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平成16年(行ケ)第159号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 平成17年1月19日
判決
原告   株式会社三洋物産
同訴訟代理人弁理士山田強
被告   特許庁長官 小川洋
同指定代理人      藤井俊二 
同渡部葉子
同高橋泰史
同涌井幸一
同 宮下正之
主文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
(1)特許庁が異議2002-72242号事件について平成16年3月2日に
した決定を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
主文と同旨
第2 前提となる事実(文中に証拠を掲記したもの以外は,当事者間に争いがな
い。)
1 特許庁における手続の経緯
  (1) 原告は,平成11年3月23日,平成2年12月15日に出願された特願
平2-410815号の一部を分割し,発明の名称を「遊技機における制御回路基
板の収納ケース」とする特許出願(特願平11-77271号)をした(甲1,
2)。特許庁は,同出願につき,特許すべき旨の査定をし,平成14年1月11
日,特許第3266137号として設定登録をした(以下,この特許を「本件特
許」という。)。
  (2) 本件特許については,P1ほか2名より特許異議の申立てがされた(甲
1)。特許庁は,同申立てを異議2002-72242号事件として審理をした
上,平成16年3月2日,「特許第3266137号の請求項1に係る特許を取り
消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,同月22日,その謄本は原
告に送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨は,本件特許の設定登録時の明細書(甲2。以下
「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりの
ものである(以下,この発明を「本件発明」という。)。
【請求項1】 遊技動作を制御する制御回路基板を内部に収納するケースにおい
て,前記制御回路基板の電子部品が実装される部品面のほぼ全域を前記収納ケース
の合成樹脂製の透明板から透視し得るようにする一方,前記収納ケースの底板部に
基板を固定する基板固定ピンを突設し,該基板固定ピンにより前記収納ケースの底
板部と前記制御回路基板のハンダ面との間に空間を形成すると共に,該空間のほぼ
全域を側方から透視し得るようにしたことを特徴とする遊技機における制御回路基
板の収納ケース。
 3 本件決定の理由の要旨は,次のとおりである。
(1) 実願昭62-14014号(実開昭63-122469号)のマイクロフ
イルム(甲5。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」と
いう。)との対比
   ア 本件発明と刊行物1発明とを対比すると,両者は,遊技動作を制御する
制御回路基板を内部に収納する収納ケースにおいて,前記制御回路基板の電子部品
が実装される部品面のほぼ全域を前記収納ケースの合成樹脂製の透明板から透視し
得るようにした遊技機における制御回路基板の収納ケースという点で一致し,本件
発明では,「収納ケースの底板部に基板を固定する基板固定ピンを突設し,該基板
固定ピンにより前記収納ケースの底板部と前記制御回路基板のハンダ面との間に空
間を形成すると共に,該空間のほぼ全域を側方から透視し得るようにし」ているの
に対し,刊行物1発明では,制御回路基板(プリント基板10)が収納ケース(ケ
ース11)にどのように取付けられているか不明である点で構成が相違する(以
下,この相違点を「相違点1」という。)。
   イ 相違点1について検討するに,収納ケースの底板部に,基板固定ピンを
突設し,該基板固定ピンにより前記収納ケースの底板部に制御回路基板を取付ける
ことは周知であり(例えば,特開平2-45079号公報(甲6。以下「刊行物
2」という。),特開平2-249572号公報(甲7。以下「刊行物3」とい
う。)参照。),刊行物1発明において,制御回路基板(プリント基板10)をこ
の周知な手段によって収納ケース(ケース11)の底板部(底板11b)に取付け
るよう構成することは当業者なら容易に想到できることである。
     しかも,刊行物1発明において,制御回路基板(プリント基板10)
を,底板部(底板11b)に突設した基板固定ピンによって底板部(底板11b)
に取付けたものは,底板部と前記制御回路基板のハンダ面との間に空間が形成さ
れ,その空間のほぼ全域を,全体が観察窓とされた上部蓋11aから透視できるこ
とになる。
   ウ そして,刊行物1発明の効果は,遊技内容を制御するCPUやROM等
の電子部品に施された封印の状態を,電子部品を収納ケースに収納したままで,ケ
ースの外側から簡易に検査することができるものであり,しかも,底板部と制御回
路基板のハンダ面との間の空間のほぼ全域を透視できれば,ジャンパー線による制
御回路基板への不正行為を見つけることができることは明らかであるから,本件発
明が奏する効果は,刊行物1発明及び周知技術から予測できる程度のことであっ
て,格別顕著なものではない。
   エ したがって,本件発明は,刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものである。
