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平成19年(行ケ)第10066号審決取消請求事件
平成19年6月14日判決言渡,平成19年4月26日口頭弁論終結
判決
原告株式会社角建材店
訴訟代理人弁理士竹中一宣,大矢広文
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人関口剛,岩井芳紀,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2006−13227号事件について平成19年1月30日にし
た審決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本件は,原告が,意匠に係る物品を「建築用板材」とする意匠につき登録出願を
して,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り
立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
()本件登録出願(甲第1号証)1
出願人:株式会社角建材店(原告)
出願日:平成17年5月10日
出願番号:意願2005−13349号
意匠に係る物品:建築用板材」「
意匠に係る物品の形状:別紙1のとおり
()本件手続2
拒絶査定日:平成18年5月26日(甲第4号証)
審判請求日:平成18年6月23日(不服2006−13227号(甲第5号)
証)
審決日:平成19年1月30日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成19年2月9日
2審決の理由の要点
審決は,本件登録出願前の意匠登録出願に係る下記意匠(以下「引用意匠」とい
う)を引用し,本件登録出願に係る意匠(以下「本願意匠」という)は,引用意。。
匠に類似するものであって,本件登録出願は最先の意匠登録出願ではないから,意
匠法9条1項により,意匠登録を受けることができない,とした。
【引用意匠(甲第8号証】)
出願日:平成16年12月24日(意願2004−39563号)
登録日:平成18年2月3日
登録番号:第1265278号
意匠に係る物品:壁板材」「
意匠に係る物品の形状:別紙2のとおり
審決の理由中,本願意匠と引用意匠との比較及び類否判断に係る部分は,以下の
とおりである(略称を本判決に従って改めてある。以下,審決の記載を引用する場
合も同様である。。)
()本願意匠と引用意匠との比較1
「本願意匠と引用意匠を比較すると,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,また,形態につい
ては,主として以下の共通点と差異点がある。
すなわち,共通点として,()全体が,板面に断面が垂直面と水平面を傾斜面で繋いだ略山1
形の凸部を五列平行に形成し,正面視左側接続部に下側引っ掛け部を形成し,右側接続部を略
山形凸部分の長さ程度水平に延長して上側引っ掛け部を形成した基本的な構成態様のものであ
る点,また,その具体的な態様において,()下側引っ掛け部について,先端部を山の内側に2
折曲している点,()上側引っ掛け部について,延長水平面の略中央部に上側に折り返した突3
条部を形成し,右側先端部を上方山側に折り曲げた折り返し部を形成している点がある。
一方,差異点として,(イ)下側引っ掛け部について,本願意匠は,山側に一度折り曲げた言
『』,,,わばシングルの状態であり長手方向に緩い凹凸条を設けているのに対して引用意匠は
山側に二度折り曲げた言わば『ダブル』の状態であり,緩い凹凸条がない点,(ロ)上側引っ掛
け部の略中央の突条部について,本願意匠は,凸条部を水平面に平行にU字状に折り曲げてい
るのに対して,引用意匠は,水平面に対して傾斜状に立ち上げた突条としている点,(ハ)上側
引っ掛け部の右寄り部について,本願意匠は,突条部の右側に小さい三角状突条を形成してい
,,,,るのに対して引用意匠はこれがない点(ニ)上側引っ掛け部の右端の折り返し部について
本願意匠は,水平面に平行に略U字状に折り曲げているのに対して,引用意匠は,水平面に対
して傾斜状に立ち上げている点がある。
なお,その他にも差異点(例えば,差異点から生ずる側面図等の見え方,縦横比率,山部の
傾斜角度など)がないわけではないが,請求人が類否判断に影響があると特に主張している差
異点に比較して,極めて僅かな差異であるから,これらを全て列挙して検討するまでもなく,
請求人が特に主張している差異点を中心に検討すれば類否判断する上で必要,かつ,十分であ
る」。
()本願意匠と引用意匠との類否判断2
「上記の共通点と差異点について総合的に検討するに,共通点については,()の基本的な構1
成態様の共通点は,両意匠の形態の全体にかかわりその骨格を構成するところであって,両意
匠の特徴をよく表し,形態全体の基調を形成しており,具体的な態様の共通点のうち,()お2
よび()の点は,それぞれ各部の態様を具体的に表すところであって,基本的な構成態様と相3
俟って,両意匠の特徴をよく表しているとともに,形態全体の基調を決定づけており,これら
の共通点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
一方,前記差異点について,(イ)の点については,この種の意匠の分野においては,一重に
(,),折り曲げることは普通に行われている手法であって例えば意匠登録第1224045号
本願独自の特徴ではなく,かつ,局部的な部分における僅かな差異であるから,それほど顕著
