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平成19年12月20日判決言渡
平成12年(ワ)第544号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成19年7月5日
判決
主文
1被告千葉県は,原告Aに対し,40万円及びこれに対する平成12年5月2
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告千葉県は,原告Bに対し,80万円及びこれに対する平成12年5月2
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告千葉県は,原告Cに対し,40万円及びこれに対する平成12年5月2
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告千葉県は,原告Dに対し,10万円及びこれに対する平成12年5月2
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被告千葉県は,原告Eに対し,10万円及びこれに対する平成12年5月2
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6被告千葉県は,原告Fに対し,30万円及びこれに対する平成12年5月2
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7被告千葉県は,原告Gに対し,80万円及びこれに対する平成12年5月2
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8原告A,原告B,原告C,原告D,原告E,原告F及び原告Gの被告千葉県
に対するその余の請求並びに被告Z及び被告社会福祉法人恩寵園に対する請求
をいずれも棄却する。
9原告H,原告I,原告J及び原告Kの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用中,原告A,原告B,原告C,原告D,原告E,原告F及び原告G10
と被告千葉県との間に生じたものはこれを20分し,その1を被告千葉県の負
担とし,その余を原告A,原告B,原告C,原告D,原告E,原告F及び原告
Gの負担とし,原告H,原告I,原告J及び原告Kと被告千葉県との間に生じ
たものは,すべて原告H,原告I,原告J及び原告Kの負担とし,原告らと被
告Z及び被告社会福祉法人恩寵園との間に生じたものは,すべて原告らの負担
とする。
この判決は,第1項ないし第7項に限り,仮に執行することができる。ただ11
し,被告千葉県が,原告Aのために30万円,原告Bのために60万円,原告
Cのために30万円,原告Dのために10万円,原告Eのために10万円,原
告Fのために20万円及び原告Gのために60万円の各担保を供するときに
は,それぞれその仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,連帯して,原告らに対し,それぞれ1000万円及びこれに対す
,,る被告Z及び被告社会福祉法人恩寵園については平成12年5月21日から
被告千葉県については同月23日から各支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
第2事案の概要
本件は,児童福祉法(但し,以下ことわりなき限り,平成12年5月24日
法律第82号による改正前のもの。以下単に「法」という場合がある)27。
条1項3号に基づき,被告千葉県(以下「被告県」という)又は訴外千葉市。
により,養護施設(児童福祉法7条1項。平成9年6月11日法律第74号に
よる改正後の児童養護施設以下単に養護施設というである恩寵園以。「」。)(
下,養護施設恩寵園を,単に「恩寵園」ないし「園」という場合もある)に。
入所措置されていた原告らが,その入所期間中,園の副園長ないし施設長の職
にあった被告Zにより,体罰・虐待の不法行為を受けたと主張して,被告Zに
対し,民法709条に基づく損害賠償として,養護施設恩寵園の設置者である
被告社会福祉法人恩寵園(以下「被告恩寵園」という)に対し,被告Zの使。
用者として,被告Zの上記不法行為につき,民法715条1項に基づく損害賠
償として,さらに,被告県に対し,被告Zが被告県の公権力の行使に当る公務
員であるとしたうえで同被告に上記不法行為がある旨主張し,また,被告県の
公務員である千葉県知事(以下「県知事」という)において,被告恩寵園に。
対して有する監督権限の行使を過失により怠った不法行為があると主張し,国
家賠償法(以下「国賠法」という)1条1項に基づく損害賠償として,原告。
らそれぞれにつき,1000万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から
各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めて
いる事案である。
なお,被告Zは,原告A,同C,同D及び同Eについて,同原告らが本件訴
訟の提起及び追行を弁護士らに委任した当時,同原告らは未成年であって,本
件訴訟に関する訴訟能力を有していなかったのであり,訴訟能力のない者から
の委任による訴えは,その者が成年に達した場合においても,訴訟能力の欠缺
は治癒されないから,同原告らの訴えは却下されるべきである旨本案前の申立
をしていたが,この申立については,平成14年4月1日に言い渡された中間
判決により,原告A及び同川村についてはいずれも成人後に同原告らが追認し
たことにより,原告D及び同松尾についてはいずれも同原告らの法定代理人が
追認したことにより,それぞれ民事訴訟法34条2項により,訴訟能力の欠缺
が補正されたものとして,同原告らの訴えは適法であると判断されている。
1前提事実(当事者間に争いがないか,各項末尾掲記の証拠により容易に認定
できる事実)
(1)当事者
ア被告恩寵園及び養護施設恩寵園
(ア)被告恩寵園は,昭和27年5月20日,厚生大臣の認可により設
立された社会福祉法人であり,法35条4項に基づき,被告県の認可を
得て,養護施設恩寵園を設置しているものである。
(イ)養護施設とは,乳児を除き,保護者のない児童,虐待されている
児童その他環境上養護を要する児童を入所させて,これを養護すること
等を目的とする児童福祉施設である(法41条。)
イ被告Z
(ア)被告Zは,昭和50年7月,被告恩寵園に雇用され,園の副園長
として勤務し,昭和59年12月1日,施設長に就任し,平成12年2
月10日に園を退職するまで,施設長として勤務していたものである。
(イ)また,被告Zは,昭和59年12月1日,被告恩寵園の理事に,
昭和60年4月,理事長に就任し,平成7年5月23日に理事長を退任
するまでの間,被告恩寵園の役員を務めていた。
ウ被告県
被告県は,法35条4項(但し昭和60年7月12日法律第90号によ
る改正前の3項または2項。以下本条項につき同じ)に基づき,被告恩。
寵園に対し,養護施設恩寵園の設置を認可し,法32条1項に基づき県知
事が県の各児童相談所(以下「児相」という)長に法27条1項の措置。
を採る権限を委任したうえで,法27条1項3号に基づき,原告Dを除く
,。その余の原告らにつき養護施設恩寵園への入所措置を行ったものである
なお,県知事及び被告県の具体的権限については,下記(2)及び(3)
のとおりである。
エ原告ら
原告らは,法27条1項3号の措置として,原告Dについては千葉市長
の委任を受けた千葉児相所長により,その余の原告らについては県知事の
委任を受けた各児相所長により,養護施設恩寵園に入所措置されたもので
ある。なお,各原告に関する具体的措置等は下記(4)のとおりである。
(2)県知事の権限
ア社会福祉事業法上の権限
県知事は,原告らが被告Zの不法行為があったと主張する昭和59年1
月から平成10年4月までの間,被告恩寵園に対し,社会福祉事業法(平
成12年6月7日法律第111号により「社会福祉法」に改題)54条。
に基づき「法令,法令に基づいてする行政庁の処分及び定款が遵守され,
ているかどうかを確かめるため必要があると認めるときは,社会福祉法人
からその業務又は会計の状況に関し,報告を徴し,又は当該職員に,社会
福祉法人の業務及び財産の状況を検査させることができる(同条1項)。」
という権限「社会福祉法人が法令,法令に基づいてする行政庁の処分若,
しくは定款に違反し,又はその運営が著しく適正を欠くと認めるときは,
当該社会福祉法人に対し,期限を定めて,必要な措置を採るべき旨を命ず
ることができる(同条2項)という権限「社会福祉法人が前項の命令。」,
に従わないときは,…当該社会福祉法人に対し,期間を定めて業務の全部
若しくは一部の停止を命じ,又は役員の解職を勧告することができる」。
(同条3項)という権限及び「社会福祉法人が,法令,法令に基づいてす
る行政庁の処分若しくは定款に違反した場合であって他の方法により監督
の目的を達することができないとき,又は正当の事由がないのに一年以上
にわたってその目的とする事業を行わないときは,解散を命ずることがで
きる(同条4項)という権限を有していた(但し,上記2項ないし4。」。
項の権限は昭和61年12月26日法律第109号の施行以降認められる
に至ったものである)。
イ児童福祉法上の権限
(ア)児童福祉法は,45条1項において,厚生大臣は,児童福祉施設
の設備及び運営について,最低基準を定めなければならない旨定め,同
条2項において,児童福祉施設の設置者は,上記最低基準を遵守しなけ
ればならない旨定める。
県知事は,上記昭和59年1月から平成10年4月までの間,法46
条に基づき「前条の最低基準を維持するため,児童福祉施設の長…に,
,,,対して必要な報告を求め児童の福祉に関する事務に従事する職員に
関係者に対して質問させ,若しくはその施設に立ち入り,設備,帳簿書
類その他の物件を検査させることができる(同条1項。但し平成2。」
年6月29日法律第58号による改正前は「職員に」以降につき「官吏
又は吏員に,実地につき監督させることができる」と定める)とい。。
う権限「児童福祉施設の設備又は運営が前条の最低基準に達しないと,
きは,その施設の設置者に対し,必要な改善を勧告し,又はその施設の
設置者がその勧告に従わず,かつ,児童福祉に有害であると認められる
ときは,必要な改善を命ずることができる(同条3項。但し上記改。」
正前は同条2項)という権限及び「児童福祉施設の設備又は運営が前条
の最低基準に達せず,かつ,児童福祉に著しく有害であると認められる
ときは,…その施設の設置者に対し,その事業の停止を命ずることがで
きる(同条4項。但し上記改正前は同条3項)という権限を有して。」
いた。
(イ)また県知事は,昭和59年1月から平成10年4月までの間,法
58条に基づき「第35条第4項の規定により設置した児童福祉施設,
が,この法律若しくはこの法律に基づいて発する命令又はこれらに基づ
いてなす処分に違反したときは,…同項の認可を取り消すことができ
る」という権限を有していた。。
(3)児相の設置義務及び養護施設への入所措置に関する被告県等の権限
ア被告県について
(ア)法15条は「都道府県は,児童相談所を設置しなければならな,
い」と規定し,被告県は,かかる規定に基づき,市川児相,柏児相及。
び銚子児相ほかの児相を設置している。
(イ)法27条1項は,保護者のない児童又は保護者に監護させること
が不適当であると認められる児童のうち,県知事において,県の措置を
要すると認める旨の児相所長による報告又は少年法18条2項の規定に
基づく家庭裁判所からの送致を受けた児童につき,県が法27条1項各
号のいずれかの措置を採らなければならない旨規定するが,このうち同
条項3号は,かかる措置のうちの1つとして,養護施設に入所させるこ
(,「」。)。とを定めている以下同条項3号に基づく措置を3号措置という
(ウ)a法32条1項は「都道府県知事は,第27条第1項…の措置,
。」をとる権限の全部又は一部を児童相談所長に委任することができる
と定めている。
b県知事は,同条項に基づき,同法27条の措置に関する事務を処理
する権限を,千葉県事務委任規則により,児相所長に委任している。
イ千葉市について
(ア)地方自治法(但し平成11年7月16日法律第87号による改正
前のもの。以下同じ)252条の19第1項1号は,いわゆる政令指。
定都市又は政令指定都市の市長若しくは政令指定都市の委員会その他の
機関は,児童福祉に関する事務のうち都道府県又は都道府県知事若しく
は都道府県の委員会その他の機関が法律又は政令の定めるところにより
処理し又は管理し及び執行することとされているものの全部又は一部で
政令で定めるものを,政令で定めるところにより,処理し又は管理し及
び執行することができる旨定め,これを受け,法59条の4第1項は,
児童福祉法中都道府県が処理することとされている事務又は都道府県知
事その他の都道府県の機関若しくは職員の権限に属するものとされてい
る事務で政令で定めるものは,政令の定めるところにより,指定都市が
処理し,又は指定都市の長若しくはその他の機関若しくは職員が行うも
のとする旨定める。
そして上記委任政令たる児童福祉法施行令(但し平成14年7月12
日政令第256号による改正前のもの。以下同じ)18条の3の規定。
するところにより,地方自治法施行令は,174条の26において,児
童福祉に関し,政令指定都市等が処理し又は管理し及び執行する事務を
定めている。
(イ)千葉市は,平成4年4月1日,政令指定都市に指定された。
(ウ)千葉市は,地方自治法施行令(但し平成11年10月14日政令
第324号による改正前のもの。以下同じ)174条の26第1項及。
び法15条の定めるところにより,千葉市児相を設置している。
(エ)また,千葉市は,地方自治法施行令174条の26第1項の定め
るところにより,法27条の措置を採る権限を有するが,千葉市長は,
地方自治法施行令の上記条項,地方自治法153条1項及び法32条1
項の定めるところにより,千葉市児童相談所長委任規則により,上記権
限を児相所長に委任している。
(4)各原告について
ア原告Aについて
(ア)原告Aは,昭和56年6月2日生まれの女子である。
(イ)市川児相所長は,原告Aにつき,昭和57年2月4日,同原告の
,,,父の承諾を得たうえで同月5日付けで養護に欠けるためとの理由で
法27条1項3号に基づき,国府台聖愛乳児園への入所措置を開始する
旨の決定をし,昭和58年7月13日付けで,上記入所措置を解除する
旨の決定をした後,同月27日付けで,上記理由と同様の理由で,同条
項に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をした。
(ウ)市川児相所長は,平成10年3月27日付けで,家庭引取りを理
由として,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Aは,2歳から1
6歳まで(幼児期から高校1年生まで,恩寵園に入所していた。)
イ原告Bについて
(ア)原告Bは,昭和57年9月2日生まれの男子である。
(イ)市川児相所長は,原告Bにつき,平成2年,同原告の母の承諾を
得たうえで,同年2月1日付けで,家庭での養育困難を理由として,法
27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をし
た。
(ウ)市川児相所長は,平成8年10月1日付けで,措置変更を理由と
して,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Bは,7歳から1
4歳まで(小学校1年生から中学校2年生まで,恩寵園に入所してい)
た。
ウ原告Cについて
(ア)原告Cは,昭和57年1月18日生まれの女子である。
(イ)柏児相所長は,原告Cにつき,昭和61年6月6日,同原告の父
の承諾を得たうえで,同年7月11日付けで,家庭養育困難及び養護に
欠けるとの理由で,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を
開始する旨の決定をした。
(ウ)柏児相所長は,平成9年3月31日付けで,就職を理由として,
上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Cは,4歳から1
5歳まで(幼児期から中学校3年生まで,恩寵園に入所していた。)
エ原告Eについて
(ア)原告Eは,昭和57年4月9日生まれの女子である。
(イ)市川児相所長は,原告Eにつき,昭和61年12月9日,同原告
の父の承諾を得たうえで,同月19日付けで,家庭での養育困難を理由
として,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨
の決定をした。
(ウ)市川児相所長は,平成10年3月13日付けで,家庭引取り後,
就職をするためとの理由で,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Eは,4歳から1
5歳まで(幼児期から中学校3年生まで,恩寵園に入所していた。)
オ原告Fについて
(ア)原告Fは,昭和54年9月20日生まれの女子である。
(イ)銚子児相所長は,原告Fにつき,平成元年6月19日,同原告の
母の承諾を得たうえで,同年7月31日付けで,家庭での養育指導困難
を理由として,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始
する旨の決定をした。
(ウ)銚子児相所長は,平成9年7月10日付けで,措置変更を理由と
して,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Fは,9歳から1
(),。7歳まで小学校4年生から高校3年生まで恩寵園に入所していた
カ原告Gについて
(ア)原告Gは,昭和53年10月19日生まれの男子である。
(イ)市川児相所長は,原告Gにつき,平成2年,同原告の母の承諾を
得たうえで,同年2月1日付けで,家庭での養育困難を理由として,法
27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をし
た。
(),,,ウ市川児相所長は平成6年3月20日付けで就職を理由として
上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Gは,11歳から
15歳まで(小学校5年生から中学校3年生まで,恩寵園に入所して)
いた。
キ原告K,同J,同I及び同Hについて
(ア)原告Kは,昭和52年2月20日生まれの女子,同Jは,昭和5
5年5月24日生まれの女子,同Iは,昭和56年11月12日生まれ
の女子,同Hは,昭和57年10月31日生まれの男子であって,上記
原告らは4人姉弟である(以下「原告Hら」という。。)
(イ)原告Hらの両親は,昭和62年10月28日に,母Lを親権者と
定めて,離婚している。
(ウ)市川児相所長は,原告Hらにつき,平成元年2月1日,Lの承諾
を得たうえで,同日付で,家庭での養育困難を理由として,法27条1
項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をした。
(エ)市川児相所長は,原告Kにつき,平成2年5月31日付けで,家
庭復帰を理由として,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(オ)市川児相所長は,原告Jにつき,平成6年6月14日付けで,家
庭引取りを理由として,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(カ)市川児相所長は,原告I及び同Hにつき,平成8年5月24日付
けで,家庭引取りを理由として,上記入所措置をそれぞれ解除する旨の
決定をした。
(キ)上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Kは11歳から1
3歳まで(小学校6年生から中学校2年生まで,同Jは8歳から14)
歳まで(小学校2年生から中学校2年生まで,同Iは7歳から14歳)
まで(小学校1年生から中学校3年生まで,同Hは6歳から13歳ま)
で(幼児期から中学校2年生まで,恩寵園に入所していた。)
ク原告Dについて
(ア)原告Dは,昭和57年8月15日生まれの女子である。
(イ)千葉市児相所長は,原告Dにつき,平成5年8月18日ころ,家
庭での養育困難を理由として,法27条1項3号に基づき,恩寵園への
入所措置を開始する決定をした。
(ウ)千葉市児相所長は,平成9年3月31日付けで,祖母引取りを理
由として,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Dは,11歳から
14歳まで(小学校5年生から中学校2年生まで,恩寵園に入所して)
いた。
(5)被告らによる時効援用の意思表示
ア被告Zは,平成14年1月24日の本件第6回口頭弁論期日において,
原告Kの本訴請求につき,また,平成15年6月26日の本件第13回口
頭弁論期日において他の原告ら全員の各本訴請求につき,民法724条前
段の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
イ被告恩寵園は,平成18年12月21日の本件第32回口頭弁論期日に
おいて,原告ら全員の各本訴請求につき,民法724条前段の消滅時効を
援用する旨の意思表示をした。
ウ被告県は,平成18年12月21日の本件第32回口頭弁論期日におい
て,原告Hらの各本訴請求につき,民法724条前段の消滅時効を援用す
る旨の意思表示をした。
2争点
(1)争点1
ア被告Zの原告らに対する不法行為が認められるか。
イ上記の不法行為による損害の発生及び損害額。
(2)争点2
被告県に,被告Zが被告県の公権力の行使に当る公務員であるとの理由か
ら,国賠法上の損害賠償責任が認められるか。
(3)争点3
被告県に,県知事の監督権限不行使を不法行為とする,国賠法上の損害賠
償責任が認められるか。
(4)争点4
被告恩寵園に,上記(1)の被告Zの不法行為につき,民法715条1項
に基づく損害賠償責任が認められるか。
(5)争点5
原告らの本件各損害賠償請求権が時効(民法724条前段)により消滅し
たか。
3争点についての当事者の主張
(1)争点1(被告Zによる不法行為の有無及び損害)について
【原告らの主張】
ア各原告の不法行為の主張
被告Zは,原告らが恩寵園に入所している期間中(以下「在園中」とい
う)の昭和59年1月から平成10年4月までの間に,原告らに対し,。
以下のような行為を行った。これらはいずれも,各原告に対する不法行為
に当たる。
(ア)原告A
a被告Zは,原告Aの幼児期(昭和59年から昭和62年ころ,同)
,()原告が廊下を走った等のささいなことで立腹ししばしば5回以上
同原告を米用の麻袋の中に閉じこめ,その麻袋を近くの道路に接する
小学校のフェンス等に吊るし,同原告が中でもがいて出ようとすると
押さえつけるなどして,3時間もの間,同原告を上記麻袋から出さな
かった。
b被告Zは,原告Aが幼児期から小学校低学年だったころ(昭和59
),,年から平成3年同原告が廊下を走った等のささいなことで立腹し
同原告の体を膝の上に押さえつけ,同原告の尻を50回以上も叩くこ
とがしばしばあった。そのため,同原告の尻には,青あざが絶えなか
った。
c被告Zは,原告Aが幼児期から小学校低学年だったころ(昭和59
年から平成3年同原告を園内の乾燥機がおいてある部屋以下乾),(「
」。),,燥機部屋というに監禁し電気をつけずに真っ暗にしておいて
故意に外から同室のドアをドンドンと叩いて同原告を脅かし,同原告
があまりの恐怖に「出して,出して」と泣き叫んで失神寸前になる。
まで,これを放置した。
d被告Zは,原告Aが幼児期から小学校低学年だったころ(昭和59
年から平成3年,同原告を熱い風呂に入れ,100秒浸かっていろ)
,,。と命じ同原告がくらくらになってもなお出ることを許さなかった
e被告Zは,原告Aが幼児期から小学校低学年だったころ(昭和59
),,,年から平成3年同原告に対し何時間も正座していることを命じ
食事もさせないことがしばしばあった。
f被告Zは,原告Aが小学校4年生だったころ(平成3年4月から平
成4年3月,同原告の洋服の袖が園の規則に反して手首より長いと)
立腹し,同原告の洋服の袖をはさみで切った。
g被告Zは,原告Aが小学校4年生だったころ(平成3年4月から平
),,成4年3月同原告が気に入った服を毎日のように着ていたところ
「。」,,お前は乞食かと言って立腹し同原告の服を全部没収したうえ
同原告を1日中裸で立たせ,学校にも行かせなかった。
h被告Zは,原告Aが小学生だったころ(昭和63年4月から平成6
),,年3月の間同原告が友達の女児に手を引っ張られたために骨折し
痛くてたまらず,同被告に対し,何度もその痛みが普通でないことを
訴えたにもかかわらず,容易に病院に連れて行こうとしなかった。
i被告Zは,原告Aが小学生から中学生だったころ(昭和63年4月
から平成9年3月の間,同原告が学校の通知表を見せに行くと,同)
被告が気に入るような見せ方(通知表を見て下さい」と挨拶した「。
上で,通知表が同被告に対し正面になるように開いて両手で差し出す
見せ方)をしなかったという理由で,通知表を床に捨てたり,成績が
悪いという理由で,そろばんで同原告の頭をガリガリとこすったり,
長時間立たせたりした。
j被告Zは,原告Aが高校1年生だったころ(平成9年4月から平成
10年3月,同原告が幼児の面倒を見るために幼児用の部屋(以下)
「」。),「。」,幼児部屋というにいたところ出て行けと怒鳴りながら
同原告の尻を蹴飛ばした。
k被告Zは,原告Aが高校1年生だったころ(平成9年4月から平成
10年3月,同原告の友人が園に来た際,その友人らに「帰れ」)。
と命じ,これを見送ろうとした同原告に対し「外へ出たら,高校を,
やめさせるからな」と脅した。。
l被告Zは,原告Aが高校1年生だったころ(平成9年4月から平成
10年3月,同原告が使ってはいけない電話機を使ったと立腹し,)
いきなり同原告の頭を殴った。
m被告Zが,原告Aの在園中,上記aないしlのような虐待を行い,
他の園児らにも日常的な虐待を行って,原告Aに常に同被告をおびえ
ながら生活させることを余儀なくさせたため,同原告は,思春期に,
精神状態が不安定になると自分の手首や腕をガラス等で切り,血が出
ると落ち着くという異常な性癖が身に付いてしまった。
n(a)被告Zが,原告Aの在園中,上記aないしlのような虐待を
,,,行い他の園児らにも日常的な虐待行っていたためこれを体験し
,,また見聞してきた原告Aは中学校3年生から高校1年生にかけて
自暴自棄となり,反抗的になった。
被告Zは,上記のような原告Aの心情を理解できず,一方で,こ
れに先立ち虐待の事実が外部に明らかになり,外聞を慮って暴力を
ふるうことができなくなったために,上記のような状態の原告Aを
事実上支配できなくなった。
(b)そこで被告Zは,養育能力のない同原告の父親に同原告を引
き取らせることとし,平成10年4月の早朝,原告Aに対し「お,
前は恩寵園を出ることになった。30分後に出るから用意しろ」。
と告げ,同原告を退園させた。
(c)その後同原告は,児相で「違う施設に行くか,親のところ,
に行くか決めろ」と迫られた末,1度も一緒に暮らしたことがな。
く,在園中もめったに面会にこなかった父親に引き渡され,その父
親は,同原告を,1晩だけ自分が女性と同棲していた都内の家に泊
めたものの,翌日には長く空き家になっていて生活のすべもない千
葉県船橋市内にある原告Aの母の所有であった家に連れて行きこ,「
こで1人で暮らせ」と言って立ち去り,以後同原告に生活費も渡。
さなかった。
その結果として,原告Aは,高校にも通学できず,定職にも就け
ないまま,17歳で社会に放置され,貧困と心身の危険にさらされ
ながら,犯罪,薬物及び売春と隣り合わせで暮らしていかなければ
ならなくなったのであり,被告Zは,原告Aの成長発達を支援する
使命を負うにもかかわらず,その虐待により自暴自棄になっている
原告Aを見捨て,命の危険のただ中に放擲したものである。
(イ)原告H
a被告Zは,原告Hが小学校1,2年生だったころ(平成元年4月か
ら平成3年3月,3時間から5時間もの間,同原告を正座させた。)
b被告Zは,原告Hが小学校3,4年生だったころ(平成3年4月か
ら平成5年3月,食事の際,同原告の班のテーブルを拭く係の園児)
がテーブルを拭くのを忘れたことに立腹し,同原告の班のテーブルク
ロスを取り上げ,連帯責任として,同原告を含め,その班全員の園児
らに食事をさせなかった。
c被告Zは,原告Hが小学校3,4年生だったころ(平成3年4月か
ら平成5年3月,同原告と数人の園児らが,夜の自由時間に室内で)
,「。」,遊んでいたところ同室内に突然入ってきてうるさいと怒鳴り
同原告を正座させた。この時以外にも被告Zは,同原告を頻繁に正座
させ,正座をさせている間は食事もさせなかった。
d被告Zは,原告Hが小学校3,4年生だったころ(平成3年4月か
ら平成5年3月,同原告が学校の通知表を見せに行き,押印を頼ん)
でも理由なく押印せず,そのため同原告は,決まった日に学校に通知
表を持って行くことができなかった。
e被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月か
ら平成7年3月,学校の担任の先生が,分数のかけ算・割り算がと)
ても良くできるようになったと書いてくれた通知表を,同原告が同被
告に見せたところ「なんだ,これしかできないみたいじゃないか」,。
と言って,同原告の子供心を著しく傷つけた。
f被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月か
),,ら平成7年3月同原告がプロミスリングをしていることに立腹し
放送で園児らを食堂に呼び集めたうえ,他の園児らの見ている前で,
同原告の足をテーブルの上に上げさせ,包丁で足を切断するまねをし
て,実際に同原告の足を切り,出血させた。かつ,その後何らの治療
もさせなかった。
g被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月か
ら平成7年3月,同原告以外の男児を畳に横たえ,その性器にはさ)
みを当てて切り,出血させた。これを見ていた同原告と別の園児が,
,,「。」恐怖のあまり声を上げてしまったところ同被告はお前達も来い
と言って,同原告の性器にもはさみを当て,今にも切り落としそうに
して脅した。
h原告Hが,小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7
年3月,鶏が飛べると思い,ジャングルジムの上から鶏を放ったと)
ころ,同鶏が地面に体を打ち付けて死んでしまった。被告Zは,これ
に立腹し,同原告に対し「死んだ鶏を抱いて寝ろ」と命じ,これ,。
に従わないとどんな罰を科されるか分からないと思った同原告が,同
鶏の死骸を新聞紙にくるんで抱いて寝ていたところ,被告Zは「お,
前,本当に抱いて寝ているのか。馬鹿じゃないか」と言った。。
また,翌日,同鶏の死骸を焼却炉で焼く際,被告Zは,同原告に対
し「お前も一緒に(焼却炉に)入れ」と言った。,。
i原告Hが,小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7
年3月,他の10数名の園児らと風呂の中で潜ったりして遊んでい)
たところ,被告Zがそこへ来て「うるさい」と怒鳴り,真冬の極寒。
の日であったにもかかわらず,全裸の状態の同原告及び上記園児らに
対して井戸水を浴びせかけたうえ,外に立たせた。
その後,あまりの寒さに全員震え,上記園児らのうちの1人が「お
しっこしたい」と言ったところ,被告Zは,その園児に対し「H。,
にかけろ」と命じ,その園児はやむなく原告Hに尿をかけた。。
j被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月か
ら平成7年3月,同原告及び他の2人の園児らに,24時間正座す)
ることを命じ,その間食事させず,トイレにも行かせないと言った。
またその翌日は,園児らの遠足の日であったが,同原告及び上記園児
らは行かせてもらえなかった。
k被告Zは,原告Hが中学校1,2年生だったころ(平成7年4月か
ら平成8年5月,同原告に対し,木刀や竹刀で尻や体部を殴りつけ)
る,手の甲で思い切り殴りつける(いわゆるウラケン)等の暴力をし
ばしばふるった。そのため同原告の体には,青あざができたが,被告
Zはそれを見ても平然としていた。
(ウ)原告B
a被告Zは,原告Bが小学校6年生のとき(平成6年,マッチを擦)
って畳に捨て,そこに同原告の手のひらを押しつけて,同原告にやけ
どを負わせた。
b被告Zは,原告Bが小学校6年生のとき(平成6年,同原告に対)
し,1週間夜も寝ず,食事もとらずに正座をすることを命じた。実際
には,深夜被告Zがいなくなった後に,園の職員が内緒で食物を運ん
でくれ,保母室に寝かせてくれた日もあったが,上記1週間のうち3
日間は,何の食物も与えられなかった。
c被告Zは,原告Bが小学校6年生のとき(平成6年,調理用ラッ)
プの芯で同原告の顔を2,3回突き,下顎に現在でも傷跡が残ってい
るほどの傷害を負わせた。
d被告Zは,原告Bが小学校6年生のとき(平成6年,同原告に対)
し,1日中手を挙げたまま立っているように命じ,同原告は,同被告
がいなくなるまで,その姿勢を続けた。また,被告Zは,同原告の手
を真横に上げさせ,服の袖に竹刀を入れて,そのまま立っているよう
に命じた。
e被告Zは,原告Bが小学校5,6年生のころ(平成5年4月から平
成7年3月,同原告を戸外に立たせ,12月ころの寒い時期だった)
にもかかわらず,全裸にしたうえ,水をかけた。
f被告Zは,原告Bが中学生のころ(平成7年4月から平成8年,)
しばしば同原告の腕や体部を金属バットで殴った。
g被告Zは,原告Bの在園中,日常的に,食事をさせない,寝させな
い,トイレに行かせない,ずっと勉強をすることを命じて遊ばせない
等し,また,しばしば,同原告が学校の通知表に保護者としての押印
を求めても,押印しなかった。
(エ)原告C
a被告Zは,原告Cが小学校低学年のころ(昭和63年から平成2年
ころ,同原告が廊下を走ったことの罰として,同原告を麻袋に入れ)
て,高いところに吊るした。
b被告Zは,原告Cが小学校高学年から中学生のころ(平成3年ころ
から平成9年3月まで,しばしば同原告に24時間正座するよう命)
じ,食事をとることも禁じた。
c被告Zは,原告Cが中学生のころ(平成6年4月から平成9年3月
まで)同原告に対し,しばしば手の甲で思い切り殴る暴力(いわゆる
ウラケン)を加え,これによって同原告は,体ごと吹き飛ばされた。
d被告Zは,原告Cが中学生のころ(平成6年4月から平成9年3月
まで,しばしば,朝の時間帯にささいなことで同原告を叱り,同原)
告が学校に行く時間だと言っても意に介さず叱り続け,そのため同原
告は,学校に行けなかったり,遅刻したりする結果となった。
e被告Zは,原告Cが中学生のころ(平成6年4月から平成9年3月
まで,毎年行われる園の部屋替えの際,同原告が自分の荷物を本来)
入れるべき箱とは違う箱に入れたと立腹し,同原告の荷物を,すべて
箱から放り出した。
f被告Zは,原告Cが中学生のころ(平成6年4月から平成9年3月
まで,同原告が学校の始業式の日に持参するために,学校から前学)
期に受け取った通知表への保護者としての押印を求めても,しばしば
押印しなかった。
(オ)原告D
a被告Zは,原告Dが小学校6年生の時(平成6年,同原告及び他)
の4,5人の園児らが,園の指導員であったPから勉強を教わってい
たところ,同人が席を外した間にだらけていたと立腹し,同原告及び
上記他の園児らを,夜7時から廊下に正座させ,寝ることも禁じた。
b被告Zは,原告Dが中学校1年生の時(平成7年,同原告が同室)
の園児とけんかをしたからという理由で,同原告に対し,翌日のピク
ニックに行くことを禁じ,その結果同原告は上記ピクニックに行けな
かった。
(カ)原告I
a被告Zは,原告Iが小学校5年生の時(平成4年4月から平成5年
),,,3月同原告に対し24時間食事もとらずに正座するように命じ
保母に見張りを言いつけた。その結果,同原告は,昼食及び夕食をと
らないまま正座を続け,夜の時間帯に,被告Zがいなくなってから,
保母によって,被告Zに内緒で食事を与えられた。
b被告Zは,原告Iが中学校1年生の時(平成6年4月から平成7年
3月まで,同原告が食事の時テーブルを拭かなかったと立腹し,テ)
ーブルクロスを取り上げ,同原告に対し「飯を食うな」と命じた。,。
c被告Zは,原告Iが中学校1年生の時(平成6年4月から平成7年
3月まで,同原告が通知表を見せに行った際,そろばんの珠で同原)
告の頭をがりがりと擦った。
(キ)原告E
a被告Zは,原告Eの幼児期(昭和60年から昭和63年の間,さ)
さいなことで立腹し,同原告に対し,他の2人の小学校1,2年生の
園児らとともに,園庭にある池(深さ約1メートル)に裸で入れと命
じ,寒い季節で水が冷たかったにもかかわらず「ごめんなさい。ご,
めんなさい」と泣き叫んで許しを懇願する同原告及び上記他の園児。
らをうるさそうににらんで「いいから入っていろ」と命じ,約1,。
0分間,同原告及び上記他の園児らを裸のまま上記池の冷水の中に放
置した。
b被告Zは,原告Eが小学生だったころ(平成元年4月から平成5年
の間,同原告がよく理解できないような理由で立腹し,同原告を含)
む5,6人の園児らに「立っていろ」と命じた。同原告を含む上,。
記園児らは,約1時間立っていても被告Zに許されなかったため,各
人ごとに同被告に謝りに行くこととし,同原告が謝りに行くと,同被
告は,同原告に対し「このまま立っているのがいいか,それとも今,
ここで別の罰を受けるのがいいか,どっちか決めろ」と言った。こ。
れに対し,同原告は,実際にはどちらも嫌だと思いながらも,少しで
も早く罰から解放されたいとの思いから「今ここで罰を受ける方が,
いい」と答えた。すると被告Zは,同原告に対し「お腹を出せ」。,。
と命じて,同原告に服をまくり上げさせて裸の腹を出させ,その腹の
肉を思い切り強くつねった。これにより同原告は,飛び上がりそうな
ほどの痛みを覚え,同原告の腹には,容易に消えない紫色のあざがで
きた。
(ク)原告F
a(a)被告Zは,原告Fが中学校3年生だった年のゴールデンウィ
ーク中(平成6年4月末から5月初め,ある園児を,他の園児の)
居室に保母らの許可なしに入ったとして叱っていたが,その近くに
いた原告Fほか数名の園児らに「お前達もやったことがあるの,
か」と聞いた。。
これに対し,園児らは,日頃から,保母らの許可を得ずに,他の
園児らの居室に入っていたため,だまってうなずくほかなかった。
すると,被告Zは,園児全員に食堂に集まるように指示し,食堂
で園児らを叱り始め,その内容は,何を言いたいのか,園児らに何
をさせたいのか,園児らには理解できないものであったが,そのよ
うな説教が続く中で,被告Zは,原告Fに,何らかの質問をした。
しかし,原告Fは,上記質問の意味が分からなかったため「園,
長先生が何を言っているのか分かりません」と言った。その際,。
