弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
原告両名の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告両名の負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
(昭和五八年(行ウ)第二号事件〔以下「甲事件」という)。〕
1被告大津税務署長(以下「被告大津署長」という)が、原告Aに対し、昭和五六年。

二月三日付でなした、同原告の昭和五五年度分の所得税について、申告にかかる分離長期
譲渡所得金額二、九六〇万七、六四七円及び納付すべき税額五六七万二、〇〇〇円を、そ
れぞれ三、四三五万七、六四七円及び六八四万〇、二〇〇円と更正する旨の処分並びに過
少申告加算税六万九〇〇円を賦課する旨の処分(以下あわせて「本件甲処分」という)。

取消す。
2訴訟費用は被告大津署長の負担とする。
(昭和五八年(行ウ)第三号事件〔以下「乙事件」という)。〕
1被告豊能税務署長(以下「被告豊能署長」という)が、原告Bに対し、昭和五六年。

月一七日付でなした、同原告の昭和五五年度分の所得税について、申告にかかる分離長期
譲渡所得金額二、九六〇万七、六四七円及び納付すべき税額六一四万二〇〇円を、それぞ
れ三、四三五万七、六四七円及び七〇九万二〇〇円と更正した処分並びに過少申告加算税
、(「」。)。四万七五〇〇円を賦課する旨の処分以下あわせて本件乙処分というを取消す
2訴訟費用は被告豊能署長の負担とする。
二請求の趣旨に対する答弁
(甲事件)
1原告Aの請求を棄却する。
2訴訟費用は同原告の負担とする。
(乙事件)
1原告Bの請求を棄却する。
2訴訟費用は同原告の負担とする。
第二当事者の主張
一請求原因
(甲事件)
1被告大津署長は、原告Aに対し、本件甲処分をなした。
2原告Aは、これを不服として、被告大津署長に対し、異議申立をしたところ、同被告
は、昭和五七年三月二五日これを棄却したため、同原告は、さらに、国税不服審判所長に
対し、審査請求をしたが、同所長は、昭和五八年一月三一日これを棄却する旨の裁決をな
し、その裁決書が同年二月二二日同原告に到達した。
3しかしながら、本件甲処分は、原告Aの分離長期譲渡所得金額の算定にあたり、同原
告が譲渡した不動産の所有権確走のため、訴外C及び同D(以下「訴外Cら」という。
)に支払つた合計五〇〇万円の示談金について、これを取得費として控除すべきであるの
に、控除せずになしたものであつて違法であるから、それぞれの取消を求める。
(乙事件)
1被告豊能署長は、原告Bに対し、本件乙処分をなした。
2原告Bは、これを不服として、被告豊能署長に対し、異議申立をしたところ、同被告
は、昭和五七年四月二七日これを棄却したため、同原告は、さらに、国税不服審判所長に
対し、審査請求をしたが、同所長は、昭和五八年一月三一日これを棄却する旨の裁決をな
し、その裁決書が同年二月二二日同原告に到達した。
3しかしながら、本件乙処分は、原告Bの分離長期譲渡所得金額の算定にあたり、同原
告が譲渡した不動産の所有権確定のため、訴外Cらに支払つた合計五〇〇万円の示談金に
ついて、これを取得費として控除すべきであるのに、控除せずになしたものであつて違法
であるから、それぞれその取消を求める。
二請求原因に対する認否
(被告両名)
請求原因各1、2の各事実は認める。
三被告両名の主張
(以下、甲事件、乙事件を区別しないが、原告Aに関する主張は、被告大津署長の、原告
Bに関する主張は、被告豊能署長の、原告両名に関する主張は、被告両名に共通の主張で
ある)。
1原告Aに対する本件甲処分の経過は、別表(一)のとおりであり、原告Bに対する本
件乙処分の経過は、別表(二)のとおりであつて、右各処分のうち、それぞれの課税分離
長期譲渡所得金額の明細は、いずれも別表(三)のとおりである。
