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平成28年2月12日宣告裁判所書記官
平成24年(わ)第887号,第987号,平成25年(わ)第116号,第20
8号,第443号,第574号,第828号死体遺棄,逮捕監禁,殺人,監禁,
詐欺,生命身体加害略取被告事件
判決
主文
被告人を懲役23年に処する。
未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯等)
1被告人は,平成15年頃,高松市内で実父A(以下「A」という。),実母
B(後にAとの離婚届出により旧姓Cに戻る。以下「B」という。)及び実
姉D(後にEとの婚姻届出によりF姓となる。以下「D」という。)と共に
生活し,高校に通っていた。
その頃,G(以下「G」という。)は,兵庫県尼崎市a通b丁目c番d号所
在のマンション「H」f号室(以下「H」という。)に住んでいた。Hには,
Gの内縁の夫(以下「I」という。),義理の妹J(以下「J」という。),
養子(以下「K」という。),Jの実子であるが戸籍上はGの子とされ,後
に被告人の夫となる(以下「L」という。)などのほか,Jとの婚姻実体は
ないが戸籍上は同人の夫となっていた(以下「M」という。),家政婦的な
立場の(以下「N」という。)なども同居して,Gの下で共同生活をしてい
た(以下Hで共同生活をしていた者たちを「O家」という。)。なお,Mの
実弟P(以下「P」という。)は,Gの下から何度か逃亡し,当時も逃亡中
であったが,その後連れ戻されてHで生活していた。また,平成18年には,
Pが逃亡中に知り合ったE(以下「E」という。)もHでGらと共同生活を
するようになった。
2平成15年2月頃,Bが,兄Qの元妻の連れ子で,当時Gの下にいたR(以
下「R」という。)の面倒を見ると言って同人を高松のA方に連れ帰ったこ
とから,Gは,Rに命じてA方でわざと粗暴な振る舞いをさせ,その対応に
困ったBから「手に負えない。」と泣きつかれると,高松のA方に乗り込み,
Rの扱いについてBを強く責めた。さらに,Gは,Bの親族も集めさせて長
時間の話合いを強制し,同人らを言葉巧みにけしかけて互いに暴力を振るわ
せるなどした上,Bに対しては,親族に殴らせるほか,顔にガムテープを貼
る,食事や睡眠を制限する,人前での性行為を強要するなどの虐待行為を繰
り返した。
被告人は,当初,Gに敵意を抱いていたが,その後,Gから,褒められたり,
Bには分かってもらえなかった心情について理解を示されたりなどするうち,
次第にGに親近感を覚えるようになり,AやBとは別れ,Gに付き従ってO
家の者になろうという気持ちになっていった。そして,Bが平成15年8月
に,Aがその翌月に,それぞれ行方をくらました後,被告人はDと共にHで
Gらと共同生活をするようになった。
3Gは,O家の他の者たちに対して,面倒見のよい面もあったが,総じて,怒
りやすく,暴力的で,虐待行為にも躊躇がなかった。同人らは,このような
Gの下で,その怒りを買って虐待の対象とならないよう,Gの意向に従って
行動していた。
被告人の実姉Dは,Gからたびたび虐待を受け,平成16年春に一人で,ま
た,平成20年6月にはEと二人でHから逃げ出したが,いずれの時にも,
後日Gらに見付かってHに連れ戻されていた。
被告人は,Hで生活するようになって以降,Gから虐待を受けた時期もあっ
たが,Gに認めてもらいたいという思いから,Gの意向に従った行動をする
ように心掛けていた。
(罪となるべき事実)
第1被告人は,G,J,R,I,K,Lらと共謀の上,Mを事故死に見せかけて
殺害し,保険会社から死亡保険金をだまし取ろうと企て,
1遅くとも平成17年3月上旬頃には,O家の一員としてGの意向に従って行
動せざるを得なかったM(当時51歳)に対し,走行中の自動車の前に自ら飛
び出して死ぬように命じた上,恐怖のためこれを実行できないでいた同人に対
して,同年5月下旬頃までの間に,「今更何言ってんねん。」などと怒鳴りつ
け,3日間にわたって飲食を与えず,同人の両腕を机に打ち付けるなどの暴行
を加え,長時間の正座を強制するなどして,死ぬことを拒むことができない心
境に追い込んだ上で,沖縄県の指定名勝Sから飛び降りて死ぬよう命じ,同年
6月中旬頃,同人を同県へ同行し,同月30日頃,同県国頭郡f村gh番地の
i所在のロッジ「T」において,それぞれ同人と死別の挨拶を交わし,翌7月
1日午前9時過ぎ頃,同所において,同人に対し,前記Sから飛び降りて死ぬ
よう改めて申し向けつつ,同人の身に着けていたネックレスを遺品として受け
取る形見分けの儀式をした上で,同日午前10時20分頃,同村jk番地所在
のS(高さ約27.5メートル)の上において,集合写真の撮影を装って,M
を同崖の縁に立たせ,同人に近付いてその横に立ち並んだり,前に座ったりな
どした上,「はよせな,はよせな。」などと言って,同人に早く同崖から飛び
降りるよう働きかけるなどし,同人をして,同崖から飛び降りる以外の行為を
選択することができない心理状態に陥らせて同崖から飛び降りさせ,よって,
その頃,同崖下において,同人を頭部損傷により死亡させて殺害し,
2平成17年7月上旬,Mを被保険者とする普通傷害保険契約の保険会社であ
るU株式会社と代理店委託契約を締結しているVらを介し,大阪市l区mn丁
目o番p号Wビル所在の同社X課において,担当者のYに対し,真実は被告人
らがMを殺害したものであるのに,その事実を秘し,あたかも同人が前記Sか
ら誤って転落し,事故死したように装って,嘘の事故報告を行うとともに,保
険金支払事務を進めるよう依頼し,さらに,同年11月1日頃,前記Vを介し,
前記X課において,同社に対し,前同様の嘘の内容を記載した保険金請求書を
提出するなどしてJに対する保険金の支払を請求し,同社Z部長AAに,Mが
急激かつ偶然な外来の事故によって転落死したものであり,同社に保険金の支
払義務があるものと誤信させて,Jの相続分に従った保険金の支払を決意させ,
よって,同年11月4日及び平成18年12月29日の2回にわたり,兵庫県
尼崎市q町r丁目s番t号AB銀行u支店に開設されたJ名義の普通預金口座
に現金合計3000万円を振込送金させ,もって人を欺いて財物を交付させる
とともに,同年12月下旬頃,前記Wビル所在の同社AC課において,担当者
のADに対し,真実はMの実弟であるPがその相続分に従った保険金の請求及
び受領をJに委ねた事実はないのに,その事実があるように装い,保険金の請
求及び受領に関し,同人を相続人の代表とすることにPが同意した旨の虚偽の
書面を提出し,同社に対し,Pの相続分に従った保険金についてもJに対して
支払うよう請求し,前記AAをして,Jの受領等の権限についても誤信させて
同請求に係る支払を決意させ,よって,同年12月29日,前記普通預金口座
(ただしAE銀行)に現金1000万円を振込送金させ,もって人を欺いて財
物を交付させ,
3平成17年7月8日頃,東京都墨田区vw丁目x番y号AF所在のAG会社
AH課に電話をかけるなどし,同社社員のAIや担当者のAJに対し,同社を
保険会社とし,Mを被保険者とする普通傷害保険契約につき,真実は被告人ら
