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平成19年(行ケ)第10036号審決取消請求事件
平成19年6月14日判決言渡,平成19年4月26日口頭弁論終結
判決
原告伊山瓦協業組合
訴訟代理人弁理士竹中一宣,大矢広文
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人藤正明,岩井芳紀,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2005−20499号事件について平成18年12月18日に
した審決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本件は,原告が,意匠に係る物品を「三段熨斗付き紐丸冠瓦」とする意匠につき
登録出願をして,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判
,。請求は成り立たないとの審決がなされたため同審決の取消しを求めた事案である
1特許庁における手続の経緯
()本件登録出願(甲第1号証)1
出願人:伊山瓦協業組合(原告)
出願日:平成17年2月28日
出願番号:意願2005−5712号
意匠に係る物品:三段熨斗付き紐丸冠瓦」「
意匠に係る物品の形状:別紙1のとおり
()本件手続2
拒絶査定日:平成17年9月22日(甲第4号証)
審判請求日:平成17年10月24日(不服2005−20499号(甲第5)
号証)
審決日:平成18年12月18日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成18年12月28日
2審決の理由の要点
審決は,下記意匠(以下「引用意匠」という)を引用し,本件登録出願に係る。
意匠(以下「本願意匠」という)は,引用意匠に類似するものであるから,意匠。
法3条1項3号の意匠に該当し,同項柱書きにより,意匠登録を受けることができ
ない,とした。
【引用意匠(甲第8号証】)
本件登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である特許庁発行の意匠公
報に記載された下記意匠
意匠公報の発行日:昭和52年2月28日
出願日:昭和49年11月15日(意願昭49−40105号)
登録日:昭和51年11月16日
登録番号:第443435号
意匠に係る物品:棟瓦」「
意匠に係る物品の形状:別紙2のとおり
審決の理由中,本願意匠と引用意匠との比較及び類否判断に係る部分は,以下の
とおりである。
()本願意匠と引用意匠との比較1
「()意匠に係る物品については,両意匠共に屋根の棟に使用される瓦であるから共通して1
いる。
()次に,両意匠の形態については,以下の共通点及び差異点が認められる。2
なお,本願意匠と引用意匠を同じ条件で比較するため,引用意匠を本願意匠と同じ向きに合
わせて比較する。
すなわち,両意匠の形態は,()上部を略半円筒状の「丸瓦部」とし,その両側の下辺端部A
からそれぞれ下方に向けて複数の段部を有するやや末広がり状の「熨斗(のし)部」を一体的
に形成し,丸瓦部の正面側端部に「紐丸部」を,背面側に「差し込み片」を設け,全体を正面
視左右対称状とした点,()紐丸部について,断面略半円凸弧状で丸瓦部の上面に沿って突出B
させ,かつ,正面側へ約半分突出して設けた点,()熨斗部について,ほぼ同じ高さの段部をC
三段設け,最上段の上面幅を中段及び下段より幅広とした点が共通している。
一方,両意匠間には,主として以下の各点において差異がある。
(ア)丸瓦部の高さと熨斗部の高さの構成比について,本願意匠は,丸瓦部の高さが熨斗部の
,,。高さよりやや小さいのに対して引用意匠は丸瓦部の高さが熨斗部の高さよりやや大きい点
(イ)紐丸部の左右下端部の態様について,本願意匠は,熨斗部の最上段部まで延設している
のに対して,引用意匠は,丸瓦部の下端部とほぼ同じ位置まで設け,熨斗部まで延設していな
い点。
(ウ)背面側の差し込み片の態様について,本願意匠は,丸瓦部及び熨斗部の内側辺部に沿っ
て形成し,熨斗部側に一段の段部を設けているのに対して,引用意匠は,丸瓦部の内側上部と
熨斗部の両内側下部に設けている点。
(エ)熨斗部の背面側端部近傍に,本願意匠は,一本の細溝を設けているのに対して,引用意
匠は,そのような細溝を設けていない点」。
()両意匠の類否判断2
