(ないし
一義的,primaer)過給機能を有するものではない。」
「US4,106,445A[特許文献6]はクランクで制御され
る補助的吸入系を備える内燃機関を提示する。制御するクランクは主た
る過給機能を有するものではない。」
「GB1549969A[特許文献7]はシリンダヘッド内に非
常に小さなピストンを備える内燃機関を提示する。これは主たる過給機
能を有するものではない。」
「US6,295,965B1[特許文献8]では,吸入路と排出
路を備える内燃機関が提示される。内燃機関の他の経路(複数)はスリ
ットで制御される。」
「US1,555,454[特許文献9]は補助のピストンおよびバ
ルブの装置を備える内燃機関を明示する。このシステムは主たる過給機
能を有するものではない。さらに,下記の特許文献10が公知である。
…」(以上,段落【0003】~【0012】)
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】これらの技術水準をもとに,
本発明は,小圧縮機によって過給され高回転可能な4サイクル内燃機関
を提供することを,その課題とするものである。」(段落【0013】)
(エ)「【課題を解決するための手段】本発明の一視点により以下の4
サイクル内燃機関が提供される。該4サイクル内燃機関は,シリンダヘ
ッドを有する少なくとも一のシリンダと,少なくとも一のカム軸と,加
圧循環潤滑系と備え,過給機を備えていても過給機を備えていなくても
よく,付設するシリンダヘッドを有する少なくとも一のシリンダを備え
る小圧縮機が空気を供給し且つ少なくとも一のカム制御による過給バル
ブと協働する,4サイクル内燃機関である。該4サイクル内燃機関にお
いて,内燃機関の他の吸入路(複数)とは分離される少なくとも一の過
給路が,内燃機関の吸入の終了後に,内燃機関のシリンダヘッドに構成
されている(往復動)行程の短い(kurzhubig)少なくとも一の過給バルブ
によって,4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として全体
的にまたは部分的に維持されているようにサイクルに合わせて開かれる
こと,小圧縮機は専らカム制御され,内燃機関の少なくとも一のシリン
ダのサイクルに合った過給のためにカム軸の回転数をもって作動する
か,または,小圧縮機は専らクランク制御され,吸入行程或いは過給行
程が過給路からの過給流れの重なりで乱されないために過給気を前制御
し,内燃機関の少なくとも一のシリンダのサイクルに合った過給のため
にカム軸の回転数をもってまたはカム軸の回転数に比べて各シリンダに
対してサイクルに合った上昇回転数をもって作動すること。(形態1:
基本構成)」(段落【0014】)
(オ)「[作用]内燃機関のカム軸によって制御さればね付勢されるピ
ストンシステムは小圧縮機の往復動要素を形成する。小圧縮機の排気量
は,内燃機関の排気量の例えば五分の一である。内燃機関は(小)圧縮
機によって,例えば給気(Ladung)のうちの一部分のみが,内燃機関の
作業サイクル用に前圧縮され,カム軸によって制御され行程の短い(往
復動の小さい:kurzhubig)バルブの補助によって,分離した過給路を通
って,内燃機関の吸入(行程)の終了後供給されるように過給される。
従来の内燃機関の吸入路はその際保持(維持)される。分離して制御さ
れる過給路を有する圧縮機は良い作用効率で良い送給特性を有する。提
案した過給システムは過給過程の際乱流によってより良い混合気形成に
寄与する。さらには燃焼および素(粗ないし1次)エミッション(排ガ
スエミッション,Rohemissionen)に好ましい作用が生じる。」(段落【
0015】)
「提案された機関では,
リットル性能(リットル当り走行距離)
回転モーメント,
作用効率,
素(粗ないし1次)エミッション(排ガス排出物,Rohemmissionen)お
よびキロワット当りのコスト
について競争力のある特性値が期待される。」(段落【0021】)
(カ)「【実施例】ここで本発明の実施例について添付の図を参照して
詳しく説明する。しかしこれはあくまでも実施例であり,発明のコンセ
プトを特定の構成に限定するべきものではない。」(段落【0024】)
「図1は圧縮機のピストン3を制御するための内燃機関の圧縮機ケー
ス1とカム軸2を示す。このピストンは公知のように圧縮リング(図示
せず)と油かきリング(図示せず)を備える。ピストン3はカム4,タ
ペット5,ピストンロッド6,楕円状の回転防止部材(Drehsicherung)
7およびばね8の補助によって作動する。圧縮機ピストン3と回転防止
部材7は確保(脱落防止)されたねじ(固定)部材9でもって結合され
る。ピストンシステムを過剰な回転(数)から保護するために,圧縮機
のシリンダヘッド11に支承(受け)部材10が備えられる。」(段落
【0026】)
「圧縮機の吸入は圧縮機シリンダ13の吸入孔12を介して成される。
排出は過給路(ないしチャンネル)14を介して成される。」(段落【
0027】)
「4サイクル内燃機関はシリンダヘッド16を有する少なくとも一の
シリンダおよび少なくとも一のカム軸2を備え,公知の方法で加圧循環
潤滑および場合によっては過給機と共に稼動される。図1に示される小
圧縮機は内燃機関内へ空気を送り込み,カム制御される過給バルブ15
とサイクルに合わせて連携作動(協動)する。内燃機関のシリンダヘッ
ド16に構成される行程の短い(往復動の小さい:kurzhubig)過給バル
ブ15の他の吸入路とは分離された少なくとも一の過給路14は吸入の
終了後,4サイクル工程の吸入/過給行程が全体的または部分的に維持
されるように制御される。」(段落【0028】)
(キ)「図2に従った内燃機関および圧縮機は,スロットルバルブ(図示
せず)によって制御される吸入路(複数)を介して過給気を吸入する。
…」(段落【0030】)
「圧縮機は吸入孔12を通って内燃機関(の排気容量)に比べて少量
の過給気を吸入し,圧縮機シリンダの中でそれを圧縮し,内燃機関の過
給路14と行程(ストローク)の短い分離した吸入(過給)バルブ15
を介してそれを送給する。こうして始まる作業サイクルは公知の仕方で
進行する。」(段落【0033】)
「上述の実施例は往復動容量(ないし排気量,oszilierendenMassen)
の小さい機関に関するものである。そのカム制御の小圧縮機は直接,す
なわち小圧縮機のシリンダヘッド11に追加バルブなしで,サイクルに
合わせて(taktgerecht)内燃機関と協動することができ,特に小機関に
適する。」(段落【0034】)
(ク)「排気量がより大きい場合には小圧縮機の排気量や往復動容量に依
存してクランク制御される圧縮機が備えられる。例えば単気筒内燃機関
は過給気の前制御用に圧縮機のシリンダヘッド11に好ましくはばね付
勢によるバルブを備える。このバルブのカム制御は必要とされない。し
かしながらこのバルブを制御するための別の可能性があることは専門家
には既知である。そこで小圧縮機の駆動は好ましくはカム軸との組合せ
で好ましくは同一の回転数において,達成されるが,ここで他の回転数
でも可能であり,また,それが必要とされることもある。」(段落【0
035】)
「この実施例の種類において吸入過程を過給路からの重なった過給流
れによって乱されないようにせんがために,小圧縮機のシリンダヘッド
にばね付勢によるバルブが備えられる。このバルブはサイクルに合った
過給過程を導く。その後,カム制御され行程の短い過給バルブ15が内
燃機関のシリンダヘッド16内に開口する。機関のクランクケースの排
気はこの形式の構成の場合,小圧縮機によって達成される。」(段落【
0036】)
「多気筒内燃機関は単気筒または多気筒の圧縮機によって過給される。
この場合サイクルに合った回転数の適合/回転数の上昇が必要となる。
