弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成28年3月28日判決言渡
平成27年(行ケ)第10156号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年3月14日
判決
原告株式会社エルモ社
訴訟代理人弁理士三宅始
高瀬彌平
被告セイコーエプソン株式会社
訴訟代理人弁護士岡田誠
江頭あがさ
弁理士稲葉良幸
大貫敏史
佐藤宏樹
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が無効2014-800151号事件について平成27年7月7日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,進歩
性の有無(甲1発明の認定誤りの有無)である。
1特許庁における手続の経緯
被告は,平成21年1月23日(以下「本件原出願時」という。)に出願した特許
出願(特願2009-12690号)の一部を分割して,名称を「書画カメラ」と
する発明について,平成24年12月26日,新たな特許出願(特願2012-2
82796号)をし,平成26年5月9日,特許5533998号(請求項の数7。
以下「本件特許」という。)として特許権の設定登録を受けた(甲11)。
原告は,同年9月4日,本件特許の請求項1及び5について無効審判請求をした
(無効2014-800151号。甲12)ところ,特許庁は,平成27年7月7
日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月16日,
原告に送達された。
2本件発明の要旨
本件特許の特許公報(甲11)によれば,本件発明は,以下のとおりと認められ
る(以下,同公報に記載された明細書及び図面を「本件明細書」という。また,請
求項1及び5に記載の発明を,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」といい,こ
れらを併せて「本件発明」という。)。なお,下記の符号は裁判所において付した。
【請求項1】(本件発明1)
A先端にカメラを有する第1アーム部と前記第1アーム部を支持する第2アーム
部とを有し,前記第1アーム部と前記第2アーム部とを折り畳み可能なアーム部と,
B非使用時には前記アーム部を折り畳んだ状態で収納する収納凹部と,操作部と
を有する本体部とを有する書画カメラであって,
C非使用時には,前記アーム部を,前記第1アーム部と前記第2アーム部と前記
本体部とがZ字状になるように折り畳んで前記収納凹部に収納し,
D使用時には,前記アーム部を,前記第1アーム部と前記第2アーム部とが逆L
字状になるように展開して使用するように構成され,
E前記アーム部を折り畳んで前記収納凹部に収納したとき,前記アーム部の上面
と前記操作部の上面とが略面一となるように構成されていることを特徴とする書画
カメラ。
【請求項5】(本件発明2)
請求項1~4のいずれかに記載の書画カメラにおいて,
F前記第1アーム部は,前記第2アーム部に支持される第1アーム基端部と,前
記第1アーム基端部の先端部に位置し,前記カメラを有する第1アーム先端部とを
有し,
前記第1アーム先端部は,前記第1アーム部の長手方向に沿った所定の軸を中心
として回転自在に前記第1アーム基端部に支持されるとともに,前記カメラの光学
軸が鉛直方向下向きになった回転位置及びカメラの光学軸が水平方向になった回転
位置で固定可能となるように構成されていることを特徴とする書画カメラ。
3審判における請求人(原告)の主張
本件発明1は,以下の甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と,甲
3~7に記載された発明における公知の構成を寄せ集めたものであり,本件発明2
は,甲1発明に甲3~8に記載された発明(以下,それぞれの証拠番号に対応して
「甲3発明」などと呼称する。)における公知の構成を寄せ集めたものにすぎないか
ら,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項により
特許を受けることができない(なお,本件の取消事由と関連しないものは記載を省
略した。)。
甲1:特開2001-211350号公報
甲3:国際公開第WO01/84827号公報
甲4:特開2004-96661号公報
甲5:特開平6-125552号公報
甲6:意匠登録第1247305号公報
甲7:特開平10-62867号公報
甲8:特開2005-70296号公報
4審決の理由の要点
(1)甲1発明
甲1には,以下の甲1発明が記載されている。
「aビデオカメラ本体部32と,
一端側に前記ビデオカメラ本体部32が接続された棒状部材45と,前記棒状部
材45を支持する棒状部材42とを有し,前記棒状部材42と前記棒状部材45と
を折り畳み可能なアーム40と,
b非使用時には前記ビデオカメラ本体部32を配置する段部36と操作部35と
を備える回路収納部34と,ビデオカメラ支持部33を有する書画カメラ装置であ
って,
c非使用時には,前記アーム40を折り畳んで前記ビデオカメラ本体部32を前
記段部36に配置し,
d使用時には,前記アーム40を,前記カメラ本体部32が接続された前記棒状
部材45と前記棒状部材42とが折れ曲がるように展開して使用するように構成さ
れる
e書画カメラ装置」
(2)本件発明1の進歩性について
ア本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点
【一致点】
「先端にカメラを有する第1アーム部と前記第1アーム部を支持する第2アーム
部とを有し,前記第1アーム部と前記第2アーム部とを折り畳み可能なアーム部と,
非使用時には前記アーム部を折り畳んだ状態で,前記カメラを収納する収納凹部
