弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人Aを懲役15年に,同B及び同Cをいずれも懲役14年に,同Dを懲
役11年に,同Eを懲役10年にそれぞれ処する。
被告人5名に対し,未決勾留日数中各500日をそれぞれその刑に算入す
る。
理由
(犯罪事実)
被告人Aは,F(当時47歳)が神戸市a区bc丁目d番e号Fビル等で「GH
店」等の名称で個室マッサージ等を実質的に経営する「Gグループ」の従業員で,
同店等の統括責任者として他の従業員の指導管理等の業務に従事していたもの,被
告人Bは,同グループの元従業員で,Fの元専属運転手として稼働していたもの,
被告人Cは,平成13年10月,中華人民共和国から就学ビザで来日し,日本語学
校で学ぶ傍ら,kの風俗店等でアルバイトをしていたもの,被告人Eは,被告人B
の以前の職場の同僚であったもの,被告人Dは,Fの秘書として同店等のイベント
の企画立案等の業務に従事し,同人と情交関係を有していたものであるが,
第1 被告人5名は,共謀の上,Fを殺害しようと企て,平成15年1月17日午
後8時ころ,神戸市a区fg丁目h番iIj号室の被告人D方において,Fに対
し,ボーガンに矢をつがえて突き付け,更に洋包丁(筋引)及び和包丁(刺身)を
突き付けるなどして脅迫し,いすに座らせた同人の顔面及び両足をそれぞれガムテ
ープで緊縛するなどするとともに,同人に後ろ手に手錠をかけた上,同人の胸部及
び腹部等を上記筋引包丁若しくは刺身包丁で多数回突き刺し,よって,同人を,そ
のころ同所において,左前胸部刺創による心臓・胸部大動脈・左肺臓等刺創により
失血死させた。
第2 被告人Bは,上記日時場所において,Fを殺害した後,同人が所有していた
現金約70万円を窃取した。
(証拠の標目)
省略
(補足説明)
第1 本件公訴事実の要旨
   本件起訴にかかる公訴事実の要旨は,被告人5名は,「GH店」等の名称で
個室マッサージ等を実質的に経営するFを殺害し,同人が所有する財物及びFが実
質的に経営する全会社及び全店舗の什器備品・従業員等を利用して同店舗等を営業
し,その売上金を収受すること等を含む経営上の権益を強取しようと企て,共謀の
上,判示(犯罪事実)記載の日時場所において,Fに対し,ボーガンの矢をつがえ
て突き付け,更に筋引包丁及び刺身包丁を突き付けるなどして脅迫し,いすに座ら
せた同人の顔面及び両手をそれぞれガムテープで緊縛するなどするとともに,同人
に後ろ手に手錠をかけた上,同人の胸部及び腹部等を上記筋引包丁若しくは刺身包
丁で多数回突き刺し,よって,同人を,そのころ同所において,左前胸部刺創によ
る心臓・胸部大動脈・左肺臓等刺創により失血死させた上,同所にあった,同人所
有の現金約70万円を強取した上,上記Aにおいて,上記経営上の権益を強取し
た,というものである。
   なお,検察官は,冒頭陳述において,上記経営上の権益について,Fが所有
する財物及び同人が実質的に経営する全11会社及び全14店舗の什器備品・従業
員等を利用して同店舗等を営業し,その売上金を収受することほか,同店舗等の知
名度,営業方法,裏金が流れるシステムを含むものであると述べた。
第2 前提となる事実関係
関係各証拠によれば,おおむね以下の事実関係が認められる。
なお,以下,被害者Fが経営する会社や風俗店(11社,14店舗)をまと
めて「Gグループ」,被害者Fを「F」という。
1 被告人ら及び被害者の経歴等
(1) 被告人A
被告人Aは,平成5年2月ころから,当時Fが経営していた風俗店で働き
始め,同年秋ころには,大学を中退して同店の仕事に専念するようになり,以後,
ホステスの募集・教育,男子従業員の教育等現場での仕事を中心に働き,Fが,神
戸(o・p)地区,大阪地区に多数の風俗店を有するGグループを築くのに貢献
し,本件当時は,神戸地区の統括責任者としてグループ内でFに次ぐ立場にあり,
登記簿上は,有限会社G及び有限会社Jの代表取締役となり,神戸地区の風俗店8
店舗を管理していた。Gグループでは,実質的経営者であるFを「会長」と呼ぶと
ともに,被告人Aを「社長」と呼んでいた。
(2) 被告人B
被告人Bは,平成6年の4月か5月ころから,Fの経営する風俗店でボー
イとして働き始め,その後,同店で働いていた被告人Aと親しく付き合うようにな
った。被告人Bは,Fの指示で,風俗店の名義上の営業者となったり,また,東京
や大阪のGで働くなどしていたが,平成11年8月ころ,Fから強く叱責されたこ
とに恐れをなしてFのもとから逃げ,富山市内のパチンコ店で働きはじめ,そこ
で,同じ店で働いていた被告人Eと知り合った。しかし,平成14年8月末か9月
初旬ころ,Fの指示を受けた被告人Aの誘いにより再びFのもとで運転手として働
き始め,Fの秘書である被告人Dとも顔見知りになった。
(3) 被告人D
被告人Dは,大学入学後の平成11年7月ころ,親との関係が悪化するな
どして家を飛び出し,同年12月ころからは,大阪の風俗店でホステスとして働い
ていたところ,平成13年3月,求人誌で見つけたGで働き始め,同年8月から会
長秘書となる一方,Fに強いられるままその愛人となった。
(4) 被告人C
被告人Cは,平成13年10月中華人民共和国から来日し,東京にある日
本語学校に通い,生活費を稼ぐため,皿洗いや工場で働くなどしていたが,平成1
4年4月ころからは,kで風俗店の呼び込みのアルバイトをするようになった。
(5) 被告人E
被告人Eは,平成9年11月ころから富山市内のパチンコ店で働いてお
り,平成11年ころ,被告人Bが同じパチンコ店で勤め始め,同人と親しくなり,
互いにパチンコ店を辞めた後も,時々連絡を取り合っていた。
(6) 被害者F
Fは,専門学校中退後,父親の経営するインクの製造販売会社で営業の仕
事をするなどしていたが,その後,自ら飲食店やクラブ等を経営しはじめ,神戸
(o・p)地区,大阪地区に多数の風俗店を有する風俗店グループであるGグルー
