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事案の概要
 交通事故により重い後遺障害が残った高齢者とその子からの加害者に対する損害賠償請
求が認容された事例。
平成18年3月1日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(ワ)第490号 交通事故による損害賠償請求事件
(口頭弁論の終結の日 平成18年2月3日)
判 決
主 文
1 被告は
 (1) 原告Aに対し2060万円
 (2) 原告Bと原告Cに対しそれぞれ55万円
 と各金員に対する平成13年11月17日から支払いずみまで年5%の割合に
よる金員を支払え。
2 原告らのそのほかの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は55%を原告らの45%を被告の負担とする。
4 この判決は第1項にかぎり仮執行をすることができる。
事実および理由
第1 請求
 被告は
 (1) 原告Aに対し3729万1833円
 (2) 原告Bと原告Cに対しそれぞれ550万円
と各金員に対する平成13年11月17日から支払いずみまで年5%の割合による金員を
支払え。
第2 事案の概要
 1 基本的事実関係(当事者間に争いがないか,【】内の証拠等により認める)
 (1) 交通事故の発生
 原告A(昭和4年7月生まれの男性)は下記の交通事故にあい,負傷した。
  日  時  平成13年11月17日午前3時35分頃
  場  所  山梨県山梨市万力89番地
  事故概略  被告の運転する普通乗用自動車が原告Aの運転する自転車に衝突した。
 (2) 被告の責任
 被告には前方注視義務違反の過失があり,不法行為に基づき原告Aに生じた損害を賠償
する義務を負う。
 (3) 治療経過と後遺症
 原告Aが受けた傷害は脳挫傷等であり,下記のとおり入通院をしてその治療を受けた。
 平成13年11月17日~平成14年3月7日 加納岩総合病院に入院
 平成14年3月8日~平成15年4月3日 春日居リハビリテーション病院に入通院
 平成15年4月3日に症状が固定し,「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,
常に介護を要するもの」に該当するとして自賠責後遺障害等級第1級第3号適用とされて
いる。
 (4) 後見開始【甲10,弁論の全趣旨】
 原告Aは平成17年10月21日に甲府家庭裁判所で後見開始の審判を受け,Dがその
成年後見人に選任された。この審判は同年11月5日確定した。
 (5) 既払金
 原告Aに対しては,本件交通事故による損害の填補として,自賠責保険金を含め合計3
939万3932円がこれまでに支払われている。
 (6) 親子関係【甲5の1・2】
 原告Bと原告Cは原告Aの子である。
 2 争点
 (1) 過失相殺(事故態様)
【被告の主張】
 事故態様は,被告運転自動車が原告A運転自転車を追い抜く際に,左サイドミラーと左
フロントフェンダーが自転車のハンドル右側に接触したというものであり,被告は10%
の過失相殺を主張する。
【原告らの主張】
 事故態様は,被告運転自動車が原告A運転自転車に追突したというものであり,過失相
殺をすることはできない。
 (2) 損害額
【原告らの主張】
 ア 原告Aの損害
 原告Aの損害は以下のとおりである。
 (ア) 傷害による損害   1961万8483円
 a 治療費            1005万1832円
 b 入通院雑費            75万4500円
 c 休業損害            564万2151円
 d 傷害慰謝料           317万円
 (イ) 後遺症による損害  5376万7282円
 a 介護料             498万3600円
 b 後遺症逸失利益        2078万3682円
 c 後遺症慰謝料         2800万円
 (ウ) 弁護士費用      330万円
 イ 原告Bと原告Cの損害
 原告Bと原告Cの損害は以下のとおりである。
 (ア) 固有の慰謝料   各自500万円
 原告Aが生死の境をさまよい,最終的には自賠責等級第1級の後遺症を負ったことによ