原告Jも原告Fのそばにいて,原告Fに同調した。すると,被告Z
は「そんなに話が分からないなら,これからはお前達は幼児とし,
て扱う」と言った。。
(),,,bその日の午後上記説教の内容に関し園児らで話し合って
一人一人被告Zのところに謝りに行くことになり,原告Fが,謝罪
するつもりで,被告Zに「園長先生」と呼びかけたところ,被,。
告Zは「お前は幼児だから,幼児と話す必要はない」と言いな,。
がら,いきなり平手で,原告Fのほほを叩いた。
それ以降,被告Zは,原告F及び原告Jに対し「お前らは幼児,
なんだから,幼児の生活をするんだぞ」と言って,寝室もトイレ。
も幼児用のものを使わせ,同原告らの自室にも許可がない限り入れ
させず,宿直室の一部をアコーディオンカーテンで仕切った幼児用
の空き室に寝泊まりさせた。
b(a)原告Fは,中学生のころ,在園しながら高校に進学すること
を希望しており,中学校では,中学校3年生(平成6年)の4月こ
ろから,担任の教諭との間で,進路の話が出はじめていた。
園においては,在園しながら高校進学をする園児はごく少なく,
ほとんどの園児らが,中学校卒業時に園を出て就職するか,せいぜ
い住込みのできる就職先を見つけて定時制高校に行くのみだったの
で,原告Fは,恐る恐る,被告Zに「高校に行かせてほしいんで,
すけど」と言って,在園しながら高校に進学させてもらえるかを。
打診した。
これに対し,被告Zは「なんだ,お前,銚子に帰るんじゃなか,
ったのか」と言った。銚子には,原告Fの自宅があったが,この。
,,,,当時原告Fの家庭は同原告を引き取れる状況でなく被告Zは
それを知っていた。したがって,上記発言は,銚子に帰って高校に
行くというならまだしも,まさかこの園から高校に行けると勝手に
思っているんじゃあるまいな,という意味でなされたものであり,
同原告は,かかる発言に,ショックを受けた。
(b)その後、上記aの事件が発生して以来,原告Fは,何かにつ
けて,被告Zににらまれるようになり,ますます高校進学のことを
,,言い出しにくくなったが中学校への報告の必要もあったことから
平成6年夏ころ,もう一度被告Zに,高校に進学させてもらえるよ
う,頼んだ。
これに対し,被告Zは,6名の園職員の名前を挙げ,この6名と
被告Zが全員そろった会議を開かなければ,同原告の進学の問題は
決められないと言った。
当時園においては,進学問題に関し,そのような会議を開かなけ
ればならないという規則はなく,また,昼夜交替制で働いている上
記7名の園職員が一堂に会せる機会は有り得なかったため,被告Z
の上記発言は,原告Fにとって,絶対実現不可能な条件を出して同
原告の進学を不可能にしようとしているものと解さざるを得ないも
のであった。
(c)その後,推薦入学の願書を提出したり,受験する高校を決定
したりする時期になっても,被告Zが原告Fの高校進学を許可しな
かったため,同原告は,中学校には志望校を伝えつつ,被告Zから
は進学の許可が得られないという苦しい状況の中で受験勉強を続け
た。
(d)平成7年1月,中学校で,高校受験の願書が配布され,そこ
に保護者の署名押印を得たうえで,中学校に提出しなければならな
くなった。
園児らの在園中は,被告Zが,園児らの保護者の立場にあったた
め,原告Fは,願書に自ら必要事項を記入して,被告Zのところへ
持参し,必死の思いで被告Zに保護者として署名押印をしてくれる
よう頼んだ。
これに対し,被告Zは「お前,ここから通うことに決まってん,
のか」と言いながら,近くにあったごみ箱に,上記願書を放り捨。
てた。
原告Fは,大変な悔しさと悲しさを感じたが,ここで押印をもら
わない限り,高校進学ができないと考え,立っている被告Zの前に
正座し,頭を床にこすりつけるようにして土下座し「お願いしま,
す」と懇願した。。
これに対し,被告Zは,そのときの時間帯が夜であり,同被告の
,,「,印鑑は同被告の妻が管理していたためにこんな時間に来ても
はんこなんてあるわけないだろ」等と言い,その場では押印しな。
かった。
(ケ)原告J
a被告Zは,原告Jが中学校1年生の時(平成5年4月から平成6年
3月まで,同原告が,食事の時にテーブルクロスを拭かなかったと)
立腹し,テーブルクロスを取り上げ,同原告に対し「飯を食うな」,。
と命じた。
b被告Zは,原告Jが中学校1年生の時(平成5年4月から平成6年
3月,ささいなことに立腹し,しばしば,同原告に対し,1日中正)
座しているように命じ,その間食事もとらせず,学校にも行かせなか
った。
c被告Zは,原告Jが中学校2年生の時(平成6年4月から5月ま
で,幼児部屋に入ったとの理由で立腹し,同原告及び原告Fの2人)
に対し「これからは幼児扱いをする」と言い,寝室,食事及びト,。
イレのすべてについて幼児用としたうえ「お前は幼児だから,パン,
パースを持ってこい。俺がはかせてやる」と言った。原告Jは仕方。
なくパンパースを取りに行ったが,その結果,保母であるOに「何,
考えてんの」と言われ,往復ビンタをされた。。
d被告Zは,同原告の在園中(昭和63年2月から平成6年5月ま
で,同原告の通知表に,しばしば,保護者としての押印をしなかっ)
た。
(コ)原告K
a被告Zは,原告Kが小学校6年生時から(昭和63年4月から)平
,,,「」成2年4月までの間しばしば同原告に対しお尻100回叩き
と称して,尻を100回程度叩く,顔面を平手打ちする,拳で頭頂部
を殴る等の暴力を振るった。
b被告Zは,原告Kが中学校1年生のとき(平成元年4月から平成2
年3月まで,同原告が何で叱られているのか理解できないようなさ)
さいな理由で立腹し,金属バットで同原告の顔面を殴打し,同原告の
,。,顔面に長く消えないあざができる程度の傷害を負わせた被告Zは
同原告の在園中,このほかに,少なくとも1回は,同原告を金属バッ
トで殴った。
c被告Zは,原告Kの在園中(昭和63年2月から平成2年4月ま
で,しばしば,同原告が食事を取るのが遅いとの理由で立腹し,同)
原告に1人で食堂に残ることを命じて,1時間から3時間,食堂を出
ることを許さなかった。
d被告Zは,平成2年4月末ころ,同原告が何で怒られているのか理
解できないようなささいな理由で,同原告に対して怒りだした。
これに対し,原告Kは,日頃から被告Zにいつ殴られるか分からな
いという恐怖心を持っていたため,このままゴールデンウィークに入
り,学校に行かずに毎日園にいるようになれば,徹底的に暴力を振る
われると思い,恐ろしくなった。
,,,,そのため原告Kは学校の同級生に相談して同級生の家に行き
そこで親元に帰るよう勧められ,所持金もない状態で,上記同級生宅
のある千葉県船橋市aから東京都内の母の家まで,走って逃げた。
(サ)原告G
a被告Zは,原告Gが中学校1年生のとき(平成3年4月,原告G)
に対し,何かの罰として,新聞紙に印刷されている漢字の書取りを命
じ,翌年の4月,園児らの部屋替えのときに,上記漢字の書取りが終
了していないとの理由で,居室を与えず,その後約1か月間,園の廊
下で布団もなしに寝ることを強要した。
b(a)被告Zは,原告Gが中学校1年生だった平成3年5月から平
成4年3月ころ,同原告が,上記漢字の書取りを終了していないと
の理由で,夕食を取ることを禁じ,約1年間にわたって,この禁を
解かなかった。
この間,原告Gは,深夜,被告Zが園からいなくなった後に,職
員らから被告Zに隠れて食物を与えてもらい,飢えをしのいだ。
(b)しかし,3日間何の食物も与えられなかったことがあり,原
告Gは,4日目に倒れてしまった。
c(a)原告Gは,中学校1年生の1学期末(平成3年夏,学校で)
高いところから落ち,肩を地面に強く打ち付けた。
,,そのころ児童養護施設の子供達によるソフトボール大会を控え
園においてもそのための練習が行われていたが,原告Gは,肩を打
って以来肘から上の腕が上がらなくなっていたため,被告Zにその
旨伝え,上記練習の一環である腕立て伏せを免除してくれるよう,
申し出た。
(),,,bこれに対し被告Zは片腕だけでも腕立て伏せをやるよう
原告Gに言い,練習を続けることを強要したうえ,同原告が練習免
除を申し出たことに怒り,同原告の顔面に,ボールを打ち付けた。
(c)その翌日,原告Gは,園職員に病院に連れて行ってもらい,
診察を受けたところ,骨折していたことが判明したが,被告Zは,
上記(b)の行為について,謝罪しなかった。
d原告Gが中学校2年生のとき(平成4年,上記c(a)と同様の)
ソフトボールの練習が行われたが,同原告は,上記c(c)の骨折の
,,。後遺症か肘のあたりが安定せずボールが上手に投げられなかった
これに対し,被告Zは,同原告が上手に投球できないことへの制裁
として,同原告をキャッチャー役にし,他の園児ら約20名をピッチ
ャー役にして投球させ,それを原告Gがうまく捕球して投げ返し,そ
のボールをピッチャー役の園児がうまく取れるまで,同じピッチャー
役の園児との練習を続けることを強要した。
そのため,他の園児らも幾度となく投球させられることとなり,あ
とで原告Gが他の園児らに責められる結果となった。
e(a)原告Gが,中学校3年生のとき(平成5年,園内の居室に)
おいて,小学生の園児とくすぐりあって遊んでいたところ,被告Z
は,中学校3年生なのに,小学生と遊んでいたとの理由で同原告を
叱り,同原告の両腕を二段ベッドの柱に後ろ手に縛り付け,その状
態で,同原告の顔や腹部を拳で約10回殴った。
その最中,被告Zは,実際は殴らないのに,殴ろうとする素振り
を見せて,同原告が怖がるのを楽しんだりもした。
(b)そして同原告は,被告Zの拳をよけようとしてもがき,縛ら
れていた手首にも傷害を負い出血した。
イ被告Zの主張に対する反論
(ア)児童福祉施設の長に体罰が許容されている旨の主張について
a被告Zは,平成9年6月11日法律第74号による改正後の児童福
祉法が施行された平成10年4月1日までは,児童福祉施設の長にお
,,,いて体罰を行うことは懲戒権の行使として容認されてきたといえ
上記改正後も,児童福祉施設最低基準に9条の2(但し平成16年厚
生労働省令第178号による改正前の児童福祉施設最低基準のもの。
以下同基準9条の2については同じ)が追加されたことによって,。
虐待の禁止が明示されたに止まり,体罰が完全に禁止されたというこ
とはできない旨主張する。
しかし,児童福祉法1条ないし3条のとおり,すべての児童は心身
ともに健やかに生まれ,かつ育成される権利を有しているのであり,
児童福祉法に基づいて児童福祉施設の長が懲戒権を行使する場合も,
,,上記権利が尊重されるべきなのは当然であって上記基準9条の2も
このことを明示したにすぎない。
bまた,被告Zは,学校教育法11条と異なり,児童福祉法上体罰禁
止規定がないことから,児童福祉施設の長において体罰が容認されて
いるかのような主張をする。
しかし,平成9年5月の衆議院厚生委員会において,当時の厚生省
児童家庭局長が2度にわたり答弁しているとおり,学校教育法11条
における体罰禁止規定は,学校の教諭等の懲戒権が同法によって創設
されたものであるから,その限界を規定したものであり,これに対し
児童福祉施設の長の懲戒権は,児童福祉の向上のため必要な措置とし
て認められているのであるから,そこに体罰が含まれないのは当然で
あり,禁止規定を設ける必要がないために,児童福祉法には,体罰禁
止規定がないにすぎないのである。
また,上記基準9条の2については,当時の厚生大臣による衆議院
厚生委員会における答弁及び厚生省児童家庭局家庭福祉課による解説
にあるとおり,本来児童福祉施設であり得るはずもない体罰が,現実
には後を絶たないため,規定が創設されたものである。
c(a)なお,児童福祉施設の長の懲戒権は,施設に入所させられた
児童の精神的負担を十分認識し,配慮したうえで行使されるべきと
ころ,被告Zの行為においては,かかる前提を欠いている。また,
懲戒は,児童の監護教育の目的で,児童を善導するため行われるべ
きところ,請求原因記載の被告Zによる行為は,感情にまかせて行
われたものであって,同被告に,上記目的ないし意思があったとは
,。認められずむしろ同被告の心理的加虐性を示すものとすらいえる
したがって,被告Zの行為は,懲戒権の行使とは到底評価し得な
いものである。
(b)また,上記基準の改正と同時に厚生省児童家庭局企画課長等
から発せられた「懲戒に係る権限の濫用禁止について」と題する通
知には「児童福祉施設の長に対しては,児童福祉法第47条によ,
り懲戒に係る権限が与えられているが,これは,児童を心身ともに
健やかに育成することを目的として設けられているものであるか
ら,懲戒に係る行為の方法及び程度が,この目的を達成するために
必要な範囲を超える場合には懲戒に係る権限の濫用に当たる」との
記載があり,また「懲戒に係る権限の濫用に当たる具体的な例と,
しては,例えば,殴る,蹴る等直接児童の身体に侵害を与える行為
のほか,合理的な範囲を超えて長時間一定の姿勢をとるよう求める
こと,食事を与えないこと,児童の年齢及び健康状態からみて必要
と考えられる睡眠時間を与えないこと,適切な休息時間を与えずに
長時間作業を継続させること,施設を退所させる旨脅かすこと,性
的な嫌がらせをすること,当該児童を無視すること等の行為があげ
られる」としている。
本件請求原因にかかる被告Zの各行為は,上記通知で禁じられた
,。具体的行為に属するものであって違法であることは明らかである
(イ)体罰と虐待区別等について
被告Zは,虐待にわたらない体罰は違法でない旨主張するが,本件に
おける問題は,被告Zが原告ら不法行為を行ったかであり,それを体罰
と言うか,虐待と言うかは,二次的な問題に過ぎない。
また,被告Zは,児童虐待調査委員会が1983年時点で挙げる具体
例に依拠して,同被告の行為が虐待に当たらない旨主張するが,請求原
因にかかる被告Zの行為が,打撲,傷害等を列挙する上記具体例に含ま
れるものであることは明らかであるし,上記時点で相当とされた行為で
も平成12年に成立した児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐
待防止法」という)2条の定義によれば虐待に含まれるものもあるの。
であって,虐待ないし体罰の定義を用いて自己の行為を正当化すること
は許されない。
(ウ)最高裁平成19年1月25日第一小法廷判決の判断について
最高裁平成17年(受)第2335号,第2336号同19年1月2
5日第一小法廷判決・民集61巻1号1頁(以下「平成19年最高裁判
決」ということがある)は,児童福祉施設の職員の不法行為につき,。
地方公共団体の国賠法上の責任を認めたうえで,傍論において,当該施
設職員の責任を否定している。
しかし,上記最高裁判決は,児童養護施設の入所児童が他の児童に傷
害を負わせた事故につき施設職員が十分な注意を怠った過失を前提とす
る事案で,施設職員の配置不足など,地方公共団体の責務に属する事情
が事故の背景にあるのに対し,本件は,施設長が,入所児童に対し,故
意かつ確信犯的に加えた不法行為につき,施設長自身の責任が問われ,
かつその不法行為を容認してきた施設設置者たる法人の責任が問われて
いる事案であって,両者は事案を異にするのであって,本件のような場
合には,当該施設の職員個人も損害賠償責任を負担すると解すべきであ
る。また,被告Z及び被告恩寵園だけが被告とされた場合には,被告Z
及び被告恩寵園は損害賠償責任を免れないところ,被告千葉県を共同被
告とした場合に,責任が免除されるのは,不合理である。
したがって,本件においては,上記最高裁判決の判断は妥当せず,被
告Zは,損害賠償責任を免れない。
ウ損害の発生及び損害額
原告らは,前記アのような,被告Zの日常的かつ長期間にわたる常軌を
逸した体罰・虐待という故意による不法行為によって,楽しかるべき子供
時代を奪われ,あたかも収容所のような生活を強いられ,生命身体の自由
と人格権を著しく侵害された。そのうえ原告らは,子供時代に受けた被告
Zによる前記アのような虐待により,今も心的外傷(トラウマ)を抱えて
苦しみ,また高校進学の機会も奪われて十分な受け入れ環境もないままに
社会に放り出された結果,社会的経済的に多大な苦難を強いられ,将来も
これを背負って生きていかなければならない。
このような原告らの損害を慰謝するに足る慰謝料は,原告1人当たり,
1000万円を下らない。
【被告Zの主張】
ア各原告が主張する不法行為について
(ア)原告Aについて
a原告Aの上記主張のうち,aないしmは,いずれも否認する。
(a)このうち,aについては,子供は吊されておとなしくしてい
ないから,人通りのある公道に面したフェンスにつるすことなどあ
り得ない。
(b)同じくbについては,保母から園児らに対するお仕置きとし
て尻を叩くことがあったかもしれないが,虐待ではない。
(c)同じくcについては,心優しい大人のお仕置きであって,虐
待ではない。
(d)同じくdについては,幼児及び小学校低学年の園児らは,保
,。母らと入浴しており被告Zが浴室に入っていくことはあり得ない
(e)同じくfについては,一般論として,手首より長い袖につい
ては,安全性の面から保母らを介して何度も注意をしており,それ
でも言うことを聞かなければ,本人の安全を優先すれば,切るとい
う選択肢もあるのであって,虐待には当たらない。
(f)同じくjについては,園においては,職員の許可なく幼児用
の居室に入ることを禁じているにもかかわらず,原告Aが無断で入
り,注意しても退室しなかったところ,被告Zの手を幼児が握って
いたために,脚のすねで押し出すように退室を促したものであり,
蹴ったものではない。
(g)同じくkについては,夕食後の遅い時間に原告Aの友人ら数
名が同原告を訪れ,被告Zが帰るように言って問答になった末,帰
りかけたところ,同原告が送ってくると言い出したため,園児らは
夜間の外出が禁じられていること及び当時の同原告が,外出すると
いつ帰るか不明な状況だったことから,外出して補導されるような
ことがあれば退学になるよ,外出するなと言ったことはある。
(h)同じくlについては,夜間,原告Aが,職員室の電話を無許
可で長時間使用しており,業務に支障を来すので,早く終わらせる
,,。よう促すために頭をとんとんとしたもので殴ったものではない
b原告Aの上記主張nのうち,同原告が父親に引き渡された以降のこ
とは知らず,それ以外は否認する。
,,,退園については学校及び園での生活状況につき市川児相と相談
協議したものであるし,決定権は市川児相にある。
また,退園を事前に同原告に通告すると,行方不明になるおそれが
あるので,退園の日の朝に通告したものであるし,市川児相からも正
式に通告された。
父親による引取りについては,市川児相が決定したものである。
c原告Aには,幼児期または小学校時代から,嘘をつく等の特質があ
り,高校生になってからも園における生活習慣からの逸脱行為があっ
た。退園に至る経緯も,これら同原告の問題点を検討のうえで,児相
の指導のもとになされたものである。
(イ)原告Hについて
a原告Hの上記主張は,いずれも否認する。
(a)このうち,bについては,自分達のテーブルは自分達で拭く
ように決めており,数回注意しても拭かない場合には,拭くことに
,,,気付かせるためにテーブルクロスをたたんだり寄せたりしたが
その後に拭けば配膳させるし,テーブルクロスなしで職員が配膳し
。,たこともある食事の時間が他の園児よりも遅れたことはあっても
食事をさせないことはなかった。
(b)同じくcについては,夜の自由時間は夕食後なので,食事を
抜かれるということはないが,就寝までは学習の時間を含んでいる
ので,大騒ぎをしていると,気持ちを静めさせるために,正座をさ
せたことはある。
(c)同じくeについては,さらにできるよう,もっと頑張れよと
励ましたつもりが,正しく受け止められなかったものである。
(d)同じくfについては,出血しておらず,したがって治療をさ
せなかったということもない。
(e)同じくgについては,はさみで切っちゃうぞと言ったことは
あるが,切ったことはない。
(f)同じくiについては,入浴中にふざけると事故を起こしかね
ないものである。また,女子に見られる可能性があることから外に
裸で出るはずがなく,浴室で水を掛け合っていたことを,外で掛け
られたと称しているものである。
(g)同じくjについては,気持ちを静めるために正座をさせるこ
とはあるが,24時間食事もトイレも禁じて正座をさせることはあ
り得ない。
b原告Hの園における生活状況を保母らが記録した生活指導票にある
とおり,園での指導は,保母による声掛けや園児らとの話し合いで行
われており,日常的に体罰及び虐待があれば,上記生活指導票に記載
されないはずがないところ,かかる記載はないのであるから,原告H
の請求原因にかかる主張は事実無根であり,他の原告らついても同様
である。
(ウ)原告Bについて
a原告Bの上記主張については,いずれも否認する。
(a)このうち,aについては記憶がなく,園児らに火遊びの危険
性を認識させるために,危険のない範囲内で火の熱さを体験させる
ことはあるが,やけどをさせることはあり得ない。
(b)同じくbについては,否認するが,同原告は,小学校6年生
のころ,無断外泊をしたり,目に余る暴力を振るったりしていたた
め,本人の気持ちを落ち着かせ,他の園児らへの悪影響を絶ち,ま
たは再び脱走したりしないように,宿直室で数時間寝泊まりさせつ
つ,職員らが交代で説得活動を行ったことがあったと考えられる。
被告Zも,同原告の説得に当たった際,自分の非を認めない同原
告に対し「ずっとそこに座っていなさい」等と言ったことがあ,。
るかもしれないが,同原告がそのまま受け取るわけではなく,同被
告が午後5時に帰宅した後は,睡眠も取ったはずであるし,食事に
ついては,説得活動が長引く中で,時間が遅れたことはあっても,
食事をさせないという体罰が行われたことは,園内で一度もない。
むしろ,問題を起こした園児らが,食事を取れば園に負けるとの気
持ちから食べないことがあった。
(c)同じくcについては,記憶がなく,どのような経緯にせよ,
原告Bに傷害を与えるような行為をしたとの点は否認する。
(d)同じくeについては,原告Hが同原告の上記主張iにおいて
主張するのと同じ時のことと思われるが,この点については,同項
への反論として述べたとおりである。
(e)原告Bの上記主張gのうち,食事及び睡眠については,bに
関して言及したのと同じである。ずっと勉強をすることを命じて遊
ばせないとの点については,原告Bが宿題をごまかしてやらなかっ
たり,分からないところを教えているのに真剣に取り組まなかった
ために,できるまでやるように指導したことを悪意に集約したもの
である。通知表に押印をしなかったことはない。
b原告Bは,小学校4年生ころから,ずるく人の言葉を受け入れない
傾向が見られ,小学校5年生ころから,上記の傾向に加え,年下の園
児ら弱者へ暴力を振るう傾向が次第に強まり,小学校6年生から中学
生のころにかけて,喫煙,窃盗等,非行化ともいうべき問題行動を起
こすに至ったが,注意を受けても自分の非を認めず,嘘をついて反省
をしなかった。
このような原告Bの非行を止めるため,園を挙げて取組みを行った
のであり,同原告の主張する被告Zの虐待の時期は,同原告の非行化
が進んだ時期と一致している。
同原告は,非行化の原因も被告Zの虐待にあったとの嘘の主張をす
ることで,社会の同情を集め,自己の行為を正当化しようとしたもの
と考えられる。
(エ)原告Cについて
原告Cの上記主張は,いずれも否認する。
aこのうち,bについては,気持ちを静めさせるために正座をさせる
ことはあっても,原告C主張のような正座を命じることはない。
b同じくdについては,当日までに持参しなければならないものを,
前日になっても処理せず,当日の朝になって言い出し,注意を受けて
処理していたために遅れたこともあったと思われる。
c同じくeについては,自分のものが決められており,他人のものや
,,。共有物を使用すると迷惑になるので入れ替えを命じることがある
d同じくfについては,担当保母が成績を記録するため,原告Cが前
,,学期終了時に通知表を提出していれば主張のようなことはあり得ず
同原告自身が被告Zに通知表を提出しないまま,新学期の始業式を迎
えてしまったものと思われる。
(オ)原告Dについて
a原告Dの上記主張は,いずれも否認する。
このうち,aについては,騒ぎすぎて廊下に出されたものと思われ
るが,女子の居室がある園の新館は,午後8時に施錠されるので,女
子が遅くまで本館に原告D主張のような状態でいることはあり得な
い。
b原告Dは,家庭における養育事情から,良好な対人関係を作ること
が不得手であるという傾向があり,同原告の主張もかかる傾向に基礎
づけられるものである。
(カ)原告Iについて
a原告Iの上記主張は,いずれも否認する。
(a)このうち,aについては,このようなことを命じることは常
識的に言ってあり得ず,虚偽の主張である。
(b)同じくbについては,食事はテーブルクロスを敷いて行うこ
とになっており,テーブルクロスの準備ができなかった班のテーブ
ルクロスを取り上げたことはあったが,食事をさせなかったことは
ない。
b原告Iは,整理整頓等に関して保母らから注意を受けることが多い
のが特徴で,重大な非行を犯したりすることはなく,体罰を受けるよ
うな園児ではなかった。
(キ)原告Eについて
a原告Eの上記主張は,いずれも否認する。
b原告Eは,在園中,万引きや喫煙等の問題行動があり,虚言癖もあ
,,。ったいえるので同原告の主張もこうした人格に基づくものである
(ク)原告Fについて
a原告Fの上記主張は、いずれも否認する。
(a)このうち,については,原告Fを宿直室の一部に寝泊まりa
させたことはあるが,これは指導上のものであり,不法行為や虐待
といえるものではない。同原告は,多くの児童の前で注意されて殊
更反抗的になり「注意の意味が分からない」等と言い張って聞,。
,,き入れなかったため意味が分からないのは幼児と同じだと言って
部屋の一時的な移動を行ったものである。
移動した部屋は,特に幼児用の空室ということではなく,宿直室
,,とはいえ昼間は職員が出入りしておりトイレも幼児用もののほか
通常の便座が用意されているので,特段不便なものでなかった。
(b)同じくbについては,まず,園の進学率は殊更低いものでは
ない。また,原告Fは,中学校3年生のときに,保母らから自分の
希望及び意見を話すよう,毎日のように声掛けされ,何度も協議の
機会が設けられたのにもかかわらず,容易に進路に関する意思決定
ができず,意見の表明もなかったために,成果を上げずに時間が過
ぎていき,結果として願書提出の日を迎えてしまったものである。
なお,同項(b)については,職員にも,同原告が高校在学中の
3年間在園することについて,引き受ける気持ちを持たせるため,
必要なことであった。また,同項(d)については,同原告が,進
学についての希望を直前まで伝えず,事前に協議をしないまま突然
願書を持ってきたため,突然願書を持ってこられても押印できない
旨申し向けながら,願書を返却する仕草をしたところ,同原告が受
け取らなかったため,タイミングがずれて同願書が床に落ちたもの
である。
bそもそも,原告Fの請求原因のうち,体罰虐待に関係するものとし
ては,ほほを平手で叩かれたという部分のみであり,また,この点に
ついての訴状の記載も,後に述べる虐待の法的な定義である「児童の
身体に外傷が生じ,又は生じるおそれのある暴行を加えること」に該
当するものとはいえない。したがって,原告Fについては,外形的に
不法行為に該当する事実の主張すらなされていない。
(ケ)原告Jについて
a原告Jの上記主張は,いずれも否認する。
(a)このうちaについては,テーブルクロスをしないで食事をさ
せたことはあるが,食事をさせなかったことはない。
(b)同じくbについては,同原告主張のような正座をさせること
は,常識的に見て考えられないことである。
(c)同じくcについては,まったくの虚偽である。
(d)同じくdについては,印鑑を押さなかったことはない。
b原告Jは,同原告の児童記録票からすると,特別な問題を抱えた園
児ではなく,強い指導をすることは考えられない。
(コ)原告Kについて
原告Kの上記主張は,いずれも否認する。
このうちdについては,原告Kが園に無断で外出したことはあるが,
同原告主張のような事実はない。同原告の母は,同原告の在園中,しば
しば園に面会に訪れたり,電話をかけてきたりしていたのであるから,
同原告の上記主張のような事実があれば,母親に話しているはずである
,,。ところ母親から上記主張のような訴えは今日まで一切されていない
(サ)原告Gについて
a原告Gの請求原因は,いずれも否認する。
(a)このうち,a及びbの漢字の書取りについては,学力が平均
して高くない原告Gに,せめて学習の習慣と,基礎学力としての漢
,。字の書取りを学ばせようと被告Zや担当保母が努めた結果である
これができないからといって,廊下に寝かせたり,夕食を与えなか
ったりしたことはない。
(b)同じくc及びdに関しては,原告Gの児童記録票に,骨折で
ソフトボールでは球拾いしかできなかったが,それを明るくやって
いた旨の記載があり,同原告主張のような事実は考えられない。
(c)同じくeについては,上記児童記録票によると,原告Gが年
少児に対し暴力を振るうことが再三あり,その際に注意を受けたこ
とがあったはずであり,同原告がそれを,小学生と遊んでいたこと
で注意を受けたという理解をしたものと思われる。
b原告Gの児童記録票によると,同原告の性格は,他人に責任を押し
つけたり,自分の悪い行動を認めないというものであるため,本件に
おける主張も,そのような性質のものである。
イ民訴法133条2項違反
(ア)原告らの主張する請求原因は,その時期と行為の特定において,
極めて不完全なものか,もしくは特定性の全くないもののいずれかであ
る。
原告らは,各請求原因につき,不法行為が行われた年月日及び時間,
各行為の詳細と前後関係並びに各行為の結果原告らが傷害を負った部位
及び程度等につき,明確に主張すべきところ,かかる主張はされていな
い。
このように,特定性を欠く請求原因は,民訴法133条2項2号及び
同規則53条1項に違反するものであるから,これを理由として,本訴
請求は棄却されるべきである。
(イ)仮に各不法行為の事実の主張が特定に欠けるとは直ちにいえない
,,としてもその前後関係の主張及び立証がされていないものについては
被告に正当な反論の機会が保障されていないのであるから,不法行為に
基づく損害賠償請求をするに足りる主張及び立証がされているとはいえ
ず,本訴請求は棄却されるべきである。
ウ原告ら主張にかかる行為の外形について
そもそも原告らが請求原因で挙げる被告Zの行為は,以下のとおり,行
為の外形からして,不法行為に当たらない。
(ア)麻袋に入れてつるす行為について
かかる行為が行われたとしても,大人が幼児を麻袋に入れて,ブラン
コのように揺すってあげているような情景である可能性が高く,その行
為の外形からして,そもそも不法行為に当たらない。
(イ)尻を50回以上叩く行為について
これは,保母から幼児への,力を抜いた可愛らしく優しいお仕置きの
類であり,その行為の外形からして,そもそも不法行為に当たらない。
(ウ)乾燥機部屋に入れて脅す行為
これは,押入れに閉じこめるという類の,大人が誰でも子供のころ経
験した罰を大げさに述べているものであり,行為の外形からして不法行
為とはいえない。
(エ)熱い風呂に浸からせる行為について
これは,寒い時期に,湯冷めしないように,幼児にとっては熱いと感
じる湯に保母が一緒に入って入浴させたものであると考えられ,外形か
ら不法行為に当たらない。
(オ)長時間の正座について
正座は,日本人の基本的座法であり,正座をすることは,日本人の美
徳かつ文化であり,正座をする習慣を身に付けさせることは,養護施設
における生活習慣の教育方法として不可欠なものである。また,たしか
に被告Zが園児らに対する懲戒として園児らを正座を命じることがなか
ったわけではないが,仮にそれが長時間であっても,監視がないときに
は足を崩す等の抜け道があるのであり,被告Zとしてもかかる抜け道を
前提として懲戒を与えていた。したがって,正座は行為の外形から不法
行為に当たらない。
(カ)服の袖を切る行為について
服の袖を手首より長い状態にしておくことについて,再三指導しても
従わない園児について,安全を優先して袖先を切ることは,指導の選択
肢としてあり得ることであり,不法行為に当たらない。
(キ)なお,原告Fの主張する請求原因事実が,およそ不法行為の外形
的事実に当たらないものであることは,原告Fの主張に対する反論部分
で述べたとおりである。
エ懲戒権の行使について
(ア)仮に被告Zが,体罰と呼べる有形力の行使を行ったと認められる
としても,それは,児童福祉施設の長に法的に認められた懲戒権の行使
の範囲内のものであり,違法性がない。
(イ)aすなわち,民法822条1項は「親権者は必要な範囲内で自,
らその子を懲戒」することができる旨定めているところ,ここでいう
懲戒とは,親権者が子の非行,過誤を矯正・善導するために実力を子
に与える一種の私的懲罰手段,すなわち体罰と解される。
そして,法47条2項は,児童福祉施設の長は,入所中の児童で親
権者がある者についても「監護,教育及び懲戒に関し,その児童の,
福祉のため必要な措置をとることができる」と定めているが,ここ。
にいう懲戒は,民法822条を受けたものと解すべきである。
bところで,学校教育法11条は「校長及び教員は,教育上必要が,
あると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,学生,生
徒及び児童に懲戒を加えることができる」旨定めるものの,但書き。
において,殊更に「ただし,体罰を加えることはできない」と規,。
定するが,児童福祉法47条は,このような体罰禁止については全く
触れていないものである。
cなお,法45条1項は,厚生大臣は,児童福祉施設の設備及び運営
等について「最低基準を定めなければならない」としており,これを
受けて厚生省令によって「児童福祉施設最低基準」が定められていた
ところ平成9年6月11日法律第74号による児童福祉法の改正平,(
成10年4月1日施行)に伴い,平成10年2月18日に,同基準に
,「,,9条の2が追加され児童福祉施設の長は入所中の児童に対して
法第47条第1項本文の規定により親権を行う場合であって懲戒をす
るとき又は同条第2項の規定により懲戒に関してその児童の福祉のた
めに必要な措置を採るときは,身体的苦痛を与え,人格を辱める等そ
の権限を濫用してはならない」と定められ,またこれに関連して,。
同日「懲戒に係る権限の濫用禁止について」と題する通知も厚生省,
児童家庭局企画課長等から出されたが,上記改正によっても法47条
2項において体罰禁止が明示されるには至らず,単に上記最低基準に
おいて,懲戒に係る権限の濫用を禁じた9条の2を追加するに止まっ
たうえ,同条項及び上記通知においても,体罰禁止の文言は一切明記
されるには至らなかったことに照らせば,上記最低基準9条の2にお
いて,虐待というべき事例を挙げたうえでかかる行為を禁じたものに
止まり,体罰一般を禁じたものではないと解すべきである。
dこれらを総合すると,上記平成10年4月1日までは,児童福祉施
設の長において,体罰を行うことは懲戒権の行使として容認されてき
たといえ,上記改正においても,上記最低基準の追加によって,虐待
を行うことを禁じたに止まり,体罰を完全に禁止したということはで
きない。
オ有形力行使の程度について
(ア)前記のとおり,児童福祉施設の長が行う懲戒権の行使としての体
罰であっても,虐待にわたるものは禁じられているところ,平成12年
に成立した児童虐待防止法における「虐待」の定義及び程度に該当しな
い有形力の行使は,虐待に該当せず,違法性はない。
仮に被告Zによる有形力の行使が,懲戒権行使の一環として行われた
ものと認められないとしても,それらの有形力の行使は,虐待に該当せ
ず,違法性はない。
イaすなわち児童虐待防止法は同法が児童の保護者に禁じる虐(),,「
待」の定義として,第2条に,以下のとおり定める。
①「児童の身体に外傷が生じ,又は生じるおそれのある暴行を加
えること(同条1号)。」
②「児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな
行為をさせること(同条2号)。」
③「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長
」,「。」時間の放置その他保護者としての監護を著しく怠ること
(同条3号)
④「児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと(同条。」
4号)
bまた,上記「虐待」の程度は,児童虐待調査委員会が,1983年
時点で挙げていた具体例を参考にすると,傷害罪等の刑法犯を構成す
るようなもの,相当期間継続して放置するもの及び極端に心理的外傷
を与えたと思われるもの等,相当程度極端なものと理解されるべきで
あり,体罰一般や心理的虐待一般が児童虐待に当たるものではない。
c原告らが不法行為として主張する被告Zの行為は,これらの定義及
び程度に該当しないもので,違法性がない。
カ平成19年最高裁判決について
平成19年最高裁判決は,民営の児童養護施設の職員等は,都道府県の
公権力の行使に当たる公務員に該当すると判示したものであって,これに
よれば,本件において,被告Zは,被告県の公権力の行使に当たる公務員
に該当することとなる。そして,国賠法1条1項に基づき,地方公共団体
が賠償責任を負う場合には,その公権力の行使に当たる公務員に直接損害
賠償請求できないことは自明の法理である。
したがって,本件において被告Zは損害賠償責任を負わない。
キ損害の発生及び損害額について
原告らの主張は争う。
【被告恩寵園の主張】
,,。ア原告らの被告Zの不法行為に関する主張はいずれも不知ないし争う
原告らによる被告Zの不法行為に関する主張は,いずれも体罰の原因及び
時期が特定されておらず,民訴法上要求される請求原因の特定を欠くもの
として,主張自体失当である。また,被告恩寵園は,被用者たる被告Zの
不法行為に関し,上記【被告Zの主張】エの被告Zの主張を援用する
イ損害の発生及び損害額について
原告らの主張は争う。
【被告県の主張】
ア原告らによる被告Zの不法行為の主張に対する認否は,以下のとおり。
(ア)原告Aの主張について
原告Aの上記主張eのうち,被告Zが原告Aに正座を命じたこと,同
,,gのうち被告Zが原告Aを学校に行かせなかったこと及び同fは認め
同n(c)のうち,児相が原告Aに対し「違う施設に行くか,親のと,
ころに行くか決めろ」と迫ったことは否認し,その余は不知。。
(イ)原告Hの主張について
原告Hの上記主張hのうち,第1文及び第2文,同jのうち,被告Z
,。が原告Hに正座を命じたこと並びに同a及び同cは認めその余は不知
(ウ)原告Bの主張について
原告Bの上記主張bのうち,被告Zが原告Bに正座を命じたことは認
め,その余不知。
(エ)原告Cの主張について
原告Cの上記主張bのうち,被告Zが原告Cに正座を命じたこと及び
同dは認め,その余は不知。
(オ)原告Dの主張について
原告Dの上記主張は,いずれも不知。
(カ)原告Iの主張について
原告Iの上記主張aのうち,被告Zが原告Iに正座を命じたことは認
め,その余は不知。
(キ)原告Eの主張について
