弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成12年(行ケ)第413号 審決取消請求事件(平成14年4月24日口頭弁
論終結)
          判           決
       原      告   A
       訴訟代理人弁護士   阿 部 正 義
       同          山 口 達 視
       被      告   日清製粉株式会社
       訴訟代理人弁護士   丹 羽 一 彦
       同          田 中 克 幸
       同          北 谷 典 香
       同          吉 田 ゆう子
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
特許庁が平成2年審判第4145号事件について平成12年9月5日にした
審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、別紙目録記載のとおりの構成からなり、指定商品を平成3年政令第
299号による改正前の商標法施行令別表の区分による第31類「調味料、香辛
料、食用油脂、乳製品」とする商標登録第1482034号商標(昭和52年8月
8日出願、昭和56年9月30日権利者をBとして設定登録、平成6年9月26日
権利譲渡に伴い本訴原告に移転登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であ
る。
 被告は、平成2年3月15日、本件商標につき、不使用による登録取消しの
審判を請求し、その予告登録は、同年4月25日(以下「予告登録日」という。)
にされた。
 特許庁は、同請求を平成2年審判第4145号事件として審理し、平成9年
3月24日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「前審決」と
いう。)をしたが、当庁平成9年(行ケ)第127号審決取消請求事件(以下「前
訴」という。)の判決(平成10年3月31日判決言渡し、以下「前判決」とい
う。)により前審決が取り消され、前判決に対する上告及び上告受理の申立てに対
する最高裁判所の上告棄却決定及び上告不受理決定により、前判決が確定したの
で、特許庁は、同審判請求につき更に審理した上、平成12年9月5日、「登録第
1482034号商標の登録は取り消す。」との審決(以下「本件審決」とい
う。)をし、その謄本は、同年9月29日、原告に送達された。
 2 本件審決の理由
   本件審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、被請求人(注、当初はB、そ
の後上記権利譲渡に伴い本訴原告)が前判決後の審判手続において新たな証拠方法
として提出したB作成の宣誓供述書(審判乙第34号証)、C作成の宣誓供述書
(同第35号証)、D作成の宣誓供述書(同第36号証)、株式会社総合リサーチ
作成の調査報告書(同第37号証)、各証明書(同第38、第39号証)、平成元
年8月31日付け領収書写し(同第40号証)及び各請求書写し(同第41号証の
1、2)は、いずれも、予告登録日前3年以内に本件商標の通常使用権者であると
主張する新世界興業株式会社(以下「新世界興業」という。)がその指定商品につ
いて本件商標を使用していたとの事実を認めるに足りる証拠として採用することは
できず、他に上記期間内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用
権者のいずれかがその指定商品についての本件商標の使用をしていることを認める
に足りる証拠はないから、本件商標の商標登録は、商標法50条1項の規定により
取り消すべきものであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由
1 本件審決は、予告登録日前3年以内に東京都新宿区において本件商標の通常
使用権者である新世界興業が指定商品に本件商標を使用していたことを原告が証明
したにもかかわらず、同事実を認定しなかったものであるから、違法として取り消
されるべきである。
 2 取消事由(本件商標の使用の事実の誤認)
(1)本件商標の通常使用権者である新世界興業は、昭和60年ころから継続し
