弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成12年(行ケ)第308号 審決取消請求事件(平成14年3月18日口頭弁
論終結)
          判           決
       原      告   上野衣料株式会社
       訴訟代理人弁護士   田 倉   整
       同          伊 藤 昌 毅
       同    弁理士   田 村 公 總
       同          山 内 淳 三
       被      告   特許庁長官 及 川 耕 造
       指定代理人      中 島 容 伸
       同          宮 川 久 成
       被告補助参加人    ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテ
ッド パートナーシップ
       訴訟代理人弁護士   松 尾   眞
       同          兼 松 由理子
       同          上 村 真一郎
       同          岩 波   修
       同          西 山 哲 宏
       同    弁理士   曾 我 道 照
       同          黒 岩 徹 夫
       同          岡 田   稔
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成11年審判第17263号事件について平成12年7月3日に
した審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、平成5年6月18日、別添審決謄本別掲のとおり、「PoloClub」の
欧文字を手書き風に書してなり、指定商品を商標法施行令別表の区分による第25
類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳
帽、和服、エプロン、えり巻き、靴下、ゲートル、毛皮製ストール、ショール、ス
カーフ、足袋、足袋カバー、手袋、布製幼児用おしめ、ネクタイ、ネッカチーフ、
マフラー、耳覆い、ずきん、すげがさ、ナイトキャップ、ヘルメット、帽子、ガー
ター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、靴類(『靴合わせくぎ、靴くぎ、
靴の引き手、靴びょう、靴保護金具』を除く。)、げた、草履類、運動用特殊衣
類、運動用特殊靴(『乗馬靴』を除く。)、乗馬靴」(ただし、平成12年4月1
8日付け補正書をもって、「ガーター」以下は削除)とする商標(以下「本願商
標」という。)につき、商標登録出願(商願平5-60987号)をしたが、平成
11年9月24日に拒絶査定を受けたので、同年10月22日、これに対する不服
の審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成11年審判第17263号事件として審理した上、
平成12年7月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その
謄本は、同月21日、原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、「Polo」の文字とともに「by
RALPHLAUREN」の文字及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形の各商標(以下
「引用商標」という。)は、ラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示するも
のとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたところ、本願商標をその指定
商品について使用する場合に、これに接する取引者、需要者は、本願商標中
の「Polo」の文字に注目して、引用商標を連想し、その商品がラルフ・ローレン又
は同人と組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのよう
にその出所について混同を生ずるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項
15号に該当し、商標登録を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は、ラルフ・ローレンに係る引用商標の著名性の認定を誤る(取消事由
1)とともに、本願商標をその指定商品に使用した場合の商品の出所混同のおそれ
についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消される
べきである。
 1 取消事由1(引用商標の著名性の認定の誤り)
 (1) 審決は、「我が国においては、本願商標の出願時には既にラルフ・ローレ
ンのデザインに係る商品を表示するものとして引用商標が取引者、需要者の間に広
く認識されていたものと認められ、その状態は現在においても継続しているという
のが相当である」(審決謄本3頁10行目~13行目)と認定するが、誤りであ
る。
 (2) まず、審決の上記認定の根拠とされている証拠のほとんどすべてが昭和5
0年代のものであり、その当時の事実を摘示することによって現在における引用商
標の周知性、著名性を認定するものであるから、客観的根拠を欠くというべきであ
る。
 (3) また、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉は、それ自体としては、以
下のとおり、一般的に用いられている用語にすぎず、商標としての出所識別力には
乏しいというべきである。
   ア 「POLO」の文字からなる商標は、指定商品を平成3年政令第299号に
よる改正前の商標法施行令別表の区分による第43類(以下「旧第43類」などと
表記する。)「砂糖、菓子、その他本類に属する商品」とする商標登録第5090
40号商標(昭和32年10月18日設定登録、現商標権者・ソシエテデプロデ
ュイネッスルエスアー)〔甲第1041号証の1、2〕、指定商品を旧第12類
「自動車、自動車の部品および附属品(自動車のタイヤ、チューブを除く)」とす
る商標登録第600030号の2商標(昭和37年10月29日設定登録、現商標
権者・フォルクスワーゲンアクチエンゲゼルシャフト)〔甲1040号証の1、