原告Eの上記主張は,いずれも不知。
(ク)原告Fの主張について
原告Fの上記主張は,いずれも不知。
(ケ)原告Jの主張について
原告Jの上記主張は,いずれも不知。
(コ)原告Kの主張について
原告Kの上記主張は,いずれも不知。
(サ)原告Gの主張について
原告Gの上記主張は,いずれも不知。
イ損害の発生及び損害額について
原告らの主張は争う。
(2)争点2(被告Zを公務員とみなした被告県の国賠責任)について
【原告らの主張】
ア平成19年最高裁判決は,都道府県による3号措置に基づき社会福祉法
人の設置運営する児童養護施設に入所した児童に対する当該施設の職員等
による養育監護行為につき,国賠法1条1項の,都道府県の公権力の行使
に当る公務員の職務行為と解するのが相当である旨判示している。
本件各行為時に,被告Zは,被告社会福祉法人恩寵園の設置運営する養
,,,護施設恩寵園の職員であり本件の原告らのうち原告Dを除く原告らは
被告県による3号措置に基づき養護施設に入所したものであるから,本件
各行為は,被告県の公権力の行使に当る公務員の職務行為に該当する。
イ原告Dについて
原告Dにつき園への入所措置を行ったのは,千葉市の児相であるが,以
下の理由から,被告Zは,同原告に対する関係でも,被告県の公権力の行
使に当る公務員に該当する。
すなわち,要保護児童の養育は,国及び地方公共団体が重畳的に果たす
べき高度の公的義務であるところ,恩寵園が,被告県によって設立を認可
され,その監督を受けていたことからすると,各児童の措置主体いかんに
かかわらず,恩寵園に入所した児童の養育を保障すべき監督権限ないし義
務を負うのは被告県であるから,原告Dに対する関係でも,被告Zは,被
告県の公権力の行使に当る公務員というべきであり,またそれで足りる。
そもそも上記最高裁判決は,入所措置のみを根拠に施設職員の公務員性
を認めたわけではない。むしろ,要保護児童に対して都道府県が有する権
限及び責務を具体的に定める法の規定及び趣旨に照らし,施設の養育監護
は本来都道府県が行うべき事務である旨判示していることから,法の規定
と趣旨,それから見た施設における養育監護の公務性を根拠とするもので
ある。また,上記最高裁判決は,職務行為の対象となる児童らがいずれも
同一の地方自治体の措置によって入所している事案であるから,入所措置
の主体が異なる場合の国賠法上の責任が,上記最高裁判決から直ちに導け
るものではない。
ウ被告県の主張に対する反論
(ア)被告県は,法27条4項が,3号措置は親権者等の意に反して採
ることができない旨規定していること等から,入所後の養育監護は親権
者等の依頼に基づき当該施設において行われるものであり,都道府県は
入所をあっせんするものに過ぎない旨主張して上記最高裁判決を批判す
る。
しかし,養護施設への入所は,法27条1項3号による場合も28条
による場合も,都道府県の措置という行政処分によってなされ,多くの
場合,親権者等が積極的に希望してくるのではなく,第三者の通告(法
25条)によって,児相が要保護児童を一時保護(法33条)し,入所
の必要性を認めれば親権者に説明のうえ同意を得て3号措置を採るとい
う運用がなされ,同意が得られない場合でも,必要があれば法28条に
基づき家庭裁判所の許可を得て入所措置を行うことになる。他方,親権
者自身が児童を入所させるよう申し出てきた場合にも,都道府県が要保
,。護児童と認め入所の必要性を認めてはじめて入所可能となるのである
したがって,児童の児童福祉施設への入所措置は,親権者等の意向とは
別の観点である児童福祉の観点から,行政処分として行われるものであ
り,単なる入所のあっせんということはできない。
また,被告県は,児童福祉施設の自主性及び独立性を理由に上記最高
,,,裁判決を批判するが法35条1項及び2項によれば児童養護施設は
本来国または都道府県が設置するのが原則であり,社会福祉法人は,都
道府県の認可を得てはじめて「設置できる」ものである。また,社会福
祉事業法5条1項1号(平成12年6月7日法律第111号による改正
後の社会福祉法61条1項1号)も,国及び地方公共団体は,法律によ
り帰せられたその責任を他の社会福祉事業を経営する者に転嫁してはな
らない旨定めている。したがって,被告県は,児童養護施設の自主性及
び独立性を強調して自己の責任を回避することはできない。
(イ)さらに被告県は,本件各行為は「職務を行うについて(国賠法」
1条1項)に該当しない旨主張するが「職務を行うについて」とは,,
職務の内容と密接に関連し,職務行為に付随して行われる行為も含むと
ころ,本件各行為は,職務行為と関連し,または職務行為に付随してな
されたものである。また最高裁昭和29年(オ)第774号同31年1
1月30日第二小法廷判決・民集10巻11号1502頁は,客観的に
職務行為の外形をそなえる行為をしてこれによって他人に損害を加えた
場合も「職務を行うについて」に含むとしていることからも,本件各行
為は「職務を行うについて」に該当する。
エ被告Z及び被告恩寵園の責任について
平成19年最高裁判決は,施設職員に公務員性を認めた場合の,施設設
置主体たる法人の責任を否定し,傍論で施設職員の責任も否定している。
しかし,上記最高裁判決の事案は,不法行為につき,施設職員の配置不足
など,地方公共団体の責務に属する事情が存するのに対し,本件は,児童
の養育監護につき直接責任を負うべき施設長が故意に行った行為の責任が
問われているのであって,事案を異にする。また,被告Z及び被告恩寵園
のみが被告となっている場合には,両者は損害賠償責任を免れないのに,
被告県を共同被告にした場合に責任を免れるのは不合理である。
したがって,本件では,被告Zの各行為が被告県の「公権力の行使に当
る公務員の職務行為」該当することを前提としても,被告Z及び被告恩寵
園も不法行為責任を免れない。
【被告県の主張】
アそもそも,平成19年最高裁判決の判断は,以下の理由から首肯できな
い。
まず,法は,児童の養育監護について,国または地方公共団体が後見的
な責任を負うことを前提としており(法2条,都道府県は原則として児)
童の親権者等の意思に反して児童養護施設への入所措置を採ることができ
ない旨規定しており(法27条4項,一旦入所措置が採られた後でも,)
親権者等の反対の意思が表明された場合には,入所措置を解除せざるを得
ないのであって,児童に児童養護施設で養育監護を受けさせるか否かは,
終局的には親権者等の判断に委ねられている。したがって,入所後の施設
における養育監護は,親権者等の依頼に基づき当該施設で行われるものと
解されるのであって,都道府県の入所措置は,児童福祉のために積極的に
。,これに介入して入所をあっせんするものに過ぎないそれにもかかわらず
平成19年最高裁判決は,上記法の規定にあえて触れずに,入所後の施設
における養育監護は本来都道府県が行うべき事務であると判示している。
また児童福祉施設を経営する事業は第一種社会福祉事業であるが社,,(
会福祉事業法2条1項社会福祉事業法4条5条1項2号及び3号平),,(
成12年6月7日法律第111号による改正後の社会福祉法60条,61
条1項2号及び3号)において,社会福祉法人を経営する者の独立性が強
く保障されていることからすると,児童養護施設においては,経営主体た
る社会福祉法人が,地方公共団体から独立した事業者として自らの責任と
判断において社会福祉事業(児童の養育監護等)を行っているものといわ
なければならない。
さらに,国賠法1条1項の適用上,私人が公共団体の公権力を行使して
いるというためには,当該公共団体が当該業務の主体といえる程度に私人
の業務に関与していることを要するというべきである。
また,平成19年最高裁判決は,入所措置の主体によって責任を負う主
体が決まる旨判示しているところ,1個の児童養護施設には,様々な地方
公共団体から入所措置がなされていることも多いのであって,上記最高裁
判決に従えば,入所の際の手続により,同じ施設で同等の養育監護を受け
ている児童に対する責任の主体が異なるというまったく不合理な事態とな
りうる。
したがって,児童養護施設の職員等による養育監護行為を,入所措置を
行った都道府県の公権力の行使に当る公務員の職務行為ということはでき
ない。
イ仮に,平成19年最高裁判決に従うとしても,以下の理由から本件に当
てはめることはできない。
(ア)まず「職務を行うについて(国賠法1条1項)とは,職務行,」
為自体またはこれと関連して一体不可分の関係にある行為及び客観的・
外形的にみて社会通念上職務の範囲に属するとみられる行為を広く指す
ものと解されているが,仮に被告Zの行為が原告らの主張どおりのもの
であったとすれば,それらはいずれもおよそ入所児童に対する養育監護
の一環であるなどとは到底言えない行為であるから,本件各行為が「職
務を行うについて」なされたものであると解される余地はない。
(イ)また,平成19年最高裁判決は,入所措置の主体によって責任を
負う主体が決まる旨判示したものであるから,平成19年最高裁判決に
従えば,原告Dとの関係では,被告Zは千葉市の公務員ということにな
り,本訴において原告ら間で統一的な結論を採り得ない。すなわち,平
成19年最高裁判決は,単独の地方公共団体から入所措置が行われた児
童に係る事案のものであり,賠償主体の相違について問疑する余地がな
かったので,施設職員等による養育監護行為を,入所措置を行った都道
府県の公権力の行使に当る公務員の職務行為と判示したものと思われ,
本件のように複数の地方公共団体から入所措置が行われた複数の児童に
,。係る事案に平成19年最高裁判決の判断を当てはめることはできない
ウ原告Dについて
上記最高裁判決は,前述のとおり,入所措置の主体によって責任を負う
主体が決まる旨判示したものであるが,これによれば,原告Dは,千葉市
の児相によって入所措置されたものであるから,同原告との関係では,被
告Zは,千葉市の公務員とみなされることになり,被告県は責任を負わな
い。
(3)争点3(監督義務違反を理由とした被告県の国賠法責任)について
【原告らの主張】
ア県知事の監督義務違反
(ア)県知事の監督義務違反の内容
県知事は,被告Zが原告らに対し体罰及び精神的虐待行為を行った昭
和59年1月から平成10年4月までの間においても,社会福祉事業法
54条並びに児童福祉法46条及び58条に基づき,被告恩寵園に対す
る強い監督権限及び監督責任を有していたところ,県知事は,被告Zの
原告らに対する体罰及び精神的虐待行為を認識していたのであるから,
これらを防止・阻止すべく,上記公権力を行使すべき義務があったもの
であるが,県知事は,これを怠った。
,,ことに本件集団駆込みが発生した平成8年4月5日前後の時点では
被告恩寵園に対し,施設長たる被告Zの解職を含む,児童福祉法46条
3項に基づく改善勧告を行う義務があったにもかかわらず,県知事は,
上記改善勧告を行わなかった。
(イ)県知事の予見可能性及び結果回避義務違反
a昭和59年1月から平成2年5月まで
被告県は,そもそも昭和59年以前から,養護施設につき,児相に
よる定期的な訪問,施設からの報告の聴取等を通じて入所児童の処遇
を確認するとともに,問題が生じる都度処遇に関する指導を行ってき
たうえ,被告恩寵園については,県知事において,昭和59年以前か
ら,社会福祉法人監査要項に基づく書面監査及び実地監査をとしてい
るところ,同要項に基づき,昭和58年4月1日に施行された社会福
祉法人監査要領では,監査項目に,体罰等懲戒権濫用にかかる事項が
挙げられているのであるから,県知事において,被告Zの体罰・虐待
につき,十二分に予見可能性があったというべきであり,それにもか
かわらず被告Zの体罰・虐待を認識し得なかったとしたら,それ自体
予見義務違反であり,当然に結果回避義務違反があったというべきで
ある。
b平成2年5月から平成6年まで
市川児相は,平成2年5月2日に,原告Kから,被告Zの暴力,正
座の指示等に関する訴えを聞き,また,その際には,同原告の通う中
学校の教諭からも,同中学校でも園での処遇を問題視している旨伝え
られており,平成5年8月及び同年9月にも,原告H及び同Jの母か
ら被告Zから同原告らが暴行等を受けた旨の訴えを受けており,加え
て,平成3年ないし5年に,当時園で実習をしていた者を通じ,被告
Zの体罰につき通告を受けていたのであり,これらは,児童記録票等
からも明らかであるから,県知事は,この間,被告Zの体罰・虐待を
認識していたというべきである。
そうである以上,県知事において上記各公権力を行使すべきであっ
たのにこれを行わず,被告県の対応として,平成6年9月20日の児
相所長協議会において上記各訴えの報告が行われ,児相所長協議会と
して園を訪問し,被告Zに体罰をしないよう申し入れただけなのであ
るから,結果回避義務違反は明らかである。
c平成7年から平成8年3月まで
市川児相は,平成7年8月23日に,被告Zの園児らに対する体罰
・虐待を内容とする匿名電話(以下「本件匿名電話」という)を受。
け,また,これを受けて不十分ながら実施された児相所長らによる調
査に基づき,被告県は,被告Zが体罰を行っていたと結論づける,同
年10月4日付け「恩寵園児童処遇に関する調査結果報告書」を作成
したのであるから,これらにより,県知事は,この間,被告Zの日常
的かつ広範な体罰・虐待を認識していたというべきである。
そうである以上,県知事において上記各公権力を行使すべきであっ
たのにこれを行わず,被告県の対応として,上記児相所長らによる不
十分な調査を行ったほか,ケース検討会によって保母らへの指導を行
,,(「」い被告Zに対しては被告県社会部児童家庭課以下児童家庭課
という)長が面接して顛末書を書かせ,新たな施設建物の建設計画。
の凍結及び入所措置停止を伝えたことのほか,園児らの直接処遇をし
ないように指導したのみであり,当時園で必要であった,経験豊富な
職員を採用する旨の指導すらしなかったのであるから,結果回避義務
違反は明らかである。
d平成8年4月当時
平成8年4月3日から5日にかけて,原告ら6名を含む13名の園
児らが,被告Zの体罰・虐待を理由に園から脱走し,県内の4か所の
児相に駆け込んだ(以下「本件集団駆込み」という。上記各児相で)
は,上記各園児らから,被告Zによる体罰・虐待についての訴えを聞
いており,これらは児童記録票等から明らかであるうえ,被告県が同
月15日付けで提出を受けた被告Zの顛末書においても,本件集団駆
け込みの原因が同被告の体罰にあったことが露呈されているのである
から,県知事は,この当時,被告Zの体罰・虐待を認識していたとい
うべきである。
そうである以上,県知事において上記各公権力を行使すべきであっ
たのにこれを行わず,被告県の対応として,本件集団駆込みの原因を
被告Zと他の職員らとのトラブルにすり替えて,無理に事態を収束さ
せようとし,後日行われた被告県の職員らと被告Zないし園職員らと
の話合い及び上記顛末書提出の後も,被告Zの体罰・虐待につき,何
らの措置も行わなかったのであるから,結果回避義務違反は明らかで
ある。
e本件集団駆込み後から平成10年4月まで
県知事は,平成8年5月1日付けで,園児ら9名から,被告Zの体
罰・虐待が継続している事実が記載され助けを求める手紙以下本,(「
件知事への手紙」という)を受け取り,また,被告県の児童家庭課。
は,同月6日,園児らとの話合いにおいて,被告Zが本件集団駆込み
後も反省していないとの訴えを受けた。また,被告Zの直接処遇が復
活したことによる無力感等から,平成9年3月末に,保母ら2人を除
く園職員全員が退職した。これらの事実から,県知事は,この間,被
告Zにより体罰・虐待が行われていることを認識していたというべき
である。
そうである以上,県知事において上記各公権力を行使すべきであっ
たのにこれを行わず,本件知事への手紙に対しては,被告Zの体罰に
は一言も触れない同一文面の返事を全員に送り,上記話合い後も何ら
具体的対応を行わず,平成8年6月に園に対して行われた監査におい
ても,何ら被告県が採るべき改善策を提示しなかったのであるから,
結果回避違反は明らかである。
(ウ)小括
以上のとおり,県知事は,その過失により上記各公権力を行使しなか
ったのであり,県知事によるかかる公権力行使の懈怠は,被告県の公務
員の違法行為に当たる。そして,これにより原告らは,前記(1【原)
告らの主張】ウの損害を被ったのであるから,被告県は国賠法1条1項
に基づき,原告らに対し,上記損害を賠償をする責任を負う。
イ被告県の主張に対する反論
(ア)被告県は,上記各公権力の行使を裁量権の行使としたうえで,そ
の不行使の違法性を否認している。
しかし,児童福祉施設の職員による入所児童への体罰等が発生するた
,(),びに厚生省現厚生労働省が都道府県知事に監督を促していること
及び,上記各公権力の行使を裁量権であるとすると,法26条ないし2
7条の各措置は,要保護児童をより弱者の立場に陥れるものとなりかね
ないことからすると,少なくとも被告Zの解職を含む改善勧告に至らな
い権限行使は,裁量ではなく,行使が義務付けられているものである。
(イ)また,被告県は,独立した社会福祉法人への監督権行使は抑制的
にあらざるを得ず,必要最低限の権限行使が求められる旨主張する。
しかし,かかる主張は,社会福祉事業法5条1項2号の定めるところ
の社会福祉法人の自主性尊重や不当な関与禁止の範囲内では正しいもの
であるが,それ以上に謙抑的な監督権限行使を主張している点について
は,以下のとおり,誤りである。
すなわち,被告県は,児童福祉法35条の定めにもかかわらず,県立
の養護施設を1つしか設置せずに,原告らを,その意思とは無関係に,
県立の養護施設ではなく恩寵園に入所措置したのである。それにもかか
わらず,被告県が,被告恩寵園の独立性を強調して抑制的監督権限行使
を主張するのは,県立の養護施設に措置された児童と同等の処遇を受け
るという,原告らの憲法14条に基づく権利をないがしろにするもので
ある。
また,被告県は,虐待されている児童等の要保護児童については,児
童福祉法27条ないし28条に基づき,その保護者と分離する等の措置
を採る義務があるところ,被告Zもその保護者に当たるのであるから,
同被告を入所児童から分離すべく,被告恩寵園に対して被告Zの解職を
指導,勧告すべき義務があったというべきである。
ウ児童の権利に関する条約について
,,,さらに日本国が批准した児童の権利に関する条約は19条において
児童を虐待等から保護するため,締結国はすべての適当な措置を採る旨定
めているところ,地方公共団体たる被告県も,当然にかかる措置を採る法
的責任を負っているのであり,社会福祉法人に対する監督権限も,この法
的責任を果たすために行使されなければならなかったものである。
【被告県の主張】
ア県知事の監督権限が裁量権であること
本件において,県知事が有する監督権限は,法46条,58条及び社会
福祉事業法54条に基づく権限であるが,これらはいずれも裁量権であっ
て,行使が義務づけられているものではない。
このような権限の不行使が国賠法上違法となるのは,①国民の生命,身
体に対する差し迫った危険が存在し,②その危険が切迫していることを行
政庁が知り,または容易に知りうべき状況にあり,③その危険回避に有効
適切な権限の行使が可能である状況にあり,④被害者が自分では当該危険
を回避できず,行政庁の権限行使に頼らざるを得ない状況にあるという,
各要件を具備した場合であり,その場合においても,上記危険の度合,権
限行使の影響及び将来的展望等,諸般の事情を考慮したうえで決せられる
ものであるところ,以下に述べる点から,本件における県知事の権限不行
使に,違法はない。
イ被告県による実態把握及び対応について
(ア)被告県による実態把握
県知事は,昭和59年以前から,法46条,社会福祉事業法54条及
,,び65条に基づき毎年定期的に被告恩寵園及び養護施設恩寵園に対し
監査を実施し,運営状況等を把握してきたが,これによっては,被告Z
の園児らに対する体罰等は確認されなかった。
一方児相は,毎年度の定期的な施設訪問に加え,何らかの情報ないし
問題を把握する都度,入所施設訪問を行うことで,児童の生活実態を把
,,握して相応の指導を行い特に記録を要すると判断した事項については
各児童の児童記録票に記載している。また,入所施設からも児童の養育
に関する報告を徴して児童の生活実態の把握に努めている。
これらを通じ,恩寵園における体罰等につき,被告県が把握した内容
及びそれに対する被告県の対応は,以下のとおりであり,本件における
いずれの時点においても,県知事の権限不行使が違法とされる余地はな
い。
(イ)昭和59年から平成2年5月まで
上記(ア)の各手段によっても,この期間中,恩寵園における原告ら
,。に対する体罰が問題となったことを被告県が了知したことはなかった
よって,この期間の県知事による権限不行使に違法はない。
(ウ)平成2年5月から平成6年まで
市川児相は,平成2年5月,平成5年8月,同年9月及び平成6年5
月に,それぞれ被告Zの原告K,同将及び同Jに対する暴力等の情報を
把握したため,その都度,状況確認ないし原告K及び同Jの措置解除と
いう対応を行った。
そして,上記各情報から,事態の背景に被告Zの厳しい指導があると
窺われたため,平成6年10月には,児相所長協議会において,園を訪
,,,。問のうえ被告Zに対し入所児童の処遇につき厳しく指導を行った
したがって,被告県は,この間状況に応じた適切な対応を行っている
のであり,この間の県知事の権限不行使に違法はない。
(エ)平成7年度
a児相の取組み
平成7年9月,児相所長協議会は,本件匿名電話を受け,臨時所長
協議会を開催したうえ,2度にわたり,被告Z,園職員及び園児らに
対し,聞取調査を行った。
上記各聞取調査の結果,児相所長協議会は,園において体罰があっ
たのではないかと考え,まず,同年10月には臨時所長協議会を開催
し,被告Z及び主任保母Oとの話合いを行った。また,園における体
罰をなくし,入所児童の処遇向上を図るため,ケースカンファレンス
を行うこととし,同度中に6回行ったほか,平成8年3月には,被告
Zに対し,今後の対応の聴取を行った。
b児童家庭課長の指導
さらに,平成7年10月,当時の被告県児童家庭課長は,被告Zに
対し,同年12月18日,被告Zに対し,体罰の禁止を厳しく指導す
るとともに,被告Zにおいて直接処遇をしないこと及び顛末書を提出
すること,並びに園施設の改築計画の凍結及び新規入所措置の停止を
申し渡した。また,上記児童家庭課長は,同月26日,再度被告Zと
,,,面談し指導を行うとともに新規入所の停止を更に3か月延長して
改善状況を見る旨申し渡す等した。
c小括
ケースカンファレンス及び児童家庭課長による上記各指導により,
被告Zによる原告らへの体罰はなくなったのであって,被告県が,こ
の間状況に応じた適切な対応を行ったことは明らかであり,この間の
県知事の権限不行使に違法はない。
(オ)平成8年4月以降(本件集団駆込み時以降)
a本件集団駆込みの原因及び被告県の対応
児相は,平成8年4月の本件集団駆込みに際し,駆込みを行った園
児ら全員を一時保護し,その後,被告Z及び主任保母Oと善後策等に
つき協議を行った。
また,当時の児童家庭課次長及び児相職員は,本件集団駆込みを受
けて,被告Z及び園職員から事情聴取を行ったり,被告Zに「体罰は
しない」等の約束をさせたりした。。
そのうえで,児相としては,上記園児らを,その意思に応じ,逐次
帰園させたのである。
なお,上記園児らの話及び上記事情聴取の内容からすると,本件集
団駆込みの原因は,被告Zと園職員らとのトラブルが主なものであっ
たといえる。
b本件集団駆込み後の園の状況
被告県は,同年4月,被告Zから,体罰を絶滅する旨記載された顛
末書の提出を受けた。また,同年5月,本件知事への手紙を受けて,
当時の児童家庭課長が状況確認を行ったが,その当時体罰が行われて
いることは確認できなかった。
その後も被告県は,ケースカンファレンスや,前記(ア)の監査等
を継続して行ったが,これらによっても,被告Zの原告らに対する体
罰が継続していることは,確認できなかった。
c小括
以上のとおり,被告県は,平成8年4月以降も,状況に応じて適切
な対応を行ったものであるが,そもそもこの時期には,被告Zの原告
らに対する体罰が継続していた事実は確認できなかったのであって,
この時期の県知事による権限不行使に違法はない。
(4)争点4(被告恩寵園の使用者責任)について
【原告らの主張】
ア被告恩寵園は,その事業である養護施設恩寵園の運営のために,被告Z
を使用していたところ,同被告が,被告恩寵園の事業の執行に関して,前
()【】,,()記1原告らの主張アのとおり原告らに不法行為を行い前記1
【原告らの主張】ウの損害を与えたのであるから,民法715条1項に基
づき,被告Zと連帯して賠償責任を負う。
,,,イなお平成19年最高裁判決は児童福祉施設の職員の不法行為につき
地方公共団体の国賠法上の責任を認めたうえで,施設設置者たる法人の責
任を否定している。
しかし,上記最高裁判決は,児童養護施設の入所児童が他の児童に傷害
を負わせた事故につき施設職員が十分な注意を怠った過失を前提とする事
案で,施設職員の配置不足など,地方公共団体の責務に属する事情が事故
の背景にあるのに対し,本件は,施設長が,入所児童に対し,故意かつ確
信犯的に加えた不法行為につき,施設長自身の責任が問われ,かつその不
法行為を容認してきた施設設置者たる法人の責任が問われている事案であ
って,両者は事案を異にするというべきであるうえ,実質的にみても,被
告Z及び被告恩寵園だけが被告とされた場合には,被告Z及び被告恩寵園
は損害賠償責任を免れないところ,被告千葉県を共同被告とした場合に,
責任が免除されるのは,不合理である。
,,,したがって本件においては平成19年最高裁判決の判断は妥当せず
被告恩寵園は,損害賠償責任を免れない。
【被告恩寵園の主張】
ア被告恩寵園が,その事業である養護施設恩寵園の運営のために,被告Z
を使用していた事実は認めるが,同被告の不法行為については,そもそも
原告らの主張自体が民訴法上要求される請求原因の特定を欠き主張自体失
当であるうえ,仮に同被告について有形力の行使があったとしても,これ
は懲戒権の行使にすぎず,同被告に不法行為が存しないから,被告恩寵園
が民法715条の責任を負うことはない。
イまた,平成19年最高裁判決の判断に照らせば,被告Zは,被告県の公
権力の行使に当たる公務員と解されるため,仮に被告Zが,園における養
育監護に際して,故意又は過失により,原告らに損害を与えたとしても,
その賠償責任は,被告県が国賠法1条1項に基づき負うものであり,この
場合,被告恩寵園は民法715条の責任を負わない。
(5)争点5(消滅時効)について
【被告Zの主張】
ア原告ら全員について
(ア)未成年者が受けた損害については,成人後に時効期間が進行する
とされるが,不法行為時から著しく期間が経過した請求については,反
証等が困難である。したがって,時効制度の趣旨からして,このような
請求,特に本件のように不法行為の特定が不完全なものについては,不
法行為があったと主張される時点からのみ3年の時効期間が進行すると
解すべきである。
(イ)もしくは,原告らは,満15歳になれば訴訟委任について法定代
理人の同意が不要と主張している以上,満15歳になったときから時効
期間が進行すると解すべきである。
(ウ)したがって,原告らの本訴請求は,すべて消滅時効が完成してい
るから,いずれも時効を援用する。
イ原告Hらの親権者の知情に基づく時効完成について
(ア)原告Hら全員について
原告Hらの親権者たるLは,原告Hらが恩寵園に在園していた当時か
ら本件請求原因等を知り,児相にも訴えているところ,原告Kが,平成
2年5月2日に,恩寵園から無断外出してLの元に帰ったことからする
と,Lは,平成2年5月2日には原告Hらの本件請求原因にかかる損害
及び加害者を確定的に知ったというべきであり,それゆえ,原告Hらの
本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成5年5月2日には
消滅時効が完成しているのであるから,被告Zは上記時効を援用する。
(イ)原告J,同I及び同Hについて
また,Lは,平成6年5月2日に,恩寵園から無断外出してきた原告
Jから,本件請求原因事実を聞いているのであり,それゆえ,原告J,
同I及び同Hらの本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成
9年5月2日には消滅時効が完成しているのであるから,被告Zは上記
時効を援用する。
(ウ)原告Jについて
さらにLは,平成6年6月8日に,原告Jの入所措置が解除されてい
ることからすると,遅くとも同日には原告Jの本件請求原因にかかる損
害及び加害者を知ったというべきであり,それゆえ,同日から3年を経
過した平成9年6月8日には消滅時効が完成しているのであるから,被
告Zは,上記消滅時効を援用する。
(エ)原告I及び同Hについて
同様に,Lは,平成8年5月23日に,原告I及び同Hの入所措置が
解除されていることからすると,遅くとも同日には原告I及び同Hの本
件請求原因にかかる損害及び加害者を知ったというべきであり,それゆ
え,同日から3年を経過した平成11年5月23日には消滅時効が完成
しているのであるから,被告Zは,上記消滅時効を援用する。
ウ原告Kの成人に基づく時効完成について
原告Kは,平成9年2月20日に成人に達していたところ,同原告自身
がその時点で,本件請求原因にかかる損害及び加害者を知っていたのは明
らかであり,それゆえ,同原告の本件損害賠償請求権は,同日から3年を
経過した平成12年2月20日には,消滅時効が完成しているのであるか
ら,被告Zは上記時効を援用する。
【被告恩寵園の主張】
ア原告ら全員について
上記【被告Zの主張】ア(ア)の主張を援用し,被告恩寵園は,かかる
時効を援用する。
イ原告Hらの親権者の知情に基づく時効完成について
上記【被告Zの主張】イ(ア(ウ)及び(エ)の主張と同旨であり,),
被告恩寵園は,かかる時効を援用する。
ただし,原告Jに関し,措置解除日及び時効完成日は,原告Jに関して
は,それぞれ平成6年6月14日及び平成9年6月14日であり,原告I
及び同Hに関しては,それぞれ平成8年5月24日及び平成11年5月2
4日である。
ウ原告Kの成人に基づく時効完成について
上記【被告Zの主張】ウの主張を援用し,被告恩寵園はかかる時効を援
用する。
【被告県の主張】
ア行政庁の規制権限不行使を違法として損害賠償を請求する場合の消滅時
効の起算点は当該規制権限の作為義務が発生した時点と解されている東,(
京地裁昭和36年(ワ)第8085号同41年6月27日判決・下級裁判
所民事裁判例集17巻5,6号505頁)ところ,本件各不法行為が行わ
れた昭和59年から平成10年までのすべての期間において県知事の作為
義務が発生していたとする原告らの主張を前提とすると,本件における被
告県に対する請求の消滅時効の起算点は,本件各不法行為が行われた時点
と解される。そこで,被告県は,原告らが本件各不法行為時に未成年者で
あったことを踏まえ,以下のイないしエの消滅時効を援用する。
なお,被告県において,恩寵園ないし被告Zに対する監督権限を適切に
行使せずに,原告らに対する人権侵害を放置し,本件損害賠償請求権を行
使する原告らの能力が涵養されるのを妨げたことなどなく,また原告K及
び同原告の親権者たるLが本件損害賠償請求権を行使できなかった事由な
どは何ら存しないのであるから,被告県による消滅時効の援用は権利濫用
とはならない。
イ原告Kについて
(ア)原告Kの請求原因にかかる不法行為は,昭和63年2月から平成
2年4月までの間に関するものであるところ,Lは,同原告が在園中か
ら,本件請求原因等について同原告から聞かされたうえ,同原告は,平
成2年5月31日に入所措置が解除され,家庭引取りとなったのである
から,Lは,遅くとも平成2年5月31日の直後に原告Kの本件請求原
因にかかる損害及び加害者を知ったといえるから,同原告の本件損害賠
償請求権は,同日から3年を経過した平成5年5月31日には,時効に
より消滅している。
(イ)仮に平成5年5月31日に消滅時効が完成していないとしても,
原告Kは,平成9年2月20日に成人に達しているのであるから,同原
告の本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成12年2月2
0日には,時効により消滅している。
ウ原告Jについて
原告Jの請求原因にかかる不法行為は,昭和63年2月から平成6年5
月までの間に関するものであるところ,Lは,面会等に際して,本件請求
原因等につき,同原告及び原告Kから聞かされたうえ,原告Jが,平成6
年5月9日に恩寵園から無断外出してLの元に帰ったことからすると,L
は,遅くとも平成6年5月9日ころには原告Jの本件請求原因にかかる損
害及び加害者を知ったといえるから,同原告の本件損害賠償請求権は,同
日から3年を経過した平成9年5月9日ころには,時効により消滅してい
る。
エ原告I及び同Hについて
原告I及び同Hの請求原因にかかる不法行為は,平成4年4月から平成
7年3月までの間に関するものであり,原告Hの請求原因にかかる不法行
為にかかる不法行為は,平成元年4月から平成8年5月までの間に関する
ものであるところ,Lは,同原告らが在園中から,本件請求原因等につい
,,て同原告ら及び原告Kないし同Jから聞かされたうえ原告I及び同Hは
平成8年5月24日に入所措置が解除され,家庭引取りとなったのである
から,Lは,遅くとも平成8年5月24日ころには同原告らの本件請求原
因にかかる損害及び加害者を知ったといえるから,同原告らの本件損害賠
償請求権は,同日から3年を経過した平成11年5月24日ころには,時
効により消滅している。
【原告らの主張】
ア以下の理由から,原告らの本件損害賠償請求権の消滅時効は,平成12
年1月27日から進行し,仮にそれ以前に進行を開始したとしても,平成
11年5月13日ころを遡ることはない。
(ア)原告ら全員について
aすなわち,民法724条前段の消滅時効が進行するためには,加害
者の行為が違法なものであること及びそれによって損害が発生したこ
との双方を被害者が知らなければならないと解されるところ,原告ら
にとって恩寵園は家庭の場であり,他の子が虐待を受けるのを見聞き
して育ったこと等から,他の処遇があるとは想像できず,また,恩寵
園での生活は,被告Zにより権利意識及び人格的誇りを持たせられな
いものであったこと,児相等に虐待を訴えたにもかかわらず,いずれ
の公的機関の大人からも助けを得られなかったこと等から,原告らに
は被告Zによる虐待行為が違法行為であると認識するすべがなかっ
た。
bまた,同条の『加害者ヲ知リタル時(ただし平成16年12月1』
日法律第147号による改正前のもの。上記改正後の同条「加害者を
知った時)の解釈につき,最高裁昭和45年(オ)第628号同」。
48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁
は「加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況のもとに,そ,
の可能な程度にこれを知ったときを意味するのが相当である」旨判示
し,また被害者の職業・地位・教育等から権利を行使することを期待
ないし要求することができるときと解する有力学説及び下級審裁判例
もある。そうすると,消滅時効の起算点は,当該被害者が損害賠償請
求訴訟を現実に提起することの困難な状況にあるかどうかを踏まえて
決するべきであるところ,児童養護施設という閉鎖的な場所で,父親
代わりの施設長から日常的に体罰等を繰り返され,かつ児相職員に虐
待の事実を訴えても何ら対応してもらえなかった原告らには,被告Z
を訴える方法があるとは考えも及ばなかった。
cさらに原告らは,今日まで被告Zに対し強い恐怖心を抱いており,
原告らがかかる恐怖心を克服して訴訟を提起するのは,裁判所によっ
て被告Zの行為の違法性が認められて初めて可能になったというべき
である。
d以上からすると,原告らは,千葉県知事を被告とした住民訴訟(千
葉地裁平成9年(行ウ)第71号)において,被告Zの行為の違法性
を認定した判決が言い渡された平成12年1月27日になって初めて
確定的に損害賠償請求ができる旨認識できたというべきであり,原告
らの本件損害賠償請求権の消滅時効は,同日から進行すると解すべき
である。仮にそれ以前に進行が開始するとしても,原告らは,平成1
1年5月13日に,上記住民訴訟において原告らのうちの1人が証人
尋問されたことを契機として,自分達が被告Zから受けてきた行為を
批判的に話し合えるようになり,これによってその行為の違法性を漫
然と認識するに至ったのであるから,上記消滅時効の起算点が同日よ
り遡ることはない。
(イ)原告Kについて
原告Kについても,確かに本訴提起は同原告が成人に達した時から3
年経過後であるが,上記(ア)のとおり,同原告の請求原因にかかる被
告Zの各行為が違法である旨の認識を持ち得ない生活を強いられてきた
ことにより,措置解除後及び成人後も上記違法性の認識を持ち得なかっ
たのであるから,同原告の本訴請求権の消滅時効起算点も他の原告らと
同様である。
(ウ)Lについて
また,原告Hらの親権者たるLは,子の養育能力に著しく欠け,その
ために原告Hらを児童養護施設に措置するよう行政機関が働きかけたよ
うな人物であり,法が予定するような親権者としての権利行使を期待で
きる人物ではない。また,Lが被告Zの暴力を児相に訴えても,児相は
被告Zの行為を問題としなかったこと,児童養護施設に子を預けている
親としても引け目があったことから,被告Zの本件各行為につき損害賠
。,()償請求が可能とは考えていなかったしたがって原告Hらが上記ア
のとおり損害賠償の可能性を認識するまで,Lの法定代理人としての権
利行使についても,消滅時効は進行しないというべきである。
イ時効援用権の濫用等
(ア)被告Z及び被告恩寵園の消滅時効の主張に対し
,,,原告らは在園中に被告Zから虐待を受けまた児相に助けを求めても
被告恩寵園及び被告県から適切な対応が採られず,措置変更ないし措置解
除の処遇を受けただけであったため,本件各行為につき,誰に何を訴えて
も何も解決されず,自分たちが施設から追い出されるだけであるとの思い
を持たざるを得なかった。
また,原告らは社会的弱者であって,かつ自己の権利を主張する能力を
涵養されなかったが,これは被告Z及び被告恩寵園における処遇によって
殊更に上記能力の涵養を阻害されたためである。
したがって,原告らが本訴提起まで本件損害賠償請求権を行使しなかっ
たのは,もっぱら被告らの側の責めに帰すべき事由によるものであり,本
訴各請求債権を時効によって消滅させることは,著しく正義,公平及び条
理に反すると認められる特段の事情があるのであって,本件における被告
Z及び被告恩寵園の時効援用権の行使は権利の濫用として許されず,時効
理論援用の主張も認められるべきでない。
(イ)被告県の消滅時効の主張に対し
原告Kは,上記(ア)に述べた事由により,成人後も本訴請求にかかる
権利行使をなしえなかったものであるが,加えて,被告県は,以下のとお
り,成人後の原告K及びLによる権利行使を著しく困難にさせた。
すなわち,公的機関である県に対する権利行使は通常の成人にとってさ
え困難であるところ,被告県は,本件各行為を含む被告Zの体罰等を認識