なものではなく,この部分における緩い凹凸条の有無は,拡大図がなければ(出願当初には添
付されてなく,審判請求書で初めて参考図として開示されている)視認できない程度のもの。
であるから,僅かな差異というほかなく,類否判断に及ぼす影響は軽微なものと言える。(ロ)
の点については,本願意匠も引用意匠も突条部がある点は共通しており,その共通性の中での
,,突条部の先端部が略U字状か略V字状かの差異であるからそれほど注目されるものではなく
類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまると言わざるを得ない。(ハ)の点については,拡
大斜視図によって初めて認識できる程度の微細な差異にすぎないことから,それらの類否判断
に及ぼす影響は微弱と言うほかない。(ニ)の点については,この種の意匠の分野においては略
U字状に折り曲げることも,略V字状に折り曲げることも一般的に行われる手法であって,格
別に顕著なものとはいえないから,その差異は僅かなものであって,類否判断に与える影響は
軽微なものと言える。
そうして,上記の差異点が相俟った効果を考慮してもなお,その類否判断に及ぼす影響は微
弱なものに止まると言うほかない。
以上のとおりであって,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,その形態について,両意匠の
共通点は,類否判断に大きな影響を及ぼすものであり,差異点は,共通点を凌駕することがで
きず,両意匠は類似するものと言わざるを得ない」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
1審決は,本願意匠と引用意匠との類否判断において,基本的構成態様に係る共
通点についての認定判断を誤り,差異点(イ)∼(ニ)についての判断を誤り,また,他
の差異点を看過して,本願意匠が引用意匠に類似するものと誤って判断したもので
あるから,取り消されるべきである。
2審決取消事由(類否判断の誤り)
()共通点()についての認定判断の誤り11
審決は,本願意匠と引用意匠との基本的構成態様に係る共通点(共通点())と1
して「全体が,板面に断面が垂直面と水平面を傾斜面で繋いだ略山形の凸部を五,
列平行に形成し,正面視左側接続部に下側引っ掛け部を形成し,右側接続部を略山
形凸部分の長さ程度水平に延長して上側引っ掛け部を形成した基本的な構成態様の
ものである点」を認定し,かつ,この共通点につき「()の基本的な構成態様の共,1
通点は,両意匠の形態の全体にかかわりその骨格を構成するところであって,両意
匠の特徴をよく表し,形態全体の基調を形成しており・・・これらの共通点は,,
両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである」と判断した。。
しかしながら,上記認定に係る「略山形の凸部」の形状は,建築部材の分野にお
いては,本願意匠や引用意匠の意匠に係る物品である「建築用板材「壁板材」に」,
限らず,様々な部材に用いられており(例として,実開平2−27443号公報。
甲第9号証,広く知られたものである。)
したがって「略山形の凸部」の形状が,看者の注意を惹くことはなく,この点,
を本願意匠と引用意匠との基本的構成態様であると認定し「両意匠の類否判断に,
大きな影響を及ぼす」と判断したことは,誤りである。
()差異点(イ)についての判断の誤り2
審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(イ),すなわち「下側引っ掛け部につい,
て,本願意匠は,山側に一度折り曲げた言わば『シングル』の状態であり,長手方
向に緩い凹凸条を設けているのに対して,引用意匠は,山側に二度折り曲げた言わ
ば『ダブル』の状態であり,緩い凹凸条がない点」につき「この種の意匠の分野,
においては,一重に折り曲げることは普通に行われている手法であって(例えば,
意匠登録第1224045号,本願独自の特徴ではなく,かつ,局部的な部分に)
おける僅かな差異であるから,それほど顕著なものではなく,この部分における緩
い凹凸条の有無は,拡大図がなければ(出願当初には添付されてなく,審判請求書
で初めて参考図として開示されている)視認できない程度のものであるから,僅。
かな差異というほかなく,類否判断に及ぼす影響は軽微なものと言える」と判断。
した。
しかしながら,本願意匠の「シングル形状の折曲げ」は,左側面から視認するこ
とができず,設置時に,隣り合う物品が一体化して同一の面のように見えて,安定
性が感じられるとともに,スマートで優しさがある。
これに対し,引用意匠の「ダブル形状の折曲げ」は,左側面から視認することが
,,,可能であり設置時に隣り合う物品が別個のものであることが判明するとともに
ごつくて強いイメージがある。
また,本願意匠は,底面視した場合には「緩い凹凸条」があることにより,左,
側端部に趣が感じられるのに対し「緩い凹凸条」がない引用意匠においては,そ,
のような趣は感じられない。なお,本願意匠の「緩い凹凸条」は,現実の物品にお
いては,通常の取引形態である肉眼での視認によって,その存在を容易に確認し得
るものであり,その存否がわずかな差異ということはできない「緩い凹凸条」に。
ついては,審判請求書(甲第5号証)記載の「本願意匠A−A部拡大図(12」
∼13頁)でも説明されているのであり「視認できない程度のものであるから,,
僅かな差異」とする審決は,意匠の特性を真摯に理解しようとする心構えが欠けて
いるといわざるを得ない。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