  (2) 刊行物2記載の発明との対比
   ア 本件発明と刊行物2記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)とを
対比すると,両者は,遊技動作を制御する制御回路基板を内部に収納する収納ケー
スにおいて,前記収納ケースの底板部に基板を固定する基板固定ピンを突設し,該
基板固定ピンにより前記収納ケースの底板部と前記制御回路基板との間に空間を形
成するようにした遊技機における制御回路基板の収納ケースという点で一致し,本
件発明では,制御回路基板の電子部品が実装される部品面のほぼ全域を前記収納ケ
ースの合成樹脂製の透明板から透視し得るようにする一方,収納ケースの底板部と
前記制御回路基板のハンダ面との間に形成した空間のほぼ全域を側方から透視し得
るようにしているのに対し,刊行物2発明では,収納ケース(回路基板ケース)が
制御回路基板の電子部品が実装される部品面のほぼ全域を前記収納ケースの合成樹
脂製の透明板から透視し得るように構成されていない点で構成が相違する(以下,
この相違点を「相違点2」という。)。
   イ 相違点2について検討するに,刊行物2発明では,下面板26と回路基
板6との間に第2空間部80が形成されており,制御回路基板(回路基板6)は通
常下面においてハンダ付けされているから,刊行物2発明において,収納ケースの
底板部と前記制御回路基板のハンダ面との間に空間が形成されていると認められ
る。そして,収納ケース内の電子部品等を見ることができるようにするため,上ケ
ース(上部蓋11a)を透明な合成樹脂で形成することは刊行物1に記載されてい
るから,刊行物2発明において,上ケース4を透明な合成樹脂で形成するようにし
て,相違点2における本件発明のように構成することは当業者なら容易に想到でき
ることである。
   ウ そして,本件発明が奏する効果は,刊行物2発明及び刊行物1発明から
予測できる程度のことであって,格別顕著なものではない。
   エ したがって,本件発明は,刊行物2発明及び刊行物1発明に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 以上のとおりであるから,本件発明は,特許法第29条第2項の規定によ
り特許を受けることができない。
第3 当事者の主張
(原告主張の取消事由)
   本件決定は,刊行物1発明を主引用例とする本件発明の容易想到性の判断を
誤り(取消事由1),また,本件発明と刊行物2発明との相違点の認定を誤る(取
消事由2)とともに,相違点2等についての判断を誤り(取消事由3),その結
果,刊行物2発明を主引用例とする本件発明の容易想到性の判断を誤ったものであ
り,その誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件決定
は違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(刊行物1発明を主引用例とする本件発明の容易想到性の判断の
誤り)
  (1) 相違点1についての判断について
   ア 刊行物2,3に記載の回路基板収納ケースでは,静電気(電磁波)対策
が必須不可欠であり,回路基板ケースや制御回路基板用ボックス30は金属によっ
て形成したりシールド材を塗布することで非透明となっていると考えるべきであ
る。この前提下,刊行物1発明に,刊行物2,3に記載の事項を適用する場合,当
業者であれば,刊行物1に記載のようにCPUやROM等の電子部品が見えるよう
にするとともに,刊行物2,3に記載のように静電気等の対策を施すということを
考えるのがごく自然である。
     そうすると,刊行物2,3に記載の事項を踏まえた上で,あえて刊行物
1の別例に一言だけ記載されている上部蓋11a全体を観察窓として静電気等の悪
環境に晒すようなものを当業者が容易に想到し得るとはいい難い。
   イ したがって,本件決定における「刊行物1発明において,制御回路基板
(プリント基板10)をこの周知な手段によって収納ケース(ケース11)の底板
部(底板11b)に取付けるよう構成することは当業者なら容易に想到できること
である。」との判断は誤りであり,また,刊行物1発明に刊行物2,3に記載の事
項を適用する場合には静電気等の対策を施すものとなるべきである以上,底板部と
制御回路基板のハンダ面との間に形成された空間のほぼ全域を透視できるか否かは
不明であるというべきであるから,本件決定における「刊行物1発明において,制
御回路基板(プリント基板10)を,底板部(底板11b)に突設した基板固定ピ
ンによって底板部(底板11b)に取付けたものは,底板部と前記制御回路基板の
ハンダ面との間に空間が形成され,その空間のほぼ全域を,全体が観察窓とされた
上部蓋11aから透視できることになる。」との判断も誤りである。
   ウ 被告は,「刊行物1には,上部蓋全体を観察窓とすることが記載されて
いるのであるから,例えば,刊行物2,3にみられる周知の固定手段を用いた場合
には,底板部と制御回路基板との間に形成された空間のほぼ全域を透視できるよう
になることは明らかである。」と主張するが,刊行物1の図面は明らかに略図であ
って,ケース11(上部蓋11aと底板11b)の詳細構造や,プリント基板10
の支持構造がいかなるものかは不明というべきである。
     ケースの構造については種々のものがあり,例えば刊行物3であれば図
面第1図に示されているように固定板31の外周には係合凸壁34が設けられてお
り,このようなものでは,仮に被覆カバー32全体を透明にしたとしても,係合凸
