弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人増田道義、同佐野徹の上告趣意について。
 所論中、憲法三八条違反をいう点は、記録に徴しても、所論の自白が所論のよう
な誘導、強要によつて得られたと疑うべき証跡は存しないから、論旨はその前提を
欠き、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、すべて刑訴法四〇五
条の上告理由にあたらない。
 検察官の上告趣意第二について。
 所論は、本件公訴事実中、強盗致死の点に関し、被告人の暴行と被害者Aの死亡
との間の因果関係を否定した原判決の判断は当裁判所の判例に違反するというので
ある。
 よつて案ずるに、本件強盗致死の公訴事実の要旨は、
 「被告人は、昭和三八年四月ころから東京都目黒区ab丁目c番地B方四畳半一
間を賃借りしているうち、同四〇年四月ころにいたり、同人の妻Aとの折り合いが
悪くなり、立ちのきを要求されて、同年一〇月一六日ころ転出したものであるが、
生活費等に窮していたところから、右Aに対し、家主側からの立ちのき要求であつ
たことを理由に、右要求があつた後の支払いずみ部屋代等二万数千円を返還させよ
うと企て、同月二二日午後二時過ぎころ、前記B方におもむき、右A(明治三五年
一〇月一二日生)に対し、右金員の返還方を交渉したところ、強く反対されたばか
りか、一〇月分の部屋代について日割計算による支払いを要求されて激昂し、この
うえは同女に暴行を加えて金員を強取しようと決意し、やにわに同女の胸倉をつか
んであおむけに倒し、左手で頸部を絞めつけ、右手で口部を押え、さらにその顔面
を夏布団でおおい、鼻口部を圧迫するなどして、同女の反抗を抑圧したうえ、同女
所有の現金二四〇円およびB名義のC銀行d支店普通預金通帳(預金残高九万八、
二五〇円)一通を強取し、その際前記暴行により、同所において、同女を鼻口部閉
塞に基づく窒息により即時死にいたらしめた。」
というのであり、第一審は、右Aの死因につき、「右暴行により、同女に急性心臓
死を惹起せしめて、即時その場で同女を死亡するにいたらしめた」旨認定したほか、
ほぼ右公訴事実にそう事実を認定し、強盗致死罪の成立を認めたところ、原番は、
被告人の本件暴行と被害者Aの死亡との間に因果関係があるとした第一審判決は事
実を誤認したものであるとして、同判決を破棄したうえ、被告人は、同女に対し、
第一審判決判示の暴行を加えて、その反抗を抑圧したが、「たまたま同女が急性心
臓死により死亡したので」、同判示預金通帳および現金を強取したとの事実を認定
し、被告人の右所為は刑法二三六条の強盗罪に該当するものとした。そして、その
理由とするところは、「被害者は、被告人の右暴行がなされている時に急性心臓死
をしたものであり、被害者の死因は、被告人の暴行によつて誘発された急性心臓死
であることは否定できないけれども、本件において因果関係の有無を考えるに当た
つては、被告人の加害行為と被害者の死亡との間には、加害行為から死亡の結果の
発生することが、経験上通常生ずるものと認められる関係にあることを要するもの
と解すべきであり、その際、この相当因果関係は、行為時および行為後の事情を通
じて、行為の当時、平均的注意深さをもつ通常人が知りまたは予見することができ
たであろう一般的事情、および通常人には知り得なかつた事情でも、行為者が現に
知りまたは予見していた特別事情を基礎として、これを考えるべきものである」と
の見解を前提とし、相当因果関係の有無を判断すべき基礎となる事情として、第一
審判決判示の被告人の暴行の態様、程度のほか、被害者の心臓の病的素因、すなわ
ち被害者の心臓および循環系統には相当高度の変化が存し、そのために被害者は、
極めて軽微な外因によつて、突然心臓機能の障害を起して心臓死にいたるような心
臓疾患の症状にあつたこと、および被害者の夫その他の近親者も、かかりつけの医
師も、恐らくは被害者自身も、これを知らなかつたものと認められ、被告人におい
てこれを知りうべき筋合いではないことなどを考察し、かかる具体的事情のもとに
おいては、被告人の暴行と被害者の死亡との間に必ずしも相当因果関係があるとい
うことができない、というのである。
 しかし、原判決の認定した事実によれば、被害者Aの死因は、被告人の同判決判
示の暴行によつて誘発された急性心臓死であるというのであり、右の認定は、同判
決挙示の関係証拠および原番鑑定人D作成の鑑定書、原番証人Dの供述等に徴し、
正当と認められるところ、致死の原因たる暴行は、必らずしもそれが死亡の唯一の
原因または直接の原因であることを要するものではなく、たまたま被害者の身体に
高度の病変があつたため、これとあいまつて死亡の結果を生じた場合であつても、
右暴行による致死の罪の成立を妨げないと解すべきことは所論引用の当裁判所判例
(昭和二二年(れ)第二二号同年一一月一四日第三小法廷判決、刑集一巻六頁。昭
和二四年(れ)第二八三一号同二五年三月三一日第二小法廷判決、刑集四巻三号四
六九頁。昭和三一年(あ)第二七七八号同三二年三月一四日第一小法廷決定、刑集
一一巻三号一〇七五頁。昭和三五年(あ)第二〇四二号同三六年一一月二一日第三
小法廷決定、刑集一五巻一〇号一七三一頁。)の示すところであるから、たとい、
原判示のように、被告人の本件暴行が、被害者の重篤な心臓疾患という特殊の事情
さえなかつたならば致死の結果を生じなかつたであろうと認められ、しかも、被告
人が行為当時その特殊事情のあることを知らず、また、致死の結果を予見すること
もできなかつたものとしても、その暴行がその特殊事情とあいまつて致死の結果を
生ぜしめたものと認められる以上、その暴行と致死の結果との間に因果関係を認め
る余地があるといわなければならない。したがつて、被害者Aの死因が被告人の暴
行によつて誘発された急性心臓死であることを是認しながら、両者の間に因果関係
がないとして、強盗致死罪の成立を否定した原判決は、因果関係の解釈を誤り、所
論引用の前示判例と相反する判断をしたものといわなければならず、論旨は理由が
ある。
 よつて、検察官のその余の論旨に対する判断を省略し、刑訴法四〇五条二号、四
一〇条一項本文、四一三条本文にのつとり、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさ
せるため、本件を原裁判所である東京高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官山室章 公判出席
  昭和四六年六月一七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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