弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人等は控訴人に対しそれぞれ別表記載の株
券を引渡し、且その株式名義書換手続をなすべし。これを為すことのできない被控
訴人はそれぞれ別表該当欄記載の金員を控訴人に支払うべし。訴訟費用は第一、二
審とも被控訴人等の負担とする。旨の判決を求め、被控訴人江口証券株式会社訴訟
代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、認否援用は、控訴代理人において
本件各株式の最終口頭弁論期日当時の価格はそれぞれ末尾添付別表金員欄記載のと
おりである。なお被控訴人江口証券株式会社は承継前の被控訴人丸二証券株式会社
を合併しその一切の権利義務を承継したと述べ、被控訴人江口証券株式会社訴訟代
理人は右承継の事実を認めると述べ控訴代理人は甲第四号証を提出し、証人Aの証
言を援用した外、いずれも原判決事実摘示と同一であるから茲にこれを引用する。
         理    由
 被控訴人江口証券株式会社の被承継人丸二証券株式会社及尓余の被控訴人等がも
と控訴人名義であつた別表記載の各株券を取得し名義書換の上これを所持している
こと、被控訴人江口証券株式会社は右丸二証券株式会社を合併し、その権利義務一
切を承継したことは当事者間に争のないところである。而して右各株券が控訴人か
ら被控訴人等に移つた経緯を審べるに、成立に争のない(被控訴人江口証券株式会
社の関係においてはいずれも公文書なるにより真正に成立したと認める)甲第一乃
至第三号証と原審並当審証人Aの証言を綜合すると、昭和一五年四月頃控訴人及控
訴人の妻はまほは、訴外Bを介して知合となつた訴外Cから、同人に株券を預けれ
ば、その株券により最も堅実有利な利殖が得られ、株券は訴外野村証券株式会社の
金庫に保管し置き、入要のときは何時でも返還する旨の勧誘を受けるや、世事に疎
い控訴人等は深くも考えず、たやすく同人の言を信じて同年六月一四日頃迄の間数
回に亙り、その所有に係る本件株券の外多数の株券を同人に交付したこと、且その
都度同人の要求により、有合せの認印を押捺して控訴人名義の株式名義書換用白紙
委任状を株券に添付しておいたこと、訴外Cは金融難から擅に右株券を他に処分し
ようと企てたが本件株券の会社届印が控訴人の実印によるものであつたところか
ら、偶々同年六月頃控訴人から日曹鉱業株式会社株式の売却方並株式会社梅田映画
劇場の株式名義書換方の依頼を受け、そのため控訴人の実印による委任状を預つた
のを奇貨とし、印判屋に注文して控訴人の実印を偽造した上、これを使用して控訴
人名義の書換用白紙委任状を数通偽造し、該偽造の白紙委任状を前記認め印による
委任状と取り代えてそれぞれ本株券に添付し、同年七月上旬から八月頃迄の間数回
に訴外野村証券株式会社その他にこれを譲渡したこと、その後株券は転々して結局
被控訴人等の取得するところとなつたものであること、はいずれもこれを認定する
に十分である。而して株式取引の実情に照し反証のない本件においては、被控訴人
等は叔上のいきさつを知らず、善意無過失にこれを取得したものと推認するのを相
当とする。
 よつて、以上認定の事実に基ずいて被控訴人等の本件株式取得の効力を考える
に、現行商法(昭和二五年法律第一六七号による改正)第二二九条により小切手法
第二一条の規定が記名株式の譲渡に準用せられる結果、現行法のもとにおいては被
控訴人等が本件株式を有効に取得したものと解せられることは疑のないところであ
るが、右改正以前の本件当時においては、記名株式の所有者が株券に名義書換用白
紙委任状を添付してこれを他人に交付した場合、右委任状が真正に作成せられたも
のであり、且その交付が所有者の任意になされたものである以上、これを交付した
原因如何に拘らず、尓後善意無過失に該株式を取得した第三者は完全にその株式を
取得するものと認める商慣習法の存在したことは当裁判所に顕著な事実である。従
つて本件において、仮に訴外Cが当初控訴人等から交付を受けた委任状を取り代え
ることなく、そのままこれを第三者に処分し爾後転々して被控訴人等の取得すると
ころとなつたものとせば、被控訴人等は有効に本件株式を取得し、控訴人は最早被
控訴人等に対し株券の返還を請求し得ない筋合であつて、此の場合、縦令右委任状
の印章が会社へ届出の印と異なるがため名義書換手続が未了であろうと、或は右印
章の相違が看過せられたまま名義書換がなされて居ようと、その理を異にするもの
ではなく、更に又一旦善意無過失に取得した後において仮に名義書換に際し偽造の
委任状が使用せられた場合を想定しても、偽造の責任は別として右の結論を左右す
るものでない。
 蓋し敍上商慣習法の是認せられる所以は、白紙委任状附記名株式は宛も無記名証
券の如く取引場裡に流通せられる集信に鑑み、所有者が一旦自己の意思に基き委任
状を作成添付してこれを他人に交付した以上、その交付の原因如何に拘らず、斯る
株式流通の原因を与えた所有者の利益よりも、善意の第三取得者を保護することが
取引の安全と衡平の原則に合致するからである。
 <要旨>果して然りとすれば、本件の如く、一旦所有者たる控訴人の意思に基いて
作成交付せられた白紙委任状が尓後偶々訴外人により他の偽造の白紙委任状
と取り代えられて転々した場合においても、善意の取得者たる被控訴人等を控訴人
の利益より以上に保護する必要と、その理由において前記の場合と何等選ぶところ
がないものと認むべきであつて、即ち前記商慣習法の是認せられる当然の帰結とし
て、被控訴人等は有効に本件株券を取得し、控訴人はこれが返還を請求し得ないも
のと謂うを相当とする。若しこれに反し本件の場合単に添付委任状が偽造であるこ
との一事によつて被控訴人等が本件株式を有効に取得し得ないものと解するにおい
ては、控訴人の関知しない訴外人の行為の介入如何により当事者に及ぼす効果を異
にし甚だしく衡平の原則に反することとなるであろう。
 従つて被控訴人の本訴請求は尓余の判断を俟たず、すべて失当としてこれを棄却
すべく、これと同趣旨にいでた原判決は相当で本件控訴は理由がない。よつて民事
訴訟法第三八四条、第八九条、第九五条を適用して主文のように判決する。
 (裁判長判事 吉村正道 判事 大田外一 判事 金田宇佐夫)
 (別表は省略する。)

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