していたにもかかわらず,恩寵園全体の問題として対処せず,被告Zの退
職勧告についても,それによって被告Zが恩寵園の廃園を言い出すことを
警戒して行わなかった等,必要な監督権限を発動せずに放置したことで,
被告Zの体罰等を継続させ,原告K及びLに権利救済の希望を失わせ,権
利行使能力涵養を阻害した。
したがって,被告県の本件における消滅時効の援用は,権利の濫用とし
て許されない。
なお,被告県による消滅時効の主張は,最終準備書面で追加されたもの
であるから,時機に遅れた主張である。
第3当裁判所の判断
1争点1(被告Zによる不法行為の有無及び損害)について
(1)原告A
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない。
(ア)主として在園時の事実
a(a)原告らの在園中,園には,深さ約112センチメートル,幅
約73センチメートル程度の麻袋が数枚あり,廃棄物の収集や運動
会の競技等に使われていたが,本来米を入れるような丈夫なもので
あった。
(b)原告らの在園中,園庭には大人の身長を超えるような高さの
木が多数生えており,また,園の道路を挟んで反対側には,小学校
があったところ,その小学校のフェンスと,園の外柵とは,上記道
路を挟んで向かい合っており,上記外柵周辺にも,上記のような木
が複数生えていた。
(c)被告Zは,原告Aが6歳くらいで,小学校に上がる前くらい
のころ(昭和62年6月ころから昭和63年3月ころ,同原告が)
,,,廊下を走った等の理由から同原告を上記麻袋に入れその麻袋を
園庭の木や,上記小学校のフェンスに面した外柵周辺につるしたこ
とが複数回あった。なお,このころの原告Aの身長は約112セン
チメートル,体重は約17キログラムであった。
b被告Zは,原告Aの幼児期から小学校低学年ころまでの間(昭和5
9年ころから平成2年3月ころまでの間,園内の廊下を走った等の)
理由で,同原告を膝の上に押さえつけ,同原告の尻を叩いた。
c(a)原告らの在園中,園内には,大型乾燥機が設置されている部
屋があったが,その部屋は,電気を点けずに出入口のドアを閉める
と,光が入らず,真っ暗になった。
b被告Zは原告Aの幼児期から小学校低学年ころまでの間昭(),(
和59年ころから平成2年3月ころまでの間,同原告を乾燥機部)
屋に入れ,電気を点けずに出入口のドアを閉め,外から上記ドアを
どんどんと叩き,同原告が「出して,出して」等と言って泣き叫。
んだにもかかわらず,同原告が失神しそうに感じるまで,上記行為
を止めなかった。
d被告Zは,原告Aが小学校低学年のころ(昭和63年4月から平成
2年3月ころ,同原告に対し,正座をするよう指示し,数時間その)
指示を解かず,その間,食事の時間が来ても,食事をすることを許さ
なかった。
e(a)原告らの在園中,園においては,上半身の着衣の袖は手首よ
りも上になければならないとの決まりがあった。
(b)原告Aが小学校5年生のころ(平成4年4月から平成5年ⅰ
3月ころ,食事の後に,着衣の袖が手首より下にくる状態とな)
ったことがあった。
これを見た被告Zは,同原告を園長室に呼ぶと,上記着衣を脱ⅱ
ぐか,袖を切るかいずれか選ぶよう申し向け,同原告がどうすべ
きか迷っていたところ,上記着衣の袖を刃物で切った。
同原告は,被告Zが袖を切り出したため,あわてて上記着衣をⅲ
脱いで被告Zに渡し,上半身は下着だけ着けた状態で自己の居室
まで戻ったが,上記着衣はその後着用できないものとなった。
()f原告Aが小学校4年生のころ平成3年4月から平成4年3月ころ
の朝方,気に入った服を3日間くらい続けて着ていたところ,被告Z
がこれに立腹し「お前は乞食か」等と言って,その着衣を取り上,。
げたうえ,他の服も没収した。
,,,そのため同原告はその日学校に行くことができずその日の夕方
保母によって服が同原告の下に戻されるまでの間,下着のみを着けた
状態で過ごすこととなった。
g(a)原告Aが小学校2年生だった平成元年4月,園の風呂場で同
原告と別の女児が遊んでおり,その中で別の女児が同原告の手を引
。,,っ張ったこれによって同原告は左腕に非常に大きな痛みを感じ
被告Zにその痛みを何度か訴えたにもかかわらず,被告Zは,同原
告を病院に連れて行かなかった。
(b)翌日になっても上記痛みが消えず,同原告が痛がっていたと
ころ,他の園児が保母にそれを告げたこと等から,同原告はようや
く病院に連れて行ってもらい,病院において添え木等の処置を施さ
れた。
h(a)原告らの在園中,少なくとも平成7年12月までの間,園児
らは,学校から学期末に受け取った通知表を,終業式の日に被告Z
のところへ持参し,見せることとなっていた。
(b)園児らが通知表を被告Zに見せる際,通知表を開き,文字が
被告Zから読める方向に向けて被告Zに差し出さなければならない
とされていた。
しかるに,原告Aが,小学校1年生の1学期末から中学校2年生
の2学期末までの間(昭和63年7月から平成7年12月までの
間,通知表を見せる際,方向等を間違えて被告Zに差し出したと)
,,,。ころ被告Zは同原告の通知表を取り床に放ったことがあった
(c)また,同原告が小学校1年生の1学期末から中学校2年生の
1学期末までの間(昭和63年7月から平成7年7月までの間,)
通知表を被告Zに見せた際,成績が悪いとの理由で,同原告の頭に
,,そろばんを押しつけそろばんの珠を数回こすりつけたことがあり
また同じ理由で長時間同原告を立たせておくこともあった。
i(a)原告Aが,平成9年4月4日,当時園においては,幼児の面
倒を見るために幼児の居室に入ることは許されていたため,幼児の
居室で幼児の面倒をみていたところ,被告Zは「部屋から出て行,
け」等と言って,原告Aの腰周辺を足で押し出すように蹴った。。
(b)これに対し,同原告が,幼児の面倒を見る人がいないから見
ていた旨述べると,被告Zは,同原告に対し「そんなに幼児の部,
屋にいたいのなら,幼児の部屋になれ」等と言った。。
j(a)平成9年4月のある日,午後7時ころに原告Aの友人ら数名
,,,,「。」が原告Aを訪ねて園に来たが被告Zが上記友人らに帰れ
と言ったため,上記友人らは帰ろうとした。その後被告Zが原告A
に対し,上記友人らとの交友関係につき説教をしていたところ,上
記友人らが戻ってきて,自分たちが勝手に来たのだから怒らないよ
う言うなどし,被告Zとの間で言い合いとなったため,原告Aは,
上記友人らに,帰るよう促した。
(b)そして原告Aが,被告Zに,上記友人らを送ってくる旨告げ
たところ,被告Zは,同原告に対し「外へ出たら高校を辞めさせ,
る」と言った。
それでも原告Aは,上記友人らを送り,その後園に戻ってきた。
k(a)原告Aは,高校生になって以降,園の電話機で30分程度の
話をすることがあり,電話機を使用する回数は,他の園児らよりも
多かった。
(b)平成9年4月17日,原告Aが,園の保母室の電話機で友人
と話をしていている最中に,他の園児あてにキャッチホンが入った
ため,上記保母室の電話をその園児に譲り,自分は,別室に設置さ
れていた他の電話機を使用した。
(c)上記別室の電話機は,緊急用に設置されていたもので,通常
園児らの使用は禁止されているところ,原告Aは,通話が重なった
場合には上記電話機を使用してもよいとの認識のもと,上記電話機
を使用したものであるが,これに対し,被告Zは「何で使った」,。
と怒鳴り,同原告の頭を平手で叩いた。
(d)原告Aは,上記(c)の被告Zの行為に立腹しつつ,自己の
居室に戻った。
l原告Aは,在園中の小学校3年生ころ(平成2年ころ)から,刃物
を持つと,自分の手を切りたくなる衝動に駆られるようになり,実際
に切ったこともあって,そのときには,切って血が出ると安心すると
いう心理状態となり,このような習癖は,同原告が高校1年生のころ
(平成9年ころ)まで続いた。
(イ)退園時ないし退園後の状況
a平成8年4月3日から5日にかけて,原告ら6名を含む,13名の
園児らが,園から脱走し,県内の4か所の児相に駆け込んだ(本件集
団駆込み。このうち原告ら6名については,同月3日に,原告C,)
同H及び同Bが市川児相へ,同月4日に,原告Iが柏児相,原告Fが
,,,,銚子児相へ同月5日に原告D及が千葉市児相に駆け込みその後
原告Cは柏児相へ,原告Iは市川児相へ移動したが,それぞれ各児相
に保護された。
b本件集団駆込みを契機として,同月11日に,被告Zが「体罰は,
。」「。」しないとの条項を含む職員と子供たちへ次のことを約束します
と題する書面を作成したこと,園における園児らの処遇等に関し,児
相職員及び被告県児童家庭課職員による協議及び指導が行われたこ
と,これを受けて,被告Zが「指導上における体罰等の根絶」を今,
後の対策の1つとして掲げた同月30日付顛末書を県社会部に提出し
たこと,本件集団駆込み及び園児らによる被告Zの言動に関する話等
がマスコミに取り上げられたことなどもあり,被告Zが,園児らに対
し,直接肉体的苦痛を伴う懲罰等を加えることは減った。
c他方,原告Aは,本件集団駆け込みの当時,中学校3年生になって
いたが,同原告は,中学校時代,学校のバスケットボール部で,レギ
ュラーとして試合に出る等,熱心に部活動に打ち込んでいたところ,
その間,被告Zは,同原告を叱る際,上記部活動をやめさせる等と言
うことがあった。同原告は,部活動を生き甲斐のように考えていたた
め,被告Zに部活動をやめさせられないようにということを意識して
行動していたが,中学校3年生の秋以降部活動を引退してからは,被
告Zに部活動をやめさせれられるということを心配する必要はなくな
った。
,,,,このことに加え上記bのとおり本件集団駆込み後に被告Zが
直接肉体的苦痛を伴う懲罰等を加えることが減ったことや,翌平成9
年4月には,原告A自身高校生になったこともあって,同原告は,こ
れまで被告Z等の目が怖くて遊べなかった分,高校1年生の間は遊び
たいと思うようになった。そして,同年の5月ころから,原告Aは,
繰り返し無断外出,無断外泊ををしたり,園外の友人を園の居室に入
れたりするようになり,また外出時の帰園時刻も午後7時ないし8時
過ぎと遅くなり,外出中に万引きをすることもあった。
d(a)園においては,原告Aによる上記c記載のような問題行動等
に対し,適切な指導方法を見いだせず,平成9年5月以降,児相に
相談したり,同年7月には,児相で一時保護させるべく同原告を市
川児相に連れて行ったりしていたが,同年8月15日,原告Aは,
万引きで補導されたことを契機に,市川児相で一時保護されること
となった。
(b)上記一時保護中の同月25日,市川児相においてケースワー
カーとの面接が行われ,その際,原告Aは,上記ケースワーカーよ
り,今は園の決まりに従って生活するか,父親と暮らすしかない旨
告げられた。これに対し,同原告が,里親を探して引き取ってもら
いたい,父親はすぐ暴力をふるう等と答えたところ,上記ケースワ
ーカーは,同原告に対し,里親引取りは困難であり,父親と暮らす
のが嫌だと言っても園でやっていけなければそれしか方法はなく,
よく考えるように等と告げた。
(c)他方,園においても,上記一時保護終了後に再び原告Aの受
入れを継続するかにつき,確定的な意思を決しかねている状態であ
った。
また,このころ園においては,原告Aに対する指導につき,外部
にどのように伝わるかを気づかって躊躇するところもあり,同年9
月5日に,市川児相職員と被告Z外3名の園職員との間で,同原告
への指導方針等につき話合いが持たれた際にも,園側は,児相の提
言ないし処遇方針を受け入れる余裕のない状況であった。
e(a)結局同年9月8日,上記一時保護は終了し,原告Aは園に戻
ったが,帰園後も,無断外出をする,消灯時刻後も電話をする等,
園における生活習慣の枠組みから外れる行動があり,これらに対し
園職員が注意を与えるも,上記のような行動がなくならなかった。
そのため,平成10年1月15日の園職員らによるグループ会議
では,原告Aの行動が年下の園児に与える影響等の観点からも,同
原告を園で受け入れ続けるのは困難であり,児相に相談のうえ,同
原告が高校2年生になる同年4月までに,措置解除を含めた最終的
な措置に関する園としての意思を決定しなければならないとの議論
がなされた。
(b)その後,同月23日,市川児相の職員らが園を訪問し,原告
Aと面接した際,上記職員らは,同原告が施設を出ようか迷ってい
る旨述べたのに対し,園の規則に従うことなく自由に生活したけれ
,。ば施設を出るしかないので1か月後までに結論を出すよう伝えた
また同日,上記職員らが園の職員らと面接した際,被告Zは,同原
告の無断外出等に対し厳しく指導すれば,また自分たちが外部から
攻撃されるので,指導の限界である等述べたり,園として,上記1
か月後では期間が長すぎるためその間児相で一時保護するよう要請
したりした。これに対し,児相側は,園として同原告に対し何がで
きるかを検討するよう申し向けるとともに,その具体策が出てこな
い場合には指導困難との施設長意見を出せば受け付ける旨伝えた。
(c)それから1か月後の同年2月24日,原告A及び園職員らが
,,,市川児相を訪問した際同原告は同児相の職員との面接において
園に残ることにする旨述べた。これに対し,上記児相職員らは,同
原告に対し,自分で決めたから残れるものではなく,園でやってい
くには今まで以上の努力が必要であり,これが最後のチャンスであ
る旨伝え,また園職員らに対しては,同原告の上記決意を伝えた。
これに対し,園側は,これが最後であるとの条件で同原告の希望
を受け入れるが,指導困難と判断した場合には,直ちに施設長意見
を提出する旨述べた。
f(a)上記のような経緯の後,平成10年3月23日,被告Zは,
原告Aにつき,措置解除の意見書を市川児相に提出し,同原告は,
平成10年3月27日付けで,措置解除となった。
,,「,,なお上記意見書には本児非社会的・反社会的行動が多く
処遇計画策定について貴所に指導を受けていたところですが,今後
についても反省し,改善していく意欲に乏しく,また本園における
本児の行動が年下児に与える悪影響が強いため,本児の措置解除を
お願い致します」との記載がある。。
(b)原告Aは,同日市川児相に一時保護のため入所したが,退園
する約30分前まで措置解除の事実や同日退園する事実を知らされ
ておらず,その前日に,保母から,今後も園で生活することを前提
とした励ましを受け,同原告もそれに応えるべく決意を話したりし
ていたために,突然上記事実等を知らされたことに納得できなかっ
た。
(),,,,ga同日市川児相の職員が原告Aに対し今後の処遇につき
自立援助ホームに行くこと,自立支援寮に行くこと及び家庭引取り
の3つの方法があることを説明したところ,同原告は,家に帰るこ
と以外は考えていない旨述べた。
(b)原告Aの母親は,同原告が生まれてまもなく死亡したため,
家庭引取りとなった場合,同原告を引き取るのは父親のみであった
が,同原告の父は,園の所在地と同じ市内に,同原告の母親名義の
一戸建家屋を自宅として有していたものの,この当時の収入は公的
年金のみであり,自身は知人宅に同居させてもらい,上記家屋には
ほとんど帰らずに,上記知人に生活の面倒を見てもらっている状態
であった。同原告の父は,同原告を引き取る意思はあるものの,上
記のような生活状況及び自身の体調不良等の理由から,同原告を引
き取ることに必ずしも積極的ではなく,同原告の姉も,同原告を父
親と生活させることに必ずしも賛成していなかった。
また,同原告の父は,同原告の在園中,同原告へ面会に来ること
も他の園児らの親に比べると少なく,同原告は,児相の職員に,父
親は他人である旨話すこともあった。
(c)児相としては,上記父親の観護指導能力や,同原告が父親と
の生活に順応できるかにつき不安があったため,同原告に対し,自
立支援寮の見学だけでもするように説得した。
,,,これに対し同原告は県内の自立支援寮の見学に行ったものの
家庭復帰の意思は変わらず,平成10年4月3日付けで家庭引取り
となった。
h(a)同日,原告Aの父は,同原告を市川児相に迎えに行った後,
前記知人宅に連れて行き,翌日,前記家屋に連れて行ったが,生活
費を置いて立ち去り,その後同原告と同居することはなく,同原告
とともに上記家屋に泊まることは一度もなかった。
同原告が入居した時点で,上記家屋は,玄関の引き戸が壊れそう
で,内部は床板が剥がれ,壁が落ちており,ガスは使えずに湯が沸
かせない状態であった。同原告の友人らや上記父の知人等が掃除を
したり生活用品を揃えたりして,生活できるよう助力をしたが,1
週間後に児相職員が様子を見に行ったときには,同原告は生活が辛
そうな様子で,家庭引取り後は,高校にも1日しか登校していなか
った。
(b)その後,同原告が1人暮らしの状態となったために,上記家
屋には,同原告の友人を始め,不特定多数の人物が昼夜を問わず出
入りするようになった。その中には,上記家屋に覚せい剤やシンナ
ーを持ち込む者もおり,同原告がそれを使用する状況となったこと
もあった。そして平成10年8月ころには,玄関の戸が壊れ,鍵が
かからなくなり,父親がそれを放置したこともあって,同年9月末
ころには,不穏な人物が出入りするとの理由で同原告自身上記家屋
にいることを恐れるような状態となり,高校の先生や友人宅に泊ま
らせてもらうよう頼んだり,同年10月には,身柄の安全確保を理
由に,児相へ一時保護を要請したりする状況となった。
また,家計も不安定で,同原告は,同原告の父が時々渡す生活費
では生活を賄うことができず,高校の先生が上記家屋を訪問した際
,,,に同原告がトイレットぺーパーが買えないと言ったこともあり
父親の口座から同原告の高校で必要な積立金が引き落とせないこと
もあった。このような家計の状態から,同原告は,居酒屋でのアル
バイトを始めたが,いわゆる援助交際によって金銭を得ることもあ
った。
(c)同原告は,上記(b)のような劣悪な環境的・経済的状況ⅰ
に置かれたうえ,2歳から生活していた園において,通常の生活
を営むために必要な知識及び能力が培われなかったために,安定
的な家庭生活をすることができなかった。このように,家庭での
生活状況が不安定だったことに加え,園に比べ,上記家屋が高校
から遠く,通学に時間がかかるようになったこともあって,家庭
引取りとなった同年4月以降,ほとんど高校へ登校しなくなり,
平成10年9月下旬には,出席日数不足を理由に,留年が確定的
となった。
このような状況から,高校としても同原告に,退学して就職す
ることを勧め,同原告もかかる意思を固めていき,同年10月1
3日付けで,高校を退学し,その後就職活動を行った。
それまでの間,児相職員及び高校の教諭において,同原告の父ⅱ
に対し,同原告の監護につき注意を与え,就職活動にも協力する
よう要請してきたが,同原告の父は,同原告の生活及び将来を心
配する様子もなかった。そして,その後も,同原告の父が,ガス
料金の支払を滞納したため,同年11月には上記家屋へのガスの
供給が止まったり,同年12月には,上記家屋の玄関のガラスが
割れ,木枠も朽ちて戸締まりができず,同原告が恐くて寝ていら
れない状態であったため,児相から父親に修繕するよう言うも,
父親が放置したため,上記家屋内が荒らされたりした。
i原告Aは,就職も容易に決まらず,その後も上記家屋に居住してい
,,,たが市民グループ等の支援もありその後自立援助ホーム等に移り
定職にも就いて,自立援助ホーム等を退所後は,自活するようになっ
た。
イ事実認定の補足説明
(ア)被告Zは,上記ア(ア)aの認定事実に関し,請求原因事実を否
認し,本人尋問及び陳述書においてもこれに沿う供述及び記載をする。
a被告Zが,麻袋に原告らを入れてつるしたとの事実は,原告Cの請
求原因事実にもなっているところ,被告Zは,原告Cとの関係でも,
上記事実を否認し,本人尋問において,園児らを麻袋に入れてつるし
たことはない旨の供述をするため,まず被告Zが,園児らを麻袋に入
れて,いずれかの場所につるしたことがあったかにつき,ここで検討
する。
(a)証拠によれば,原告らの在園中,園児らが,麻袋に入れられ
,。て木などにつるされていたことが複数回あった事実が認められる
この点,甲58の(5)の(2)には,誰にやられたか分からな
い旨の記載があり,上記事実が殊更に被告Zに不利な事実としては
記載されていないことからしても,同書証の記載内容は信用できる
ところ,原告E本人の供述も同旨のものであるし,また,証人Mは
麻袋に入れられていた園児の名前等につき,覚えていることとそう
でないことを明確に区別して証言していること,原告I本人は,目
撃したときの状況等の供述が具体的であること等から,これらの証
言及び供述も信用できる。
(b)上記(a)の認定事実に加え,証拠によれば,被告Zが,園
児らを麻袋に入れて,木などにつるしたことがあった事実が認めら
れる。
(),,,ことに丁32の2によれば原告Hが平成8年4月12日
市川児相において,被告Zに対し,麻袋に入れたりするのはやめて
ほしい旨訴え,これに対し被告Zが反論していない事実が認められ
ることからすると,被告Z自身が園児らを麻袋に入れて,園内のい
。,ずれかの場所につるしたことがあった事実は明らかといえるなお
被告Zは,本人尋問において,上記市川児相におけるやりとり全般
につき,後ろ向きにされて質問を受けていたので反論できなかった
旨供述するが,そもそも被告Zが園児らを麻袋に入れてつるしてい
なければ,原告Hにおいてかかる訴えをすること自体考えられない
のであるから,かかる反論は採用できない。
(c)以上のとおり,被告Zが園児らを麻袋に入れて,木などにつ
るしたことがあった事実は明らかであり,この認定に反する証拠は
採用できない。
b次に被告Zは,本人尋問及び陳述書において,本項の請求原因事実
を否認する旨の供述及び記載をするのに加え,原告Aが,訴状におい
て,つるされた場所につき「近くの道路に接する小学校のフェンス,
等」と記載していることに関し,子供はつるされておとなしくしてい
ないのに,小学校のフェンスという外部の人の目に付くところにつる
すことはありえない旨主張及び反証するため,原告Aがつるされたと
する場所につき検討する。
(a)まず,原告Aは,本人尋問及び陳述書において,小学校のフ
ェンスになっているところの塀につるされた旨供述ないし記載す
る。
この点,上記供述及び記載からは,具体的に何につるされたか明
確でなく,乙46から認められる小学校の場所及びフェンスの形状
からすると,上記小学校のフェンス自体に麻袋をつるすことは困難
と思える。しかし一方で,同証拠によれば,そのフェンス近くの園
内の柵ないしその周辺の木に麻袋をつるすことは可能と認められ
。,()(),,る加えて甲58の5の2には園児が麻袋に入れられ
小学校のフェンスにつるされていたのを目撃した旨の,他のもと園
児による記載があるところ,同書証は,中に入れられていた園児及
び誰がつるしたかは分からない旨の記載もあることから,殊更に被
告Zに不利な記載をしようとしたものではなく,信用できる。
そうすると,原告Aが,本人尋問において,どのようにつるされ
たかは自分は麻袋の中であるから分からない旨供述するように,具
体的に,何に,どのようにつるされたかは分からなくても,幼児期
の記憶として,何かの出来事の際目に映った周囲の景色等から,そ
の出来事が起こった場所を印象として覚えているということがまま
あることに鑑みても,少なくとも小学校のフェンス側の園外柵周辺
につるされたという限度では同原告の上記供述及び陳述書の記載は
信用するに足りるというべきである。
また,原告C及び原告Hが本人尋問で供述するとおり,子供が麻
袋に入れられ,つるされても,動くと落ちそうで怖い,他の罰より
ましである等の理由から,おとなしくしていることも十分考えられ
るのであるから,被告Zの上記反論は採用できない。
(b)また原告Aは,本人尋問及び陳述書において,庭の木につる
された旨供述ないし記載するが,証拠によれば,原告Aが,平成8
年5月6日に行われた被告県児童家庭課の職員との面接において,
被告Zに木につるされた旨訴えた事実,及び原告Aに限らず,少な
くとも園の中庭の木に麻袋に入れてつるされていた園児がいた事実
が認められることからも,原告Aの上記供述及び陳述書の記載は信
用できる。
c上記a及びbに照らせば,上記ア(ア)aの認定に反する被告Zの
供述及び陳述書の記載は信用できず,他に上記認定を覆すに足りる証
拠はない。
(イ)原告Aは,請求原因事実として,被告Zにしばしば尻を50回以
上たたかれ,そのために同原告の尻には青あざが絶えなかった旨主張す
る。
しかし,証拠によれば,保母らが原告Aを含めた園児らの尻を数十回
ないし100回程度たたくことがたびたびあり,これらによって園児ら
の尻に内出血のあざができていた事実が認められる反面,被告Zが上記
,()のような回数園児らの尻を叩いたことを示唆する証拠は甲58の1
の(2)を除いて見当たらない。かつ,同書証についても,そこに記載
されている叩かれた回数については,被告Zによるものか保母らによる
ものか明らかでなく,原告A自身の陳述書にも,上記請求原因事実は,
職員や保母らによってやられた旨の記載がある。
そうすると,上記請求原因事実については,上記ア(ア)bの限度で
認めることができ,他の部分についてはこれを認めるに足りる証拠はな
い。
また,被告Zは,上記請求原因事実を否認するも,同原告の陳述書に
は尻を叩いたこと自体は認める記載があるうえ,丁16によれば園児ら
を膝に抱いて尻を叩いたことは本訴提起前に認めている事実が認められ
るのであり,本件全証拠によっても,上記ア(ア)bの認定を覆すに足
りない。
(ウ)被告Zは,上記認定事実ア(ア)cにかかる請求原因事実を否認
する。
,,,,しかし証拠によれば園において園児らを乾燥機部屋に閉じこめ
部屋の外からそのドアを叩くということが,園児らに対する懲罰として
行われていた事実が認められる。また,丁16によれば,本訴提起前に
県によって行われた園児及び被告Zに対する聴聞において,被告Zまた
は職員に乾燥機部屋に閉じこめられた旨訴えた園児が3人いた事実及び
これに対し被告Zが,園児らが乾燥機部屋で遊んでいる時に「閉めちゃ
うぞ」と言ったことはある限度で認めていた事実が認められる。これら
,()に照らせば被告Zが上記行為を行った旨の原告Aによる甲58の1
の(2)の記載は信用できる。
これに対し,被告Zは,本人尋問及び陳述書においても,自己が園児
らを乾燥機部屋に入れた事実を否認する供述ないし記載をしておらず,
上記ア(ア)cの認定を覆すに足りる証拠はない。
(),()。エ被告Zは上記認定事実アアdにかかる請求原因を否認する
a本件における複数の原告らが,被告Zが長時間,あるいは複数日に
わたって正座させた事実及び正座させられている間食事を取ることを
許さなかった事実を請求原因としているところ,被告Zは,かかる請
求原因事実をすべて否認する旨主張するため,以下で上記各事実につ
き検討する。
(a)証拠によれば,被告Zが,相当の頻度で園児らに正座を指ⅰ
示していたことは明らかである。
そして,その時間の長さについてであるが,複数の原告らが,
本人尋問ないし陳述書において,被告Zに正座を命じられ,途中
多少の中断はあったとしても,そのまま居室に戻ることなく,複
数の日にまたがって,その場に座り続けることを余儀なくされた
ことを体験ないし目撃した旨の供述ないし記載をしている。
また,平成12年2月に,被告県が園児らに対し聞取調査を行ⅱ
った際に,原告ら以外の園児を含む複数の園児らが,被告Zに,
複数日にわたり正座させられた旨述べた事実が認められる。さら
に,証拠によれば,被告Zが園児らを複数日にわたり正座させて
いる旨園の保母らも認識し,それを問題視していた事実が認めら
れる(なお,被告Zは,証人Mの属人的な事柄を挙げ,被告Zに
,,敵対し信用性がないかのような主張及び供述を縷々しているが
同証人の証言は,原告らの請求原因事実についても分からないこ
とは分からないと述べ,原告らの供述内容についても,自己があ
り得ないと考えることについては,そのとおり述べていることか
ら,いずれも信用できるものである。。)
これらの事実に照らせば,上記の供述及び陳述書の記載は,ⅰ
いずれも信用するに足りる。
したがって,原告らの在園中,被告Zが園児らに正座するようⅲ
,,,,指示しこれによって園児らが多少の中断はあったとしても
長時間その場に座り続けるということが相当の頻度であり,それ
が複数の日にまたがることもしばしばあった事実は明らかであ
る。
なお,本件全証拠によっても,被告Zが,長時間に及ぶ正座のⅳ
終期を具体的に明示して正座するよう指示したとは認められな
い。しかし,一方で短時間であれ具体的な終期を明示したうえで
正座を指示した事実も認められないのであり,証拠及び弁論の全
趣旨によれば,被告Zにより正座を指示された園児らは,被告Z
あるいは園の職員から,正座を止めてよい旨の指示がない以上,
自由にその場を離れることはできない心理的強制下に置かれてい
た事実が認められる。そうである以上,具体的に被告Zがその終
期を指示しなかったとしても,被告Zの指示によって開始した正
座が,複数の日にまたがる等,長時間に及んだ場合には,その全
体が,被告Zの指示によるものと評価するのが相当である。
(b)また,証拠によれば,園児らが被告Zに正座を命じられてい
る間は,少なくとも被告Zの目につく場所や時間帯には食事をする
ことができなかった事実,保母らが正座を命じられている園児らの
食事を準備し,被告Zの目に付かぬよう,調理室または正座をして
いる廊下で食べさせることがあった事実が認められる。
そしてこれらの事実からすると,被告Zは,園児らが被告Zによ
り正座を命じられている間は,食事を取ることを許さなかったと認
めるのが相当である。
b以上からすれば,上記ア(ア)dに関する原告Aの本人尋問におけ
る供述及び陳述書の記載はいずれも信用でき,同項の認定に反する証
拠は採用できない。
(オ)被告Zは,上記ア(ア)eにかかる請求原因事実を否認し,同被
告本人尋問においても,園児らの服を切ったことは一度もない旨供述す
るが,証拠によれば,被告Z自身,園児の服の袖を切ったことを認めて
,,()いたことは明らかであるから上記供述は信用できず他に上記アア
eの認定を覆すに足りる証拠はない。
(カ)被告Zは,上記ア(ア)fにかかる請求原因事実を否認するも,
この認定を覆すに足りる証拠はない。
(キ)被告Zは,上記ア(ア)gにかかる請求原因事実を否認するも,
この認定を覆すに足りる証拠はない。
(ク)被告Zは,上記ア(ア)h(b)及び(c)にかかる請求原因事
実を否認するも,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(),()(),ケ被告Zは上記アアiaにかかる請求原因事実を否認し
,,同被告本人尋問においてもこれを否認する旨供述するが主張において
足で押し出して退室を促した旨は認めており,乙26にもこれに沿う記
載があることに照らすと,被告Zの上記供述によっても,上記認定を左
右するに足りず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(コ)被告Zは,上記ア(ア)j(b)にかかる請求原因事実を否認す
るも,上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(サ)被告Zは,上記ア(ア)k(c)にかかる請求原因事実を否認す
るも,上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(シ)なお,原告Aは,請求原因として,被告Zが同原告を熱い風呂に
入れ,100秒浸っているように指示し,同原告がくらくらになっても
出ることを許さなかった旨主張する(前記第2の3(1【原告らの主)
張】ア(ア)d。しかし,本件全証拠によっても,被告Zにおいてか)
かる行為を行った事実は認めるに足りない。
ウ本争点に関する被告Zの主張イ,エ及びオについて
以上の被告Zによる行為の違法性を判断するに先立ち,被告Zは,原告
らによる不法行為の主張に関し,民訴法133条2項2号違反等を理由に
本訴請求の棄却を求めるとともに,懲戒権行使の範囲内であること及び有
形力の行使が虐待に該当しないことを理由に,違法性がない旨主張するた
め,ここでこれらの点につき,判断する。
(ア)133条2項2号違反等の主張について
a(a)被告Zは,原告らの請求原因の主張が不特定であるから,民
訴法133条2項2号及び同規則53条1項違反を理由として本訴
請求は棄却されるべきである旨主張する。
(b)一般に,民訴法133条2項2号及び同規則53条1項にⅰ
よって訴状に記載が要求されている請求原因は,請求を特定する
ために必要とされるものであり,本件のような給付請求では,請
求の趣旨において支払を求めている一定の金銭がいかなる法的性
質のものであるかを特定するためのものである。かかる機能から
すれば,その内容をどこまで具体的に記載しなければならないか
は,他との誤認混同を生じる可能性があるか否かという相対的な
問題であり,事案によって異なる。
これを本件についてみると,まず被告Zは,不法行為の行われⅱ
。,た年月日及び時間の詳細な主張が必要である旨主張するしかし
,,本件は被告Zの原告らに対する言動が問題とされる事案であり
ある一定の時期にその行為が行われたこと自体をもって請求権の
存在が相当程度判断可能な性質のものである。したがって,被告
Zの主張するような詳細な日時等が重要性を持つ事案ではなく,
本件で原告らが主張する程度の期間の特定があれば,請求原因の
特定として足りるものと認められる。
これに加え,本件の請求原因においては,行為の主体及び客体
は明確であり,場所も園内であることが明らかであるうえ,行為
の原因,態様及び結果についても,一応の主張がされていること
から,原告らが主張する程度の特定があれば,上記各規定の要求
する請求原因の主張としては足りるものと解されるのであって,
被告Zの主張するさらに詳細な行為の態様,前後関係及び結果等
は,不法行為の成否の問題として実体上の判断に際して検討すべ
き事柄である。
(c)したがって,民訴法133条2項2号及び同規則53条1項
違反をもって本訴請求を棄却すべきとの被告Zの主張は理由がな
い。
(),,baまた被告Zは仮に請求原因の特定に欠けると言えなくても
行為の前後関係の主張及び立証がされていないものについては,被
告Zに正当な反論の機会が保障されいないから,不法行為に基づく
損害賠償請求をするに足りる主張及び立証がされているとはいえ
ず,棄却されるべきである旨主張する。
(b)しかし,本件においては,前記aに述べたとおり,原告らに
よって請求を特定するに足りる主張はされているのに対し,被告Z
においてはこれに対応した反論をすることは何ら阻害されていない
のであるから,かかる双方の主張及び立証を前提に,原告らの主張
立証が不十分であるとしてその請求を棄却するかについては,当裁
判所における実体上の判断の問題であって,被告Zに反論の機会が
保障されていないということは理由とならない。
むしろ,原告らは,各行為の原因については一応の主張をしたう
えで,被告Zの言動が不法行為に当たると主張しているのであるか
ら,その行為の前後の事情からその言動が不法行為でないと争うの
であれば,それは被告Zに主張責任があるというべきである。
そして,実際上被告Zは,原告らが不法行為として主張する行為
の大部分につき,行為の前後の事情如何にかかわらず,およそかか
る行為を行っていないとの主張を行っている。またその他の行為に
ついては,原告らの主張する前後の事情を踏まえたうえで,あるい
は自ら前後の事情につき何らかの主張したうえで,自己の行為の違
法性を争うものがほとんどである。これらの被告Zの応訴態度から
すると,本件において,原告らによる行為の前後関係のの主張立証
が不十分であることによって,被告Zの反論に多大な支障が生じて
いるとは解されない。
(c)以上を総合すれば,被告Zに正当な反論の機会が保障されて
いないこと理由として請求棄却を求める被告Zの上記主張は理由が
ない。
(イ)被告Zは,児童福祉施設の長において,体罰を行うことは,懲戒
権の行使として容認されており,仮に被告Zにおいて,体罰と呼べる有
形力の行使を行ったと認められるとしても,それは,児童福祉施設の長
の懲戒権行使の範囲内のものであり,違法性がない旨主張するので,ま
ずこの点について検討する。
a法47条1項本文は「児童福祉施設の長は,入所中の児童で親権,
を行う者又は後見人のない者に対し,親権を行う者又は後見人がある
に至るまでの間,親権を行う」と定め,また同条2項は「児童福。,
祉施設の長…は,入所中…の児童で親権を行う者又は後見人のある者
についても,監護,教育及び懲戒に関し,その児童の福祉のため必要
な措置をとることができる」と定めており,児童福祉施設の長が入。
,。所中の児童に対し懲戒権を行使することは法により認められている
しかし,そもそも親権者たる父母が懲戒権の行使として行いうる行
為にも,法律上当然に限界があるところ,上記施設長の入所児童に対
する養護が,都道府県知事ないし政令指定都市の長による委託に基づ
くものであること,親権者たる父母の懲戒権が,その親権の一部とし
て認められるのと異なり,上記施設長の懲戒権は,法律によって付与
された権限であること,及び法47条2項が「児童の福祉のため」と
定めるとおり,上記施設長の懲戒権行使については,目的が明示的に
限定されていることからすると,上記施設長が懲戒権の行使として行
いうる行為の範囲は,親権者たる父母による場合よりも,更に狭いも
のと解するのが相当である。
そして,上記施設長の懲戒権の行使として適法とされる範囲につい
ては,当該施設長と児童の関係に加え,当該児童の年齢,行動,健康
及び心身の発達の状況等諸般の事情を勘案のうえ,社会通念に照らし
相当といえるかを個別に判断すべきものであるが,児童の身体に創傷
を生じさせ,又は心身の健康を害するがごとき行為は,その程度にお
いて,親権者たる父母の懲戒権行使としてすらおよそ許されるもので
はなく,また方法において児童の人格を辱める行為ないし徒に児童を
困惑させる行為等については,たとえそれが肉体的苦痛を伴うもので
なくても,社会通念に照らして不相当なものであるときは,懲戒権の
範囲を逸脱し,違法なものと評価すべきである。
bなお,被告Zは,学校の校長及び教員に懲戒権行使を認める学校教
育法11条が,但書きにおいて「体罰を加えることはできない」と。
定めるのに対し,児童福祉法47条にかかる禁止規定がないことをも
って,児童福祉施設の長には「体罰」が許されている旨主張し,被告
恩寵園もこの主張を援用する。
この点,児童福祉施設が,児童に対する一般的な養護,保護ないし
支援を目的とする施設であり,その長の懲戒権も,児童の福祉のため
に必要な措置として行うことが認められているのに対し,学校は,児
童,生徒等に対する教育を目的とした場であり,校長及び教員の懲戒
権も,明文上,教育上必要があると認められる場合に限定されている
ことからすると,法律上,児童福祉施設の長に認められる懲戒権の範
囲は,校長及び教員に認められる懲戒権の範囲に比して,広範に及ぶ
ものと解することができる。
しかし,そもそも児童福祉施設の長の懲戒権は,上記aで述べたと
おりのものであることからすると,児童福祉施設の長において,その
懲戒権の行使として体罰を加えることが許されていないのは当然であ