その場合過給気の前制御は圧縮機のシリンダヘッド11内のバルブによ
って達成される。このバルブは内燃機関のカム軸,または圧縮機の回転
する機械部分に備えられるカムのカム軸によってサイクルに合わせて作
動され,またばね付勢されることもできる。このバルブを要求に応じて
発明に従って制御する別の可能性があることも専門家には既知である。」
(段落【0037】)
(ケ)「上述した構成の仕方で提示した本過給システムは,乱流形成によ
り,過給過程においてより良い混合気形成に寄与する。その結果,燃焼
や素(粗)エミッション(排ガス排出物,Rohemissionen)に対する有利
な作用(効果)が得られる。」(段落【0038】)
「機関は吸入,過給,圧縮,作業(膨張仕事:Arbeit)および排出の
サイクル行程(Takt)を有する。正確に言うと,過給行程(Ladetakt)
とは,後過給行程(Nachladetakt)である。これに対して,従来の過給
の場合吸入行程は過給行程によって置き換えられる。」(段落【004
4】)
(2)引用文献の記載事項について
引用文献(特開2002-303144号公報)(甲1)には,次のよう
な記載がある(下記記載中に引用する図1ないし5,11については別紙2
を参照)。
ア「【発明の属する技術分野】本発明は,一体に作動する一対のピストン
をシリンダブロックに形成した共通のシリンダに摺動自在に支持し,その
シリンダの両端に形成した一対の圧縮室を蓄圧室および過給バルブを介し
てエンジンの燃焼室に接続した複動式ピストン過給機に関する。」(段落
【0001】)
イ「【従来の技術】かかる複動式ピストン過給機は,特開2000-87
754号公報により公知である。またエアクリーナと吸気弁とを接続する
吸気通路にスクリューポンプ式の過給機を備えたエンジンにおいて,過給
機と吸気ポートとの間に蓄圧室(リザーバ)を配置するとにより過給圧の
脈動を防止するものが,特公昭56-10451号公報により公知であ
る。」(段落【0002】)
ウ「【発明が解決しようとする課題】ところで,上記特開2000-87
754号公報に記載されたものは,過給機のシリンダブロックの両端に形
成した一対の圧縮室を,該シリンダブロックの外部に設けた吸入用のパイ
プおよび排出用のパイプで相互に連通させているので,それらパイプ自体
によって部品点数が増加するだけでなく,パイプの接続部のシール部材に
よって更に部品点数が増加する問題があった。また上記特公昭56-10
451号公報に記載されたものは,過給機のケーシングと蓄圧室とが別部
材で構成されているため,部品点数が増加して吸気系をコンパクトに構成
するのが難しくなるという問題があった。」(段落【0003】)
「本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので,蓄圧室を備えた複動式
ピストン過給機の部品点数をできるだけ削減することを目的とする。」(
段落【0004】)
エ「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,請求項1
に記載された発明によれば,一体に作動する一対のピストンをシリンダブ
ロックに形成した共通のシリンダに摺動自在に支持し,そのシリンダの両
端に形成した一対の圧縮室を蓄圧室および過給バルブを介してエンジンの
燃焼室に接続した複動式ピストン過給機において,前記蓄圧室を前記シリ
ンダブロックに一体に形成したことを特徴とする複動式ピストン過給機が
提案される。」(段落【0005】)
「上記構成によれば,複動式ピストン過給機のシリンダブロックに蓄圧
室を一体に形成したので,シリンダブロックに対して蓄圧室を別部材で構
成する場合に比べて部品点数の削減および寸法の小型化が可能になるだけ
でなく,圧縮室および蓄圧室をシリンダブロックの外部に配置したパイプ
で連通させる必要がなくなるため,パイプそのものと該パイプのシール部
材とが不要になって部品点数や組付工数が更に削減される。」(段落【0
006】)
オ「図1および図2に示すように,単気筒4サイクルエンジンEの外郭は,
クランクケース11と,シリンダブロック12と,シリンダヘッド13と,
ヘッドカバー14とで構成されており,クランクケース11に一対のボー
ルベアリング15,15で支持したクランクシャフト16と,シリンダス
リーブ17に摺動自在に嵌合するピストン18とが,コネクティングロッ
ド19を介して相互に連結される。シリンダヘッド12に燃焼室20に連
通する吸気ポート21,排気ポート22および過給ポート23が形成され
ており,それら吸気ポート21,排気ポート22および過給ポート23が
それぞれ吸気バルブ24,排気バルブ25および過給バルブ26により開
閉される。」(段落【0018】)
「シリンダヘッド13の中央部には1本のカムシャフト27が一対のボ
ールベアリング28,28を介して支持されており,そのカムシャフト2
7の一端に固定した従動スプロケット29と,クランクシャフト16に固
定した駆動スプロケット30とがタイミングチェーン31を介して接続さ
れる。…また過給バルブ26は,カムシャフト27に設けた過給カム41
により直接的に駆動される。」(段落【0019】)
「而して,クランクシャフト16の回転が駆動スプロケット30,タイ
ミングチェーン31および従動スプロケット29を介して伝達されるカム
シャフト27がクランクシャフト16の2分の1の回転数で回転すると,
カムシャフト27に設けた吸気カム37により吸気ロッカーアーム35を
介して吸気バルブ24が開閉駆動されるとともに,カムシャフト27に設
けた排気カム39により排気ロッカーアーム36を介して排気バルブ25
が開閉駆動され,更にカムシャフト27に設けた過給カム41により過給
バルブ26が開閉駆動される。過給バルブ26は例えば吸気行程の末期に
短期間だけ開弁し,圧縮された空気を燃焼室20の供給してエンジンEの
出力を向上させる。」(段落【0020】)
カ「過給機CはエンジンEのシリンダヘッド13に支持したカムシャフト
27の一端側の側面(従動スプロケット29と反対側の側面)を覆うカバ
ー51(図2参照)に支持されるもので,カムシャフト27の一端に同軸
にスプライン結合されたクランクシャフト52を備える。クランクシャフ
ト52を一対のボールベアリング53,53を介して支持するシリンダブ
ロック54は,クランクシャフト52の軸線を含む平面で上側の第1シリ
ンダブロック半体55Uと,下側の第2シリンダブロック半体55Lとに
分割されており,カムシャフト27寄りのボールベアリング53の外側に
シール部材56(図4参照)が挟持される。」(段落【0022】)
「第1シリンダブロック半体55Uの上面に,薄い金属板で形成された
第1吸入リードバルブ57Uと,金属板よりなる第1弁板58Uと,薄い
金属板で形成された第1排出リードバルブ59Uと,第1シリンダヘッド
60Uとが積層され,第2シリンダブロック半体55Lの下面に,薄い金
属板で形成された第2吸入リードバルブ57Lと,金属板よりなる第2弁
板58Lと,薄い金属板で形成された第2排出リードバルブ59Lと,第
2シリンダヘッド60Lとが積層される。そして上方から挿入される4本
のボルト61…で,…共締めされる。」(段落【0023】)
「シリンダブロック54に形成したシリンダ54a内部に,上側の第1
ピストン62Uおよび下側の第2ピストン62Lが摺動自在に嵌合する。
クランクシャフト52に設けたクランクピン63と第1ピストン62Uに
支持したピストンピン64とがコネクティングロッド65を介して連結さ
れており,第2ピストン62Lから上方に長く延びるスカート部62aが
前記ピストンピン64に連結される。…」(段落【0024】)
キ「エンジンEの運転に伴ってクランクシャフト16によりタイミングチ
ェーン31を介してカムシャフト27が駆動されると,カムシャフト27