り,原告Bと原告Cは父親の死亡にも比肩すべき精神的苦痛を被った。その固有の慰謝料
は各自500万円である。
 (イ) 弁護士費用     各自50万円
 ウ まとめ
 被告に対し,
 (ア) 原告Aは3729万1833円
19,618,483+53,767,282-39,393,932+3,300,000=37,291,833
 (イ) 原告Bと原告Cは各自550万円
と各金員に対する事故日である平成13年11月17日から支払いずみまで民法所定の年
5%の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第3 争点に対する判断
 1 過失相殺(争点(1))について
 交通事故証明書(甲1)の事故類型欄には車両相互の「追突」のところに○がついてお
り,事故時の状態欄には,原告A,被告双方とも「運転」のところに○がついている。こ
の証明書からは,被告運転自動車が原告A運転自転車に追突したことが読み取れる。追突
の場合,過失相殺をしないのが原則である。
 保険会社が原告代理人弁護士に宛てた書面(甲7)には「リサーチの原因調査結果を踏
まえ,自転車の『蛇行運転』及び『左側に寄らない走行』としてA様の過失を10%とさ
せていただきました。(なお,同原因調査報告では過失30%とされております。)」と
の記載があるが,ここに引用されている「調査結果」ないし「調査報告」は証拠として提
出されておらず,ほかにこの記載を裏づける証拠もいっさい存在しない。
 また,事故の時間帯が午前3時台の真夜中であること,原告Aの負った傷害が脳挫傷等
であり,衝突により相当大きな衝撃を受けたと認められることからすると,被告運転自動
車の事故時の速度は相当大きなものであったことが推測できる。一方,原告Aは当時72
歳と高齢であった。
 以上の点を総合的に考慮し,本件において過失相殺をするのは妥当でないと判断する。
 2 損害額(争点(2))について
 (1) 原告Aの損害
 ア 傷害による損害   1645万6879円
 (ア) 治療費            1005万1832円
 当事者間に争いがなく,金額も妥当である(甲7)。
 (イ) 入院雑費            75万4500円
 原告Aは,治療期間中,いったん退院して特別養護老人ホームに入所していたことがあ
るが,実質的にはこの期間も入院と同視できるから,入院日数は事故日から症状固定日ま
での503日とすべきである(甲7,10)。入院雑費は1日につき1500円とすべき
であるから合計75万4500円である。
503×1,500=754,500
 (ウ) 休業損害            248万0547円
 基礎収入を算定するにあたり参考となる事情は次のとおりである(かっこ内に掲げる証
拠のほか,原告A法定代理人Dの尋問結果と弁論の全趣旨により認める)。
 a 原告Aは事故当時ひとり暮らしであり,年金を受給していたほか,農業をして生計
を立てていた。年金収入は年間46万円ほどである。
 b 原告Aは事故の10年ほど前に脳梗塞を発症していたが,その程度はそれほど重い
ものではなく(甲2),生活は自立しており,農業をすることもできた。
 c 原告Aには母親がおり,原告Aがひとりでその面倒をみていたが,事故の2年ほど
前からは施設で生活するようになった。この母親の生活のための費用は多いときで1か月
10万円程度であり,母親自身の年金(原告Aと同程度の金額)で足りないときは原告A
も援助をしていた。
 d 原告Aの所有する農地は全部で1500坪ほどあり(甲6),原告Aはここでひと
りで桃とブドウを栽培していた。売上げは年間で100万円程度,経費率は50%程度と
推測される。もっとも,山梨市長の発行した所得証明書によれば,原告Aの平成12年中
の所得は9万9560円である(乙1)。
 e 原告Aは,農繁期には近所の農家の手伝いをしたり,農閑期には土建屋の土木作業
員をするなどして,日銭を稼いでいた。いずれも日当1万円程度であったが,年間にどの
程度働いていたのかは不明である。
 以上の事実に基づき基礎収入について判断する。まず,原告Aの稼働状況を前提にする
と,所得証明書の数字が現実の原告Aの収入を反映しているとはとうてい考えられないか