2〕のように、ラルフ・ローレンに係る「Polo」商標が我が国において使用される
ようになったという昭和52年以前から、様々な分野で商標登録がされ、現実に使
用されていた。
   イ 衣料品の分野において、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉は、
「ポロシャツ」を示す普通名称として広く使用されているものにすぎず、このこと
は、多くの衣料品のカタログ(甲第26号証等)の記載からも明らかである。
   ウ また、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉は、我が国でもよく知ら
れているポロ競技を示す一般的な用語にすぎない。
 (4) さらに、原告は、別紙「ポロクラブ関連商標」1~5記載の商標(以下
「ポロクラブ関連商標」といい、個別には、その番号に対応して「ポロクラブ関連
商標1」などと表記する。)の商標権を有しているところ、その登録出願当初から
当該商標を背広等に使用し今日に至っている。加えて、ポロ・ビーシーエス株式会
社は、「POLO」の文字からなり、指定商品を旧第17類「被服(運動用特殊被服を
除く)、布製身回品(他の類に属するものを除く)、寝具類(寝台を除く)」とす
る商標登録第2721189号商標(昭和56年4月6日登録出願、平成9年5月
2日設定登録)〔甲第1024、第1025号証〕を有し、13社に及ぶライセン
シーによる多種の商品が大量に販売されている。
    これに対し、引用商標は、「PolobyRALPHLAUREN」と図形との結合商標
であって、その略称としての「Polo」がラルフ・ローレンないし被告補助参加人
(以下単に「補助参加人」という。)に係る出所標識として著名になっているとは
いえない。
 2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)
 (1) 審決は、「引用商標が著名であることに照らせば、本願商標に接する需要
者、取引者は、その構成中の『Polo』の文字に注目し、引用商標を連想、想起する
というのが相当である。してみれば、本願商標をその指定商品に使用する場合に、
これに接する取引者、需要者は・・・ラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的
に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのようにその出所について混同
を生ずるおそれがあるものといわなければならない」(審決謄本3頁18行目~2
5行目)と判断するが、誤りである。
 (2) 以下に述べるとおり、ポロクラブ関連商標に係る「PoloClub」、「ポロク
ラブ」は、我が国の代表的な著名ブランドと認識されており、その著名性はラル
フ・ローレンの引用商標をしのぐものである。
   ア ポロクラブ関連商標を付した商品の売上は、平成元年100億円、平成
2年150億円、平成3年220億円、平成4年280億円と推移し、その間の累
積売上高は750億円に達し、その売上規模は有力デザイナーズブランドと肩を並
べるものとされていた。さらに、原告は、その前後を通じて、「PoloClub」、「ポ
ロクラブ」について、テレビ、新聞、看板、イベント等各種の媒体を用いて宣伝を
行っており、その累計の広告宣伝費は18億円を超えており、現在、ポロクラブ関
連商標を付した商品の合計売上高は、年間300億円程度、累計の売上高は300
0億円を超える。
   イ このような宣伝広告及び販売実績を通じて、ポロクラブ関連商標に係
る「PoloClub」、「ポロクラブ」の知名率等は、各種の調査において極めて高い数
字が示されている。
     すなわち、平成6年11月1日ボイス情報株式会社発行の「’95ライ
センスブランド&キャラクター名鑑」(甲第802号証)では、「ポロクラブ」の
総合知名率ランキングを17位(78.6%)としており、平成8年6月24日同
社発行の「’96ブランド&キャラクター調査」(甲第863号証)では、「ポロ
クラブ」の売上高ランキングを23位(280億円)、総合知名率ランキングを1
6位(80.6%)としており、平成8年10月28日株式会社矢野経済研究所発
行の「1996年版ライセンスブランド全調査」(甲第862号証)では、「ポロ
クラブ」の売上高ランキングを19位(176.5億円)としており、平成10年
4月30日ボイス情報株式会社発行の「’98ブランド&キャラクター調査」(甲
第1022号証)では、「ポロクラブ」の知名率ランキングを10位(69.8
%)としている。
   ウ また、特許庁は、平成4~5年ころ、「RODEOPOLOCLUB/ロデオポロク
ラブ」等の商標登録出願に対して、ポロクラブ関連商標の周知性を根拠とする拒絶
査定を行っており、その理由として、「本願商標を構成する『POLOCLUB』の文字
は、東京都千代田区<以下略>に所在する『上野衣料株式会社』が商品『被服』に
使用してこの種業界で周知になっている商標と認められる」などと記載している
(甲第1033~第1036号証)。
   エ 以上の事実関係からして、ポロクラブ関連商標に係る「PoloClub」、
「ポロクラブ」は、遅くとも平成4年ないし平成5年3月ころまでには著名性を確
立し、その著名性が現在に至るまで継続していることは明らかである。
 (3) 本願商標「PoloClub」は、書体上の相違があるほか、ポロクラブ関連商
標に係る「PoloClub」と社会通念上同一性のある構成であり、指定商品もポロクラ
ブ関連商標と大部分を共通にするものであるから、本願商標に接した取引者、需要
者は、上記のとおり著名なポロクラブ関連商標に係る「PoloClub」を直ちに想起す
るのが自然である。著名な「PoloClub」の存在にもかかわらず、審決の判断するよ
うに、取引者、需要者が本願商標中の「Polo」の部分のみに着目してラルフ・ロー
レンに係る引用商標を想起するなどということはあり得ない。このことは、著名商
標が併存する場合に相互に商品の出所混同のおそれが生じないとする東京高裁平成
3年10月24日判決(判例時報1428号131頁)及びこれを維持した最高裁
平成4年7月17日第二小法廷判決にも示されているとおりである。
 (4) さらに、ポロクラブ関連商標1は昭和46年に登録出願され、昭和49年
に設定登録されているところ、これは、ラルフ・ローレンに係る引用商標が我が国
で使用されるようになったという昭和52年ころに先行する。このような先行商標
と同一又は類似する商標と、これに後れて使用されるようになった商標との関係で