「以上の共通点及び差異点を総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。
まず,両意匠において共通するとした()の態様については,両意匠の骨格的な態様であっA
て,形態全体を支配する要素に係るものであるから,両意匠の類否判断に影響を与えるものと
認められ,また,共通するとした()の態様は,両意匠の形態を特徴づける要素に係り,そうB
して,これらの共通するとした態様は,相まって形態上のまとまりを形成しているから,看者
に強い共通感を与えるところであり,意匠全体として,これらの共通点が両意匠の類否判断に
及ぼす影響は大きいものといわざるを得ない。
これに対して,前記各差異点については,それらはいずれも微弱な差異に止まるものであっ
て,それぞれが類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
すなわち,差異点(ア)の丸瓦部の高さと熨斗部高さの差異について,その差は格別大きいも
のではなく,また,この種棟瓦の意匠において,本願意匠のように,丸瓦部の高さを熨斗部よ
りやや小さくしたものは,本願の出願前にすでにありふれたものであり(例えば,意匠登録第
417344号の類似第1号の棟がわらの意匠,意匠登録第723346号の棟がわらの意
匠,本願意匠独自の態様とはいえず,格別看者の注意を引くものではないから,この差異は)
微弱なものというほかない。
差異点(イ)紐丸部の左右下端部の態様の差異について,この差異は,紐丸部の左右下端部が
熨斗部の最上段部まで延設している否かの差異であるが,当該部位のみを見ればともかく,意
匠全体とした観察した場合,部分的なところにおける差異であって,さらに,共通点()の紐B
丸部の共通する態様の中での差異であるから,この差異は微弱なものというほかない。
差異点(ウ)の背面側差し込み片の態様の差異について,差し込み片は,全体に占める割合が
小さいものであり,また,この種棟瓦において差し込み片は,使用状態において見えなくなる
部分であること,さらに,本願意匠のように,背面側に僅かに突出して丸瓦部及び熨斗部の内
側辺部に沿って形成したものが,本願の出願前にすでに見受けられ(例えば,意匠登録第72
3346号の棟がわらの意匠,本願意匠独自の態様とはいえないことから,格別看者の注意)
を引くものといえず,意匠全体としてみた場合,部分的かつ微弱な差異といわざるを得ない。
差異点(エ)の熨斗部の背面側端部近傍の細溝の有無差について,本願意匠の細溝は,意匠全
体としてみた場合,格別目立つものではなく,また,同様の細溝を設けた棟瓦が従前から見受
けられることから,格別看者の注意を引くものではなく,この差異は微弱なものというほかな
い。
なお,請求人は,上記の差異点の他にも,丸瓦部の裏面における,丸瓦部と差し込み片との
境の膨出部の有無,対の半円板の有無の差異を主張するが,それらは,丸瓦部の裏面で使用状
,,態においては見えなくなることを考慮すると意匠上格別評価することができないものであり
意匠全体として観察した場合,部分的かつ微弱な差異であって,類否判断に与える影響は微弱
なものである。
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態において,共通する態様が相まっ
て形成するまとまりが強い共通感を生じさせるものであり,類否判断に及ぼす影響が大きいの
に対し,各差異点はいずれも微弱なものであって,それらを総合し相まった視覚的効果を考慮
しても,類否判断を左右するに至らず,両意匠の共通感を凌駕するものとはいえないから,本
願意匠は,引用意匠に類似するものである」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
1審決は,本願意匠と引用意匠の類否判断において,差異点(イ),(ウ)についての
,,判断を誤り本願意匠が引用意匠に類似するものと誤って判断したものであるから
取り消されるべきである。
2審決取消事由(類否判断の誤り)
()差異点(イ)についての判断の誤り1
ア審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(イ),すなわち「紐丸部の左右下端,
部の態様について,本願意匠は,熨斗部の最上段部まで延設しているのに対して,
引用意匠は,丸瓦部の下端部とほぼ同じ位置まで設け,熨斗部まで延設していない