プを一代で築き上げた。Fは,平成13年11月,ウクライナ国籍のK(以下,
「K」という。)との間に,Lをもうけ,平成14年10月には,同女と入籍し
た。
2 犯行に至る経緯等
(1) Fは,Gグループのオーナー及び実質上の経営者として強力なリーダーシ
ップを発揮し,被告人Aを含めた全従業員は,Fの決めた事には逆らうことができ
ないという絶対服従の関係にあり,気に入らないことがあると,暴力を振って激し
く叱責するなどしていた。
被告人Aは,同グループ内でFに次ぐ立場にありながら,思うようにFが
仕事を任せてくれず,また,度々叱責されることにストレスを感じていたところ,
平成13年12月ころからは,被告人Dから,Fの愚痴や文句,裏話などを聞かさ
れるようになり,次第に,Fに対し批判的な気持ちを強めるとともに,被告人Aか
らも被告人DにFの文句や愚痴を言うようになっていった。そして,平成14年春
ころからは,被告人Aと同Dの間で,Fの殺害が話題になるようになり,被告人両
名の間では,Fを殺害する具体的方法が話に上がるようになっていった。また,同
年春か夏ころ,被告人Aは,被告人Dから,Fは被告人AをGの2代目にする気は
ないなどと聞かされたことから,自分がFに利用されてきたとの思いを抱き,F殺
害の気持ちを強めていった。
(2) 被告人Bは,同年8月末か9月初旬ころ,再びFのもとで運転手として働
くこととなったが,程なくしてFの以前と変わらない傲慢で威圧的な態度に落胆
し,被告人Aに愚痴をこぼし,「もう死んだらええやん。」などと言ったことか
ら,被告人Aは,同Bに対し,被告人Dとの間で進めていたF殺害の話を持ちか
け,被告人Bもこれに加わることとなった。
(3) 被告人A,同B及び同Dの3人は,その後,Fの愚痴や文句を言いなが
ら,同人の殺害方法について話し合っていたが,被告人ら3名の間では,F殺害
後,被告人Aを,Gグループのトップにさせようというもくろみがあり,そのため
には同被告人が警察に捕まると困ることから,同被告人が手を下さないことを前提
に,被告人Dが睡眠薬を飲ませて眠らせたFを包丁で刺し,同人と無理心中をした
ように見せかける案や,被告人BがF殺害を実行してくれる人物(ヒットマン)を
探し出し,その者にFを殺させる案などが検討され,実際に,包丁を用意したり,
凶器となるボーガンを入手して被告人Dの部屋で試射をするなどしていた。
(4) 上記被告人ら3名は,Kがウクライナに帰国する同年11月3日にF殺害
を実行することとし,同日,被告人A及び同Dは,Fと大阪地区の統括責任者であ
ったM(以下,「M」という。)らと共に,N空港にKの見送りに行ったが,その
際,被告人Dは,精神的に追い詰められ,とにかく被告人AにFを殺す姿勢を見せ
ておこうと考え,独断で,空港の喫茶店で,Fのコーヒーに睡眠薬を入れたが,同
人は,コーヒーの味の異変に気が付き,被告人Aが店員に文句を言うなどして,そ
の場は収まった。結局,その日は,Fの殺害は実行されず,同日夜,被告人Dは,
大量の睡眠薬を飲んで自殺を図ったが,被告人Aに発見され,病院に搬送されて一
命を取り留めた。
(5) 被告人Bは,同Dが自殺を図ったことを知り,この上は,自分がヒットマ
ン等を探してくるという案を実行するしかないと考えて東京に向かい,その後,被
告人Aと電話で連絡を取りながら,東京で殺しを引き受けてくれるヒットマンを探
していた。被告人Aは,同月14日,当面の生活費として,被告人Bの銀行口座に
50万円を送金し,その後も,生活費やヒットマンへの報酬等の経費として,2回
にわたり各1000万円を被告人Bに渡したが,これらの資金はいずれも被告人A
個人の貯金から拠出されていた。被告人Bは,同年12月中旬ころ,kの風俗店で
呼び込みをしていた被告人Cに出会い,当初,同被告人に,人殺しを引き受けてく
れる人のあっせんを依頼していたところ,同被告人は,日本語学校に支払わなけれ
ばならない金員等の工面に苦慮していたことから,被告人Bが提示した高額の報酬
に引かれて自らが殺し役になることを引き受けた。被告人Cの報酬は,最終的に
は,1000万円と決められ,同被告人は,同Bから,報酬の一部前払いとして,
2回にわたって,現金合計500万円を受け取った。
  被告人Bは,ヒットマンが1人見つかったことを被告人Aに電話で連絡を
し,その後は,同被告人が神戸の様子を被告人Bに連絡するなどしてF殺害実行の
機会をうかがうこととした。
(6) また,被告人Bは,同Eに犯行当日使うレンタカーの運転手をさせようと
考え,平成15年1月3日ころ,電車賃と30万円を渡すと言って,同被告人を東
京に呼び寄せた。被告人Eは,報酬が高額なことから,まともな仕事ではないと感
じてはいたものの,当時勤めていた会社を解雇されそうになっており,また,当時
交際していたフィリピン人女性とフィリピンで新たな生活を送りたいと考えていた
ことから,被告人Bの提案を受け入れた。
(7) 他方,自殺を図って入院していた被告人Dは,平成14年11月30日に
は退院し,その後は,Fの指示で,同人のlの自宅前にあるマンションOm号室に
住むこととなり,以前にも増して,Fから行動を監視されることとなったが,被告
人Aを通じて,被告人Bの状況を聞くなどして,F殺害の計画には関与を続けてい
た。
(8) 被告人らの間では,F殺害の実行日を平成15年1月8日とすることがい
ったん決められたが,同月7日,被告人Bが,kで二,三人の中国人に絡まれたこ
とから,その中国人が被告人Cの仲間であり,報酬だけ取られて同人らに裏切られ
るのではないかとの不安を覚え,被告人Aには,中国人に襲われて病院に行ったと
嘘をつき,実行日を延期することを了承させた。そこで,被告人Aと同Bは,もう
一度殺害計画を練り直すこととし,被告人Bが,同Eに200万円の報酬を提示し
て,同被告人に殺害の実行に加わることを承諾させ,結局,被告人B,同C及び同
Eの3人でF殺害を実行することになった。
(9) 同日ころ,被告人Dは,Fの指示によりマンションOから神戸市a区fg