の商標法4条1項15号の適用に際しては、商標法の先願主義との整合性から、先
行する商標の優位性が認められてしかるべきであり、具体的には、同号該当性の判
断においては、後れて使用されるようになった商標の著名性を厳格に認定し、混同
可能性についても狭義の混同可能性に限定するなど、厳格な解釈が行われるべきで
ある。
    なお、ポロ・ビーシーエス株式会社が、「POLO」の文字からなり、指定商
品を被服等とする商標登録第2721189号商標を有していることは前述のとお
りであるところ、補助参加人は、ポロ・ビーシーエス株式会社の前主である公冠販
売株式会社から同商標の使用許諾を受けている。これは、補助参加人が、「POLO」
の商標が補助参加人に帰属するものでないことを自認していたことを示すものであ
る。
第4 被告及び補助参加人の反論
   審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(引用商標の著名性の認定の誤り)について
 (1) アメリカ合衆国在住のデザイナーであるラルフ・ローレンは、1967年
(昭和42年)に幅広ネクタイをデザインして注目され、1970年(昭和45
年)と1973年(昭和48年)には服飾業界で最も名誉とされる「コティ賞」を受
賞し、さらに1974年(昭和49年)、映画「華麗なるギャッツビー」の主演俳優
ロバート・レッドフォードの衣装デザインを担当したことから同国を代表するデザ
イナーとしての地位を確立した。このころから、ラルフ・ローレンの名前は我が国
の服飾業界においても広く知られるようになり、そのデザインに係る一群の商品に
は、引用商標が使用され、これらは「ポロ」、「Polo」又は「POLO」の略称で呼ばれ
るようになった。
    すなわち、引用商標は、我が国において、遅くとも、本願商標の登録出願
(平成5年6月18日)前までには、ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等を
表示するものとして、「ポロ」、「Polo」又は「POLO」の略称で、取引者、需要者の
間に広く認識されるに至り、その認識の度合いは現在においても継続しているもの
であり、これと同旨をいう審決の認定に誤りはない。
 (2) 原告は、「POLO」の文字からなる商標は、様々な分野で商標登録がされ、
現実に使用されていた旨主張するが、それらの商標がファッション関連商品におい
て周知又は著名となっている事実はない。また、原告は、「Polo」、「POLO」又は
「ポロ」の言葉は、衣料品の分野においては「ポロシャツ」を示す普通名称であ
り、一般的にも我が国でもよく知られているポロ競技を示す用語である旨主張する
が、本願商標の指定商品中、ポロシャツ以外のものについて
は、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」がポロシャツを認識させることはあり得ない
し、また、ポロ競技は我が国では愛好者の極めて少ないなじみの薄いスポーツにす
ぎず、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」がポロ競技を示す一般的な用語であるとは
いえない。
 2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)について
 (1) 引用商標がラルフ・ローレンのデザインに係る被服等を表示するものとし
て、「ポロ」、「Polo」又は「POLO」の略称で、取引者、需要者の間に広く認識され
るに至っていたことは上記のとおりであり、「Polo」の文字が含まれる本願商標を
その指定商品に使用するときは、これに接した取引者、需要者が「Polo」の文字部
分に着目し、引用商標を連想、想起し、商品の出所を混同するおそれが生ずること
は明らかである。
    現に、株式会社博報堂による平成11年5月の「『ポロ』ブランド調査」
(乙第21号証)によれば、引用商標とは無関係の「Polo」の文字を含む商標を、
多くの者が、引用商標との兄弟ブランド、ファミリーブランドであると誤認してい
る結果が示されているほか、本件と同様に「Polo」の文字を含む様々な商標に関し
て、引用商標の著名性を認定した上で、商品の出所混同のおそれを肯定する裁判例
が多数に上っている。
 (2) 原告は、ポロクラブ関連商標に係る「PoloClub」の著名性について主張す
るが、以下に述べるとおり、本願商標についての商品の出所混同のおそれを否定す
る根拠となるものではない。
   ア 本件全証拠によっても、「PoloClub」の著名性の立証があるとはいえな
い。すなわち、原告がその著名性を立証するために提出した証拠の大部分
は、「POLOCLUB」又は「PoloClub」の文字とポロプレーヤー図形との結合商標であ
るポロクラブ関連商標4及び5、特に同5を使用したものである。そして、この商
標中のポロプレーヤー図形は、ラルフ・ローレンに係るものとして著名な引用商標
中のポロプレーヤー図形と構成の軌を一にするものである上、ポロクラブ関連商標
5が使用されるようになったのは、引用商標がラルフ・ローレンに係るものとして
著名性を有するに至った以後のことであるから、その使用は、ポロクラブ関連商標
がラルフ・ローレンと何らかの関連性があるとの印象を強めることはあっても、原
告独自の商標としての著名性を基礎付けるものとはいえない。
     なお、本件補助参加人を原告、本件原告を被告とし、ポロクラブ関連商
標1~4につき商標法53条1項に基づく商標登録取消しの成否が争われた4件の
審決取消請求事件(当庁平成10年(行ケ)第108号、第111~第113号)
において、東京高裁平成11年12月21日判決は、ポロクラブ関連商標1~4と
類似する同5の使用は、著名なラルフ・ローレンに係るポロプレーヤー図形の商標
を連想させ、商品の出所について混同を生じさせるものであるとの判断を示し、こ
れらの判決は、いずれも平成13年11月13日上告不受理決定により確定した。
   イ 原告は、ポロクラブ関連商標に係る「PoloClub」、「ポロクラブ」の知
名率等をその著名性の根拠として主張するが、「PoloClub」、「ポロクラブ」が、
取引者、需要者において、引用商標とは全く関係がないブランドとして認識されて
いるという独自の著名性を立証しない限り、審決の判断の誤りを導くことはできな
いというべきところ、原告の上記主張に係る立証は、「PoloClub」、「ポロクラ
ブ」と引用商標とが全く関係のない、すなわち出所混同を生ずるおそれのないブラ
ンドとして知られていたことまでを示すものとはいえない。