ら,これにしたがうことはできない。一方で,賃金センサス平成13年第1巻第1表男性
労働者学歴計・65歳以上の平均年収額は409万4500円だが,上記の事実によれば
,原告Aの実際の収入はこれよりはるかに低いものだったと推測される。そこで,上記の
事実や賃金センサスの数字を総合的に勘案して,原告Aの事故当時の年収額は多くても1
80万円を超えるものではなかったと判断し,この金額を基礎収入とする。
 事故から症状固定までの日数は503日だから,休業損害は以下の計算式により248
万0547円である。
1,800,000÷365×503≒2,480,547
 (エ) 傷害慰謝料           317万円
 事故態様,傷害の部位,程度,入院日数を基礎に,原告らの主張をも勘案して,傷害慰
謝料は317万円とする。
 イ 後遺症による損害  4168万4800円
 a 介護料             498万3600円
 介護料は年間60万円である(甲7)。症状固定時73歳で,平均余命は11年である
から,11年のライプニッツ係数8.306をかけると,合計額は498万3600円で
ある。
600,000×8.306=4,983,600
 b 後遺症逸失利益         870万1200円
 休業損害の算定のところで検討したところにしたがい,基礎収入は年間180万円とす
る。
 後遺症の自賠責等級は第1級だから労働能力喪失率は100%である。
 事故時72歳,症状固定時73歳であり,73歳から6年間就労可能とする。7年(7
3+6-72)のライプニッツ係数は5.786,1年(73-72)のライプニッツ係
数は0.952である。
 これらの条件を前提にすると,後遺症逸失利益(事故時の現価)は以下の計算式により
870万1200円となる。
1,800,000×1×(5.786-0.952)=8,701,200
 c 後遺症慰謝料         2800万円
 事故態様,後遺症の部位,程度(自賠責等級第1級)などの事情を総合的に勘案し,後
遺症慰謝料は2800万円とする。
 ウ 損害の填補    ▲3939万3932円
 エ 弁護士費用      185万2253円
 損害填補後の損害残額が1874万7747円であるので,その約10%にあたる18
5万2253円を弁護士費用とする。
(16,456,879+41,684,800)-39,393,932=18,747,747
 オ 請求認容額     2060万円
18,747,747+1,852,253=20,600,000
 (2) 原告Bと原告Cの損害
 ア 固有の慰謝料    各自50万円
 原告Bと原告Cは原告Aの子であるから,原告Aが重傷を負い自賠責等級第1級の重度
の後遺症が残ったことからすると,父親の死亡した場合に比して著しく劣らない程度の精
神的苦痛を被ったものとしてその固有の慰謝料の発生を肯定することができる。
 その金額は,
 a 上記に認定したとおり,原告Bも原告Cも原告Aからは自立し,原告Aとはまった
く別々の生活を送っていたこと
 b 原告Aのいとこで現在原告Aの成年後見人となっているDは事故前から原告Aと行
き来があったが,そのDは,以前から原告Bとも原告Cとも音信不通であったと述べてお
り,原告Bも原告Cも原告Aとの間に行き来はなかったことがうかがわれること
 c Dは,事故後においても,原告Bと原告Cが原告Aを見舞っているのを見たことは
ないし,事故についてふたりと話をしたことすらないと述べていること
などの事情を総合的に勘案し,各自50万円とする。
 イ 弁護士費用      各自5万円
 慰謝料の金額が50万円であることに基づき,弁護士費用は5万円とする。
 ウ 請求認容額     各自55万円
 3 結論
 被告に対し,不法行為に基づき,
 ア 原告Aは2060万円
 イ 原告Bと原告Cは各自55万円
と各金員に対する事故日である平成13年11月17日から支払いずみまで民法所定の年
5%の割合による遅延損害金の支払いを求めることができる。原告らの請求はこの限度で
理由がある。
   甲府地方裁判所民事部
 裁判官  倉 地 康 弘

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