壁34によって基板裏面の視認性は全然確保されていないといえる。底板部と制御
回路基板との間に形成された空間のほぼ全域を透視できるようにするためには,制
御回路基板の裏面に接続される不正なジャンパー線を発見するといった発想が必要
であり,そのような発想のない各引用刊行物を都合よく組み合わせてみても,本件
発明の相違点1に係る構成を得ることはできない。
(2) 効果の予測性について
    刊行物1発明では,遊技内容を制御するCPUやROM等の電子部品に施
された封印の状態を電子部品を収納ケースに収納したままでケースの外側から簡易
に検査することができる効果が得られるが,たとえ上部蓋全体を観察窓としてもそ
こから予測できる効果は,CPUやROM等の電子部品に施された封印の状態を
「より見やすく」すること程度である。また,刊行物2,3に記載の事項から予測
できる効果は静電気等から制御回路基板を保護するという範囲を超えるものとはい
い難いから,刊行物1発明に刊行物2,3に記載の事項を併せてみても,ハンダ面
にジャンパー線が接続される不正をケース外部から容易に発見できるとの本件発明
の効果は到底予測し得ない。
    したがって,本件決定における「本件発明が奏する効果は,刊行物1発明
及び周知技術から予測できる程度のことであって,格別顕著なものではない。」と
の判断は誤りである。
  (3) したがって,刊行物1発明を主引用例とする本件決定の容易想到性の判断
は誤りである。
2 取消事由2(本件発明と刊行物2発明との相違点の認定の誤り)
   本件発明と刊行物2発明とを対比すると,刊行物2発明では,「収納ケース
(回路基板ケース)が制御回路基板の電子部品が実装される部品面のほぼ全域を前
記収納ケースの合成樹脂製の透明板から視認し得るように構成されていない点」
(相違点2)のみならず,「収納ケースの底板部に制御回路基板を固定する基板固
定ピンを突設し,該基板固定ピンにより前記収納ケースの底板部と前記制御回路基
板のハンダ面との間に空間を形成すると共に,該空間のほぼ全域を側方から透視し
得るようになっていない点」(以下,この点を「相違点3」という。)において,
本件発明と刊行物2発明とは相違する。
  刊行物1発明においては,上部蓋を透明としたとしても,そもそもハンダ面
を側方から視認できるか否か不明であるから,相違点2のほか相違点3を本件発明
と刊行物2発明との相違点と認定した場合には,ハンダ面を視認可能とする構成が
いずれの引用刊行物にも記載がないことが明白となってしまう。それ故に,本件決
定では,あえて相違点3を伏せ,結果論として側方から見えるという点を導き出し
たものであり,この認定誤りは重大な瑕疵である。
3取消事由3(相違点2等についての判断の誤り)
  (1)ア 刊行物2には,一貫して,静電気が回路基板6に及んで作動不良となる
ことを防止することが記載されており,刊行物2発明において,下面板26と回路
基板6との間に第2空間部80が形成されているのも,流下樋カバー58に発生し
た静電気が下面板26を介してさらに回路基板6に及ぶことを防止するためである
ことは明らかである。そして,刊行物2発明においては,静電気の影響を回避する
ために,回路基板ケースを構成する上ケース4及び下ケース8が,導電性材料の例
えば金属から構成されているものであって,そもそも回路基板ケースの内部を視認
することができず,また回路基板ケースの内部を視認させようとする意図も存在し
ない。
     このような刊行物2発明に,刊行物1発明を適用するに際し,刊行物1
において上ケース(上部蓋11a)を透明な合成樹脂で形成することが記載されて
いるからといって,刊行物2発明において上ケース4を透明な合成樹脂で形成する
ように構成して本件発明の相違点2に係る構成とすることは当業者といえども容易
に想到し得るものではない。なぜなら,刊行物2発明に刊行物1発明を適用するに
際しては,当業者であれば,刊行物2に記載のように静電気等の対策を施すことを
不可欠とすると考えるというべきところ,このような場合に,当業者において,あ
えて上ケース全体を観察窓とすることは到底想起しないといえるからである。
 イ もっとも,刊行物1には,「観察窓として使用する材質は,静電気を帯
びない材質で,且つ透明な材質たとえば金属の粉を混ぜた導電性のある樹脂等が好
ましい」との記載がたまたまある。
     しかしながら,刊行物1発明では,そもそも静電気対策といっても,
「ノイズ」が外部から入り込まない点だけに焦点を絞ったものであり,このために
は「シールド効果」だけを獲得すればよいため,上記のように観察窓として使用す
る樹脂に金属粉を混ぜるだけでよいこととなる。一方,刊行物2発明では,グラン
ドラインで覆う,すなわち接地することが必要であるから,刊行物1において示唆
されているように金属粉がちりばめられているだけでは意味をなさない。つまり,
刊行物1の上記構成では接地したことにならない。そして,「グランドラインで覆
う」ことを前提とすると,刊行物1発明のように上ケース全体を観察窓とするとい
う構成を刊行物2発明に組み合わせること自体無理なことである。そのようなこと
をすれば,刊行物2発明の目的が達成されなくなるからである。
     このように,刊行物1発明を正しく把握するならば,刊行物2発明にお
いてグランドラインで覆うことが必須不可欠の事項であることが,刊行物1発明の
上ケース全体を透明としたものを組合せることの阻害要因となるものであり,刊行
物1発明及び刊行物2発明を総合勘案しても,やはり本件発明の構成を得ることは
できないというべきである。
ウ 上記のように,刊行物2発明においては静電気対策が必要であって,そ