   ウ 原告は、著名商標の併存の場合には商品の出所混同のおそれは生じない
旨主張するが、著名商標が併存する場合であっても、両商標間で、一方の著名性が
他方を上回っているときや、その著名性の確立時期が前後するときには、両者の間
で商品の出所混同のおそれは生じ得るというべきである。そうすると、仮に、ポロ
クラブ関連商標の著名性が認められるとしても、本件は、まさに上記のような出所
混同のおそれの生ずる場合に該当する事例である。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(引用商標の著名性の認定の誤り)について
 (1) 昭和53年7月20日株式会社講談社発行の「男の一流品大図鑑」(乙第2
2号証)には、引用商標を掲げた「ラルフローレン」ブランドの紹介として、「一
九七四年の映画『華麗なるギャツビー』・・・で主演したロバート・レッドフォー
ドの衣装デザインを担当したのが、ポロ社の創業者であり、アメリカのファッショ
ンデザイン界の旗手ラルフ・ローレンである」、「三〇歳になるかならぬかで一流
デザイナーの仲間いりをはたし、わずか一〇年で、ポロ・ブランドを、しかもファ
ッションデザイン後進国アメリカのブランドを、世界に通用させた」との記載が、
昭和58年9月28日サンケイマーケティング発行の「舶来ブランド事典『’84
ザ・ブランド』」(乙第1号証)には、引用商標を掲げた「ポロ」ブランドの紹介と
して、「今や名実ともにニューヨークのトップデザイナーの代表格として君臨する
ラルフ・ローレンの商標。ニュートラディショナル・デザイナーの第一人者として
高い評価を受け、世界中にファンが多い」、「マークの由来 ヨーロッパ上流階級
のスポーツのポロ競技をデザイン化して使っている。彼のファッションイメージと
ぴったり一致するため彼のトレードマークとして使用しているもの」との記載が、
昭和55年4月15日株式会社洋品界発行の「月刊『アパレルファッション店』別冊
1980年版『海外ファッション・ブランド総覧』」(乙第2号証)には、「ポロ・
バイ・ラルフローレン」について、「若々しさと格調が微妙な調和を見せるメン
ズ・ウェア『ポロ』ブランドの創立者。栄誉あるファッション賞“コティ賞”をは
じめ彼の得た賞は数知れず、その実力をレディス・ウェアにも発揮。新しい伝統を
テーマに一貫しておとなの感覚が目立つ。アメリカ・ファッション界の颯爽とした
担い手」との紹介のほか、「〈販路〉西武百貨店、全国展開〈導入企業〉西武百貨
店〈発売開始〉五十一年(注、紳士靴につき「五十二年」)」等の記載があること
が認められる。
    そして、これと同趣旨の記載は、昭和54年から昭和60年までの間に発
行された雑誌である、①昭和54年5月20日株式会社講談社発行の「世界の一流品
大図鑑’79年版」(乙第7号証)、②昭和55年11月15日株式会社講談社第2
刷発行の「世界の一流品大図鑑’80年版」(乙第8号証)、③昭和55年12月婦
人画報社発行の「MENS’CLUB1980年12月号」(乙第9号証)、④昭和
57年1月10日株式会社アパレルファッション発行の「月刊アパレルファッション
2月号別冊海外ファッション・ブランド総覧」(乙第3号証)、⑤昭和59年9月2
5日ボイス情報株式会社発行の「ライセンス・ビジネスの多角的戦略’85」(乙第
4号証)及び⑥昭和60年5月25日株式会社講談社発行の「流行ブランド図鑑」
(乙第10号証)等にも認められるところである。
    なお、これらに掲げられている引用商標は、いくつかのバリエーションが
あるが、おおむね別紙「引用商標」に掲記の構成態様のものである。
 (2) また、平成6年11月1日ボイス情報株式会社発行の「’95ライセンスブ
ランド&キャラクター名鑑」(甲第5号証)によれば、「ポロ・ラルフローレン」の需
要者における総合知名度が、昭和61年54.2%、昭和63年63.6%、平成
2年67.8%、平成3年79.8%、平成6年81.8%(ランキング13位)
と、平成6年の総合所有率が47.2%(ランキング2位)とされていることが、
平成8年6月24日同社発行の「ライセンスブランド&キャラクター名鑑別冊’96
ブランド&キャラクター調査」(甲第6号証)によれば、平成8年においても、「ポ
ロ・ラルフローレン」の需要者における総合知名度は81.6%(ランキング15
位)、総合所有率62.2%(ランキング1位)とされていることが認められる。
 (3) さらに、引用商標を模倣したいわゆる偽物ブランド商品に関して、平成元
年5月19日付け朝日新聞夕刊(乙第26号証)には、「昨年二月ごろから、米国の
『ザ・ローレン・カンパニー』社の・・・『Polo』の商標と、乗馬の人がポロ競技
をしているマークをつけたポロシャツ・・・を売っていた疑い」との記事が、平成4
年9月23日付け読売新聞東京版朝刊(乙第13号証)には、「今年は五月に、アメ
リカの人気ブランド『ポロ』(本社・ニューヨーク)のロゴ『ポロ・バイ・ラル
フ・ローレン』に酷似したマークのTシャツを販売していた大阪の業者が・・・」と
の記事が、平成5年10月13日付け読売新聞大阪版朝刊(乙第14号証)には、
「ポロ球技のマークで知られる米国のファッションブランド『POLO(ポロ)』の製品
に見せかけた眼鏡枠を販売・・・」との記事が、平成11年6月8日付け朝日新聞夕
刊(乙第15号証)には、「米国ブランド『ポロ』などのマークが入った偽物セータ
ーやポロシャツ約三万六千枚を販売目的で所持し、商標権を侵害した」との記事が掲
載されていることが認められる。
 (4) 以上の認定事実を総合すれば、引用商標は、アメリカのファッションデザ
イナーとして世界的に著名なラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連
商品に付されるものとして、我が国においては、昭和51~52年ころから使用さ
れるようになったこと、そのブランドは、我が国の取引者、需要者の間で、「Polo
byRALPHLAUREN(ポロ・バイ・ラルフローレン)」、あるいは単に「Polo(ポ
ロ)」の略称で、ポロプレーヤー図形とともに、広く知られるようになり、遅くと
も昭和50年代後半までには、強い自他商品識別力及び顧客吸引力を発揮する著名
な商標となり、その著名性は、本願商標の商標登録出願時(平成5年6月18日)
以後、審決時(平成12年7月3日)を経て、その後に至るまで継続していたこと
が認められる。
 (5) 原告は、引用商標の著名性を否定する根拠として、「POLO」の文字からな
る商標が、様々な分野で商標登録がされ、現実に使用されていたこ
