弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の反訴請求を棄却す
る。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴
代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上並びに法律上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、次に訂正、
付加するほか原判決事実摘示(原判決二枚目裏二行目から同一〇枚目表一行目ま
で)と同一であるからこれをここに引用する。
一 原判決三枚目表末行の「減額」の次に「控除」を加え、同六枚目裏六行目及び
一二行目に「専問」とあるのをいずれも「専門」と訂正する。
二 控訴代理人は次のとおり述べた。
1 抗弁事実1項中控訴人が勤務先たる学校において勤務しなかつたことは認める
が、その余は否認する。同2項の事実は認める。控訴人は学校外において勤務をな
したものである。
2 教育の職務は、これを行う者が教育内容について高い専門的力量と適切な教育
方法を採用する能力をもつことを必要とする専門職であり、教職にある教員は不断
に研究と修養に努めることが要請され、研修がその職務の不可欠の内容をなすもの
であるところ、教育は教育基本法第一条及び第二条所定の教育の目的及び方針にも
あるとおり自発性、自主性、創造性を養うものでなければならないから、これに伴
い、教員に要請される右研修はそれ自体自発的、自主的、創造的に行われることが
必要である。同じく地方公務員であつても、教員につき教育公務員特例法(以下教
特法という。)が地方公務員法第三九条の研修規定とは別にとくに一章を設けて研
修に関する規定を設けているのも、教員に要請される研修が、単に勤務能率の発揮
及び増進のための手段として行われる一般地方公務員の教育訓練や研修と異なり、
教育という職責遂行上不可欠の要素をなし、且つそれが研修の自由をもつ自主研修
であることを必要とするという特殊性を有することによるものである。この点にお
いて教育公務員たる教員は、公務員としての医師や裁判官と共通する自律的専門
性、特殊性を有する。
教員に要請される研修の右特殊性は、憲法二三条の学問の自由の保障のもとに、同
法第二六条が定める教育を受ける権利を実現する専門職たる教職の本質に基づくも
のであつて、法令上憲法の右各法条のほか、教育基本法第二条及び第一〇条により
保障されているものであるが、教特法所定の研修規定も現行の教育法制の基本理念
のもとにあるものである以上、同法第二〇条第二項は、研修が教員の職務遂行上必
要不可欠なものであることを前提に、勤務時間内校外自主研修を一定の要件のもと
に勤務そのもの、少くとも勤務と同視すべきものとして積極的に保障した規定であ
るといわなければならない。
すなわち、教特法第二〇条第二項は、勤務時間内校外自主研修の必要性を前提とし
つつ、同時にそれが本来の勤務場所を離れて行われるものであること、且つ授業へ
の支障をも考慮してこれを本属長の承認事項としたに過ぎないものである。しか
も、授業に支障があるかどうかは、単に予定された授業時間に予定の授業が行われ
ないことをさすのではなく、授業に実質的な支障を生ずることを意味し、振替など
により容易に回避でき、又は学期末までに回復できる程度の支障の場合は、不承認
の事由とはなり得ないものというべきである。また、研修がどの範囲で職務とされ
るかは、校外で行われるか、あるいは研究集会の主催者が誰であるかに関係なく、
更に参加についての職務命令の有無にも関係なく、当該研修の客観的性格すなわち
教育活動との関連性の有無によつて定められるべきであるが、右認定は教育基本法
第一条及び第二条の基本的立場からなさるべく、教育の専門性、自主性、創造性の
見地から、外見上一見明白に教育活動との関連性を欠くと認められる場合のほか
は、研修を行う個々の教員の判断に従うべきであり、もし関連性に疑いのある場合
及び授業への支障の有無に危惧のある場合には、本属長の裁量に委ねるのではな
く、職員会議における検討を経てその合理的範囲が具体的に決定されるべきであ
る。