に直結した過給機Cのクランクシャフト52が回転する。クランクシャフ
ト52が回転するとコネクティングロッド65を介して第1,第2ピスト
ン62U,62Lがシリンダ54a内を一体に上下動する。図5に示すよ
うに,第1,第2ピストン62U,62Lが上動するとき,第1ピストン
62Uにより第1圧縮室69Uの容積が減少して圧力が上昇するため,第
1排出リードバルブ59Uの排出リード59dが上方に撓み,第1圧縮室
69U内の空気が第1排出室71Uを経て蓄圧室73に供給される。これ
と同時に第2ピストン62Lにより第2圧縮室69Lの容積が増加して圧
力が低下するため,第2吸入リードバルブ57Lの吸入リード57dが上
方に撓み,第2吸入室70L内の空気が第2圧縮室69Lに供給される。」
(段落【0034】)
「クランクシャフト52が更に回転して第1,第2ピストン62U,6
2Lがシリンダ54a内を一体に下動するとき,図11に示すように,第
1ピストン62Uにより第1圧縮室69Uの容積が増加して圧力が低下す
るため,第1吸入リードバルブ57Uの吸入リード57dが下方に撓み,
第2吸入室70L内の空気が吸入ポート72および第1吸入室70Uを経
て第1圧縮室69Uに供給される。これと同時に第2ピストン62Lによ
り第2圧縮室69Lの容積が減少して圧力が増加するため,第2排出リー
ドバルブ59Lの排出リード59dが下方に撓んで第2圧縮室69L内の
空気が蓄圧室73に供給される。」(段落【0035】)
「このようにして,第1,第2ピストン62U,62Lの往復動に伴っ
て吸入パイプ74から吸入された空気は第1,第2圧縮室69U,69L
で交互に圧縮されて蓄圧室73に蓄圧される。そして過給バルブ26が開
弁した瞬間に,蓄圧室73の高圧の空気は過給パイプ75,過給ポート2
3および過給バルブ26を経て燃焼室20に供給され,エンジンEの出力
を増加させる。第1,第2ピストン62U,62Lの位相が180°ずれ
ているため,吐出圧の脈動を減少させることができ,更に蓄圧室73が圧
力緩衝作用を発揮することで,過給圧の脈動を更に効果的に減少させるこ
とができる。」(段落【0036】)
「以上,本発明の実施例を詳述したが,本発明はその要旨を逸脱しない
範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。」(段落【0043】)
ク「【発明の効果】以上のように請求項1に記載された発明によれば,複
動式ピストン過給機のシリンダブロックに蓄圧室を一体に形成したので,
シリンダブロックに対して蓄圧室を別部材で構成する場合に比べて部品点
数の削減および寸法の小型化が可能になるだけでなく,圧縮室および蓄圧
室をシリンダブロックの外部に配置したパイプで連通させる必要がなくな
るため,パイプそのものと該パイプのシール部材とが不要になって部品点
数や組付工数が更に削減される。」(段落【0044】)
(3)一致点の認定等の誤りの有無について
原告は,本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点のうち,「内
燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路が,内燃機関のシ
リンダヘッドに構成されている行程の短い少なくとも一の過給バルブによっ
て,4サイクル工程のサイクルに合わせて開かれる」との部分(A部分)及
び「小圧縮機は専らクランク制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダ
のサイクルに合った過給のためにカム軸の回転数をもって作動する」との部
分(B部分)は,本願発明の解決原理ないし基本的技術思想を無視し,本願
発明の必須の構成要件の一部を恣意的に抽出して一致点と認定したものであ
るから,誤りであり,さらには,本件審決が認定した本願発明と引用発明と
の相違点2及び3は,誤った一致点の認定に依拠して認定したものであるか
ら,不適切であって失当である旨主張する。
アA部分について
前記(2)認定の引用文献の記載事項によれば,引用文献には,本件審決認
定のとおり,「シリンダヘッド13を有するシリンダブロック12と,カ
ムシャフト27とを備え,エンジンEのシリンダヘッド13に支持したカ
ムシャフト27の一端側の側面を覆うカバー51に支持され,かつ第1,
第2シリンダヘッド60U,60Lを有するシリンダブロック54を備え
る過給機Cが,空気を供給し且つカムシャフト27に設けた過給カム41
により開閉駆動する過給バルブ26と協働する,単気筒4サイクルエンジ
ンEであって,エンジンEの吸気ポート21とは分離される過給パイプ7
5,過給ポート23が,エンジンEの吸気行程の末期に,エンジンEのシ
リンダヘッド13に構成され,かつカムシャフト27に設けた過給カム4
1により開閉駆動される過給バルブ26によって,短期間だけ開かれるこ
と,過給機Cはクランクシャフト52が回転するとコネクティングロッド
65を介して第1,第2ピストン62U,62Lがシリンダ54a内を上
下動するものであり,クランシャフト52はカムシャフト27の一端に同
軸スプライン結合されている単気筒4サイクルエンジンE。」(引用発明)
が記載されていることが認められる。
そして,引用文献の単気筒4サイクルエンジンEの吸気ポート21とは
分離される過給パイプ75,過給ポート23が「エンジンEの吸気行程の
末期」に「カムシャフト27に設けた過給カム41により開閉駆動される
過給バルブ26によって,短期間だけ開かれる」ことは,過給パイプ75,
過給ポート23が4サイクル行程(吸気行程,圧縮行程,燃焼行程及び排
気行程)のサイクルに合わせて開かれ,かつ,その具体的態様が「吸気行
程の末期」に「短時間だけ」開かれることを意味するものと理解できる。
他方で,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本願
発明は,「内燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路(
14)が,内燃機関の吸入の終了後に,内燃機関のシリンダヘッド(16)
に構成されている行程の短い少なくとも一の過給バルブ(15)によって,
4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは部
分的に維持されているようにサイクルに合わせて開かれる」構成を有する
ものである。この構成は,一の過給路が一の過給バルブ(15)によって
4サイクル工程のサイクルに合わせて開かれ,かつ,その具体的態様が「
内燃機関の吸入の終了後」に「吸入行程或いは過給行程が行程として全体
的にまたは部分的に維持されているように」開かれることを意味するもの
と理解できる。
そして,引用文献の単気筒4サイクルエンジンEの「吸気ポート21と
は分離される過給パイプ75」及び「過給バルブ26」は,本願発明の「
少なくとも一の過給路」及び「行程の短い少なくとも一の過給バルブ」に
相当するから(争いがない。),引用文献の単気筒4サイクルエンジンE
と本願発明とは,一の過給路が一の過給バルブによって4サイクル工程の
サイクルに合わせて開かれる点で共通し,その具体的態様が,引用文献の
単気筒4サイクルエンジンEにおいては,「吸気行程の末期」に「短時間
だけ」開かれるのに対し,本願発明においては,「内燃機関の吸入の終了
後」に「吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的に維
持されているように」開かれる点で異なるものといえる。
そうすると,本件審決が,「内燃機関の他の吸入路とは分離される少な
くとも一の過給路が,内燃機関のシリンダヘッドに構成されている行程の
短い少なくとも一の過給バルブによって,4サイクル工程のサイクルに合
わせて開かれる」点(A部分)を引用文献の単気筒4サイクルエンジンE