と、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉は、衣料品の分野においてはポロシャ
ツを示す普通名称として、また、一般的にもポロ競技を示す用語として用いられて
いることを主張する。確かに、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉が、スポー
ツ競技の一つであるポロ競技を示す普通名詞であることは、当裁判所に顕著であ
り、引用商標中に用いられている「Polo」の文字も、ポロ競技に由来するものであ
ることは、文字部分とともに使用されているポロプレーヤー図形や前掲乙第1号証
の記載から明らかであるから、このような本来的に普通名詞に由来する「Polo」の
文字の性格からして、その有する商品の出所表示機能がある程度減殺されているこ
とは否めない。しかし、このことを考慮に入れても、上記(1)~(3)の認定事実から
すれば、なお引用商標が単に「Polo(ポロ)」とも略称されるものとして、取引
者、需要者の間で広く認識されていたことを優に認定することができるというべき
であるし、さらに、引用商標中に用いられているポロプレーヤー図形が、それ自体
としても、ラルフ・ローレンに係る出所識別標識として取引者、需要者に広く認識
されていたことも明らかである。そうすると、引用商標については、「Polo(ポ
ロ)」の略称及びポロプレーヤー図形をそれぞれ単独に見ても、著名性を認められ
るばかりでなく、「Polo」の文字部分とポロプレーヤーの図形部分とが結合するこ
とによって、更に強い自他商品識別力と顧客吸引力を発揮する著名性を有するもの
と認めることができる。
    また、原告は、原告がポロクラブ関連商標を有し、使用していること及び
ポロ・ビーシーエス株式会社が被服等を指定商品とする「POLO」の登録商標を有
し、その商品が販売されていることを主張するが、まず、ポロクラブ関連商標の存
在及びその使用が、引用商標の著名性の成立及び継続を何ら阻害するものでないこ
とは、下記2の認定判断から明らかであるし、ポロ・ビーシーエス株式会社
の「POLO」商標については、甲第29、第30号証の各1~3、甲第31号証、検
甲第1号証の1~3等によっても、引用商標の著名性の成立及び継続を阻害するよ
うな周知、著名性を有するものであることを認めるに足りない。
 (6) 以上によれば、引用商標の著名性を認めた審決の認定に誤りはなく、原告
の取消事由1の主張は理由がない。
 2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)について
 (1) 原告は、本願商標に係る商品の出所混同のおそれを否定する根拠として、
ポロクラブ関連商標に係る「PoloClub」、「ポロクラブ」の著名性を主張するとこ
ろ、この点に関して、以下の事実が認められる。
   ア 平成5年4月株式会社矢野経済研究所発行の「マンスリーブランド マ
ーケット レポート1993年5月号」(甲第641号証)には、連載企画「有力
ブランド分析」の「ポロクラブ(PoloClub)」の紹介として、「ポロクラブは19
71年に上野衣料でスタートを切った同社のオリジナルブランドであるが・・・1
989年2月には、(株)ポロクラブジャパンが設立され、上野衣料より専用使用
権を引き、ライセンス展開も活発化し始めたのである。現在は、ライセンシーも1
3社で構成され、小売ベースで280億円の販売高を誇っている。ポロクラブは、
アメリカントラッドを一貫して追求した商品と言え、価格もミディアムベターの設
定となっている。・・・『ポロクラブ』と言う言葉の響きにトラディショナルな感
覚をストレートに消費者に訴えられることができたことが、同ブランドの成功の要
因と言えるのではないだろうか」、「ポロクラブは、広告活動を活発に行っている
のも大きな特徴である。ブランド広告と商品広告の大きく2つの広告をそれぞれの
媒体の中で上手く使い分けているのである。年間を通じて広告を出しているもの
は、新聞では、日経流通新聞、繊研新聞、メンズデイリーで、単発で日本経済新聞
といった状況である。雑誌は、メンズクラブ、ファインボーイ、ナンバー、レイ、
GQに年間を通じて広告を出している」、「市場の低迷にもかかわらず、現在も順
調に伸びているブランドと言える。小売ベースで280億円という売上規模は、ラ
イセンスブランドの中にあっても、有力デザイナーズブランドと肩を並べる規模で
ある」との記載のほか、「『ポロ・クラブ』ブランドの年商推移(小売ベース)」
として、平成元年100億円、平成2年150億円、平成3年220億円、平成4
年280億円との数字を示すグラフが、「店舗展開状況」(平成5年3月現在)と
して、「〈百貨店〉伊勢丹、丸井、他〈専門店〉三峰、銀座山形屋、ダイム、他
〈量販店〉ニチイ、ダイエー、忠実屋、イトーヨーカ堂、東武ストア、西友、他」
との表が掲載されていることが認められる。また、平成3年9月6日日之出出版株
式会社発行の「グラン・マガザン」(甲第566号証)には、「イギリスの伝統的
なスポーツ“ポロ”をイメージしたワンポイントマークが象徴的な『ポロクラ
ブ』。トラディショナルファッションの中ではメンズを中心に人気の高いブランド
ですね。この『ポロクラブ』にこの秋、レディスが誕生します」と記載されている
こと、平成5年3月日本経済新聞社発行の「’92ファッション・ブランドアンケ
ート」(甲第2号証の1)には、平成4年8月に日本経済新聞に掲載したアンケー
ト企画に応募のあった葉書を集計した結果、メンズカジュアル部門で、「『Polo
Club』が知名率(69.3%)、一流評価率(20.7%)、所有率(29.2
%)、購買意向率(11.4%)全てにおいてトップ」とされて、日経流通新聞及
び日経金融新聞の同様のアンケート結果並びに翌年及び翌々年の同様のアンケート
結果(甲第2号証の2、3、甲第3、第4号証の各1~3)においてもおおむねこ
れと同様の結果が示されていること、平成10年ボイス情報株式会社発行の「ライセ
ンスブランド&キャラクター名鑑別冊’98ブランド&キャラクター調査」(甲第7
号証、なお、甲第5、第6、第802、第863、第1022号証も同旨)には、
「ポロ・クラブ」の総合知名率が、平成6年78.6%(「ポロ・バイ・ラルフ・
ローレン」81.8%)、平成8年80.6%(同81.6%)、平成10年6
9.8%(同56.7%)、「ポロ・クラブ」の総合所有率が、平成6年20.6
%(「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」47.2%)、平成8年31.4%(同6
