弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人鶴和夫並びに弁護人斎藤政信の各上告趣意は末尾添付の別紙書面記載のと
おりである。
 弁護人鶴和夫の上告趣意第一点、第二点について
 論旨は先づ、第一審裁判所(単独裁判官による)が本件追起訴被告事件について
なした判決は、憲法三七条一項にいわゆる公平な裁判所の裁判ということができな
いと主張し、その理由として、本件当初の起訴事実の証拠調において一証人は偶々
後に追起訴された事実に関し被告人に不利益な供述をなしたところ、その後右事実
につき追起訴がなされ、両被告事件は同一裁判官により併合審理されることになつ
たが、検察官は追起訴事件の最初の公判において右証人尋問の結果を追起訴事実の
立証に供しようとした、かかる場合は追起訴に関しては刑訴二五六条末項にいわゆ
る、起訴状に裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類を添付したのと同
様の効果を生じているのであるから、当該裁判官は右追起訴事件を審理し得ないも
のであり、かかる裁判所のなした裁判は公平な裁判所の裁判とはいい得ないと同時
に、その審判は刑訴二五六条に違反すると論ずる。
 しかし、刑訴二五六条末項はいわゆる起訴状一本主義を規定したに止まるもので
あつて、裁判官が審理開始前に事件につき予断を生ぜしめる虞のある証拠資料を知
り得るその他の場合を、総て審理を許されないものとする趣旨ではない。従つて所
論のような経緯の下になされた右追起訴であつても、同条項の規定に拠つてこれを
違法ということはできない。また仮に当該裁判官が追起訴事実につき予断を抱く虞
があつたとしても、裁判官は刑訴二〇条各号に当る場合でない限り不公平な裁判を
なす虞ありとしてその職務の執行から除斥さるべきものではないのみならず、その
他の理由により裁判官が予断を抱く虞がある場合でも、刑訴二一条による忌避申立
が理由ありとされない限り裁判官の審判の公平を非難することは許されない。しか
も記録によれば、第一審弁護人は当該裁判官が追起訴事実について審理することを
不適当と主張しながら、この点に関する当該裁判官の釈明に対し、特に、同裁判官
に対し忌避の申立をするものでない旨を明言していることが認められるのであるか
ら、同弁護人は同裁判官が不公平な裁判をなす虞がないことを自認しているに等し
い。されば第一審裁判所の裁判に対し憲法三七条一項及び刑訴二五六条末項違反を
主張する点の論旨は理由がない。
 論旨はさらに、原判決には憲法三七条一項に違反した審理手続による無効な第一
審判決を適法なものと認定した憲法違反があると主張する。しかし第一審判決につ
いて所論のごとき違憲の存しないこと前段説示のとおりであるから、論旨はその前
提を欠くものであつて上告適法の理由とならない。
 また論旨はさらに、前示事情の下に審判した第一審裁判所は、最高裁判所判例の
定義する憲法三七条一項にいわゆる公平な裁判所に当らないものとし、原判決が第
一審裁判所の裁判について違憲の主張は許されないとしたことをもつて、判例違反
であると主張する。しかし原判決が判示した憲法三七条一項にいわゆる公平な裁判
所の裁判の意義は、最高裁判所の判例に従つたものであることは判文上明らかであ
る。(所論引用の判例はその後の昭和二二年(れ)四八号同二三年五月二六日大法
廷判決によつて原判決判示のとおり補正されている)。また原判決は、控訴趣意の
本旨を、単に追起訴の違法を理由として第一審判決の公正妥当を非難するに帰する
ものと解し、かかる理由による憲法三七条一項違反の主張は論旨自体理由なきこと
が明らかである旨を判示したものと解すべきことは、判文よりたやすく看取し得ら
れるところである。されば原判決は所論の意味において判例違反は存しないもので
ある。
 なお論旨は原判決の控訴趣意に対する判断遺脱があると主張するが、かかる論旨
は刑訴四〇五条の上告理由に当らない。たゞ原判決は控訴趣意中右追起訴が刑訴二
五六条末項に違反する旨の主張に対し判断を示していない暇疵が存するけれども、
その主張の理由がないことは前段説示のとおりであるから、その暇疵は判決に影響
を及ぼすものでないことが明らかであつて、刑訴四一一条を適用すべきものではな
い。
 同上告趣意第三点、弁護人斎藤政信の上告趣意第一点、第二点について
 各論旨はいずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない(鶴弁護人の上告趣意第三
点中憲法一四条を云為しているけれども、その実質は事実誤認の主張に帰するもの
であり、また所論は原審において主張判断がないから上告適法の理由とならない)。
 また記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められな
い。
 よつて刑訴四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決
する。
  昭和二八年九月一一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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