て予告登録日前3年以内に、東京都新宿区<以下略>「壁の穴チボリ店」(以下
「壁の穴チボリ店」という。)等の店内で、①本件商標を付したシール(甲第3号
証の1~4)を貼付したプラスチック製容器にサラダドレッシング、ホワイトソー
ス、トマトソース等を詰めた持ち帰り商品を展示、販売し、②本件商標を付した
「新宿壁の穴店頭販売商品」と題する定価表(甲第5号証)を展示、頒布し、③本
件商標を付した「新宿壁の穴グループご案内 新宿壁の穴オリジナル商品ご案内」
(甲第6号証)と題する案内書を頒布し、④昭和63年10月ころ、東京都新宿区
<以下略>「壁の穴西新宿店」(以下「壁の穴西新宿店」という。)の店内で、本
件商標を付した「お持帰りメニュー」と題する定価表(甲第18号証)を展示して
いた。
(2)被告は、本件審決が前判決の拘束力に従ってされたものであるから、これ
を違法とすることはできない旨主張する。
 しかし、被告が引用する最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集
46巻4号245頁は、再度の審決取消訴訟においては、確定した前訴訟の判決が
判断の基礎とした引用例と同一の引用例から別個の結論を導くことは許されず、ま
た、再度の審決取消訴訟において、引用例が追加された場合に、追加された引用例
等のみから別個の判断が導き出されると主張する場合、あるいは前訴訟で検討され
た引用例とあいまって初めて別個の判断が導き出されると主張する場合以外には前
訴訟と異なる判断を行うことは許されないとするものである。この判例の趣旨に照
らせば、本件において、原告が、登録商標の使用の事実の立証のため、前判決にお
ける証拠とは全く別個の証拠を提出する場合及び新たな証拠を提出し、新たな証拠
と前判決における証拠とあいまって初めて原告の主張を裏付ける事実の立証がされ
る場合には、前判決の拘束力は及ばず、これと異なった判断が許されるというべき
である。そして、原告は、本件訴訟において、甲第4号証(D作成の陳述書)、甲
第8号証(B作成の日記)、甲第11号証(E作成の陳述書)、甲第12号証(新
世界興業作成の広告写し)及び甲第17号証(F作成の陳述書)を新たな証拠とし
て提出し、本件審決の認定判断の誤りを主張するものである。
第4 被告の反論
 1 本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(本件商標の使用の事実の誤認)について
(1)前審決の審判手続において被請求人Bが提出した回答書(乙第1号証)に
よれば、同人は、甲第3号証のシール(同回答書添付資料8の1)及び甲第5号証
の定価表(同添付資料6の1)は平成元年9月10日作成と主張し、甲第6号証の
案内書(同添付資料3の1)は昭和63年12月ころ作成と主張していたにもかか
わらず、本件訴訟において、原告は、これらはいずれも平成元年初めころから使用
されていたと主張するものであり、また、甲第18号証の定価表は、前審決の審判
手続及び前訴において証拠として提出されていたものであるが、G作成の宣誓供述
書(乙第2号証)には、同人が新世界興業に勤務している間上記定価表は見たこと
がない旨述べられており、これらの証拠はいずれも採用することができない。
(2)前判決において、甲第3号証のシール、甲第5号証の定価表、甲第6号証
の案内書及び甲第18号証の定価表は、いずれも採用し得ず、本件商標を使用して
いることを証明したとはいえないとされたものである。そして、本件審決は、前判
決の内容に従った認定判断を経て、予告登録日前3年以内に日本国内において新世
界興業がその指定商品についての本件商標の使用をしていることを認めるに足りる
証拠はなく、本件商標の商標登録は、商標法50条1項の規定により取り消すべき
ものであるとしたものであって、前判決の拘束力に従ってされたものであるから、
これを違法とすることはできない。最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民
集46巻4号245頁は、再度の審判又は審決取消訴訟において特定の引用例を単
に補強するにすぎないたぐいの他の引用例を追加して無効主張がされたとしても、
特定の引用例からの容易推考性に関する審決取消判決の拘束力を免れることはでき
ない旨を判示している。したがって、本件において、前判決において本件商標の使
用をしていることを証明しているとはいえないと判断された証拠を単に補強するだ