点」につき「この差異は,紐丸部の左右下端部が熨斗部の最上段部まで延設して,
いる否かの差異であるが,当該部位のみを見ればともかく,意匠全体とした観察し
た場合,部分的なところにおける差異であって,さらに,共通点()の紐丸部の共B
通する態様の中での差異であるから,この差異は微弱なものというほかない」と。
判断した。
イしかしながら,本願意匠において,紐丸部は,略半円弧紐形状とその左右両
端の下端部から成り,左右下端部は,熨斗部の最上段と同形状の直線部(以下,左
右それぞれの紐丸部下端の直線部を「端縁」という)を成すものであって,側面。
視すると,熨斗部の最上段部の長方形状の側面と端縁の略半円形状の側面とが一連
に連結され,あたかもスプーンを側面視したような,長方形の角に半円が付加され
た形状となる。また,左右端縁は,葺設した際に,屋根の上からはもとより,軒側
からも明確に確認することができるものである。
なお,被告は,乙第1,第2号証を挙げて,紐丸の端縁を延設して,熨斗部の側
面と面一状に一体的に形成したものは,従来より普通に見受けられ,本願意匠のみ
,,,の特徴であるとはいえず格別注目されるものではないから類否判断においては
ほとんど評価することができないと主張するが,乙第1,第2号証に示された意匠
,,,,。はそれぞれ全体としてみれば本願意匠と非類似であり引用適格を有しない
そして,左右両端の端縁を含む本願意匠の紐丸は,以下のような,特徴を有する
ものである。
(ア)側面視した場合には,複雑な立体感を表現する。また,端縁の端面は熨斗
部と丸瓦部とを繋ぎ,一体感を与えるとともに,葺設した際には,隣り合う瓦同士
を繋いで一体感を与える。
(イ)全体視することにより,単なるドーム形状の丸瓦部に,強烈なアクセント
とリズム感とを与える。
(ウ)正面視した場合には,威風堂々としたおもむきのある美感を起こさせ,ま
た,美感における熨斗部との繋がりをよくする。
ウ他方,引用意匠においては,紐丸の両下端は,丸瓦部と熨斗部との連結箇所
(,「」。)に向かって収斂している以下左右それぞれの紐丸部下端を収斂部という
,,,,,,ところ端縁がないために収斂部は熨斗部の端に覆い被さりかつ収斂部と
熨斗部の最上段部との間に空間があるので,これを側面視しても,本願意匠のよう
なスプーン形状は備えていない。
そして,左右の収斂部を含む引用意匠の紐丸は,以下のような特徴を有するもの
である。
(ア)紐丸は,半円弧状の半円部のみである単純な構成であり,素朴な平坦さを
表現する。
(イ)全体視しても,単調であって,リズム感等が感じられるおもむきのある美
,,。感を起こさせることはなくまた美感において熨斗部との繋がりを感じさせない
丸瓦部と熨斗部は,完全に分離した状態であり,さらに,葺設した際の隣り合う瓦
同士も分離し,ともに一体感を表現していない。
エ以上のとおり,本願意匠の紐丸と引用意匠の紐丸とは,全く形状が異なるも
のであり,この差異は,意匠全体に影響を与えるものであるから,審決の上記アの
判断は誤りである。
()差異点(ウ)についての判断の誤り2
ア審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(ウ),すなわち「背面側の差し込み,
片の態様について,本願意匠は,丸瓦部及び熨斗部の内側辺部に沿って形成し,熨
斗部側に一段の段部を設けているのに対して,引用意匠は,丸瓦部の内側上部と熨
斗部の両内側下部に設けている点」につき「差し込み片は,全体に占める割合が,
小さいものであり,また,この種棟瓦において差し込み片は,使用状態において見
えなくなる部分であること,さらに,本願意匠のように,背面側に僅かに突出して
丸瓦部及び熨斗部の内側辺部に沿って形成したものが,本願の出願前にすでに見受
けられ・・・,本願意匠独自の態様とはいえないことから,格別看者の注意を引く
ものといえず,意匠全体としてみた場合,部分的かつ微弱な差異といわざるを得な
い」と判断した。。
イしかしながら,本願意匠において,差し込み片は,長手方向(平面図におい
て差し込み側と紐丸側とを結ぶ上下の方向)の幅が広く,丸瓦部と熨斗部の瓦全体
の裏面に沿った形状で,その下端が瓦全体の略下方まで存在している。
なお,被告は,乙第3,第4号証を引用して,背面側に丸瓦部及び熨斗部の内側
辺部に沿って連続して差し込み片を形成した態様は,一般的なものであり,本願意
匠独自の態様といえず,格別看者の注意を惹くようなものでもないと主張するが,