(引用発明)と本願発明との一致点として認定したことに誤りはない。
また,本件審決は,上記具体的態様の相違を相違点2として認定してお
り,その認定に誤りはない。
イB部分について
前記(2)認定の引用文献の記載事項によれば,引用文献の単気筒4サイク
ルエンジンEの過給機Cは,「エンジンEのシリンダヘッド13に支持し
たカムシャフト27の一に同軸にスプライン結合されたクランクシャフト
52」を備え,エンジンEの運転に伴ってクランクシャフト16によりタ
イミングチェーン31を介してカムシャフト27が駆動されると,カムシ
ャフト27に直結したクランクシャフト52が回転し,クランクシャフト
52が回転するとコネクティングロッド65を介して第1,第2ピストン
62U,62Lがシリンダ54a内を一体に上下動する(段落【0022
】,【0034】)から,カムシャフト27の回転数をもって作動するも
のであり,過給機Cは,「専らクランク制御され,内燃機関の少なくとも
一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸の回転数をもって作
動する」ものと理解できる。この過給機Cが本願発明の「小圧縮機」に相
当することは争いがない。
他方で,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本願
発明は,「小圧縮機」が「専らカム制御」される場合と「専らクランク制
御」される場合があり,「小圧縮機」が「専らクランク制御」される場合
には,「吸入行程或いは過給行程が過給路(14)からの過給流れの重な
りで乱されないために過給気を前制御し,内燃機関の少なくとも一のシリ
ンダのサイクルに合った過給のためにカム軸(2)の回転数をもってまた
はカム軸(2)の回転数に比べて各シリンダに対してサイクルに合った上
昇回転数をもって作動する」構成を有するものである。この構成によれば,
本願発明において「小圧縮機」が「専らクランク制御」される場合,「吸
入行程或いは過給行程が過給路からの過給流れの重なりで乱されないため
に過給気」を「前制御」することが必須の要件となっていることを理解で
きる。これに対し引用文献には,かかる「前制御」についての記載がない
から,引用文献の単気筒4サイクルエンジンEにおいては「前制御」を行
っていないものと理解できる。
そして,本願発明において「小圧縮機」が「専らカム制御」される場合
と「専らクランク制御」される場合とは選択的構成であり,いずれか一方
の制御をする構成のものも本願発明に含まれ得るから,「小圧縮機は専ら
クランク制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダのサイクルに合っ
た過給のためにカム軸の回転数をもって作動する」点(B部分)を引用文
献の単気筒4サイクルエンジンE(引用発明)と本願発明との一致点とし
て認定したことに誤りはない。
また,本件審決が認定した相違点3は,「本願発明においては,(i)
小圧縮機は専らカム制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダのサイ
クルに合った過給のためにカム軸の回転数をもって作動するか,または,
(ii)小圧縮機は専らクランク制御され,吸入行程或いは過給行程が過
給路からの過給流れの重なりで乱されないために過給気を前制御し,内燃
機関の少なくとも一のシリンダのサイクルに合った過給のためにカム軸の
回転数をもってまたはカム軸の回転数に比べて各シリンダに対してサイク
ルに合った上昇回転数をもって作動するのに対し,引用発明においては,
小圧縮機は専らクランク制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダの
サイクルに合った過給のためにカム軸の回転数をもって作動する点」とい
うものであり,本願発明において「小圧縮機」が「専らクランク制御」さ
れる場合に「前制御」が必須の要件であるのに対し,引用文献の単気筒4
サイクルエンジンEにおいては「前制御」を行っていない点については,
この相違点3の中で認定しているものと理解できる。したがって,本件審
決における相違点3の認定にも誤りはない。
ウ原告の主張について
原告は,本願発明の「少なくとも一の過給路が,内燃機関の吸入の終了
後に,…少なくとも一の過給バルブ(15)によって,4サイクル工程の
吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的に維持されて
いるようにサイクルに合わせて開かれる」構成のうち,「内燃機関の吸入
の終了後に」,「4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として
全体的にまたは部分的に維持されているように」との部分は必要不可欠な
構成であるにもかかわらず,本件審決が,この構成を省いてA部分のみを
一致点として抽出し,また,小圧縮機がクランク制御式の場合には,「吸
入行程或いは過給行程が過給路(14)からの過給流れの重なりで乱され
ないために過給気を前制御」する構成が本願発明の必要不可欠な構成であ
るにもかかわらず,本件審決が,この構成を省いてB部分のみを一致点と
して抽出することは,本願発明の解決原理ないし基本的技術思想を無視す
るものといえるから,誤りである旨主張する。
しかしながら,前記ア及びイのとおり,本件審決がA部分及びB部分を
一致点と認定したことに誤りはなく,また,本件審決は,本願発明が原告
主張の本願発明の必要不可欠な構成を有しているのに対し,引用発明がこ
れを有していない点を相違点2及び3として認定しているのであるから,
本願発明の解決原理ないし基本的技術思想を無視するものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(4)小括
以上によれば,本件審決における一致点の認定に原告主張の誤りはなく,
本件審決における相違点2及び3の誤りをいう原告の主張も,その前提を欠
くものであるから,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について
(1)原告は,本件審決には,引用発明に本件審決認定の周知技術1(「圧縮機
などの過給装置付き内燃機関において,内燃機関の他の吸入路とは分離され
る少なくとも一の過給路が,内燃機関の吸入の終了後に,4サイクル行程の
吸入行程或いは過給行程が行程として維持されているようにサイクルに合わ
せて開かれる」こと)を適用することの動機付けが示されておらず,また,
周知技術1には,相違点2に係る本願発明の構成のうち,「全体的にまたは
部分的に維持」との部分が含まれていないから,引用発明に周知技術1を適
用したからといって,相違点2に係る本願発明の構成となるわけではないな
どとして,引用発明において,周知技術1を適用し,相違点2に係る本願発
明のように特定することは,当業者が格別困難なく想到し得るものである旨
の本件審決の判断は誤りである旨主張する。
ア周知技術1に係る周知例の記載事項
本件審決が,周知技術1が周知であることの例示として挙げた文献(甲
4ないし7)には,次のような記載がある。
(ア)甲4の記載事項
実願昭59-75685号(実開昭60-187331号)のマイク
ロフィルム(甲4)には,次のような記載がある(下記記載中に引用す
る第4図及び第7図については別紙3を参照)。
a「(考案の目的)
この考案はこのような問題点に着目しなされたもので,コンプレッ
ションブレーキ装置を採用した内燃機関に,第3弁を介して燃焼室か
ら逃げ出す圧縮空気を高圧タンクに蓄え,過給用の高圧空気として再
利用することにより,コンプレッサの駆動力を節約するようにした内
燃機関の過給装置を提供することを目的とする。」(明細書の5頁6
行~13行)