と,操作部とを有する本体部とを有する書画カメラであって,
非使用時には,前記アーム部を折り畳んで,前記アーム部の一部である前記カメ
ラを前記収納凹部に収納し,
使用時には,前記アーム部を,前記第1アーム部と前記第2アーム部とが逆L字
状になるように展開して使用するように構成される
ことを特徴とする書画カメラ。」
【相違点1】
非使用時に,本件発明1においては収納凹部に折り畳んだ状態の「アーム部」を
収納するのに対して,甲1発明においては収納凹部に折り畳んだ状態の「アーム部」
の一部分である「カメラ」を収納することについてのみ特定されている点。
【相違点2】
非使用時に収納されるアーム部を,本件発明1においては「前記第1アーム部と
前記第2アーム部と前記本体部とがZ字状になるように折り畳」むのに対し,甲1
発明においてはそのような特定がない点。
【相違点3】
本件発明1においては「前記アーム部を折り畳んで前記収納凹部に収納したとき,
前記アーム部の上面と前記操作部の上面とが略面一となるように構成されている」
のに対して,甲1発明においてはそのように構成されていない点。
イ本件発明1と甲1発明との相違点に対する判断
取消事由と関連しない相違点1,2に対する判断は省略する。
甲1発明の書画カメラ装置において,アーム40を折り畳んで段差空間に収納さ
せることは容易想到であると認められるが,アーム40を折り畳んで段差空間に収
納させたとき,操作部35の上面は,折り畳まれたアーム40の下になることは明
らかである。
そして,甲4,5及び7発明に例示された周知技術には,収納凹部に収納したア
ーム部の上面と操作部の上面とが略面一となるように構成することのみが開示され
ていることから,甲1発明に甲4,5及び7発明に例示された周知技術を適用し,
アーム40を折り畳んで段差空間に収納したとき,アーム40の上面と操作部の上
面とが略面一とするためには,折り畳まれたアーム40の下にある操作部の位置を,
折り畳まれたアームの上面と略面一の位置に変えることが当業者に容易想到でなけ
ればならない。
しかし,甲1発明において,アーム40を折り畳んで段差空間に収納させたとき,
アーム40の上面と略面一となる部分はビデオカメラ支持部33の上面であるが,
当該ビデオカメラ支持部33は「板状に形成された」支持板にすぎず,その内部に
回路の収納等を開示も示唆もしていないビデオカメラ支持部33の上面に操作部を
設けることは,当業者であっても容易想到であるとは到底認められない。
また,甲3及び6発明には,収納凹部に収納したアーム部の上面と操作部の上面
とが略面一となるように構成することすらも開示していないことから,甲1発明に
対して,甲3ないし7発明のいずれかを適用したとしても,相違点3に係る構成が
当業者に容易想到であったとは認められない。
したがって,相違点3に係る構成を容易想到とすることはできない。
ウよって,本件発明1は,当業者が,甲1発明及び甲3ないし7発明によ
って容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2の進歩性について
ア本件発明2と甲1発明との一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点に加え,以下の一致点及び相違点が
ある。
【一致点】
「前記第1アーム部は,前記第2アーム部に支持される第1アーム基端部と,前記
第1アーム基端部の先端部に位置し,前記カメラを有する第1アーム先端部とを有
する
ことを特徴とする書画カメラ。」
【相違点4】
第1アーム部について,本件発明2においては,「前記第1アーム先端部は,前記
第1アーム部の長手方向に沿った所定の軸を中心として回転自在に前記第1アーム
基端部に支持されるとともに,前記カメラの光学軸が鉛直方向下向きになった回転
位置及びカメラの光学軸が水平方向になった回転位置で固定可能となるように構成
されている」のに対し,甲1発明においては,そのように構成されていない点。
イ本件発明2と甲1発明との相違点に対する判断
取消事由と関連しない相違点1,2及び4の判断は省略する。
本件発明2と甲1発明との相違点3について,上記(1)イと同じ理由により,当業
者に容易想到であったとは認められない。
ウよって,本件発明2は,甲1発明及び甲3ないし8発明によって,当業
者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
第3原告主張の審決取消事由
審決は,甲1の記載事項の一部を看過し,甲1発明の認定を誤った結果,本件発
明の容易想到性の判断を誤ったものであり,この誤りは審決の結論に影響するから,
違法なものとして取り消されるべきである。
1甲1発明の認定の誤りについて
(1)審決は,本件発明1における「本体部」に相当する甲1発明の構成要素は,
「ビデオカメラ支持部33と回路収納部34」とからなる部材であると認定してい
るが,かかる認定は誤りである。
本件明細書の【0029】,【0041】の記載によれば,「本体部」とは,プロジ
ェクタ,パソコン等にケーブルで接続され,カメラで撮像した画像の映像信号をプ
ロジェクタ,パソコン等に出力する機能を備えたものであることは明らかである。
一方,甲1には,【0025】,【0028】,【0030】の記載,【0034】~
【0037】の記載があり,とりわけ,【0036】,【0037】の記載から明らか
なように,書画カメラ装置10において,書画カメラ部31で撮像した映像信号は,
ビデオカメラ支持部33にねじ47で一体的に固定される「アタッチメント11」
から出力されることが記載されている。
してみると,本件発明1の「本体部」に相当する甲1発明の構成部材は,書画カ
メラ部31の構成部材である「ビデオカメラ支持部33と回路収納部34」及び「ビ
デオカメラ支持部33にねじ止めによって一体的に固定されるアタッチメント1