()差異点(ロ),(ニ)についての判断の誤り3
審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(ロ),すなわち「上側引っ掛け部の略中,
央の突条部について,本願意匠は,凸条部を水平面に平行にU字状に折り曲げてい
,,」るのに対して引用意匠は水平面に対して傾斜状に立ち上げた突条としている点
につき「本願意匠も引用意匠も突条部がある点は共通しており,その共通性の中,
での突条部の先端部が略U字状か略V字状かの差異であるから,それほど注目され
るものではなく,類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまると言わざるを得な
い」とし,また,差異点(ニ),すなわち「上側引っ掛け部の右端の折り返し部に。,
ついて,本願意匠は,水平面に平行に略U字状に折り曲げているのに対して,引用
意匠は,水平面に対して傾斜状に立ち上げている点」につき「この種の意匠の分,
野においては略U字状に折り曲げることも,略V字状に折り曲げることも一般的に
行われる手法であって,格別に顕著なものとはいえないから,その差異は僅かなも
のであって,類否判断に与える影響は軽微なものと言える」と判断した。。
しかしながら,本願意匠の上側引っ掛け部は「水平面に平行にU字状に折り曲,
げた突条」と「水平面に平行に略U字状に折り曲げた折返し」を特徴とするもので
あり,このように,相似形状に大小のU字形状を,水平面に平行に設けることによ
り,親子のような安定感とともに,安全で安らかな感覚を表現するものである。こ
,,「」れに対し引用意匠の上側引っ掛け部は水平面に対し傾斜状に立ち上げた突条
と「水平面に対し傾斜状に立ち上げた折返し」を特徴とするものであり,このよう
に,大小の相似形状を,水平面に傾斜状に設けることにより,不安定で落ち着きの
ない感覚を表現するものである。
また,右側面視した場合に,本願意匠の上側引っ掛け部は「水平面に平行にU,
字状に折り曲げた突条」と「水平面に平行に略U字状に折り曲げた折返し」の略垂
直面の構造及び第5山の垂直面と傾斜面により,垂直と傾斜のはっきりとしたコン
トラストが見られるのに対し,引用意匠の上側引っ掛け部は「水平面に対して傾,
斜状に立ち上げた突条」と「水平面に対して傾斜状に立ち上げた折返し」の傾斜形
状の立ち上げ構造と第5山の垂直面と傾斜面により,傾斜面が目立ち,本願意匠の
ようなコントラストは感じられない。
さらに,平面視した場合に,本願意匠は,右側端部(上側引っ掛け部)に複雑な
条線が表れて看者に情感を与える模様が表現されるのに対し,引用意匠の右側端部
(上側引っ掛け部)には,単純に3本の条線が表れるのみで,看者に対し何の情感
も与えない。
()差異点(ハ)についての判断の誤り4
審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(ハ),すなわち「上側引っ掛け部の右寄,
り部について,本願意匠は,突条部の右側に小さい三角状突条を形成しているのに
対して,引用意匠は,これがない点」につき「(ハ)の点については,拡大斜視図に,
よって初めて認識できる程度の微細な差異にすぎないことから,それらの類否判断
に及ぼす影響は微弱と言うほかない」と判断した。。
しかしながら,この「三角状突条」に係る本願意匠と引用意匠との差異は顕著な
ものであり,審決の上記判断は誤りである。上側引っ掛け部に「三角状突条」が形
成されていることは,審判請求書の「本願意匠B−B部拡大図」からも容易に視
認できるのであり「拡大斜視図によって初めて認識できる程度の微細な差異にす,
ぎない」とする審決は,意匠の特性を真摯に理解しようとする心構えが欠けている
といわざるを得ない。
()差異点の看過5
正面視した場合に,本願意匠は「水平面に平行にU字状に折り曲げた突条」と,
「水平面に平行に略U字状に折り曲げた折返し」の各U字形状の折曲げと,各平面
及び角山の頂上の平面によって高さの異なる平面を形成し,リズミカルである。こ
れに対し,引用意匠は「水平面に対し傾斜状に立ち上げた突条」と「水平面に対,
し傾斜状に立ち上げた折返し」の傾斜形状と,各山の傾斜面によって,各山の両サ
イドと引用意匠全体の両サイドとが傾斜面で形成され,なだらかな山を髣髴させ,
ゆったりとしている。
また,平面視・底面視した場合に,本願意匠は,縦長の長方形であり,スマート
な感覚を表現する。これに対し,引用意匠は,横長の長方形であり,ずんぐりした
感覚を表現する。
審決は,これらの差異点を考慮せずに類否判断をした誤りがある。
()なお,意匠登録第1273704号に係る意匠(平成17年8月19日登6
録出願,平成18年4月21日設定登録。甲第10号証。以下「原告引用意匠」と
いう)は,板面に,断面が垂直面と水平面を傾斜面で繋いだ略山形の凸部を形成。
した構成であり,その点で,本願意匠及び引用意匠と共通している。それにもかか
わらず,本願意匠に遅れて意匠登録出願がなされた原告引用意匠につき設定登録が
なされたのは,略山形の凸部以外の部分で,原告引用意匠と引用意匠との類否判断
がなされ,原告引用意匠と引用意匠とが類似していないと判断されたからにほかな
らない。
したがって,本願意匠につき,引用意匠に類似するとの理由で設定登録を拒絶す
ることは,審査,判断の不統一をもたらすことになる。
第4被告の反論の要点
1審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の審決取消事由は理由がない。