b「(考案の構成及び作用)
そのため,この考案は,燃焼室に吸排気弁とともに第3弁を設け,
燃焼室と高圧空気源を第3弁を介し接続する高圧通路を形成する一
方,機関運転状態を検出する手段を設け,機関低速高負荷時に第3弁
を圧縮行程初期に所定期間だけ開弁させる制御手段と,機関減速時に
同じく第3弁を圧縮行程初期と終期にそれぞれ所定期間だけ開弁させ
る制御手段とを備える。
即ち,エンジンブレーキ作動時(減速時)に,第3弁が圧縮行程上
死点付近で開くと,第3弁を介して燃焼室から逃げ出す圧縮空気は高
圧空気源に蓄えられる。
そして,この圧縮空気は加速走行に移行すると,この時には圧縮行
程初期で開く第3弁を介し過給用の高圧空気として燃焼室に供給され
る。」(明細書の5頁14行~6頁9行)
「(実施例)…
第4図において、13は機関本体1の燃焼室、15はその吸気弁、
16は排気弁、2は高速型のターボ過給機を示す。」(同6頁10行
~16行)
c「次に作用を説明する。
例えば低速走行から加速走行に移行すると,コントロール装置27
は電磁弁44を介しリリーフ弁40を閉じる。
これに伴って,ピストンポンプ33からの圧油が油室29へと供給
され,第3弁26は第7図実線で示すように,機関回転に同期して圧
縮行程下死点付近で所定期間開く。
これにより,高圧空気タンク6から第3弁26を介し高圧空気が直
接的に燃焼室13に供給され,従って燃焼室内の空気量はターボ過給
機2の過給気量に加えて,低回転から急速に増加するため,ターボ過
給の応答遅れ(ターボラグ)が改善される。
この場合,高圧空気タンク6からの高圧空気は直接,燃焼室13に
供給されるため,従来(第1図)のように吸気マニホールド3を介し
供給する場合と違って吸排気系に逃げることがなく,このため,燃焼
室13の空気量の立ち上がりが急速で,ターボラグの更に一段の改善
が図れる。」(明細書の9頁7行~10頁6行)
d「以上本考案をターボ過給ディーゼル機関に適用した例を用い説明
したが本考案はターボ過給の有無を問わず内燃機関一般に適用できる
ことは明らかである。」(明細書の11頁15行~18行)
(イ)甲5の記載事項
実願昭55-45221号(実開昭56-147313号)のマイク
ロフィルム(甲5)には,次のような記載がある(下記記載中に引用す
る第2図及び第3図については別紙4を参照)。
a「本出願人により分離過給システムとして,吸気通路とは別の過給
通路を設け,吸入行程が終了してから過給通路の第3弁を開いてシリ
ンダ内へ高圧空気を追加導入することにより,小容量の過給機で実質
的な吸気充填効率を高められるようにした装置が提案されている。」
(明細書の2頁4行~9行)
b「この第3弁9は吸入行程の終了付近から圧縮行程初期にかけて開
き,燃焼室10内へ過給通路8からの加圧混合気を追加導入するよう
になつている。…第2図は吸入行程であって,吸気弁4が開いてピス
トン11の下降に伴い,吸気通路2からの混合気が吸入される(・・・)。
このとき第3弁9は閉じており,過給通路8には過給機1からの吐
出過給気が待機している。第3図のように吸入行程が終了して吸気弁
4が閉じると,第3弁9が開く。
このため,過給通路8から瞬時のうちに加圧空気が燃焼室10へ追
加導入される。そして第3弁9は,ピストン11の上昇に伴いシリン
ダ内圧が高まり内部ガスが過給通路8に逆流する前に閉弁して過給を
終了するのである。」(明細書の3頁10行~4頁7行)
(ウ)甲6の記載事項
実願昭55-39977号(実開昭56-142225号)のマイク
ロフィルム(甲6)には,次のような記載がある(下記記載中に引用す
る第3図については別紙5を参照)。
a「本出願人により分離過給システムとして,吸気通路とは別の過給
通路を設け,吸入行程が終了してから過給通路の第3弁を開いてシリ
ンダ内へ高圧空気を追加導入することにより,小容量の過給機で実質
的な吸気充填効率を高められるようにした装置が提案されている。」
(明細書の2頁10行~15行)
b「この第3弁9は吸入行程の終了付近から圧縮行程初期にかけて開
き,燃焼室10内へ過給通路8からの加圧混合気を追加導入するよう
になつている。…第2図は吸入行程であって,吸気弁4が開いてピス
トン11の下降に伴い,吸気通路2からの混合気が吸入される(・・・)。」
(明細書の3頁16行~4頁4行)
c「このとき第3弁9は閉じており,過給通路8には過給機1からの
吐出過給気が待機している。第3図のように吸入行程が終了して吸気
弁4が閉じると,第3弁9が開く。
このため,過給通路8から瞬時のうちに加圧空気が燃焼室10へ追
加導入される。」(明細書の4頁5行~10行)
(エ)甲7の記載事項
実願昭55-38324号(実開昭56-139828号)のマイク
ロフィルム(甲7)には,次のような記載がある(下記記載中に引用す
る第3図ないし第8図については別紙6を参照)。
a「分離過給エンジンとして,多気筒を持つエンジンの一つの気筒を
コンプレッサとして作動させ,その吐出混合気を吸気通路とは別の過
給通路を介して動力気筒へ過給するようにしたエンジンが本出願人に
より提案されている。
これは,クランク軸を介して動力気筒とともに往復動するコンプレ
ッサがクランク1回転につき1回の吐出作用をなし,吸入行程が終了
してから過給通路の第3弁を開いて,その加圧混合気をシリンダ内へ
追加導入するので,小容量のコンプレッサで実質的な吸気充填効率を
高めることができるだけでなく,低速域でも充分な過給率が得られる
という利点がある。」(明細書の2頁5行~17行)
b「第1図~第4図は,4つの動力気筒♯1~♯4がクランク軸1を
介して1つのコンプレッサ(ポンプ気筒)2を駆動するようにした分
離過給装置の実施例である。
コンプレッサ2は,…シリンダ部4と,シリンダ部4に摺動自由に
収められたコンプレッサピストン5と,クランク軸1の回転運動をリ
ンク6を介してピストン5の往復直線運動に変換するロッド7とを備
える。」(明細書の3頁15行~4頁4行)
c「次に作用について説明する。
第3図は,クランク軸1の回転につれてリンク6がロッド7を引張
り,ピストン5を下降させつつある状態を表し…」(明細書の5頁1
4行~17行)
「第4図は,リンク6が下死点を通過して後,ピストン5を上昇さ
せつつある状態を示す…」(同6頁13行~14行)
「第5図,第6図は本考案の第2の実施例であり,ピストンロッド
7の下端部に形成したタペット部27をクランク軸1に設けた偏心円
カム28を介して上下動させるようにした例である。
…タペット部27は常時カム28に弾接している。
このため,ピストン5は,カム28の回動に応じたリフトの変化に
追従して上下動し,第1図~第4図の装置と全く同様の作用をなす。」
(同7頁19行~8頁9行)
d「第7図(a),(b)に示した実施例では,一組の円板29a,29b
の対向する面に形成した円形の溝カム30と,この溝カム30と係合
するT字状の従動端部31を設けたロッド7とでカム機構を構成し,
クランク軸1に対して偏心して設けた溝カム30の回転に応じて従動
端部31が上下し,コンプレッサピストン5を駆動する。」(明細書
の8頁13行~19行)
「第8図に示した実施例では,クランク軸1に設けた偏心円(真円)
カム32と,ロッド7の下端部に設けたコの字型のヨーク部33とで
カム機構を形成し,カム32の平行接線で常時接触するヨーク部33
を介してカム32のリフト変化をピストン5に伝え,これを強制的に
往復道させる。」(同8頁末行~9頁5行)
イ相違点2の容易想到性の有無について
(ア)本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,本願発明の「内燃機
関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路(14)が,内燃
機関の吸入の終了後に,内燃機関のシリンダヘッド(16)に構成され