2原告両名は、訴外Cらに対して、昭和五五年二月一三日に支払つた「相続財産につい
ての示談金(以下「本件示談金」という)合計一、〇〇〇万円のうち、原告両名負担」。

各五〇〇万円について、右金員は、売却不動産の所有権確定のために支出したものである
から、所得税法上控除されるべき取得費に該当すると主張し、これを譲渡収入金額から控
除して課税分離長期譲渡所得金額を計算したうえで、昭和五五年度分の所得税の確定申告
をなしたが、被告両名は、原告両名に対し、いずれも本件示談金は取得費に該当しないと
して、これに代えて、譲渡収入金額の五パーセント相当額を取得費とする旨の各更正処分
(本件甲、乙各処分)をなしたものである。
3右の更正の理由は以下のとおりである。
所得税法三八条一項及び六〇条一項の規定によると、
課税譲渡所得金額の計算上控除すべき取得費は、所有者の被相続人が、取得の際にその取
得に要した費用並びに所有者あるいはその被相続人が支出した改良費等の合計額となると
されているところ、右のように取得費を控除する趣旨は、資産の値上りによつて所有者に
帰属している増加益を、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを
清算して課税するという、譲渡所得に対する課税の趣旨から、右の増加益部分を算出する
意味を有するものである。したがつて、右の増加益部分の算出上控除すべき取得費は、被
相続人の取得の時点において、その資産の客観的価値を構成する費用でなければならない
というべきである。
しかしながら、遺産分割は、共有にかかる相続財産の分配にすぎず、これにより、相続財
産に含まれている個々の資産の財産評価そのものに変動を及ぼすものではないから、これ
に要した費用は、一般的には当該資産の客観的価額を構成するものと認めることはできな
い。
ところで、原告両名主張の本件示談金は、遺産分割にかかる紛争解決金というべきもので
あるから、右の理によれば、これが、原告両名の譲渡にかかる別紙物件目録記載の各土地
(「」。)、建物以下本件土地等というの客観的価額を構成するものとはいうことができず
取得費として控除すべきものでないことは明らかである。
まして、原告両名の主張する「遺産分割にかかる紛争」が、原告両名の被相続人亡Eの先
代亡Fの遺産をめぐる、Fの相続人であるEと訴外Cらとの間の紛争であることからすれ
ば、本件土地等のうち、別紙物件目録五ないし八の土地は、Eが他から売買によつて取得
したもので、Fの遺産に含まれていなかつたのであるから、本件示談金がこれらの土地の
取得費となることはあり得ないところである。
4なお、被告大津署長は、原告Aの利子所得について、申告にかかる所得金額一二六万
八、七五〇円を〇円に、源泉徴収税額五三万一、〇六二円を八万七、〇〇〇円と更正した
が、その理由は以下のとおりである。すなわち、原告Aの申告にかかる利子所得は、原告
Aが訴外株式会社池田銀行から支払を受けたものであるが、原告Aは、右利子所得につい
て、申告に先立つ昭和五五年六月一二日、租税特別措置法三条に基づく利子所得の源泉分
離選択課税を選択し、
「利子所得の源泉分離課税の申告書」をその支払を受けるべき時までに、その支払の取扱
者である右訴外池田銀行を通じて被告大津署長に提出した。よつて、右利子所得について
は、その支払を受けるべき時に、支払を受けるべき金額に対して三五パーセントの税率に
よる所得税が源泉徴収されることにより課税関係は終了し、後日、確定申告において、そ
の利子収入金額を総所得金額に算入することはできなくなる。しかるに、原告Aは、右利
子収入金額及び源泉徴収税額を算入して確定申告をなしたため、被告大津署長において、
これを除外する旨の更正をしたものである。
5以上のとおり、被告両名のなした本件各処分はいずれも適法になされており、したが
つて、これによる過少申告加算税の賦課処分もまた適法である。
四被告両名の主張に対する原告両名の反論
1本件示談金の支出に至る経違は以下のとおりである。