丁目h番i所在のIj号室に転居することとなり,Fが被告人Dに,同月17日に
Ij号室で引っ越し祝いをしようと言ってきたことから,これを被告人Dから聞い
た被告人Aは,この日にF殺害を実行しようと決意し,被告人Bにその旨を伝え,
同被告人も,最終的にはこれを了承した。
(10) 同月15日夕方,被告人Bは,kのカラオケボックスで,被告人Cと同
Eを引き合わせ,3人で具体的な犯行手順等について打ち合わせを行った後,被告
人Bは,同Eに報酬の半分である100万円を支払い,残りはF殺害実行後に渡す
ことにした。
(11) 同月16日,被告人B,同E及び同Cは,東京を出発してレンタカーと
電車を乗り継いでoに行き,しばらくカラオケボックスなどで時間をつぶした後,
被告人Aの指示によりIに向かい,翌17日午前3時50分ころ,同所の郵便受け
に入っていた鍵を使って,被告人Dの待つ同j号室に入った。被告人B,同C,同
E及び同Dは,F殺害の話を詰め,被告人Dが,Fを同j号室に連れて入り,被告
人B,同C及び同Eが,Fを縛って包丁で殺し,第三者の犯行に見せかけるため被
告人Dを縛って二,三回殴って放置しておくことなどが確認され,また,F殺害
後,発見された被告人Dが,被害者としてどのような話を警察にするかについて,
犯人は,3人組の黒人または東南アジア系の外国人とする,Fにカードの暗証番号
を聞いていたが,Fが答えなかったため,1人がFを刺したことにするなどという
話が出たが,最終的な話は決まらなかった。また,このころ,被告人Dは,同Aの
事前の指示により,自分の手持金のうち100万円を被告人Bに手渡した。
(12) 被告人Dは,同日午後1時30分ころ,迎えに来ていた被告人Aの車で
出勤し,同日午後6時ころから,神戸市a区内の飲食店でFと2人で食事をし,同
日午後7時過ぎころ,同店を出て,Fを伴ってIj号室に向かった。
3 犯行状況等
(1) 被告人Bらは,Ij号室で待機していたところ,同日午後8時ころ,玄関
の物音でFらが帰宅したことを知り,被告人Bと同Eは,それぞれボーガンと包丁
を持って寝室に,被告人Cは包丁を持って洗面所の方に,それぞれ目出し帽をかぶ
り手袋をして隠れた。
(2) そして,Fが1人で,リビングルームに入ってくると,それぞれリビング
ルームに飛び出し,被告人Cが,Fの首筋に包丁を突き付け,被告人Bがボーガン
を構え,また,被告人EがFの脇腹に包丁を突き付けるなどして,それぞれFを脅
していすに座らせ,両手を後ろ手にして手錠をかけ,ガムテープで同人の口,鼻,
目をふさぎ,両足をいすの足に巻き付けるなどした上,被告人Cが,完全に無抵抗
の状態になったFの前胸部及び上腹部付近を包丁で約10回突き刺した。
(3) その後,被告人Cは,あらかじめ被告人Dが用意していた雑巾で床の血溜
まりや自分たちの足跡を拭いた。また,被告人Bは,同Dを被害者に見せかけるた
め,寝室で,同女の手首,足首,上半身,口付近等をガムテープで縛り,同女の左
右の頬を1回ずつ殴りつけた。
(4) そのころ,被告人Cが,Fと被告人Dのかばんを持って寝室入り口付近に
姿を見せたことから,被告人Bは,その2つのかばんを受け取り,Fのかばんの中
の財布に入っていた1万円札約70枚と,被告人Dのかばんの中の財布に入ってい
た1万円札約10枚を抜き取り,ズボンのポケットに入れた。また,被告人Bは,
同Cと,寝室にあったタンスの引き出しを開け,中をかき乱すなどして,部屋が荒
されたようにした。
(5) そして,被告人Bは,事前の被告人Aの指示にもとづき被告人Dの携帯電
話機2台もポケットに入れ,被告人Cと同Eが,Fの両手にしていた手錠をはずし
た上,被告人E,同Bの順に,持ち込んだ上記手錠や包丁等を持って,Ij号室か
ら退出し,被告人Cは,同Bから受け取った鍵を使って玄関の鍵を閉め,最後に同
室を出た。
4 犯行後の状況等
(1) 被告人Bら3名は,別々に電車に乗ってP駅で落ち合い,その際,被告人
Bは,掃除代として被告人Cに10万円を手渡した。その後,被告人Bら3名は,
駐車しておいたレンタカーで東京に向かい,途中,三重県q付近の海岸で,手錠や
包丁等を廃棄した。
(2) 東京に戻った後,被告人Bは,それぞれ報酬の残額として,被告人Cに現
金500万円を,被告人Eに現金100万円を渡し,被告人Eと共に,上記の携帯
電話機2台やIj号室の鍵を廃棄した。
(3) 他方,被告人Aは,同日午後8時26分ころ,被告人BからFを殺害し,
これから逃げるとの連絡を受け,また,翌18日午前11時30分ころにも,同被
告人から,東京に戻ったとの連絡を受けた。また,被告人Aは,同日午後,KがF
と連絡がつかず心配していることを伝え聞き,従業員のQ(以下,「Q」とい
う。)にIj号室の被告人D方を見に行くよう指示した。
同日午後6時前ころ,Qほか1名がIj号室に到着し,開錠業者を呼んで
玄関ドアの錠を開けさせて室内に入り,Fが殺され,被告人Dが縛られているのを
発見し,被告人Aの指示により警察に通報した。
(4) Gグループでは,帳簿上は過小な売上げを計上し,実際の売上げとの差額
をFの元に集め,裏金として利用していたが,これらの裏金の保管場所はFしか知
らなかったところ,被告人Aは,同日,Gグループ全体の財務をも担当していたM
らと共に,Gグループの経理担当者であり,同グループ会社の1つである株式会社
R代表取締役でもあるSをFの自宅に呼び,その保管場所を尋ねるなどしたが,同
人もその場所を知らなかった。しかし,被告人AやMは,このころ,Fの自宅3階
のKの寝室で,裏金の一部と思われる千数百万円を見つけた。
(5) また,そのころ,被告人AとMとの間で,Gグループの営業はこのまま続
け,これまでナンバー2であった被告人AがFの後を継いで経営をしていくという
話が決まり,同月19日には,幹部従業員の1人であるQの部屋に,Mら幹部従業
員が集まり,さらに,同月20日には,神戸地区スタッフの全員約30名が,同グ
ループの店舗の1つであるTに集められ,今後も,同グループ各店舗の営業を続け