1」からなる部材であると認定すべきである。
(2)被告の主張に対し
ア被告の主張1(1)に対し
本件発明1の「本体部」が「ビデオカメラ支持部33と回路収納部34」及び「ビ
デオカメラ支持部33にねじ止めによって一体的に固定されるアタッチメント1
1」からなる部材に相当することは,以下の点からも裏付けられる。
すなわち,本件発明1の「本体部」は,「アーム部を展開したときに書画カメラ1
00が転倒しないようにするための転倒防止ストッパ116を有する」(【002
9】)との記載から,書画カメラの転倒防止機能を有するものである。また,「本体
部」は,「プロジェクターの電源を入れると,USBケーブルを介して,書画カメラ
に電源が供給されるようになる。次に,書画カメラスイッチ140を入れる。する
と書画カメラ100の電源が入る」(【0042】)とあることから,書画カメラへの
電源供給機能を有するものである。
これに対し,甲1の【0030】には,「アタッチメント11」に転倒防止機能が
あること,【0036】には,「アタッチメント11」に電源供給機能があることが
記載されている。
したがって,本件発明1の「本体部」は,上記機能を有する「アタッチメント1
1」を含むものとして認定されねばならない。
イ被告の主張1(2)に対し
職権主義の下で行われる審判手続は,弁論主義の下で行われる民事訴訟とは異な
るから,審判手続でいったんなした主張を審決取消訴訟で変更することは可能であ
る。
本件審判手続では,甲1発明において「ビデオカメラ支持部33の上面に操作部
を設ける」ことが当業者にとって容易想到か否かについては,被請求人(被告)は
全く主張しておらず,また,審判合議体からの示唆もなかったところ,仮に,本件
審判手続において,かかる論点について,被請求人が主張し,あるいは審判合議体
から示唆があれば,審判請求人(原告)は,この点に関する主張をしていたと考え
られる。したがって,原告が上記主張をすることは,信義則に反するとはいえない。
2甲1発明の認定の誤りが結論に影響すること
審決は,相違点3の判断において,ビデオカメラ支持部33の上面に操作部を設
けることは当業者であっても容易想到であるとは到底認められないとしたが,かか
る認定は,本件発明1の「本体部」に相当する甲1発明の構成部材が「ビデオカメ
ラ支持部33と回路収納部34」であるとの誤った認定に基づくものである。
本件発明1の「本体部」に相当する甲1発明の構成部材は,「ビデオカメラ支持部
33と回路収納部34及びビデオカメラ支持部33にねじ止めによって一体的に固
定されるアタッチメント11からなる部材」であることを前提とすると,相違点3
は,以下のとおり,容易に想到し得るものであり,上記の甲1発明の認定の誤りは,
結論に影響を及ぼす。
(1)アタッチメント11の取付台12の上面に操作部35を設けること
アアタッチメント11の取付台12には,【0036】に記載されているよ
うに,電源供給及び信号処理の回路が設けられている。そして,取付台12は,甲
1の図1及び図2に示されるように,板状にすぎないビデオカメラ支持部33とは
異なり,上面に操作部35を設けることが可能なボックス形状を有している。
また,甲1発明では,審決36頁の参考図面1-2のS5(甲15の2)に示さ
れるように,アーム40を折り畳んだ非使用状態ではアーム40が操作部35に重
なるため,操作部35を操作できない。しかし,非使用状態であっても使用に先立
ちプロジェクタ等との接続を確認するため電源スイッチを入れるなど,操作部35
を操作できることが好ましい。そして,甲1発明は,図1から明らかなように,操
作部35が書画カメラ装置10の正面側ではなくて,背面側に配置されていること
から,正面側からは操作部35を操作できないという不都合もある。
そのため,ビデオカメラ支持部33と一体のアタッチメント11の取付台12の
上面に操作部35を設け,アーム40を折り畳んだ状態でも操作部35を操作でき
るように構成することは,当業者なら容易に想到し得る。
そして,審決において認定されているように,甲4,5及び7発明に例示された
周知技術には,収納凹部に収納したアーム部の上面と操作部の上面とが略面一とな
るように構成することが開示されている。
以上に鑑みれば,甲4,5及び7発明に例示された周知技術を甲1発明に適用す
る際に,ビデオカメラ支持部33と一体のアタッチメント11の取付台12の上面
に操作部35を設け,アーム40を折り畳んだ状態でも正面側から操作部35を操
作できるように,操作部35をアタッチメント11の取付台12の上面に設けるこ
とは,当業者なら容易に想到することができる。
イ被告は,アタッチメント11の取付台12の上面に操作部を設けること
を妨げる事情があると主張する。
しかし,被告も指摘するように,甲1発明の課題は「上述した従来の書画カメラ
装置付きデータプロジェクタでは,書画カメラ部がプロジェクタ本体に一体的に結
合しているため,使用勝手が悪く,操作しにくいという問題点」(【0009】)を解
決することにある。甲1には,「書画カメラ装置10は,書画カメラ部31にアタッ
チメント11を取り付けることにより,書画カメラ部31が撮像した画像の映像信
号をアタッチメント11から図示しない信号ケーブルを介して出力させることがで
きる。」(【0037】)との記載があり,出力先は明記されていないが,プロジェク
タに出力することは当然に想定される。つまり,甲1発明は,書画カメラ部とプロ
ジェクタとを信号ケーブルを介して接続することにより,書画カメラ部とプロジェ
クタとを着脱可能とし,もって,書画カメラ部がプロジェクタ本体に一体的に結合
しているため使用勝手が悪く,操作しにくいという問題を解決している。
甲1発明において,アタッチメント11の取付部12に操作部35を設けても,
撮像した画像の映像信号をアタッチメント11から信号ケーブルを介して出力する