がMを殺害したものであるのに,その事実を秘し,あたかも同人が前記Sから
誤って転落し,事故死したように装って,嘘の事故報告を行うとともに,保険
金支払事務を進めるよう依頼し,さらに,同月下旬から同年8月上旬頃,同社
と業務委託契約を締結している株式会社AKの調査員ALらを介し,前記AH
課において,AG株式会社に対し,前同様の嘘の内容を記載した保険金請求書
を提出するなどして保険金の支払を請求し,同社のAH課長AMらに,Mが急
激かつ偶然な外来の事故によって転落死したものであり,同社に保険金の支払
義務があるものと誤信させて支払を決意させ,よって,同年11月7日及び平
成18年11月6日の2回にわたり,兵庫県尼崎市z町aa丁目ab番ac号
AN銀行ad支店に開設されたJ名義の普通預金口座に現金合計1000万円
を振込送金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。
第2被告人は,Gらと共に,前記のとおり平成15年以降行方をくらましていた
Bが和歌山県西牟婁郡ae町afag番地所在のAOにおいて住み込みで働い
ていることを突き止めるや同所に押しかけ,G,R,I,K,L及びDと共謀
の上,BをHに連れ帰れば再び暴行等の虐待行為の対象となることを認識しな
がら,平成19年12月1日から同月3日までの間,前記AOにおいて,平成
15年に受けた虐待によりGらを畏怖していたB(当時58歳)に対し「あ
んた,娘ほったらかしにして,人に押し付けて,何考えてんねん。」などと
怒鳴りつけ,同番地のah所在のAO社員寮ai階aj号室において,Bを大
勢で取り囲み,同人に対し「無責任やな。」,「子供のことほったらかして心
配なれへんかったんか。」,「腹立つわ。」,「そんな逃げ出せる立場やった
んか。」,「おのれが張本人やろうが。」,「のんきにしやがって。」などと
罵り,さらに,前記AOにおいて,「いったん尼崎に戻ります。」などと言っ
た同人に対し「いったんって何やの。1週間や2週間で終わる話ちゃうで。ま
た何のんきなこと言ってんの。」などと怒鳴りつけて,同人の身体,自由等に
どのような危害を加えるかもしれない態度を示して脅迫し,同月3日頃,自動
車に同人を乗せてHまで連れ帰り,もって身体に対する加害の目的をもって略
取した。
第3被告人は,
1G,R,I,J,K及びLと共謀の上,前記のとおり平成20年6月にDが
Eと二人でHから逃げ出して行方をくらませたことに対する制裁として,同年
7月頃,D(当時25歳)をHのベランダに置かれた樹脂製物置内に入れ,そ
の頃から平成20年12月上旬頃までの間(そのうち同年9月中旬以降はEと
も共謀の上),同物置内に監視カメラを取り付け,前記ベランダから共用廊下
に通じる勝手口に防犯ブザーを取り付けた上,Gや被告人らの監視の下に一時
的に外出させたほかは,Dの動静を監視カメラの映像及び直接の目視によって
監視するなどして,前記ベランダから同人が脱出することを著しく困難にし,
もって同人を不法に監禁するとともに,その間,同人に対し,秋以降は低温と
なることもある同物置内等において,半袖シャツ等の薄い衣服しか与えず,顔
面,頭部,身体等を多数回殴ったり蹴ったりするなどの暴行を加え,食事の回
数を制限して栄養及び量の偏ったものを摂取させ,睡眠を短時間に制限し,同
物置内のバケツに排泄させたり,身体を洗う機会を多くても週に1回程度に制
限したりなどして不衛生な環境下に置き,直立不動や正座など特定の姿勢でい
ることをしばしば長時間強制するなどの虐待行為を継続的に加えて,同人の身
体に,多数の外傷を生じさせたほか,やせ細らせるなどして,遅くとも同年1
1月中旬頃には,そのまま同様の監禁及び虐待行為を続ければDを死に至らせ
る危険性がある程度に衰弱させた上で,G,R,E,I,J,K及びLと共謀
の上,殺意をもって,Dに対し,その頃から同年12月上旬頃までの間,同所
において,前記同様の監禁及び虐待行為を継続して一層同人を衰弱させ,よっ
て,その頃,同物置内において,これら一連の虐待行為によって引き起こされ
た低栄養・低体温等の複合による諸臓器の機能不全により死亡させて殺害し,
2G及びJと共謀の上,被告人の長女に暴言を吐いたことでGを怒らせていた
NがGに許されてもいないのに自由に行動していたことに対する制裁として,
平成20年11月5日頃,N(当時67歳)を監視カメラ付きの前記樹脂製物
置内に入れ,その頃から同月10日頃までの間(そのうち遅くとも同月9日未
明頃以降についてはR,E,I,K及びLとも共謀の上),同物置の扉を施錠
したり,動静を監視カメラの映像及び直接の目視によって監視するなどして,
Nが同物置から脱出することを著しく困難にし,もって同人を不法に監禁した。
第4被告人は,G,R,E,I,K及びJと共謀の上,殺意をもって(I,K及
びJについては傷害の犯意で),当時O家で預かっていた少女の胸をPが触っ
たことに対する制裁として,平成23年7月25日未明頃,Hにおいて,P
(当時53歳)に対し,その顔面を手で殴るなどして,同所のベランダに設置
された高温多湿のラティス製物置内に同人を入れ,その頃から同月27日の日
中までの間,Pの両腕・両脚をPPロープ,手錠,丸太等を使って緊縛し,そ
の手錠を重量約24キログラムのステンレス製重しにつなぎ,周囲に金たわし
を多数配置するなどして身動きできないようにした上,同物置出入口につっか
え棒をし,同人の動静を監視して,同人が同物置から脱出することを不可能に
し,もって同人を不法に逮捕監禁するとともに,同人に対し,前記のとおり緊
縛するなどして正座のまま身動きできないようにした上,口の中にタオルを入
れてその上から顔面にガムテープを巻き付け,生存に必要な水分及び栄養を摂
らせず,顔面,腕部,大腿部,下腿部,胸部等を多数回にわたって足で蹴る,
手拳やサンダルで殴打する,サンダルで突くなどの暴行を加え,よって,同月
27日の日中,同物置内において,これら一連の行為によって引き起こされた
高カリウム血症に基づく心停止又は肺塞栓症に基づく循環不全により同人を死
亡させて殺害した。
第5被告人は,G,I,E,R,K及びJと共謀の上,
1平成23年7月27日夜,Hから,Pの死体を搬出して,普通乗用自動車に
積載した上,同死体を同市al通am丁目an番ao号所在の倉庫に運び込み,
同所において,同死体をドラム缶に入れた上,セメントを流し込み,そのまま
同年11月4日頃まで,同死体を同所に放置し,
2さらにLとも共謀の上,同年11月4日頃,前記倉庫から,前記のとおりド
ラム缶にコンクリート詰めにしたPの死体を搬出して,普通乗用自動車に積載
した上,同死体を同市apaq番ar号所在の民家に運び込み,さらに,同月
5日頃,同民家から同死体を搬出して,普通乗用自動車に積載した上,同死体
を岡山県備前市as町atau番地av南側岸壁から海中に投棄し,
もって死体を遺棄した。
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
第1Mに対する殺人(判示第1の1)について
1争点
GらO家の者たちが,Mを死亡させて保険金を得る目的で,判示のとおり,
