弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人山中唯二の控訴趣意は、記録に編綴されている同弁護人及び被告人各提出
の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。
 山中弁護人の控訴趣意第一点(検察官の公訴事実の同一性のない訴因及び罰条の
予備的追加請求を許可した違法)について
 昭和二八年五月三〇日附本件起訴状の公訴事実として掲げられた訴因は「被告人
は昭和二八年四月三日Aの被告人に対する貸金債権に基く強制執行として右Aの委
任を受けた福岡地方裁判所執行吏Fより肩書自宅に於て冷蔵庫等十四種目八十二点
の有体動産の差押を受け同日右差押物件は同年四月一一日競売に附するまで被告人
に保管を命ぜられ右執行吏のため自宅に於て右物件を預り保管中競売を免れるため
之を処分しようと企て自宅に於て同月七日頃右保管を命ぜられた物件中陶器火鉢一
個掛布団敷布団各一枚をBに、座布団五枚、テーブル一個をCに、冷蔵庫一個をD
に、同月一〇日頃パチンコ機械五〇台をEに夫々譲渡して持出させ以て公務所より
係管を命ぜられた右物件を横領したものである」(罰条刑法第二五二条第二項)と
いうのであり検察官か原審第四回公判期日において訴因罰条の予備的追加請求とし
て陳述した訴因は昭和二八年九月三〇日附訴因罰条の予備的追加請求書に掲げられ
たとおりで、「被告人は福岡地方裁判所執行吏Fが福岡法務局所属公証人Gの作成
に係るAの被告人に対する消費貸借公正証書の執行力ある正本第八一〇二七号に基
いて昭和二八年四月三日被告人の肩書自宅でなした差押物件について標示をなし被
告人をして保管せしめておるうち同年四月七日頃右保管を命ぜられた物件中陶器火
鉢一個掛布団敷布団各一枚をその所有者Bに座布団五枚、テーブル一個を同Cに冷
蔵庫一個を同Dに同月一〇日頃パチンコ機械五〇台を同Eに返すため搬出し以て右
執行吏の施した差押の標示を無効ならしめたものである」(罰条刑法第九六条)と
いうのであつて原審弁護人松岡益人は原審第五回公判期日において検察官の右訴因
罰条の予備的追加請求に対し公訴事実の同一性を害するものであるから許さるべき
でないと異議を述べたが原裁判所は該請求を許容し右予備的に追加された訴因事実
を肯認した上被告人に対し有罪の判決を<要旨>言渡した経緯にあることは本件記録
上明らかである。そこで論旨の如く原審検察官の訴因罰条の予備的追加請
が公訴事実の同一性を害するものとして許容さるべきものでないかどうかについて
考えてみると両者何れも昭和二八年四月三日被告人はその自宅て福岡地方裁判所執
行吏Fから差押を受けその保管を命ぜられ同執行吏のため之を預かり自宅に保管す
る物件中の一部を擅に同月七日頃と一〇日頃に前記B外三名の者に夫々持出さしめ
たという被告人の行為が中心問題とされているのであり出来事の推量につき多少の
異同があるとはいえその基本的事実には変動がないので本位訴因と予備的訴因とは
公訴事実の同一性を失わないものということができる。それ故原審の措置には何等
間然するところはなく所論のような違法は存しないから論旨は採用することができ
ない。
 被告人の控訴趣意第一点(法令適用の誤)について
 論旨は本件差押物件中には他人の預かり物又は借用物があつたから被告人はそれ
ぞれその所有者に返還したのであつて之を横領罪とするのは不可解であるというの
であるが原判決は被告人の所為を横領罪と認めたのでなく封印破棄罪と認めて処断
したのであるからその前提を欠ぎ論旨は理由がない。 また論旨は本件差押を受け
た当時は差押物件に何んの封印も品目の明細書もなかつたのに被告人が該物件の所
有者にそれぞれ返還した所為を封印破棄の罪とした原判決は法令の適用を誤つたも
のであるというが原判決に引用する証拠に徴すると本件差押は被告人居宅において
被告人の眼前で執行史Fにより被告人に対する債務名義に基き有体動産につき行わ
れ且つ被告人夫妻に対し差押物件の品目数量を表記した公示書を同執行吏において
作成して読み聞かせた上被告人の妻に交付し爾今差押物件は執行吏の占有に帰した
から動かしてはならぬと云い渡して被告人に保管を命じたこと被告人に対し差押物
件中他人の所有品があるなら異議の申立ができる旨を告げたことを認めるに十分で
あるから原判決が被告人の本件差押物件の法定の手続によらない無断持出の所為に
対し刑法第九六条を適用処断したことは正当であつて論旨は理由がない。
 被告人の控訴趣意第二点(事実の誤認)について
 しかし原判決第二摘示事実特に賍物性知情の点は判決に挙示引用の証拠に徴し認
めるに十分で原審の証拠取捨及び証明力の判断に経験則違背等不合理と目すべき点
は見られないから論旨は理由がない。
 山中弁護人の控訴趣意第二点及び被告人の控訴趣意(量刑の不当)について
 しかし、本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われた被告人の性
格、年齢、境遇、並びに本件犯罪の動機、態様、その他諸般の情状及び犯罪後の情
況等を考究しなお所論の情状を参酌しても原審の被告人に対する刑の量定を特に不
当とする事由を発見することができないので、論旨は採用することができない。
 よつて、刑事訴訟法第三九六条に従い、本件控訴を棄却し当審の訴訟費用の負担
については同法第一八一条第一項を適用の上主文のように判決する。
 (裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)
 (弁護人の控訴趣意は省略する。)

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