のために金属の導電性材料を用いてケースを構成しているのに,その静電気からの
シールド効果をなくして上ケース全体を観察窓とすることは当業者において容易に
は想到し得ることではない。
     したがって,本件決定における「刊行物2発明において,上ケース4を
透明な合成樹脂で形成するようにして,相違点2における本件発明のように構成す
ることは当業者なら容易に想到できることである。」との判断は誤りである。
(2) 効果の予測性について
本件決定の効果予測性についての判断をみても,何をもって予測できる程
度としているのかその根拠の記載もなく全く不明である。
    刊行物2発明から予測できる効果は静電気等から制御回路基板を保護する
という範囲を超えるものとはいい難い。また,刊行物1発明では,遊技内容を制御
するCPUやROM等の電子部品に施された封印の状態を電子部品を収納ケースに
収納したままでケースの外側から簡易に検査することができる効果が得られるが,
たとえ上部蓋全体を観察窓としてもそこから予測できる効果は,CPUやROM等
の電子部品に施された封印の状態を「より見やすく」すること程度である。そし
て,これら刊行物2発明及び刊行物1発明を併せてみても,ハンダ面にジャンパー
線が接続される不正をケース外部から容易に発見できるとの本件発明の効果は到底
予測し得ないことである。
    したがって,本件決定における「本件発明が奏する効果は,刊行物2発明
及び刊行物1発明から予測できる程度のことであって,格別顕著なものではな
い。」との判断は誤りである。
 (被告の反論)
  本件決定に誤りはなく,原告の主張する取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1について
  (1) 相違点1についての判断について
   ア 原告は,刊行物2発明,刊行物3に記載の発明では,静電気(電磁波)
対策が必須不可欠であるから,刊行物1発明に,刊行物2,3に記載の事項を適用
する場合,あえて刊行物1の別例として一言だけ記載されている上部蓋11a全体
を観察窓として静電気等の悪環境に晒すようなものを当業者が容易に想到し得ると
はいい難い旨主張するが,この主張は,刊行物1発明の「上部蓋11a」には静電
気対策が施されていないことを前提にしているものと思料される。
     しかし,刊行物1には,「観察窓として使用する材質は,静電気を帯び
ない材質で,且つ透明な材質たとえば金属の粉を混ぜた導電性のある樹脂等が好ま
しい。」(甲5の9頁3~5行)と記載されており,刊行物1発明において,全体
を観察窓とした「上部蓋11a」は,静電気を帯びない材質で,且つ透明な材質で
形成されており,静電気対策が施されているものである。そうすると,原告が,刊
行物1発明に周知技術(刊行物2,3の記載事項)を適用することが容易でないと
する理由はその前提において失当である。
   イ 本件発明の相違点1に係る構成を採用することを容易に想到できるか否
かを判断するには,刊行物1発明において,収納ケース(ケース11)の底板部に
制御回路基板(プリント基板10)を固定する基板固定ピンを突設し,該基板固定
ピンにより前記収納ケースの底板部と前記制御回路基板(プリント基板10)のハ
ンダ面との間に空間を形成するように構成すること,すなわち,刊行物1発明にお
いて,制御回路基板(プリント基板10)を収納ケースの底板部に固定する固定手
段として,例えば,刊行物2,3に記載されているような周知な固定手段を適用す
ることが,当業者が容易に想到できるか否かを検討すればよいことになる。
     そして,本件決定は,収納ケースの底板部に,基板固定ピンを突設し,
該基板固定ピンにより前記収納ケースの底板部に制御回路基板を取付けることは周
知であると認定し,その例示として刊行物2,3を示し,これらの刊行物に記載の
周知技術を用いることは当業者が容易に想到できることであると判断したのであ
り,この判断は相当である。
     なるほど,刊行物2,3には,収納ケース(刊行物2では「回路基板ケ
ース」,刊行物3では「制御回路基板用ボックス30」)に静電気(電磁波)対策
を施すことが記載されているが,刊行物2,3に記載されている収納ケースに係る
上記技術は,本件発明と刊行物1発明との相違点を検討する際には考慮する必要が
ないことである。すなわち,制御回路基板を収納ケースの底板部に固定する固定手
段の技術と収納ケースに静電気(電磁波)対策を施す技術とは技術的に関連しない
ものである。
     したがって,刊行物2発明,刊行物3に記載の発明が,収納ケースに静
電気(電磁波)対策を施していることを理由とする原告の主張は,本件決定の論旨
を正しく理解していないことによるものであり,失当である。
上記のとおり,「引用刊行物1の発明において,制御回路基板(プリン
ト基板10)をこの周知な手段によって収納ケース(ケース11)の底板部(底板
11b)に取付けるよう構成することは当業者なら容易に想到できることであ
る。」とした本件決定の判断に誤りはない。
ウ また,刊行物1には,上部蓋全体を観察窓とすることが記載されている
のであるから,例えば,引用刊行物2,3に記載されている周知の固定手段を用い
た場合には,底板部と制御回路基板との間に形成された空間のほぼ全域を透視でき
るようになることは明らかである。
     したがって,「刊行物1発明において,制御回路基板(プリント基板1
0)を,底板部(底板11b)に突設した基板固定ピンによって底板部(底板11
b)に取付けたものは,底板部と前記制御回路基板のハンダ面との間に空間が形成