2審決取消事由(類否判断の誤り)に対し
()「共通点()の認定判断の誤り」との主張に対し11
,,,「」原告は審決の共通点()の認定判断に対し当該認定に係る略山形の凸部1
の形状が,建築部材の分野において,様々な部材に用いられており,広く知られた
ものであって,看者の注意を惹くことはないから,この共通点を本願意匠と引用意
,「」匠との基本的構成態様であると認定し両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼす
と判断することは,誤りであると主張する。
しかしながら,審決は,その記載のとおり「全体が,板面に断面が垂直面と水,
平面を傾斜面で繋いだ略山形の凸部を五列平行に形成し,正面視左側接続部に下側
引っ掛け部を形成し,右側接続部を略山形凸部分の長さ程度水平に延長して上側引
っ掛け部を形成した基本的な構成態様のものである」と認定したものであり,基本
的構成態様が「略山形の凸部」のみと認定したわけでもないし「略山形の凸部」,
の部分が取引者,需要者の注意を最も惹く部分であると判断したものでもない。
したがって,原告の主張は誤りであり,審決の認定判断に誤りはない。
()「差異点(イ)についての判断の誤り」との主張に対し2
原告は,審決の差異点(イ)についての判断につき,本願意匠の「シングル形状の
折曲げ」は,左側面から視認することができず,設置時に,隣り合う物品が一体化
して同一の面のように見えて,安定性が感じられるとともに,スマートで優しさが
あるのに対し,引用意匠の「ダブル形状の折曲げ」は,左側面から視認することが
,,,可能であり設置時に隣り合う物品が別個のものであることが判明するとともに
ごつくて強いイメージがあると主張し,また,本願意匠の「緩い凹凸条」は,現実
の物品においては,肉眼によって,その存在を容易に確認し得るものであり,底面
視した場合には,本願意匠は「緩い凹凸条」があることにより,左側端部に趣が,
感じられるのに対し「緩い凹凸条」がない引用意匠は,趣が感じられないと主張,
する。
「折曲げ」に関する原告主張の内容は,本願意匠の「シングル形状の折曲げ」及
び引用意匠の「ダブル形状の折曲げ」を側面から観察した場合の差異であるのに対
,,,,し審決は当該部分を正面から観察した場合の差異を差異点(イ)と認定した上
その差異をわずかな差異と判断したものであるが,その差異は,側面視した場合に
も表れるものである。そして「シングル形状の折曲げ」及び「ダブル形状の折曲,
げ」とも,建築部材の意匠の分野ではありふれた手法であり(甲第13号証,乙第
1∼第3号証,格別に評価すべき理由はない。)
また「緩い凹凸条」は,左側接続部における下側引っ掛け部という,それ自体,
小さな部分における極めてわずかな差異であって,意匠を全体的に観察した場合に
は,類否判断に影響を及ぼすようなものではない。
()「差異点(ロ),(ニ)についての判断の誤り」との主張に対し3
原告は,審決の差異点(ロ),(ニ)についての判断につき,本願意匠の上側引っ掛け
部は「水平面に平行にU字状に折り曲げた突条」と「水平面に平行に略U字状に,
折り曲げた折返し」とに係る相似形状の大小のU字形状を,水平面に平行に設ける
,,,ことにより安定感とともに安全で安らかな感覚を表現するものであるのに対し
引用意匠の上側引っ掛け部は「水平面に対し傾斜状に立ち上げた突条」と「水平,
面に対し傾斜状に立ち上げた折返し」とに係る大小の相似形状を,水平面に傾斜状
に設けることにより,不安定で落ち着きのない感覚を表現するものであると主張す
る。
,,しかしながら折り曲げた突条部と端部の折返しが大小の相似形状であることは
本願意匠及び引用意匠に共通し,本願意匠の相似形状の組合せの態様が,格別特徴
的というわけではない。また,突条部については,突条という共通性の中で,その
先端が略U字状か略V字状かという差異があるだけであるから,さほど顕著な差異
があるというわけではない。加えて,本願意匠に係る略U字状に折り曲げた突条は
広く知られており(乙第4∼第6号証,格別の注意を惹くものではなく,この種)
の意匠の分野において,端部を略U字状に折り曲げることも,略V字状に折り曲げ
ることも,一般的な手法であって,格別顕著なものではないから,類否判断に及ぼ
す影響は微弱である。
なお,審決は,主として正面から見た場合の差異を認定した上,その差異をわず
かな差異と判断したものであるが,原告は,側面から観察した場合に,本願意匠の
,,上側引っ掛け部は垂直と傾斜のはっきりとしたコントラストが見られるのに対し
引用意匠の上側引っ掛け部は,傾斜面が目立ち,本願意匠のようなコントラストは
感じられないとか,正面視した場合に,本願意匠は,右側端部(上側引っ掛け部)
に複雑な条線が表れて看者に情感を与える模様が表現されるのに対し,引用意匠の
右側端部(上側引っ掛け部)には,単純に3本の条線が表れるのみで,看者に対し
何の情感も与えないと主張する。
,,,しかしながら原告の主張するような差異は意匠を全体的に観察した場合には
わずかなものであって,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
()「差異点(ハ)についての判断の誤り」との主張に対し4
原告は,審決の差異点(ハ)についての判断につき,本願意匠の「三角状突条」に
係る引用意匠との差異は顕著なものであると主張するが,当該三角状突条は極めて
小さく,更に,このような三角状突条はよく知られているものである(乙第10∼
第11号証)ので,類否判断に及ぼす影響は,極めて微弱である。
()「差異点の看過」との主張に対し5
