弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 原判決を取り消す。
二 本件を津地方裁判所へ差し戻す。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
主文同旨
二 被控訴人ら
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二 事案の概要
 事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の
「第二 事案の概要」(原判決二頁九行目冒頭から同二五頁初行末尾まで)のとお
りであるから、これを引用する。
1 原判決二頁一〇行目「原告らが、」の前に「三重県の住民である」を付加す
る。
2 同三頁初行「であるから、」を「であると主張して、」と改める。
第三 当裁判所の判断
一 まず、争点1、すなわち、控訴人らが本件訴訟において問題としている本件建
設負担金の三重県一般会計から同工業用水道事業会計への支出が住民訴訟の対象た
る地方自治法二四二条の二第一項一号(差止請求)・二四二条一項の「公金の支
出」に該当するか否かについて検討する。
1 国家財政については財政法二条三項が、同条一項の「収入」及び「支出」は会
計間の繰入を含むと規定しており、一般会計から特別会計への繰入が「支出」に該
当する旨規定されているが、地方公共団体の財政については、財政法二条三項に相
当する規定は存在しない。しかし、財政法二条三項が、会計間の繰入も同条一項の
「支出」に含むと規定した趣旨は、財政活動を複数の会計に区分して別々に整理し
ている場合、それぞれの会計において収入支出として整理する方が経理上便宜であ
るとともに、すべての収入支出を予算に編入し国会の監督下に置きやすくするとい
う総計予算主義の原則(財政法一四条)から好ましいためであると解される。そう
すると、地方公共団体においても、地方自治法二一〇条により国家財政と同様に総
計予算主義の原則を採用し、実際の整理上の便宜という点からも国家財政の場合と
異なるところがないので、会計間の繰入は、「支出」に該当すると解するのが相当
である。したがって、会計間の繰入は地方自治法二四二条一項の「公金の支出」に
該当すると判断するのが相当である。
2 被控訴人らは、本件支出は単なる同一地方公共団体内部の会計間における公金
の移動にすぎず、三重県に財産的損害を与える客観的可能性はないから、住民訴訟
の対象になり得ないと主張する。
 地方公共団体の一般会計は、住民の税金によって賄われるのに対して、地方公営
企業の特別会計の経費は当該公営企業の経営に伴う収入によって賄われるのが原則
であり、独立採算制ないしは受益者負担の原則といわれるのがこれである(地方財
政法六条、地方公営企業法一七条の二第二項)。
 しかしながら右企業のうちでも災害等の特別な事由がある時とか、公共の目的か
ら採算を別にしてもあえて事業を行わねばならぬ場合など地方公営企業法一七条の
二第一項所定の事由があれば、経費を一般会計等から繰り入れることも認められて
いるところ、違法な会計間の繰入行為はそれ自体税金の減少を来し、住民全体の利
益を害するものとして、地方公共団体の執行機関又は職員に対し、その予防又は是
正を求める住民訴訟を提起できる権限が住民には与えられていると解するのが相当
である。
 そうすれば三重県の一般会計から、特別会計である工業用水道事業会計が行う長
良川河口堰建設事業負担金の償還支払いに充当するためになされた本件支出は(甲
二)、地方自治法前記条項の「公金の支出」に該当すべきものと考えられる。
 地方公営企業は地方公共団体の事務の一つとして行われる(地方自治法二条三項
三号)以上、これに対する財務会計上の違法をただす住民訴訟が許されるべく、こ
のことは、右企業が一般会計とは別の特別会計で行われていることとは別異に考慮
すべきことである。又一般会計から特別会計への支出が違法であるからといって、
当然には特別会計からの支出が違法になるものではないから、特別会計からの支出
をとらえて住民訴訟を提起すれば足るといえるものでもない。
 したがって、被控訴人らの右主張は採用できない。
二 結論
 以上のとおりであるから、控訴人らの本訴請求を不適法として却下した原判決は
取消を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原審へ差し戻すこととし、主文
のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第一部
裁判長裁判官 笹本淳子
裁判官 鏑木重明
裁判官 戸田久

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