弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人の被上告人B1、同B2、同B3に対する請求につき、
上告人敗訴部分を破棄する。
     前項記載の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     上告人の被上告人B4に対する本件上告を棄却する。
     前項記載の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人吉野森三、同鈴木秀男の上告理由第一点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、Dが所論の欺罔行為により侵害
した上告人の権利ないし利益は、上告人が本件土地を有効に取得しうると信じて同
人に支払つた代金七六万円の出捐に尽きるものであつて、本件土地売買契約が履行
された場合に得られたであろう転売利益に対する期待権の侵害にまで及ぶものとは
いえない。これと同旨の原審の判断は、正当であり、その過程に所論の違法はない。
論旨は、採用することができない。
 同第二点について
 原審の適法に確定した事実によれば、(一) 群馬県吾妻郡a村bc番地のd山林
一町一反七畝二五歩(以下「本件山林」という。)は、昭和二四年七月二日自作農
創設特別措置法四一条に基づき被上告人B4の妹にあたる訴外Eに売り渡された土
地であるにもかかわらず、当時農地委員をしていた同被上告人が売渡通知書の売渡
を受ける者の氏名を勝手に自分の子のF名義に変更し、右売渡を原因とする同人名
義の所有権移転登記を経由してしまつたので、昭和三七年三、四月ころEはFを被
告として本件山林につきその所有名義の変更を求める訴訟を提起するとともに、処
分禁止の仮処分決定を得てその登記を経由した、(二) 右訴訟提起後、被上告人B
4は、被上告人B1の夫で、被上告人B2、同B3の父にあたる訴外亡Dから本件
山林ほか一筆の山林の売却を求められたので、本件山林についてはEとの間で係争
中であることを告げたところ、Dにおいて、裁判の結果がどうなろうとも自分が一
切の責任を負うから売つてほしいというので、同年六月二五日ころ了の代理人とし
て本件山林をDに売却し、登記については同人の指定する者に中間省略の方法で所
有権移転登記手続することとし、同年八月中に代金の完済を受けた、(三) Dは、
本件山林につきEから訴訟が提起されていることを知りながら、この事実を隠して、
同年七月末ころ、本件山林の一部である分筆後の同所c番のe山林四反五畝一一歩
(以下「本件土地」という。)を自己所有地として代金七六万円で上告人に売却し、
右代金全額の支払を受けたうえ、同年一〇月四日本件土地につき中間省略によりF
から上告人への所有権移転登記を経由した、(四) ところが、その後EのFに対す
る前記訴訟は、本件山林につき売渡を受けたのはEであるとして同人の勝訴に確定
し、昭和四一年七月二二日F名義の本件山林売渡登記及び仮処分後に経由された上
告人名義の本件土地所有権移転登記はいずれも抹消され、改めてE名義に売渡登記
が経由された、(五) Dは昭和四四年一二月二一日死亡し、被上告人B1、同B2、
同B3(以下「被上告人B1ら」という。)が同人を共同相続した、というのであ
る。
 およそ、他人の権利を目的とする売買の売主が、その責に帰すべき事由によつて、
右権利を取得してこれを買主に移転することができない場合には、買主は、債務不
履行一般の原則にしたがつて、その履行不能と相当因果関係に立つ全損害の賠償を
請求することができることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁判所昭
和四〇年(オ)第二一〇号同四一年九月八日第一小法廷判決・民集二〇巻七号一三
二五頁参照)、右履行不能の意味についてはこれを社会の取引観念にしたがつて判
断するのが相当である。この場合、売主が契約に際し他人の権利を取得することを
停止条件として売買をしたものでないかぎり、売買の目的たる権利が他人に属する
ことについての買主の知・不知を問題とする余地はなく、したがつてまた、契約に
際し、売主が売買の目的たる権利を自己の物であると主張するか他人の物であるこ
とを明示するかにかかわらず、他人の権利を目的とする売買として契約は有効に成
立し、民法五六〇条の適用があることは、同条と同法五六一条、五六二条を対比す
ることによりおのずから明らかであるといわなければならない。
 これを本件についてみるのに、前記原審の確定した事実によれば、Dと上告人と
の間の本件土地売買契約は、売主たるDにおいて本件土地が同人の所有であると装
つてこれを締結したものであると否とにかかわらず、他人の権利を目的とする売買
として有効に成立し、Dがその責に帰すべき事由によつてその権利を取得してこれ
を買主たる上告人に移転することができなかつた場合には、上告人はDに対し履行
不能に基づく損害賠償を請求することができ、右損害賠償の範囲は、右履行不能の
時期その他の事情のいかんによつては、上告人の主張する転売利益の喪失による損
害にも及ぶ余地があるものといわなければならない。しかるに、原審は、Dと上告
人との間に本件土地売買契約が締結された当時、本件土地は客観的にはEの所有で
ありFは当初から本件土地所有権を有していなかつたことを理由とするだけで、E
が本件土地を他には絶対に売却しない意思を有していたか否か、また、DがEから
本件土地を相当価格で買い受ける努力をしたか否か等Dが本件土地所有権をEから
取得してこれを上告人に移転することができない事由についてなんら判断すること
なく、単に、本件土地がDの所有であることを前提に締結された本件土地売買契約
の内容は締結当初から客観的に不能であり、契約は無効であるとして、上告人の被
上告人B1らに対する債務不履行に基づく損害賠償請求を排斥しているのであつて、
原判決には、この点において他人の権利を目的とする売買契約及びその履行不能に
ついて法令の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならず、右違法は上告人
の被上告人B1らに対する請求につき原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかで
ある。論旨は理由があり、原判決中、上告人の被上告人B1らに対する請求につき
上告人を敗訴せしめた部分は破棄を免れず、更に以上の点について審理を尽くさせ
るため、右の部分を原審に差し戻すのが相当である。
 同第三点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人の被上告人B4に対す
る不法行為を理由とする損害賠償請求を排斥した原審の判断は、正当として是認す
ることができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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