けだし、教育活動を有効且つ適切に行うために、何をどのような方法で研修するこ
とが必要、有益であるかは、実際に教育に携わる教員ないし教員の構成体である職
員会議がもつとも明確に判断し得るというべきであつて、この点で教員の研修は、
その職務が当局の企画と指揮命令のもとに行われ、どのような知識、技能の習得が
職務遂行上必要であるかを当局が判断し得る一般の公務員の場合とは基本的に異な
るのであり、また教員は、学問上、教育上の研究の成果に触れ、これを媒介としつ
つ、みずからの教育内容と教育方法のあり方を自由に研究することが認められて、
はじめて真の教育が可能となり、教育の進歩が期待できるからである。しかも、前
記のように教員の自主的研修ないし研修の自由が教育の本質上要請され、憲法、教
育基本法にも保障されているものである以上、教員の研修に対する教育行政の本来
の任務は教員の自主的な研修活動に対する条件整備にとどまるものといわなければ
ならず、教特法第一九条第二項、第二〇条第二項は、この趣旨で研修に関する行政
の条件整備義務を定めたものというべきである。地方教育行政の組織及び運営に関
する法律第四五条によれば教育委員会も研修を企画し実施できる旨を規定するが、
右研修もまたその本質は前記条件整備ないし指導助言の実質をもち、教員に対し研
修のための機会の一つとして提供することを趣旨とするものでなければならず、他
の民間教育団体や職員団体の主催する研修会とまつたく同列の地位にあるものであ
り、そのいずれの研修を選ぶかは教員の自由な判断に委ねられるのが本来である。
行政当局(教育委員会又はその委任を受けた校長)は内容的に真にすぐれた研修を
提供するよう努力し、教員の自主的な研修を大いに奨励援助すべき義務あるのみ
で、これを強制することは許されず、またこれを規制し、その機会を奪うことをし
てはならない。
結局、教特法第二〇条第二項の本属長の承認については、研修がその内容上勤務に
不可欠であり、勤務そのものと認めるべき範囲のものである時は勿論、上記のとお
り教員ないし職員会議の判断により教育活動との関連性があると認定された場合に
は、本属長が承認をしなかつた場合にも、教員は自主研修権の行使として適法に学
校を離れて研修を行うことができるものと解すべきである。承認がない限りこれが
できないというのでは、自主研修権は抹殺されてしまう結果とならざるを得ない。
この意味において教特法第二〇条第二項所定の承認は、本属長の自由裁量行為では
なく、覊束的確認的行為と解すべきである。また、研修は教育活動とともに不可分
的に教員の職務を構成するものであるから、右本属長の承認は、職務専念の義務を
免除することについての承認を意味するものではなく、ただ本来の勤務場所を離れ
て職務(研修)を行うことについての承認と理解すべきであつて、同条項は地方公
務員法第三五条の職務専念義務の特別除外法規ではない。もつとも、この点につ
き、「白老町職員の職務に専念する義務の特例に関する条例」(昭和二六年白老町
条例第四号)第二条は、地方公務員法第三五条に基づき職務専念義務の特例とし
て、研修を受ける場合を職務専念義務免除の対象にあげているが、前記のとおり、
教員にとつて研修に職務そのものと理解すべきであり、これを前提としてこの条例
を解釈すると、研修を受ける場合を職務専念義務免除の対象として規定した右第二
条第一号は、教員を除いた白老町の一般職員にその適用をみるにとどまり、教員に
は適用されないものと解すべきである。仮りに右条例の規定が教員にも適用される
ものとして制定されているとすれば、教員の研修の特殊的意義を十分に理解せず、
一般地方公務員の研修と同視した点において条例制定上の過誤に基づくものという
ほかはない。本件において控訴人は、職務専念義務免除による研修参加の承認を求
めているが、これは、従来行われてきた実務上の取扱いに従つたというだけのこと
である。
3 控訴人が参加した本件教研集会は、教員組合の組織の目前の強化や直接的に目
指すものではなく、教員の研究の自由確保を組合の組織に期待し、教員組合の組合
員各自が集団的学習を通じて自主的な教員としての自己を確立することを目指して
行われたものであるから、右への参加は教特法が保障する教師の自主的職務研修権