乙第3,第4号証に記載された意匠は,それぞれ,全体としてみれば,本願意匠と
非類似であり,引用適格を有しない。
そして,本願意匠の差し込み片は,上記のような態様を有することにより,以下
のような特徴を有するものである。
(ア)差し込み側の独自性が発揮できる。
(イ)差し込み片の幅によって,長手方向に安定性を確保できるので,統一感覚
とバランス感覚とが表現される。
ウ他方,引用意匠においては,差し込み側に,丸瓦部の裏面に沿った形状であ
るものの,弧の長さは半円にも満たないほど短く,丸瓦部の上方に存在し,かつ,
長手方向の幅も狭い部分(以下「円弧部」という)と,左右の熨斗部付近に,そ。
れぞれ上記円弧部とは連続しない一対の突部とが設けられており,審決は,これら
を「丸瓦部の内側上部と熨斗部の両内側下部に設けている」態様の差し込み片と認
定しているが,本願意匠の差し込み片の特徴は,全く備えていない。
これら引用意匠の円弧部及び一対の突部は,以下のような特徴を有するものであ
る。
,,(ア)差し込み側の特徴が希薄で円弧部と一対の突部との幅のバランスがなく
その分離の間に統一性がない。
(イ)長手方向に極めて不安定であり,統一感覚とバランス感覚の希薄性が表現
される。
エ以上のとおり,本願意匠の差し込み側と引用意匠の差し込み側とは,全く形
状が異なるものであり,この差異は,意匠全体に影響を与えるものであるから,審
決の上記アの判断は誤りである。
()類否判断の誤り3
審決は「両意匠は・・・形態において,共通する態様が相まって形成するまと,,
まりが強い共通感を生じさせるものであり,類否判断に及ぼす影響が大きいのに対
し,各差異点はいずれも微弱なものであって,それらを総合し相まった視覚的効果
を考慮しても,類否判断を左右するに至らず,両意匠の共通感を凌駕するものとは
いえないから,本願意匠は,引用意匠に類似するものである」と判断した。。
しかしながら,上記1のとおり,差異点(イ),(ウ)に係る差異は,意匠全体に影響
を与えるものであり,この2点が組み合わされることにより,本願意匠は,美感を
奏するものである。
第4被告の反論の要点
1審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の審決取消事由は理由がない。
2審決取消事由(類否判断の誤り)に対し
()差異点(イ)について1
原告は,本願意匠の紐丸と引用意匠の紐丸とは,全く形状が異なるものであり,
この差異は,意匠全体に影響を与えるものである旨主張する。
しかしながら,意匠の類否判断は,全体観察を前提とし,両意匠の形態上の共通
点及び差異点を抽出した上,それらを意匠的観点,すなわち,視覚的効果,公知事
実等から検討し,共通点と差異点を比較考量して,総合的に類否を判断するのが相
当であり,審決は,このような手法に従って,本願意匠と引用意匠の類否判断を行
ったものである。
そして,本願意匠と引用意匠とは,審決の認定に係る()∼()の各共通点を有AC
し,全体の骨格的な態様のみならず,紐丸部及び熨斗部の具体的な態様も共通して
,,,,いるところ当該共通点()∼()は全体として一つのまとまりを形成しまたAC
本願意匠と引用意匠の各意匠全体のうちの大部分を占めるものであるから,これら
の共通点が相まって,看者に強い共通感を与えるものであり,類否判断に及ぼす影
響は大きいものがある。
,()これに対し原告が主張する紐丸部に係る差異点審決の認定に係る差異点(イ)
は,紐丸部の左右下端部についてのものであり,一体的に形成された丸瓦部と3段
の熨斗部の大きさに比べ,意匠全体に占める割合が小さい紐丸の,更にその一部分
に関するものである。すなわち,紐丸部に限って見ても,本願意匠及び引用意匠の
紐丸部は,丸瓦部の正面側端部に設け(共通点(),断面略半円凸弧状で丸瓦部A)
の上面に沿って突出させ,かつ,正面側へ約半分突出して設けた(共通点())点B
で共通するものであり,差異点(イ)は,このように大部分が共通する中における部
分的な差異であるにすぎない。
そうすると,本願意匠と引用意匠との間の,差異点(イ)に係る差異は,全体の骨
格的な態様及び具体的な態様における紐丸の共通点に比べ,微弱な差異というほか
なく,類否判断に及ぼす影響は小さいものであるというべきである。
なお,原告は,本願意匠につき,側面視すると,熨斗部の最上段部の長方形状の
側面と端縁の略半円形状の側面とが一連に連結された形状により,熨斗部と丸瓦部