ていくこと,被告人Aが同グループのトップになることなどが伝えられた。また,
同じころ,大阪地区の従業員も集められ,Mから,営業を継続していくことや,被
告人Aがトップになるという話がなされた。
(6) 被告人Aは,事件後,M及び被告人Dらとともに,ほとんどF宅に寝泊ま
りするようになったが,同月21日ころ,被告人DやMと一緒に,F宅の隠し金庫
の中に約5000万円があるのを見つけ,Kの部屋で見つけた千数百万円ととも
に,被告人Aの実家に運び,以後,被告人AがMと話し合いながら,Gグループの
運転資金として使用していった。
(7) その後,被告人Aは,同年2月3日,U法務局に,同年1月27日付けで
Vの代表取締役に就任した旨,同年2月18日,W法務局に,同月5日付けで有限
会社F管財の取締役に就任した旨の登記を申請し,また,Gグループの代表とし
て,金融機関等関係先にあいさつ回りをするなどしていた。
(8) 他方,被告人Dは,連日のように警察から事情を聞かれ,覆面をした3人
組の男達に襲われたなどという話をしていたが,被告人Bも,警察官から事情聴取
を受け,同月24日,所持していた約260万円の現金について説明を求められ,
この一部はFから奪ったものであることや,Fを殺害したことを認めたことから,
翌25日,強盗殺人罪で逮捕され,その後,同月27日,被告人Aと同Dが,同年
3月5日には,フィリピンにいったん出国後帰国していた被告人Eが,同月7日に
は被告人Cが,それぞれ強盗殺人罪で逮捕された。
第3 2項強盗殺人罪の成否について
 1 検察官は,被告人5名は,Fを殺害し,被告人Aにおいて,Fが実質的に経
営する全会社及び全店舗の什器備品・従業員等を利用して同店舗等を営業し,その
売上金を収受すること等を含む経営上の権益(以下,「経営上の権益」という。)
を強取する旨の共謀を遂げ,これを強取したものであって,被告人5名には2項強
盗殺人罪が成立すると主張し,各弁護人は,そもそも検察官が主張する「経営上の
権益」は,刑法236条2項の「財産上の利益」には当たらないし,被告人5名
は,これを強取しようと共謀したことも,これを強取したこともないから,同罪は
成立しないと主張する。
2 そこで検討すると,上記認定のとおり,被告人Aが,GグループにおいてF
に次ぐいわゆるナンバー2の地位にあったこと,そして,被告人Aは,F殺害後,
すぐに同グループのトップとなることを引き受け,従業員の団結や,裏金探し等の
資金の算段等,積極的に同グループの経営に乗り出し,逮捕されるまでの間,同グ
ループのトップとしての立場にあったといえること,そして,被告人A自身,Fを
殺害することによって,同グループのトップになることを重要な動機・目的として
本件犯行を実行していることなどが認められる。なお,被告人Aは,同グループの
経営をすることは考えていなかったのであり,Fに対する恨みのみが犯行動機であ
ったと供述するが,この供述は,被告人Aの犯行後の行動に照らしても,また,被
告人Bや同Dにおいて,犯行後は被告人Aが同グループを経営することを前提に犯
行を行っていることに照らしても,信用することはできない。
こうした事実からすると,Fを殺害することによって,被告人AにおいてF
が持っていた「経営上の権益」を入手したと見る余地もあり,これを強取したとす
る検察官の主張もあながち理解できないではない。
3 しかしながら,人を殺害することにより,犯人が被害者の有していた何らか
の財産上の利益を取得する結果になることはままあり得ることであって,犯人がそ
れを意図していたからといって,このような場合全てに2項強盗殺人罪の成立を認
めることは,あまりにその成立範囲を拡大するものといわざるを得ない。単なる殺
人罪ではなく奪取罪の1つである2項強盗殺人罪が成立するためには,1項強盗罪
における財物の強取と同視できる程度に,その殺害行為自体によって,被害者から
「財産上の利益」を強取したといえる関係にあることが必要と解される。
   この点,2項強盗殺人罪の典型例である,債務を免れるために債権者を殺害
した場合のように,行為者と相手方間に予め一定の法律関係がある場合には,相手
方を殺害することによって,まさにその債権者たる相手方から債務者たる行為者に
利益が移転したと認めることは,比較的容易といえる。
   これに対し,本件における「経営上の権益」,すなわちFが有していた,G
グループのトップとして同グループ全体を経営する地位は,創業者でありオーナー
でもある同人の一身専属的な意味合いを強く持っているが,F自身の意思により選
んだ後継者にその地位をある程度包括的に承継させることは考えられないではな
い。しかし,その「経営上の権益」なるものは,Fが死亡した場合には,被告人A
に引き継がれる可能性が高かったとはいえ,両者の間に当然にそのようになる一定
の法律関係等が存していたわけでもない。実際,関係各証拠によれば,被告人A
は,F殺害発覚後,同グループの有力者であるMとの間で今後のグループ経営をど
うするかについて話合いを持ち,被告人Aが代表者になることでMの同意を取り付
けていること,その後,何回かにわたり幹部従業員が集まった席で,被告人Aある
いはMやQから,出席者にその方針が示され,内心反対の者はいたものの,表面的
には特段の異論が出ることはなく受け入れられていったことが認められ,このよう
な経過からしても,殺害行為自体によって,Fから「経営上の権益」が移転したと
はいい難い。
4 小括
   そうすると,本件では,被告人Aは,Fの殺害後,その後継者として「経営
上の権益」を,実質的にはおおむね掌握したとみられるものの,それはFから直接
得られた利益というよりも,Fが死亡したことにより,被告人Aの同グループ内で
の地位が相対的に上がったことによって,事実上得られた利益にすぎないというべ
きである。
そして,上記のとおり,「経営上の権益」などというものについて,包括的
な承継が全く観念できない訳ではないとしても,本件においては,被害者を殺害す
