弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人に金員支払を命じた部分を破棄する。
     右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人柏木薫、同川津裕司、同清塚勝久、輔佐人牧順四郎、同牧哲郎、同小
橋信淳の上告理由第一点について
 原審は、本件実用新案は、耕耘機に連結するトレラーの駆動装置であつて、一審
判決添付別紙(一)の図面において、次の三要件、すなわち、(甲)耕耘機Aのミツ
シヨンの一部より動力を取り出し、耕耘機架台3の後方に延長伝動するようにし、
(乙)一方、トレラーB側は、リヤーシヤフトより架台8の前方ヒツチ金具12付
近に至る動力伝動装置を設け、(丙)その双方の動力結合点17を耕耘機Aとトレ
ラーBとを結合する結合ピン13の軸心線上C―Cに設ける、との要件からなつて
いるとしたうえ、
 (一) 右要件(丙)にいう「耕耘機AとトレラーBを結合する結合ピン13」の
耕耘機は、イ号物件(一審判決添付別紙(二)参照)においては、架台3の後方のギ
ヤボツクス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至るまでの機体であり、同じく
トレラーは架台8の前方のギヤボツクス12、横軸筒20に至るまでの機体であつ
て、この耕耘機部分とトレラー部分が施回自在な垂直伝動軸17A、施回支体13
によつて結合されているのであり、この両者が本件実用新案における結合ピン13
に該当する、
 (二) イ号物件にあつては、要件(甲)にいう「耕耘機Aのミツシヨンの一部よ
り動力を取出して、架台3の後方に延長伝動する」に該当する部分は、プーリー2
4、ベルト16、プーリー14、横軸27、ベベルギア17Bであり、要件(乙)
にいう「トレラーB側はリヤーシヤフトより架台8の前方のヒツチ金具12付近に
至る伝動装置を設ける」に該当する部分はベベルギヤ17C′、プロペラシヤフト
の前軸21、プロペラシヤフト15、リヤシヤフト25である、
 (三) そして、イ号物件にあつては、(二)のようにして二分された動力はベベル
ギヤ17B′垂直伝動軸17A、ベベルギヤ17Cによつて結合され、その結合点
がベベルギヤ17B′、17C有する垂直伝動軸17Aの軸心線C―Cにある、す
なわち、イ号物件にあつては、垂直伝動軸17Aは施回支体13とあいまつて、機
体を結合する結合ピン13の作用をすると同時に、前者の動力を後者へ伝動する動
力伝動の作用を営む、したがつて、この結合ピン13の作用をする垂直伝動軸17
A、施回支体13の軸心線C―Cは、動力を伝動する垂直伝動軸17Aの軸心であ
り、そのC―Cにおいて動力が結合している、
とし、イ号考案の中には本件実用新案の前記(甲)、(乙)、(丙)の構成要件が
すべて包含されているとみることができるから、考案は同一であるということがで
きる、としたものである。
 しかし、一審判決添付別紙(二)およびイ号図面説明書に照らすと、イ号物件は、
耕耘機能を備えた前方部分と積載運搬機能を備えた後方部分とが着脱ピン19によ
つて結合分離されることが明らかであつて、分離された状態でこれをみると、その
前方部分が耕耘機と呼称されるものであることが明らかであり、架台3の後方のギ
ヤボツクス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至るまでの機体は後方部分と物
理的に一体をなしていて、もとより耕耘機能とは関わりのない部分であるから、右
ギヤボツクス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至るまでの機体をもなお耕耘
機と指称することは、特別の理由がないかぎり是認することができない。むしろ、
右ギヤボツクス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至る機体は積載運搬機能を
備えた後方部分とともこれらをトレラー部分と呼称することに妨げはなく、「結合
ピン」とは物体と物体とを結合する棒状のものをいうことが明らかであるから、特
別の理由がないかぎり、本件実用新案において耕耘機AとトレラーBとを結合する
「結合ピン13」というのは、イ号物件においては着脱ピン19にあたるというべ
きである。
 しかるに、原審は、なんら特別の理由を開示することなく、また、原判決挙示の
証拠に照らしても右特別の理由が明らかでないのに、前記のごとく、イ号物件にお
いては、架台3の後方のギヤボツクス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至る
までの機体を耕耘機とし、一方、架台8の前方のギヤボツクス12、機軸筒20に
至るまでの機体をトレラーとし、これを前提として垂直伝動軸17A、施回支体1
3が「結合ピン13」にあたるとしたことは、経験則に違反するか、又は、理由不
備の違法があるものといわなければならず、これが原判決の結論に影響を与えるこ
とが明らかである。したがつて、前記上告代理人柏木薫らの上告理由第一点中その
余の部分および上告代理人補永守の上告理由について判断を示すまでもなく論旨は
理由があつて原判決中、上告人に金員支払を命じた部分は破棄を免れず、この部分
についてはなお審理を遂げる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当であ
る。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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