ている行程の短い少なくとも一の過給バルブ(15)によって,4サイ
クル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的
に維持されているようにサイクルに合わせて開かれる」との構成のうち,
「4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまた
は部分的に維持されているように」の意義について具体的に規定した記
載はない。
また,本願明細書には,「4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程
が行程として全体的にまたは部分的に維持されているように」の意義に
ついて直接的に説明した記載はないが,一方で,「内燃機関は(小)圧
縮機によって,例えば給気(Ladung)のうちの一部分のみが,内燃機関
の作業サイクル用に前圧縮され,カム軸によって制御され行程の短い(
往復動の小さい:kurzhubig)バルブの補助によって,分離した過給路を
通って,内燃機関の吸入(行程)の終了後供給されるように過給される。
従来の内燃機関の吸入路はその際保持(維持)される。」(段落【00
15】),「4サイクル内燃機関はシリンダヘッド16を有する少なく
とも一のシリンダおよび少なくとも一のカム軸2を備え,公知の方法で
加圧循環潤滑および場合によっては過給機と共に稼動される。図1に示
される小圧縮機は内燃機関内へ空気を送り込み,カム制御される過給バ
ルブ15とサイクルに合わせて連携作動(協動)する。内燃機関のシリ
ンダヘッド16に構成される行程の短い(往復動の小さい:kurzhubig)
過給バルブ15の他の吸入路とは分離された少なくとも一の過給路14
は吸入の終了後,4サイクル工程の吸入/過給行程が全体的または部分
的に維持されるように制御される。」(段落【0028】),「この実
施例の種類において吸入過程を過給路からの重なった過給流れによって
乱されないようにせんがために,小圧縮機のシリンダヘッドにばね付勢
によるバルブが備えられる。このバルブはサイクルに合った過給過程を
導く。」(段落【0036】),「機関は吸入,過給,圧縮,作業(膨
張仕事:Arbeit)および排出のサイクル行程(Takt)を有する。正確に
言うと,過給行程(Ladetakt)とは,後過給行程(Nachladetakt)であ
る。これに対して,従来の過給の場合吸入行程は過給行程によって置き
換えられる。」(段落【0044】)との記載がある。
請求項1の文言と本願明細書の上記記載を総合すると,本願発明の「
4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは
部分的に維持されているように」とは,シリンダ内をピストンが上死点
から下降しながら下死点に達するまでの間に,吸入バルブが開閉して吸
気(吸入)する吸入行程あるいはその吸入の際に過給機による過給気の
吸入が併せて行われる過給行程が,その吸入中に,小圧縮機の駆動によ
る過給路からの過給気の供給と重なって乱されることのないように行程
として維持されることを意味し,「全体的にまたは部分的に」とは,ピ
ストンが上死点から下死点に達するまでの間の行程全体又はその間の部
分的な行程を意味するものと理解できる。
そして,本願発明は,吸入行程あるいは過給行程における「吸入の終
了後に」,小圧縮機の駆動による過給を行うことによって,「4サイク
ル工程の吸入行程或いは過給行程が行程として全体的にまたは部分的に
維持されているように」したものといえる。
しかるところ,前記アによれば,甲4ないし7には,過給装置付き内
燃機関において,吸排気弁とは別の第3弁を吸気行程の終了後に所定期
間開弁させて,吸気通路とは別の過給通路を介してシリンダ内に過給す
る構成が開示されていることが認められる。この構成は,内燃機関の吸
入行程における吸入の終了後に,過給装置の駆動により第3弁を開いて
過給路から過給を開始するものであって,吸入行程における吸入と過給
装置の駆動による過給気の供給とが重なることはないから,過給路が過
給バルブ(第3弁)によって,「4サイクル工程の吸入行程が行程とし
て全体的に維持されているように」サイクルに合わせて開かれることを
開示するものといえる。
また,本件出願の優先権主張日(平成17年9月5日)当時,内燃機
関の吸入行程において,スーパーチャージャーなどの過給機により吸入
と併せて過給を行うことは普通に行われていたものと認められる。
以上によれば,本件審決が周知技術1として認定したとおり,本件出
願の優先権主張日当時,「圧縮機などの過給装置付き内燃機関において,
内燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路が,内燃機
関の吸入の終了後に,4サイクル行程の吸入行程或いは過給行程が行程
として維持されているようにサイクルに合わせて開かれる」ことは周知
であったことが認められる。
このように内燃機関の吸入の終了後に過給バルブによって過給路が開
かれて過給を開始する技術的意義は,吸入バルブと過給バルブが同時に
開かれていると,高圧の過給気が吸入バルブによって開かれた低圧の吸
入路へ逆流して吸気重点効率ないし過給効果が低減することを防止する
ことにあるものと理解できる。
(イ)引用文献には,「過給バルブ26は例えば吸気行程の末期に短期間
だけ開弁し,圧縮された空気を燃焼室20の供給してエンジンEの出力
を向上させる。」(段落【0020】),「以上,本発明の実施例を詳
述したが,本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行う
ことが可能である。」(段落【0043】)との記載がある。この記載
によれば,引用文献の単気筒4サイクルエンジンEにおいて,過給バル
ブ26が「吸気行程の末期に」開かれることは例示であって,「エンジ
ンEの出力を向上させる」ために過給バルブ26が別のタイミングで開
かれ得ること示唆するものといえる。
そして,吸入バルブと過給バルブが同時に開かれていると,高圧の過
給気が吸入バルブによって開かれた低圧の吸入路へ逆流することがある
ことは技術常識であるといえるから,引用文献の単気筒4サイクルエン
ジンEにおいて,このような逆流により吸気充填効率ないし過給効果が
低減することを防止するため,周知技術1を適用する動機付けがあるも
のと認められる。
そうすると,引用文献に接した当業者は,引用文献の単気筒4サイク
ルエンジンEにおいて周知技術1を適用して内燃機関の吸入の終了後に
過給路を開くような構成とすることを容易に想到することができたもの
と認められる。また,内燃機関の吸入行程においてピストンが上死点か
ら下死点に達するまでの間吸入を行い,下死点に到達した時点で吸入を
終了し,又はその間の途中で吸入を終了することは,当該内燃機関に必
要とされる吸気充填効率等を勘案して適宜選択される設計的事項である
ものと認められる。
したがって,引用文献に接した当業者は,引用文献の単気筒4サイク
ルエンジンEにおいて周知技術1を適用して,「内燃機関の過給路が,
内燃機関の吸入の終了後に,4サイクル工程の吸入行程或いは過給行程
が行程として全体的にまたは部分的に維持されているようにサイクルに
合わせて開かれる」構成を採用することを容易に想到することができた
ものと認められる。
ウ原告の主張について
(ア)原告は,引用発明に本件審決認定の周知技術1を適用することの動
機付けが示されておらず,また,周知技術1には,相違点2に係る本願
発明の構成のうち,「全体的にまたは部分的に維持」との部分が含まれ
ていないから,引用発明に周知技術1を適用したからといって,相違点
2に係る本願発明の構成となるわけではないなどとして,当業者が引用
発明に周知技術1を適用し,相違点2に係る本願発明の構成に想到する