ること自体によって,それが行為者に移転するという関係を想定することは困難で
あることからすれば,本件の事実関係のもとでは,検察官の主張する「経営上の権
益」は刑法236条2項の「財産上の利益」に当たらないと解するのが相当であ
る。
よって,本件において,被告人5名に2項強盗殺人罪は成立しない。
第4 1項強盗殺人罪の成否について
1 検察官は,被告人5名には,Fを殺害してFの財物を強取する共謀があり,
被告人5名には1項強盗殺人罪が成立すると主張し,各弁護人は,被告人らが,F
の財物を強取しようと共謀した事実はないから,1項強盗殺人罪は成立せず,これ
に加えて,被告人Bの弁護人は,被告人BがF殺害直後に,同人の財布から現金約
70万円を取ったことを認めながらも,被告人Bが現金を取る意思を生じたのはF
を殺害した後のことであり,また,同被告人には不法領得の意思がないなどとし
て,1項強盗殺人罪はもちろん窃盗罪も成立しないと主張し,被告人5名も公判廷
において,おおむねこれに沿った供述をする。
2 1項強盗殺人の共謀の有無について
  (1) 関係各証拠によると,F殺害後,被告人Bは,被告人Cが持ってきたかば
んがFと被告人Dの物であることが分かると,被告人Cからそのかばんを受け取
り,Fの財布から現金約70万円,被告人Dの財布から現金約10万円を抜き出し
ていることが認められる。
    しかしながら,他方,現場にいた他の被告人3名において,Fの財物を探
すなどした形跡はなく,また,被告人Bが70万円を取ったことについてもことさ
ら意識していたふうもないほか,上記のとおり,被告人5名は,F殺害の計画を幾
度も変更したきたものであるが,その間,とりたててF殺害後の財物奪取に焦点を
当てた謀議をした様子もないことを併せ考えると,被告人Bと他の被告人4名の間
において,事前にFを殺害してその財物を奪取する謀議があったとするには疑問が
ある。
  (2) 検察官の主張
これに対し,検察官は,①被告人Bと同Aとの間に,事前にFの所持金を
奪うという共謀があり,また,②被告人らの間に,Fの所持金等を含む金品を被告
人D方から持ち去り,本件を強盗の犯行に見せかけるとの共謀があったと主張して
いるので,以下これらの点について,検討する。
ア ①について
(ア) 被告人Bは,平成15年3月18日付け検面調書(乙39号証)にお
いて,「そして,今,思い出しましたが,OでF会長殺しを実行するという話が出
ていたときだったかもわかりませんが,Aは電話で私に『おっさんの財布の中から
金を持って行ったらええやないか,ただカードとかに手をつけたらあかんぞ』と話
してきました。」,「このようなことからAはF会長が実質的に経営している全風
俗店のトップになるつもりでいたということだけでなく,どのみちF会長を殺すの
であれば,F会長はいつも現金を所持しているのであるから,現金を持ち去って逃
走資金に使ったらいいというつもりでいたということは間違いありませんし,私も
実際にF会長を殺した直後,F会長のバッグから現金を抜き取って持ち去っていま
す。したがって,私とAの間で,1月17日にF会長殺しを実行するということが
決定した電話終了時点で,強盗を装うということも決まったわけなので,当然,F
が所持している現金について,強盗を装うために,私が現金を持ち去って逃げて行
く,そして,その現金を私の当面の生活資金や逃走資金に充てるということは,A
もわかっていたはずであり,Aはこのようなことがわかっていながら,なおも私と
F会長殺しのための計画に加担し続けていたわけでした。」などと,この時点での
会話で,少なくとも被告人Aとの間に現金強取の共謀が成立していた旨の供述をす
る。
(イ) 他方,被告人Bは,上記乙39号証の作成経過について,公判廷及び
陳述書(四)において,検察官から,「Aとの話の間でいままで殺害計画いろいろ
あるが物や金を盗ろうという話が1回でも出たことないのか。よう思い出してく
れ。Aは俺はこの件は知らんといっている。勝手にDとBがやったことやといって
いる。君それでええかよう思い出してくれ。物を盗ろうという話があったやろ」な
どと言われ,よく思い出してみたところ,平成14年11月ころF宅で予定してい
た無理心中計画の際,計画実行後,警察がF宅から多額の現金(裏金)を見つける
とこれまでやってきた税金対策がばれてしまうことから,Aから,現金があれば持
ち出してBの部屋に隠しておくよう言われていたことを思い出し,そのことを検察
官に述べたところ,上記のような供述調書を作成されてしまったと供述している。
一方,被告人Bの供述の中で,被告人Aとの上記の会話について触れ
たものは,上記乙39号証1通だけである。被告人Bは,現場からの金品の持ち出
しについて,捜査官から厳しい取調べを受けていたはずであり,被告人Aとの間で
本当にこのような話があったのであれば,他の供述調書においても,同旨の供述が
あるのが自然である。しかし,被告人Bは,同月12日付け検面調書(乙31号
証)において,「強盗に見せかけるためにはF会長の現金を持ち出して逃げていか
なければいけない」「せっかくF会長の現金を強盗に装ってもちだしていくのであ
るなら,その現金を今後の逃走資金や生活資金に充てたらいいなと思いました」な
どと供述しながら,被告人Aとの間で上記のような会話のあったことには一切触れ
ていない。そして,被告人Bは,乙39号証の供述調書以前の供述においても,こ
とさら被告人Aをかばうような供述態度はうかがわれず,起訴の当日になっていき
なりこのような供述がなされたという供述経過には,不自然な印象をぬぐえない。
これに加え,上記のとおり,被告人Bは,F殺害後,Fの財布等同人
の所持金を積極的に物色したような形跡は全くないことなどの事情に照らせば,被
告人Bが,上記乙39号証の作成経過として述べるところは必ずしも排斥すること
はできず,被告人Aと同Bとの間でFの所持金を奪うことが事前に決まっていたと