Mに対して種々の言動をし,同人がSから飛び降りて死亡したことについては
おおむね争いがなく,証拠上も認めることができる。
主たる争点は,GらのMに対するこれらの言動が,殺人の実行行為性を有す
るか,具体的には,Mをして,崖から飛び降りる以外の選択ができない心理状
態に陥らせるものであったか否かである。弁護人は,これを否定し,Mは抑圧
されながらも自由意思の範囲で崖から飛び降りたから,自殺関与罪が成立する
にとどまると主張するほか,殺意及び共謀を争っている。
2当裁判所の判断
⑴Mが崖から飛び降りるまでの経緯
アMは,十代の頃にGと知り合い,成人後,Gによって家族同然の付き合
いをさせられ,昭和57年頃,実姉APに連れられて熊本に逃げたが,G
に見付かって連れ戻され,以後,APのほか母AQ及び弟Pと共にGとの
同居を強いられるようになった。
Gとの同居中,Mは,APやAQがGから殴る蹴る,飲食制限,正座強
制等の虐待行為を受けているのを見ていた。しかし,Mは,APから一緒
に逃げようと誘われたのに対し「捕まったらもっと何されるか分からんか
ら。」などと言ってGの下にとどまっていた。
なお,Mは,平成13年にJと婚姻届出をして戸籍上は夫婦となってい
るが,入籍の理由は,Mが入院をしたときの病院の扱いが違うとか,Mの
年金が同人死亡後もO家に入るようにするためとかいうものであって,M
とJとの間に夫婦としての実体はなかった。
イMは,昭和59年以降,段ボールのリサイクル工場で働いて給料をO家
の家計に入れ続けており,少なくとも平成17年頃は,O家で唯一の稼ぎ
手であった。平成16年頃,O家では,Gが浪費をし,旅行等の贅沢な生
活をしていたにもかかわらず,M以外の者には仕事をさせなかったことが
原因で,2000万円以上残っていたHのローンのほかにも5000万円
近い借金を抱え,家計が苦しい状況にあった。同年12月頃,家計を管理
していたJからそのことを聞いたGは,Mに対し「家,お金苦しいん
や。」,「お金残して,逝ってくれるか。」などとO家のために死ぬよう
に言った。
ウMは,平成16年12月頃,前記のとおり,Gから死ぬように言われた
上,その方法として,走行中の自動車の前に自転車で飛び出すことを指示
された。これに対し,Mは,言葉の上では承諾していたが,平成17年2
月,Gの下から行方をくらませた。しばらくして,Mは,O家が借りてい
た別のマンションの部屋にいるところを見付かり,Gから死ねないことに
ついて執ように責められたが,その際「怖くてようできへん。」などと言
っていた。
エMは,その後,Rに付き添われて,道路を走る自動車の前に自転車で飛
び出すことを二,三回試みたが,実行できずにいたところ,同年5月頃,
Gから「結局おまえどないやねん。」などと問い詰められ,「やっぱりご
めん。怖くてよう死なれへん。」などと答えた。これに対し,Gは,判示
のとおり,「今更何言ってんねん。」などと怒鳴り付けた上,その頃から,
飲食制限,暴行,長時間の正座強制などの虐待行為をMに加えた。その間,
以前はMに好意的に接していたO家の他の者たちも,Mを庇おうとしなか
っただけでなく,同人を責めるGの言葉にうなずいたりする一方で,Mを
無視する態度を示していた。そのような状況が続いていた同月下旬頃,G
は,Mに対し「高いところからやったら飛び降りれるか。」などと問い,
Mは「それやったらできる。」と答えた。
オその後,G,被告人,J,I,K,L,Rらは,判示のとおり,Mの飛
び降り場所としてGが決めたSがある沖縄県にMを同行した上,MがSか
ら飛び降りた日の前日から当日朝にかけて,Mが間もなく死ぬことを前提
とする挨拶や儀式を行った。さらに,当日,Gを除いた者たちでSの上ま
でMに同行し,集合写真の撮影を装って,Mを崖の縁に立たせた上,その
横や前を半ば取り囲むようにしながら,Rにおいて,Mに早く飛び降りる
よう促した直後に,同人が崖から飛び降りた。
殺人の実行行為性について
上記認定の経緯を基に殺人の実行行為性について検討する。
Mは,元々自ら進んでO家の一員となった訳ではなく,母や姉がGから虐
待行為を受けているのを見ていたことから,自分の身を守るためにやむを得
ずO家にとどまることにした。Mは,その後もGの暴虐ぶりを見ていたはず
であるが,他に行くところもなかったことから,O家という閉鎖的な集団の
中でGに逆らわずに真面目に生活を続けていたものと考えられる。このよう
なMにとっては,Gの意向に反する言動をすることは容易ではなく,だから
こそ,O家の家計のために死ぬよう言われたのに対しても,いったんはこれ
を受け入れる態度を示したが,その後のMの言動からすると,本心では受け
入れていなかったことが明らかである。
そこでGは,Mがいったんは死ぬことを受け入れる態度を示したことにか
こつけて,同人が死ねないことを責め続け,同人にRを付き添わせるなどし
て,走行中の自動車の前に自転車で飛び出すよう強く促した。それでも死ね
なかったMは,Gから判示のような虐待行為のほか,周囲からも無視される
という肉体的にも精神的にも大きな苦痛を伴う強度の働きかけを受ける中で,
Gから,確実に死ねる方法として高いところから飛び降りることを提示され
て,これを受け入れることを自身の口で言わされるに至り,死ぬ以外の選択
は絶対に許されないという思いを植え付けられたものと解される。そして,
O家においては,MがSから飛び降りて死ぬことが既定の事実とされ,誰も
それに異を唱えることのできない雰囲気が固まっていた。また,飛び降りの
実行に当たっても,沖縄にはG以下のO家の主だった者がそろって同行し,
思い出づくりや別れの儀式などを行うことによって,Mにもはや引き返せな
いと思わせるような状況を作出した。その上で最終的にはSにも被告人を含
む多人数で同行し,集合写真の撮影を偽装する中で,Mを崖の縁に立たせ,
それを半ば取り囲むような状況下で飛び降りを促した。このようにGらは,
Mが事故に見せかけて自ら命を絶つ行為に出るようにさせるため,死にたく
ないというその本心を分かっていながら,同人がGに逆らえないことに乗じ
て言行不一致を責め,肉体的・精神的苦痛を伴う働きかけを強力かつ執よう
に行った上,周到な演出でMをSの縁まで導き,最後は明示的に飛び降りを
促している。したがって,Gらが行った判示の言動が,Mをしてもはやそこ
から飛び降りる以外の選択ができない心理状態に陥らせるのに十分なもので
あったことは明らかというべきである。
弁護人は,Mは抑圧されながらも自由意思の範囲で崖から飛び降りたと主
張する。しかしながら,Mにとって,Gは怒らせてはならないという存在で
しかなく,また,G以外のO家の者たちも,長年の共同生活を通じて相互に
仲間意識のようなものを抱いていた可能性は否定できないものの,親族関係
のない赤の他人である上,Mが望んで同居するようになった者たちでもない
ことからすると,自らの命を投げ出してまでその生活を守ってやろうと思う
ほどの存在ではない。少なくとも平成17年頃のO家では,Mだけが働いて,
他の者は浪費や贅沢な生活で家計をひっ迫させていたのであって,Mがその
犠牲にならなければならない道理は存在しない。Mに自由意思があれば,真
にGやO家のことを思って自ら命を絶つという意思決定に至るとは考え難い。