、、、、本件土地等は元々Fの所有であつたが同人は昭和三七年八月一七日死亡しその妻G
Fと先妻Hとの間の子C並びに、FとGとの間の子D及びEの四名が相続人となつた。そ
して、遺産分割協議の結果、Fの遺産については、法定相続分と大きく異なり、Eが全遺
産の約一〇〇分の七〇を取得し、Gが約一〇〇分の一五、C及びDはそれぞれ約一〇〇分
の八を取得することとなつたが、これは「I」という「家」の護持を中心に考え、F亡、

あとのIの当主であるEを中心にしたということであり、この大義名分の前に、訴外Cら
も右協議結果をしぶしぶ承認したものである。その後、Eは、先妻Jが昭和四一年に死亡
し、昭和四三年にKと再婚したため、E死亡後は、Iと無縁の右Kに相続権が生じること
となり、I護持の大義のために、前記分割協議をあえて黙認していた訴外Cらの不満を招
来した。E死亡後、Kと原告両名との間で遺産分割の調停が申立てられるに及んで、その
不満は最高潮に達し、本件土地等をEの所有とする旨の遺産分割協議の不存在または錯誤
無効の主張をするとの申立が訴外Cらから出されるに至つた。
仮に右主張が認められれば、Eの相続取得の事実が覆り、Fの遺産は未分割の状態に復帰
、、、、、しKとの間の分割協議もできなくなるので原告両名はやむなく訴外Cらのために
Fの遺産分割割合の是正の処理として、
本件土地等に対する訴外Cらの所有権を一部認める形で、同人らに各五〇〇万円を支払う
。。、、旨の示談をなしたこれに基づいて支払われたのが本件示談金であるただし現実には
まずKとの間の紛争の解決を図ることが問題解決への近道と考えられたので、Kとの調停
成立後に訴外Cらと折衝を繰り返した結果、本件示談金を支払つたものである。
2以上のとおり、本件示談金は、これを支払わなければ、訴外Cらの本件土地等に対す
る所有権が確定的に認められるものであり、本件示談金を支払うことにより、Eが訴外C
らから本件土地に対する訴外Cらの所有権を取得したものである。したがつて、本件示談
金は原告両名が本件土地等を適法に取得するために要した費用ないしは、本件土地等を取
得するに際して発生ないし顕在化した債務というべきであり、取得費とみなされるべきも
のである。
被告両名は、所得税法三八条一項の解釈について、遺産分割は、共有にかかる相続財産の
分配にすぎず、財産の客観的価値を構成するものではないから、遺産分割に要した費用は
取得費に該らない旨主張するが、相続においては、個々の資産の具体的な帰属は遺産分割
によつて定められるのが通常であるから、相続人は遺産分割によつて資産を取得したと考
、、。、えるのが通常一般の法感覚に合致するものでありあるべき法解釈であるしたがつて
遺産分割に要した費用も取得費に含まれると解するべきである。
3仮にそうでないとしても、原告両名は、前記のとおり、本件土地等に対する訴外Cら
、、、の所有権を一部認める形で同人らに本件示談金を支払つたものであつて本件示談金は
訴外Cらからの所有権譲受の対価として支払つたというべきであるから、本件土地等の取
得費に該当するというべきである。
4仮にそうでないとしても、前記事実関係の下では本件示談金の支払によつて、本件土
地等の値上り益のうち本件示談金相当部分は、訴外Cらに移転しており同人らに帰属した
ものである。したがつて、本件土地等の譲渡所得のうち本件示談金相当部分は、原告両名
の所得ではないのであるから、これに対して課税することは、実質課税の原則に反し許さ
れないというべきである。
さらに、本件示談金については、訴外Cらの所得として課税される以上、原告両名の譲渡
所得全体に対して課税することは、二重課税となり許されないというべきである。
4原告両名の本件示談金の支出は、相続税の算定にあたつては控除の対象でなく、譲渡
所得に対する課税においても控除の対象にならないとすると、納税上何らの配慮もなされ
ていないことになるが、このようなことは税法上許容されるべきではなく、譲渡所得に対