機能は何ら妨げられないし,書画カメラ部とプロジェクタとを着脱可能として使い
勝手を良くし操作しやすくするという課題が妨げられるものでもないため,アタッ
チメントの上面に操作部を設けることについて,阻害要因があるという被告の主張
は失当である。
被告は,「他の実施形態においても阻害事情が存在する」と主張するが,甲1発明
とは,甲1における第1の実施形態のことであり,他の実施形態は甲1発明ではな
いので,他の実施形態を根拠にして阻害要因があるとの被告の主張は失当である。
(2)収納時にアーム部上面と操作部の上面を略面一にすることについて
審決においても,収納時にアーム部上面と操作部の上面を略面一に構成すること
は,甲4,5及び7発明に例示された周知技術と認定しているとおりであり,その
構成を甲1発明に適用することは,当業者にとって容易である。
第4被告の反論
1原告の主張1に対し
(1)原告の主張1(1)に対し
原告の根拠とする本件明細書の【0029】,【0041】は,以下のとおり,い
ずれも,本件発明1の「本体部」が,「ケーブル」でプロジェクタ等に接続されるこ
とを必要とすることを示すものでない。すなわち,【0029】に「本体部100は,
図1に示すように,プロジェクター,パソコンその他の電子機器」とあるとおり,
本件発明1の「本体部」における映像信号の出力先は,プロジェクタやパソコンに
限られず,「電子機器」であれば足りるものであり,また,本体部100がUSBコ
ネクタを有するとしか記載されておらず,「ケーブル」は必須とはされていない。さ
らに,【0041】は,「(1)書画カメラの設置」という題目からも明らかなとおり,
書画カメラの設置方法においてケーブルが使用される一例を記載しているものにす
ぎず,本体部の必須の構成を説明するものではない。
したがって,本件発明1の「本体部」は,映像信号の出力に関し,何らかの電子
機器に対して,カメラで撮像した画像の映像信号を出力する機能を備えることで足
りると解するべきである。そして,【0027】,【0028】,【0036】等からす
れば,書画カメラ部31の構成部材であるビデオカメラ支持部33には図示しない
コネクタが存在し,当該コネクタを介して電子機器であるアタッチメント11と電
気的に接続し,アタッチメント11に書画カメラ部31が撮像した画像の影像信号
を送信している。
また,甲1発明の他の実施形態においては,書画カメラ部31に対して,アタッ
チメント11の代わりに,プロジェクタ本体を取り付けること(【0046】,【00
84】,【0095】,【0107】,【0117】,【0128】,【0135】,【014
4】)が記載され,これらの実施形態においても,書画カメラ部31の一部であるビ
デオカメラ支持部33はコネクタを介してプロジェクタ本体61と電気的に接続し,
信号の授受を行っている(【0045】,【0074】,【0090】,【0119】,【0
136】)。
したがって,ビデオカメラ支持部33は,電子機器であるアタッチメントやプロ
ジェクタに,映像信号を出力する機能を有していることから,映像信号の出力に関
し,本件発明1の「本体部」としての必要な機能を備えているものである。
してみると,ビデオカメラ支持部33があれば,アタッチメント11はなくとも,
電子機器に対して,カメラで撮像した画像の映像信号を出力する機能を備えており,
審決が,本件発明1の「本体部」に相当するものとして,甲1発明の「ビデオカメ
ラ支持部33と回路収納部34からなる部材」と認定したことに誤りはない。
(2)本件審判手続の口頭審理において,原告は「本件発明の『本体部』と対応
付けるべき甲1の構成は,『書画カメラ部31』ではなく,『ビデオカメラ支持部3
3と回路収納部34とからなる部材』である」と陳述したことを受け,審決は,本
件発明1における「本体部」に相当する甲1発明の構成要素は,「ビデオカメラ支持
部33と回路収納部34」とからなる部材であると認定したところ,本件審決取消
訴訟になって,原告は,突如,本件発明1の「本体部」に相当する構成についての
主張を変更した。このような主張変更により,本来争点とはなり得ないはずのもの
(例えば,甲1発明の構成部材に関する議論や,それを前提とした容易想到性の議
論等)が本件審決取消訴訟における争点となり,結果的にみて不必要に審判手続を
繰り返さなければならなくなるなどの弊害が生じ得るのであるから,本件における
原告が,甲1発明の構成部材に関する主張を変更し,審決における「本体部」に関
する認定を争うことは,信義則に反し許されないというべきである。
2原告の主張2に対し
(1)原告の主張2(1)に対し
ア甲1発明には,アタッチメントの取付台12の上面に操作部35を設け,
アーム40を折り畳んだ状態でも操作部35を操作できるように構成することは,
何ら開示も示唆もされていない。
イまた,以下のとおり,アタッチメントの取付台の上部に操作部を設ける
ことを妨げる事情が存在する。
(ア)甲1発明は,書画カメラ部31を,プロジェクタ本体やアタッチメン
トから着脱自在にする発明であり,操作部は書画カメラ部31の側に設けることが
前提となっており,アタッチメント11を書画カメラ部31と一体的に固定し,ア
タッチメント上に操作部を設けることは,書画カメラ部とアタッチメントを着脱自
在とした甲1発明の課題に逆行するものである。
(イ)また,他の実施形態においても阻害事由がある。甲1発明の図7で示
す第2の実施の形態においては,書画カメラの使用時には,アタッチメント82の
上面に被写体101を載せて撮影する(図7,【0059】)ため,アタッチメント
の上面に操作部を設けた場合,被写体を置いた状態で操作が困難となるという問題
が生じ,アタッチメントの上面に操作部を設けることを妨げる事情が存在する。
さらに,甲1発明の第3から第11の実施の形態においては,アタッチメントの
代わりにプロジェクタ本体を取り付け,プロジェクタ本体の上面は,書類等の被写