本件において,Mは形の上では自ら命を絶っているが,その日時,場所及び
方法はいずれもGによって一方的に決められており,そこにMの自由意思は
うかがえない。さらに,Mが自由意思で死ぬことを受け入れていたことを示
すものとして弁護人が指摘する言動のうち,初期のものについては,それが
本心ではなかったことがその後の言動から明らかである。また,沖縄での被
告人らに対する感謝の態度などは,Mがその時点で既に崖から飛び降りる以
外の選択ができない心理状態にほとんど陥っていた上,儀式等によって,も
はや引き返せないと思わざるを得ないような状況に置かれていたことからす
れば,自由意思で死ぬことを受け入れていたことを裏付けるものとは言えな
い。MがSから飛び降りた原因は,Gらの判示の言動によって,崖から飛び
降りる以外の選択ができない心理状態に陥っていたこと以外には考えられな
い。弁護人の主張は採用できない。
よって,GらがMに対して行った判示の言動は,殺人の実行行為性を有す
る。
殺意及び共謀について
前記認定の経過に照らすと,Gが,保険金を得る目的で,Mをして
崖から飛び降りる以外の選択ができない心理状態に陥らせて死亡させること
を企図したことは明らかであって,殺意は優に認められる。
また,被告人も,平成17年3月上旬頃には,逃げたMを責める家族会議
に同席して,GらがO家の家計のためにMを死亡させて保険金を得ようとし
ていること,ところがMは死ぬのが嫌で逃げ出したことを知った上で,以後,
前記認定の経過をO家の一員として間近で見聞きしていただけでなく,Mを
責めていたGに同調する態度を示す中で,「自分も何でもする。風俗でも行
こうか。」などと発言したこともあった。さらに,被告人は,他のO家の者
たちと一緒に,死ぬことを受け入れずに正座を強いられていたMを無視した
り,沖縄やSにも同行して,偽装の写真撮影に加わったりもしている。
これらの事実からすれば,被告人は,自分たちの行為によりMを死に至ら
しめることを認識して受け入れていた上,Gら他のO家の者たちともその意
思を通じ合わせ,Mをして崖から飛び降りる以外の選択をすることができな
い心理状態に陥らせるという殺人の実行行為の一部を担っていたものと認め
られる。
よって,M殺害について,被告人に殺意及び共謀を認定することができ,
共同正犯が成立する。
第2保険金詐欺(判示第1の2及び3)について
弁護人は,本件各保険金詐欺について,被告人は主観的にも客観的にも自分
たちの犯罪としてこれらに加担したとはいえないから,幇助犯が成立するにと
どまると主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,Mをして崖から飛び降りさせる目的が,
事故を装って保険金を詐取することにあったことについては,被告人もこれを
認識した上でGらと意思を通じ合わせて殺人の実行行為の一部を分担したと認
められる以上,本件各保険金詐欺を成功させるために不可欠の前提条件を作り
出すのに関わったといえる。また,被告人は,Mの死後,同人が事故死した旨
虚偽の記載をした書面の作成にも加わっている。さらに,被告人は,O家の一
員として保険金の詐取によって利益を受ける立場にあることは当然認識してい
たものと考えられる。
以上の事実関係に照らせば,被告人は,本件各保険金詐欺を行うことについ
て,十分な犯意と他の共犯者との意思疎通があり,しかも,その遂行において,
実行行為そのものではないにせよ,自己の利害に基づき重要な行為を行ったも
のと認められ,自己の犯罪としてこれに加担した者として共同正犯の罪責を負
うことは明らかである。弁護人の主張は採用できない。
第3Bに対する身体加害略取(判示第2)について
1争点
Gらが,判示のとおり,Bに対し,怒鳴りつけたり,大勢で取り囲んで罵っ
たりしたことや,Bを自動車に乗せてHまで連れ帰ったことについては争いが
なく,証拠上も認めることができる。
主たる争点は,GらがBを略取したのか,具体的には,脅迫によりHに連れ
帰ったのか否か,また,その際,Bの身体に対する加害の目的を有していたか
否かである。
弁護人は,これらの点のほか,被告人の関与の共同正犯性についても争って
いる。
2当裁判所の判断
⑴略取について
Bは,平成15年にGから虐待を受けてaから行方をくらまし,同年9
月末頃から本件当時まで和歌山県西牟婁郡ae町にあるAOで従業員とし
て住み込みで働いていたが,その間,実子である被告人やDにも居所を知
らせずにいた。Gらは,そのようなBの下へ,多人数で何の前触れもなし
に押しかけて,判示のとおり,社員寮の一室でBを大勢で取り囲んで怒鳴
りつけたり,罵ったりした。そのような行為が,Bに多大な恐怖心を与え
るものであって,脅迫に当たることは明らかである。Gから逃れたいとい
うBの思いの強さは,本件当時まで4年以上にわたり身を隠していたとい
う事実から明らかであって,余程の事情がない限り,自らGと共に生活し
ようなどと思うはずがない。それにもかかわらず,BがGらに押しかけら
れて僅か二,三日の間に,和歌山を引き払ってHで生活することになった
理由は,前記のようなGらの脅迫によって,そうしなければ,更なるGの
怒りを買い,大きな声で怒鳴られるだけでなく,暴力を受けたり,自由を
奪われたりもするのではないかと恐れたこと以外には考え難い。
弁護人は,Bは,実家の用事や娘である被告人らの存在があったため,
自らHに行ったと主張する。この点について,被告人は,Bが尼崎に戻っ
て行うべき用事として,既に死亡して遺体が隠されていたBの実母ARに
ついて,怪しまれないように捜索願を出すことなどがあった旨述べる。し
かし,そのようなことは,ARの孫に当たる被告人やDでもできた上,そ
のためにBが和歌山を引き払う必要まではなかったというべきである。ま
た,被告人自身,和歌山滞在中,上記用事に関して具体的な話はなかった
上,BがHに行った後,そのような用事をした事実もないと述べている。
さらに,Bは,被告人やDを置き去りにしてまで身を隠していたのである
から,同人らの存在は,Bが自らHに行く動機になったとは考えにくい。
弁護人の主張は採用できない。
よって,Gらは,脅迫によりBをHに連れ帰ったものと認められ,同人
を略取したといえる。
⑵身体に対する加害目的について
身体に対する加害目的略取の罪における加害目的は,未必的・条件的な
加害の認識でも足りると解される。
前記のとおり,Bは,平成15年にGから虐待行為を繰り返し受けた末
に,行方をくらましていた。しかも,被告人の供述によれば,Bが上記虐
待行為を受けたのは,Gに嫌われていた上,空気を読んでうまく立ち振る
舞うことができずにGの怒りを買っていたことが原因であったものと認め
られる。このような事実関係に照らすと,Kが証言するように,BがGの
下で生活するようになれば,遅かれ早かれ,Gの意に沿わない言動をする
などして,再びGから暴力を含む虐待行為を受けること,その際には,他
のO家の者たちもGに指示されて何らかの関与をすることになることは,
被告人を含め,平成15年の状況を知る者であれば,当然予想できたもの
と考えられる。実際,Gは,BをHに連れ帰った後,1か月も経たないう