けの証拠が再度の審決取消訴訟で提出されても、前判決の拘束力を免れることはで
きないというべきである。そして、甲第4、第8号証は甲第5、第6号証を、甲第
11、第17号証は甲第3号証をそれぞれ補強するにすぎないたぐいの証拠であ
る。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(本件商標の使用の事実の誤認)について
(1)前判決(乙第4号証)及びこれに添付された前審決の理由部分によれば、
前審決及び前判決の認定判断は、以下のとおりであることが認められる。
ア 前審決(乙第4号証添付)は、請求人(注、本訴被告)が、被請求人
(注、当初はB、その後本訴原告)は本件商標を正当な理由がなく予告登録日前3
年以内に使用しておらず、また、本件商標には専用使用権者又は登録された通常使
用権者は存在しないと主張したのに対し、「被請求人が提出した各証拠を総合勘案
すれば、前商標権者(注、B)の通常使用権者と認められる新世界興業の経営する
レストラン『壁の穴西新宿店』、『チボリ京王モール店』(注、壁の穴チボリ店を
いうものと解される。)において、お持ち帰り商品として、取消請求にかかる指定
商品中の『ホワイトソース、ドレッシング』等に本件商標と同一性を有する『壁の
穴』商標を付して、予告登録日前3年以内に使用していたものと認められる。した
がって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その登録を取り消すこ
とはできない。」(20頁1行目~12行目)として、審判請求を不成立とした。
イ 前判決(乙第4号証)は、前訴原告(注、株式会社壁の穴、前審決の審
判における参加人)が、前審決の本件商標の不使用事実の誤認(取消事由1)及び
新世界興業が通常使用権者ではない事実の誤認(取消事由2)を主張し、これに対
し前訴被告(注、本訴原告)が、予告登録日前3年以内に、本件商標の通常使用権
者である新世界興業が、その経営する飲食店「壁の穴」(注、壁の穴チボリ店及び
壁の穴西新宿店をいうものと解される。以下、同じ。)で、本件商標を付したその
指定商品に係る商品を販売又は販売のため展示し、本件商標を付した上記商品の定
価表及び案内書を頒布又は展示していたと主張して提出した乙号各証について、以
下のとおり認定判断した。
 なお、乙第1、第2、第4号証によれば、原告が上記第3の2、(1)で本
件商標の使用の事実を主張する、本訴甲第3号証の1~4のシールを貼付した容器
詰め持ち帰り商品は前訴乙第10号証(写真)に撮影された容器詰め持ち帰り商品
と同一であり、本訴甲第5号証(定価表)は前訴乙第22号証と同一であり、本訴
甲第6号証(案内書)は前訴乙第20号証と同一であり、本訴甲第18号証(定価
表)は前訴乙第6号証と同一であることが認められ、また、その他の証拠について
も後記括弧内に付記した対応関係にあることが認められる。
(ア)前訴乙第20号証(案内書、本訴甲第6号証)及び同乙第22号証
(商品案内、本訴甲第5号証)には、新世界興業が経営する「壁の穴」で、ホワイ
トソース、ドレッシングを店頭販売している旨の記載があり、同乙第17号証の2
(資料説明)には、同乙第20号証(案内書)は1988年(昭和63年)12月
20日付けの同乙第19号証(納品書)によって、同乙第22号証(定価表)は平
成元年9月10日付けの同乙第23号証(納品書、本訴乙第1号証中の資料6の
2)によって納品された旨の記載があり、同乙第24号証の2(納品書)には、1
988年(昭和63年)9月20日付けでお持ち帰りメニューチラシ、パッケージ
用シール等が納品された旨の記載があるが、上記各納品書は、いずれもコクヨ株式
会社製の「コクヨ ウ-221N」の用紙が使用されているところ、調査嘱託の結
果によれば、上記「コクヨ ウ-221N」の用紙は平成元年5月から販売が開始
されたことが認められ、上記事実によれば、同乙第19号証(納品書)及び同乙第
24号証の2(納品書)は、いずれも日付を遡らせて記載されたものであることが
認められ、同乙第23号証(納品書)は、「No.3」であって、同乙第19号証
(「No.2」の納品書)及び同乙第24号証の2(「No.1」の納品書)と一
連のものと認められるから、同乙第19号証(納品書)及び同乙第24号証の2
(納品書)が日付を遡らせている事実に照らし、同乙第23号証(納品書)の日付