体を配置する書画台となり(甲1,【0042】,【0067】,【0079】,【008
5】),プロジェクタの上面に操作部を設けた場合,被写体を置いた状態で操作が困
難となるという問題が生じることから,アタッチメントの上面に操作部を設けるこ
とを妨げる事情が存在する。
このように,アタッチメントの取付台の上面に操作部を設けることを妨げる事情
が存在することから,当業者は,アタッチメントの取付台の上面に操作部35を設
けることに容易に想到し得ない。
(2)原告の主張2(2)に対し
仮に,甲1発明において,折り畳まれたアーム40の下にある操作部の位置をア
タッチメント本体の上面に設けたとしても,折り畳まれたアームの上面と操作部と
を略面一の位置とすることは当業者に容易想到とはいえない。
すなわち,収納時にアーム部上面と操作部の上面が略面一になることは,甲1に
は開示されていない。甲1においては,アーム40を折り畳んで段差空間に収納し
たときの,アーム部上面とアタッチメント本体の上面との関係については明らかに
されていない。また仮に,原告が口頭審理陳述要領書の参考図面1-1,1-2で
示した方法で甲1発明においてアーム40を折り畳んで段差空間に収納した場合を
考えたとしても,アーム40を構成するビデオカメラ本体部32や棒状部材45の
上面は,アタッチメント11の取付台12の上面よりも高い位置となり(審決36
頁参考図1-2,S5),略面一にはならない。さらに,甲1において,アーム40
を折り畳んで段差空間に収納したとき,アーム40の上面とアタッチメントの取付
台の上面とを,略面一にすることについては,何ら開示されていない。
第5当裁判所の判断
1本件発明1について
本件明細書(甲11)によれば,本件発明1について,以下のとおり認められる。
本件発明1は,書画カメラに関するものである(【0001】)。書画カメラは,文
書や画像などを取り込んでパソコンやプロジェクタなどにデータを送り,多人数に
同時に見せることのできる機器であり,近年,教室での授業用途や会議室での会議
用途などに,従来のOHPに代わって広く普及し始めており,教室間や会議室間で
書画カメラを楽に移動できるように可搬性がよいことが望まれている(【0002】,
【0005】)。
そこで,本件発明1は,従来の書画カメ
ラよりも可搬性のよい書画カメラを提供す
ることを目的とし,前記第2,2記載の本
件発明1の構成をとったことにより,非使
用時に,折り畳んだアーム部を本体部の収
納凹部に収納することが可能となる結果,
非使用時における製品高さをより低く,か
つ,製品幅をより狭くすることができ,従
来の書画カメラよりも可搬性のよい書画カ
メラとなる。また,非使用時における書画
カメラ上面における凹凸をなくすことがで
き,さらに可搬性をよくすることができる。
(【0006】~【0008】,【0044】,【0045】)。
本件明細書には,実施の形態として,以下の構成が記載されている。
実施形態に係る書画カメラ100は,先端にカメラを有する第1アーム部130
と第1アーム部130を支持する第2アーム部120とを有し,第1アーム部13
0と第2アーム部120とを折り畳み可能なアーム部と,非使用時にはアーム部を
折り畳んだ状態で収納する収納凹部114と操作部112とを有する本体部110
とを有する。そして,実施形態に係る書画カメラ100は,非使用時には,アーム
部を,第1アーム部130と第2アーム部120と本体部110とがZ字状になる
ように折り畳んで収納凹部114に収納し,使用時には,アーム部を,第1アーム
部130と第2アーム部120とが逆L字状になるように展開して使用するように
構成されている。操作部112には,書画カメラスイッチ140,オートフォーカ
ススイッチ142,ズームスイッチ(ズームインスイッチ,ズームアウトスイッチ)
144,LED光源スイッチ146,ソースサーチスイッチ148,フックボタン
150が配列されている。
実施形態に係る書画カメラ100においては,アーム部を折り畳んで収納凹部1
14に収納したとき,アーム部の上面と操作部112の上面とが略面一となるよう
に構成されている。(【0026】~【0031】)
2原告の主張1について
原告は,本件発明1の「本体部」とは,プロジェクタ,パソコン等にケーブルで
接続され,カメラで撮像した画像の映像信号をプロジェクタ,パソコン等に出力す
る機能を備えたものであり,甲1において,撮像した映像信号をアタッチメントか
ら出力されることが記載されていることから,本件発明1の「本体部」に相当する
甲1発明の構成部材は,書画カメラ部31の構成部材である「ビデオカメラ支持部
33と回路収納部34」及び「ビデオカメラ支持部33にねじ止めによって一体的
に固定されるアタッチメント11」からなる部材である旨主張する。
そこで,検討するに,まず,本件発明1の特許請求の範囲において,「本体部」が
「非使用時には前記アーム部を折り畳んだ状態で収納する収納凹部と,操作部とを
有する」こと,「本体部」が有する「収納凹部」が「非使用時には,前記アーム部を,
前記第1アーム部と前記第2アーム部と前記本体部とがZ字状になるように折り畳
んで」「収納」すること,及び,「本体部」が有する「操作部の上面」が「前記アー
ム部を折り畳んで前記収納凹部に収納したとき,前記アーム部の上面と」「略面一と
なるように構成されている」ことが特定されているにすぎない。したがって,本件
発明1の「本体部」が,プロジェクタ,パソコン等にケーブルで接続され,カメラ
で撮像した画像の映像信号をプロジェクタ,パソコン等に出力する機能を備えてい
ることは,特許請求の範囲に記載されておらず,出願人が特許を受けようとする発
明を特定するために必要と認める事項(以下「発明特定事項」という。)であるとは
いえない。よって,原告の上記主張は,特許請求の範囲に基づいた主張ではなく,
採用することができない。