ちに,同人がEに好意を持っているなどと決めつけて,DにBを殴らせて
いる。この点も併せ考えると,Gが和歌山に行く前後でBに好意的な発言
をしたり,和歌山滞在中にBと和やかに会話をしたりしたことがあっても,
一時的かつ表面的なものであったことは明らかというべきである。したが
って,虐待行為の張本人であるGはもちろんのこと,被告人らも,BをH
に連れ帰るに当たって,Gの意に沿わない言動をしてその怒りを買うであ
ろうBに対し,暴力を含む虐待行為を加えることになることを認識してい
たものと認められる。
よって,被告人らには,本件略取行為に当たり,Bの身体に対する加害
の目的があったというべきである。
⑶共同正犯性について
被告人は,Gらと共に,Bを連れ帰ることを分かっていながら和歌山に
行っただけでなく,AOでは,Bを呼び出したり,同人を責めるGに同調
して,「親面するな。」などと言ったりした上で,Bを連れ帰る際にも同
行している。また,前記のとおり,被告人も,BがGの意に沿わない言動
をしてその怒りを買い,暴力を含む虐待行為を受けることになることを認
識していた。これらの事実関係に照らせば,Bに対する本件身体加害目的
略取の犯行について,被告人がGらと互いに意思を通じ合わせ,自分たち
の犯罪としてこれに加わったことは明らかであって,BがHに住むことに
ついて,被告人が本心ではこれを望んでいなかったとしてもこの認定を左
右しない。
よって,被告人の関与はBに対する身体加害目的略取の共同正犯に当た
る。
(なお,BをHに連れ帰った後の行為は,身体加害目的略取の犯罪行為そのも
のではないので判示しない。)
第4Dに対する監禁,殺人(判示第3の1)について
1争点
G及びその指示を受けたO家の者たちが,判示のとおり,平成20年7月頃
から同年12月上旬頃までの間,DをHのベランダに置かれた樹脂製物置内に
入れるなどして監禁し,同人に種々の虐待行為を加えたこと,同月上旬頃,D
が上記樹脂製物置内で死亡したことは争いがなく,証拠上も認めることができ
る。
また,Dの監禁中,被告人,R,E,I,J,K及びLは,Gと共にHに居
住して,その指示・意向に従って行動し,Dに対する上記監禁,虐待行為に一
定の関与をしたことについても争いがなく,証拠上も認められる。
争点は,⑴GらがDに対する監禁,虐待行為を平成20年11月中旬頃以降
も継続したことが殺人の実行行為に当たるか否か,⑵その際,被告人らに殺意
があったか否か,⑶被告人の関与が監禁,殺人の共同正犯に当たるか否かであ
る。
弁護人は,これらをいずれも否定し,⑴及び⑵については,同年11月中
旬頃,Dは生命が危ないほどに衰弱していたかは疑問であり,少なくとも被
告人やGにそのような認識はなかったとし,⑶については,被告人は,Gの
犯行を手伝ったにすぎないなどとして,被告人には,監禁罪,監禁致死罪又
は傷害致死罪の各幇助犯が成立するにすぎないと主張する。
2当裁判所の判断
⑴殺人の実行行為について
アDに対する監禁,虐待行為の内容
平成20年7月頃からDに対して行われた監禁,虐待行為の具体的な内
容は以下のとおりである。
①暴行
Dの身体各部への暴行は,死亡するまでほぼ毎日のように行われ,素
手のほか,サンダルの底,タイヤブラシ,たばこの火などが使われるこ
ともあり,Dの身体から傷や痣がなくなることはなかった。特に,一緒
に樹脂製物置に入れられていたEがGに許されて居室に戻された同年9
月以降は,Dに加えられる暴行の時間や量が増えて,傷の状態は次第に
悪化していった。
②姿勢や動作の強制
樹脂製物置内では,Dに対し,基本的には正座のままでいるよう強制
したほか,長時間にわたり,立ったままの姿勢でいさせたり,足踏みを
続けさせたりした。
③食事の制限
Dに食事を与えるのは平均すると2日に1回の割合であり,特に同年
9月以降は二,三日にわたり食事を与えないことが何回もあった。
食事を与える日であっても,ほとんど1日1食とし,内容も白米とカ
ップ麺というような炭水化物の類を大量に与えることがほとんどであり,
たまに残り物を添えたり,白米に生卵をかけてやったりすることもあっ
たが,栄養面はほとんど考慮されなかった。
④睡眠の制限
Gが起きている間はDも眠ることを許されず,日中,Gが仮眠してい
ても,Dが居眠りをすることは許されなかったため,Dの1日当たりの
睡眠時間は3時間から5時間程度に制限されていた。
⑤不衛生な環境下に放置
風呂場での入浴はさせず,たまにベランダや公園で身体に水をかけて
水浴びをさせるだけであった上,排泄は,樹脂製物置内に置かれたバケ
ツにするように強制し,同年11月頃にはトイレットペーパーも使わせ
なかった。
⑥寒冷期の薄着強制
平成20年10月以降も昼夜を問わず衣服として半袖シャツと七分丈
のズボンしか着させず,防寒具等も与えなかった。なお,同年11月下
旬から12月上旬にかけての現場付近の最低気温は,最も高くて同年1
1月28日の10.5度,それ以外の日は5度ないし7.5度の範囲で
あった。
以上のとおり,平成20年7月頃以降,Dに対して行われた監禁,虐待
行為は,その内容において極めて過酷なものであり,日々同人から体力を
奪い,その回復の機会を失わせ,健康状態や負傷部位を悪化させるもので
ある。しかも,このような行為を同年11月中旬頃まで約4か月にわたり
継続すれば,その時点で既にDを著しい衰弱状態に陥らせることは経験則
上明らかである。また,それ以後も同様の行為を継続することは,寒冷期
に入り,マンション8階のベランダに置かれた樹脂製物置内という気温の
点では屋外と大差ない場所にDを薄着のまま放置するものであって,同人
の身体から体温を失わせるものでもある。したがって,同年7月頃から同
年11月中旬頃までの間,Dに対して行われた監禁,虐待行為は,同人を
著しい衰弱状態に陥らせるのに十分なものであり,これを継続すれば,体
温の低下をも伴う更なる衰弱の進行によって生命に危険が及ぶことは,一
般的な社会生活上の知識・経験に照らして明らかというべきである。
イDの身体状況
Dは,平成20年9月初め頃には,肋骨が浮き出て,頬がこけ,顔の骨
格が明らかになり,同年10月下旬頃には,骨と皮だけという印象を抱か
せるような状態になっていた上,身体各部に無数の痣が見られたほか,足
のむくみがひどく,足首にくびれがなく,ふくらはぎから足まで同じよう
な太さという状態であった。さらに,同年11月24日頃までには,Dの
頸部の脂肪組織が失われていたことが当時の写真から確認できる。
ウ衰弱状態や死因に関する医師の見解
災害医療等を専門とするAS医師は,前記のDに対する監禁,虐待行為
の内容及びDの身体状況を踏まえ,Dは,平成20年11月中旬頃には著
しい衰弱状態にあり,その後の監禁,虐待行為の継続により,更なる衰弱
すなわち低栄養・低体温等の複合による諸臓器の機能不全により死亡した
ものと考えられる旨の見解を述べているところ,その理由及び結論は,不
自然・不合理な点がなく,十分信用することができる。
エ監禁,虐待行為を継続することの危険性
以上のような平成20年11月中旬頃までにDに対して行われた監禁,
虐待行為の内容や期間,その頃のDの身体状況及び医師の見解からすると,
Dは,遅くともその頃までには,それまでの監禁,虐待行為によって既に
