弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人岸達也の上告理由第一点について。
 所論の甲第一号証(昭和二二年五月五日附被上告人と上告人間の契約書)には「
賃貸」、「賃貸期間」、「賃料」等の文字が記載されていることは所論のとおりで
あるが、原判決が肯認引用した第一審判決理由は、特に、「右甲一号証には単純な
賃貸借契約であるかの如く認められる記載も存しないでもないけれども、この記載
を判決挙示の両証人及び上告人本人訊問の結果と対照綜合すれば判示のような関係
もあつて上告人に対し本件建物(附属家)及び動産に関しては一応契約を解除して
も、その明渡及び引渡を昭和二六年五月四日まで猶予することとし、その旨の約定
を確め甲一号証の契約書を授受するに至つたものと認定し得べく、従つて右契約書
はその趣旨の下に解読せられねばならない。なお判決挙示の証言及び上告人本人訊
問の結果により窺知せられる期限到来に先立ち上告人において屡々明渡の猶予を求
め拒否せられた事実もまた以てその間の消息を明かにする資料の一たるに足りるで
あろう。」との趣旨の特別の事情及び相当の理由を示して、判決挙示の諸証拠の綜
合判断により、甲一号証の文字解釈のみによる契約趣旨の認定を排し、本件契約は
なんら賃貸借の趣旨ではなく、単に従来の賃貸借契約を合意解除し、その引渡を猶
予した趣旨であるとの認定を判示していること判文上明瞭である。そして同判決挙
示の諸証拠を綜合すれば同判決認定事実を認めることはできるのであつて、同判決
の示したような証拠の取捨の下に右説示のような理由により右判示事実を認定して
もなんら採証法則に違背するところはない。また、同判決は右甲一号証中の賃貸云
々の記載をその文言と異る趣旨に解釈すべき特別の事情及び相当の理由を説示する
こと前記のとおりであるから、所論の大審院判例に違背するところもない。されば
第一審判決を肯認した原判決には所論のような違法はない。その余の論旨は証拠の
取捨に対する非難であつて上告適法の理由とならない。所論は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二
五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆ
る「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。(被上告人は第
一審昭和二七年三月二八日の口頭弁論において本件家屋〔二棟の内の一棟〕につい
て賃貸価格を主張し上告人は右事実は争はずと述べたのであるから、第一審判決が
右当事者間に争なき事実関係と昭和二五年八月一五日物価庁告示四七七号とに基い
て本件家屋の昭和二五年八月一日当時における家賃の停止統制額が千円以上に達す
るとしたのは違法とはいい難く、これを肯認した原判決にも違法はない。)
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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