する課税において控除の対象とすべきである。
第三証拠(省略)
○理由
一甲、乙両事件各請求原因1、2の各事実は、いずれもそれぞれの当事者間に争いがな
い。
二それぞれの当事者間において成立に争いのない甲第一号証の二及び弁論の全趣旨によ
れば、被告両名の主張1、2の各事実を認めることができる。
三そこで、原告両名主張の「相続財産についての示談金」各五〇〇万円の支出が、所得
税法三八条一項にいう譲渡所得の計算上控除すべき取得費に該るか否かについて検討す
る。
1前記甲第一号証の二、それぞれの当事者間において成立に争いのない乙第三ないし第
一二号証及び原告B本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件示談金支払に至る
経緯として以下の事実を認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠はない。
(一)原告両名の昭和五五年度分の分離長期譲渡所得は、別紙物件目録一、二の土地建
物及び倉敷市<地名略>他の土地(合計約四、四六七・九四平方メートル)の各原告両名
持分の譲渡による所得であるところ、右各土地建物は、いずれも原告両名が昭和四七年六
月一五日Eから相続により取得した別紙物件目録記載の各土地建物(但、目録三、四の土
地についてはEの持分二分の一)を、そのまま(目録一、二の土地建物、あるいは分筆)

て(目録三ないし八の土地)譲渡したものである。
(二)右のうち、別紙物件目録一、三、四の各土地は、Fが大正五年ないし昭和一二年
にかけて売買により取得し、所有していたものであり、目録二の建物も同人の所有にかか
るものであつて、Eが昭和三七年八月一七日相続により取得したものであり、目録五ない
し八の土地は、Eが昭和四六年一一月五日味野塩業組合から売買により取得したものであ
る。
(三)Fの相続人は、妻G並びに子E及び訴外Cらの合計四名であつたが、遺産分割協
議の結果、Eが家業の塩業を継ぎ、Iの財産を守るという趣旨で、塩田(目録三)及び池
田市の自宅(目録一、二)など全遺産の七割ないし八割を取得することとなり、
訴外Cらは、右協議を承諾したものの、その結果には不満を抱いていた。
(四)Eの妻Jは、昭和四一年二月一九日死亡し、Eは、昭和四三年一〇月一五日Kと
再婚したが、Eが病気で入院した昭和四七年一月ころから、特に前記DにおいてKの行動
に不審を抱くようになり、Iの財産がKに帰属するようになつては大変だという危惧感を
抱くようになつた。
(五)E死亡後、Kから遺産分割の調停が申立てられ、結局、Kに三、〇〇〇万円を支
、、払うことで昭和四九年一一月一九日調停が成立したがその調停成立前から訴外Cらから
塩業を廃業してIの財産の護持ということも必要でなくなつたのだから、Fの遺産につい
て、自分達も当然に持分があり、分割にあずかれる権利があるとの主張がなされるように
なつた。そのため、Kとの調停成立後、原告両名と訴外Cらとの間で、北尻得五郎弁護士
を介して話合いがなされ、原告両名において、本件土地等に対する訴外Cらの所有権持分
、、のあることを認める形で原告両名が各五〇〇万円を訴外Cらに支払う旨の示談が成立し
本件示談金を支払うこととなつた。
2ところで、譲渡所得に対する課税は、資産の価値の増大により、所有者に潜在的に帰
属している増加益について、その資産が所有者の支配を離れ、増加益が対価という形で顕
、、、在化したのを機会にこれを清算し課税する趣旨と解されるところその趣旨からすれば
所得税法三八条一項が、課税譲渡所得金額の算定において、その資産の取得に要した金額
並びに改良費及び設備費の合計額を取得費として控除すべきものとしている理由は、譲渡
収入金額のうち、資産の保有中に資産の価値が増大した結果、所有者が得た純益に相当す
る部分を課税対象として算定する意味を有するものと考えられる。したがつて、譲渡収入