原告は,正面視した場合に,本願意匠は,高さの異なる平面を形成し,リズミカ
ルであるのに対し,引用意匠は,各山の両サイドと引用意匠全体の両サイドとが傾
斜面で形成され,なだらかな山を髣髴させ,ゆったりとしていると主張するが,原
告の主張するような差異は,意匠を全体的に観察した場合には,極めてわずかなも
のであって,類否判断において言及しなくとも,審決の結論に影響を及ぼすもので
はない。
また,原告は,平面視・底面視した場合に,本願意匠は,縦長の長方形であり,
引用意匠は,横長の長方形であるとも主張するが,本件登録出願に係る図面及び引
用意匠の図面に「平面図において上下に連続する」旨の記載があることから明ら,
かなように,原告の主張する内容は,省略図法の結果による差異であって,実質的
な差異ではない。
()原告引用意匠について6
原告は,原告引用意匠が,略山形の凸部を形成した点で,本願意匠及び引用意匠
と共通しているにもかかわらず,本願意匠に遅れて意匠登録出願がなされた原告引
用意匠につき設定登録がなされたのは,略山形の凸部以外の部分で,原告引用意匠
と引用意匠との類否判断がなされ,原告引用意匠と引用意匠とが類似していないと
判断されたからであり,本願意匠につき,引用意匠に類似するとの理由で設定登録
を拒絶することは,審査,判断の不統一をもたらすと主張する。
しかしながら,原告引用意匠と本願意匠及び引用意匠とでは,基本的構成態様が
異なるのであり,原告引用意匠が登録された理由を直ちに本願意匠の設定登録の可
否に適用することはできない。
第5当裁判所の判断
1審決取消事由(類否判断の誤り)について
()意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要1
するが,そのためには,両意匠の基本的構成態様及び各部の具体的態様のそれぞれ
において,形態上の共通点及び差異点を抽出した上,それらを,視覚的効果,使用
態様,公知意匠にない新規な創作であるか否か等の観点から検討し,共通点が及ぼ
す美感の共通性と差異点に基づく美感の個別性とを比較考量し,総合的,全体的に
類否を判断すべきものと解するのが相当である。
しかるところ,甲第1,第5,第8号証によれば,本願意匠と引用意匠とは,審
決が認定するとおり,基本的構成態様において「全体が,板面に断面が垂直面と,
水平面を傾斜面で繋いだ略山形の凸部を五列平行に形成し,正面視左側接続部に下
側引っ掛け部を形成し,右側接続部を略山形凸部分の長さ程度水平に延長して上側
引っ掛け部を形成した基本的な構成態様のものである点(共通点())で共通する」1
ものであり,かつ,基本的構成態様において格別の差異点はない。また,各部の具
体的態様のうち,下側引っ掛け部については「先端部を山の内側に折曲している,
点(共通点())で共通し「本願意匠は,山側に一度折り曲げた言わば『シング」,2
ル』の状態であり,長手方向に緩い凹凸条を設けているのに対して,引用意匠は,
山側に二度折り曲げた言わば『ダブル』の状態であり,緩い凹凸条がない点(差」
異点(イ))で差異があり,上側引っ掛け部については「延長水平面の略中央部に上,
側に折り返した突条部を形成し,右側先端部を上方山側に折り曲げた折り返し部を
形成している点(共通点())で共通し「上側引っ掛け部の略中央の突条部につ」,3
いて,本願意匠は,凸条部を水平面に平行にU字状に折り曲げているのに対して,
,」(),引用意匠は水平面に対して傾斜状に立ち上げた突条としている点差異点(ロ)
「上側引っ掛け部の右寄り部について,本願意匠は,突条部の右側に小さい三角状
突条を形成しているのに対して引用意匠はこれがない点差異点(ハ)及び上,,」()「
側引っ掛け部の右端の折り返し部について,本願意匠は,水平面に平行に略U字状
に折り曲げているのに対して,引用意匠は,水平面に対して傾斜状に立ち上げてい
る点(差異点(ニ))で差異が認められるものである。」
()共通点()について21
原告は,基本的構成態様に係る共通点()のうちの「略山形の凸部」につき「略1,
」,,「」,「」,山形の凸部は建築部材の分野においては建築用板材壁板材に限らず
様々な部材に用いられ,広く知られたものであって,看者の注意を惹くことはない
とし,審決が,この点を本願意匠と引用意匠との基本的構成態様であると認定し,
「両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼす」と判断したことは,誤りである旨主張
する。
しかしながら,本願意匠,引用意匠ともに,意匠全体の構成は,正面視中央部分
を,5列平行に形成された「略山形の凸部」が占め,その左右接続部に下側引っ掛
け部と上側引っ掛け部が形成されているというものであって,これらの部分が相ま
って,意匠全体を形作っているのであり,とりわけ,中央の「略山形の凸部」が意
匠全体に対し占める割合は大きいものである(前掲甲第1,第8号証によれば,両
意匠において「略山形の凸部」を形成する部分(隣接する凸部間の凹部を含む),。
が全体に対し占める割合は,それぞれ8割を超えていることが認められる。した。)
がって,審決が「全体が,板面に断面が垂直面と水平面を傾斜面で繋いだ略山形,
の凸部を五列平行に形成し,正面視左側接続部に下側引っ掛け部を形成し,右側接
続部を略山形凸部分の長さ程度水平に延長して上側引っ掛け部を形成した基本的な
構成態様のものである点(共通点())を,基本的構成態様における共通点と認定」1
したこと,及び共通点()が「両意匠の形態の全体にかかわりその骨格を構成する1
ところであって,両意匠の特徴をよく表し,形態全体の基調を形成しており」と認