とを繋ぎ,一体感を与えるとともに,葺設した際には,隣り合う瓦同士を繋いで一
体感を与える旨主張するが,本願意匠のように,紐丸の端縁を延設して,熨斗部の
側面と面一状に一体的に形成したものは,従来より普通に見受けられ(乙第1,第
2号証,原告の主張に係るような点は,本願意匠のみの特徴であるとはいえず,)
格別注目されるものではないから,類否判断においては,ほとんど評価することが
できないものである。
したがって,原告の上記主張は誤りである。
()差異点(ウ)について2
原告は,本願意匠の差し込み側と引用意匠の差し込み側とは,全く形状が異なる
ものであり,この差異は,意匠全体に影響を与えるものである旨主張する。
しかしながら,本願意匠の差し込み片が連続した片であるのに対して,引用意匠
の差し込み片は,連続片ではなく,途中が分断され,上部と両下部に突片を設けて
(),,,いるという差異点差異点(ウ)についてはその部位のみを取り出せば確かに
一定の差異といえなくもないが,当該部位は,意匠全体に占める割合が小さい上,
葺設した状態においては,外観視できないから,視覚的効果を問題とする意匠にお
いては,付加的な要素に係るものであるにすぎない。加えて,本願意匠に係る差し
込み片の態様,すなわち,背面側に丸瓦部及び熨斗部の内側辺部に沿って連続して
形成した態様は,審決が指摘した意匠登録番号第723346号に係る意匠(乙第
3号証)のほか,実開昭61−43313号公報に記載された棟瓦の意匠(乙第4
号証)にも見られるとおり,一般的な態様であるから,本願意匠独自の態様といえ
ないことはもとより,格別看者の注意を惹くようなものでもない。
したがって,原告の上記主張は誤りである。
()類否判断について3
原告は,差異点(イ),(ウ)に係る差異は,意匠全体に影響を与えるものであり,こ
の2点が組み合わされることにより,本願意匠は,美感を奏するものである旨主張
する。
しかしながら,上記のとおり,差異点(イ),(ウ)に係るいずれの差異も,意匠全体
としてみれば,部分的かつ微弱なものにすぎないから,類否判断に及ぼす影響は小
さいものであり,また,本願意匠の紐丸と差し込み片は,共通点が相まって形成す
るまとまりによる共通感を凌駕して,引用意匠と別異の意匠とするほどの美感を奏
するとまではいえるものではない。
第5当裁判所の判断
1審決取消事由(類否判断の誤り)について
()本願意匠と引用意匠とは,審決が認定するとおり,共通点()∼()におい1AC
て共通するものであり,差異点(ア)∼(エ)等において差異があるものである。
ところで,意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察すること
を要するが,そのためには,両意匠の基本的構成態様及び各部の具体的態様のそれ
ぞれにおいて,形態上の共通点及び差異点を抽出した上,それらを,視覚的効果,
使用態様,公知意匠にない新規な創作であるか否か等の観点から検討し,共通点が
及ぼす美感の共通性と差異点に基づく美感の個別性とを比較考量し,総合的,全体
的に類否を判断することが相当である。
しかるところ,本願意匠と引用意匠とは,基本的構成態様において「上部を略,
半円筒状の『丸瓦部』とし,その両側の下辺端部からそれぞれ下方に向けて複数の
段部を有するやや末広がり状の『熨斗部』を一体的に形成し,丸瓦部の正面側端部
『』,『』,」に紐丸部を背面側に差し込み片設け全体を正面視左右対称状とした点
(共通点())で共通するものであり,かつ,基本的構成態様において格別の差異A
点はない。また,各部の具体的態様のうち,原告の審決取消事由に関連する「紐丸
部」については「断面略半円凸弧状で丸瓦部の上面に沿って突出させ,かつ,正,
面側へ約半分突出して設けた点(共通点())で共通し「左右下端部の態様につ」,B
いて,本願意匠は,熨斗部の最上段部まで延設しているのに対して,引用意匠は,
丸瓦部の下端部とほぼ同じ位置まで設け,熨斗部まで延設していない点(差異点」
(イ))で差異があり,同様に,原告の審決取消事由に関連する「差し込み片」につ
いては「背面側の差し込み片の態様について,本願意匠は,丸瓦部及び熨斗部の,
内側辺部に沿って形成し,熨斗部側に一段の段部を設けているのに対して,引用意
匠は,丸瓦部の内側上部と熨斗部の両内側下部に設けている点(差異点(ウ))で差」
異が認められるものである。
()差異点(イ)について2
差異点(イ)は,上記のとおり,紐丸部に係る具体的態様に関する差異であり,ま