され,その空間のほぼ全域を,全体が観察窓とされた上部蓋11aから透視できる
ことになる。」とした本件決定の判断にも誤りはない。
 (2) 効果の予測性について
    刊行物1には,「遊技内容を制御するCPUやROM等の電子部品に施さ
れた封印の状態を,電子部品を収納ケースに収納したままで,ケースの外側から簡
易に検査することができる」(4頁16~19行)と記載されており,刊行物1に
は,収納ケースに収納されている電子部品に対する不正をケースの外側から検査す
ることが開示されている。
    また,刊行物1発明は,収納ケースの上部蓋11a全体が観察窓とされて
おり,収納ケースの底板部に,基板固定ピンを突設し,該基板固定ピンにより前記
収納ケースの底板部に制御回路基板を取付けるという周知な固定手段を用いた場合
に,底板部と制御回路基板との間に空間が形成されることは明らかであるから,収
納ケース内の電子部品に対してジャンパー線による不正行為があればこれを発見で
きることは当業者であれば当然予測できることといえる。
    したがって,本件決定が,「本件発明が奏する効果は,引用刊行物1に記
載された発明及び周知技術から予測できる程度のことであって,格別顕著なもので
はない。」とした点に誤りはない。
 2 取消事由2について
   本件決定は,本件発明と刊行物2発明とは相違点2において相違する旨認定
したが,刊行物2発明が,本件発明の「収納ケースの底板部と前記制御回路基板の
ハンダ面との間に形成した空間のほぼ全域を側方から透視し得るようにしている」
構成を備えていないことを明記していない。
   しかしながら,本件決定は,刊行物2発明について認定した上,これと本件
発明とを対比し,刊行物2発明が,「制御回路基板の電子部品が実装される部品面
のほぼ全域を前記収納ケースの合成樹脂製の透明板から透視し得るようにする一
方,収納ケースの底板部と前記制御回路基板のハンダ面との間に形成した空間のほ
ぼ全域を側方から透視し得るようにしている」構成を備えていないことから,両発
明の相違点の認定に当たり,「本件発明が制御回路基板の電子部品が実装される部
品面のほぼ全域を前記収納ケースの合成樹脂製の透明板から透視し得るようにする
一方,収納ケースの底板部と前記制御回路基板のハンダ面との間に形成した空間の
ほぼ全域を側方から透視し得るようにしているのに対し,」と認定した上,この点
を刊行物2発明と対比させている。
   したがって,刊行物2発明が,本件発明の「収納ケースの底板部と前記制御
回路基板のハンダ面との間に形成した空間のほぼ全域を側方から透視し得るように
している」構成を備えていないことは明らかであり,本件決定の認定した相違点2
の内容は,刊行物2発明が本件発明の上記の構成を備えてないことを明記したもの
とその内容に実質的な差異があるとはいえない。
   上記のとおりであり,本件決定における本件発明と刊行物2発明との相違点
の認定に誤りはない。
3 取消事由3について
  ア 相違点2についての判断について
    原告は,「刊行物2発明において,上ケース4を透明な合成樹脂で形成す
るようにして,相違点2における本件発明のように構成する」ことは,静電気から
のシールド効果をなくすことになるから,当業者が容易にできることではない旨主
張する。
    しかしながら,刊行物1には,「観察窓として使用する材質は,静電気を
帯びない材質で,且つ透明な材質たとえば金属の粉を混ぜた導電性のある樹脂等が
好ましい。」(甲5の9頁3~5行)と記載されており,刊行物1に記載されたも
のは,上ケース全体を観察窓とした場合でも静電気対策が施されたものである。原
告の上記主張は,刊行物1の記載内容を正しく把握しておらず,当を得ていない主
張である。
    本件決定の相違点2についての判断に誤りはない。
イ 効果の予測性について
    前記1(2)に記載したのと同様の理由により,本件決定が「本件発明が奏す
る効果は,刊行物2発明及び刊行物1発明に記載された発明から予測できる程度の
ことであって,格別顕著なものではない。」とした判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物1発明を主引用例とする本件発明の容易想到性について
の判断の誤り)について
(1) 相違点1についての判断について
ア刊行物2には,パチンコ遊技機等の回路基板ケースに関し,次のとおり
記載されている。
(ア) 「本発明は,パチンコ遊技機やコイン遊技機等で代表される弾球遊
技機に関し,詳しくは,弾球遊技機の裏面側に設けられた主として合成樹脂材料で
形成された機構板と,少なくとも弾球遊技機の遊技盤に配置された電気的遊技装置
と,該電気的遊技装置を制御するための電子回路を含む回路基板と,該回路基板を
包囲した導電性の回路基板ケースとを含む弾球遊技機に関する。」(1頁右下欄1
4行~2頁左上欄1行)
    (イ) 「第4図は,前記遊技制御部2を示す分解斜視図である。遊技制御
部2は,上ケース4および下ケース8からなる回路基板ケースと,その回路基板ケ
ース内に収納される回路基板6とからなる。回路基板6は,基板本体16の表面と
裏面にグランドライン40(第6図)を付設して構成されている。その回路基板6
には,制御回路の主要部であるMPU,RAM44と,制御回路の主要部であるR
OM46とが取付けられている。」(4頁左上欄11~20行)
    (ウ) 「回路基板6の四隅には,グランド延在取付孔38a,38dと取
付孔38b,38cとが設けられている。なお,グランドライン延在取付孔38a
と取付孔38bは,第5図を参照。」(4頁右上欄16~19行)。