また,原告の指摘する本件明細書の【0029】には,「…また,本体部100は,
図1に示すように,プロジェクター,パソコンその他の電子機器に書画カメラ10
0を接続するためのUSBコネクタ(USBAコネクタ118及びUSBBコ
ネクタ119)を有する。」ことや,【0041】~【0043】には,「USBケー
ブルを用いて,予め準備しておいたプロジェクター(図示せず。)に書画カメラ10
0を接続する。」こと等が記載されているが,これらは,実施の形態の一つにすぎず,
このことは,【0063】に,「(4)上記実施形態においては,書画カメラをUSB
ケーブルを用いてプロジェクターに接続する例を示したが,本発明はこれに限定さ
れるものではない。例えば,書画カメラをビデオコンポジットケーブル,DVIケ
ーブル,HDMIケーブル,ネットワークケーブル,無線インタフェースを用いて
プロジェクター若しくはパソコン又はネットワークに接続してもよい。」と記載され
ていることからも明らかである。
さらに,原告は,本件明細書において,書画カメラ100が転倒防止ストッパを
有する記載があること(【0029】)や,プロジェクタの電源を入れると,USB
ケーブルを介して,書画カメラに電源が供給されるとの記載があること(【004
2】)から,本件発明1の「本体部」が,書画カメラの転倒防止機能及び電源供給機
能を有することを,原告主張の根拠として指摘するが,上記主張は,同様に,特許
請求の範囲に基づかない主張であり,採用することができない。
加えて,審決の行った甲1発明の認定は,原告の主張するとおりに,甲1発明を
認定したものにすぎない上,甲1発明における,「収納」のための「凹部」であり,
アーム部の一部であるビデオカメラ本体部32を配置可能な,ビデオカメラ支持部
33を側面とし,段部36と操作部35(すなわち回路収納部34の上面)を底面
とした空間(以下,「段差空間」という。)が,本件発明1の「収納凹部」に対応し,
甲1発明における,回路収納部34の上面に設けられた「操作部35」が,本件発
明1の「操作部」に対応するものであって,甲1発明の「段差空間」及び「操作部
35」は,甲1発明の「ビデオカメラ支持部33」及び「回路収納部34」により
構成されている。
したがって,本件発明1の「本体部」に関し,発明特定事項のすべてを,甲1発
明の「ビデオカメラ支持部33」及び「回路収納部34」が有していることから,
甲1発明の「ビデオカメラ支持部33」及び「回路収納部34」が本件発明1の「本
体部」に相当するといえ,審決における甲1発明の認定に誤りはない。
そうすると,その余の点について判断するまでもなく,原告の取消事由には理由
がない。
3原告の主張2について
上記1のとおりであるが,仮に,原告が主張するように甲1発明が「アタッチメ
ント11」を含むことを前提としても,以下のとおり,相違点3の構成は,本件原
出願時において当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(1)甲1に記載された発明について
ア甲1には,以下の記載がある。
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,撮像した映像を映像信号に変換して出力する書画
カメラ装置に関する。また,この発明は,プロジェクタ本体に書画カメラ装置を着脱自在
にした書画カメラ装置付きデータプロジェクタに関する。
【0002】
【従来の技術】従来,書画卓に置かれた書類等の撮像対象物を撮像し,撮像した映像信号
を映像表示手段や映像記録手段に出力する書画カメラ装置が普及してきている。
【0003】さらに,書類等を撮像し,スクリーンにその撮像内容を投射する書画カメラ
装置付きデータプロジェクタがプレゼンテーション用として普及してきている。
【0004】書画カメラ装置付きデータプロジェクタは,書画カメラ装置とデータプロジ
ェクタとが一体化したものであり,撮像した映像をその場で投射できるため,プレゼンテ
ーションに適しているが,一方で,不便な点もいくつかある。
【0005】第1には,操作者はプロジェクタの近くにいる必要があり,広い会場では使
いにくかった。
【0006】第2には,小型化を優先する為,通常の書画カメラ装置に比べて比へて剛性
が不足していた。
【0007】第3には,撮像対象物に対する照明の最適化が難しかった。
【0008】第4には,通常のデータプロジェクタに比較して,大型化,重量増及びコス
トアップするという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の書画カメラ装置付きデータプロジェクタ
では,書画カメラ部がプロジェクタ本体に一体的に結合しているため,使用勝手が悪く,
操作しにくいという問題があった。
【0010】この発明は上記問題点を除去し,書画カメラ部を有効活用できる書画カメラ
装置及び書画カメラ装置付きデータプロジェクタの提供を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の書画カメラ装置は,撮像対象物の撮像を
行い撮像した映像を映像信号に変換して出力するビデオカメラ本体部と,このビデオカメ
ラ本体部に一端側が取り付けられたアームと,このアームの他端側を取り付けるビデオカ
メラ支持部と,このビデオカメラ支持部を着脱自在に取り付ける取付台と,この取付台に
設けられ,前記取付台に前記ビデオカメラ支持部を取り付けたとき,前記ビデオカメラ
支持部の転倒防止を行う転倒防止機構と,を具備したことを特徴とする。
・・・
【0025】図1及び図2は本発明の第1の実施の形態に係る書画カメラ装置を示し,図
1は書画カメラ部にアタッチメントを取り付けた状態を示す斜視図,図2は書画カメラ部
から取り外した状態のアタッチメントを示す斜視図である。
【0026】図1に示すように,書画カメラ装置10は,書画カメラ部31に転倒防止用