定した上「両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである」と判断したこと,
に,何らの誤りもない。板面に断面形状が略山形となる凸部を形成することが,建
築部材の分野において,周知又は公知であったとしても,全体的構成が上記のよう
である両意匠において,5列平行に形成された「略山形の凸部」が,下側引っ掛け
部及び上側引っ掛け部とともに,意匠の特徴を表し,形態全体の基調を形成してい
る事実に変わりはなく,審決の共通点()の認定又は判断を覆すに足りるものでは1
ない。
()差異点(イ)について3
差異点(イ)は,上記のとおり,正面視左側の接続部に形成した下側引っ掛け部に
おいて,①本願意匠は「シングル形状の折曲げ」であり,引用意匠は「ダブル形状
」,,「」,の折曲げである点②本願意匠は長手方向に緩い凹凸条を設けたのに対し
引用意匠はこれを設けていない点である。
そして,原告は,上記①の点につき,本願意匠の「シングル形状の折曲げ」は,
左側面から視認することができず,設置時に,隣り合う物品が一体化して同一の面
,,,のように見えて安定性が感じられるとともにスマートで優しさがあるのに対し
引用意匠の「ダブル形状の折曲げ」は,左側面から視認することが可能であり,設
置時に,隣り合う物品が別個のものであることが判明するとともに,ごつくて強い
イメージがあると主張する。
しかしながら,両意匠の折曲げ部の,それぞれの意匠全体に対する割合は極めて
わずかであり,しかも,引用意匠の「ダブル形状の折曲げ」の最初の折返し部と2
番目の折返し部は,正面視平行で,かつ,ごく接近しており「ダブル形状」に形,
成されていることがさほど目立つものではなく,本願意匠の「シングル形状の折曲
げ」と引用意匠の「ダブル形状の折曲げ」との間に,原告主張のような美感上の相
。,,()違はほとんど認められない加えて本件意匠登録出願当時建築用板材壁板材
の分野において,接続部の下側引っ掛け部を「シングル形状の折曲げ」により構成
したものとして,意匠登録第1224045号(甲第13号証)及び意匠登録第1
163652号(乙第1号証)に係る各意匠が「ダブル形状の折曲げ」により構,
成したものとして,意匠登録第1265279号(乙第2号証)及び意匠登録第1
1116094号(乙第3号証)に係る各意匠が,それぞれ存在していることが認
められ,そうすると「シングル形状の折曲げ」及び「ダブル形状の折曲げ」は,,
ともにありふれたものであって,本願意匠において,下側引っ掛け部が「シングル
形状の折曲げ」により構成されていることが,格別看者の注意を惹くということも
できない。
また,原告は,上記②の点につき,底面視した場合には,本願意匠は「緩い凹,
凸条」があることにより,左側端部に趣が感じられるのに対し「緩い凹凸条」が,
ない引用意匠においては,そのような趣は感じられないと主張する。
しかしながら,本願意匠の「緩い凹凸条」は,上記のとおり,それ自体,意匠全
体に対する割合が極めてわずかである「シングル形状の折曲げ」の折返し部に,わ
ずかの凹凸を伴って形成されたものであって,本件意匠登録出願に係る願書に添付
された図面(甲第1号証)では,ほとんど視認し得ない程度の微細なものであるか
ら,引用意匠との類否判断において,当該「緩い凹凸条」の存否により,原告主張
「」。のような趣の有無という美感上の相違が生ずるとは到底認めることができない
なお,原告は,審決の「緩い凹凸条の有無は,拡大図がなければ(出願当初には
添付されてなく,審判請求書で初めて参考図として開示されている)視認できな。
い程度のものであるから,僅かな差異というほかなく」との説示に関し,本願意,
匠の「緩い凹凸条」は,現実の物品においては,肉眼での視認によって,その存在
を容易に確認し得るものであって,その存否がわずかな差異ということはできない
,「」,「」とか緩い凹凸条については審判請求書記載の本願意匠A−A部拡大図
でも説明されており,審決は,意匠の特性を真摯に理解しようとする心構えが欠け
ているなどと主張するが,審決の上記文言中には,審判請求書記載の「拡大図」に
,「」,,よれば緩い凹凸条を確認し得るとの趣旨が含まれているから原告の非難は
前提を欠いているのみならず,審決の,出願当初の図面では「緩い凹凸条」を視認
し得ないとの説示が「緩い凹凸条」の微細さの程度を表現しようとしたものであ,
ることは明白であり,かつ,出願当初の図面では「緩い凹凸条」をほとんど視認し
得ないことも上記のとおりであるから,原告の上記主張は,審決を正解しないでな
されたものであって,失当というほかはない。
したがって,審決が,差異点(イ)につき「(イ)の点については,この種の意匠の,
,,分野においては一重に折り曲げることは普通に行われている手法であって・・・
本願独自の特徴ではなく,かつ,局部的な部分における僅かな差異であるから,そ
れほど顕著なものではなく,この部分における緩い凹凸条の有無は,拡大図がなけ
れば(出願当初には添付されてなく,審判請求書で初めて参考図として開示されて
いる)視認できない程度のものであるから,僅かな差異というほかなく,類否判。
断に及ぼす影響は軽微なものと言える」とした判断に誤りはない。。
()差異点(ロ),(ニ)について4
ア上記のとおり,差異点(ロ)は,正面視右側の接続部に形成した上側引っ掛け
部略中央の突条部について,本願意匠は,水平面に平行にU字状に折り曲げている
のに対して,引用意匠は,水平面に対して傾斜状に立ち上げた突条としている点で
あり,差異点(ニ)は,上側引っ掛け部の右端の折り返し部について,本願意匠は,