2.2%)、平成10年25.7%(同31.4%)と推移していることが示され
ていること、平成10年AIPPI・JAPAN発行の「日本有名商標集」(甲第12号証)
には、ポロクラブ関連商標2、4及び5が掲載されていることが認められ、甲第5
3号証の写真及び弁論の全趣旨によれば、平成5年4月ころ、ポロクラブ関連商標
5を付したいわゆる偽物商品が販売されていた事実が確認されたことが認められ
る。
イ また、原告又はポロクラブ関連商標の専用使用権者である株式会社ポロ
クラブジャパンは、平成元年以降、審決当時に至るまで、ポロクラブ関連商標に係
るブランド及び同商標を付した商品の宣伝広告を活発に行っており、株式会社婦人
画報社発行の「メンズ・クラブ」(甲第36、第37、第516~第521、第5
53~第558、第613~第620、第692~第703、第768~第77
9、第833~第844、第901~第912、第982~第993、第1062
~第1064号証)及び「婦人画報」(甲第34、第35、第857~第860、
第924~第928、第1006~第1014、第1065~第1067号証)、
日之出出版株式会社発行の「ファインボーイズ」(甲第522~第524、第55
9~第561、第621~第629、第704~第713、第780~第788号
証)及び「グラン・マガザン」(甲第565~第568、第636~第640号
証)、株式会社主婦の友社発行の「レイ」(甲第562~第564、第630~第
635、第714~第720、第789~第795、第845~第850、第91
3~第917、第994~第999号証)及び「わたしの赤ちゃん」(甲第86
1、第929~第931、第1015~第1017号証)、株式会社文藝春秋発行
の「ナンバー」(甲第38~第40、第721~第724、第796~第801、
第851~第855、第918~第923、第1000~第1005、第1058
~第1061号証)、中央公論社発行の「ジーキュージャパン」(甲第725~第
729号証)、日本経済新聞社発行の日本経済新聞、日経流通新聞及び日経金融新
聞(甲第526~第530、第572~第583、第647~第656、第732
~第744、第803~第816、第865~第882、第933~第952、第
1047、第1048号証)、繊研新聞社発行の繊研新聞(甲第41~甲第43、
第531~第540、第584~第600、第658~第674、第746~第7
61、第817~第826、第884~第899、第969~第981、第105
0~第1057号証)、株式会社繊維経済新聞社発行の「メンズデイリー」(甲第
541~第552、第601~第612、第677~第691、第762~第76
7、第827~第832、第1049号証)、朝日新聞社発行の「アサヒイブニン
グニュース」(甲第953~第968号証)等に継続して広告を掲載するなどして
いるほか、甲第501~第511号証の証明書及び甲第512~第514号証の写
真によれば、その間、ポロクラブ関連商標に係るブランドについて、活発なテレビ
コマーシャル放送や駅ホーム等への広告看板の設置等を行っていたことが認められ
る。
 (2) 以上の認定事実だけを見る限り、ポロクラブ関連商標に係る「Polo
Club」、「ポロクラブ」の周知性又は著名性を認定できるかのごとくであるが、被
告及び補助参加人は、ポロクラブ関連商標に係る「PoloClub」、「ポロクラブ」
が、取引者、需要者において、引用商標とは全く関係がないブランドとして認識さ
れているという独自の著名性を有するとはいえない旨主張するので、以下、この観
点から更に検討する。
   ア まず、引用商標に係る「Polo」及びポロプレーヤー図形の著名性の獲得
時期との先後関係を見るに、上記(1)の認定事実によれば、ポロクラブ関連商標を付
した商品は、平成元年に株式会社ポロクラブジャパン等を通じてライセンス展開を
するようになって以降、その活発な宣伝広告活動等を通じて、急激に販売実績を拡
大し、平成4~5年ころには、売上高を見る限り、有力デザイナーズブランドに並
ぶとされる規模に達したことが認められるが、昭和63年以前において、ポロクラ
ブ関連商標又はこれを付した商品について、販売実績、宣伝広告の状況、取引者、
需要者における認識の度合い等を具体的に示す的確な証拠はない。
     そうすると、ポロクラブ関連商標は、その少なくとも一部は、商標登録
出願日及び設定登録日において、引用商標の我が国での使用開始時期(昭和51~
52年)及び著名性の獲得時期(遅くとも昭和50年代後半)に先行するものの、
現実に活発な宣伝広告を行い、販売実績を拡大したのは、これに後れる平成元年以
降であるということになる。そして、ポロクラブ関連商標中、「PoloClub」又
は「POLOCLUB」の文字とポロプレーヤーの図形とを結合した商標であるポロクラブ
関連商標4及び5に関しては、その設定登録日はもとより、商標登録出願日(上記
関連商標4につき昭和62年10月27日、同5につき平成2年10月8日)にお
いても、引用商標の著名性の獲得時期に後れるものである。
   イ また、原告又は株式会社ポロクラブジャパンが、ポロクラブ関連商標又
はこれを付した商品の宣伝広告を活発に行っていたことは、上記(1)イのとおりであ
るが、その広告等の内容を逐一見ると、その大部分において使用されているの
は、「PoloClub」の文字とポロプレーヤー図形とを結合したポロクラブ関連商標5
であることが認められ、文字商標のみが使用されている広告は、ポロクラブ関連商
標2に係る前掲甲第678、第679、第682~第685、第687、第76
1、第817号証など、ごくわずかでしかない。また、雑誌や業界新聞等に取り上
げられた「ポロクラブ」に関する記事中で、同ブランドの代表的な商標として掲げ
られているのは、いずれもポロクラブ関連商標5であることが認められ(前掲甲第
2~第4号証の各1~3、甲第526、第527、第680、第686、第68
8、第762、第802、第869~872号証等)、ポロクラブ関連商標中、そ
のブランドを代表する定番というべき商標がポロクラブ関連商標5であると目され
ていたことは明らかである。
     そして、上記のとおり大部分の広告等で使用され、代表的な商標と目さ
れていたポロクラブ関連商標5中に用いられているポロプレーヤーの図形と、引用
商標中に用いられているポロプレーヤーの図形とを比較すると、マレットを振り上
げたポロプレーヤーを、疾走する馬とともに正面側やや斜め方向から描いたものと