も信用できず、また、同乙第32号証(B作成の陳述書)によれば、新世界興業が
「壁の穴」を開店したのは昭和52年であることが認められるところ、同乙第19
号証(納品書)及び同乙第23号証(納品書)によって納品されたとされる同乙第
20号証(案内書)及び同乙第22号証(定価表)には、いずれも「創業15年 
元祖壁の穴」の記載があるから、これらが昭和63年ないし平成元年に作成、使用
されるのは不自然で、同乙第19、第20、第22、第23号証、第24号証の2
は、その作成時期に疑問があり、新世界興業が本件審判請求の登録前3年以内に本
件商標と同一性を有する商標を使用していた証拠とすることはできない。
(イ)前訴乙第6号証(定価表、本訴甲第18号証)には、「元祖壁の
穴」、「サラダドレッシング」等の記載があるが、作成時期の記載がなく、また、
同乙第5号証(メニュー、本訴乙第5号証)と比較して、紙質、文字が大きく異な
るものであって、同様に作成、使用されたものとは思われず、本件審判請求の登録
前に使用されていたものと認めることはできない。
(ウ)前訴乙第7号証(写真、本訴乙第2号証添付)には、「壁の穴」内に
ホワイトソース、サラダドレッシング等を販売している旨のはり紙が撮影され、同
乙第10号証(写真、本訴乙第2号証添付)には、ホワイトソース、ドレッシング
などの容器が撮影されているが、上記写真は、いずれも写真自体に撮影年月日を特
定できる表示は認められず、上記はり紙及び容器を撮影する目的で撮影されたもの
とうかがわれることから、本件審判と関係なく撮影されたものとしては不自然であ
って、本件審判請求の登録前に撮影されたものとは認め難い。
(エ)前訴乙第26号証(新世界興業作成の領収書控え、本訴乙第1号証中
の資料9)は、Hに対する「壁の穴ドレッシング」及び「壁の穴ホワイトソース」
販売の領収書控えであるが、控えであるのに販売品の内容が詳細に記載された上、
新世界興業の社印及び扱者印が押捺されており、かつ、前後の領収書も全く提出さ
れていないのであって、本件審判請求の登録前に作成されたものと認めることはで
きない。
(オ)前訴乙第17号証の2(資料説明書)には、同乙第25号証(シー
ル、本訴乙第1号証中の資料8の1)が平成元年9月10日に同乙第23号証(納
品書、本訴乙第1号証中の資料6の2)によって納品された旨の記載があるが、同
乙第23号証(納品書)が平成元年9月10日に作成されたとは認められないこと
は上記のとおりであり、他に同乙第25号証のシールが本件審判請求の登録前に作
成されたものと認めるに足りる証拠はない。
(カ)前訴乙第30号証(G作成の商品開発報告書)には、新世界興業が壁
の穴西新宿店において、ホワイトソース、ドレッシング等を店頭販売している旨の
記載があるが、作成年月日の記載もなく、その文面も店頭販売の事実を証する目的
で書かれたようにうかがわれ、本件審判請求以前に書かれたものとしては不自然で
あって、新世界興業が本件審判請求の登録前3年以内に本件商標を使用していた事
実を認める証拠とすることはできない。
(キ)前訴乙第31号証(株式会社三喜作成の証明書)には、持ち帰り用ソ
ース容器のポリ袋及び持ち帰り用ソース類その他のポリ袋について、昭和60年こ
ろから平成4年にかけてデザインや表示を変えたポリ袋として度々納品した旨の記
載があるが、上記ポリ袋自体から納品がそのいずれの時期であったか特定できず、
その記載が事実であるとは信用し難い。
(ク)前訴乙第21号証(写真、本訴乙第1号証中の資料4)に撮影された
ソースは、その容器の状況等に照らし、店頭販売用のものと認めることはできな
い。
(ケ)新世界興業の経営するレストラン壁の穴西新宿店、壁の穴チボリ店が
スパゲティ専門店であったことは争いがないが、スパゲティ専門のレストランであ
ることから、ホワイトソース、ドレッシングを持ち帰り商品として店頭販売してい
たと推認することはできず、この点に関する前訴乙第31号証(株式会社三喜作成
の証明書)の記載も信用できないし、他にこれを認めるに足る証拠はない。
 そして、上記の認定判断に基づき、「新世界興業が本件審判請求の登録前
3年以内に本件商標と同一性を有する『壁の穴』商標を使用していた事実を認める
に足りる証拠はない。したがって、これが認められるとした審決は、事実を誤認し
たものであって、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、