    (エ) 「下ケース8は,導電性材料の一例の金属で形成されており,下面
板26の四隅に導電性の取付部36a,36b,36c,36dが設けられてい
る。なお,導電性材料としては,合成樹脂であってもよい。この取付部36a,3
6b,36c,36dが前記回路基板6に形成されている取付孔38a,38b,
38c,38dに合致し,ビス止めされ,回路基板6が下ケース8に固定され
る。」(4頁右上欄20行~同頁左下欄7行)。
    (オ) 「遊技制御部2の取付状態では,流下樋カバー58と下面板26と
の 間に第1空間部78が形成され,下面板26と回路基板6との間に第2空間部
80が形成され,さらに回路基板6と上面板11との間に第3空間部82が形成さ
れる。」(5頁左下欄3~7行)。
     上記記載によれば,刊行物2には,遊技動作を制御する,MPU,RA
M44とROM46とが取付けられた回路基板6を収納する回路基板ケースにおい
て,回路基板ケースが上ケース4及び下ケース8からなること,下ケースの下面板
26の四隅には,導電性の取付部36a,36b,36c,36dが設けられ,こ
の取付部36a,36b,36c,36dと回路基板6に形成されている取付孔3
8a,38b,38c,38dとを合致させてビス止めすることにより,下面板2
6に回路基板が固定されること,下面板26と回路基板6との間に第2空間部80
が形成された状態になることが開示されていると認められる。
イ 刊行物3には,パチンコ機の制御回路基板用ボックスに関し,次のとお
り記載されている。
(ア)「本発明は,パチンコ機における遊技を制御する制御回路基板を収
納する制御回路基板用ボックスに関するものである。」(1頁左下欄13~15
行)
(イ)「次に,この実施例の要部である制御回路基板用ボックス30の構
成について第1図及び第2図を参照して説明する。図において,制御回路基板用ボ
ックス30は,前記したように合成樹脂によって全体的に箱状に成型されており,
これは,3つの部材から構成されている。すなわち,前記入賞球集合カバー26の
裏面に固定される長方形状の固定板31と,該固定板31のほぼ全面を覆う被覆カ
バー32と,該被覆カバー32の下方に形成された端子接続開口40を覆う配線引
出しカバー33とから構成されている。・・・また,係合凸壁34の内側の四隅に
は,制御回路基板50を係止するための基板取付ボス35a~35dが突設され,
該基板取付ボス35a~35dに制御回路基板50の四隅に穿設した取付穴51a
~51dを合致させた後,図示しないビスで固定することにより制御回路基板50
を固定板31に固定している。」(3頁左下欄7行~同頁右下欄7行)
     上記記載によれば,刊行物3には,制御回路基板用ボックス30の固定
板31に制御回路基板50を係止するための取付ボス35a~35dが突設され,
基板取付ボス35a~35dに制御回路基板50の四隅に突設した取付穴51a~
51dを合致させてビス止めすることにより,固定板31に制御回路基板50が固
定されることが記載されていると認められる。
ウ 上記刊行物2,3の記載によれば,遊技機の制御回路基板の収納ケース
において,該収納ケースの底板部に,基板固定ピンを突設し,該基板固定ピンと制
御回路基板の取付部とを合致させビス等により止めて,制御回路基板を上記収納ケ
ースの底板部に固定することは,本件特許出願当時,当業者に周知の事項であった
と認めることができる。
したがって,刊行物1に接した当業者において,上記周知事項を想起し
て本件発明の相違点1に係る構成を想到することは容易であったと認められる。
エ この点に関し,原告は,刊行物2発明,刊行物3に記載の発明は,いず
れも静電気(電磁波)対策が必須不可欠であり,回路基板ケースや制御回路基板用
ボックス30は金属によって形成したりシールド材を塗布することで非透明となっ
ていると考えられるものであるし,これらを刊行物1発明に適用するに際して,当
業者であれば静電気等の対策を施すのが自然であり,あえて,刊行物1の別例に一
言だけ記載されている上部蓋11a全体を観察窓として静電気等の悪環境に晒すよ
うなものを当業者が容易に想到するとはいえない旨主張する。
確かに,刊行物2には,刊行物2発明が,回路基板ケースと回路基板と
の間に生じる放電に起因したノイズの発生を防止する対策を電気的遊技装置に施す
ことを目的としたものであることが記載されており(2頁左上欄14~18行,2
頁左上欄20行~左下欄4行),また,刊行物3には,刊行物3に記載の発明は,
電磁波による作動不良を避けるべく,パチンコ機の制御回路基板用ボックスの表面
を不燃性シールド材で被覆した構成を提供するものであることが記載されている
(特許請求の範囲,2頁左上欄2~6行,2頁左上欄8~12行)。
しかしながら,本件決定が刊行物2,3を引用したのは,遊技機の制御
回路基板の収納ケースにおいて,該収納ケースの底板部に基板固定ピンを突設し,
該基板固定ピンにより前記収納ケースの底板部に制御回路基板を固定させることが
本件特許出願時に周知であったことを明らかにするためである。そして,制御回路
基板を同基板の収納ケースの底板部に固定する技術と制御回路基板の収納ケースに
静電気(電磁波)対策を施す技術とは技術的に関連性がないことは刊行物2,3の
記載及び技術常識に照らして明らかであり,刊行物2,3の上記技術事項を刊行物
1発明に適用する際に,静電気対策上悪影響があるか否かの問題は生じないという
べきである。
また,刊行物1には,「観察窓として使用する材質は,静電気を帯びな
い材質で,且つ透明な材質たとえば金属の粉を混ぜた導電性のある樹脂等が好まし