ことは容易ではない旨主張する。
しかしながら,引用発明に周知技術1を適用する動機付けがあること
は,前記イ(イ)で述べたとおりである。また,前記イ(イ)のとおり,内
燃機関の吸入行程においてピストンが上死点から下死点に達するまでの
間吸入を行い,下死点に到達した時点で吸入を終了し,又はその間の途
中で吸入を終了することは当該内燃機関に必要とされる吸気充填効率等
を勘案して適宜選択される設計的事項であるから,周知技術1には,相
違点2に係る本願発明の構成のうち,「全体的にまたは部分的に維持」
との部分が含まれていないことは,相違点2に係る本願発明の構成の容
易想到性を否定する根拠にはならないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(イ)次に,原告は,本願発明は,相違点2に係る構成だけで構成されて
いるのではなく,総合的な構成により把握されるべきものであるから,
そもそも相違点2を孤立的に取り上げて判断すること自体が誤りであ
り,たとえ,引用発明に周知技術1を適用したとしても,それに基づく
クランク制御される小圧縮機では,時間に関して厳密な後過給のための
前制御機構(前制御用のバルブ)が本願発明に必要不可欠であるのに,
本件審決においては,このことが全く触れられていない旨主張する。
しかしながら,原告が指摘する本願発明と引用発明との小圧縮機の駆
動制御の形態(駆動形態)の相違については,本件審決は,相違点3と
して認定及び判断している。そして,内燃機関の過給路が開かれるタイ
ミングの相違に係る相違点2と小圧縮機の駆動形態の相違に係る相違点
3とは,技術内容としては別個のものであるから,本件審決が相違点2
及び3を一括して判断せずに,個別的に判断したことが本願発明の進歩
性の判断手法として不適切であるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2)以上によれば,相違点2の容易想到性についての本件審決の判断に誤りは
なく,原告主張の取消事由2は理由がない。
3取消事由3(相違点3の容易想到性の判断の誤り)について
(1)原告は,本件審決は,甲7を周知例として挙げて,「圧縮機の駆動形態と
して,カムを用いた駆動形態(カム制御)或いはクランク機構を用いた駆動
形態(クランク制御)」は周知技術(周知技術2)であると認定した上で,
甲7にクランク制御を採用した駆動形態とカム制御を採用した駆動形態が示
されているように,どちらの駆動形態を採用するかは,当業者が適宜選択し
得る設計的事項であり,引用発明において,小圧縮機の駆動形態として,ク
ランク制御による駆動形態に代えて,カム制御による駆動形態を採用し,「
小圧縮機は専らカム制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダのサイク
ルに合った過給のためにカム軸の回転数をもって作動する」ように構成(相
違点3に係る本願発明の構成)することは,当業者が格別困難なく想到し得
るものである旨判断したが,甲7記載の「偏心円カム」あるいは「溝カム」
による制御は,偏心機構による制御であって,本願発明にいう「カム制御」
に含まれず,甲7は,本願発明にいう「カム制御」される小圧縮機を開示
するものではないから,本件審決における周知技術2の認定に誤りがあり,
本件審決の上記判断も誤りである旨主張する。
ア周知技術2の認定の誤りの有無について
(ア)前記2(1)ア(エ)によれば,甲7には,①シリンダ部4と,シリン
ダ部4に摺動自由に収められたコンプレッサピストン5と,クランク軸
1の回転運動をリンク6を介してピストン5の往復直線運動に変換する
ロッド7とを備えるコンプレッサ2(第3図及び第4図),②ピストン
ロッド7の下端部に形成したタペット部27をクランク軸1に設けた偏
心円カム28の回動に応じたリフト量の変化に追従してピストン5を上
下動させるようにしたコンプレッサ2(第5図及び第6図),③一組の
円板29a,29bの対向する面に形成した円形の溝カム30と,この
溝カム30と係合するT字状の従動端部31を設けたロッド7とでカム
機構を構成し,クランク軸1に対して偏心して設けた溝カム30の回転
に応じて従動端部31が上下してピストン5を駆動するコンプレッサ2
(第7図(a),(b)),④クランク軸1に設けた偏心円(真円)カム32
と,ロッド7の下端部に設けたコの字型のヨーク部33とでカム機構を
形成し,カム32の平行接線で常時接触するヨーク部33を介してカム
32のリフト変化をピストン5に伝えてピストン5を駆動するコンプレ
ッサ2(第8図)が開示されており,上記①ないし④のコンプレッサ2
は,いずれも本願発明の「小圧縮機」に該当する。
そうすると,上記①のコンプレッサ2は,クランク制御を採用した駆
動形態の小圧縮に当たるといえる。
次に,乙1(「機械設計便覧(新版)」昭和61年3月25日新版9
刷発行)には,「【4】円板カム(1)」の欄に,「円板カムは円板を
偏心させて回転させるもので,偏心円カムとも呼ばれ,円弧カムのもっ
とも簡単な形のものである。直動アームと揺動アームとをそれぞれ円板
カムに組合わせた直動平面座円板カム装置(図23・23)と揺動平面
座円板カム装置(図23・24)とがある。」との記載があり,「図2
3・23」及び「図23・24」が図示されている。また,乙2(「よ
くわかる機構学」平成8年3月15日発行)には,「カム機構とは,滑
りまたは転がり接触する対偶によって,カムと呼ばれる原動節と従動節
の二つの機素を結合し,構成されたものである。」,「カム機構あるい
はカムは,カムの形(平面形状や立体形状),従動節の形,原動節と従
動節の組合せ方など,種々の方法で分類が可能である。」との記載があ
り,「図7・2板カムの種類」中に,「(d)円板カム」が図示されて
いる。乙1及び2の上記記載事項によれば,本件出願の優先権主張日当
時,「カム」には,円板を偏心させて回転させる円板カムないし偏心円
カムが含まれることは技術常識であったものと認められる。
そうすると,上記②ないし④のコンプレッサ2の「偏心円カム28」,
円形の溝カム30及び偏心円(真円)カム32は,いずれも「カム」に
当たり,上記②ないし④のコンプレッサ2は,カム制御を採用した駆動
形態の小圧縮に当たるといえる。
以上のとおり,甲7には,クランク制御を採用した駆動形態の小圧縮
とカム制御を採用した駆動形態の小圧縮が開示されていることが認めら
れる。
これによれば,本件審決が周知技術2として認定したとおり,本件出
願の優先権主張日当時,「圧縮機の駆動形態として,カムを用いた駆動
形態(カム制御)或いはクランク機構を用いた駆動形態(クランク制御)」)
は周知であったことが認められる。
(イ)原告は,これに対し,「カム」に円板を偏心させて回転させるもの
が含まれるというのは,機械の一般用語としてのみ妥当するにすぎ
ないものであり,4サイクル内燃機関に関する技術分野では妥当
せず,同技術分野では「カム」とは,基本的に4サイクルの吸排
気バルブを作動させるものであって,これらのバルブの厳密な制
御のために,ピストンの往復サイクルに対し,所定のタイミング
をもって弁開閉を行うよう,所定のリフト量を有するカム山が所
定の位相(角度位置)をもってシャフトに設けられているものを
いうことが,技術常識であるから(甲18),本願発明にいう「
カム」は,このようなカムを意味するものであり,甲7記載の「
偏心円カム」あるいは「溝カム」は,本願発明にいう「カム」に含ま
れず,「偏心円カム」あるいは「溝カム」による制御は,偏心機構によ
る制御(偏心制御)であって,本願発明にいう「カム制御」に含ま
れないから,甲7は,本願発明にいう「カム制御」される小圧縮機を
開示するものではない旨主張する。
そこで検討するに,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中