いう上記被告人Bの捜査段階での供述は,ただちに信用することができない。
(ウ) さらに付言すると,上記乙39号証においても,被告人Aとの間で上
記のような会話があったのは,「OでF会長殺しを実行するという話が出ていたと
きだったかもわかりませんが」などというもので,その時期すら明確でない。のみ
ならず,上記認定のとおり,被告人らの間では,F殺害の計画が何度も変更され,
Ij号室での殺害計画も,犯行の2日前になって急に決まっており,しかも,その
際,被告人Bは,「引っ越してすぐ泥棒に入られましたじゃおかしいやろ。」など
とこれまでの計画どおりでは無理があり延期した方がいいと主張したが,被告人A
に押し切られたという経緯があり,犯行当日になっても,F殺害以外の点について
は,不確定な部分が多く,F殺害後の被告人らの物盗りに見せかけるための行為は
むしろ場当たり的であったことがうかがえる。そうすると,仮に,被告人Aとの間
に,どこかの時点で,Fの現金を持ち出すことについて何らかの会話があったとし
ても,そのことから,被告人Bと同Aの間に,現金の強取について共謀があったと
するには,大きな飛躍があるといわざるを得ない。
(エ) したがって,被告人Bの捜査段階での上記供述に基づき,被告人Bと
同Aの間に,Fの所持金を強取する旨の事前共謀があったと認定することはできな
い。
イ ②について
(ア) 被告人Bは,捜査段階において,被告人Bと同E,同Cの3人が,被
告人Dの部屋に集まり,同被告人を交えて4人で話し合った際,被告人Cが,他の
被告人3名に対し,「強盗を装って現金を取っていく,それ以外にも一杯取ってい
く」などと言い,さらに,被告人Dに対し,「大事な物があるんだったら置いてお
かない方がいい,泥棒はみんな持っていく」などと言ったことから,被告人Dは,
パソコンのような物(実際にはDVDプレーヤー)を部屋から持ち出したなどとい
う趣旨の供述をしている。
(イ) これに対し,被告人Bは,公判廷及び陳述書において,上記の被告人
Cの発言があったことを検察官に供述したこと自体を否定し,そのようなCの発言
を聞いた記憶もないとして,これを否定する供述をする。
(ウ) また,被告人C自身は,捜査段階及び公判廷を通じて,被告人D宅で
の打ち合わせの際,「現金を取って行く,いっぱい物を取る」などと言ったことは
ないし,金を取る話が被告人ら4名の中で出たこともなく,そもそも,強盗の話
は,被告人Dが,警察にどう説明するかという話であったという趣旨の供述をして
おり,被告人Bの捜査段階における上記供述を否定している。
(エ) 他方,被告人Dは,捜査段階において,強盗を装うことについては異
論はなく,強盗犯人であれば,会長殺しの本当の目的を隠すためにも,自分やFの
所持品から何かを盗み出すことになるかもしれないなどとも思ったと述べ,被告人
Eも,捜査段階においては,被告人Dが強盗にあったと見せかける話が出ていたの
で,自分は当然被告人Dと一緒に部屋に入ってくるFも合わせて強盗にあったよう
に装わなければならないだろうとは思っていたなどと述べ,いずれも強盗を装うた
めに何らかの金品を持ち出す可能性を認識していたことは肯定している。しかし,
被告人Cが,強盗を装って現金や物を取っていくと発言したとの点については,こ
れを裏付ける供述はなく,また,被告人Cの上記供述に対する他の被告人らの反応
を示す証拠も全く存しない。
そうすると,被告人Cが,「強盗を装って現金を取っていく,それ以
外にも一杯取っていく」などと発言したとすることには疑問がある。
(オ) 加えて,本件全証拠によっても,被告人らの間で,Fの財物を強取す
るについて,その具体的な方法や役割等が話し合われた状況は全くなく,上記のと
おり,F殺害後も,被告人らが積極的にFの現金や貴重品等を物色した事実はな
く,また,被告人Cが持ってきたFのかばんの中から,被告人Bが現金を抜き出し
たことは認められるものの,他の被告人らにおいて,そのことをことさら意識して
いた様子はない。これらの事情は,検察官の主張する被告人D方での事前共謀の存
在とはそぐわないといわざるを得ない。
(カ) そうすると,被告人Cが強盗を装って金品を取っていくなどと発言し
たという被告人Bの供述を根拠に,被告人らの間に強盗の事前共謀が成立したと認
定することも相当ではない。 
ウ 以上のとおりであって,結局,被告人らの間に,Fの財物を強取するに
ついて,事前の共謀があったことを認めるに足りる証拠はない。
 3 被告人Bの1項強盗殺人罪の成否について
  (1) なお,上記の共謀が認められないとしても,自ら現金約70万円を取って
いる被告人Bについては,事前に財物奪取の意思があったとすれば,強盗殺人罪が
成立する可能性があるので,この点について検討する。
  (2) 被告人Bは,公判廷及び陳述書において,被告人Cがかばんを持ってきた
から,とっさに思いついて金を取ったという趣旨の供述をしている。
    そして,関係各証拠によれば,被告人Bが,Fの財布から現金を抜き出し
た経緯については,上記のとおり,F殺害後,被告人Bが,強盗を装うため,寝室
で被告人Dを縛り,タンスの引き出しを開けるなどしていたところ,被告人CがF
と被告人Dのかばんを寝室に持参し,被告人Bがこれを受け取って,その中の財布
を取り出したものであること,他方,現金等が存在する可能性の高いFの着衣につ
いては,これを探そうともせず,実際Fのズボンの中にあった14万円余りの所持
金は残ったままになっていたことが認められ,被告人Bが,F殺害の前後を通じ
て,積極的にFの所持金に関心を示していた状況は全くうかがえない。これらの事
情に照らすと,被告人Bの上記公判廷等での供述を,一概に虚偽であるとして排斥
することはできない。
    そうすると,被告人Bが,現金約70万円を取ったことについては,その
犯意はF殺害後に生じたものと認める余地があるのであって,強盗の犯意にもとづ
くというには合理的な疑いがあり,結局,被告人Bには窃盗罪が成立するにとどま
る。