い。」(甲5の9頁3~5行)と記載され,刊行物1発明において,全体を観察窓
とした「上部蓋11a」は,静電気対策が施されているものが好ましいとされてい
る。したがって,刊行物1発明において上部蓋11a全体を観察窓としていること
が制御回路基板を静電気等の悪環境に晒すことになるとして,刊行物1への刊行物
2,3記載の技術事項を適用することに阻害要因があるかのようにいう原告の主張
は,その前提を誤るものである。
原告の上記主張は,本件決定や刊行物1の記載内容を正解せず,独自の
見解に立って本件決定の判断を論難するものであって,採用できない。
オ原告は,ケースの構造については種々のものがあり,底板部と制御回路
基板との間に形成された空間のほぼ全域を透視できるようにするためには,制御回
路基板の裏面に接続される不正なジャンパー線を発見するといった発想が必要であ
り,そのような発想のない各引用刊行物を都合よく組み合わせてみても,本件発明
の相違点1に係る構成を得ることはできない旨主張する。
(ア) しかしながら,本件発明と刊行物1発明とは,「遊戯動作を制御す
る 制御回路基板を内部に収納するケースにおいて,前記制御回路基板の電子部品
が実装される部品面のほぼ全域を前記収納ケースの合成樹脂製の透明板から透視し
得るようにした」構成を有する点で一致するものであることは当事者間に争いがな
く,また,刊行物1には,次のとおり記載がある。
a 「〔従来の技術〕 パチンコ遊技機は賭博性を少なくするために,
遊技内容,たとえば,遊技球の入賞確率が著しく高くなる大入賞口の開成状態につ
いて,・・・法律により規制され,関係機関によって検定されたパチンコ遊技機の
遊技内容を無断で改造することは禁じられている。ところで,遊技内容の制御は中
央処理装置(以下CPUと称する。)や記憶素子等の電子部品により行われ
る。・・・したがって,ROMの交換や回路の変更等により,電子技術者であれ
ば,法律の規制による検定を受けたパチンコ遊技機の遊技内容を,賭博性の高いも
のに簡易に改造することができる。このため,かかる不正を防止し,ROMの交換
等による改造をすることができないように,パチンコ遊技機の電子部品を収納する
ケースは封印紙により封印されている。ところが,ケースに貼られた封印紙を破ら
ずに剥がしたり,偽造したりしてパチンコ遊技機の遊技内容を不正に改造する者が
いるため,ケースに封印をしただけでは,遊技内容の不正な改造を根絶することが
できなかった。そこで,ケースだけでなく主要な電子部品,たとえばROMやRA
M等についても封印をしたり,封印番号を管理することが考えられている。」(2
頁4行~3頁10行)
b 「〔考案が解決しようとする課題〕 しかし,通常,パチンコ遊技
機のメーカーは遊技機の内部の構造を同業者に知られたくないので,遊技内容を制
御する電子部品を収納するケースは,内部が見えないように不透明な樹脂等で作ら
れている。また,従来のパチンコ遊技機の電子部品を収納するケースは,遊技球の
転動により生ずる静電気から電子部品を守るため,導電性を有する樹脂等で作られ
ていた。すなわち,ケースは導電性をもたせるためにカーボンを含む樹脂で作られ
ており,したがってケースは不透明の黒色をしている。このため,この点からも,
従来の電子部品を収納するケースは外部からはケースの内部が見えないようにでき
ている。
  したがって,折角内部のROM等に封印をしても,従来のパチンコ
遊技機ではその封印の異状の有無や封印番号を検査するには,ケースのカバーを取
り外さなければならなかった。このように,ROM等の封印の異状の有無や封印番
号を検査するために,カバーを取り外すとケースの封印,たとえば封印紙が破れる
ので,その都度封印紙を貼りなおさなければならず,ケースに収納されたROM等
の封印の検査を簡易且つ迅速に行うことができなかった。
  本考案は上記の事情に基づいてなされたものであり,遊技内容を制
御するCPUやROM等の電子部品に施された封印の異状の有無や封印番号を,電
子部品を収納ケースに収納したままで,ケースの外側から簡易に検査することがで
きるパチンコ遊技機を提供することを目的とするものである。」(3頁11行~4
頁末行)
c 「〔問題点を解決するための手段〕 上記目的を達成するための本
考案は,中央処理装置や記憶素子等の電子部品を用いて遊技内容を制御するパチン
コ遊技機において,遊技内容の不正改造防止のために前記電子部品を封印する封印
手段と,前記封印された電子部品を配置したプリント基板を収納する収納手段と,
該収納手段内部の電子部品の封印の状態が前記収納手段の外側から見えるように前
記収納手段に形成された観察手段とを設けたものである。」(5頁1~10行)
     d 「〔作用〕 本考案は前記の手段により,遊戯内容の不正改造を防
止するために中央処理装置や記憶素子等の電子部品に施された封印の状態を,かか
る電子部品を収納する収納手段に設けられた観察手段によって,電子部品が収納さ
れたままの状態で,したがって収納手段に封印が設けられていても,その封印を壊
すことなく簡易に検査することができる。」(5頁11~19行)
e 「〔考案の効果〕 以上説明したように本考案によれば,遊技内容
を制御するCPUやROM等の電子部品に施された封印の状態を,電子部品を収納
ケースに収納したままで,ケースの外側から簡易に検査することができるので,関
係機関等が封印の異状の有無や封印番号の検査を確実に,しかも簡易且つ迅速に行
うことができるパチンコ遊技機を提供することができる。」(9頁11~19
行)。