審決は違法であって取消しを免れない。」(乙第4号証20頁4行目~9行目)と
して、前審決を取り消した。
(2)本件審決は、被請求人(注、本訴原告)が、予告登録日前3年以内に、新
世界興業が、本件商標を付したその指定商品に係る商品を販売又は販売のため展示
し、本件商標を付した上記商品の定価表及び案内書を頒布又は展示していたと主張
して、前判決後の審判手続において新たな証拠方法として提出した審判乙第34~
第40号証、第41号証の1、2について、以下のとおり認定判断した。
(ア)審判乙第34号証(B作成の宣誓供述書)には、昭和63年以前から、
「壁の穴」商標を使用してテイクアウト商品のホワイトソースやドレッシングを販
売していた旨の記載があるが、その記載内容からは、使用に係る商標の具体的な使
用状況(商標の構成態様、テイクアウトとしての商品への使用形態等)が明らかで
なく、同証拠によっては、使用に係る商標が本件商標と社会通念上同一といえるも
のであって、かつ、これをテイクアウト商品であるホワイトソース及びドレッシン
グに使用していたと直ちに認めることはできない。
(イ)審判乙第35号証(C作成の宣誓供述書)には、「壁の穴」商標が掲載
された商品案内(前訴乙第20号証、本訴甲第6号証)やメニューチラシ(前訴乙
第22号証、本訴甲第5号証)等を新世界興業に納品したのは、その納品書に記載
した日付のころに間違いない旨の記載があるが、前判決が判示しているように、上
記の商品案内やメニューチラシには、いずれも「創業15年 元祖壁の穴」の記載
があり、新世界興業が「壁の穴」店舗を開店したのは昭和52年であることからす
ると、依然として、これらの納品書が昭和63年ないし平成元年に作成、使用され
るのは不自然といわざるを得ない。
(ウ)審判乙第36号証(D作成の宣誓供述書)には、昭和63年当時、前訴
乙第25号証(シール、本訴乙第1号証中の資料8の1)を使用して、「壁の穴ホ
ワイトソース」、「壁の穴ドレッシング」を販売した旨の記載があるが、同宣誓供
述書は、新世界興業の社員の作成に係るものと認められること、前判決において、
上記シールが平成元年9月10日に前訴乙第23号証(納品書、本訴乙第1号証中
の資料6の2)によって納品された旨の記載があるものの、この納品書がその日に
作成されたとは認められないとしていることにかんがみると、同宣誓供述書をもっ
て、本件商標と社会通念上同一といえる「壁の穴」商標が、本件審判請求の登録前
3年以内に使用されていたことを客観的に証明しているとは認め難い。
(エ)審判乙第37号証(株式会社総合リサーチ作成の調査報告書)は、前判
決後に作成され、前訴甲第7号証(G作成の宣誓供述書)の作成者であるGの過去
の経歴や現状、素行を調査内容とするものであるが、同調査報告書によっては上記
前訴甲第7号証が信用性に欠けるものであると認めるに足りる証拠とすることはで
きない。
(オ)審判乙第38、第39号証(いずれも証明書)は、いずれも同じ文面か
らなる画一的な証明内容について、被請求人側の営業上の関係者が署名、捺印した
と認められるものであって、その事実関係(意味内容)を正確に理解した上で作成
したものであるのかについて疑問が残るばかりでなく、その証明書に添付された写
真の掲載商品に貼られたシールは、前訴乙第25号証のシールと同じシールと認め
られるものであって、このシールに関する前判決の認定をも踏まえると、これらの
証明書をもって、本件商標と社会通念上同一といえる「壁の穴」商標が、予告登録
日前3年以内に使用されていたことを客観的に証明しているとは認め難い。
(カ)審判乙第40号証(領収書写し)は、当然その前後の番号に係る他の領
収書も存在していたものと認められるところ、それらの領収書の提出はないから、
証明資料としての客観性の点で十分なものとはいえず、その発見の経緯も不自然で
あり、また、その作成時期に疑問があり直ちに信用することができない。
(キ)審判乙第41号証の1、2(請求書写し)は、上記乙第40号証の内訳
を示す株式会社広放から新世界興業にあてた請求書の写しであるが、上記(カ)と同様
の理由等により採用できない。
 そして、上記の認定判断に基づき、予告登録日前3年以内に日本国内にお
いて商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその指定商品について