著しい衰弱状態にあって,その後も監禁,虐待行為を受け続けたことによ
り,一層衰弱が進み,低栄養・低体温等から生命維持のための諸臓器が機
能しなくなって死亡したものと認められる。
よって,同月中旬頃以降も上記の監禁,虐待行為を継続したことが,D
を死亡させた原因になったことは疑いがなく,同人を死亡させる現実的な
危険性を有するものであったことは明らかである。
オ弁護人の主張について
弁護人は,同年11月中旬頃のDは命が危ないほどに衰弱していたかは
疑問であるとする根拠として,Dが同月上旬頃一緒に樹脂製物置に入れら
れていたNに対して半日以上暴力を振るっていたこと,常に食事を完食し
ていたこと,長時間の足踏みができたことなどを挙げる。
しかし,弁護人の挙げるDの行動は,いずれもGから強制されたもので
あり,従わなければそれだけで手酷い暴行を受けなければならなかったの
であるから,弱った身体を酷使し,苦痛に耐えて行ったということも十分
考えられる。弁護人の主張は採用できない。
カ結論
よって,GらがDに対する監禁,虐待行為を平成20年11月中旬頃以
降も継続したことは殺人の実行行為に当たる。
⑵殺意について
アDが死亡する危険性の認識
前記のような平成20年11月中旬頃までにDに対して行われた監禁,
虐待行為の内容からすると,それらを更に継続すれば同人の生命に危険が
及ぶことは,容易に想定できる上,その頃のDの衰弱状況をも併せて見れ
ば,もはや明らかというべきである。
そして,Dに対する監禁,虐待行為の内容及び同人の身体状況について
は,Gがそれらを最も良く知っており,それ以外のO家の者たちも,多か
れ少なかれ知り得る状況にあった。特に被告人は,Gと行動を共にするこ
とが多かった上,Dとは姉妹であることから,同人の扱いや状況について
は関心をもって見ざるを得なかった。
また,同月10日,それまでDと一緒に樹脂製物置に閉じ込められて虐
待を受けていたNが同物置内で死亡しており,そのことは,O家の者たち
において,Dも監禁,虐待行為を受け続ければ同様に死亡するかも知れな
いとの認識に至る十分なきっかけになったものと考えられる。
実際,E及びKの各証言によれば,同人らは,N死亡後もDに対する監
禁,虐待行為が続いたことから,Dも死亡するかもしれないと考えていた
ことが認められ,Gや被告人も同様の認識を有していた可能性は十分ある。
加えて,被告人は,監禁中のDがGから許されることはないと思っていた,
GのDに対する虐待行為を見て,Dの死亡するぎりぎり手前のところまで
行っているような危うさを感じることがあった,自分が同じようなことを
されれば死ぬだろうと思ったなどと述べており,監禁,虐待行為によって
Dの生命が危険にさらされているとの認識があったことを十分うかがわせ
る。
以上によれば,G及び被告人を含むO家の者たちは,平成20年11月
中旬以降も監禁,虐待行為を継続することによりDが死亡する危険性を認
識していたものと認められる。
イDの死を容認していたこと
Gは,上記認識にもかかわらず,なおも監禁,虐待行為を主導してこれ
を継続したのであるから,Dの死を容認していたことは明らかである。
また,被告人も,平成20年7月以降,Dに対する監禁,虐待行為に関
わった上で,同年11月中旬以降も,同じような監禁,虐待行為を続ける
ことに特に反対することなくHで生活していたばかりか,モニターでの監
視,食事制限への関与,樹脂製物置の扉の施錠(フック)などを継続して,
Dに対する監禁,虐待行為に関わり続けた。さらに,当時,被告人は,D
の存在を疎ましく思っており,D死亡時も平静を保っていた。
これらの事実関係に照らすと,被告人もDの死を容認していたものと認
められる。
ウ弁護人の主張について
弁護人は,Gが監禁中のDの健康状態を確認していたことなどを根拠と
して,Gに殺意があったとするには疑問があると主張する。
しかし,被告人の供述によっても,GはDの爪や舌を見たというにとど
まり,健康状態の確認としてははなはだ不十分であって,治療行為などと
は到底いえない。むしろ,Gは,そうすることによってDの死亡時期を見
計らっていたということも十分考えられるのであるから,Dの爪や舌を見
たことがGの殺意を否定する事情とはいえない。
エ結論
以上によれば,G及び被告人いずれについてもDに対する殺意を認める
ことができる。
⑶共同正犯性について
GがDに対する監禁,虐待行為を行うことについて,被告人は,HでGと
共に生活する中で当然これを見聞きしていただけでなく,O家の他の者たち
と共に,Gに同調する行動や態度をとっていたのであるから,Gらと意思を
通じ合わせていたことは明らかであり,共謀は優に認められる。
その上で,被告人は,D監視用のカメラやモニターの設置作業の一部を行
った上,そのモニターでDを監視して,その様子をGに報告していたほか,
Dが入れられていた樹脂製物置に食事を運ぶ際,その扉を開閉後,外側のフ
ックによる施錠を行っていた。被告人は,HにおいてGの意向に従って行動
するO家の一員として生活していたこと自体でDの監禁に関わっていただけ
でなく,上記のとおり,Dを脱出困難にするための行為も自ら行っていた。
したがって,被告人が監禁の実行行為の一部を行ったことは明らかである。
そして,本件において監禁は,Dに対する殺人行為の基本的な要素である
ことや,前記のとおり平成20年11月中旬以降も同人に対する監禁,虐待
行為に関わり続けたことに照らすと,被告人は,殺人の実行行為の一部を分
担していたものと認められる。
以上によれば,被告人は,Gらと共謀の上,監禁及び殺人の実行行為の一
部を分担しており,弁護人が主張するようにGの犯行を手伝ったにすぎない
などとはいえず,これらを自分たちの犯罪行為として行ったものと認められ
る。
よって,被告人の関与は監禁及び殺人の共同正犯に当たる。
第5Nに対する監禁(判示第3の2)について
Gが判示のとおりNを監禁したことは争いがなく,証拠上も認めることがで
きる。
争点は,被告人の関与が共同正犯に当たるか否かであり,弁護人は幇助犯に
とどまると主張する。
しかしながら,Nを監禁することについて,被告人はGに同調する態度をと
っていたのであるから,同人と意思を通じ合わせていたことは明らかであり,
共謀は優に認められる。また,被告人は,Nとの関係でも,HにおいてO家の
一員として生活していたこと自体でその監禁に関わっていただけでなく,Nが
Dと同時に樹脂製物置に入れられていたことから,前記モニター監視等をして,
Nの脱出を著しく困難にするための行為を行っていたといえる。
よって,被告人の関与は共同正犯に当たる。
(なお,R,E,I,K及びLについては,平成20年11月9日未明頃より前
にNの監禁に加担した事実は証拠上認め難い。)
第6Pに対する逮捕監禁,殺人(判示第4)について
1争点
Gらが,判示のとおり,平成23年7月25日未明頃から同月27日の日中
までの間,PをHのベランダに設置されたラティス製物置に閉じ込め,その両
腕・両脚を緊縛するなどして身動きできないようにした上,同人に対し,飲食
を与えず,暴行を加えたことにより,高カリウム血症に基づく心停止又は肺塞
栓症に基づく循環不全により同人を死亡させたことは争いがなく,証拠上も認