り,児童福祉法と学校教育法とでは,その立法趣旨も目的も異なるも
のであって,それぞれの規定する懲戒権についても,上記のとおり異
なる目的から定められたものなのであるから,学校教育法11条との
対比をもって,児童福祉施設の長に「体罰」が許されているとの被告
Zの主張は,到底採用できない。
cまた,被告Zは,平成9年6月11日法律第74号による児童福祉
法の改正によっても,同法に体罰禁止が明文化されず,上記改正に伴
い,児童福祉施設最低基準に9条の2が追加されたものの,同条等に
,,も体罰禁止が明示されていないことから上記改正法の施行前までは
児童福祉施設の長において体罰を行うことは,懲戒権の行使として許
容されており,施行後においても完全に禁止されたものとはいえない
旨主張する。
しかし,児童福祉施設の長の懲戒権が,上記aで述べたとおりのも
のであることから,当然に,その行使として体罰を加えることが許さ
れないことは上述したとおりである。上記基準9条の2の新設につい
ては,もとより児童福祉施設の長の懲戒権は,児童をその保護者に代
わって健やかに育成するために認められているものであるから,児童
に身体的苦痛を与え,その人格を辱める等の行為は許されておらず,
児童の健全な育成を図るべき施設職員によって児童が心身に外傷を負
うというようなことはあってはならないことであり,本来あり得るは
ずもないことであるにもかかわらず,入所児童に対する体罰が後を絶
たないことから,あえて規定化してこの点を明確にしたものと解する
のが相当である。
,,,したがって上記改正の前後を問わず児童福祉施設の長において
懲戒権の行使として体罰が許容されているとの解釈は,児童福祉法の
趣旨に照らし,当裁判所において到底採ることはできない。
(ウ)次に,被告Zは,児童虐待防止法2条記載の「虐待」の定義及び
程度に該当しない有形力の行使は,違法性はない旨主張する。
しかし,同法は,3条において「何人も,児童に対し,虐待をして,
はならない」と規定し,およそ児童に対し虐待行為を行うことを禁じ。
ているのであって,同法2条は「この法律において『児童虐待』と,,
は,保護者…が,その監護する児童…に対し,次に掲げる行為を行うこ
とうをいう」と規定しているとおり,同法4条以下で定める国及び地。
,「」方公共団体の責務早期発見及び通告義務等の対象としての児童虐待
の定義を明らかにするものにすぎない。
加えて,同法は,①児童に対する虐待の防止,②児童虐待の防止に関
する国及び地方公共団体の責務及び③児童虐待を受けた児童の保護のた
めの措置等を定めることにより,児童虐待の防止等に関する施策を促進
,,することを目的として民法とは別個の観点から定められたものであり
同法の規定の解釈如何によって,民法上の不法行為の範囲が画されるも
のではない。
したがって,被告Zらの上記主張は採用できない。
(),,,エなお被告恩寵園も原告らによる被告Zの不法行為の主張つき
請求原因としての特定を欠き主張自体失当である旨主張するとともに,
被告Zによる上記(イ)の主張を援用するが,被告恩寵園によるこれら
の主張に理由がないことも,上記(ア)及び(イ)に述べたとおりであ
る。
エ違法性
(),(),()ア以上を前提に判断するに前記アアacないしf及びhc
において認定した,被告Zの原告Aに対する一連の行為は,被告Zにお
いて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長
の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
(イ)この点被告Zは,前記ア(ア)aに関し,かかる行為が行われた
としても,ブランコのように揺すってあげているような情景である可能
性が高く,外形上不法行為にあたらない旨主張するも,前記ア(ア)a
に認定した事実からして,被告Zが主張する遊技に類するような情景と
は認められず,かかる行為が行われた以上,不法行為に該当するのは明
らかである。
また,被告Zは,前記ア(ア)cにつき,かかる行為が行われたとし
ても,押入に閉じこめるという類型の優しいお仕置きであり,外形上不
法行為に当たらない旨主張するが,同項に認定した被告Zの行為は,単
に子供が反省するまで暗い部屋に閉じこめるというものではなく,ドア
を外から叩き,児童が泣き叫んで許しを求めているのに止めないという
ものであるから,懲戒行為として過度なものというべきである。
さらに被告Zは,前記ア(ア)eに関し,一般論として,安全を優先
して着衣の袖先を切ることは指導の選択肢としてあり得ることであり,
外形上不法行為に当たらない旨主張する。しかし,被告Zの主張するよ
うに,安全性に配慮して,着衣の袖を手首より長い状態にしておくこと
を止めさせようとするのであれば,よほど危険が切迫しているのでない
,。限りその服を一時的に預かる等の方法を採ることができるはずである
しかるに,園内において着衣の袖を長くしておくことで,かかる切迫し
た状況に陥ること自体,容易に想定できないのであるから,上記一般論
をもってして園児の着衣の袖を切ることを正当化することはできず,被
告Zの上記主張は不合理であって採用できない。そして,本件において
も,前記ア(ア)eで認定した事実からすると,原告Aにおいて,着衣
の袖が長いことで何らかの危険が切迫した状況下に置かれていたとは認
められず,それにもかかわらず,着衣の袖を切ったことは,懲戒権の行
使として許容される限度を超え,違法である。
なお,ア(ア)h(c)に関連し,被告Zは,陳述書において,そろ
,,ばんの珠で頭をこする行為につきお愛想の愛嬌ある姿勢であると述べ
この行為についても,行為自体の違法性を否認するようであるが,そも
そもそろばんの珠で頭をこするというような行為は,被懲戒者に肉体的
苦痛を与えるのみならず,その人格を愚弄する行為といえ,精神的な苦
痛を与えるものであって,社会通念上お愛想の愛嬌ある姿勢などとは到
底捉えられるものではなく,通知表の成績が悪いことに対する懲戒とし
て行われた場合に,違法であることは明確である。
(),,()ウ他方前記アに認定した被告Zの原告Aに対する行為のうちア
,(),。bg及びhbに関しては違法といえるまでの事情は認めらない
また,ア(ア)i(a)の行為については,同項で認定した状況及び証
拠によれば,原告Aにおいて,何らかの退室すべき理由があったとうか
がわれるうえ,被告Zの行為の程度も弱いものと認められることから,
違法性は認められず(なお,同(b)における被告Zの行為は請求原因
となっていない,ア(ア)jの行為については,前記ア(イ)に認。)
定したとおり,この当時原告Aが無断外出,無断外泊を繰り返し,帰園
時刻も遅くなりがちであったことに照らせば,ここに認定した程度の言
辞を用いて夜間の外出を止めさせようとすることは,児童福祉施設の長
,(),における適法な権限行使の範囲内といえアアkの行為についても
原告Aにおける原因行為及びこれに対する被告Zの行為の程度に照ら
し,児童福祉施設の長における懲戒権の範囲を逸脱するものとはいえな
い。また,ア(ア)lについては,被告Zの原告Aに対する一連の不法
行為の結果ないし原告Aの精神的損害に関する間接事実というべきもの
であって,ここに認定した事実自体を被告Zの不法行為と解することは
できない。
したがって,これらはいずれも上記一連の不法行為には含まれないも
のと解する。
()(),,エ次に前記アイに認定した原告Aの退園にかかる事実につき
その違法性を判断する。
a恩寵園は,園児らにとって,家庭に代わる場所であるところ,社会
の最小単位である家庭は,子供が最初に社会における自己の位置づけ
を知る場であり,そこで受ける扱いは,子供にとって自己評価を形成
する最大の要因であるということができる。
原告Aは,2歳のころから17歳で退園するまで園で養育されてお
り,恩寵園以外に家庭というべきところを知らないと言っても過言で
はないところ,その間,前記判示のとおり,被告Zにより,長期間に
わたり不法行為を継続して加えられてきたうえ,後述のように,被告
Zが,ともに養育されている他の園児らに対して暴行等の不法行為を
行うさまを,日常的に見聞してきた。
このように,家庭というべき園において,不法行為の対象として扱
われ,自分と同じ立場の園児らも同様に扱われているのを認識しつつ
成長した以上,原告Aが,自己の置かれた立場を顧みられる年齢に達
したころ,自己の存在価値に疑問を覚え,自暴自棄になるのは当然で
。,,,あるかかる原告Aの心理状態は16歳のときに児相職員に対し
「。。」,何で生まれてきたのか生まれてこなければよかった等と述べ
同職員に「自分の生命について否定的なことを言う発言が多い」と評
されていることや,園においても他の園児らと「何のために生まれ,
てきたのだろう。こうやっていじめられるために生まれてきたのだろ
うか」等と話していたことからも,容易に察することができる。。
加えて,過度の懲戒が,かえって被懲戒者に反発心を生じさせるこ
とがあるのは,周知のことである。
したがって,原告Aにおいて上記のような心理状態となり,それに
加えて被告Zが暴力を控えざるを得ない状況となった場合に,同原告
が,前記認定事実のとおり,園の生活習慣を遵守しなくなり,園職員
に反抗するようになったとしても,その原因は,園において不法行為
を繰り返してきた被告Zにあるというべきである。
bそして,そうである以上,原告Aが問題行動等を繰り返すようにな
った場合には,被告Zにおいて,それを矯正・善導すべく,最大限尽
力すべきであったにもかかわらず,前記認定事実のとおり,外聞を気
にして指導を躊躇し,同原告の父親の観護能力が十分でないことを,
児相を通じて認識していたと認められるにもかかわらず,前記施設長
意見を出して,原告Aの措置解除を求めたことは,委託を受けて原告
Aの養育義務を負った養護施設の長の責任に照らし,相当な行為であ
ったといえるか,疑問を禁じ得ないところである。
cしかしながら,他方,原告Aにおいても,その問題行動は,無断外
泊にまで及び,園として責任をもった養育を行うことが非常に困難な
状態を作出するに至っている。また,原告Aの問題行動等は,その当
時の被告Zの不法行為に対抗するための行動ではなく,被告Zによる
抑圧から解放されたことを契機として,園の生活習慣を遵守せずに自
由に行動するというものであり,たしかに前述のとおり,自暴自棄に
なることがやむをえなかったと解すべき事情があるとしても,それに
よって園の秩序を乱し,他の園児らに悪影響を与えることまでは容認
されるものではない。そして,園職員からのみならず,児相において
も繰り返し指導を受け,問題行動等を止めなければ,退園せざるを得
ないことを認識する機会を,十分に与えられたにもかかわらず,問題
行動等を止めなかったのであるから,客観的にみて,原告Aにおいて
も,退園することは受忍せざるを得ないような状況であったというこ
とができる。
また,入所措置解除が決定される経緯についてみるに,児相及び園
は,複数回にわたり協議を重ね,その間,児相は,園に対し,原告A
を園での生活に適応させる方策を検討する方向での指導を行ってお
り,また原告Aに対しても,自己の置かれている状況,今後採りうる
選択肢を具体的に示しながら,今後のことを考えて行動するよう,複
。,,,数回にわたり指導しているこのように児相においては原告Aが
園での生活を継続できる方向での調整を図っていたということができ
る。これに対し,園においても,原告Aの処遇につき,児相に相談を
持ち掛け,その後児相の提言を全部は受け入れる余裕がなくなり,園
内では他の園児らへの悪影響もあるため原告Aの受入れを継続するこ
とは困難との意見が出される状況になっても,児相の調整に従って,
同原告の受入れを継続した事実が認められるのであって,以上のよう
な経緯に照らせば,必ずしも短絡的に原告Aの養育を放棄したという
ことはできない。
そして,退園後の事情を検討するに,たしかに家庭引取後に原告A
が置かれた環境は劣悪であり,原告Aがそのような環境に置かれるこ
とにつき,園及び児相において事前に予見が可能であったと認められ
る。しかし,前記認定事実のとおり,原告Aが,退園後,市川児相に
一時保護されている間,児相としては,同原告の父親の観護能力等に
疑問を持ち,家庭引取り以外の選択肢を示したり,自立支援寮の見学
を勧めたりしたのに対し,同原告が一貫して家庭引取を希望したので
あり,他方同原告の父親も一応同原告を引き取る意思を表明したこと
からすると,児相において家庭引取りの意思決定をするのもやむを得
なかったと認められる。そして,その後の環境の劣悪さついては,も
っぱら同原告の父親の責めに帰すべき問題というべきである。
d以上を総合すれば,たしかに原告Aの入所措置が解除されることと
なり,同原告が劣悪な環境下で生活をする結果となったことにつき,
被告Zに何ら原因がなかったとは言い切れないが,原告Aの行動及び
施設長意見提出までの経緯に照らせば,被告Zにおいて措置解除を求
,,める意見を提出したこともやむを得なかったといわざるを得ずまた
入所措置解除後の経緯に照らしても,家庭引取後の原告Aの境遇にか
かるものまで,被告Zの責めに帰すべき損害と評価することはできな
い。
したがって,被告Zに,原告Aを危険のただ中に放擲した違法は認
められない。
なお,原告Aは,被告Zが,退園の30分前まで退園の事実を知ら
せなかったことも不法行為の一環として主張するが,それまでに,同
原告が無断外出等を繰り返し,園職員の言うことも素直に聞き入れな
くなっていたこと,同原告自身はその時点では園での生活を継続する
ことを希望していたことからすると,被告Zにおいて,退園を知らせ
た場合の同原告の行動を危惧して,直前まで退園を知らせなかったの
もやむを得なかったといえ,かかる行為に違法は認められない。
オ損害
被告Zの原告Aに対する本件一連の不法行為により同原告が被った精神
的損害について判断するに,上記一連の不法行為が長年にわたるものであ
ること,その内容が,当時の同原告の年齢ないし感受性に鑑みて過度の恐
怖感を与え,あるいは相当の肉体的苦痛ないし屈辱を与えるものであるこ
と,養護施設という家庭に代わる場所で,他に逃げ場ないし庇護者を求め
ることができない状況下で加えられたものであること,その他本件に関す
る一切の事情を合わせ考慮すると,同原告の受けた精神的苦痛に対する慰
謝料は,40万円と認めるのが相当である。
(2)原告H
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない。
(ア)a原告らの在園中,園児らは食堂で班ごとに食事を取ることとな
っていたが,食後,班ごとの当番が,自分の班のテーブルのテーブル
クロスを拭くこととなっており,また,テーブルクロスのないテーブ
ルには,配膳できないこととなっていた。
b被告Zは,原告Hが小学校3,4年生のころ(平成3年4月から平
成5年3月,同原告の班の当番が,食後,同原告の班のテーブルク)
ロスを拭かなかったことを理由に,上記テーブルクロスを取り上げ,
同原告を含むその班の園児らに,その次の食事を取らせなかった。
(イ)被告Zは,原告Hの小学校時代を通じ,以下のとおり,たびたび
同原告を,保母室の前の廊下等,園内の床に正座させた。
a同原告が,小学校1,2年生のころ(平成元年4月から平成3年3
月,廊下を走った,部屋で騒いだ等の理由で,3時間から5時間,)
同原告を正座させた。
b同原告が,小学校3,4年生のころ(平成3年4月から平成5年3
月,同原告及び他の園児らが,夜の自由時間に室内で遊んでいたと)
ころ,同室内に入って行き「うるさい」と怒鳴り,同原告を正座,。
させた。
c同原告の小学校中学年以降(平成3年4月以降)は,同原告に正座
をさせている間,同原告に食事を取ることを許さなかったことがあっ
た。
d(a)同原告が,小学校6年生のころ(平成6年6月ころ,原告)
H及び他の園児ら数名に対し正座をするよう指示し,約24時間そ
の指示を解かず,その間,同原告及び上記園児らが食事を取ること
もトイレに行くことも許さなかった。
(b)上記(a)の指示により正座をしている最中,上記園児らの
うちの1人が,トイレに行かせてほしいと被告Zに頼んだにもかか
わらず,被告Zは,これを許さず,その場でするよう言い,上記園
児はその場で失禁した。
なお,原告Hは,被告Zがその場を離れたときに,被告Zに隠れ
て,トイレに行ったり足を伸ばしたりした。
(c)その翌日,園の園児らは水族館に行くこととなっていたが,
被告Zは,原告Hを上記水族館に行かせなかった。
(ウ)a原告らの在園中,少なくとも平成7年12月までの間,園児ら
が学期末に学校から受け取った通知表については,終業式の日に園児
らが被告Zのところへ持参した後,保護者の印として,被告Zが同被
告の印を押すか,被告Zの判断に基づき,園の他の職員が被告Zの印
を押すことになっていた。
b被告Zは,原告Hが小学生だったころ(平成元年7月から平成7年
3月までの間,同原告が学校の通知表を被告Zに見せに行き,保護)
者としての押印を頼んだが,次の学期の,学校に通知表を持参するべ
き日になっても,押印を拒むべき格別の理由がないにもかかわらず押
印せず,そのため同原告は,その日に通知表を持参できなかった。
(),(),エ原告Hが小学校6年生の1学期平成6年4月から同年7月
学校の算数の科目である分数のかけ算・わり算を努力して勉強したとこ
ろ,1学期の通知表に,担任の先生によって,分数のかけ算・わり算を
よく理解している旨の記載がされた。
同原告は,被告Zにほめてもらえるものと思い,通知表を見せに行っ
たところ,被告Zは,それについて何らほめなかったのみでなく,同原
告に対し「なんだ,これしかできないみたいじゃないか」というよ,。
うなことを言い,これによって同原告は,落胆し,努力しても報われな
いとの心境になった。
(オ)被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月
から平成7年3月,同原告が,プロミスリング(糸を編んで作った腕)
輪ようのもの)を足に着けていたことに立腹し,園内の放送で他の園児
らを食堂に呼び,他の園児らの見ている前で,同原告の体を,足が机の
上に,頭が机の下になるように,机に載せ,園で飼育しているチャボの
餌を作る際に使用する包丁を同原告の足に押しつけ,出血させた。
(カ)原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7
年3月,被告Zによって,性器にはさみを当てられた男児が,叫び声)
を上げたため,その叫び声を聞いた原告H及び別の園児(男子)が,声
を上げたところ,被告Zは,同原告及び上記別の園児に対し,お前達も
だ等と言い,同原告を横たえ,その腹部ないし胸部に乗ると,同原告の
性器にはさみを当てた。
(キ)a原告Hが,小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平
成7年3月,昼の時間帯に,園で飼育していたチャボを,飛べるか)
どうか試そうと,園庭にある高さ3メートル前後の遊具の上から放し
たところ,上記チャボは地上に落下して死んでしまった。
bこれを見た被告Zは,同原告に対し,上記チャボを抱いているよう
指示した。同原告はそれに従い,途中食事等で中断はしたものの,紙
あるいは布に包んだ上記チャボの死骸を抱き続け,就寝時になっても
,,,被告Zが上記指示を解かなかったため同原告はそのまま翌朝まで
上記チャボの死骸を自己の布団に入れて寝た。
c翌日,同原告が,上記チャボの死骸を焼却するために,焼却炉へ持
って行ったところ,被告Zは,同原告に対し「お前も一緒に(焼却,
炉に)入れ」などと言った。。
(ク)a被告Zは,原告Hが小学校6年生だったころ(平成7年3月こ
ろ,同原告及び他の数名の園児らが,風呂場で排水溝をふさいで水)
をためる等して遊んでいたことに立腹し,寒い時期であったにもかか
,。わらず同原告及び上記園児らを裸のまま1時間以上園庭に立たせた
bその間,同原告と並んで立っていた他の園児が,尿意を催し,被告
Zにそれを訴えたところ,被告Zが,同園児に対し「そこでしろ」,。
と言ったため,同園児はやむを得ずその場で排尿し,その尿が同原告
にかかった。
(ケ)被告Zは,原告Hが中学校1年生の前半ころ(平成7年4月から
平成7年8月ころ,あざができるほど,竹刀や木の棒状のもので,同)
原告の体部を殴ったり,同原告の頭等を,手の甲で殴ったり(いわゆる
「ウラケン)したことが複数回あった。」
イ事実認定の補足説明
(ア)被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
し,テーブルクロスをたたんだりしたことはあったが,食事をさせなか
ったことはない旨主張する。
aこの点に関連し,被告Zは,本件各請求原因を通じて,園児らに対
し,食事をすることを禁止したことはない旨主張しており,同被告本
人尋問においても,園児らに対する指導が食事の時間帯に食い込むこ
と等によって,食事をさせる時間が遅れたことはあっても,食事を意
図的に禁止したことはない旨供述をする。
そこでまず,被告Zが園児らの食事を意図的に禁じることがあった
かについて,ここで検討する。
(a)証拠によれば,複数の原告らが,異なる状況下において,ま
た,各原告の請求原因となっているか否かにかかわりなく,被告Z
に食事をすることを禁じられた旨述べており,さらに他の園児が被
告Zに食事を禁じられていることを目撃した旨,かつそれが頻繁に
あった旨述べている。
(b)そして,証拠によれば,本訴提起の約10年前である平成2
年5月に原告Kが,約6年前である平成6年5月に原告Jが,それ
,,ぞれ自己の母親に園で食事を食べさせてもらえない旨訴えており
同月に市川児相に一時保護中の原告Jが,同児相の職員との雑談の
中で,被告Zが園児に食事を食べさせない時の様子を,具体的文言
も含め,語っている事実が認められる。また,平成8年には,園児
らが,県知事に対し,食事を抜かれる旨を手紙で訴えている事実が
認められる。
これらに加え,証拠によれば,園では罰として園児らに食事を与
えないということが,複数の園児らが通う中学校で問題となってい
たこと,被告Zが園児らに食事を与えないことが保母らの間でも問
題となっていたことが認められる。
これらを総合すると,原告らによる上記(a)の供述ないし陳述
書の記載は信用できる。
(c)したがって,被告Zが,園児らに対し,食事をすることを禁
じることは,日常頻繁にあったと認めるのが相当である。
そして証拠及び弁論の全趣旨によれば,これらが被告Zにより意
図的に行われたものであることは明らかである。
b(a)また被告Zは,園児がテーブルクロスを拭かなかった場合の
対応についても,同被告本人尋問において,衛生上の問題からテー
ブルクロスを拭くことについては強く指導しているが,そのために
食事を抜かしたり,極端に遅らせたことはない旨供述し,同被告の
陳述書にも同旨の記載がある。
(b)しかし,証拠によれば,複数のもと園児らが,テーブルクロ
スを拭かなかったために被告Zに食事を禁じられたり,テーブルク
ロスを取り上げられ配膳ができない状態にされ,食事を抜かれたり
した旨供述しており,しかもそれが何度もあった旨供述している。
そして,上記証拠の中には,本訴提起前に,原告ら以外の者によっ
て作成されたものもあり,いずれも信用するに足りる。また,証拠
によれば,本訴提起前,被告Z自身が,平成6年か7年ころ,園児
,,が食後テーブルクロスを拭かなかった時にテーブルクロスを外し
そのテーブルに配膳をさせなかったことがあった旨認めている。加
えて,証拠によれば,平成2年5月に,原告Kが,自己の母親に対
し,同じ班の園児が食事当番で注意されたため,原告Kに夕食が与
えられなかった旨訴え,これを上記母親が児相に訴えている事実が
認められることも合わせ鑑みれば,原告らの在園中,被告Zが,園
児らがテーブルクロスを拭かなかったという理由で,そのテーブル
の班の園児らに対し,食事を取ることを禁じ,あるいはテーブルク
ロスを取り上げ,配膳させずに食事を抜かせたことが,しばしばあ
ったと認めるのが相当である。
cしたがって,上記ア(ア)の認定に反する被告Zの供述及び陳述書
の記載は採用できず,他に上記ア(ア)の認定を覆すに足りる証拠は
ない。
(イ)a被告Zは,上記ア(イ)aの認定事実に関し,請求原因事実を
否認し,同被告本人尋問において4,5時間正座をさせたことはない
旨供述をするが,被告Zが,原告らの在園中,園児らに長時間の正座
を指示していた事実は,前記(1)イ(エ)a(a)で認定したとⅰ
,。,,おりであり被告Zの上記供述は信用できないそして被告Z自身
同被告本人尋問において,廊下を走った場合には正座をさせることに
なっていた旨供述しているうえ,原告Hが大騒ぎをしたときに正座を
させたことがあるということは主張において認めていることからする
と,この点に関する原告Hの供述及び陳述書の記載は信用でき,他に
上記認定を覆すに足りる証拠はない。
b被告Zは,上記ア(イ)bの認定事実に関し,請求原因事実を否認
するも,上記請求原因事実に関し,大騒ぎをしていると就寝までは学
習を含めた時間なので,気持ちを静めるために正座をさせたことはあ
る旨の,請求原因事実を認めるかのような主張もしており,上記認定
を覆すに足りる証拠もない。
c被告Zは,上記ア(イ)cの認定事実に関し,請求原因事実を否認
し,本件各請求原因を通じ,原告らに意図的に食事を禁じたことはな
い旨供述し,これに沿う陳述書ないし書証を提出するも,被告Zが,
園児らに正座するよう指示し,その指示を解くまでの間,食事をする
ことを許さなかったことがあった事実は,前記(1)イ(エ)aで認
,,定したとおりでありかかる認定に反する被告Zの供述は信用できず
書証も採用しない。他に上記ア(イ)cの認定を覆すに足りる証拠は
ない。
d(a)まず,被告Zは,上記ア(イ)dの認定事実に関し,請求原
因事実を否認し,同被告本人尋問においてこれに沿うかのような供
述をし,同被告の陳述書にも同旨の記載がある。
(),,,,bしかし証拠によれば原告Hは本訴提起前の平成8年に
,,市川児相で面会した弁護士に対し被告Zに24時間正座させられ
トイレに行かせてもらえず,園児らのうちいずれかが失禁したこと
を訴えた事実が認められる。また,同原告は,その際ともに正座さ
せられた園児のうちの1人が原告Bであった旨訴えているところ,
証人Mによれば,原告Bは,廊下に正座させられ,トイレに行かせ
てもらえずにその場で失禁したことがあった事実が認められる。ま
た証拠によれば,本訴提起前から,保母らの間で,被告Zが園児に
罰として24時間,睡眠,食事及びトイレに行くことを禁じて正座
をさせ,失禁させたことが問題となっていた事実が認められる。さ
らに,証拠によれば,被告Zは,原告Hに,24時間寝させてもら
えず,トイレに行きたいのに,ズボンのまましろと言われた旨指摘
された際,これに反論しなかった事実が認められる(なお,この点
に関し,被告Zは,本人尋問において,この指摘は,原告Hらに対
し後ろ向きに座らされてされたものであるから,反論できなかった
旨述べるが,上記証拠によれば,被告Zは,この際の一連の指摘な
いし質問に対しても,自己の主張は述べており,また上記原告Hの
指摘についても,たとえ後ろ向きに座らされていても,身に覚えが
なければ,事実を確認する程度のことはするはずであるところ,な
んらかかる発言もないのであって,この点の被告Zの反論は採用し
ない。。)
以上を総合すれば,上記ア(イ)d(a)及び(b)の認定事実
に関する原告Hの供述及び陳述書の記載は信用でき,上記各事実が
認定できるのであって,上記各認定に反する被告Zの供述及び陳述
書の記載部分は信用できず,他に上記各認定を覆すに足りる証拠は
ない。また,上記ア(イ)d(c)の認定については,これを覆す
に足りる証拠はない。
eなお,上記ア(ア)及び(イ)に関し,被告Zは,原告H本人尋
問において,勤務時間が8時半から17時半過ぎまでであり,園児
らの朝食及び夕食の時間には,在園していない旨指摘し,同被告本
人尋問においても同旨の供述をする。しかし,証拠から,被告Zの
在園時間は特定しておらず,同被告の自宅が園と同じ敷地内にあっ
たこともあり,早朝から深夜まで在園していることもあった事実が
認められ,被告Z自身,上記bのように,夕食後ないし園児らの登
校前の時間帯における園での自己の言動を多々主張ないし供述して
いるのであるから,上記在園時間にかかる被告Zの供述は採用しな
い。
(ウ)被告Zは,上記ア(ウ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
し,本人尋問において,本件各請求原因を通じ,通知表は原則として被
告Zが見た後,まとめて主任保母に渡し,主任保母が押印するが,通知
表の内容によっては被告Zが園児らに課題を与え,主任保母においてそ
れが達成できたかを判断した上で押印することもあり,また園児が通知
表を持ってこないために新学期に押印がないことも考えられる旨供述
し,甲12にも被告Zによるこれと同旨の記載があり,証人Nも同旨の
証言をする。
しかし,証拠によれば,本訴提起前から,保母らの間で,通知表に押
印しないことが,被告Z自身の問題として取り上げられていた事実,被
告Zが原告らの通知表を無視したり,見ようとしなかったりして,押印
がされなかった事実が認められるのであって,これらの事実から,通知
表へ押印するか否かは,被告Zの判断に基づくものと認められる。そし
て,証拠によれば,被告Zが,園児らが通知表を持参しても,容易に保
護者としての押印を与えず,学校に通知表を持参する日になっても押印
を与えなかったことがしばしばあった事実は明らかである。
これらの認定事実に照らせば,被告Zの上記供述,証人Nの上記証言
及び甲12によっても,上記ア(ウ)の認定は左右されず,他に上記認
定を覆すに足りる証拠はない。
(エ)被告Zは,上記ア(エ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
するが,一方で,さらにできるようにもっとがんばるよう励ましたつも
りが正しく受け取られなかった可能性がある等と,上記認定中の発言を
したこと自体は認めるかのような主張をしており,上記認定を覆すに足
りる証拠もない。
(オ)被告Zは,上記ア(オ)の認定事実に関し,事実関係を否認し,
同被告本人尋問及び陳述書にも,これに沿う供述及び記載がある。
この点,被告Zは,同被告本人尋問において,原告Hに対し,上記プ
ロミスリングを自分で切れないなら切ってやろうか等言ったものの,実
際に切ったのが同被告自身であったか,同原告であったか,記憶が定か
でない旨供述し,陳述書にも同様の記載があるが,他方で,同原告の足
は切れていない旨断言している。しかし,自身が切ったか否かも分から
ないのに,足は切れていないと断言するのは不自然である。また,被告
Zは,同被告本人尋問において,同被告自身がプロミスリングを切った
かという問いにに対し「私自身は,していないと思っております」,。
と答えたり,同被告自身が切った可能性も,原告Hが切った可能性もあ
る旨答えたり,同原告が切った記憶がある旨述べたりしており,その供
述は極めてあいまいであり,信用できない。なお,被告Zは,同被告本
人尋問において,包丁の刃先を上に向けなければ,プロミスリングを切
ることはできないから,その過程で肌が傷付くことはない旨述べるが,
プロミスリングを引いて張った状態にすれば,刃を下に向けても切るこ
とは可能であることからも,上記反論は採用できない。
以上より,被告Zの供述及び陳述書の記載のうち,上記ア(オ)の認
定に反する部分は採用せず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(カ)被告Zは,上記ア(カ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
するが,被告Zは,同被告本人尋問においても,園児に対し,性器を切
っちゃうぞなどと言った記憶はある旨供述する一方で,園児の性器には
さみを当てたかどうかについてはわからない,その場にはさみ等刃物が
あったことについてはよく記憶していない旨供述するに止まっており,
上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(キ)a被告Zは,上記ア(キ)の認定事実に関し,請求原因事実を否
認し,同被告本人尋問において,原告Hの行為により,チャボが瀕死
の状態となったため,かわいそうなので抱いてやれとは言ったが,抱
いて寝ろとは言っていない旨供述し,陳述書にも同旨の記載がある。
しかし,被告Zが,同被告本人尋問において,同原告がチャボの死
骸を抱いて寝たことは後から聞いた旨供述し,甲12においても,児
童が自分で抱いて寝た旨記載しているとおり,同原告が翌朝までチャ
ボの死骸を自分の布団に入れて寝たという客観的事実は問題なく認め
られるところ,上記ア(キ)aに認定した同原告の行動からしても,
同原告が格別上記チャボに愛情を持っていたとも考えられず,同原告
が自らすすんで上記チャボの死骸を自分の布団に入れて寝るというこ
とは,通常考えがたい。また,証拠から,原告Hは,被告Zの罰を恐
れて,上記チャボの死骸を抱くことを勝手に止めることはできない心
理的強制下に置かれていたと認められ,いったん同被告に何らかの指
示をされた以上,それを園児らが自らの判断で止めるのは困難であっ
た事実は,前記(1)イ(エ)a(a)で認定した事実からも推認ⅳ
できるところである。
したがって,同原告が,上記チャボの死骸を,自分の布団に入れて
翌朝まで寝たことも,被告Zの指示に基づくものと評価するのが相当
である。
,(),,bまた被告Zは上記アキcの認定事実に関し陳述書において
,,焼却炉での仕事は別の職員の仕事で自分は焼却を行っていないため
焼却炉でかかる会話をしたことはあり得ない旨記載し,同被告本人尋
問においても同旨の供述をする。
しかし,証拠によれば,焼却炉は被告Zの自宅脇,かつ園の裏庭あ
たりにあったと認められ,実際に被告Zが焼却を行っていなくても,
焼却炉周辺にいることは,十分にあり得ることである。
また,原告Hは,同原告の本人尋問ないし陳述書において,上記焼
,,却炉での被告Zの言葉に非常に恐怖感を覚えた旨具体的に述べるが
他方チャボの死骸を抱いて寝たことについては楽だった旨述べている
ことからすると,殊更に虚偽を述べて被告Zの悪質性を高めるかのよ
うな意図はうかがえないのであって,上記認定事実ア(キ)cに関す
る同原告の供述及び陳述書の記載部分は,信用できる。
以上に照らし,被告Zの上記供述及び陳述書の記載部分は信用でき
ない。
c以上のとおり,上記ア(キ)の認定に反する被告Zの供述及び陳述
,。書の記載部分は採用できず他に上記認定を覆すに足りる証拠はない
(ク)a被告Zは,上記ア(ク)の認定事実に関し,請求原因事実を否
認し,女子に見られる可能性があるので外に裸で出るはずがない等と
主張する。
しかし,同被告は,本人尋問においても,原告Hを裸にしたり,裸
,,で立たせたことがないかという旨の問いに対しあいまいな返答をし
,,あるいは沈黙する等の態度に終始しており同被告本人尋問の結果は
上記認定事実を左右するに足りず,他に上記認定を覆すに足りる証拠
はない。
bなお,原告Hは,上記ア(ク)bに関し,被告Zが,他の園児に,
尿を原告Hにかけるように言った旨主張するが,本件全証拠によって
も,かかる事実は認められない。
(ケ)a被告Zは,上記ア(ケ)の認定事実に関し,請求原因事実を否
認し,本人尋問においても,これに沿う供述をする。
bしかし,まず,証人Mは,原告Hにつき,頭や体をたたかれること
がとても多かった旨証言している。また,証拠によれば,平成5年8
月11日に,同原告の母親が,市川児相に電話をかけ,帰省した同原
告の顔に,被告Zに殴られてできたあざがある旨訴えている事実が認
められる。これらからすると,被告Zの暴行により,頻繁にあざがで
きていた旨の同原告の陳述書の記載は信用できる。
c(a)また,証拠によれば,被告Zが,原告らの在園中,園児らを
竹刀で殴ることがあり(甲12において,同被告自身,園児を竹刀
でたたいた事実を認めている,それによって出血させたことも。)
あった事実は明らかである。
(b)そして,証拠によれば,平成8年5月に,原告Hが,被告県
児童家庭課の職員との面接に際して,被告Zから竹刀で殴られたり
たたかれたりした旨訴えていることからも,竹刀で同被告に殴られ
た旨の同原告の陳述書の記載は信用できる。
,,,,,dさらに証拠によれば被告Zが原告らの在園中原告Hを含め
木の棒状のもので園児らを殴ることがあった事実が認められる。
e(a)そして,原告Gの陳述書において,被告Zが,よく廊下など
で,突然何も言わずに,ウラケンで園児らを殴った旨の記載がある
が,いわゆるウラケンで殴られたことは同原告の請求原因事実にな
っていないことに加え,上記記載は,そのときの同被告の体の動き
や,そのため同被告が手を動かすだけで手で顔を覆う癖がついた等
につき,具体的にされており,信用できる。また証拠によれば,本
,,訴提起前に県が行った園児からの聴聞においていずれかの園児が
本件各請求原因事実と異なる状況下において,被告Zにウラケンを
された旨訴えた事実が認められる。
以上からすると,原告らの在園中,被告Zが,園児らに対し,明
確な理由もなく,園児らをしばしば手の甲で殴った事実が認められ
る。
(b)そうすると,被告Zから手の甲で殴られた旨の原告Hの陳述
,,書の記載は信用できるのであってこれを否認する同被告の供述は
信用性が劣ると言わざるを得ない。
,(),f以上より上記アケの認定に反する被告Zの供述は採用できず
他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(コ)なお,被告Zは,原告らに対し,日常的に体罰ないし虐待があれ
ば,原告らの生活指導票に記載されないはずはないところ,かかる記載
が一切ないことをもって,同被告の行為に関する原告らの請求原因にお
ける主張は,事実無根である旨主張するが,証拠によれば,生活指導票
は,園児らの生活全般につき,園の保母が記載し,同被告に提出された
うえで検印されるものなのであるから,そのような生活指導票に,不法
行為と主張されるような同被告の行為が記載されていないのは当然であ
って,同被告の上記主張は採用できない。
ウ違法性
()(),(),,(),(),(),(),アa前記アアイacdaウbオカ
(キ)b,c(ク)a及び(ケ)で認定した,被告Zの原告Hに対,
する一連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会
通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内という
ことはできず,違法である。
bただし,前記アに認定した被告Zの原告Hに対する行為のうち,
(イ)b(イ)d(c(エ)及び(ク)bに関しては,違法とい,),
えるまでの事情は認められず,上記一連の不法行為には含まれないも
のと解する。
(イ)なお被告Zは,前記ア(イ)に関し,正座の習慣を身に付けさせ
ることは,養護施設における教育方法として不可欠であること,正座が
懲戒として行われた場合でも,足を崩す等の抜け道があり,かかる抜け
道を前提としてものであったことをもって,正座は外形上不法行為に当