金額から控除すべき取得費は、取得時における資産の客観的価値と捉えられるべき、取得
の対価及び取得に直接要した費用、並びに保有中における資産の価値の増大をもたらす資
本投資と捉えられるべき改良費等がこれに該ると解すべきことになる。
また、同法六〇条一項が「限定承認を除く相続その他の事由によつて取得した場合の課税
譲渡所得金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたとみなす」旨規定
しでいる趣旨は、同条に該当する場合には、同法五九条に規定する場合と異なり、
資産の移転の際にその増加益をみなし譲渡として清算することをせず、後日、有償で譲渡
された段階でその増加益を通じて清算するというにあると解されるから、これと前記の同
法三八条一項の規定の趣旨を併せ考えれば、限定承認の場合を除き、相続の際における資
産の取得にかかる金員の支出は被相続人が、当該資産を同法六〇条一項に規定する以外の
方法により取得した際の、その資産の客観的価値を構成するものか、またはその後の保有
中における改良費等とみられるものでなければ、租税特別措置法三九条の如き特段の定め
のない限り、取得費とはなり得ないものといわざるを得ない。
3そこで、前示事実関係の下で、本件示談金が取得費に該当するか否かを検討するに、
本件土地等に関する訴外Cらの主張は、要するに、Fの遺産分割の結果が法定相続分に反
しているから、再分割あるいは侵害された相続分の回復を求めるというにあつたと考えら
れ、Fの資産取得時における所有権の帰属を争うものではなく、したがつて、本件示談金
は、所得税法六〇条一項の規定により取得費とされるべきFの取得時における資産の客観
的価値を構成するものでないことは明らかであり、かつ、保有中における資産に対する資
本投資とみることもできないから、改良費ということもできず、結局のところ、同法三八
条一項の取得費には該当しないといわなければならない。
また、本件土地等のうち別紙物件目録五ないし八の土地は、Fの遺産には含まれていない
から、訴外Cらが相続によつて取得する余地はなく、本件示談金をめぐる紛争の対象外で
あつて、本件示談金が右各土地の取得費となるものではないことは明らかである。
4原告両名は、所得税法三八条一項の解釈について、遺産相続において、個々の資産の
具体的な帰属は遺産分割によつて定められるのが通常であつて、相続人は遺産分割によつ
て資産を取得したと考えるのが通常一般の法感覚に合致するものであるから、遺産分割に
要した費用をも取得費に含ませるべきである旨主張するが、前示の同条及び同法六〇条一
項の趣旨に照らせば、同法六〇条一項により引き続き所有していたとみなされる相続の際
の遺産分割に要した費用は、通常は被相続人においてその資産を取得した際の資産の客観
的価値を構成したり、その後の資産の価値の増加に資するものということはできず、
これを一般的に取得費に該当するとは到底いうことができないばかりでなく、本件の場合
には資産の帰属に争いがあるとはいつても、それは共同相続人間での争いにすぎず、結局
のところは分割方法の当否をめぐる争いであるから、その紛争の解決のために金銭が支出
されたとしても、それが資産の客観的価値に影響するものでないことは明らかであるとい
わざるを得ず、したがつて、これをもつて取得費ということはできない。よつて、原告両
名の右主張は採用できない。
5また、原告両名は、本件示談金は、原告両名において本件土地等に対する訴外Cらの
所有権を一部認める形で、同人らの所有権譲受の対価として支払つたものであるから、本
件土地等の取得費とみなすべきである旨主張するが、遺産分割協議は、単に法定相続分に
反していることのみをもつて直ちに無効とすべきものではなく、錯誤、詐欺等の民法上の
無効、取消原因その他分割の効力を否定すべき特段の事情のある場合に限り無効となると
解すべきであるところ、具体的にこれを裏付ける主張のない本件にあつては、Eの本件各
