弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金一万五、〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納することができないときは一、〇〇〇円を一日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
     被告人に対し公職選挙法第二五一条第一項の選挙権および被選挙権を有
しない旨の規定を適用すべき期間を二年間に短縮する。
     原審ならびに当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、東京高等検察庁検察官検事蒲原大輔提出にかかる東京地方
検察庁検察官検事河井信太郎作成名義の控訴趣意書(ただし、第一点の二の2記載
部分を除く。)ならびに弁護人大貫正一、同秋山昭一および同田原俊雄各提出の控
訴趣意書(ただし、大貫弁護人作成名義の控訴趣意書は、二丁裏末行の「存ス」、
四丁表第八行の「二才」、六丁表末行の「適法」および七丁裏第一行の「と」をそ
れぞれ「ナス」、「二〇才」、「違法」および「を」と各訂正したもの)各記載の
とおりであり、以上に対する各答弁は、右弁護人三名連名提出の答弁書(二通)な
らびに右蒲原検事提出の答弁書各記載のとおりであるから、いずれもこれを引用
し、これらに対し次のとおり判断する。
 大貫弁護人の控訴趣意、秋山弁護人の控訴趣意第二点(法令適用の誤りの主張)
について。
 所論は、原判決は、罪となるべき事実として原判示事実を認定したうえ、被告人
を、教育者が学校の児童に対する教育上の地位を利用して選挙運動をしたものとし
て、公職選挙法第二三九条第一号、第一三七条に問擬したが、原判示事実によれ
ば、被告人が、原判示選挙運動をするに際して、教育者として学校の児童に対する
教育上の地位を利用したものとはいい難く、この点において原判決には、同法第一
三七条の解釈適用を誤つた違法がある、と主張する。
 <要旨>按ずるに、公職選挙法第一三七条にいう「教育者が、学校の児童、生徒お
よび学生に対する教育上の地位を利用して選挙運動をする」とは、教育者
が、教育者たる地位に伴なう影響力を利用して選挙運動をすることをいい、教育者
が、教育上の活動として自己の担任する児童等の父兄を家庭訪問した機会に、右父
兄に対し、児童等の担任者たる関係において、児童の教育上の問題に合わせて選挙
運動をする場合をも包含するものと解するのを相当とし、本件において、原判示事
実を原判決証拠の標目欄挙示の各関係証拠と対比してしさいに検討すれば、原判決
は、被告人が、原判示学校教育法所定の学校の教員として、本件当時自己の担任し
ていた東京都江東区立A小学校B年C組の児童Dの父E、同Fの父G、同Hの母I
および同Jの母Kに対し、それぞれこれを教育上の活動として家庭訪問した機会
に、右各児童に対する担任者たる関係において、教育上の問題に合わせて原判示各
選挙運動をした事実を認定したものと解するのを相当とするから、原判決が、被告
人において教育者の地位利用の選挙運動をしたものとして、同法第二三九条第一
号、第一三七条を適用処断したのは正当であつて、原判決には、所論のごとき法令
の解釈適用を誤つた違法があるものとは認められない。論旨は理由がない。
 (罪となるべき事実)
 原判決罪となるべき事実中、判示冒頭の「同人の立候補を予測し、」とある次
に、「同人に投票を得しめる目的をもつて、」を加え、また、同「家庭訪問をした
機会に、」とあるのを「家庭訪問を兼ねて戸戸に訪問し、その際、」と、判示
(一)の「こんど選挙があるがそのときは共産党の人をよろしくお願いする旨」と
あるのを「こんどの参議院選挙の際はLさんをお願いする旨」と、判示末尾の「も
つて教育者として」とあるのを「もつて、戸別訪問をすると共に、教育者として」
とそれぞれ訂正するほか、原判示事実と同一であるから、これを引用する。
 (証拠の標目)省略
 (法律の適用)
 当裁判所の認定した罪となるべき事実中、戸別訪問の点は、公職選挙法第二三九
条第三号、第一三八条第一項、罰金等臨時措置法第二条に、教育者の地位利用の選
挙運動の点は、公職選挙法第二三九条第一号、第一三七条、罰金等臨時措置法第二
条に、選挙運動の期間前の選挙運動の点は、公職選挙法第二三九条第一号、第一二
九条、罰金等臨時措置法第二条に各該当するが、以上は一個の行為で数個の罪名に
触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により犯情の最も重い
教育者の地位利用の選挙運動の罪の刑に従い、本件各犯行の動機、態様、罪質、行
為の回数、被告人の年令、経歴、職業、前科のないこと、家庭の状況等記録に現わ
れた諸般の情状を勘案し、所定刑中罰金刑を選択し、その罰金額の範囲内で被告人
を罰金一万五、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法第
一八条に則り一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状に
より公職選挙法第二五二条第四項を適用して被告人に対し同条第一項の選挙権およ
び被選挙権を有しない旨の規定を適用すべき期間を二年間に短縮し、原審ならびに
当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人に負
担させることとし、主文のとおり判決する。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 石井文治 判事 山崎茂 判事 中村憲一郎)

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