たらない旨主張する。
しかし,前記ア(イ)に認定した正座の態様,動機からすると,被告
Zの原告Hに対する正座の指示が,生活習慣を身に付けさせるだけの目
的のもとになされたものとは認められない。また,たしかに原告Hは,
被告Zが見ていないときには,トイレに行ったり,足を崩したりして,
正座を続けていなかったのであり,被告Zにおいても,そのことは想定
したうえで正座の指示を与えたものと考えられる。しかし,小学校低学
年の児童にとって,断続的とはいえ,3時間ないし5時間もの間,床の
上に座っていることは,その年齢,体力に照らし,相当の精神的肉体的
苦痛を伴うものであるところ,かかる苦痛を強いることは,廊下を走っ
た,部屋で騒いだ等の,その懲戒の原因となった行為との対比からして
も,過度の懲戒行為と言わざるを得ない。また,正座の指示を受けてい
る原告Hにしてみれば,その間,いつ被告Zに見つかるかわからないと
いう緊張感を持ち続けているのであるから,それが約24時間もの長時
間にわたれば,被告Zのいない間に足を崩す等の行為も,さして原告H
の精神的肉体的苦痛を減殺するものとは考えられないし,そもそも正座
,,の指示を与えている間本来取るべき食事を取らせないということ自体
児童の健やかな育成を趣旨とする児童福祉法の理念に照らし許されるも
のでなく,かかる指示自体をもって不法行為を構成することは明らかで
ある。
したがって,被告Zの上記主張は採用できない。
エ損害
原告Hは,被告Zの原告Hに対する本件一連の不法行為により,相当程
度の精神的損害を被ったものと認められる。
(3)原告B
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない。
(ア)被告Zは,原告Bが小学校6年生だったころ(平成6年ころ,)
園の保母室内の畳敷きになっているところで,マッチを擦って畳の上に
捨て,同原告の左手首を持って,まだ燃えている上記マッチの上に同原
告の左手の平を押し付け,やけどを負わせた。
(),(),イa被告Zは原告Bが小学校6年生だったころ平成6年ころ
同原告に対し,廊下あるいは保母室で正座するよう指示し,その指示
を約1週間解かず,その間,食事をすることも,横になって寝ること
も許さなかった。
b上記aの正座を指示されている間,原告Bは,被告Zが見ていない
ときには,トイレに行ったり,その場や保母室で眠ったり,職員が準
備した食事を食べたりしたが,まったく食事が与えられなかった日も
あり,その時には同原告は,同被告の目を盗んで,菓子を食べる等し
ていた。
(ウ)被告Zは,原告Bが小学校6年生だったころ(平成6年ころ,)
同原告の下顎部を,ボール紙でできた調理用ラップの芯で2回ないし3
回つき,現在でも傷跡が残るほどの傷害を負わせた。
(エ)被告Zは,原告Bが小学校6年生だったころ(平成6年ころ,)
同原告の両腕を真横に上げさせたうえで,竹刀を両袖に通し,その姿勢
のまま同原告に立っているよう指示した。
(オ)被告Zは,原告Bが小学校6年生だったころ(平成6年ころ,)
寒い季節に同原告を裸の状態で戸外に立たせ,水をかけた。
(カ)被告Zは,原告Bが中学校時代の平成7年4月から平成7年8月
ころまでの間,同原告の体部を,しばしば金属バットで叩いた。
(),(),キa被告Zは原告Bが小学校6年生のだったころ平成6年ころ
同原告をトイレに行かせなかったことがあった。
bまた被告Zは,原告Bが園に入所した平成2年2月から平成7年8
月ころまでの間,しばしば,同原告に食事をさせなかったり,正座を
指示して寝かせなかったりし,同原告の通知表に保護者としての押印
を容易に与えないことも何度かあった。
イ事実認定の補足説明
(ア)被告Zは,上記ア(ア)に関し,請求原因事実を否認し,同被告
の陳述書にもこれを否認する旨の記載がある。
しかし,証拠によれば,原告Bが,本訴提起前の平成8年4月10日
に,市川児相において,弁護士に上記事実を訴えている事実が認められ
ることに合わせ,同原告はその陳述書において,上記行為をされたとき
の感覚として,熱いというよりもびっくりした等,体験した者でなけれ
ば語れない感覚を記載していることからしても,上記ア(ア)にかかる
同原告の供述及び陳述書の記載は信用でき,これらの証拠に照らし,被
告Zの上記陳述書の記載部分は信用できず,他に上記認定を覆すに足り
る証拠はない。
(イ)a被告Zは,上記ア(イ)aに関し,請求原因事実を否認し,陳
述書において,原告Bの言い分が信用できない旨記載する。
(a)しかし,まず正座の期間については,被告Zが園児らに正座
を指示し,複数日にわたってその指示を解かなかったことがあった
事実は,前記(1)イ(エ)a(a)で認定したとおりである。そ
して証人Mによれば,2,3日にわたり被告Zによる正座の指示が
続くことはしばしばあり,4日以上の日数に及ぶこともあった事実
及び原告Bは園児らの中でも正座させられることが多く,正座させ
られている場所で寝食することも多かった事実が認められる。これ
らの事実に照らせば,上記の日数にかかる原告Bの供述及び陳述書
の記載は,明確に1週間という日数までは認めるに足りなくとも,
その程度の日数正座をさせられたという限度では信用することがで
きる。
(b)また,証拠によれば,園児らが被告Zに正座を命じられてい
る間は,少なくとも被告Zの目につく場所及び時間帯には寝ること
,,,ができなかった事実が認められかかる事実からすると被告Zは
園児らが被告Zにより正座を命じられてる間は,寝ることを許さな
かったと認めるのが相当である。そして,被告Zが,園児らを正座
させている間,食事を取ることを許さなかった事実は,前記(1)
イ(エ)a(b)で認定したとおりである。
これらの事実に照らせば,被告Zが食事及び寝ることを許さずに
正座させた旨の原告Bの供述及び陳述書の記載は信用できる。
(c)したがって,被告Zの上記陳述書の記載部分は採用せず,他
に上記ア(イ)aの認定を覆すに足りる証拠はない。
b上記ア(イ)bの認定については,本件全証拠によってもこれを覆
すに足りない。
(ウ)上記ア(ウ)の認定事実に関し,被告Zはこれを否認し,陳述書
,,,にもその主張に沿うかのような記載があるが証拠によれば原告Bが
本訴提起前に行われた被告県による聴取に対しても,上記認定にかかる
事実を述べたと認められることに照らし,上記認定事実に関する同原告
,,,の供述は信用できるのに比して被告Zの上記陳述書はこの点に関し
「ラップの芯で顔を殴ったこともありません」と記載するのみで信用。
できず,他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(エ)上記ア(エ)の認定事実に関し,被告Zはこれを否認し,陳述書
にもその主張に沿う記載があるが,上記認定事実に関する原告Bの陳述
書の記載が,証人Mの証言によって一応裏付けられるのに対し,被告Z
の上記陳述書はこの点に関し「手を真横にして竹刀を入れて立たせたこ
ともありません」と記載するのみであって,原告Bの陳述書の記載に。
比して信用性が劣るといわざるを得ない。よって,被告Zの上記陳述書
の記載部分は採用せず,他に上記ア(エ)の認定を覆すに足りる証拠は
ない。
なお,原告Bの請求原因事実のうち,被告Zが,同原告に,1日中手
を上げたまま立っているように命じたとの事実は,本件全証拠によって
も認めるに足りない。
(オ)a被告Zは,上記ア(オ)の認定事実に関し,請求原因事実を否
認し,同被告の陳述書にもこれを否認する旨の記載がある。
bしかし,証拠によれば,被告Zが園児らを裸の状態で立たせること
があり,それが戸外であることもあった事実が認められる。また,証
拠によると,被告Zが,原告ら以外の園児に,真冬に裸で水を浴びさ
せた事実が認められる。
これらの事実に照らせば,被告Zが,寒い時期に裸の状態で原告B
を戸外に立たせ,水をかけた旨の同原告の本人尋問における供述及び
陳述書の記載は信用するに足りる。これに対し同被告の陳述書は,こ
の点に関し「寒中に裸で戸外に立たせて水をかけたことはありませ,
ん」と記載するに止まり,信用できず,他に上記ア(オ)の認定を。
覆すに足りる証拠はない。
(カ)被告Zは,上記ア(カ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
し,同被告の陳述書にもこれを否認する旨の記載がある。
a(a)しかし,複数の原告らないしもと園児が,本訴提起の前後及
び請求原因事実となっているか否かを問わず,異なる状況下で,被
告Zが金属バットで園児を殴ったことを見聞した旨ないし自己が殴
られた旨を供述している。
(b)そして,証人Nによると,園には金属バットがあった事実,
また金属か木製か明らかでないものの,保母室にバットがあり,職
員がそれを園児らを威嚇するために手にすることがあった事実が認
めらる。また,証人Mによれば,原告らの在園中,被告Zがバット
で園児らをたたくことがあった事実が認められる。
,(),これら各事実に照らすと上記aの各証拠は信用するに足り
被告Zが,原告らの在園中,園児らを金属バットでたたくことがあ
った事実が認められる。
bこれに加え,証人Mによれば,原告B本人は園児らの中でも被告Z
から暴力を受けることが多い方であったと認められることからして
も,上記ア(カ)の認定事実に関する原告Bの供述及び陳述書の記載
は信用でき,これに対し被告Zの陳述書は,この点に関し,事実関係
を否認する旨の記載があるに止まり,信用できるものではなく,他に
上記認定を覆すに足りる証拠はない。
なお,金属バットで力一杯殴られた場合には骨折等に至るところ,
原告Bにつきかかる事実は認められないため,かかる強度はなかった
ものというべきである。しかし,後記()イ(イ)c(b)の事実10
に加え,原告Bの陳述書にあえて「骨折しないように殴るのです」。
と記載されていることからすると,少なくとも被告Zは,叩いたと評
価すべき程度には,勢いをつけ,また力を入れて,上記暴行を加えた
と認めるのが相当である。
(キ)被告Zは,上記ア(キ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
する。
しかし,上記ア(キ)aに関しては,被告Zの陳述書及び本人尋問に
おいても,上記認定事実に沿う記載及び供述があり,また上記ア(キ)
bのうち,しばしば正座を指示し寝かせなかった点については,上記イ
(イ)aにおける検討からも明らかであるし,被告Zが懲罰の名目で園
児らに食事を取ることを許さなかったり,園児らの通知表に保護者とし
ての押印を与えなかったりしたことがしばしばあった事実は,それぞれ
前記(2)イ(ア)b及び(2)イ(ウ)で認定したとおりあるから,
これらの点に関する原告Bの供述及び陳述書の記載は信用でき,上記ア
(キ)の認定を覆すに足りる証拠はない。
なお,原告Bの請求原因事実中,被告Zが,同原告にずっと勉強をす
ることを命じて遊ばせなかったとの事実は,本件全証拠によっても認め
るに足りない。
ウ違法性
(ア)被告Zの,原告Bに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにお
いて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長
の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
(イ)なお,被告Zは,小学校5,6年生ころから中学生のころにかけ
て,弱者への暴力,喫煙及び窃盗を行う等,原告Bの非行化が進んだと
ころ,前記アの一連の行為が,かかる非行化を止める取組みの一環だっ
た旨主張するかのようである。
しかし,被告Zの原告Bに対する一連の行為の中には,そもそも懲戒
ないし教育目的で行われたものか否かすら疑問なものもあるうえ,前記
アで認定した各行為の態様,生じさせた結果に照らせば,これら一連の
行為は,被告Zの主張する原告Bの非行化を前提としても,懲戒権行使
の範囲を逸脱した違法なものといわざるを得ない。
エ損害
被告Zの原告Bに対する本件一連の不法行為により原告Bが被った精神
的損害について判断するに,上記認定にかかる有形力行使の程度,与えた
傷害の結果,不法行為の頻度,その他懲戒の原因行為等本件記録上現れた
一切の事情を考慮すると,原告Bの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,
80万円と認めるのが相当である。
(4)原告C
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない。
(ア)被告Zは,原告Cが小学校に上がるか上がらないかのころ(昭和
63年1月ころから同年6月ころ,園内の渡り廊下を走っていたとい)
う理由で,前記(1)ア(ア)a(a)と同様の麻袋に原告Cを入れ,
その麻袋を,園の出入口近くの廊下にある,竹箒等の掃除用具を掛ける
ための釘につるした。なお,このころの原告Cの身長は105センチメ
ートル前後,体重は17キログラム前後であった。
(イ)a被告Zは,原告Cが中学校1,2年生だったころ(平成6年4
月ころから平成7年8月ころ,同原告に対し,正座をするよう指示)
し,その指示を翌日まで解かず,その間食事をすることも許さなかっ
たことが複数回あった。
b上記aの指示をされている間,原告Cは,被告Zや保母が見ていな
いときを見計らって,足を崩したり,トイレに行ったりして,正座を
中断することもあった。夜間は,保母の宿直する部屋で寝ることもあ
ったが,その場で座ったまま寝たこともあり,また食事も決まった時
,,間に食堂で取ることはできず被告Zの目に付かない時間及び場所で
保母が準備した食事を取ることもあったが,そのような食事も与えら
れない場合があった。
(ウ)被告Zは,原告Cが中学校1,2年生だったころ(平成6年4月
ころから平成7年8月ころ同原告の顔などを手の甲で殴ったことい),(
わゆるウラケン)が複数回あった。
(エ)被告Zは,原告Cが中学校1,2年生だったころ(平成6年4月
ころから平成7年8月ころ,何らかの理由で朝の登校前に同原告を叱)
り,そのまま登校の時刻になっても叱り続けたために,同原告が学校に
遅刻することとなったことが複数回あった。
(オ)a原告らの在園中,園においては,毎年年度替わりの際に,園児
らの居室の割当てが変更されたが,その際園児らは,自己の私物を従
来の居室から新たな居室へ移動させることとなっていた。
,()b原告Cが中学生だったころ平成6年4月から平成8年4月初め
の居室替えの際,私物が多かったため,居室の移動時にそれらを入れ
る段ボールの数が多くなってしまうのを避けようと,トイレットペー
パーを入れる業務用の大きな箱を見つけて,私物をそこに入れ,1箱
にまとめようとした。それを見た被告Zは,上記箱の中から,同原告
の私物を全部放り出した。
(カ)被告Zは,原告Cが中学校1年生1学期末から中学校2年生3学
期始めまでの間(平成6年7月から平成7年9月ころ,同原告が学校)
の通知表に保護者としての押印をもらうために,被告Zに通知表を見せ
に行っても,容易に押印しないことが複数回あり,被告Zが,通知表の
提出日である始業式の日になっても押印をしなかったため,同原告は通
知表の保護者印欄に押印のないまま登校したこともあった。
イ事実認定の補足説明
(ア)被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
し,同被告の本人尋問及び陳述書において,園児らを麻袋に入れてつる
したことはない旨及び原告Cの重量及び上記釘の高さの点から,上記釘
に原告Cを入れた麻袋をつるすことはできない旨,供述及び記載する。
,,しかし被告Zが園児らを麻袋に入れてつるしたことがあった事実は
(1)イ(ア)aで認定したとおりである。そして,上記ア(ア)の認
定事実に関する原告Cの本人尋問における供述及び陳述書の記載は具体
的であることに加え,証拠によれば,園児が麻袋に入れられて,上記釘
につるされていたことがあった事実は明らかであることに照らせば,上
記被告Zの供述及び陳述書の記載は採用できず,他に上記認定を覆すに
足りる証拠はない。
(イ)被告Zは,上記ア(イ)aにかかる請求原因事実を否認し,陳述
書においてもこれを否認する旨の記載をするが,前記(1)イ(エ)a
で認定したとおり,被告Zが園児らを複数の日にまたがって正座させる
ことはたびたびあり,その間食事を取ることを許さなかった事実は明ら
かであることに照らすと,上記陳述書の記載は信用できず,他に上記ア
(イ)の認定を覆すに足りる証拠はない。
(ウ)被告Zは,上記ア(ウ)にかかる請求原因事実を否認し,陳述書
,()()()においてもこれを否認する旨の記載をするが前記2イケea
で認定した事実及び原告Iが陳述書において原告Cがウラケンをされた
ところを見た旨記載していることから,上記ア(ウ)に関する原告Cの
供述及び陳述書は信用できることに照らし,これに反する被告Zの上記
陳述書の記載は採用できない。
(),(),エ被告Zは上記アエにかかる請求原因事実を否認したうえで
当日までに持参すべきものを原告Cにおいて当日の朝言い出し,注意を
受けて処理していたため遅れたこともあったと思われる旨主張する。
aしかし,証拠によれば,被告Zが,原告らの在園中,指導等の名目
あるいは懲罰として,しばしば,数日間にわたって園児らに学校を休
ませていた事実は明らかであり,丁16号証のうち,この認定に反す
る部分及び甲12号証は採用できない。
,,bこれに加え原告Cの陳述書における上記認定事実に関する記載は
Mに車で送ってもらったことも何度かあった等具体的事実にまで触れ
られていることからすると,信用するに足りる。
これに対し,被告Zの陳述書には,上記ア(エ)の認定事実を否認
する旨の記載があるが,同じ陳述書で,被告Zは,原告Eへの反論と
,,,,して一般論的に行った非行の程度によっては訓戒などが優先し
遅刻して登校する場合もある等と,姿勢として一貫しない内容の記載
をしているのであって,否認の記載部分は信用できない。なお,ここ
に挙げた被告Zの陳述書の記載内容及び原告Cの陳述書の記載からす
ると,原告Cが学校に遅刻することとなった理由は,被告Zが主張す
るように原告Cが当日の朝持参すべきものの処理をしていたためとい
うものばかりであったとは考えられず,被告Zの訓戒等によるものが
あったと認めるのが相当である。加えて証人Nは,その陳述書におい
て,中学生の登校時刻は被告Zの出勤時刻前なので,しかり続けるこ
となどない旨記載するが,前記(2)イ(イ)eに認定した事実に照
らし,採用できず,他に上記ア(エ)の認定を覆すに足りる証拠はな
い。
(オ)被告Zは,上記ア(オ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
する。しかし,証拠によれば,被告Zが園児らの私物を捨てたり,取り
上げたりすることがたびたびあったと認められることに照らし,上記認
定事実に関する原告Cの供述及び陳述書の記載は信用でき,他方被告Z
の本人尋問及び陳述書においても上記ア(オ)にかかる請求原因事実を
明確に否認する供述及び記載はなく,上記認定を左右するに足りる証拠
はない。
(カ)被告Zは,上記ア(カ)にかかる請求原因事実を否認し,原告C
において被告Zに通知表を提出しないまま始業式の日を迎えてしまった
,()(),と思われる旨主張するが前記2イウで認定した事実に照らし
上記ア(カ)に関する原告Cの本人尋問における供述及び陳述書の記載
は信用でき,他方被告Zの陳述書の記載は,上記ア(カ)にかかる請求
原因事実を明確に否認するものではないことからも採用せず,他に上記
認定を覆すに足りる証拠はない。
ウ違法性
被告Zの,原告Cに対する,前記ア(ア)ないし(エ)及び(カ)の一
連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照ら
し,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,
違法である。
ただし,前記ア(オ)の被告Zの行為については,損害賠償に相当する
違法性までは認められず,上記一連の不法行為には含まれないものと解す
るのが相当である。
エ損害
被告Zの原告Cに対する本件一連の不法行為により原告Cが被った精神
的損害について判断するに,上記一連の不法行為が長年にわたること,相
当の恐怖感ないし困惑を与えるものであること,原告Cの年齢ないし被告
Zとの体格の差に鑑みて有形力の行使が懲戒として強度なものであるこ
と,その他本件記録上現れた一切の事情を考慮すると,原告Cの受けた精
神的苦痛に対する慰謝料は,40万円と認めるのが相当である。
(5)原告Dについて
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない。
(ア)a(a)原告Dが,小学校6年生だった冬(平成6年の年末から
平成7年の2月ころまでの間,園内の一室において,同年代の園)
児5名とともに合計6名で,当時恩寵園の指導員であった訴外Pに
勉強をみてもらっていたが,上記Pが一時部屋を出て行った際,上
記6名のうち原告Dを含む5名が,勉強を中断し,本を読んだり,
椅子に乗る等して遊び始めた。
(b)被告Zは,上記5名が,勉強を中断して遊んでいる様子を,
同室の窓の外から目撃し,同室に入ってくると,上記5名に対し,
園内の保母室の前の廊下に来るように言った。
b(a)被告Zは,言いつけに従って上記廊下に行った原告Dらに対
し,遊んでいた罰として,同所において正座をするよう指示した。
被告Zは,上記指示を20時ころに行ったものであるが,翌朝,原
告Dらが学校へ行く準備をする時刻になるまで,上記指示を解かな
かった。
(b)その間,原告Dは,途中そっとトイレに行く等して正座を中
断しながらも,上記廊下で座り続けた。
(イ)a原告Dが中学校1年生だった平成7年5月2日,他の園児とけ
んかをしたところ,目の周りが青くなり,ほほがはれた。
b翌3日は,園の行事として,園児ら全員で青葉の森公園へピクニッ
クに行くこととなっていたが,被告Zは,同日朝,原告Dの顔を見る
や,園に残っているように指示した。原告Dは,出発の時まで,何度
,,も被告Zに謝罪しピクニックに連れて行ってもらえるよう頼んだが
同被告はこれを許さず,結局同原告は,同日園に残り,ピクニックに
行くことができなかった。
イ事実認定の補足説明
(ア)a被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,事実関係を否認す
るとともに,同被告の陳述書においても,これに沿うかのような記載
がある。
しかし,前記(1)イ(エ)a(a)で認定した事実に照らせば,
被告Zが夜に原告Dを正座させ,そのまま朝まで正座を止める許諾を
与えないことは,優にありうることであるうえ,上記ア(ア)に関す
る原告Dの陳述書の記載及び供述は,上記6名の行動及び被告Zの言
動等,具体的なものであって信用できる。これに対し,被告Zの上記
陳述書の記載部分は,正座を指示したことすら断定的に否定するもの
ではなく,信用できず,他に上記ア(ア)の認定を覆すに足りる証拠
はない。
bなお,前記(1)イ(エ)a(a)に判示したとおり,具体的にⅳ
被告Zがその終期を指示しなかったとしても,被告Zの指示によって
開始した正座が,複数の日にまたがる等,長時間に及んだ場合には,
その全体が,被告Zの指示によるものと評価するのが相当である。
(イ)被告Zは,上記ア(イ)の事実認定に関し,請求原因事実を否認
するも,上記認定を覆すに足りる証拠はない。
ウ違法性
被告Zの,原告Dに対する,前記ア(ア)b(a)の行為は,被告Zに
おいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長
の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
これに対し,前記ア(イ)で認定した被告Zの行為については,自由な
外出が制限されている園児らにとって,前記ピクニックは大きな楽しみで
,,,,あるとともに貴重な社会経験の機会であったことこれに対し証拠上
被告Zにおいて,原告Dのあざの原因につき,本人らから事情を聞く等し
て事実関係を確認した様子が窺えないことに照らせば,懲戒の要否ないし
手段についての意思決定過程が相当といえるかにつき,疑問がないわけで
はないが,原告Dにおいて,顔にあざができる程度のけんかをしたという
原因行為が認められること,取られた懲戒の手段が園の行事に1日参加さ
せないという程度のものであることからすると,児童福祉施設の長の懲戒
権を逸脱する行為とまではいえず,違法性は認められない。
エ損害
被告Zの原告Dに対する本件不法行為により原告Dが被った精神的損害
について判断するに,正座をさせられていたのが本来睡眠・休息をとるべ
き夜間であること,正座させた時間も長時間にわたり,小学校6年生の女
子の体力,身体機能からして相当の肉体的苦痛を与えるものであること,
その他懲戒の原因等本件記録上現れた一切の事情を考慮すると,原告Dの
受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,10万円と認めるのが相当である。
(6)原告Iについて
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない
(ア)a被告Zは,原告Iが小学校5年生だったころ(平成4年4月こ
ろから平成5年3月ころ,原告Iに対し,正座するように指示し,)
原告Iはそれに従って正座をした。その正座を開始した時刻は昼食の
時間よりも前であったが,原告Iは,被告Zに正座を指示されていた
ため,昼食を取ることができなかった。
b原告Iは,そのまま夕食の時間帯も座り続け,夕食の時間帯に夕食
を取ることができなかった。その後,保母が食べ物を準備し,原告I
に対し,食べてもよい旨申し向けたため,原告Iはそれを食べたが,
その後また正座をし,少なくとも夜間の時間帯までは,被告Zの上記
指示が解かれることはなかった。
(イ)被告Zは,原告Iの在園中,原告Iが自分の班のテーブルクロス
を拭くことを失念したことを理由に,上記テーブルクロスを取り上げ,
原告Iに対し,食事を取ることを禁じたことがあった。
(ウ)被告Zは,原告Iの小学校1年生3学期末から中学校2年生1学
期末までの間(平成元年3月から平成7年7月までの間,同原告が被)
告Zに学校の通知表を見せに行った際,通知表の記載を見たうえで,同
原告の頭にそろばんを押しつけ,そろばんの珠を数回こすりつけたこと
があった。
イ事実認定の補足説明
(ア)被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,事実関係を否認する
とともに,同被告の陳述書においても,これに沿うかのような記載があ
る。
a(a)しかし,まず,被告Zが園児らに相当の頻度で長時間にわた
る正座を強いた事実は,前記(1)イ(エ)a(a)で認定したと
おりであり,同被告自身,同被告本人尋問において,就寝時間を過
ぎても正座を続けさせたことが複数回あった旨供述していることか
らすると,原告Iを,昼前から夜間まで正座させたということも優
にあり得ることである。
(b)加えて,原告Iの本人尋問は,朝まで正座していたか等,覚
えていないことについては誇張することなくその旨述べ,また眠か
ったという強い記憶がある等,供述も具体的であって,信用できる
ものであり,上記(a)と併せ考えれば,原告Iが,昼前に被告Z
に正座するよう指示され,その指示が少なくとも夜間まで解かれな
かった事実が認定できる。
bさらに,園児らが被告Zにより正座を命じられてる間,被告Zが上
,()()記園児らに食事を取ることを許さなかった事実は前記1イエ
a(b)で認定したとおりである。
c以上より,上記ア(ア)に関する原告Iの陳述書の記載は信用でき
るのに対し,被告Z本人尋問の供述のうち,上記ア(ア)の認定事実
,。に反する部分は信用できず他に上記認定を覆すに足りる証拠はない
(イ)被告Zは,上記ア(イ)の認定事実に関し,事実関係を否認し,
同被告本人尋問において,園児らに対し,食事をすることを禁止したこ
とはない旨供述をする。また,同被告の本人尋問及び陳述書において,
テーブルクロスを拭かなかったことを理由に食事を抜かしたり,極端に
遅らせたりしたことはない旨の供述ないし記載をする。
しかし,被告Zが,原告らの在園中,園児らがテーブルクロスを拭か
なかったという理由で,そのテーブルの班の園児らに対し,食事を取る
ことを禁じ,あるいはテーブルクロスを取り上げ,配膳させずに食事を
抜かせたことが,しばしばあった事実は,前記(2)イ(ア)で認定し
たとおりである。
したがって,被告Zの供述及び陳述書の記載のうち,上記ア(イ)の
,。認定に反する部分は採用せず他に上記認定を覆すに足りる証拠はない
(ウ)被告Zは,上記ア(ウ)の事実認定に関し,事実関係を否認する
も,上記認定を覆すに足りる証拠はない。
ウ違法性
被告Zの,原告Iに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにおいて懲
戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な
懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
エ損害
原告Iは,被告Zの原告Iに対する本件一連の不法行為により,相当程
度の損害を被ったものと認められる。
(7)原告Eについて
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない
(ア)a被告Zは,原告Eが6歳くらいのころ(昭和63年ころ,原)
告E及び他の園児2名に対し,何らかの理由で立腹し,園の庭にある
水深約80センチメートルの池に,裸になって入るよう命じ,やむを
,,,,。得ず同原告は着衣を脱ぎパンツ1枚になって上記池に入った
原告Eは,上記池の中に入っている間,上記池の前に立っていた被
告Zに対し,何度か謝罪をしたが,同被告は同原告が上記池から出る
ことを許さず,その結果同原告は,約10分間にわたり,上記池の中
に立ち続けた。
bなお,上記aの行為が行われた時の原告Eの着衣は,長袖のポロシ
ャツにズボンあるいはスカートというものだった。
(イ)a原告Eは,小学生であった平成元年4月から,平成5年までの
間のいずれかの日,他の4,5名の園児らとともに,被告Zに何らか
の理由でしかられ,園内に立たされた。そこで,原告E及び上記園児
らは,被告Zの許しを得るために,一人ずつ被告Zに謝罪に行くこと
とし,原告Eも,被告Zのところへ行って,謝罪をした。
bしかるところ,被告Zは,原告Eに対し,そのまま立ち続けるか,
別の罰を受けるか選ぶよう迫り,同原告が立ち続けるよりも別の罰を
受けてすぐに許してもらった方がいいと考え,別の罰を受けることを
選択した。そうすると,被告Zは,原告Eに対し「おなかを出せ」,
と申し向け,同原告が着衣をまくり上げて腹部を露出したところ,同
原告の腹部を強くつねった。
c上記bの行為を受けた原告Eは,声が出ないほどの痛みを感じ,自
己の居室に戻って,痛みのために号泣した。
イ事実認定の補足説明
(ア)被告Zは,上記ア(ア)aの認定事実に関し,同被告の行為にか
かる事実を否認する主張をし,同被告の陳述書にもこれに沿う記載があ
る。
しかし,証拠によれば,少なくとも恩寵園において池の中に園児を立
。,()たせるという罰が行われていたと認められるこれに加え上記アア
に関しては,原告Eの供述は,池の水の色や足の裏の感触等,恐怖を感
じた対象ないしそのときの感覚につき,その内容が迫真性に富むもので
あることからすると,上記ア(ア)に関する原告Eの供述及び陳述書の
,。記載は信用できこの点に関する被告Zの陳述書の記載は信用できない
なお,被告Zは,上記陳述書において,上記行為に関する原告Eの記
憶が鮮明にすぎ,信用できない旨述べるが,幼児期の強烈な恐怖体験に
ついては,そこに至る経緯は覚えていなくとも,その体験のさなかに目
,,,に見えたもの感触恐怖感そのものは鮮明に印象に残るということが
ままあるものであり,原告Eの供述は不自然なものとはいえず,むしろ
同原告の恐怖感の強さを示すものということすらできるのであるから,
被告Zの上記陳述書の記載は採用できない。
(イ)また,被告Zは,上記ア(イ)bの認定事実に関し,同被告の行
為にかかる事実を否認する主張をし,同被告の陳述書中で,この点の時
期等に関する原告Eの主張が,上記ア(ア)にかかる主張が鮮明なのに
対して,不鮮明であって信用できない旨述べる。
しかし,上記ア(イ)bの事実に関して,原告Eの主張が不明確なの
は,主として上記行為の行われた時期及び上記行為の前に立たされてい
た理由であるところ,立たされていた理由については,上記行為と直接
に関係のない事実であるから,記憶が不鮮明でも不自然ではなく,時期
についても,原告Eは,約11年間にわたってほぼ毎日生活の場で被告
Zと接しており,かつその間何度も被告Zから叱責を受けたと認められ
,。ることからすると十分に特定ができていなくても不自然とはいえない
そして,原告Eの供述ないし陳述書の記載は,上記2点を除けば具体的
であることに加え,証拠によれば,複数の園児が被告Zにつねられたと
いう体験をしており,それも特に柔らかいところをつねったという事実
が認められること,また上記ア(イ)bの認定事実との関連は不明であ
るものの,被告Zが,謝罪に行った園児の腹部をつねった事実が,保母
によっても認識されていること,被告Zが罰を2つ挙げて罰を受ける園
児にいずれかを選択させることがままあったと認められることからする
と,信用するに足りるものである。したがって,この点に関する被告Z
の主張は採用できず,上記認定を覆すに足りる証拠もない。
ウ違法性
(ア)被告Zの,原告Eに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにお
いて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長
の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
(イ)なお,被告Zは,原告Eに万引き及び喫煙等の問題行動があった
旨主張するも,前記ア(ア)a並びにア(イ)a及びbが,これらの問
題行動の懲戒として行われた旨の主張及び立証はなく,原告Eにおいて
これらの問題行為があったからといって,被告Zの前記一連の行為に違
法性がないということはできない。
エ損害
被告Zの原告Eに対する本件一連の不法行為により原告Eが被った精神
的損害について判断するに,上記一連の不法行為が,行為の態様及び原告
Eの年齢からして,長年記憶から消えない程の恐怖感を与え,あるいは相
当の肉体的苦痛を与えたと認められること,その他本件記録上現れた一切
の事情を考慮すると,原告Eの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,10
万円と認めるのが相当である。
(8)原告Fについて
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない。なお,下記(ア)については,原告Jの請求原因事実と一部重
複するため,合わせてここで認定する。
(ア)a原告らの在園中,園では,園児ら数人ずつに1部屋の居室が割
り当てられ,それぞれ担当の保母が決められていたが,平成6年当時
の一定期間,園児らが自分の居室以外の居室に入る場合には,その居
室及び自分の居室の担当保母に,それぞれ許可を得なければならない
という規則があった。
b原告Fが中学校3年生で,原告Jが中学校2年生だった平成6年4
月下旬から5月初旬のゴールデンウィーク中,被告Zは,上記規則に
反して他の園児の居室に出入りした園児を叱っていたが,その後他の
園児ら全員を園の食堂に集めた。被告Zは,上記園児らに対し,無断
で他の居室に入ったことがあるかとの質問をし,これに対して,ほぼ
全員の園児らが入ったことがある旨答えると,それに対して園児らを
叱り,これを契機として縷々説教を始めたが,徐々にその内容や言葉
遣いが難解になっていった。
c(a)被告Zは,上記のように園児らに説教をする中で,園児らに
対し,質問を発した。
(b)これに対し,原告Fは,問われている内容が分からなかった
ため「質問の意味が分かりません」旨被告Zに言った。,。
(c)また,原告Jも,上記質問に対し,被告Zの意に添うような
返答ができなかった。
dすると被告Zは,原告F及び同Jに対し「話が分からないのだか,
ら,幼児だ」と言い,その後,幼児扱いする旨申し向け,上記原告。
らに,幼児用居室の隣室の,アコーディオンカーテンで仕切られた部
,,。分で生活させ食器及びトイレも幼児が使用するものを使用させた
e原告Fは,上記dのような生活を1週間から2週間続けた。なお,
被告Zは,上記c(b)の件に関し,その日のうちに謝罪に行った原
告Fに対し「お前は幼児だから,お前と話すことはない」と言っ,。
て,同原告のほほを平手で1回たたき,鼻から出血させた。
(イ)a原告らの在園中,義務教育を終える園児らの進学に関しては,
被告Zが保護者としての権限及び責務を担っており,願書に保護者と
しても印を与えること及びその判断も,最終的には同被告により行わ
れるもので,同被告の了承がなければ,在園しながら高校に進学する
ことはできなかった。
b原告Fは,中学時代,学校の成績も良く,熱心に勉強に取り組んで
おり,遅くとも中学校2年生の2学期には進路についても自らの考え
を保母らに伝え始め,中学校3年生になった時点では,普通高校に進
学したいとの希望を明確に有するようになっていた。
c原告Fの家庭は,同原告が3歳のころに父親が死亡し,同原告が入
所措置された当時,母親は,生活保護費を受給していたものの,同原
告を含めた4人の子供達を養育することが困難な状態であり,同原告
が中学校3年生になった当時も,同原告を家庭から高校に通わせるこ
とが可能な経済状態ではなく,かつその当時,母親とは連絡が取れな
いこともあり,所在が必ずしも明らかでない状況であった。
このような原告Fの家庭事情からすると,在園しながら進学する以
外に,同原告が普通高校に進学するのは困難であり,同原告及び被告
Zにおいても,かかる認識を有していた。
d一方,原告Fは,上記cのような認識に加え,園から高校に進学す
れば,園が学費を負担することとなり,同学年の園児がすでに専門学
校への進学を許されていることからすると,同じ年度に複数人進学を
することは園の財政事情が許さないのではないかと懸念していた。
e(a)そのため,同原告は,普通高校に進学したいとの希望を被告
Zに伝えることを躊躇する気持ちもあったが,どうしても進学した
,,いとの気持ちが強かったため中学校3年生だった平成6年の春に
同被告に希望を伝える意を決し,高校に行かせてほしい旨頼んだ。
(b)しかるに被告Zは,原告Fの上記依願に対し「何だ,おま,
え,銚子に帰るんじゃなかったのか」と返答した。。
(c)原告Fは,上記c及びdのような事情から,上記(b)の被
告Zの発言によって,普通高校への進学はかなわないかもしれない
と思い落胆するとともに,家庭の事情が同原告が帰れるような状況
にないにもかかわらず上記のように言われたことに精神的な衝撃を
