弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人免出礦の上告趣意について。
 所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 被告人Aの弁護人柏崎正一、同副聰彦、同野村宏治、同徳永昭三連名の上告趣意
について。
 所論第一点は、違憲(一五条二項、三六条、三一条違反)をいうが、記録を調べ
ても、所論指摘の事実を認めることができないから、所論違憲の主張は、その前提
を欠き、適法な上告理由にあたらない。
 同第二点は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 検察官の上告趣意について。
 所論第一点は、原判決が、株式会社B建設(以下本件会社という。)設立時の取
締役および監査役の選任登記は、これを虚偽不実とはなしえないとして、この点に
ついての公正証書原本不実記載、同行使罪の成立を否定したのは、株主総会の決議
によらない取締役選任登記は公正証書原本不実記載罪を構成するとする大審院昭和
九年(れ)第一三一三号同年一二月一八日判決・法律新聞三七九六号一五頁に違反
するという。
 募集設立による株式会社設立時の取締役および監査役の選任は、株式引受人によ
つて構成される創立総会においてなされなければならないことは、商法一八三条の
明定するところであり、これは、その後のこれら役員の選任が、株主総会によつて
なされなければならないのとその軌を一にするものである。
 ところで、原判決(その引用する第一審判決を含む。) によれば、本件会社は、
被告人Cらが発起人または株式申込人となつて設立されたものであるところ、これ
らの者は、すべて、親族関係にあるか、あるいは、同じ株式会社D組の従業員とし
て、かねてから昵懇の間柄で、しかも、本件会社設立に関しても常日頃顔を合わせ
てその意思の疎通を図り、本件会社の取締役および監査役の選任についても、その
意思の一致をみていたというのである。原判決は、このような事実関係のもとで、
関係者の一致した意思のもとになされた取締役および監査役の選任は、これを虚偽
不実のものということはできないとして、この点についての公正証書原本不実記載、
同行使罪の成立を否定しているのである。
 そうであるとすれば、原判決が、創立総会が形式上存在しないとしても、その登
記事項を不実とはいえないとしているのは、創立総会による選任決議がなくても、
役員選任登記が有効であるとする趣旨ではなく、特に創立総会の名のもとに招集さ
れた会合がなされず、また、その招集手続等に瑕疵がなかつたとはいえないとして
も、前記のような事実関係のもとにおいては、取締役および監査役の選任は、創立
総会における選任決議によるものとみられないわけのものではなく、その登記を不
実とすることはできないとしている趣旨と解すべきである。このように考えれば、
原判決は、結局、本件取締役および監査役の選任登記は、創立総会の決議によるも
のであるとしていることになるから、これが所論引用の判例に反する判断をしたも
のということはできず、所論は理由がない。
 同第二点は、原判決が、昭和三六年一〇、一一月分の本件入場税法違反事件につ
いて、収税官吏のした告発は無効であり、かかる告発によつて提起された本件公訴
は不適法であるとして、これを棄却したのは、国税犯則取締法一三条一項但書の解
釈に関する最高裁昭和二四年(れ)第九一二号同年七月二三日第二小法廷判決・刑
集三巻八号一三八六頁等に違反するという。
 ところで、国税犯則取締法一三条一項本文は、国税局または税務署の収税官吏が、
間接国税に関する犯則事件の調査を終了したときは、これを所轄国税局長または所
轄税務署長に報告すべき旨を定め、その但書において、犯則嫌疑者の居所分明なら
ざるとき、犯則嫌疑者逃走の虞あるとき、証憑堙滅の虞あるときは、直ちに告発す
べきことを規定し、さらに、同法一四条一項は、国税局長または税務署長は、同条
二項による例外の場合を除き、犯則者に対し、罰金または科料に相当する金額等を
納付すべきことを通告する、いわゆる通告処分の制度を定めている。この制度は、
いわば犯則者と国家との私和を認めたものともいうべきであり、国家の徴税の便宜
を考慮した制度ではあるが、同法一六条一項によれば、犯則者が通告の旨を履行し
たときは、同一事件につき、起訴されることのないことを規定しているところから
すれば、単に徴税の便宜のみによるものではなく、犯則者に対し、同人がこの通告
に従うことによつて、公訴権消滅の利益を与えた制度でもあるといわなければなら
ない。
 そうであるとすれば、通告処分に付するかいなかの判断は、徴税者の便宜の見地
からのみされるべきものではなく、いわんや恣意にわたることの許されないことは
論ずるまでもないところである。このことは、収税官吏による同法一三条一項の報
告、告発の運用に関しても妥当するものであり、収税官吏が、同項但書所定の事由
があるとして、直ちに告発した場合においても、その要件事実の有無の判断に誤り
があるときには、その告発は無効であり、それによる公訴提起の効力が否定される
のもやむをえないものと解すべきである。この点につき、原判決のいうところは、
その表現に若干の相違があるとはいえ、ひつきよう、右と同旨に帰するものであつ
て、もとより正当といわなければならない。
 これに対し、所論引用の当裁判所第二小法廷判決には、告発の要件の判断は、収
税官吏に任されているとして、あたかも、この点の当否についての裁判所の審査を
否定しているかのような点もないではないが、これに先だち、同判決が、同法一三
条一項但書所定の事由の存在を具体的に認定判示していることなどに徴すれば、同
判決も、収税官吏によるこの点の判断の当否に、裁判所の審査を及ぼすことを否定
する趣旨のものとは解されず、結局、同判決も、前記の当裁判所の見解と同一に帰
着するものと解すべきものである。それゆえ、この点についての原判決の判断は、
所論引用の当裁判所第二小法廷判決に反する判断をしたものとはいえず、所論は理
由がないものといわなければならない。なお、所論が、判例違反の判例として引用
するその余のものは、すべて、大審院ないし高等裁判所の判決であるところ、右の
ように、すでに、該事項につき最高裁判所の判例が存するのであるから、これらは、
すべて、刑訴法四〇五条三号所定の判例とすることはできない。
 よつて、同法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
  昭和四七年一〇月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    坂   本   吉   勝

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