た,本願意匠の差異点(イ)に係る「紐丸部の左右下端部を熨斗部の最上段部まで延
設している」態様により,本願意匠においては,延設された紐丸の端縁の略半円形
状の端面が,熨斗部の最上段部の長方形状の側面と面一状に連結し,側面視した場
合に,熨斗部の最上段部と紐丸部とが一体的に形成されていることが表れるもので
ある。
しかしながら,上記のとおり,本願意匠と引用意匠とは,基本的構成態様におい
て,共通点()に係る共通点があるほか,紐丸部について,共通点()に係る共通AB
点を有するものであるところ,共通点()は,大きさの上で,紐丸部の大部分を占B
める部分に係るものである上,形態的に見ても紐丸部の形状の主要部分に及んでお
り看者に対し美感上の強い共通性を感じさせるものであるのに対し差異点(イ),,,
,(,に係る差異は紐丸部の左右下端部のわずかな部分を占めるにすぎずしたがって
本願意匠全体から見れば,極めてわずかな部分に関する差異である,形態的な面。)
から見ても,共通点()に係る,丸瓦部の上面に沿って突出させ,かつ,正面側へB
約半分突出して設けた形状などと比べると,看者の注意を惹き難いものであるとい
わざるを得ない。このことは,上記のとおり,本願意匠において,延設された紐丸
の端縁の略半円形状の端面が,熨斗部の最上段部の長方形状の側面と面一状に連結
し,側面視した場合に,熨斗部の最上段部と紐丸部とが一体的に形成されているこ
とが表れることを考慮しても,なお,同様である。
原告は,左右両端の端縁を含む本願意匠の紐丸が,①側面視した場合には,複雑
な立体感を表現し,また,端縁の端面は熨斗部と丸瓦部とを繋ぎ,一体感を与える
とともに,葺設した際には,隣り合う瓦同士を繋いで一体感を与える,②全体視す
ることにより,単なるドーム形状の丸瓦部に,強烈なアクセントとリズム感とを与
える,③正面視した場合には,威風堂々としたおもむきのある美感を起こさせ,ま
た,美感における熨斗部との繋がりをよくするなどの特徴を有する旨主張する。
しかしながら,上記の①に係る,側面視した場合に立体感を与えることや,葺設
した際に隣り合う瓦同士を繋いで一体感を与えること,②に係る,ドーム形状の丸
瓦部に,強烈なアクセントとリズム感とを与えること,③に係る,正面視した場合
に威風堂々としたおもむきのある美感を生じさせること等は,主として,本願意匠
の共通点()に係る態様に負うものであり(したがって,引用意匠の紐丸も同様のB
美感を生じさせるものである,本願意匠の差異点(イ)に係る態様が,これらの美。)
感にあずかる度合いは,あるとしても極めてわずかである。また,上記のとおり,
本願意匠の差異点(イ)に係る態様により,側面視した場合に,熨斗部の最上段部と
紐丸部とが一体的に形成されていることが表れるが(なお,原告は,端縁の端面は
熨斗部と丸瓦部とを繋ぎ,一体感を与えるとも主張するが,共通点()の示すとおA
り,本願意匠においても,引用意匠においても,熨斗部と丸瓦部とは一体的に形成
されており,当該一体感は,紐丸部によって生ずるものではなく,まして,その下
端部の端縁が関わって生ずるものでもない,看者の注意をさほど惹くものではな。)
い。
加えて,実用新案登録番号第36877号に係る登録実用新案公報(大正4年9
月30日印行。乙第1号証)及び実開昭60−191612号公報(乙第2号証)
には,それぞれ,棟瓦(冠瓦)の紐丸の端縁を延設して,熨斗部の側面と面一状に
連結し,熨斗部と紐丸部とを一体的に形成したものが記載されていることが認めら
れ,この事実によれば,本願意匠の差異点(イ)に係る態様は公知であって,新規な
創作とはいえないことは明らかである。なお,この点につき,原告は,乙第1,第
,,,,2号証に示された意匠はそれぞれ全体としてみれば本願意匠と非類似であり
引用適格を有しない旨主張するが,上記のとおり,乙第1,第2号証は,本願意匠
,,,の差異点に係る態様が公知であることを示すためのものであってそのためには
,,乙第1第2号証が全体として本願意匠と類似することを要するものではないから
上記主張は失当である。
そうすると,差異点(イ)に係る紐丸部の差異に基づく美感の個別性は,同様に紐
丸部に係る共通点()の及ぼす美感の共通性に比較して,極めて微弱なものというB
べきであり,差異点(イ)につき「意匠全体とした観察した場合,部分的なところに,
おける差異であって,さらに,共通点()の紐丸部の共通する態様の中での差異でB