受けた。
f(a)その後も原告Fは,保母に付き添ってもらう等して被告Zに
,,,進学の相談をしようと試みたが同被告は話をはぐらかす等して
同原告の進学に関する話を進めなかった。
(b)また,中学校3年の1学期末ころには,高校進学を希望する
理由につき,同原告が,勉強がしたいからである旨述べても,被告
Zは,勉強したいという理由だけでは高校進学の理由にはならない
等述べた。しかし同原告は,その当時,高校卒業後の具体的な進路
等については意思を決することができなかったため,その後,職員
らに中学校卒業後の進路について意思を問われても,勉強をするた
めに高校に行きたいということ以外に答えることができなかった。
g(a)原告Fは,普通高校へ進学する希望をあきらめられなかった
ため,中学校3年生の夏休みに入ってから,再度被告Zに,高校に
行かせてほしい旨頼んだ。
,,,,これに対し同被告は被告Zのほか6人の職員の名前を挙げ
その7人が集まったときに同原告の進学の話をする旨述べた。
(b)当時園においては,職員らはローテーション勤務となってい
たため,上記職員ら7名が揃う機会は容易にあるものではなく,そ
のため原告Fは,各職員に,集合してもらえるよう,個別に頼みに
行った。
h(a)このような状況の中で,原告Fは受験勉強を進めていたが,
翌平成7年1月に,高校受験の願書を中学校に提出する時期になっ
ても,在園しながらの高校進学について,被告Zに明示的な了承を
得られずにいた。
(b)そこで同原告は,同月ころ,願書に必要事項を記入し,園内
の保母室のいた被告Zに,保護者として署名押印してくれるよう,
頼みに行った。
同原告が「高校に行かせて下さい」等と言って,頭を下げつ,。
つ,願書を差し出したところ,被告Zは,それを受け取り,その記
載を見ながら数歩歩くと,上記願書をそこにあったごみ箱に放り捨
てた。
(c)被告Zの上記行為に,原告Fは精神的な衝撃を受けたが,そ
の願書に被告Zの署名押印をもらわなければ高校に進学することが
できないと思い,上記ごみ箱から願書を拾うと,土下座をし,その
状態で「お願いします」と頼み続けた。。
(d)その間,被告Zは,同原告にはっきりと聞き取れないような
ことを言いながら歩き回る等していたが,その後,自分は今印鑑を
持っていない等と言うようになったため,同原告は,その場では押
印してもらえないものの,高校に行くことは了承されたと理解し,
「明日の朝お伺いします」と述べて保母室から退去した。。
(e)翌朝,被告Zの印鑑を管理している同被告の妻が,園に出勤
してきた際,原告Fは,願書を持参して押印を頼んだが,その直後
に会議があるとの理由で,すぐに押印してもらうことはできず,会
議が終わった8時半過ぎに押印してもらうことができた。
そのため,同原告は,中学校に遅刻したが,その日に中学校に願
書を提出することができた。
イ事実認定の補足説明
(ア)被告Zは,上記ア(ア)にかかる請求原因事実を否認する。
しかし,上記ア(ア)a,b,c(a)及び(b)並びにdの認定事
実については,被告Zの本人尋問における供述も,上記認定に沿うもの
,(),,でありccについては格別言及せず同eの認定事実についても
覚えていないないし叩いていないと思う等のあいまいな供述をするにす
ぎないものであり,上記認定事実を左右するものでなく,他に上記認定
を覆すに足りる証拠はない。
(イ)被告Zは,上記ア(イ)にかかる請求原因事実を否認し,以下の
とおり主張する。
a(a)まず,被告Zは,原告Fが,担任の保母らに声かけをされて
いたのに,進路に関する意思決定ないし意思表明をしなかったため
に,協議が行われないまま時間が過ぎ,願書提出の日を迎えた旨主
張し,同被告の陳述書にも同旨の記載をする。
(b)しかし,原告Fが,中学校3年生の春ころには,普通高校に
進学したいとの希望を持ち,その希望を保母にも被告Zにも伝えて
いたことは,前記ア(イ)b及びeに認定したとおりである。
この点,被告Zは,同原告の生活指導票の記載をもって,同原告
が保母の声かけにもかかわらず意思決定及び意思表明をしなかった
旨主張するが,同原告の中学校3年生4月ないし6月期の生活指導
票には「高校へ行きたい』という気持ちはあるのだが『どうし,『,
ていきたい』等の理由がはっきりしない」と担任保母が記入して。
いるのであり,また,被告Z自身が,同被告本人尋問において,同
原告が中学校3年生の春に,高校へ行きたいと言うことを聞いてい
た旨供述していることから,少なくともこの時期から,原告Fは,
高校進学につき意思決定及び意思表明していたことは明らかであ
る。
,,,そして原告Fの意思表明に関し不明確な点があったとすれば
上記生活指導票記載のとおり,高校進学の理由についてであると認
められるところ,証拠によれば,被告Zが,原告Fに対し,高校進
学の理由を聞き,原告Fが勉強がしたいからである旨返答したのに
対し,被告Zが,それでは理由にならない旨申し向けた事実,これ
により,原告Fとしては他に理由が考えつかず,それしか理由がな
い以上高校に行かせてもらえないのか等と困惑していたために,保
母らから「どうするの」等と問われても,明確な対応ができな,。
かった事実が認められる。
以上のとおり,原告Fにおいては,中学校3年生の春には,園か
ら普通高校に進学したい旨の意思決定及び意思表明をしていたので
あり,この程度の意思決定及び意思表明があれば,進路についての
協議を進めるには十分足りるものであるはずである。そして,中学
校3年生が,勉強がしたいという理由のみで高校進学を望むのは,
自然なことであって,中学校3年生にそれ以上の理由付けを考えさ
せる方がむしろ無理を強いることであり,仮に原告Fの意思表明に
不明確な部分があったために進路についての協議が進まなかったと
したら,それは被告Zにおいて,かかる無理を強いたことが原因と
いうべきである。
したがって,被告Zの上記主張にかかる同被告の陳述書の記載部
分は信用できず,主張は採用しない。
b(a)次に被告Zは,前記ア(イ)e(b)の発言に関し,原告
Fが「母親の面倒をみてあげたい「銚子に帰って高校に行き,。」
たい」との2つの意向を示していたために,銚子に帰って進学。
することの困難性を説明した経緯の中でのものである旨主張す
る。
しかし,被告Zの上記発言の言回しからして,かかる説明のた
めの発言と解することは困難である。また,前記認定事実のとお
り,原告Fは,普通高校進学を強く望む一方で,家庭に戻って進
学をすることは困難であることを認識しており,だからこそ在園
しながら進学させてもらえるよう被告Zに頼んだのであるから,
前記ア(イ)eの時点で,原告Fが銚子に帰ったうえで進学した
いとの希望を有していなかったことは明らかである。
したがって,被告Zの上記主張は採用できない。
(b)なお,被告Zの上記主張からも明らかなとおり,上記発言
当時,被告Zにおいて,原告Fが銚子に帰って進学することは困
難であることの認識を有していたのであるから,被告Zの上記発
言は,銚子に帰ることと高校進学は,両立しないものであるとの
趣旨のものと認められる。
他方,証拠によれば,同原告は向上心が強く,勉強にも熱心に
取り組んでおり,成績も良いことを被告Zが周知していた事実が
認められるのに加え,前記ア(イ)bのとおり,原告Fは,中学
卒業後の進路につき中学校2年生のころから保母に伝えていた事
実からすると,前記ア(イ)e(a)の原告Fの申し出が被告Z
にとって想定外のものであったとは認められない。
そうすると,前記ア(イ)で認定したその後の被告Zの原告F
に対する対応も考慮すると,被告Zの上記発言は,原告Fを困惑
させる目的でなされたものと認めるのが相当である。
c(a)そして,被告Zは,前記ア(イ)hの認定事実に関し,原
告Fにおいて,進学についての希望を直前まで伝えず,中学校の
進路希望調査書も持参せず,事前に協議もしないまま突然願書を
持ってきたものであるところ,そのように突然願書を持参されて
も押印できないものであり,その点を伝えつつ,またその場に印
鑑がないため押印できない旨申し向けながら,願書を返却する仕
草をしたところ,同原告が受け取らなかったため,タイミングが
,,ずれて同願書が床に落ちた旨主張し同被告本人尋問においても
これに沿う供述をする。
(),,,bしかし原告Fが直前まで進学についての希望を伝えず
事前の協議もしないまま突然願書を持ってきたとの主張に理由が
ないことは,上記aで述べたとおりであり,また,上記aで検討
した事実に照らせば,仮に原告Fにおいて,中学校の進路希望調
査書を被告Zに持参していなかったとしても,願書の提示が突然
の意思表明だったと認めることはできない。
また,その後原告Fが土下座をしてまで押印を頼んでいる事実
に加え,証拠によれば,被告Zが,園児の通知表をごみ箱に捨て
たこともあった事実が認められることを合わせ考慮すれば,同被
告が故意に上記願書を捨てたと認めるのが相当である。
(),,()cよって被告Zの上記供述は信用できず他に上記アイ
の各認定を覆すに足りる証拠はない。
ウ違法性
(ア)被告Zの,原告Fに対する,前記アの一連の行為は,社会通念に
,,照らし児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内とは認められず
また監護及び教育に関し,その児童の福祉のため必要な措置ということ
もできず,違法である。
(イ)a(a)この点,被告Zは,前記ア(ア)の事実に関し,いずれ
も虐待に相当する体罰ではなく,外形的事実として不法行為に該当
しない旨主張する。
しかし,前述の通り,被告Zの主張する,児童虐待防止法上の虐
待に該当しなければ不法行為ではないとの考えは,当裁判所は採用
しないところであり,そもそも中学校3年生である原告Fを幼児扱
いし,幼児が普段使用する食器やトイレを使わせること自体,原告
Fに不当な屈辱を与えるものであって,不法行為に該当することは
明らかである。
よって,被告Zの上記主張は採用できない。
(b)また,被告Zは,前記ア(ア)の事実に関し,移動させた部
屋及び使用させたトイレ等も特段不便なものではないし,指導上の
行為であることからも,不法行為ではない旨主張する。
しかし,たとえトイレ等が不便なものでないとしても,上述のと
おり,中学校3年生を幼児扱いし,幼児が普段使用する食器やトイ
,,レを使わせること自体被懲戒者に不当な屈辱を与えるものであり
本件における原告Fの行った原因行為との均衡からしても,児童福
祉施設の長の適法な懲戒権行使の範囲を逸脱するものである。
よって,被告Zの上記主張は採用できない。
b(a)さらに被告Zは,前記ア(イ)のうち,g(a)の事実につ
,,き園職員らに同原告が高校在学中の3年間在園することについて
引き受ける気持ちを持たせるため必要だった旨主張し,違法性を争
うようである。
しかし,かかる理由であれば,前記ア(イ)g(a)に認定した
7名が一堂に会する必要は必ずしも認められず,上記主張は不合理
であって,採用できない。
(b)また,前記ア(イ)のうち,h(a)ないし(c)に関して
は,前記イ(イ)cのように,事実関係を争うのみならず,原告F
の願書持参が唐突だったこと及びその場に印鑑がなかった旨主張し
て,容易に押印をしなかったことの違法性をも争うようである。
しかし,被告Zが容易に押印しなかった理由が,その場に印鑑が
なかったとの理由のみであれば,原告Fが土下座までして押印を頼
む必要はなかったのであるから,他の理由で押印しなかったことは
明らかであるところ,原告Fの願書持参が唐突だったためとの被告
Zの主張に理由がないことは,前記イ(イ)cに判示したとおりで
あって,他に合理的な理由が見当たらないのであるから,被告Zに
おいて,原告Fが土下座するまで,正当な理由もなく押印を拒んだ
と認めるのが相当であり,被告Zの上記主張は採用できない。
(c)なお,被告Zは,前記ア(イ)に関し,何ら体罰虐待に該当
するものでなく,不法行為にあたらない旨主張する。
しかし,民法上,体罰虐待のみが不法行為となるものはないこと
は当然である。そして,前記ア(イ)の被告Zの一連の行為は,高
校受験生という通常でさえ精神的負担の大きい時期に,自己の了承
がなければ進学がかなわないという優越的立場を利用し,徒にその
了承を明示しないことで原告Fに不安を与え続け,また原告Fの進
学に対する真摯な願望を弄ぶものであって,その違法性は明らかで
ある。
よって,被告Zの上記主張は到底採用できない。
エ損害
被告Zの原告Fに対する本件一連の不法行為により原告Fが被った精神
的損害について判断するに,前記一連の不法行為が,その経緯,態様及び
行われた時期に照らし,原告Fに対し,相当の理不尽さ,屈辱感及び不安
感を感受させたものと認められること,その他本件記録上現れた一切の事
情を考慮すると,原告Fの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,30万円
と認めるのが相当である。
(9)原告Jについて
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない。
(ア)被告Zは,原告Jが中学校1年生だったころ(平成5年4月から
平成6年3月,同原告の班の当番及び同原告が,食事の際,同原告の)
班のテーブルクロスを拭かなかったことに立腹し,上記テーブルクロス
を取り上げ,同原告に対し,その次の食事を取ることを禁じた。
(イ)被告Zは,原告Jが中学校1年生だったころ(平成5年4月から
平成6年3月,同原告に対し,しばしば正座を指示し,1日中その指)
示を解かず,その間食事もとらせず,学校にも行かせなかった。
(ウ)a前記(8)ア(ア)aないしdに同じ。
b原告Jが,数日間,前記(8)ア(ア)dのような生活を続けてい
たところ,被告Zは,同原告に対し「お前は幼児だから,パンパー,
スを持ってこい。俺がはかせてやる」と申し向けた。原告Jは,こ。
の言いつけに従わないことで,また被告Zに怒られることを恐れ,仕
方なく幼児用おむつであるパンパースを取りに行ったところ,それを
,「。」,Oに見とがめられ同人から何考えているの等と言われたうえ
平手でほほを叩かれた。
(エ)被告Zは,原告Jの小学校2年生3学期末から中学校1年生の3
学期末までの間(平成元年3月から平成6年3月までの間,しばしば)
同被告の通知表に,保護者としての印を押さなかった。
イ事実認定の補足説明
(ア)被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,事実関係を否認する
とともに,同被告本人尋問においてこれに沿う供述をし,同被告の陳述
書にも同旨の記載がある。
しかし,被告Zが,原告らの在園中,園児らがテーブルクロスを拭か
なかったという理由で,そのテーブルの班の園児らに対し,食事を取る
ことを禁じ,あるいはテーブルクロスを取り上げ,配膳させずに食事を
抜かせたことが,しばしばあった事実は,前記(2)イ(ア)で認定し
たとおりであり,かかる事実に照らせば,同被告の本人尋問の結果及び
陳述書の記載のうち,上記ア(ア)の認定事実に反する部分は信用でき
ず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ)a被告Zは,上記ア(イ)の認定事実に関し,事実関係を否認す
るとともに,同被告の陳述書にもこれに沿う記載がある。
bしかし,被告Zが,原告らの在園中,園児らを長時間,場合によっ
ては複数の日にまたがって正座させ,その間,食事を取ることを許さ
なかった事実は,前記(1)イ(エ)aで認定したとおりである。
c(a)そして,被告Zが,原告らの在園中,指導等の名目あるいは
懲罰として,しばしば,数日間にわたって園児らに学校を休ませて
いた事実は,前記(4)イ(エ)aに認定したとおりである。
(b)また,上記のとおり,被告Zは,複数の日にまたがって園児
らを正座させることがあった事実が認められること,証人Nによれ
ば,園児らを正座させている間,学校に行かせないことがあった事
実が認められること,証拠によると,複数の原告らが異なる状況及
び理由において,被告Zにより正座を指示され,そのため学校にも
行けなかった旨供述していることからすると,被告Zが,園児らに
正座を指示し,その指示を解くまでの間,学校に行かせない場合が
あった事実が認められる。
d以上のb及びcに加え,証拠によれば,平成6年5月に原告Jが自
己の母親及び児相の職員に,園で正座させられること,学校に行かせ
てもらえないこと及び食事を食べさせてもらえないこと等を話してい
,,,る事実が認められ同じころ被告Zが市川児相の児童福祉士に対し
同原告に何がいけないかを気付かせるために学校を休ませることもあ
,()る旨述べた事実が認められることを総合すると上記認定事実アイ
に関する原告Jの供述及び陳述書の記載が信用できる。これに対し,
上記認定事実に反する被告Zの供述及び陳述書の記載部分は,信用性
が低いといわざるを得ず,採用できない。
(ウ)被告Zは,上記ア(ウ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
するが,上記ア(ウ)aの認定事実を左右するに足りる証拠がないこと
は,前記(8)イ(ア)に述べたとおりである。また,上記ア(ウ)b
に関しては,被告Zは,陳述書において,単にOが原告Jのほほを平手
で叩いたことはない旨の記載をするのみであるが,この点については被
告ZがOの行動をすべて把握していたわけではないから信用するに足り
ず,他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(エ)被告Zは,上記ア(エ)の事実を否認し,同被告の陳述書には,
判をしばしば押さないなどということはない旨の記載があるが,前記
(2)イ(ウ)で認定したとおり,園児らが,同被告から,学校の通知
表に,保護者としての印を押してもらうことになっていたにもかかわら
ず,同被告が,園児らが持参する通知表に,容易に保護者としての押印
を与えなかったことがしばしばあったという事実は明らかであり,これ
に加え,証拠によれば,原告Jが,平成5年9月9日,市川児相の職員
に対し,被告Zが通知表を見てくれず,押印をしてくれない旨訴えいて
いる事実が認められることからしても,上記認定事実にかかる原告Jの
陳述書の記載は信用でき,これに対し,被告Zの陳述書における上記記
載は信用性が劣ると言わざるを得ず,採用できない。他に上記ア(エ)
の認定を覆すに足りる証拠はない。
ウ違法性
被告Zの,原告Jに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにおいて懲
戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な
懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
エ損害
原告Jは,被告Zの原告Jに対する本件一連の不法行為により,相当程
度の精神的損害を被ったものと認められる。
()原告K10
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない。
(ア)被告Zは,原告Kが中学校1年生になったころ以降,その在園中
(),,平成元年4月ころから平成2年4月ころまでの間同原告に対し
しばしば,算数の計算を間違えた等のささいな理由で,平手やげんこ
つで,同原告の顔や頭を殴るという暴行を加えた。
(イ)a被告Zは,原告Kが中学校1年生だった平成2年3月ころ,同
原告の通知表に関することを理由に,同原告の顔を殴り,そのため同
原告の顔には青くあざができた。
b被告Zは,原告Kが中学校1年生だったころ(平成元年4月から平
成2年3月,園の保母室の入り口周辺において,その場にあった金)
属バットで,同原告のももを叩いた。
(ウ)被告Zは,原告Kの在園中(平成元年2月から平成2年4月ころ
までの間,同原告が食事を取るのに時間がかかることに立腹し,1時)
間ないし3時間にわたり,食堂から退出させなかったことがたびたびあ
った。
(エ)a原告Kが中学校2年生だった平成2年4月29日,同原告の班
の当番の小学生が,朝食後にテーブルを拭くのを失念した。このこ
とに関し,被告Zは,その日の夕方に同原告の班の全員を園長室に
呼び,高学年の4人を殴る等して叱責した。
bそれにもかかわらず,翌日も当番がテーブル拭きを失念し,翌々日
も失念したため,その日の夕食の時間,食堂へ行き,そこにいた被告
Zに班の全員で謝りに行ったところ,被告Zは,食堂から出て行くよ
うに言った。
その後,被告Zが,上記班において今後どうするのか決めるよう指
示をしたので,原告Kらは,班における対策を話し合ったが,なかな
か被告Zのところに行けずにいたところ,保母に居室に帰るよう言わ
れたため,結局その日は,その後も夕食を取らず,被告Zのところへ
も行かないままになった。
翌朝(同年5月2日,原告Kが,上記当番の件について,班の他)
の園児らと相談していたところ,保母に「学校から帰ってきたら,,
園長のところに行くように」と言われた。。
c原告Kは,学校から帰ってきて被告Zにところに行ったら,被告Z
に殴られると思い,帰園することが怖くなった。そして,ゴールデン
ウィークに入って,学校に行かずに毎日園にいるようになると,その
間同被告に徹底的に標的にされ,暴力をふるわれると思うと同時に,
これまで同被告から受けた暴力を考えると,いつか病院に入る等の事
態になりかねないと考えた。
そのため,原告Kは,その日学校の同級生に相談し,下校後,帰園
せずに,船橋市aにある上記同級生の家に行ったが,そこで上記同級
生の母親に園における生活を話したところ,親元に帰るよう勧められ
た。
そこで,原告Kは,午後1時ころ,上記同級生の家を出て,所持金
もない状態で,東京都江東区bにある母が住んでいるアパートに向か
い,途中警察官の姿等を見かけると声を掛けられるのではないかと緊
張しつつも,隠れるようにしながら走り,同日午後8時半ころ,上記
アパートに到着した(以下「本件無断外出」という。。)
イ事実認定の補足説明
(ア)a被告Zは,上記ア(ア)の事実を否認し,同被告の本人尋問に
おいて,本件各請求原因事実をとおし,園児らの問題行動を止めるた
めに,園児らを殴ったことはあるかもしれないが,懲罰として殴った
ことはない旨供述する。
bしかし,証拠によれば,被告Zが,原告らの在園中,園児らを,懲
罰の名目で,日常頻繁にげんこつないし平手で殴っていた事実が優に
認められ,この認定に反する上記供述は信用できない。
cまた,被告Zは,同被告の陳述書において,原告Kの供述が信用で
,,,,きない旨記載するが証拠によれば原告Kは平成2年5月9日に
市川児相の職員に対し,被告Zに顔をげんこつで殴られた時の状況に
つき,具体的に訴えたり,被告Zに殴られるのが怖くて,学校から園
に帰れず,母親のところにきた旨述べたりした事実が認められ,また
証拠によれば,平成6年5月27日,原告Jが,市川児相の職員に対
し,姉の原告Kのみが家庭引取りとなった件につき,原告Kに対して
は,本当にひどい体罰だったので仕方ないと思う旨述べた事実が認め
られる。これらの事実に照らせば,上記ア(ア)の認定事実に関する
原告Kの供述及び陳述書の記載部分は信用するに足り,上記ア(ア)
の認定事実を覆すに足りる証拠もない。
なお,原告K主張の請求原因事実中,被告Zにおしりを100回叩
かれたとの事実は,本件全証拠によっても認定できない。
(イ)a被告Zは,上記ア(イ)の各認定事実に関し,原告Kの陳述書
においては,金属バットで顔を殴られあざができた旨の記載があるの
に対し,同原告本人尋問において,金属バットでももを殴られ,顔は
げんこつで殴られあざができたとの供述へと変遷したこと,仮に金属
バットを使ったとしてもけがの程度から殴ったとの主張は大げさであ
ることから,原告Kの言い分は信用できない旨,同被告の陳述書に記
載する。
b上記ア(イ)aについて
しかし,原告Kは,本人尋問において,中学時代に被告Zから殴ら
,,れてあざができその際母親と面会したことがある旨供述するところ
証拠によれば,平成2年5月に,市川児相の職員が上記母親に対し聴
,,,聞を行ったところ上記母親が平成2年3月に原告Kに面会した際
同原告の顔に3か所の青いあざがあったため,事情を聞くと,被告Z
に通知表のことで殴られた旨述べた事実が認められる。かかる事実に
照らせば,原告Kの上記供述は信用できる。
c上記ア(イ)bについて
(a)また,被告Zが,原告らの在園中,園児らを金属バットでた
たくことがあった事実は,前記(3)イ(カ)aに認定したとおり
である。
(b)そして,原告Gによれば,原告Kが金属バットで殴られたこ
とが,園児らの間で話題となった事実が認められ,また証拠によれ
ば,原告Iらが,平成8年4月に,弁護士に対し,原告Kが金属バ
ットで殴られ出血したことがある旨報告した事実が認められるな,(
お,話者「B」として,原告Bの姉が金属バットで殴られた旨()
供述したかのような記載があるが,原告Bには姉はいないため,上
記話者の記載は「H」の誤記と認められる。,()。)
以上を総合すれば,被告Zから金属バットによる暴行を受けた旨
の原告Kの供述は信用できる。なお,被告Zは,金属バットで殴っ
た場合には,骨折等するため,かかる事実がない以上原告Kの主張
は大げさであり信用できない旨,同被告の陳述書に記載する。この
点確かに,金属バットで力一杯殴られた場合には骨折等に至るとこ
ろ,原告Kにつきそのような事実は認められないため,かかる強度
はなかったものというべきである。しかし,こづく程度であれば,
上記認定のように,園児らの間で話題になったり,出血したとの記
,,憶が残ったりするとは考えがたいことに加え原告K本人尋問から
上記暴行が強い衝撃を伴うものとして同原告の記憶に残っていると
認められることからすると,少なくとも被告Zは,叩いたと評価す
べき程度には,勢いをつけ,また力を入れて,上記暴行を加えたと
認めるのが相当である。
d以上のとおり,上記ア(イ)にかかる原告Kの本人尋問における供
述は,同原告の陳述書の記載とは齟齬は認められるものの,他の証拠
及び間接事実に照らせば,いずれも信用することができ,上記認定に
反する証拠は採用しない。
(ウ)被告Zは,上記ア(ウ)の認定事実に関し,事実関係を否認し,
,,同被告の陳述書において原告Kの言い分は信用できない旨記載するが
証拠によれば,原告らの在園中,園では食事をすべて食べ終わるまで,
数時間かかっても食堂で食事を続けなければならず,それが被告Zが見
ているときには,特に厳しく守らなければならなかった事実及び被告Z
が食事を取るのが遅い園児らに罰を与えることがたびたびあった事実が
認めれることに照らせば,上記ア(ウ)の認定事実に関する原告Kの供
述及び陳述書の記載部分は信用するに足り,また上記認定を覆すに足り
る証拠はない。
(エ)被告Zは,上記ア(エ)の事実に関し,原告Kが園に無断で外出
したことはあるが,請求原因として主張されているような事実はなく,
同原告は,他の園児らに,早く家に帰りたい旨よく言っており,本件無
断外出も,ちょっとしたことをきっかけに園を飛び出してしまったもの
である旨主張し,証拠として児童記録票を挙げる。
この点たしかに,同書証には,平成2年4月ないし6月の「生活指導
結果評価欄」に,同原告につき「子供達の間では,早く家に帰りたい,
という事をよく言っていたらしく,ちょっとしたことをきっかけに,園
を飛び出してしまう」旨の記載がある。。
しかし,証拠によれば,本件無断外出直後に,上記ア(エ)で認定し
た経緯につき,原告Kが市川児相において供述しているのに対し,それ
を受けて児相職員によって行われた被告Z及びOとの面接において,O
が,原告Kは嘘は言っていない旨述べていることからしても,原告Kの
上記供述内容は信用できるものである。他方,上記児童記録票は,園の
担当職員が,被告Zに提出する前提で記載しているものであり,きっか
けがちょっとしたことか否かは当該職員による評価にすぎないものであ
って,上記ア(エ)の認定を左右するには足りず,他に上記認定を覆す
に足りる証拠はない。
ウ違法性
(ア)前記ア(ア)及び(イ)で認定した,被告Zの原告Kに対する一
連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照
らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはでき
ず,違法である。
(イ)ただし,前記アに認定した被告Zの原告Kに対する行為のうち,
(),,,()ウに関しては違法といえるまでの事情は認められずまたエ
に関しては,請求原因として原告Kが主張する被告Zの行為自体につい
ては,不法行為と認めるに足りず,むしろここで認定された事実は,被
告Zの一連の不法行為の結果ないしそれによる原告Kの損害を推認させ
る間接事実というべきものであり,上記一連の不法行為に含むものでは
ない。
エ損害
原告Kは,被告Zの原告Kに対する本件一連の不法行為により,相当程
度の精神的損害を被ったものと認められる。
()原告G11
ア認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することが
できない。
(ア)a被告Zは,原告Gが中学校1年生だった夏休みの初めころ(平
),,成3年7月下旬から8月上旬ころ同原告が昼食を食べ終わるのが
班で一番遅かったことを理由に,約24頁ある新聞紙一紙分につき,
そこに記載されている全ての漢字の書取りをするよう指示した。
b上記指示は,具体的には,上記新聞紙のうち,毎日一定の紙面分の
漢字を書き取らせるというものであった。その量は,決められた時間
内に容易に書き終えられる量ではなかったが,被告Zは,上記指示を
出した日の夕食以降,原告Gが食事の時間になっても指定された量の
漢字の書取りを終えていないことを理由に,同原告に食事を取ること
を許さなかった。そのため同原告は,園における食事は,食事の時間
に被告Zがいなければ決められた時間に取ることができたが,被告Z
が食堂にいるときには食事を取ることができなかった。このような時
には,保母が被告Zの目に付かないような時間になってから,同原告
に食事を与える場合もあった。
cしかし,上記夏休みの終わりころ(平成3年8月下旬ころ,原告)
Gは,食事を与えられない日が3日間続き,4日目の日曜日,自分の
居室で立ち上がろうとした際に,力が入らず,その場にへたり込んで
しまった。
d園では,毎年年度替わりの際,園児らの居室の新たな割当てが発表
されるが,上記新聞紙一紙分の漢字の書取りは,翌年の年度替わりの
際(平成4年3月末ないし同年4月初めころ)にも終了していなかっ
た。しかるに被告Zは,原告Gが上記新聞紙一紙分の漢字の書取りを
終えていないことを理由に,同原告の新たな居室を発表しなかった。
そのため同原告は,従前の居室は使用できないため,私物等を運び
出したのに,新たに生活すべき居室が与えられない状態となり,その
後約1か月にわたり,園の廊下で起居することとなった。その間同原
告は,布団も与えられなかったため,就寝時はシーツを体に掛け,そ
れでも寒いので,その上に自分の衣類を掛けて寝ていた。
e上記新聞紙一紙分の漢字の書取りは,開始から1年半以上続けても
完了しなかったが平成4年度から平成5年度への年度替わりの際平,(
成5年3月末ないし同年4月初めころ,新たな年度における同原告)
の担当職員が被告Zに話をした結果,打ち切られることとなった。そ
れまでの間,原告Gは,上記bのような生活を強いられた。
(イ)a(a)原告Gが中学校1年生だった平成3年7月20日ころ,
,。学校のベランダで右肩を打ち右腕が肘から上に上がらなくなった
その当時,毎年学校が夏休みの時期に,県の児童福祉施設が参加す
る球技大会が行われていたが,恩寵園の園児らも上記球技大会に参
加しており,同年の夏休みの時期も,同年8月20日に予定されて
いた上記球技大会におけるソフトボールの試合に向け,被告Zの指
導監督下に,園児らによるソフトボールの練習が行われた。
(b)同年7月24日ころに行われた上記練習の際,被告Zが練習
に参加している園児ら全員に腕立て伏せを行うよう指示したのに対
,,(),「。」し原告Gが上記aの理由により腕が痛くてできません
旨訴えたところ,被告Zは,同原告に対し,片腕でも腕立て伏せを
やるよう申し向けた。
(),,cそこで原告Gが片腕で腕立て伏せをやろうと試みたところ
身体を支えきれずに倒れてしまった。すると被告Zは,同原告の方
へ向けてボールを投げ,そのボールは,地面でバウンドして原告G
,,。の顔に当たり同原告は顔の感覚がなくなるほどの痛みを感じた
(d)翌日,同原告が保母に連れられて病院へ行ったところ,右肩
が骨折している旨の診断がされた。その後,同原告は右腕を包帯で
つっていたが,それを見ても被告Zは,上記(b)及び(c)の事
実につき,同原告に対し謝罪をしなかった。
b原告Gが中学校2年生だった平成4年8月20日にも前記球技大会
が予定されており,この年の夏休み中(平成4年7月21日から同年
8月19日までの間)にも,ソフトボールの練習が行われたが,原告
Gは,前記骨折の後遺症で,肩から腕が回せず,ボールを遠くに投げ
ることができなかった。
これを見た被告Zは,原告Gにキャッチャーの役,他の園児ら20
名くらいにピッチャーの役を割り当て,ピッチャー役の園児らを一列
に並ばせると,順次同原告に対してボールを投げさせ,それを同原告
がキャッチして投げ返し,同原告にボールを投げた園児がそれをうま
くキャッチできたら,その園児は列から離れ,うまくキャッチできな
ければまた列の最後尾に並び,次の園児に交替するということをやら
せた。
原告Gは,2回に1回程度しかまともにボールを投げ返せなかった
ため,ピッチャー役の園児がなかなか減らず,原告Gはそのために他
の園児らが自分を恨んでいるのではないかとの心境にならざるを得な
かった。
(ウ)原告Gが,中学校3年生の後半ころ(平成5年10月ころから平
成6年3月ころ,自己の居室で小学生の園児と遊んでいたところ,被)
告Zは,同原告が就職活動をすべき時期に遊んでいるとして,同原告を
しかりつけた。
その際,同原告が,被告Zに殴られることを恐れて,顔を伏せ,顔の
前に手を上げて防御しようとしたところ,同被告は,同原告を上記居室
内の二段ベッドのはしごの前に立たせ,後ろ手にさせて,近くに落ちて
いたひもで同原告の両手を上記はしごに縛り付けた。
そのうえで,同被告は,同原告の顔や腹部を約10回くらい殴り,そ
の合間に,殴るふりをして殴らないという動作もしたが,同原告はその
度に,顔をよけようとする等,おびえる反応を示さざるを得ず,同原告
は同被告がその反応を見て楽しんでいると感じた。
その間,同原告は,その場から逃れたいとの思いで,縛られた手のひ
もを解こうともがいたため,同原告は,手首の皮が切れ,出血をする傷
害を負った。同原告の手は,同被告の上記暴行が終わるころにははしご
から外れたが,同被告は,自ら上記ひもを解くことはしなかった。
イ事実認定の補足説明
(),(),。ア被告Zは上記アアの認定事実に関し請求原因を否認する
aそして,上記ア(ア)aに関し,被告Zは,同被告の本人尋問及び
陳述書において,原告Gに新聞紙の漢字の書取りをさせたことは認め
つつも,罰としてではなく,学力向上のためである旨供述ないし記載
する。
しかし,書取りを指示された契機に関する原告Gの供述及び陳述書
の記載が,その際の昼食の献立,食べるのが遅くなった理由,指示が
出された際や退園後の心境等につき具体的であり信用性が高いのに加
え,被告Zの上記弁解は,学力向上のためであれば新聞紙ではなく他
に適切な教材がある点で不合理であり,信用できない。
bまた,上記ア(ア)b及びcの認定事実に関し,被告Zは,同被告
の本人尋問及び陳述書において,毎日の書取りの量が一定の紙面分で
あったことを除き,これを否認する供述及び記載をする。
しかし,食事の時間になっても決められた分量の書取り終わらず,
同原告が食事の時間にも書取りをやっていたことがあった事実は,同
被告の本人尋問からも認められ,また同被告が園児らに食事を取るこ
とを許さないことが頻繁にあった事実は,前記(1)イ(エ)a及び
(2)イ(ア)で認定したとおりである。
これらの事実に加え,上記ア(ア)b及びcに関する,原告Gの本
人尋問における供述及び陳述書の記載は,食事を与えられなかったと
きの心境,4日目に食事を取った経緯,献立等に関し,相当に具体的
であり,特に3日間食事を与えられなかった後の体の状況,4日目に
食事を取った経緯及びその際の身体的反応については,体験していな
ければ表現できない程度に迫真性に富むものであり,信用性が高い。
,。以上に照らし被告Zの上記供述及び陳述書の記載は信用できない
cそして被告Zは,上記ア(ア)dの事実につき,請求原因を否認す
る主張をするも,この点に関する同被告の本人尋問における供述はあ
いまいであって信用できない。
d以上より,上記ア(ア)の各認定に反する被告Zの本人尋問におけ
る供述及び陳述書の記載は採用できず,他に上記認定を覆すに足りる
証拠はない。
(イ)a上記ア(イ)aの認定に関し,被告Zは,請求原因事実を否認
し,同被告の陳述書において,ソフトボールの練習を無理強いしたこ
とはない旨記載し,本人尋問においても,被告Zにおいて原告Gから
練習免除を申し出られたことは記憶にない旨供述する。
しかし,証拠によれば,被告Zがソフトボールに関し,園児らに無
理な練習を強いていた事実が認められる。これに加え,上記認定事実
に関する原告Gの本人尋問における供述及び陳述書の記載が具体的で
あることからしても,原告Gの上記供述及び陳述書の記載の信用性は
高い。これに比して,被告Zの上記供述及び陳述書の記載は,信用性
が劣るといわざるを得ず,採用できない。他に上記ア(イ)aの認定
を覆すに足りる証拠はない。
なお,被告Zが原告Gの方へ向けてボールを投げたときには,園児
らは腕立て伏せをしていて,被告Zにおいてボールを使用する練習が
行われていたものとは認められないこと,及びバウンド後のボールに
よって上記のような痛みを感じるということは,相当強くボールが地
面に投げつけられたと認められることに照らすと,被告Zは,同原告
の方へ向けて故意に上記ボールを投げつけたと認めるのが相当であ
る。
b上記ア(イ)bの認定に関し,被告Zは,請求原因事実を否認する
が,上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(ウ)被告Zは,上記ア(ウ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
し,同被告の本人尋問及び陳述書においてもこれを否認する旨の供述及
び記載をする。
しかし,被告Zの上記本人尋問における供述及び陳述書の記載が,請
求原因事実を否認するに止まるものであるのに対し,上記ア(ウ)の認
定事実に関する原告Gの本人尋問における供述及び陳述書の記載は,具
体的で迫真性に富むものであり,また証人Mが上記認定事実に該当する
事実があった旨証言するのに加え,証拠によれば,同被告が,同原告に
対し上記ア(ウ)の場合以外にもいわゆるフェイントをかけたことがあ
った事実,及び同原告が被告Zに怒られると顔を防御しようとする習慣
があった事実及び防御しようとする同原告を同被告が殴ったことがあっ
た事実が認められることに照らしても,原告Gの上記供述及び陳述書の