のアタッチメント11を取付けたものである。
【0027】書画カメラ部31は,撮像対象物の撮像を行い撮像した映像を映像信号に変
換して出力するビデオカメラ本体部32と,このビデオカメラ本体部に一端側が取り付け
られたアーム40と,このアーム40の他端側を取り付けるビデオカメラ支持部33と,
から構成されている。
【0028】一方,アタッチメント11は,前記ビデオカメラ支持部33を着脱自在に取
り付ける取付台12と,この取付台12に設けられ,前記取付台12に前記ビデオカメラ
支持部33を取り付けたとき,前記ビデオカメラ支持部33の転倒防止を行う転倒防止機
構(転倒防止脚)13,14と,から構成されている。
【0029】以下,アタッチメント11及び書画カメラ部31についてさらに詳細に説明
する。
【0030】アタッチメント11は,取付台12の背面に接続面15が設けられ,取付台
12の底面に転倒防止脚13,14を設けている。
【0031】書画カメラ部31は,板状に形成されたビデオカメラ支持部33の背面の下
側に回路収納部34を取付け固定している。回路収納部34は,上面の図中右側が操作キ
ーを設けた操作部35となり,図中左側が低く形成された段部36となっている。
【0032】また,ビデオカメラ支持部33の背面の図中左上側には,アーム40の他端
側の回動部41が接続している。アーム40は,他端側から回動部41,棒状部材42,
回動部43,44,棒状部材45,回動部46の順番で連結している。アーム40の一端
側の回動部46は被写体50の撮像を行うビデオカメラ本体部32に接続される。
【0033】書画カメラ部31は,回動部41,43,44,46の回動により,ビデオ
カメラ本体部32の位置調整が行えるとともに,アーム40を折り畳んだ状態で段部36
にビデオカメラ本体部32を配置できるようになっている。
【0034】また,ビデオカメラ支持部33は,四隅をねじ47によって,アタッチメン
ト11の接続面15にねじ止め固定している。
【0035】次に,アタッチメント11についてさらに詳細に説明する。
【0036】図2に示すように,アタッチメント11の接続面15には,四隅に図1のね
じ47が螺入されるねじ孔16が形成されている。接続面15の下側右寄りには開口部1
7が設けられている。この開口部17には,書画カメラ部31の図示しないコネクタと電
気的に接続するためのコネクタ18が設けられている。一方,取付台12の内部には,電
源供給及び信号処理の回路が設けられており,アタッチメント11はコネクタ18を介し
て図1の書画カメラ部31に電力を供給するとともに信号の授受を行うようになっている。
【0037】これにより,書画カメラ装置10は,書画カメラ部31にアタッチメント1
1に取り付けることにより,書画カメラ部31が撮像した画像の映像信号をアタッチメン
ト11から図示しない信号ケーブルを介して出力させることができる。
【0038】また,アタッチメント11の取付台12の底面の左寄り及び右寄りには,転
倒防止脚13,14の一端側を水平方向に回転可能な状態で設けている。これにより,転
倒防止脚13,14は,取付台12の底面から引き出し及び収納が可能になっている。転
倒防止脚13,14の他端側の下面には,それぞれゴム製の接地用パッド19,20が設
けられている。転倒防止脚13,14は,取付台12の底面から引き出し,アタッチメン
ト11に書画カメラ部31を取り付けた状態で,書画カメラ部31が正面側に倒れるのを
防止できるようになっている。
【0039】なお,本実施の形態では,取付台12の正面側に被写体の照明を行うライト
を設けるように構成してもよい。
【0040】図3は図1の書画カメラ部を用いたデータプロジェクタを示す斜視図,図4
は図3のデータプロジェクタを示す分解斜視図である。
【0041】図3に示すように,プロジェクタ本体61は,筐体62の背面に接続面63
を設け,筐体62の正面に投射レンズ64を設けている。
【0042】データプロジェクタ60を組み立てた状態では,書画カメラ部31のビデオ
カメラ支持部33は,四隅をねじ47によって,プロジェクタ本体61の接続面63にね
じ止め固定している。プロジェクタ本体61の上面69は,書類等の被写体を配置する書
画台となっている。
【0043】図4に示すように,書画カメラ部31のビデオカメラ支持部33は,四隅に
ねじ47のねじ部が挿入される挿入孔48が設けられている。プロジェクタ本体61の接
続面63には,右下の四隅に図1のねじ47が螺入されるねじ孔66が形成されている。
【0044】接続面63の下側右寄りには開口部67が設けられ,この開口部67には,
書画カメラ部31の図示しないコネクタと電気的に接続するためのコネクタ68が設けら
れている。
【0045】一方,筐体62には,電源供給,信号処理及び投射用の回路が設けられてお
り,プロジェクタ本体61はコネクタ68を介して書画カメラ部31に介して電力を供給
するとともに信号の授受を行うようになっている。これにより,書画カメラ部31は,プ
ロジェクタ本体61の上面69に配置した被写体の撮像動作を行え,プロジェクタ本体6
1は,書画カメラ部31が撮像した画像を投射レンズ64によってスクリーンに投射する
ようになっている。
【0046】このような発明の実施の形態によれば,書画カメラ部31を図3のプロジェ
クタ本体61に取付けることにより書画カメラ装置付きデータプロジェクタとして用いる
ことができ,書画カメラ部31を図2のアタッチメント11に取り付けることにより書画
カメラ装置10として用いることができるので,書画カメラ部31を有効活用でき,ユー
ザーに好ましい印象を与えることができる。
イ以上の記載によれば,甲1には,以下の発明が開示されていると認めら
れる。
すなわち,甲1に記載された発明は,撮像した映像を映像信号に変換して出力す