には,「小圧縮機」の「カム制御」に用いられる「カム」の具体的形状
等を特定した記載は存在しない。また,本願明細書には,「カム」の形
状を特定のものに限定したり,あるいは特定の形状を除外する旨の記載
は存在しない。
次に,原告が指摘する甲18(「バイクのメカ入門」)には,「回転
する軸に,その軸とは中心がずれた円や凸凹形状が設けられたものをカ
ムシャフトという。軸が回転すると,カム部の外径が変化するから,そ
こにロッド類を当てておけば,規則正しい往復運動などを取り出せる。
これは様々な機械に使われている。しかしエンジン関係でカムシャフト,
あるいは単にカムといえば,たいていは4ストの吸排気バルブを作動さ
せるもののこと。カムの形状次第で,ピストンがどの位置にあるときに,
どんなタイミングでどのくらい,吸排気バルブが開くか,あるいは閉じ
るかが決まる。エンジンの性格を決定付ける部品だ。」,「吸排気バル
ブの開閉は,カム部の断面形状で決まる。その作動の様子を,右ページ
の直動式のバルブ機構で考えてみよう。・・・バルブが開き始める,あるい
は閉じ終えるタイミング=バルブタイミングは,カム部の断面形状で決
まる。バルブが最も押し下げられ大きく開く量=最大リフト量は,カム
部断面の出っ張り量で決まる。」(以上,60頁),「カム山が右側の
ように高いほど,バルブのリフト量は多くなるが,回転は上げにくくな
る。急激に動かすからだ。」(61頁)との記載があり,カム山を有す
る形状のカムが図示(61頁)されている。この記載は,カム山を有す
る形状のカムが吸排気バルブを作動させる4サイクル内燃機関の代表的
な部品であることを述べるものではあるが,吸排気バルブ以外の他の部
位にカムが用いられる場合について言及するものではなく,圧縮機を駆
動する「カム」の形状を吸排気バルブ用のカムと同じ形状のものに限定
して理解すべきであることを示唆する記載はない。
そうすると,甲18の上記記載に基づいて,4サイクル内燃機関に
関する技術分野において,圧縮機の駆動を制御するカムは,吸排
気バルブ用のカムと同じ形状のものに限定され,円板を偏心させて回転
させる円板カムないし偏心円カムを含まないとする技術常識があったも
のと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
さらに,原告は,小圧縮機が「偏心円カム」あるいは「溝カム」によ
り制御される場合の制御曲線は緩勾配のサイン形状の制御曲線となり,
クランク制御の場合と同じであり,内燃機関の後過給をサイクルに合
わせて(時間に関して厳密に)制御を実行することはできないこ
とを「偏心円カム」あるいは「溝カム」による制御が本願発明にいう
「カム制御」に含まれないことの理由として挙げるが,前記のと
おり,カム部の断面形状はその制御目的によって決まるのであり,
制御曲線がサイン形状の制御曲線になるからといって直ちに内燃機関
の後過給を4サイクル行程のサイクルに合わせて制御を実行する
ことができないものとは認めることはできない。
以上によれば,甲7記載の「偏心円カム」あるいは「溝カム」によ
る制御が本願発明にいう「カム制御」から除外すべき理由はない
というべきであるから,甲7は,本願発明にいう「カム制御」される
小圧縮機を開示するものではないとの原告の上記主張は,理由がない。
(ウ)したがって,本件審決における周知技術2の認定の誤りをいう原告
の主張は,理由がない。
イ相違点3の容易想到性の有無について
前記ア(ア)認定のとおり,本件出願の優先権主張日当時,「圧縮機の駆
動形態として,カムを用いた駆動形態(カム制御)或いはクランク機構を
用いた駆動形態(クランク制御)」(周知技術2)は周知であったもので
ある。
そして,回転運動を往復運動に変換する機構としてカム機構及びクラン
ク機構は慣用技術であって,圧縮機において,「カムを用いた駆動形態(
カム制御)」又は「クランク機構を用いた駆動形態(クランク制御)」の
いずれかを採用し,それを具体的に適用することは当業者が適宜選択し得
る設計的事項であるというべきであるから,引用文献に接した当業者は,
引用発明において,小圧縮機の駆動形態として,クランク制御による駆動
形態に代えて,周知のカム制御による駆動形態を採用し,「小圧縮機は専
らカム制御され,内燃機関の少なくとも一のシリンダのサイクルに合った
過給のためにカム軸の回転数をもって作動する」ように構成(相違点3に
係る本願発明の構成)することを容易に想到することができたものと認め
られる。
(2)以上によれば,相違点3の容易想到性についての本件審決の判断に誤りは
なく,原告主張の取消事由3は理由がない。
4取消事由4(手続違背)について
(1)原告は,①審査官作成の平成23年11月29日付けの前置報告書(甲1
5)では,平成23年5月24日付けの拒絶査定において周知例として引用
された特開平11-44289号公報(甲2)の引用が撤回された上で,上
記前置報告書において,新たな周知例として特開昭55-137315号公
報(甲3),甲4が引用されて反論が行われているが,周知技術を認定する
ための周知例といえども,新たな文献の引用であるため,前置審査において
審判請求時の補正後の出願について拒絶査定の理由と異なる理由を発見した
場合に当たり,拒絶理由通知をすべき必要性があった,②本件審決は,甲4
のほか,追加して引用した甲5ないし7に基づ周知技術1を,初めて引用し
た甲7に基づいて周知技術2を認定した上で,相違点2及び3の容易想到性
の判断を行っているが,周知例といえども,新たな文献の引用であるため,
拒絶査定不服審判において拒絶査定の理由と異なる理由を発見した場合に当
たり,拒絶理由通知をすべき必要性があったにもかかわらず,本件の前置審
査及び本件審判手続において拒絶理由通知がされなかったから,本件審決に
は,特許法163条2項において準用する同法50条及び同法159条2項
において準用する同法50条の規定に違反する手続違背がある旨主張する。
しかしながら,周知技術1は,「圧縮機などの過給装置付き内燃機関にお
いて,内燃機関の他の吸入路とは分離される少なくとも一の過給路が,内燃
機関の吸入の終了後に,4サイクル行程の吸入行程或いは過給行程が行程と
して維持されているようにサイクルに合わせて開かれる」というものであり,
周知技術2は,「圧縮機の駆動形態として,カムを用いた駆動形態(カム制
御)或いはクランク機構を用いた駆動形態(クランク制御)」というもので
あって,いずれも4サイクル内燃機関に関する技術分野の当業者にとっ
て基礎的な事項として周知性が高いものということができる。
そうすると,本件の前置審査及び本件審判手続において改めて追加した周
知例を示して拒絶理由を通知しなかったからといって,原告にとって不意打
ちとなるものではなく,原告の意見書の提出や補正の機会を奪われたという
こともできない。
したがって,本件の前置審査及び本件審判手続において周知例の追加に関
して改めて拒絶理由を通知する必要性があったものとは認められないから,
原告の上記主張は,採用することができない。
(2)以上によれば,本件の前置審査及び本件審判手続において原告主張の手続
違背があったものとは認められないから,原告主張の取消事由4は理由がな
い。
5結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審
決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官富田善範
裁判官大鷹一郎
裁判官齋藤巌
(別紙1)
【図1】
【図2】
(別紙2)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
(別紙3)
(別紙4)
(別紙5)
(別紙6)

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