水平面に平行に略U字状に折り曲げているのに対して,引用意匠は,水平面に対し
て傾斜状に立ち上げている点である。
そして,原告は,本願意匠の上側引っ掛け部は,差異点(ロ)に係る「水平面に平
行にU字状に折り曲げた突条」と差異点(ニ)に係る「水平面に平行に略U字状に折
り曲げた折返し」とによる相似形状の大小のU字形状を,水平面に平行に設けるこ
とにより,安定感とともに,安全で安らかな感覚を表現するものであるのに対し,
引用意匠の上側引っ掛け部は,差異点(ロ)に係る「水平面に対し傾斜状に立ち上げ
た突条」と差異点(ニ)に係る「水平面に対し傾斜状に立ち上げた折返し」とによる
大小の相似形状を,水平面に傾斜状に設けることにより,不安定で落ち着きのない
感覚を表現するものであると主張する。
しかしながら,本願意匠の「U字状に折り曲げた突条」も,引用意匠の「傾斜状
に立ち上げた突条」も,上側引っ掛け部略中央部において,あたかも折曲げ片を設
けるように,正面視上側に折り返し,かつ「略山形の凸部」の方向に折り曲げた,
突条部であるという点で,共通点()に係る顕著な共通性を有しており,差異点(ロ)3
は,その共通性の中で,折り曲げた突条が,水平面に平行なU字状であるか,水平
面に対し傾斜したV字状であるかの差異でしかない。また,差異点(ニ)も,接続部
右端を正面視左側に折り返すという,共通点()に係る共通性の中で,その折返し3
部が水平面に平行なU字状であるか,水平面に対し傾斜したV字状であるかという
程度の差異である。そして,本願意匠の「U字状に折り曲げた突条」及び「U字状
に折り曲げた折返し」が,それぞれ,意匠全体に対して占める割合は,いずれもご
くわずかであり,このことは,引用意匠の「傾斜状に立ち上げた突条」及び「傾斜
状に立ち上げた折返し」についても同様である。加えて,本件意匠登録出願当時,
建築用板材(壁板材)の分野において,接続部に「水平面に平行にU字状に折り曲
げた突条」を設ける構成としたものとして,意匠登録第358212号(乙第4号
証)に係る意匠が,端部を「水平面に平行に略U字状」に折り曲げる構成としたも
のとして,意匠登録第1142701号(乙第7号証)に係る意匠が,それぞれ存
在することが認められ,本願意匠のこれらの構成が新規であるというわけではない
から,さほど,看者の注意を惹くものでもない。
そうすると,差異点(ロ),(ニ)は,上記のような共通性が認められる中での極めて
わずかな差異というべきであり,かつ,格別看者の注意を惹くようなものというこ
ともできないから,これらの差異が,類否判断に及ぼす影響は微弱なものであると
いわざるを得ない。
,「」「」確かに本願意匠のU字状に折り曲げた突条とU字状に折り曲げた折返し
や,引用意匠の「傾斜状に立ち上げた突条」と「傾斜状に立ち上げた折返し」が,
大小の相似形状となっているものといえないことはないが,本願意匠と引用意匠と
で,その相似形状をなす突条や折返しの形状に係る差異が,上記のようにわずかで
あって,看者の注意を惹くものではなく,原告主張のような美感上の相違をもたら
すものと認めることはできない。
イ原告は,右側面視した場合に,本願意匠の上側引っ掛け部は,第5山の垂直
,,面と傾斜面も併せ垂直と傾斜のはっきりとしたコントラストが見られるのに対し
引用意匠の上側引っ掛け部は,第5山の垂直面と傾斜面も併せ,傾斜面が目立ち,
本願意匠のようなコントラストは感じられないと主張し,さらに,平面視した場合
に,本願意匠は,右側端部(上側引っ掛け部)に複雑な条線が表れて看者に情感を
与える模様が表現されるのに対し,引用意匠の右側端部(上側引っ掛け部)には,
単純に3本の条線が表れるのみで,看者に対し何の情感も与えないとも主張する。
しかしながら,原告主張の点に係る差異は,いずれも,意匠の全体的観察という
観点から見て,上記アのU字状突条と傾斜状突条との差異や,右端折返し部の差異
に比べても,なお微細な差異というほかはなく,本願意匠と引用意匠との類否判断
に及ぼす影響は極めて微弱であって,格別の美感上の相違が生ずると認めることは
できない。
ウしたがって,審決が,差異点(ロ),(ニ)につき「(ロ)の点については,本願意,
匠も引用意匠も突条部がある点は共通しており,その共通性の中での突条部の先端
部が略U字状か略V字状かの差異であるから,それほど注目されるものではなく,
類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまると言わざるを得ない・・・(ニ)の点。
については,この種の意匠の分野においては略U字状に折り曲げることも,略V字
状に折り曲げることも一般的に行われる手法であって,格別に顕著なものとはいえ
ないから,その差異は僅かなものであって,類否判断に与える影響は軽微なものと
言える」とした判断に誤りはない。。
()差異点(ハ)について5
差異点(ハ)は,上記のとおり,正面視右側の接続部に形成した上側引っ掛け部の
右寄り部に,本願意匠は,上記U字状突条部の右側に小さい三角状突条を形成して
いるのに対して,引用意匠はこれを設けていない点である。
そして,原告は,この「三角状突条」に係る本願意匠と引用意匠との差異は顕著
なものであると主張するが,本願意匠の「三角状突条」は,本件意匠登録出願に係
る願書に添付された図面(甲第1号証)のうち,正面図,背面図,斜視図によって
は,明確に視認することが困難であるほどの微細なものである上,本件意匠登録出
,(),「」願当時建築用板材壁板材の分野において接続部にこのような三角状突条
を形成したものとして,意匠登録第1048304号(乙第10号証)及び意匠登