あるから,この差異は微弱なものというほかない」とした審決の判断に誤りはな。
い。
()差異点(ウ)について3
差異点(ウ)は,上記のとおり「差し込み片」に係る具体的態様に関する差異であ,
る。なお,共通点()の示すとおり,基本的構成態様として『差し込み片』が背A,
面側に設けられる点は,本願意匠と引用意匠とで共通している。
ところで,差異点(ウ)に係る差異は,本願意匠と引用意匠の「差し込み片」自体
の形状の差異という観点から見れば,相当程度に大きいものということができる。
しかしながら,本願意匠にせよ,引用意匠にせよ「差し込み片」が意匠全体のう,
ちで占める割合は小さく,そうすると,差異点(ウ)に係る差異は,意匠の全体的観
察という観点からは,さほど大きいものとはいうことはできない。また「差し込,
み片」は,葺設後,すなわち,意匠に係る物品をいったん使用に供した後は,外観
視することができなくなるのであるから看者の注意は及び難くしたがって差,,,「
し込み片」に係る視覚的効果が,意匠全体に及ぼす影響も乏しいものといわざるを
得ない。
加えて,意匠登録番号723346号に係る登録意匠公報(昭和63年1月21
日発行。乙第3号証)や実開昭61−43313号公報(乙第4号証)には,それ
ぞれ,棟瓦の背面側に丸瓦部及び熨斗部の内側辺部に沿って「差し込み片」を連続
して形成した態様が記載されていることが認められ,この事実によれば,本願意匠
の差異点(ウ)に係る態様は公知であって,新規な創作とはいえないことは明らかで
ある。なお,この点につき,原告は,乙第3,第4号証に示された意匠は,それぞ
れ,全体としてみれば,本願意匠と非類似であり,引用適格を有しない旨主張する
が,この主張が失当であることは,上記()と同様である。2
そうすると,差異点(ウ)に係る「差し込み片」の差異に基づく美感の個別性は,
極めて微弱なものというべきであり,差異点(ウ)につき「差し込み片は,全体に占,
める割合が小さいものであり,また,この種棟瓦において差し込み片は,使用状態
において見えなくなる部分であること,さらに,本願意匠のように,背面側に僅か
に突出して丸瓦部及び熨斗部の内側辺部に沿って形成したものが,本願の出願前に
すでに見受けられ・・・本願意匠独自の態様とはいえないことから,格別看者の注
意を引くものといえず,意匠全体としてみた場合,部分的かつ微弱な差異といわざ
るを得ない」とした審決の判断に誤りはない。。
()類否判断について4
上記のとおり,本願意匠と引用意匠とは,基本的構成態様に係る共通点(),並A
びに各部の具体的態様のうち紐丸部に係る共通点()及び熨斗部に係る共通点(),BC
,,,において共通するところとりわけ意匠全体の骨格的な構成に係る共通点()やA
意匠の特徴的部分である紐丸部の形状の主要部分に及ぶ共通点()は,相まって,B
両意匠の美感の共通性を強く感じさせるものである。これに対し,紐丸部に係る具
体的態様に関する差異点(イ)「差し込み片」に係る具体的態様に関する差異点(ウ),
に基づく両意匠の美感の個別性が極めて微弱なものであることは,上記(),()の23
とおりであり,このことは,丸瓦部と熨斗部の高さの構成比に係る差異点(ア),熨
斗部の背面側端部近傍の細溝の有無に係る差異点(ニ)についても同様である。そし
て,これら差異点が総合し,相まった場合の美感の個別性が,上記共通点に基づく
美感の共通感を凌駕するものでもない。
原告は,差異点(イ),(ウ)に係る差異は,意匠全体に影響を与えるものであり,こ
の2点が組み合わされることにより,本願意匠は,美感を奏するものである旨主張
するが,差異点(イ),(ウ)に係る差異が微弱なものであり,これらの差異点が組み合
わされ,相まった場合の美感の個別性が,共通点に基づく美感の共通感を凌駕する
ものでないことは,上記のとおりであるから,原告の上記主張を採用することはで
きない。
したがって,本願意匠は,引用意匠に類似するものである。
2結論
以上によれば,原告主張の審決取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却される
べきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
杜下弘記
(別紙1)
本願意匠
(別紙2)
引用意匠

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