る書画カメラ装置に関し,また,プロジェクタ本体に書画カメラ装置を着脱自在に
した書画カメラ装置付きデータプロジェクタに関するものである。
従来のカメラ装置付きデータプロジェクタでは,書画カメラ部がプロジェクタ本
体に一体的に結合しているため,使用勝手が悪く,操作しにくいという問題があっ
たことから,この問題点を除去し,書画カメラ部を有効活用できる書画カメラ装置
及び書画カメラ装置付きデータプロジェクタの提供を目的とし,甲1の請求項1に
記載の書画カメラ装置は,撮像対象物の撮像を行い撮像した映像を映像信号に変換
して出力するビデオカメラ本体部と,このビデオカメラ本体部に一端側が取り付け
られたアームと,このアームの他端側を取り付けるビデオカメラ支持部と,このビ
デオカメラ支持部を着脱自在に取り付ける取付台と,この取付台に設けられ,取付
台にビデオカメラ支持部を取り付けたとき,ビデオカメラ支持部の転倒防止を行う
転倒防止機構と,を具備したことを特徴とする。
そして,上記アの記載のとおり,アタッチメント11は,書画カメラ部31のビ
デオカメラ支持部33に着脱自在に取り付けられ,その内部に,コネクタを介して
書画カメラ部31に電力を供給するとともに信号の授受を行う電源供給及び処理部
が設けられた取付台12と,取付台12の底面に設けられた転倒防止機構(転倒防
止脚)13,14とを有し,書画カメラ部31が撮像した画像の映像信号を信号ケ
ーブルを介して出力させることができるものである。
そして,アタッチメント11を取り付け,アタッチメント11を介して使用する
場合の書画カメラ装置では,アタッチメント11が,コネクタを介して書画カメラ
部31に電力を供給するとともに信号の授受を行い,書画カメラ部31が撮像した
画像の映像信号を信号ケーブルにより出力させる機能と,書画カメラ部31が正面
側に倒れるのを防止する機能を奏する。一方,アタッチメント11を取り付けず,
アタッチメント11を介さずに使用する場合の書画カメラ装置では,書画カメラ部
31がプロジェクタ本体61に取り付けられ,プロジェクタ本体61に設けられた
電源供給,信号処理及び投射用の回路により,コネクタを介して電力が供給される
とともに信号の授受が行われ,これにより,書画カメラ部31は,配置した被写体
の撮像動作を行え,プロジェクタ本体61は,書画カメラ部31が撮像した画像を
投射レンズ64によってスクリーンに投射する。
このように,甲1に記載された発明は,書画カメラ部31をプロジェクタ本体6
1に取付けることにより書画カメラ装置付きデータプロジェクタとして用いること
ができ,また,書画カメラ部31をアタッチメント11に取り付けることにより書
画カメラ装置10として用いることができるので,書画カメラ部31を有効活用で
き,ユーザに好ましい印象を与えることができるものである。
ウ以上によれば,甲1には,審決の認定した甲1発明のほかに,原告の主
張する,「書画カメラ部31の構成部材である『ビデオカメラ支持部33と回路収納
部34』及び『ビデオカメラ支持部33にねじ止めによって一体的に固定されるア
タッチメント11』からなる部材」を含む書画カメラ装置についての発明も開示さ
れていると認められる(以下,この発明を「甲1’発明」という。)。
(2)操作部をアタッチメント11の上面に設ける構成の容易想到性について
原告は,アタッチメント11の取付台12には,電源供給及び信号処理の回路が
設けられており,板状にすぎないビデオカメラ支持部33とは異なり,上面に操作
部35を設けることが可能なボックス形状を有していること,アーム40を折り畳
んだ非使用状態ではアーム40が操作部35に重なるため,操作部35を操作でき
ない不都合や,正面から操作できない不都合を解消するために,ビデオカメラ支持
部33と一体のアタッチメント11の取付台12の上面に操作部35を設け,アー
ム40を折り畳んだ状態でも操作部35を操作できるように構成することは当業者
なら容易に想到し得る旨主張する。
しかし,甲1’発明は,前記(1)に認定したとおりのものであり,アタッチメント
11を取り付ける場合とアタッチメント11を取り付けない場合の両方の場合を想
定した発明であり,ビデオカメラ支持部33を有する書画カメラ部31をアタッチ
メント11やプロジェクタ本体から着脱可能なようにしたことで,書画カメラ部3
1を有効活用でき,ユーザに好ましい印象を与えることができるものである。そう
すると,甲1’発明の操作部35は,アタッチメント11を取り付ける場合及びア
タッチメント11を取り付けない場合に共通に使用されるものであるから,書画カ
メラ装置を操作する上で必須である。このため,甲1’発明において,操作部35
を設ける場所を,書画カメラ部31の回路収納部34の上面からアタッチメント1
1の上面に変更すると,アタッチメント11を取り付けない場合,書画カメラ装置
は操作部35を具備しない構成となって,書画カメラ装置の操作ができなくなり,
書画カメラ部31を着脱可能なようにしたことで有効活用し,ユーザに好ましい印
象を与えるとの効果を奏しないこととなる。
そうすると,当業者は,甲1’発明において,他に何らの示唆もなく,操作部を
アタッチメント11の上面に設けようと動機付けられることはない。
(3)小括
したがって,アタッチメント11の取付台12に操作部35を設けることは,当
業者にとって容易に想到し得ることとはいえないから,本件発明1は,本件原出願
時,当業者が,甲1発明及び甲3ないし7発明から容易に発明をすることができた
とはいえない。
また,本件発明2は,本件発明1の発明特定事項を含むものであるから,同様に,
当業者が,甲1発明及び甲3ないし8発明から容易に発明をすることができたとは
いえない。
第6結論
よって,原告の取消事由には理由がないから,原告の請求を棄却することとして,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