して基本的な構成態様が共通しており、人馬の向き、ポロプレーヤーの姿勢、マレ
ットの角度等においてわずかな差異は認められるものの、上記各図形を全体として
見た場合に、両者は酷似しているというほかない。さらに、ポロクラブ関連商標5
を、文字部分を含めて全体として見ても、中央に大きく上記ポロプレーヤー図形が
最も目立つ態様で表示され、その左右に配されている「Polo」と「Club」のう
ち、「Polo」の部分は、ラルフ・ローレンに係る著名な「Polo」と同一である。他
方、引用商標において、「Polo(ポロ)」の文字部分とポロプレーヤーの図形部分
とが結合することによって強力な自他商品識別力と顧客吸引力を発揮する著名性を
有することは前示のとおりであるところ、ポロクラブ関連商標5は、「Polo」の文
字とポロプレーヤー図形とを結合するという特徴においても、引用商標と酷似して
いるというべきである。
     加えて、引用商標に係るブランドも、ポロクラブ関連商標に係るブラン
ドも、単にファッション関連商品を取り扱うという点で共通するにとどまらず、い
ずれもメンズを主力として、いわゆるトラディショナルファッションを志向するも
のであって、そのような商品性をアピールするために、英国上流階級のスポーツで
あるポロ競技のイメージを前面に押し出しているという営業戦略においても軌を一
にすることは、上記の認定事実から明らかである。
   ウ 次に、原告又は株式会社ポロクラブジャパンによる上記の各広告等にお
いて、ポロクラブ関連商標に係る商品の出所である原告又はその使用権者を示す記
載は、全くないか、あっても、ごく小さな文字で「POLOCLUBJAPANCO.,LTD.」な
どと付記されている程度のものが多数である。なお、「○○ジャパン」というライ
センシーの名称は、一般に海外ブランドを我が国でライセンス展開する場合に、い
わゆる国内マスターライセンシーに多用されるものである(甲第569、第862
号証等)上、「JAPAN」は地名を、「CO.,LTD.」は法人の種別を表示するものであっ
て、商品識別力を有しない記述的部分であるから、上記の表示についても、ラル
フ・ローレンに係る「Polo」ブランドとは異なる国内ブランドであることを積極的
に示すものとはいい難い。また、平成12年以降の広告等の中には、「ポロクラブ
は、上野衣料株式会社の登録商標です」との記載が見られる(甲第34~第44、
第1047~第1067号証等)ものの、それ以前の広告等にこのような記載はな
く、せいぜい取引者を読者とすると考えられる繊研新聞等において、「この商標は
ポロクラブ製品のトレードマークです」という表示がされているものが若干存在す
る(甲第745、第749、第750、第823~826、第889、第898号
証等)程度である上、それとても、ポロクラブ関連商標を本格的にライセンス展開
するようになった当初のものではなく、平成6年以降に見られるにすぎない。
   エ さらに、「PoloClub」、「ポロクラブ」の高い知名率が示されたという
前記(1)アの各種の調査についても、その前提として調査対象者に示されたのは、ポ
ロクラブ関連商標5であることがうかがわれること(前掲甲第2~第4号証の各1
~3、甲第802号証参照)からすると、その図形部分と酷似する著名なラルフ・
ローレンに係るポロプレーヤー図形との誤認混同が疑われるものであって、引用商
標とは別個のブランドとして、「PoloClub」、「ポロクラブ」が一般需要者に認識
されていたと即断することはできないものというべきである。
     この点について、被告及び補助参加人の援用する「『ポロ』ブランド調
査」(乙第21号証)を見ると、同調査は、補助参加人の依頼により株式会社博報
堂が平成11年4月に首都圏の10~40歳代の「ファッションに興味・関心のあ
る」男女計280名を対象に実施した調査の結果であるところ、これによれば、ポ
ロクラブ関連商標5について、「見たことがある」者が75.0%、「見たことが
あるような気がする」者が19.6%、以上合計94.6%との結果が得られたに
もかかわらず、これと「ポロ・ラルフローレン」ブランド(引用商標の図形部分を
提示)との関連性について、「兄弟ブランド・ファミリーブランドだと思う」者が
68.2%に達し、両者が無関係であることを以前から知っていた者は23.6%
にとどまること、両者の商品を購入したことがある者(サンプル数82)に限って
見ても、両者が無関係であることを初めて知った者が86.6%を占めることが示
されている。また、両者が関連のないブランドであることを明かした上での印象の
変化は、「ポロ・ラルフローレン」の印象が変わった者が18.2%、「ポロ・ク
ラブ」の印象が変わった者が23.9%という結果が示されており、その印象の変
化の内容(自由回答)については、前者については一流、高級ブランドというイメ
ージが強くなったなどの肯定的な内容が多いのに対し、後者については「ポロ・ラ
ルフローレン」の真似をしているなどの否定的な内容が多いことが認められる。な
お、株式会社博報堂が、マーケティング調査等の経験豊富な我が国を代表する広告
代理店の一つであることは当裁判所に顕著であり、同号証の記載内容に照らして、
特に誘導的な質問等が行われたことをうかがわせる事情も見当たらない。
 (3) 上記(1)、(2)の認定判断を総合すると、まず、ラルフ・ローレンに係る引
用商標及びそのブランドが、我が国においては、昭和51~52年ころから使用さ
れるようになり、「PolobyRALPHLAUREN(ポロ・バイ・ラルフローレン)」、あ
るいは単に「Polo(ポロ)」の略称で、ポロプレーヤー図形とともに、取引者、需
要者の間で広く知られるようになり、遅くとも昭和50年代後半までには強い自他
商品識別力及び顧客吸引力を発揮する著名な商標となったこと、その後、原告又は
その専用使用権者である株式会社ポロクラブジャパンにおいて、ポロクラブ関連商
標、とりわけ「PoloClub」の文字とポロプレーヤーの図形の結合商標であって、引
用商標と図形部分の酷似するポロクラブ関連商標5を使用して、平成元年以降、活
発な宣伝広告を行う中で、その販売実績を急速に拡大したこと、その間、原告又は
株式会社ポロクラブジャパンは、主としてトラディショナルファッションを志向し
て、ポロ競技のイメージを前面に出すという、ラルフ・ローレンに係る引用商標の
ブランドと同様の営業戦略を展開する一方、ポロクラブ関連商標5に係る商品の出
所表示を必ずしも十分明確にしない態様での宣伝広告を続けたこと、その結果、ポ
ロクラブ関連商標5は、それ自体としては、一般需要者の間でも高い知名度を示す