記載は信用できる。よって,被告Zの上記供述及び陳述書の記載は採用
できず,他に上記ア(ウ)の認定を覆すに足りる証拠はない。
ウ違法性
被告Zの,原告Gに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにおいて懲
戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な
懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
エ損害
被告Zの原告Gに対する本件一連の不法行為により原告Gが被った精神
的損害について判断するに,上記一連の不法行為が,長期間かつ絶え間な
く継続したものであって,それが原告Gにとっては家庭代わりの場所にお
いて,そこで生活をしていかねばならないという状況下で強制されたもの
であること,原告Gに懲戒に相当する落ち度も認められないのに,理不尽
に肉体的苦痛及び疎外感ないし焦燥感を与えられたこと,その他有形力行
,,使の程度理由及びその結果等本件記録上現れた一切の事情を考慮すると
原告Gの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,80万円と認めるのが相当
である。
2争点2(被告Zを公務員とみなした被告県の国賠責任)について
(1)認定事実
,(),前記前提事実証拠各項末尾に掲記のもの及び弁論の全趣旨によれば
以下の事実が認めれらる。
ア法50条7号の費用支弁について
(ア)法50条7号は,都道府県が,同法27条1項3号に規定する措
置を採った場合において,入所又は委託に要する費用のほか,入所後の
保護につき,法45条に基づき厚生大臣が定める最低基準を維持するた
めに必要な費用は,都道府県が支弁等する旨定める(以下50条7号に
基づく費用を「法50条7号措置費」という。,。)
(イ)法50条7号措置費の種類,支弁方法等は,具体的には「児童,
福祉法による入所施設措置費国庫負担金の交付基準について(昭和4」
),,8年4月26日厚生事務次官通知に定められているところ同通知は
上記措置費の種類及び支弁額の決定につき,概要以下のように定める。
,,,a法50条7号措置費は事務費及び事業費に大別され事務費とは
児童福祉施設を運営するために必要な職員の人件費その他事務の執行
に伴う諸経費であり,事業費とは,事務費以外の経費であって,施設
に入所している措置児童等に直接必要な諸経費を総称したものをい
う。
bその支弁額は,各年度当初に都道府県知事及び政令指定都市の長等
によって定められた措置児童1人当たりの措置費の単価(以下「保護
」。),,単価というを基準として算出されるところ事業費については
保護単価を基準に,各月ごとの措置児童数に応じた額が支弁され,事
務費については,措置児童数の変動に関係なく固定的に保障されるべ
き経費であることから,保護単価に施設の定員を乗じた額が支弁され
る。もっとも,事業費については,その施設に対する法50条7号措
置費の支弁義務者が複数いる場合で,その支弁義務者が協議を行い,
措置人員にかかわらず支弁すべき人員(以下「協定人員」という)。
を定めて支弁することとしている場合には,保護単価にその協定人員
を乗じた額が,各支弁義務者から支弁される。
イ被告恩寵園に対する法50条7号措置費の支弁について
(ア)被告県による支弁
被告県は,原告らの在園中,被告恩寵園に対し,法50条7号に基づ
き,その措置児童数に応じた事務費を支弁してきたが,上記措置児童数
には,原告Dを除く原告らに対応する員数も計上されている。
また,事業費に関し,被告県及び千葉市は,千葉市が政令指定都市と
なった平成4年度以降,前記ア(イ)bの協議を行い,協定人員を定め
て支弁することとしたため,同年度以降,被告県は,その措置児童数に
かかわらず,被告恩寵園の定員のうち,被告県の負担すべき協定人員に
対応する事業費を支弁してきた。
(イ)千葉市による支弁
千葉市は,原告Dの在園中,被告恩寵園に対し,地方自治法252条
の19第1号,児童福祉法59条の4並びに同条の委任する同施行令1
8条の3及びその委任政令たる地方自治法施行令174条の26第1項
に基づき,児童福祉法50条7号の定める事務費を,その措置児童数に
応じて支弁してきたが,上記措置児童数には,原告Dに対応する員数も
計上されている。
また,千葉市は,被告県との上記協議に基づき,原告Dの在園中も,
その措置児童数にかかわらず,被告恩寵園の定員のうち,千葉市の負担
すべき協定人員に対応する事業費を支弁してきた。
ウその他の費用支弁について
(ア)被告県による支弁
被告県は,原告らの在園中,被告恩寵園に対し「千葉県児童福祉施,
設等県単措置費実施要領」に基づき,被告県が措置した児童の処遇向上
を図るために必要な費目について,被告県の単独事業により支弁すべき
費用として,県単児童保護措置費を支弁してきた。これは,被告県によ
る措置児童数に応じて支弁してきたものであるが,原告らの在園中にお
いては,上記措置児童数に,原告Dを除く原告らに対応する員数も計上
されている。
(イ)千葉市による支弁
千葉市は,原告Dの在園中,被告恩寵園に対し「千葉市児童福祉施,
設等市単措置費実施要領」に基づき,千葉市が措置した児童の処遇向上
を図るために必要な費目について,千葉市の単独事業により支弁すべき
費用として,市単児童保護措置費を支弁してきた。これは,千葉市によ
る措置児童数に応じて支弁してきたものであるが,原告Dの在園中にお
いては,上記措置児童数に,原告Dに対応する員数も計上されている。
(2)判断
ア(ア)法は,国及び地方公共団体が,保護者とともに,児童を心身とも
に健やかに育成する責任を負うと規定し(法2条,その責務を果たさ)
せるため,都道府県に児童相談所の設置を義務付け(法15条,保護)
者がないか又は保護者による適切な養育監護が期待できない児童(以下
「要保護児童」という)については,都道府県は,児童相談所の長の。
報告を受けて養護施設に入所させるなどの措置を採るべきこと(法27
条1項3号,保護者が児童を虐待しているなどの場合には,都道府県)
は,親権者又は後見人(以下,併せて「親権者等」という)の意に反。
する場合であっても,家庭裁判所の承認を得て養護施設に入所させるな
どの措置を採ることができること(法28条,都道府県が3号措置に)
より児童を養護施設(国の設置する施設を除く)に入所させた場合,。
入所に要する費用のほか,入所後の養育につき法45条に基づき厚生大
臣が定める最低基準を維持するために要する費用は都道府県の支弁とし
(法50条7号,都道府県知事は,本人又はその扶養義務者から,負)
担能力に応じて費用の全部又は一部を徴収することができること(法5
6条2項,養護施設の長は,親権者等のない入所児童に対して親権を)
,,,,行い親権者等のある入所児童についても監護教育及び懲戒に関し
その児童の福祉のため必要な措置を採ることができること(法47条)
などを規定する。
このように,法は,保護者による児童の養育監護について,国又は地
方公共団体が後見的な責任を負うことを前提に,要保護児童に対して都
道府県が有する権限及び責務を具体的に規定する一方で,養護施設の長
が入所児童に対して監護,教育及び懲戒に関しその児童の福祉のため必
要な措置を採ることを認めている。上記のような法の規定及び趣旨に照
らせば,3号措置に基づき養護施設に入所した児童に対する関係では,
入所後の施設における養育監護は本来都道府県が行うべき事務であり,
このような児童の養育監護に当たる養護施設の長は,3号措置に伴い,
本来都道府県が有する公的な権限を委譲されてこれを都道府県のために
行使するものと解される。
したがって,都道府県による3号措置に基づき社会福祉法人の設置運
営する養護施設に入所した児童に対する当該施設の職員等による養育監
護行為は,都道府県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解する
のが相当である(最高裁平成17年(受)第2335号,第2336。
号同19年1月25日第一小法廷判決・民集61巻1号1頁)
(),,,イそうすると前記前提事実のとおり原告Dを除く本件原告らは
いずれも被告県の行った3号措置により園に入所したものであるから,
上記原告らに対する関係では,被告Zによる養育監護行為は,被告県の
公権力の行使に当たる公務員の職務行為というべきであり,被告県は,
国賠法1条1項により,被告Zの原告らに対する前記1の各不法行為に
つき,その損害を賠償する責めを負うものと認められる。
イ原告Dとの関係について
これに対し,原告Dは,前記前提事実のとおり,千葉市が委任した千葉
市児相所長によって入所措置が行われている。そこで,同原告に対する関
係でも,被告Zの養育監護行為が被告県の公権力の行使に当たる公務員の
職務行為といいうるかにつき,以下検討する。
(ア)この点,前記前提事実(3)イで述べたとおり,いわゆる政令指
定都市は,地方自治法252条の19第1項1号,児童福祉法59条の
4第1項,同施行令18条の3及び地方自治法施行令174条の26に
より,児童福祉法15条に基づく児相設置義務を負い,同法27条1項
3号及び28条の各措置を行う権限を有し,費用に関する同法50条7
号及び56条2項に定める権利義務を有する。そして,児童福祉法47
条の規定は政令指定都市が入所措置した児童との関係でも,その養護施
設の長に当然に適用されるところ,これらの法の規定及び趣旨に照らせ
ば,前記ア(ア)に述べたのと同様の理由により,政令指定都市による
3号措置に基づき養護施設に入所した児童に対する関係では,当該養護
施設の職員等の養育監護行為は,当該政令指定都市の公権力の行使に当
たる公務員の職務行為としての側面を有するといえる。このことは,政
令指定都市の設置する児相所長が,政令指定都市の長の委任を受けて3
号措置を行った場合でも異なることろはない。
したがって,前記前提事実(3)イ及び(4(ク)に照らし,原告)
Dに対する関係では,被告Zの養育監護行為は,千葉市の公権力の行使
に当たる公務員の職務行為と認めることができる。
(イ)しかしながら,原告Dに対する被告Zの養育監護行為は,以下の
理由により,なお被告県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為でも
あると解するのが相当である。
a養護施設に入所した児童に対する当該養護施設の職員等の養育監護
行為が,地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解
される場合,その所以は,入所後の施設における養育監護が本来当該
地方公共団体が行うべき事務であり,当該職員等が本来地方公共団体
の有する公的な権限を委譲されて,これを当該地方公共団体のために
行使するものと解される点に求められる。
bこの点,県知事は,養護施設に関しては,社会福祉法人一般に対し
て有する社会福祉事業法上の監督権限のみならず,特に,法46条に
基づき,法45条の最低基準を維持するための監督権限を有し,さら
に,法58条に基づき,法35条4項の規定により設置した養護施設
が法若しくは法に基づいて発する命令又はこれに基づいてなす処分に
違反したときは,同項の認可を取り消す権限を有しているが,上記各
権限は,本件において,千葉市が児童を園に入所措置した場合にも,
なお県知事に留保されるものである。
しかるところ,法45条及び46条が,最低基準の定立義務及びそ
の維持の監督権限を定めたのは,憲法25条,法1条ないし3条の趣
旨に鑑み,児童がひとしく適正な施設のもとに養育監護されるべきこ
とを目的としたものと解され,また法58条が,上記認可取消権限を
定めたのは,養護施設において,入所児童に対し,児童の健全育成と
いう法の趣旨に沿った養育監護を行わせしめるためと解される。
そうである以上,現に養護施設に入所措置されている児童に対する
関係では,仮に千葉市が入所措置した場合であっても,被告県が養育
監護行為の事務の主体としての責任から完全に解放されているとはい
えないというべきである。
以上からすれば,千葉市が入所措置した児童に対する関係において
も,当該児童が現に入所した後の施設における養育監護については,
千葉市が行うべき事務であると同時に,少なくとも国賠法1条1項の
責任主体の観点においては,被告県が行うべき事務であると評価され
てもやむを得ない。そしてこのような児童の養育監護に当たる養護施
設の長は,本来千葉市が有する公的な権限を委譲されてこれを千葉市
のために行使するのみでなく,入所後の児童に対して被告県が有する
公的な権限を委譲されてこれを被告県のために行使するものと解する
のが相当である。
cしたがって,本件において,少なくとも国賠法1条1項の責任主体
を検討する限度においては,千葉市による3号措置に基づき養護施設
に入所した原告Dに対する被告Zの養育監護行為は,千葉市の公権力
の行使に当たる公務員の職務行為であるとともに,被告県の公権力の
行使に当たる公務員の職務行為と解するのが相当である。
ウ被告県の主張について
(ア)上記ア(ア)の判断に関する主張について
a被告県は,法27条4項が,親権者等の意に反して3号措置を採る
ことはできない旨定めることをもって,入所後の施設における養育監
護は,親権者等の依頼に基づき,当該施設で行われるものであり,都
道府県の入所措置は,施設への入所措置をあっせんするものに過ぎな
いとして,養護施設の職員等による養育監護行為を都道府県の公権力
の行使に当る公務員の職務行為ということはできない旨主張する。
しかし,都道府県による法27条の措置が行われる児童は,児相所
長及び家庭裁判所により,法27条に基づく措置の必要性が認められ
て都道府県知事に報告ないし送致された児童であり,この中には,親
権者等の保護者がいない児童や保護者に観護させることが不適切と認
められる児童(要保護児童)も含まれる。そして,3号措置は,都道
府県が,その判断に基づき,同条1項1号ないし6号の措置のうちか
ら,その児童に適切な措置として3号措置を選択した結果,なされる
ものである。
このような経緯に照らせば,3号措置は,都道府県により,児童の
福祉のためにあくまで公権的に行われるものであることが明らかであ
り,単なる施設への入所のあっせんということはできない。
また,同条4項についても,そもそも3号措置の趣旨が,親権者等
による適切な監護養育が期待できない児童の保護にあることからする
と,親権者等が反対の意を表明しているときには3号措置を強行でき
ないにすぎないと解するのが相当であって,同項の定めによっても,
都道府県が3号措置を採る際,親権者等の承諾を得ることが必ずしも
必要となるものではない。
そうすると,3号措置に基づく施設への入所を,親権者等の依頼に
基づくものと解するのは相当でなく,その後の養育監護についても親
権者の依頼に基づくものと解することもできない。
以上より,被告県の上記主張は採用できない。
bまた,被告県は,社会福祉事業法4条,5条1項2号及び3号(平
成12年6月7日法律第111号による改正後の社会福祉法60条,
61条1項2号及び3号)において,社会福祉法人の地方公共団体に
対する独立性が認められているとして,養護施設の職員等による養育
監護行為を都道府県の公権力の行使に当る公務員の職務行為というこ
とはできない旨主張する。
しかし,社会福祉事業法5条1項2号及び3号は,あくまで「不当
な」関与及び援助要求を禁じているのであって,その趣旨とするとこ
ろは,民間の社会福祉事業を健全に発展させるために,国及び地方公
共団体はその責任に属する分野に専念すべきとの点にあると解され
る。そのうえでなお,同法が54条以下で,地方公共団体の社会福祉
法人に対する強い監督権限及び助成に関する定めを置いていることか
らすると,地方公共団体は法律上当然にかかる監督・助成主体として
の権限及び責任を負うものと解するのが相当である。
そうすると,同法5条1項2号及び3号の規定をもって,上記ア
(ア)に示した児童福祉法上の定めから導かれる判断を妨げる程の独
立性を,養護施設に認めることはできない。なお,社会福祉事業法4
条は,第一種社会福祉事業の事業主体を限定した規定にすぎず,同条
によって,社会福祉法人の地方公共団体に対する独立性を認めること
はできない。
以上より,被告県の上記主張は採用できない。
cさらに被告県は,国賠法1条1項の適用上,私人が公共団体の公権
力を行使しているというためには,当該公共団体が当該業務の主体と
いえる程度に私人の業務に関与していることを要する旨を主張する。
,,,しかし当該私人の業務が本来公共団体が行うべき事務であって
公共団体から委託を受けて行っているものであり,かつ上記委託にと
もない,当該私人が公共団体から公的権限の委譲を受け,それを当該
,,公共団体のために行使していると評価できる以上当該私人の業務は
それに対する公共団体の関与の程度を問題とするまでもなく,当該公
共団体の公権力を行使している公務員の職務行為と評価するのが相当
であって,被告県の上記主張は採用できない。
dまた,被告県は,入所措置の主体によって責任を負う主体が決まる
とすると,措置主体が異なれば,同じ施設で同等の養育監護を受けて
いる児童につき,責任主体が異なることとなり不合理である旨主張す
る。
しかし,前記ア及びイに判示したとおり,入所後の児童に対する養
護施設の職員等による養育監護行為につき,国賠法1条1項の責任を
負う主体は,単に入所措置の主体によって決まるものではなく,法の
規定及び趣旨を総合的に解釈し,当該養育監護行為について,誰が本
来的な事務及び権限の主体と解されるかによって決せられるものであ
る。したがって,被告県の上記主張は,その前提を欠くものであり,
また,入所措置の主体によって必ずしも責任主体が異なる事態とはな
らないことも前記判示のとおりである。
よって,被告県の上記主張は採用できない。
(イ)その余の主張について
被告県は,本件請求原因で主張される被告Zの各行為は,いずれも入
所児童に対する養育監護の一環とはいえないため,国賠法1条1項にい
う「職務を行うについて」なされたものとはいえない旨主張する。
しかし,国賠法1条1項にいう「職務を行うについて」に該当する行
為は,外形的にみて,加害公務員の行為が職務行為の外形を有すれば足
りると解されるところ,被告Zによる本件各行為は,被告Zが施設長を
務める養護施設内で,入所児童に対し,入所児童に対する施設長ないし
職員という立場を前提として行われたものであり,外形上,養護施設職
員が,入所児童に対して養育監護を行うにつきなされたものと認められ
る。
したがって,被告Zによる本件各行為は,国賠法1項1項にいう「職
務を行うについて」なされたものといえ,被告県の上記主張は採用でき
ない。
エ被告Z個人の責任について
(ア)国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務
員の職務行為に基づく損害については,国又は公共団体が賠償の責めに
任じ,職務の執行に当たった公務員は,個人として被害者に対しその責
任を負わないとしたものと解される(最高裁昭和28年(オ)第625
号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁等。)
これを本件についてみるに,原告らに対する被告Zの養育監護行為が
被告県の公権力の行使に当たり,被告Zの本件各不法行為により原告ら
が被った損害につき被告県が国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負
うことは前記判示のとおりであるから,本件において,被告Zは,民法
709条に基づく損害賠償責任を負わないというべきである。
(イ)aこれに対し,原告らは,本件が,平成19年最高裁判決と異な
り,児童の養育保護について直接責任を負うべき被告Zにおいて,故
意に行った行為の責任が問われている事案であることから,被告Z個
人も不法行為責任を負担すべき旨主張する。
しかし,公務員が,権限行使の意思を何ら有さないのに,職務行為
を装って,故意に他人に損害を加えたというような場合であればとも
かく,本件各不法行為は,被告Zにおいて,その職務行為である養育
監護行為を行うにつきなされたものであり,上記のような事情も認め
られないのであるから,本件各不法行為が故意に行われたものである
ことを前提としても,被告Zは個人としての責任を負わないとするの
が国賠法の法意と解される。
よって,原告らの上記主張は採用できない。
bまた,原告らは,被告Z及び被告恩寵園だけが被告とされた場合に
は,被告Z及び被告恩寵園は損害賠償責任を免れないところ,被告千
葉県を共同被告とした場合に,責任が免除されるのは,不合理である
旨主張するが,仮に被告Z及び被告恩寵園のみが被告とされていた場
合でも,本争点におけるこれまでの判断と同様の判断により,被告Z
個人の民法709条に基づく責任は認められないこととなる。
よって,原告らの上記主張は採用できない。
3争点3(監督義務違反を理由とした被告県の国賠責任)について
前記2に判示したとおり,被告県は,被告Zの養育監護行為につき行われた
不法行為に基づく損害について,上記養育監護行為が被告県の公権力の行使に
当る公務員の職務行為に該当するとの理由で国賠法1条1項の賠償責任を負担
するのであるから,本争点については判断するまでもない。
4争点4(被告恩寵園の使用者責任)について
(1)前記2で判示したとおり,被告Zの本件不法行為による損害について
,,()()は被告県が国賠法1条1項の賠償責任を負うところ前記22エア
に示した法の趣旨からすれば,国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に
損害を加えた場合であっても,当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力
の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠
償責任を負う場合には,被用者個人が民法709条の責任を負わないのみな
らず,使用者も同法715条に基づく責任を負わないと解するのが相当であ
る。
,,,したがって本件において被告恩寵園は被告Zの本件各不法行為につき
民法715条の責任を負わない。
(2)アなお,原告らは,本件が,平成19年最高裁判決と異なり,児童の
養育保護について直接責任を負うべき被告Zにおいて,故意に行った行為
の責任が問われている事案であることから,当該施設設置主たる法人も損
害賠償責任を負担すべきと主張する。
しかし,被告Zの本件各不法行為が故意に基づくものであることを前提
としても,本件においては,前記判示のとおり,被告Zに民法709条の
責任が認められないのであるから,その使用者たる被告恩寵園においても
民法715条の責任は負わないものと解すべきである。
イまた,原告らは,被告Z及び被告恩寵園だけが被告とされた場合には,
被告Z及び被告恩寵園は損害賠償責任を免れないところ,被告県を共同被
告とした場合に,責任が免除されるのは,不合理である旨主張するが,仮
に被告Z及び被告園のみが被告とされていた場合でも,争点3及び本争点
におけるこれまでの判断と同様の判断により,被告恩寵園の民法715条
に基づく責任は認められないこととなる。
ウよって,原告らによる上記(ア)及び(イ)の各主張は,いずれも採用
できない。
5争点5(消滅時効)について
(1)被告県が,原告Hらの各本訴請求につき,平成18年12月21日の
本件第32回口頭弁論において,消滅時効を援用する旨の意思表示を行った
事実は当裁判所に顕著であるところ,前記前提事実に加え,証拠(各項末尾
に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
ア原告Kに関する事情
(ア)Lは,平成2年3月11日,園において原告Kと面会した際,同
原告の両ほほ及び顎の3か所に,青くあざができているのに気が付き,
同原告から事情を聞いた。これに対し,同原告は,Lに,通知表のこと
。,,,,で被告Zに殴られた旨話したなおこれ以前に同原告はLに対し
被告Zから太い蝋燭で殴られた旨話していた。
(イ)Lは,原告Kが無断外出(本件無断外出)をした同年5月2日の
夜から,同原告が同月21日に市川児相に一時保護されるまでの間,L
のアパートで同原告と同居していたところ,同月9日までの間に,同原
告から,前記1()ア(エ)の事実経過を知らされた。また,このと10
きまでに,Lは,同原告から,通知表に被告Zの押印がもらえず,学校
に提出できなかったため,学校から園に電話がかかってきたことがあっ
たとの事実も聞いた。
(ウ)Lは,同月9日,本件無断外出を受けて,市川児相に行った際,
上記(ア)及び(イ)の事実を,児相職員に話した。
(エ)その後,原告Kは,同月31日付けで措置解除となり,Lはこの
ころから同原告と同居を始めたが,これ以降も,Lは,同原告の園にお
ける辛い経験や,原告J,同I及び同Hに対する被告Zの行為等に関す
る話を,原告Kから聞いた。
イ原告Jに関する事情
(ア)a原告Jは,平成5年9月3日,園に無断でL方に帰った。
その理由につき,同原告は,Lに対し,同年6月26日の夕食時,
同原告の班のテーブルが騒がしかったことを理由に,被告Zが怒り,
同原告を含む上記班の園児らに罰を与えたが,その後も怒り続けてお
り,同年9月1日の中学校の始業式にも,被告Zが制服を取り上げた
ため,同原告は出席できなかった旨述べた。
bLは,同月7日,市川児相の職員から電話がかかってきた際,上記
aの事実を上記児相職員に伝えた。
c原告Jは,同年10月1日に帰園するまでの間,Lと同居していた
が,その間,被告Zに暴力をふるわれること,正座をさせられること
及び食事を取らせてもらえないこと等を話し,家庭に引き取ってもら
いたい旨伝えた。
(イ)a原告Jは,平成6年5月9日,園に無断でL方に帰った。
その理由につき,同原告は,Lに対し,園において立たされたり,
学校に行けないようにされたり,食事も取らせてもらえない等と述べ
た。
bLは,同月18日,市川児相に電話をかけ,上記aの事実及び園に
おいて顔を叩かれることもあるようである旨を,児相職員に伝えると
ともに,自分が言える立場ではないが,そういうやり方はあまり良い
とは思えない旨述べた。
(ウ)原告Jは,その約1か月後の平成6年6月14日付けで措置解除
となり,このころからLと同居を始めた。
ウ原告Hに関する事情
(ア)Lは,平成5年8月9日,原告HがL方へ帰省した際,同原告の
,。,顔にあざがあることに気が付き同原告から事情を聞いたこれに対し
同原告は,Lに,入浴時にタオルを忘れ,他の園児に借りたところ,被
告Zに見つかり,殴られた旨話した。
(イ)Lは,同月11日,市川児相に電話をかけ,上記(ア)の事実を
児相職員に伝えたうえで,園には子供達が世話になっていて感謝してい
るが,子供がかわいそうになってしまった旨述べ,引き取りたいが,生
活が安定していないため,他の施設に入れないかを打診した。
エLによる面会等に関する事情
(ア)Lは,原告Hらが園に入所してから,原告Kが措置解除になるま
での16か月間に,約17回にわたり原告Hらに面会し,約10回にわ
たり原告Hらに電話をかけた。
(イ)Lは,原告Kの措置解除後,原告Jが平成6年5月9日に園に無
断で帰宅するまでの約4年間に,12回にわたり原告J,同I,同Hに
面会し,8回にわたり上記原告らに電話をかけた。
また,この間,上記原告らは,7回にわたり各回1週間程度,L方に
帰省した。
(),,ウLはその後原告I及び同Hが措置解除になるまでの約2年間に
3回にわたり上記原告らに面会し,上記原告らは,この間に4回にわた
り,各回1週間程度,L方に帰省した。
(エ)原告Hらは,L方に帰省した際及びLが面会に来た際に,自分や
その姉,妹ないし弟に対する被告Zの暴力等について,Lに話をしてい
た。
オ本件集団駆込み後の事情
(ア)平成8年4月3日及び同月4日ころ,上記両日に発生した本件集
団駆込みに関し,園における体罰が原因で園児らが集団駆込みした旨の
報道がなされた。
(イ)Lは,上記報道を,新聞及びテレビで見聞し,同月10日,市川
児相に電話をかけ,原告I及び同Hが心配であり,面接したい旨伝える
とともに,上記原告らに引取りの見込み等を,児相職員に話した。
なお,この際,児相職員は,Lに対し,報道は体罰が脱走の原因とさ
れているが,実際は以前のような体罰はなくなっており,園長と保母ら
の対立が原因である旨述べた。
(2)判断
ア(ア)本件においては,原告Hらが主張する被告Zの本件各不法行為が
行われた当時,原告Hらは,いずれも未成年者であったため,まず原告
Hらの親権者たるLにおける認識につき検討する。
a原告Kについて
前記認定事実のとおり,原告Kは,平成2年5月31日付けで措置
,,,解除になっているところそれまでもLは原告Kの無断外出の際や
面会及び電話を通じ,原告K及びその妹弟から,原告Kが被告Zから
暴力を受けた事実を聞き,またそのためにあざができることもあった
事実を確認しており,かつ上記措置解除後も原告KがLと同居し,自
分が園で経験した辛いことを話した事実が認められることからする
と,遅くとも上記同居を開始したころには,本件で原告Jが主張する
被告Zの不法行為についても,原告Kないしその妹弟から聞いて認識
していたものと認められる。
そうすると,原告Kが措置解除となった平成2年5月31日ころに
は,Lにおいて,上記不法行為の損害及び直接の加害者を知ったとい
うことができる。
b原告Jについて
前記認定事実のとおり,Lは,平成6年5月9日の原告Jの無断外
出の際,同原告が園で食事を取らせてもらえなかったことや,学校に
行けないようにされたこと等を同原告から聞いており,それまでも,
平成5年9月の原告の無断外出の際や,面会,電話ないし帰省に際し
て,原告J及びその妹弟から,原告Jが被告Zによって暴力を受けた
事実,登校を妨害された事実,正座をさせられ,食事を禁じられた事
実等を聞いていることからすると,遅くとも上記平成6年5月9日の
無断外出のころには,本件で原告Jが主張する被告Zの不法行為につ
いても,原告Jないしその妹弟から聞いて認識していたものと認めら
れる。
そうすると,平成6年5月9日ころには,Lにおいて,上記不法行
為の損害及び直接の加害者を知ったということができる。
c原告Iについて
前記前提事実及び前記認定事実のとおり,原告Iは,平成8年5月
24日付けで措置解除となっているところ,それまでもLは,面会,
電話ないし帰省に際して,原告Iないしその姉弟から,原告Iが被告
Zから暴力を受けた事実等を聞いていたと認められるのに加え,上記
措置解除後は家庭引取りとなっている事実からすると,遅くとも上記
措置解除及び家庭引取りとなったころには,本件で原告Iが主張する
被告Zの不法行為についても,原告Iないしその姉弟から聞いて認識
していたものと認められる。
そうすると,原告Iが措置解除及び家庭引取りとなった平成8年5
月24日ころには,Lにおいて,上記不法行為の損害及び直接の加害
者を知ったということができる。
d原告Hについて
前記前提事実及び前記認定事実のとおり,原告Hは,平成8年5月
24日付けで措置解除となっているところ,それまでもLは,平成5
年8月の原告Hの帰省の際や,その他の帰省,面会ないし電話に際し
て,原告Hが被告Zから暴力を受けた事実等を聞き,またそのために
あざができることもあった事実を確認していたと認められるのに加
え,上記措置解除後は家庭引取りとなっている事実からすると,遅く
とも上記措置解除及び家庭引取りとなったころには,本件で原告Hが
主張する被告Zの不法行為についても,原告Hないしその姉らから聞
いて認識していたいものと認められる。
そうすると,原告Hが措置解除及び家庭引取りとなった平成8年5
月24日ころには,Lにおいて,上記不法行為の損害及び直接の加害
者を知ったということができる。
(イ)また,前記認定事実によれば,Lは,被告Zの原告Hらに対する
暴行等につき,市川児相に繰り返し報告していたことが認められるので
あり,これによれば,Lは,被告県に対し,その責任を追及し,賠償を
求めることができたものと解するのが相当である。
イ一方,たとえLが,前記ア(ア)a及びbに認定した時点で,原告K及
び原告Jの賠償請求権を行使するに足りる認識を有していたとしても,前
(),,,記アアbの時点ではいまだ原告J自身が在園中でありそれ以降も
園には上記各原告らの妹弟である原告I及び原告Hが入所措置されている
状態であることに鑑みると,Lにおいて,園の施設長たる被告Zの不法行
為を主張して,被告県に賠償請求を行うのは不可能だったといわざるを得
ない。
ウ以上を総合すれば,原告Hらの前記2において認定された被告県に対す
る国賠法1条1項の賠償請求権の消滅時効は,いずれも遅くとも平成8年
5月24日には進行を開始すると解するのが相当であり,遅くとも平成1
1年5月24日の経過をもって,上記各消滅時効が完成したものと認めら
れる(国賠法4条,民法724条前段。)
よって,平成18年12月21日の本件第32回口頭弁論期日における
被告県による消滅時効の援用により,原告Hらの前記2において認めた被
告県に対する国賠法1条1項の賠償請求権は消滅したと認められる。
エ原告Hらの反論について
(ア)これに対し,原告Hらは,Lがその能力において法の予定するよ
うな親権者としての権利行使を期待できる人物ではなく,また従前の児
相の対応及び子を施設に預けている親の引け目から,被告Zの不法行為
につき損害賠償請求が可能と考えていなかったとの理由により,Lが法
定代理人として行使する賠償請求権の消滅時効も,原告Hら自身が権利
行使しうる時点まで,進行を開始しない旨主張する。
aしかし,前記認定事実のとおり,Lは被告Zの原告Hらに対する暴
力等につき,繰り返し児相に報告しているうえ,その際に被告Zの行
為を批判したり,ときには自ら児相に電話をかけて被告Zの暴行を訴
えたりしており,また,原告Hがあざを作って帰省した際や,本件集
団駆込みの報道に接した際には家庭引取りの必要性を認識してその見
込み等を述べたりしているのである。
そうすると,たしかに証拠によれば,Lは,原告Hらの在園当時,
自分自身で原告Hらを養育監護するに足りる能力は有していなかった
と認められるが,Lの上記言動からすると,Lにおいて原告Hらの親
権者として被告Zの不法行為につき権利主張する意思ないし能力は有
していた事実が窺えるのであって,前記認定事実に照らせば,本件全
証拠によっても,Lにつき親権者として本訴請求権の行使が期待でき
ない人物であったとまでは認めることはできない。
bまた,そもそも民法166条1項にいう権利を行使することができ
るとは,法律上の障碍がないことをさすというべきところ(最高裁昭
和48年(オ)第647号同49年12月20日第二小法廷判決・民
集28巻10号2072頁,従前児相が被告Zの行為を問題としな)
かったために,Lが被告Zの不法行為につき損害賠償請求が可能と考
えなかったとの事情は,Lの損害賠償請求権を行使するにつき,なん
ら法律上の障碍となるものではなく,消滅時効の進行を妨げる事情と
はなりえない。
この点は,施設に子を預けた引け目があったとの事情に関しても同
様であるうえ,原告Hらが全員措置解除となった後も,3年以上本訴
請求がされなかったことに照らせば,上記事情により,Lが賠償請求
権を行使ができなかったと解することはできない。
cよって,原告Hらの上記主張はいずれも採用できない。
(イ)また,原告Hらは,県知事が被告園に対する監督権限を発動しな
かったことで,被告Zの体罰等を継続させ,Lに権利救済の希望を失わ
せ,権利行使能力の涵養を阻害したとして,被告県による時効援用権援
用につき,権利濫用を主張する。
しかし,上記(ア)aで指摘したとおり,Lにおいて原告Hらの親権
者として被告Zの不法行為につき権利主張する意思ないし能力は有して
いたといえるのであって,県知事の被告園に対する監督権限不行使とい
う原告Hらの主張を前提しても,Lにおいて,権利救済の希望を失い,
被告県により権利行使能力の涵養を阻害されたとの事実を認めること
は,本件全証拠を以てしても困難である。
よって,原告Hらの上記抗弁は理由がない。
(ウ)なお,原告Hらは,被告県による消滅時効の主張が,最終準備書
面でなされたものであり,時機に遅れた主張である旨主張する。
たしかに,本訴が平成12年5月から係属しており,争点としても主
張立証の提出に困難を伴う性質のものではないことに照らせば,被告県
による上記主張が適時になされたものか,疑問なしとしない。しかし,
原告Kの被告Zに対する本訴請求権については,平成14年1月24日
の本件第6回口頭弁論期日において,被告Zにより消滅時効の主張がさ
れ,また,原告J,原告I及び原告Hの被告Zに対する本訴請求債権に
,,ついても平成18年5月25日の本件第29回口頭弁論期日において
被告Zにより具体的に消滅時効の主張がされ,その後も攻撃防御が行わ
れてきたところ,被告県の消滅時効の主張は,被告Zによる上記各主張
とほぼ同様である。これに加え,被告県による上記最終準備書面の提出
前に,原告Hらにおいて,被告県により消滅時効の主張がなされるもの
と仮定した反論の主張が一応なされていることからすれば,被告県によ
る消滅時効の主張が上記時点で行われたことにより,原告Hらの防御の
,,困難性が殊更に増大したものとは認められないのであって上記主張が
従前の訴訟状態に対する原告Hらの信頼を裏切るものであるとまではい
えない。
また,被告県の消滅時効の主張に対する原告Hらの反論は,被告Zの
消滅時効の主張に対する反論とほぼ重複するものであり,付加される事
情についても,従前被告県による監督義務違反の争点として攻撃防御が
尽くされてきた事実に基づくものであるから,被告県の消滅時効の主張
が上記時点で行われたことによって,新たな人証の取調べが必要となっ
た等の事情もなく,上記主張が訴訟の完結を遅延させたとはいえない。
したがって,被告県による上記主張は,時機に遅れたものとして却下
することが相当なものとまでは認められず,当裁判所においてこれを却
下することはしない。
第3結論
,,,,以上のとおり原告Aの請求は被告県に対して40万円原告Bの請求は
被告県に対して80万円,原告Cの請求は,被告県に対して40万円,原告D
の請求は,被告県に対して10万円,原告Eの請求は,被告県に対して10万
円,原告Fの請求は,被告県に対して30万円,原告Gの請求は,被告県に対
して80万円及びこれらに対する各不法行為の後の日である平成12年5月2
3日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の各支払を求める限度
で理由があるから,その限りにおいてこれを認容することとし,上記原告らの
被告県に対するその余の請求並びに被告Z及び被告園に対する請求は,いずれ
も理由がないからこれを棄却することとし,原告Hらの請求はいずれも理由が
ないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
千葉地方裁判所民事第5部
裁判長裁判官仲戸川隆人
裁判官三村義幸
裁判官鎌田泉

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