    なお,被告人Bの弁護人は,被告人Bは,同CがFのかばんを持ってきた
ことから,たまたま現金を取ったものであり,被告人Bにはいわゆる不法領得の意
思がないと主張する。しかしながら,被告人Bは,同Cがかばんをもってきたこと
を契機として現金を抜き取ることを思いついたに過ぎず,現金を持ち出した主たる
目的が罪証隠滅工作であったとしても,実際に現金を持ち出して逃走し,所持金の
一部として使用していることに照らせば,被告人Bにいわゆる不法領得の意思が全
くなかったとは認められず,この点についての弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
被告人5名の判示第1の行為は,いずれも行為時においては刑法60条,平成1
6年法律第156号による改正前の199条に,裁判時においては刑法60条,上
記改正後の刑法199条によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変
更があったときにあたるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によること
とし(有期懲役刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁
判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるので,上記同様に刑
法6条,10条により軽い行為時法のそれによる。),被告人Bの判示第2の行為
は刑法235条にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪についていずれも所定刑
中有期懲役刑を選択し,被告人Bについて,以上は同法45条前段の併合罪である
から同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重(加重の上
限は,行為時においては上記改正前の刑法14条に,裁判時においてはその改正後
の刑法14条2項によることになるので,上記同様に刑法6条,10条により軽い
行為時法のそれによる。)をし,被告人A,同D,同E及び同Cについては所定刑
期の範囲内で,同Bについては加重をした刑期の範囲内で,被告人Aを懲役15年
に,被告人B及び同Cをいずれも懲役14年に,被告人Dを懲役11年に,被告人
Eを懲役10年にそれぞれ処し,被告人5名について,同法21条を適用して未決
勾留日数中いずれも各500日をそれぞれその刑に算入し,被告人D,同B,同E
及び同Cについて訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用していずれ
の被告人にも負担させないこととする。
(量刑の理由)
第1 被告人らに共通する情状について
本件は,風俗店グループであるGグループの実質的経営者であった被害者F
を,被告人らが共謀して殺害し,その後,被告人BがFの財布から現金約70万円
を窃取したという事案である。
本件殺人の犯行態様は,被告人Dが,Fを自宅マンションに招き入れ,同所
であらかじめ待ち伏せしていた被告人B,同C及び同Eが3人掛かりで,包丁やボ
ーガンを使って脅し,ガムテープや手錠を使っていすに固定するなどして,Fの抵
抗を完全に押さえ込んだ上,同人の胸部等を多数回包丁で刺すというものであり,
確実にFを殺害することを狙って周到に計画された残忍で悪質な犯行である。ま
た,上記認定のとおり,F死亡後,少なくとも当分の間,被告人AがFの代わりに
Gグループを経営する蓋然性は高かったのであり,被告人Aはこのことを認識して
いたこと,被告人Bや同Dも,犯行後,被告人Aが同グループを経営することを前
提に犯行を計画していたこと,被告人Aは,F殺害後,すぐに同グループのトップ
となることを引き受け,従業員の団結や,裏金探しや資金の算段等,積極的に同グ
ループの経営に乗り出していたこと等に照らせば,被告人らは,F殺害後,被告人
Aが同グループを経営支配することを見越して本件犯行に及んだものであり,強盗
殺人罪は成立しないとはいえ,その動機には利欲的側面が強く認められる。
Fは,何の警戒心もなくマンションの1室に入ったところ,不意をつかれて
襲われ,凶器を持った3人の男たちの言うなりとなった末に,無惨な姿で殺害され
たのであって,その間の恐怖や苦痛は察するに余りある。
また,Fは,自らの才覚と周囲の人を引きつけるカリスマ性により,一代で
Gグループを築き上げ,本件当時も店舗買収を行う計画を立てるなどして同グルー
プをさらに拡大しようとしていたのであり,妻Kとの間に1歳になったばかりの長
男Lがいたこと等にも照らせば,信頼していた被告人Aを含む被告人らの凶行によ
って,突然殺害され,未来への希望と家庭の幸福を奪われた無念さは計り知れず,
Fの父親や妻ら遺族の処罰感情が厳しいのもまた当然である。
これに対し,被告人らは,それぞれ,反省の手紙をしたためるなどして,遺
族らに謝罪の気持ちを伝える努力をしているものの,それ以外に,何ら具体的な慰
藉の措置はとっていない。
第2 被告人らの個別の情状
1 被告人Aについて
被告人Aは,上記認定のとおり,被告人Dと接するうちに,従業員にきつく
あたるFの言動が不合理なものに思え,また,被告人Dを通じて,Fが被告人Aを
Gグループの2代目にするつもりがないなどと聞いたことから,Fが自分を実の子
のように思っているなどと言っていたのも,自分を利用するための嘘だったのでは
ないか,などと考えるようになって怒りを覚えたことが,F殺害に至るきっかけと
なっており,Fに対する恨みが本件犯行の主要な動機であったと認められる。そし
て,被告人Aが,それまでFを信じて,同人の下で約10年もの間懸命に働いてき
たことに照らせば,Fに裏切られたという絶望感が大きかったことは想像に難くな
く,この点に酌むべきところもないではない。しかしながら,他方,被告人Aは,
Fの真意等をそれ以上に確認することもなく,短絡的に本件犯行に及んでいる上,