      上記争いのない事実及び刊行物1の記載によれば,刊行物1発明は,
遊技内容を制御するCPUやROM等の電子部品に施された封印の異状の有無や封
印番号を,電子部品を収納ケースに収納したままで,ケースの外側から簡易に検査
することができるパチンコ遊技機の構成を提供することを目的としたものであり,
その目的を達成するため,収納手段内部の電子部品の封印の状態が前記収納手段の
外側から見えるように前記収納手段に形成された観察手段を設ける構成を採用した
ものであると認められる。
(イ) 確かに,原告が指摘するように,刊行物1には,刊行物1発明が,
収納手段に形成された上記観察手段による検査の対象に,制御回路基板のハンダ面
にジャンパー線が不正に接続されているか否かが含まれていることは記載されてい
ない。むしろ,刊行物1発明は,遊技内容を制御するCPUやROM等の電子部品
に施された封印の異状の有無や封印番号を,電子部品を収納ケースに収納したまま
で,ケースの外側から簡易に検査することができる構成を採用したものであるこ
と,及び刊行物1の第1図ないし第3図には,制御回路基板として部品面とハンダ
面を有するものが記載されていると認められることを考慮すれば,刊行物1発明
は,制御回路基板の部品面に実装された電子部品の封印の異状の有無を発見するこ
とを企図したものであり,ハンダ面にジャンパー線が不正に接続されているか否か
は上記観察手段による検査の対象として想定されてないものと推察される。
      しかしながら,前記(ア)に認定したとおり,刊行物1発明は,従来,
パチンコ遊技機の遊技内容の不正改造対策として,ケースを封印しただけでは防ぎ
得ないことにかんがみ,主要な電子部品(ROMやCPU等)についても封印した
上,封印番号を管理することを前提に,これを視認により確認できる構成を提供す
ることを目的としたものであるところ,不正箇所の発見を目的とする以上,制御回
路基板に対するジャンパ線を用いた不正行為の存在が認識され,その防止措置が必
要となった場合に,刊行物1発明における不正を発見するために制御回路基板の収
納ケースに同ケース内の制御回路を視認可能とする観察手段を設ける思想を敷衍し
て,上記電子部品の封印手段のみならず,制御回路基板のジャンバー線を用いた不
正行為の有無についても視認可能となる構成を採用することは,当業者であれば当
然に想到し得ることというべきである。
(ウ) 原告の指摘するとおり,ケースの構造については種々のものがあ
り, 刊行物3に記載された基板取り付けの構成を刊行物1発明に適用した場合,
刊行物3に記載の係合凸壁34の存在が視認性を妨げることはあり得ることであ
る。
      しかしながら,,当業者において,不正箇所発見を目的とするとの認
識があれば,この係合凸壁34の存在により生ずる視認性の障害を回避すべく基板
取り付けピンを高く設定する等の工夫を講じるのが自然であり,前記のとおり,そ
のことは当業者において適宜なし得る設計事項にすぎないというべきである。
(エ) この点に関する原告の主張は採用できない。
(2) 効果の予測性について
原告は,刊行物1では,遊技動作を制御する電子部品に施された封印の状
態を電子部品を収納ケースに収納したままでケースの外側から簡易に検査すること
ができる効果が得られるが,たとえ上部蓋全体を観察窓としてもそこから予測でき
る効果は,上記電子部品に施された封印の状態を「より見やすく」すること程度で
あり,また,刊行物2,3の記載事項から予測できる効果は静電気等から基板を保
護するという範囲を超えるものとはいい難い旨主張する。
しかしながら,刊行物1には,前記(1)オ(ア)に認定したとおり,収納ケー
スに収納されている電子部品に対する不正を該電子部品を収納ケースに収納したま
まで外側から検査する構成が開示されている。
    そして,刊行物1発明においては,収納ケースの上部蓋11a全体が観察
窓とされているところ,収納ケースの底板部に,基板固定ピンを突設し,該基板固
定ピンにより前記収納ケースの底板部に制御回路基板を取付けるという固定手段を
用いた場合に,底板部と制御回路基板との間に空間が形成されることは明らかであ
り,また,その空間の見通しをよくするように該固定ピンの高さを設定することは
当業者が適宜になし得る設計事項にすぎない。
    したがって,制御回路基板の電子部品を収納ケースに収納したままで,該
基板の部品面に実装される電子部品が規定されたものか否かを容易に発見でき,ま
た,該基板のハンダ面にジャンパー線が不正に接続されているか否かを容易に発見
できるといった本件発明の奏する効果(本件明細書の段落【0021】の記載)
は,刊行物1発明及び前記周知技術から容易に予測できる程度のことであり,格別
顕著なものということはできない。
この点に関する原告の主張は採用できない。
2 以上のとおり,刊行物1発明を主引用例とする本件発明の容易想到性の判断
の誤りをいう原告主張の取消事由1は理由がないから,原告主張の取消事由2,3
の当否,すなわち,刊行物2発明を主引用例とする本件発明の容易想到性について
の認定判断の当否について判断するまでもなく,本件発明の容易想到性についての
本件決定の判断に違法はない。他に本件決定にこれを取り消すべき瑕疵は見当たら
ない。
よって,原告の本件請求を棄却することとし,主文のとおり判断する。
  東京高等裁判所知的財産第1部
    裁判長裁判官  北  山  元  章
   裁判官    青  栁     馨
         裁判官 沖  中  康  人

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