の本件商標の使用をしていることを認めるに足りる証拠はないとして、本件商標の
商標登録を取り消した。
(3)ところで、不使用による商標登録取消審判及びその審決に対する取消訴訟
において、商標権者が登録商標の使用の事実を証明したか否かが争われ、審決取消
訴訟の判決が、その点について審決とは逆の判断を示して審決を取り消した後、再
度の審判手続において、特許庁が当該取消訴訟の拘束力に従って、その点につき当
該取消判決と同様の判断をし、それに基づいて再度の審決をした場合においては、
その再度の審決に対する再度の審決取消訴訟において、上記拘束力に従った再度の
審決の判断が誤りであると主張立証することは、許されないものと解すべきであ
る。すなわち、不使用による商標登録取消審判についての審決の取消訴訟において
審決取消しの判決が確定したときは、審判官は、商標法63条2項において準用す
る特許法181条2項の規定に従い、当該審判事件について更に審理を行い、審決
をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の
審理ないし審決には、同法33条1項の規定により、同取消判決の拘束力が及ぶ。
そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断
にわたるものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断を
することは許されない。したがって、再度の審判手続において、審判官は、当事者
が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従
前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは同主張を裏付けるための新たな立証をす
ることを許すべきでなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限
りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができ
ないのは当然である。このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該
取消判決のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に
従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確
定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の
違法(取消)事由たり得ない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集4
6巻4号245頁参照)。そして、商標登録の不使用取消審判の請求が成り立たな
いとする審決の取消訴訟において、商標権者が主張する、「使用」の構成要件を定
める商標法2条3項各号に該当する具体的な使用の事実が認められないとの理由に
より、審決の認定判断が誤りであるとして取消判決がされ、これが確定した場合に
は、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は同一の使用の事実を
認定することは許されないのであり、したがって、再度の審決取消訴訟において、
取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(同一の使用
の事実が認められる)として、これを裏付けるための新たな立証をし、更には裁判
所がこれを採用して、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とするこ
とが許されないことは明らかである。
(4)本件において、前示(1)、イの前判決の認定判断に照らせば、前判決の拘束
力は、前審決を取り消す旨の結論(主文)が導き出されるのに必要な商標法2条3
項各号該当の具体的な使用の事実についての認定判断、すなわち、前訴被告(注、
本訴原告)が主張する、予告登録日前3年以内に新世界興業が壁の穴チボリ店及び
壁の穴西新宿店において前訴乙第10号証(写真)に撮影された容器詰め持ち帰り
商品を展示、販売し、同乙第22号証の定価表を展示、頒布し、同乙第20号証の