Fが真実被告人Aの信頼を裏切っていたとしても,それがF殺害を正当化するもの
でないことは勿論である。
また,被告人Aには,上記のとおり利欲的動機も強く認められ,この点につ
いては,全く酌量の余地はない。
加えて,被告人Aと同B,同Dの間は,元々,兄貴分,弟分,妹分という関
係にあったところ,被告人Aは,被告人BにF殺害を持ちかけ,ヒットマンを探す
ための経費やその報酬等のため約2000万円もの大金を提供したばかりか,Fの
動向を確認しながら,実行犯である被告人Bと連絡を取り,犯行の日時を指示する
など,積極的に本件犯行に加担し,共犯者間で中核的役割を果たしながら,他方
で,被告人B及び同Dに対し,繰り返し,被告人A自身は実行犯とはならず,また
逮捕されることはない計画である旨何度も念を押すなど卑劣でこうかつな面も見ら
れ,その刑責は極めて重い。
他方,被告人Aは,公判廷では,F殺害に加担したこと自体は認め,自分な
りに反省していること,前科はないこと,母親が公判廷において,今後の監督を誓
っていること等酌むべき事情も存在するが,これらの事情を十分に考慮したとして
も,上記の犯情にかんがみれば,被告人Aは,共犯者間で最も重い責任を負うとい
わざるを得ない。
2 被告人Bについて
被告人Bは,Fに不合理な理由で激しく叱責されるなどして,Fに恨みを抱
き,また,このように従業員を手ひどく扱うFがいなくなれば,Gグループが良く
なるのではないかなどという思いから,Fの殺害を決意したのであるが,このよう
な動機に全く酌むべき点がないとはいえないとしても,到底F殺害を正当化するも
のでなく,やはり身勝手で短絡的なものといわざるを得ない。
加えて,被告人Bは,実行犯グループの要として,被告人Aと連絡を取りな
がら,被告人Cや同Eを犯行に引き入れ,凶器等を用意するなど積極的に犯行の準
備を行い,現場においても共犯者らに指示をするなど,終始主導的な役割を果たし
ており,共犯者間での役割は,非常に大きい。
そうすると,被告人Bが,F殺害の事実を認め反省していること,動機面で
の利欲性は他の被告人に比べて薄いと認められること,前科がないこと等,被告人
Bのために酌むべき事情を考慮しても,その責任は被告人Aに次いで重い。
3 被告人Cについて
被告人Cは,何の利害関係もないFの殺害計画に,約1000万円もの多額
の報酬目的で加担したものであり,利欲的動機に酌量の余地はない。
被告人Cは,同Bや同Eとともに,Fの目や口をガムテープでふさぎ,両足
をいすに固定した後,1人で,無抵抗のFに対し,その前胸部及び上腹部付近を包
丁で約10回も繰り返し突き刺し,その場で同人を死亡させたものであり,その行
為態様は冷酷非情というほかなく,刑事責任は非常に重い。
他方,被告人Cは,F殺害の事実を認めて反省していること,まだ年若く,
これまで前科もないこと等同被告人のために酌むべき事情も認められるが,上記の
犯情に照らせば,被告人Bと同等の責任を負うというべきである。
4 被告人Dについて
被告人Dは,Fの愛人になることを強いられ,さらには整形手術を強要され
るなど,Fに人格を踏みにじられ,抑圧されていたことから,Fに対する憎しみや
恐怖を抱き,また,好意を寄せていた被告人AをFへの服従から解放したいと考え
たことなどが,本件犯行の動機であったと認められる。確かに,被告人Dに対する
Fの仕打ちには,同情すべき点が多々あり,同女が現在でも,恐怖や憎しみから,
Fではなく,遺族に対してしか謝罪の気持ちを表せないと述べているのも無理から
ぬところはある。しかし,被告人D自身が,主なものとして供述している被告人A
への愛情にもとづく犯行動機は,結局は,被告人AをGグループの経営者にするこ
とをもくろむものであって,まことに身勝手なものというほかない。
加えて,被告人Dは,被告人Aと共に早い時期からFの殺害を企図して謀議
を重ね,いったんは,自らFのコーヒーに睡眠薬を入れるなどしたこともある上,
本件においても,Fを犯行現場となったマンションの1室に連れ込み,犯行後は,
被害者を装って捜査機関に虚偽の供述をするなど,本件犯行において重要な役割を
担っており,その刑事責任は重い。
他方,上記のとおり本件犯行動機には同情すべき点もあること,現在では本
件犯行への関わりを全て認め,被告人Dなりに反省していること,前科がなく,ま
だ年若いこと,両親が今後の監督を誓っており,自らも得意な語学を活かして社会
貢献したいとの更生の意欲を見せていること等,同被告人のために酌むべき事情も
認められる。
5 被告人Eについて
被告人Eは,想いを寄せるフィリピン人女性と新しい生活を始める資金を得
る目的で,200万円の報酬欲しさから安易に本件犯行に加担したものであり,利
欲的かつ短絡的動機に酌量の余地はない。
被告人Eは,Fの殺害行為に直接手を下してはいないものの,被告人Bや同
Cとともに,犯行現場に行ってFを待ち伏せ,包丁やボーガンを使って同人を脅
し,椅子に座らせて両手に手錠をかけるなど,本件犯行を遂行する上で軽視し得な
い行為を分担しているのであって,刑事責任は重い。
他方,被告人Eは,被告人Bらの指示に従って行動していただけであり,共
犯者間では従属的立場にあったこと,当初から,素直に罪を認め,反省の情を深め
ていること,前科はないことなど,被告人Eに有利な情状もある。
第4 結論
   そこで,以上のような諸事情を総合考慮して,被告人5名に対し,それぞれ
主文の刑を量定した。
(求刑 被告人5名について無期懲役)
平成17年4月26日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官   笹野明義
裁判官   小山裕子
裁判官浦島高広は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官   笹野明義

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