録第1163768号(乙第11号証)に係る各意匠が,それぞれ存在しているこ
とが認められ,したがって「三角状突条」を形成することは,ありふれたもので,
あって,本願意匠において,これを形成したことが,格別看者の注意を惹くという
こともできない。
そうすると,差異点(ハ)が,本願意匠と引用意匠の類否判断に及ぼす影響は極め
て微弱なものというべきである。
なお,原告は,審決の「(ハ)の点については,拡大斜視図によって初めて認識で
きる程度の微細な差異にすぎない」との説示に関し,上側引っ掛け部に「三角状突
条」が形成されていることは,審判請求書の「本願意匠B−B部拡大図」からも
容易に視認できるのであり,審決は,意匠の特性を真摯に理解しようとする心構え
,,「」が欠けているといわざるを得ないと主張するが審決の上記説示が三角状突条
の微細さの程度を表現しようとしたものであることは明白であり,かつ,本件登録
出願に係る願書に添付された図面のうち,正面図,背面図,斜視図によっては,明
,,確に視認することが困難であることも上記のとおりであるから原告の上記主張は
審決を正解しないでなされたものであって,失当というほかはない。
したがって,審決が,差異点(ハ)につき「(ハ)の点については,拡大斜視図によ,
って初めて認識できる程度の微細な差異にすぎないことから,それらの類否判断に
及ぼす影響は微弱と言うほかない」とした判断に誤りはない。。
()「差異点の看過」との主張について6
ア原告は,正面視した場合に,本願意匠は「水平面に平行にU字状に折り曲,
げた突条」と「水平面に平行に略U字状に折り曲げた折返し」の各U字形状の折曲
げと,各平面及び角山の頂上の平面によって高さの異なる平面を形成し,リズミカ
ルであるのに対し,引用意匠は「水平面に対し傾斜状に立ち上げた突条」と「水,
平面に対し傾斜状に立ち上げた折返し」の傾斜形状と,各山の傾斜面によって,各
山の両サイドと引用意匠全体の両サイドとが傾斜面で形成され,なだらかな山を髣
髴させ,ゆったりとしていると主張するが,本願意匠の「水平面に平行にU字状に
折り曲げた突条」及び「水平面に平行に略U字状に折り曲げた折返し,引用意匠」
の「水平面に対し傾斜状に立ち上げた突条」及び「水平面に対し傾斜状に立ち上げ
た折返し」が,それぞれ,意匠全体に対して占める割合が,いずれもごくわずかで
あることは,上記()のアのとおりであって,これらの部分を含め,本願意匠及び4
引用意匠を全体的に観察してみても,原告の主張するような美感上の相違が生ずる
ものとは到底いうことができない。
イまた,原告は,平面視・底面視した場合に,本願意匠は,縦長の長方形であ
るのに対し,引用意匠は,横長の長方形であると主張するが,本願意匠に係る図面
(甲第1号証)及び引用意匠に係る図面(甲第8号証)には,各意匠が平面図にお
いて上下に連続する旨が記載されており,したがって,各意匠の縦横比率は,図面
の表示そのままではないから,原告の上記主張は失当である。
()類否判断について7
上記のとおり,本願意匠と引用意匠とは,基本的構成態様に係る共通点(),並1
びに各部の具体的態様のうち,下側引っ掛け部に係る共通点(),上側引っ掛け部2
に係る共通点()において共通するところ,共通点()が「両意匠の形態の全体に31,
かかわりその骨格を構成するところであって,両意匠の特徴をよく表し,形態全体
の基調を形成しており」とした審決の認定に誤りがないことは,上記()のとおり2
であり,この共通点()と,共通点()とは,相まって,両意匠の美感の共通性を強13
く感じさせるものである。これに対し,下側引っ掛け部に係る具体的態様に関する
差異点(イ),上側引っ掛け部に係る具体的態様に関する差異点(ロ)∼(ニ)及びその余
の差異点(上記()のア)に基づく両意匠の美感の個別性が極めて微弱なものであ6
ることは,上記()∼()のとおりであって,これら差異点が総合し,相まった場合46
の美感の個別性が,上記共通点に基づく美感の共通感を凌駕するものでもない。
したがって,本願意匠は,引用意匠に類似するものである。
()原告引用意匠について8
原告は,原告引用意匠が,略山形の凸部を形成した点で,本願意匠及び引用意匠
と共通しているにもかかわらず,本願意匠に遅れて意匠登録出願がなされた原告引
用意匠につき設定登録がなされたのは,略山形の凸部以外の部分で,原告引用意匠
と引用意匠との類否判断がなされ,原告引用意匠と引用意匠とが類似していないと
判断されたからであり,本願意匠につき,引用意匠に類似するとの理由で設定登録
を拒絶することは,審査,判断の不統一をもたらすと主張する。
しかしながら,原告引用意匠(甲第10号証)は,正面視により,板面に形成し
た略山形の凸部が4列しかなく,右側の接続部に最も近い「山形の凸部」の同接続
部側下端から,左方の意匠中央方向に,同凸部の幅方向のほぼ中央位置付近まで,
水平面に平行な細長の凹部が形成されるなど,本願意匠及び引用意匠と,基本的構
,,成態様が顕著に異なるのであるから原告引用意匠が設定登録されたからといって
引用意匠に類似するとの理由で,本願意匠の設定登録を拒絶することが,審査,判
断の不統一をもたらすものではない。
2結論
以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべき
である。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
杜下弘記
(別紙1)
本願意匠
(別紙2)
引用意匠

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