弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人岡田直寛の控訴趣意は、末尾に添付した同人提出にかかる控訴趣意書記載
のとおりである。
 右控訴趣意第一点(理由のくいちがい又は法令適用の誤)について、
 <要旨>関税法第八十三条第三項に所謂追徴決定の標準となるべき「没収スルコト
能ハサル物ノ原価」とは犯行当時における時価を指すものであることは同法
の趣旨に徴し疑を容れないととろであり、その時価は、経済統制下にあつて公定価
格のあるものについては、その公定価格を指称するものと解するのが最も妥当であ
るというべきである。従つて原審が原判示第一、第二の事実において、没収するこ
とが出来ない貨物につき追徴をするに当り没収すべき貨物の犯行当時における公定
価格を標準としたのは正当であつて、この点に関し原判決には理由のくいちがい又
は法令適用の誤はない。論旨は理由がない。
 右控訴趣意第二点(法令適用の誤)について、
 関税法において犯罪にかかる貨物を没収し又は没収することが出来ない場合にお
いてその価額を追徴する趣旨は、国家が同法規に違背して輸出又は輸入した貨物又
はこれに代る価格が犯人の手に存することを禁止し、以て密貿易の取締を厳重に励
行しようとする目的に出たものと解すべく、従つて共犯者がある場合においてこの
趣旨を貫くためには、同法第八十三条第三項により算定すべき価格につき共犯者の
全部に対して等しく追徴の言渡をなし、その共同連帯の責任においてこれを納付せ
しむべきものと解するのが至当である、但しかかる場合共犯者全員からそれぞれ独
立して追徴の執行をすることにより国家は必要以上の利得をすることとなり、没収
の場合に比し甚だしく均衡を失するという所論は、一応傾聴に値するところがない
ではならないが、かかる不合理を除くために、国家はその執行の面において考慮を
めぐらし、たとえば共犯者の一人がその追徴金全額を納付したような場合には、他
の共犯者に対する執行をなさざるよう配慮する等の処置を執ればよいのである。従
つて本件記録によれば、共犯者Aに対し、別件において、原判示事実と同一犯行に
つき、その輸出又は輸入にかかる貨物の原価に相当する金額を追徴する旨の判決が
言渡されているのに拘わらず原審が被告人に対し原判示事実につき、再び右貨物の
原価に相当する金額の追徴の言渡をなしたのは妥当であるというべく、この点に関
し原判決には所論のような法令適用の誤はない、論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却することとし、当審にお
ける訴訟費用は同法第百八十一条第一項に従い、全部被告人に負担させることとす
る。
 そこで主文のように判決した次第である。
 (裁判長判事 原和雄 判事 小坂長四郎 判事 東徹)

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