に至ったが、その多くは、ラルフ・ローレンに係る引用商標のブランドの「兄弟ブ
ランド・ファミリーブランド」であると誤認していたこと、すなわち、ポロクラブ
関連商標5を付した商品は、引用商標を付した商品と同一の営業主体の業務に係る
商品、又はその親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係若しくは同一の表示に
よる商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品である
と誤認していたこと、以上の事実を認めることができる。
    そうすると、ポロクラブ関連商標に係る「PoloClub」、「ポロクラブ」の
ブランドに関する一般需要者の認識の相当部分は、ポロクラブ関連商標5と引用商
標との誤認、混同を通じて形成されてきたものと推認するのが相当であり、このこ
とを考慮すれば、ポロクラブ関連商標5を中心とするポロクラブ関連商標が、ラル
フ・ローレンに係る引用商標とは無関係の原告又はそのライセンシーに係る商品の
出所を表示する標識として、少なくとも一般需要者間に広く知られるに至ったと認
めることはできないといわざるを得ない。
    なお、原告又は株式会社ポロクラブジャパンにおいて、平成12年以降、
「ポロクラブは、上野衣料株式会社の登録商標です」との表示を積極的に行うよう
になったことは前示のとおりであるが、本件において、商品の出所混同のおそれの
判断の基準時は、本願商標の商標登録出願時(平成5年6月18日)及び審決時
(平成12年7月3日)であるところ、その期間内に行われた上記広告はわずかで
あり、しかも、その表示態様も目立たないものにすぎないから、前記認定判断を左
右するものとはいえない。
 (4) 以上の認定判断を前提に、本願商標に係る商品の出所混同のおそれの有無
について判断する。
   ア 本願商標は「PoloClub」との手書き風の欧文字からなり、指定商品はポ
ロクラブ関連商標のそれを包含するものであるところ、「PoloClub」がラルフ・ロ
ーレンに係る「Polo」商標とは無関係の原告又はそのライセンシーに係る商品の出
所識別標識として周知又は著名であるといえないことは上記のとおりである。そう
すると、「PoloClub」が著名であることを前提として、本願商標について商品の出
所混同のおそれの生じないことをいう原告の主張は、その前提を欠くものとして採
用することができない。
     他方、引用商標が、ラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関
連商品に付されるものとして、遅くとも昭和50年代後半までには、「Polo(ポ
ロ)」とも略称され強い自他商品識別力及び顧客吸引力を発揮する著名な商標とな
り、その著名性が、本願商標の商標登録出願時はもとより、審決時を経て、その後
に至るまで継続していたことは前示のとおりである。
     そして、ファッションに興味や関心のある者を対象とする調査におい
て、ポロクラブ関連商標5と引用商標の図形部分に係る「ポロ・ラルフローレン」
ブランドとが無関係であることを知らずに、それぞれの商品を購入している者が相
当数に上っているとの上記調査結果からもうかがわれるように、ファッション関連
の企業は複数のブランドを展開している例が少なくなく、一般需要者の多くも、そ
のことを認識しており、また、個々の商品の出所について正確な知識をもとに十分
な吟味をすることなく短時間のうちに購入商品を決定する場合もまれではないこと
は、当裁判所に顕著である。
     そうすると、本願商標をファッション関連商品であるその指定商品に使
用した場合、上記の取引の実情に照らすと、取引者、需要者において、著名な引用
商標の略称である「Polo」の文字部分に着目し、引用商標を想起して、その商品が
ラルフ・ローレンに係る引用商標のブランドと同一の営業主体の業務に係る商品、
又はその親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係若しくは同一の表示による商
品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信
されその出所について混同を生ずるおそれがあるというべきであり(最高裁平成1
2年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)、このことは、
本願商標の登録出願時においても、審決時においても異なるところはない。
   イ 原告は、先行商標と同一又は類似する商標と、これに後れて使用される
ようになった商標との関係での商標法4条1項15号の適用に際しては、商標法の
先願主義との整合性から、先行する商標の優位性が認められ、後れて使用されるよ
うになった商標の著名性を厳格に認定し、混同可能性についても狭義の混同可能性
に限定すべきである旨主張する。しかし、先行商標が後れて使用されるようになっ
た商標に比肩すべき著名性を獲得していれば格別、本件において、ポロクラブ関連
商標のうち、引用商標の我が国での使用開始時期及び著名性の獲得時期に先立って
出願及び登録がされたものについてそのような著名性を認めることができないこと
は前示のとおりであるし、商標法の先願主義(8条)があるからといって、著名性
を欠く先行商標と同一又は類似する商標に優位性を認め、著名な後行商標との関係
で出所混同のおそれを狭義の混同可能性に限定すべき根拠を見いだすことはできな
いから、原告の上記主張は採用することができない。
     また、原告は、補助参加人において、ポロ・ビーシーエス株式会社の前
主である公冠販売株式会社から「POLO」商標の使用許諾を受けているから、補助参
加人が、「POLO」の商標が補助参加人に帰属するものでないことを自認していた旨
主張するが、引用商標が補助参加人の業務に係る商品を表示するものとして著名で
あった以上、補助参加人が何らかの事情で上記使用許諾を受けたとしても、本願商
標に係る商品の出所混同のおそれの有無に関する上記判断を何ら左右するものとは
いえない。
   ウ したがって、上記アと同旨をいう審決の判断に誤りはなく、原告の取消
事由2の主張は理由がない。
 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 長  沢  幸  男
    裁判官 宮  坂  昌  利
(別紙)
ポロクラブ関連商標引用商標

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