めることができる。
争点は,⑴Gらが2日半の間にPに対して行った行為は殺人の実行行為に当
たるか否か,⑵G及び被告人に殺意があったか否か,⑶被告人の関与は逮捕監
禁,殺人の共同正犯に当たるか否かである。
弁護人は,これらをいずれも否定し,被告人の行為は,逮捕監禁罪,逮捕監
禁致死罪又は傷害致死罪の各幇助犯にとどまると主張する。
2当裁判所の判断
⑴殺人の実行行為性について
Pに対する一連の逮捕監禁,虐待行為は,O家で預かっていた少女(AT
家の娘)の胸をPが触ったことに対する制裁のため,Hのベランダにあった
ラティス製物置に閉じ込め,PPロープ等で緊縛し,正座姿勢を強制的に保
持させておくという一貫した目的と態様で行われている。よって,これらは
全体を一体的なものとして捉えることができる。そして,これら一連の行為
がPの身体に高カリウム血症に基づく心停止又は肺塞栓症に基づく循環不全
を引き起こして同人を死亡させたのであるから,人を死亡させる現実的な危
険のある行為であることは明らかであり,殺人の実行行為に当たる。
弁護人は,当初の緊縛行為後に行われた縛り直しを含む種々の虐待行為は,
Pが緊縛されていたPPロープを何度か自分で緩めたことに対して,それぞ
れ制裁を加えたものであって,事前に予測できるものではなく,全体として
一体性はない旨主張する。しかし,PPロープでPを緊縛するに当たって,
同人が動いて緩みが生じ,縛り直したり,動きを封じるような措置を講じた
りすることは予測の範囲内であったというべきである。縛り直しの必要が生
じたからといって,当初のAT家の娘の胸を触ったことに対する制裁という
目的が失われる理由もない。弁護人の主張は採用できない。
⑵殺意について
アGの殺意
Pに対する逮捕監禁,虐待行為は,当初から高温多湿の物置に閉じ込め,
手足を拘束して飲食を途絶させるというものであり,それだけでもPの生
命に対する危険を有するものであることは常識的に明らかである。しかも,
逮捕監禁,虐待行為がわずか2日半のうちにエスカレートして一層過酷な
ものとなっていることからすると,Gは逮捕監禁の当初から,Pに対して
過酷な虐待行為を行うことを考えていた可能性が高い。
また,被告人の供述によると,O家で預かっていた少女の胸をPが触っ
たことを知った時のGの怒りは尋常ではなく,その直後に召集されたO家
の家族会議において,Pに対し「お前絶対許さんからな。」,「殺したる
から待っとれよ。」などと言い,また,最後の縛り直しの際には,被告人
に対して「こんな奴死んでもええから。」,「加減せんでええから。」と
言ったことが認められる。
これらの事実関係によれば,Gは,逮捕監禁の当初から,以後行う虐待
行為がPを死亡させる危険性の高いものであることを認識し,Pの死を容
認しつつ,一連の虐待行為を行ったものというべきであり,GにはPに対
する殺意があったものと認められる。
イ被告人について
被告人は,その供述によれば,PがAT家の長女の胸を触ったことをG
が知れば,以前にGらから虐待を受けて死亡したDよりも,もっと酷い虐
待がPに対して行われるであろうと思っていたこと,また,Pの行いを実
際に知った時のGの言動から,Gが本気でPを殺す気になっていると思っ
ていたが,PのしたことやGの怒りの強さからすれば,それもやむを得な
いことと考えていたこと,その上で,自らPに対する動静監視や緊縛行為
の一部を行ったことが認められる。
以上によれば,被告人が,Pに対する逮捕監禁の当初から,Pが受ける
ことになる虐待行為が同人を死亡させる危険性の高いものであることを認
識し,その結果,Pが死亡することも受け入れていたものと認められ,被
告人にも殺意があったものと認められる。
⑶共同正犯性について
被告人は,前記のとおり,O家の家族会議の場で,GがPに対する怒りを
あらわにし,同人の殺害をも辞さないような言動をするのを聞いて,そのG
に共感している。その上で,被告人は,Pに対する逮捕監禁の当初からその
状況を認識し,さらに,Pが死亡する危険性の高い虐待行為を受けるであろ
うことをも認識しつつ,自らPの動静監視や緊縛行為の一部を行っている。
よって,被告人は,Gと互いに意思を通じ合わせた上,Pに対する逮捕監
禁,殺人の実行行為の一部を行っており,これらの犯行を自分たちの犯罪と
して行ったものと認められるのであって,被告人の関与は各罪の共同正犯に
当たる。
第7死体遺棄(判示第5)について
1争点
Pの死体が,Gらによって判示第5の1及び2のとおり遺棄されたこと,同
2においては被告人も死体の移動に直接関わったことは争いがなく,証拠上も
認めることができる。
争点は,判示第5の1の死体遺棄行為についても被告人が共同正犯の罪責を
負うか否かであり,弁護人は,同死体遺棄行為における被告人の関与は,補助
的かつ限定的なものであり,幇助犯にとどまると主張する。
2当裁判所の判断
被告人は,判示第5の1の死体遺棄行為そのものは行っていない。しかしな
がら,被告人を含むO家の者たちは,Pが死亡したことを知った平成23年7
月27日の時点で,かつてHで亡くなった者たちと同様に,Pの死体をどこか
に隠す必要があるとの認識を共有していたものと考えられる。また,被告人は,
前記のとおりPの緊縛行為の一部を行うなどしてPの殺害に加担しており,P
の死体を処分することに対して直接的な利害関係を有する。そして,被告人は,
同日夜,RらがPの死体をHから運び出す際,Rから,子供たちを子供部屋か
らリビングに連れて行くように言われたため,RらがPの死体を外に運び出す
ために子供部屋を通ろうとしているものと考え,それに支障がないように子供
たちを移動させている。これらの事実関係に照らすと,被告人の共謀は明らか
である上,Pの死体を子供たちの目に触れさせることで,P殺害が世間に発覚
する端緒にもなりかねないことからすると,被告人の上記行為は,P殺害の犯
跡隠蔽という死体遺棄の目的を達する上では重要な行為といえる。
よって,被告人は,判示第5の1の死体遺棄行為についても,自分たちの犯
罪として行ったものと認められるのであって,共同正犯の罪責を負うというべ
きである。
なお,判示第5の1及び2の死体遺棄は,いずれもPの殺害を隠蔽する目的
で,Gの明示又は黙示の指示によりO家の者たちが同じPの死体に対して行っ
たものであり,やや日時が離れているものの,包括一罪の関係にあるものと解
される。
(確定裁判)
裁判日平成25年3月25日
裁判所神戸地方裁判所尼崎支部
罪名窃盗罪
刑名刑期懲役2年
確定日平成25年4月9日
証拠検察事務官作成の統合捜査報告書(乙70)
(法令の適用)
1罰条
⑴判示第1の1の行為
刑法60条,199条
⑵判示第1の2(包括して)及び第1の3の各行為
いずれも刑法60条,246条1項
⑶判示第2の行為
刑法60条,225条
⑷判示第3の1の行為のうち
監禁の点刑法60条,220条
殺人の点刑法60条,199条
⑸判示第3の2の行為
刑法60条,220条
⑹判示第4の行為のうち
逮捕監禁の点刑法60条,220条
殺人の点刑法60条,199条
⑺判示第5の行為
包括して刑法60条,190条
2科刑上一罪の処理
⑴判示第3の1の監禁罪と殺人罪,判示第3の1のDに対する監禁罪と判示第