土地に対する所有権を争う余地はないというべきであるから、原告両名の右主張も失当で
ある。なお、本件示談金については、Fの遺産の分割において、いわゆる代償分割の方法
によつたものとして、その代償金とみる余地がない訳ではないと考えられるが、代償分割
も遺産の分配の一態様であつて、代償金をもつて他の共同相続人からその持分を取得した
対価とみるべきものではないから、これを取得費に含ませることはできない。
6さらに、原告両名は、本件土地等の譲渡所得のうち本件示談金相当部分は、本件示談
、、金の支払によつて訴外Cらに移転しておりこれを原告両名の所得として課税することは
実質課税の原則に反し、また、訴外Cらにおいて本件示談金が課税の対象となるのである
から、原告両名の譲渡所得のうち本件示談金相当部分をも課税の対象とすることは二重課
税になると主張するが、いわゆる実質課税の原則は、名義と実体、形式と実質とで所得の
帰属が異なる場合の問題であるのに対し、本件事実関係の下では、原告両名は、本件譲渡
所得にかかる資産の真実の所有者であつて、その譲渡による収益の帰属者と認められるの
であるから、原告両名に対し、その譲渡による収益金額全部に課税することは何ら右原則
に反するものではなく、また、
原告両名の本件譲渡所得と訴外Cらの本件示談金の支払による所得とは、本件譲渡所得を
もつて本件示談金の支払にあてるという点で経済的には同一性を有するとしても、法律上
は別個の行為とみられるものであるから、訴外Cらにおいて、本件示談金の支払により原
告両名の譲渡所得とは別個の所得が発生したというべきであつて、これら双方に対する課
税が二重課税に該るということもできない。よつて、原告両名の右主張も採用できない。
7原告両名は、本件示談金の支払は、相続税においては控除の対象でなく、所得税にお
いても控除の対象でないとすると、税法上何ら考慮されていないことになり、許容される
べきでないと主張するが、前示のように、本件示談金は、代償分割における代償金とみる
余地があり、もしそうであれば相続税の算定において控除の対象となるべき性質のもので
あるから、税法上の考慮がなされていない訳ではなく、原告両名の右主張は前提を欠き失
当である。
8以上によれば、被告両名が、原告両名主張の取得費を採用せず、これに代えて譲渡所
得金額の五パーセント相当額を取得費とみなして控除したことは何ら違法でないというべ
きである。
四原告Aと被告大津署長の間において成立に争いのない乙第二号証及び弁論の全趣旨に
よれば被告両名の主張4の事実を認めることができ、これによれば原告Aの利子所得につ
いての被告大津署長の更正は適法になされたものということができる。
五その他、本件各更正処分及び過少申告加算税賦課処分の違法性を疑わせるに足りる証
拠はなく、本件各処分は、いずれも適法になされたものというべきである。
六よつて、原告両名の各本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、
訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を各適用
して主文のとおり判決する。
(裁判官西池季彦森弘松本清隆)
(別紙)
物件目録
一池田市<地名略>
宅地三八〇・一六平方メートル
二池田市<地名略>所在
家屋番号一〇一七番九
木遣瓦葺二階建居宅一棟及び附属建物一棟
床面積合計一六三・八二平方メートル
(以上原告両名持分各二分の一)
三倉敷市<地名略>
塩田一八、九八八平方メートル
四右<地名略>
宅地一七三・九一平方メートル
(以上原告両名持分各四分の一)
五右<地名略>
用悪水路七三平方メートル
六右<地名略>
用悪水路九〇平方メートル
七右<地名略>
雑種地一二五平方メートル
八右<地名略>
雑種地一一二平方メートル
(以上原告両名持分各二分の一)

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