案内書を頒布し、同乙第6号証の定価表を展示していた事実はいずれも認められな
いとの認定判断について生ずるものというべきである。したがって、再度の審判手
続において、審判官は、前判決が上記のとおり認定判断した同一の使用の事実につ
き、その使用の事実が認められるとの前判決とは別異の認定判断をすることは、取
消判決の拘束力により許されないのであるから、本件審決が取消判決の拘束力に従
ってされた限りにおいては、再度の審決取消訴訟である本件訴訟においてこれを違
法とすることはできない。
 そして、前示(2)のとおり、被請求人(注、本訴原告)が再度の審判手続に
おいて新たな証拠方法として提出した審判乙第34~第40号証、第41号証の
1、2について、いずれも採用することができず、予告登録日前3年以内に日本国
内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその指定商品に
ついての本件商標の使用をしていたことを認めることができないとした本件審決の
認定判断は、上記前判決の拘束力に従ったものであることが明らかであり、本件審
決の認定判断中、前判決の拘束力の及ぶ部分、すなわち、予告登録日前3年以内に
新世界興業が壁の穴チボリ店及び壁の穴西新宿店において前訴乙第10号証(写
真)に撮影された容器詰め持ち帰り商品を展示、販売し、同乙第22号証の定価表
を展示、頒布し、同乙第20号証の案内書を頒布し、同乙第6号証の定価表を展示
していた事実はいずれも認められないとの部分は、再度の審決取消訴訟である本件
訴訟において、これを違法とすることはできず、原告が、本件審決のその認定判断
が誤りであることを主張立証することは許されないものといわざるを得ない。
 そうすると、本件訴訟において原告の主張する本件審決の取消事由は、上
記第3の2(1)のとおりであって、前示(1)イのとおり、①の本件商標を付したシー
ル(本訴甲第3号証の1~4)を貼付した容器に詰めた持ち帰り商品は上記前訴乙
第10号証(写真)に撮影された容器詰め持ち帰り商品と同一であり、②の定価表
(本訴甲第5号証)は上記前訴乙第22号証の定価表と同一であり、③の案内書
(本訴甲第6号証)は上記前訴乙第20号証の案内書と同一であり、④の定価表
(本訴甲第18号証)は上記前訴乙第6号証の定価表と同一であると認められるか
ら、原告が取消事由として主張するところは、前判決の拘束力に従った本件審決の
上記認定判断が誤りであると主張することに帰着するものである。
 原告は、本件訴訟において、原告が、登録商標の使用の事実の立証のた
め、前判決における証拠とは全く別個の証拠を提出する場合及び新たな証拠を提出
し、新たな証拠と前判決における証拠とあいまって初めて原告の主張を裏付ける事
実の立証がされる場合には、前判決の拘束力は及ばず、これと異なった判断が許さ
れるというべきであると主張し、本件訴訟において提出した甲第4号証(D作成の
陳述書)、甲第8号証(B作成の日記)、甲第11号証(E作成の陳述書)、甲第
12号証(新世界興業作成の広告写し)及び甲第17号証(F作成の陳述書)が上
記の新たな証拠に該当すると主張する。しかし、これらの各証拠は、いずれも、そ
の立証趣旨及び記載内容に照らし、上記甲第3号証の1~4のシール、甲第5号証
の定価表、甲第6号証の案内書及び甲第18号証の定価表による予告登録日前3年
以内の各使用の事実を立証しようとするものにすぎないものと認められるから、こ
れらの立証も、結局、前判決の拘束力に従った本件審決の上記認定判断が誤りであ
ることを立証することに帰着するものである。したがって、本件訴訟における原告
の上記主張立証は、前判決の拘束力が及ぶ事項につき、再度の審決取消訴訟におい
てこれを蒸し返すものにほかならず、そもそも本件審決の取消事由とはなり得ない
ものであるから、いずれもそれ自体失当というべきである。
2 以上のとおりであるから、原告主張の本件審決取消事由は理由がなく、他に
本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴
訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 宮  坂  昌  利
(別 紙)
 目録

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