3の2のNに対する監禁罪について
それぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合
刑法54条1項前段,10条
結局以上を1罪として最も重い判示第3の1の殺人罪の刑で処断
⑵判示第4の逮捕監禁罪と殺人罪について
1個の行為が2個の罪名に触れる場合
刑法54条1項前段,10条
1罪として重い殺人罪の刑で処断
3刑種の選択
判示第1の1,第3の1及び第4の各罪について
いずれも有期懲役刑を選択
4併合罪の処理
⑴判示各罪について
いずれも前記確定裁判があった窃盗罪と刑法45条後段の併合罪
同法50条
⑵刑法45条前段,47条本文,10条
刑及び犯情の最も重い判示第1の1の罪の刑に法定の加重
5未決勾留日数の算入
刑法21条
6訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件各犯行のうち主要なものは,判示第1の1のMに対する殺人,判示第3の
1のDに対する監禁,殺人及び判示第4のPに対する逮捕監禁,殺人である。
よって,本件の量刑判断は,殺人罪3件を含む事案であることを基礎とすべき
である。
2判示第1の1のMに対する殺人は,保険金取得を目的としており,金銭のため
に他人の生命を奪うという社会的には最も許しがたい殺人行為の類型の一つに属
する。加えて,Gらは,Mの従順さにつけ込んで,O家のために犠牲になること
を執ように迫り,それに従わないと見るや,正座強制,飲食制限,暴行等の虐待
行為をし,Mを断崖から飛び降りる以外の選択ができない心理状態に追い詰めて
おり,その生命を奪うに当たって多大な苦しみを与えている。この点においても
Mに対する殺人は違法性が高い。
もっとも,Mを前記の心理状態に追い詰める上で最も重要な要因となったのは,
GやRによる働きかけや虐待である。被告人も,家族会議でGに同調的な言動を
する,Mを無視する,沖縄へ同行する,Mが飛び降りる際に写真撮影を装う,な
どの行為をしているものの,これらの行為が結果発生に与えた影響は,GやRの
行為と比べると明らかに小さく,両名を除く共犯者らとおおむね同程度のものと
評価できる。
3判示第3の1のDに対する監禁,殺人は,Dを約5か月もの長期間にわたって
劣悪な衛生環境で監禁した上,食事,睡眠等を制限し,暴行を加えるなど,Dの
人格を踏みにじり,肉体的・精神的に多大な苦しみを与えていることからすると,
制裁に名を借り,虐待自体を目的とした陰湿な犯行と見られることから,その違
法性は極めて高い。
そして,被告人は,モニターの設置作業の一部を行ったり,そのモニターを通
じてDを監視したり,Gに居眠りを報告して暴行のきっかけを作ったり,自らも
暴行を加えたり,食事制限に関与したりしており,その役割は,G及びRを除く
共犯者と比較すると大きいと評価できる。もっとも,Dに与える食事の内容や頻
度はすべてGが決めていたこと,被告人が自ら暴行を加えたのは平成20年11
月よりも前であったことなどを考慮すると,被告人の行為がDの死亡という結果
の発生に与えた影響は,Gと比較すると明らかに小さく,Rほど大きくはない。
4判示第4のPに対する逮捕監禁,殺人は,2日以上にわたり,高温多湿の物置
内に閉じ込めて飲食をさせなかった上,丸太への縛り付けなど強度の緊縛を伴う
虐待を継続的に行っている点で,残酷な犯行である。Pが破廉恥な行為をしたこ
とに対する制裁として行われた点は,そのような私的制裁は社会的には許されず,
殺人行為としての違法評価を下げる事情ではない。
被告人は,Pの縛り直しの際に緊縛行為の一部を行ったり,物置でPが出した
物音をRに報告したりしており,J,I及びKよりは,Pの死亡という結果の発
生に影響を与えたといえる。他方,犯行全般を指示し,自らPに対する暴行を行
ったGや,Pに対する緊縛や暴行を繰り返したR及びEよりは,被告人の行為が
結果の発生に与えた影響は明らかに限定的である。
5次に,被告人がGから受けた影響について検討する。
Gは,被告人が17歳の時にその自宅に乗り込み,Rの扱いに関し因縁を付け
て被告人の両親を責めた上,高圧的で相手に有無を言わせない語り口によって両
親やその親族をも屈服させた。さらに,Gは,親族同士で互いに暴力を振るわせ
るなどして被告人を取り巻く家族関係や親族関係を崩壊させたほか,被告人の目
の前で被告人の母Bを虐待することにより,被告人がBに対して幻滅し,自分に
従うように仕向けた。そして,Bらが行方をくらますと,被告人は,O家の一員
となるべくHに住むことになり,Gの支配する閉鎖的な集団の中で生活するよう
になった。被告人は,Gの下で日常的に暴力等の虐待行為を目にしたり,それに
よって人が死亡する場面に接するうち,次第に,親しい者同士の暴力を肯定する
G独自の価値観を受け入れ,虐待行為や人の死に大きな抵抗感を抱かないという
異常な価値判断や感覚を否応なしに身に付けていったものと考えられる。被告人
が本件各犯行に加担した背景には,このような被告人において容易に抗えないG
の強い影響が存在したことは否定できず,この点は,被告人に対する非難を減ず
る事情というべきである。もっとも,上記のようなGの影響は,事件や時期によ
って濃淡があり,特に,Dに対する犯行については,被告人が自分の判断でGに
追従した面も小さくないから,非難を減ずるにも限度がある。
6以上を踏まえ,被告人の行為責任に見合う刑について検討する。
前記のとおり,本件が殺人罪3件を含む事案であることに加え,それらの目的
や態様をも考慮すると,本件各犯行に対して全面的に責任を負うべき者に対して
は極刑も十分考えられる。
しかし,被告人については,各殺人の犯行における関与の程度を総合すると,
その負うべき責任の重さは,GやRと比較して明らかに小さい上,加担の背景に
前記のとおりGの影響があったことも否定できない。そうすると,それ以外の保
険金詐欺(判示第1の2及び3),Bに対する身体加害目的略取(判示第2),
Nに対する監禁(判示第3の2)及び死体遺棄(判示第5)の各犯行にも加担し
ていることを併せても,被告人の行為責任に見合う刑は,懲役25年程度からや
やそれを下回るあたりに位置づけるのが相当である。
7それ以外の事情としては,M及びPの遺族が厳しい処罰感情を示しており,こ
れを軽視することはできない。他方で,被告人は,自分の公判において不利なこ
とを含めて素直に供述しているだけでなく,一連の捜査や共犯者の公判において
も事実関係を詳細に供述し,事件の真相解明に貢献している。また,被告人は,
子供らの存在を支えに更生への意欲を示し,これまでの価値判断や感覚の異常性
を自覚して,今後反省を深めようとしている。さらに,被告人について前記確定
裁判が存在する。これらは被告人に有利に斟酌すべき事情である。
8そこで以上の諸事情を考慮し,主文のとおり量刑した。
(検察官求刑懲役30年)
平成28年2月12日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官佐茂剛
裁判官空閑直樹
裁判官若林貴子

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