の集団的行使とみるべきものである。控訴人は研修参加をすることにより勤務に就
いていたのであり、仮りに右研修参加とみることができないとしても、少くとも勤
務に準ずべきものである。被控訴人の主張は、「教育公務員特例法第二〇条の解釈
について」(昭和二九年一二月一八日委初第五の二一号初等中等教育局長回答)に
みられる教特法第二〇条についての文部省の見解を基調とするものであるが、文部
省もかつては右のような見解ではなかつた。すなわち、「教員の勤務時間につい
て」(昭和二四年二月五日発学第四六号文部次官通達)においては、教特法第二〇
条の校外自主研修について、同条の規定による研修の場合は当然勤務とみるべきで
あるとの見解を示し、校外自主研修についての職務性を当然のこととして肯定して
いたのである。
本件教研集会を共催し、控訴人もこれに所属する北海道教職員組合は、地方公務員
法上の職員団体であるが、同時にそれは専門職である教員の組織集団でもある。し
かるに同法第五二条第一項所定の職員団体の定義に照すと、同法第五五条の二第六
項が給与を受けながらなすことを禁じている職員団体のための業務、活動とは、勤
務条件の維持改善を図ることを目的としてなされる業務、活動をいうものと解すべ
きであるから、教育労働者の教育法的特殊性に基づき前記組合がもつ右労働組合と
しての性格と職能団体としての性格との二面的性格のうち、後者の性格に基づき教
員の専門的組織集団として行う活動は、同条項にいう職員団体の業務活動とはいえ
ない。これに個々の教員が参加するのは、職員団体のためにその業務、活動を行う
というものではなく、自己の日常の職務たる教育活動のためであり、専門職たる教
員の組織集団としての教育研究活動の場である本件教研集会に広い意味での職員団
体の活動的色彩のものが多少混在していても、そのことによつて全体としての右集
会の研修たる性格が否定されるものではない。本件において控訴人は、控訴人の勤
務している白老小学校が、その地域的特殊性に基づき抱えているアイヌ民族問題を
研究テーマとして本件教研集会に参加しているのであるが、右は教育活動と密接な
関係を有しているものであるから、職務としての研修にほかならない。ちなみに、
右白老小学校でも、前年まではなんら異議なく職務専念義務免除の取扱いが行われ
ていたのであるし、北海道教育委員会も、かつては全道教育研究集会の後援団体の
一員に加わり、右研修参加について公費保障の建前をとつていた。
4 なお、被控訴人は、本件において、控訴人に年次有給休暇を利用する余地があ
つたと主張する。しかし、年次有給休暇の制度は、本来、労働者の生存権確保のた
めの制度である。すなわち右制度は、労働者が継続的職務から離れて精神的、肉体
的に疲労した労働力を回復するとともに、その余暇を利用して休養、旅行等をする
ことにより生活を充実させ、人たるに値いする生活を維持することを目的とする制
度であつて、教特法第一九条第一項が規定するその職務を遂行するための研修制度
とはなじまない。しかも、年次有給休暇は、これを利用するか否か、またこれをい
かなる目的に利用するかを本来労働者が任意に選択すべきものである。従つて、時
間内校外自主研修への参加につき年次有給休暇の利用を強制することはできないの
であるから、校長が控訴人に対し有給休暇の利用を拒まず、右利用を推めたからと
いつて、これにより控訴人に研修参加の機会を与えたということにはならない。そ
れに、教特法の右条項によれば、研修は職責遂行のために絶えず努めなければなら
ないものとしているのであるから、年間最長わずか二〇日間しかない年次有給休暇
を、このために振り向けることを要求すること自体妥当性を欠くというべきであ
る。
5 控訴人の本件教研集会参加の申出に対し校長が承認、不承認の明確な意思を表
示せず、結論において不承認とした措置は法律上当然に無効であるが、仮りにこれ
が無効でないとしても、右措置には取消原因たる違法があるから、少くともこの点
において被控訴人の本件過払給与返還請求権は結局発生しないというべきである。
三 被控訴代理人は次のとおり述べた。
1 (一)原判決三枚目表八行目に「本来の勤務」とあるのを、「北海道学校職員
の給与に関する条例(昭和二七年北海道条例第七八号)第一三条所定の勤務に当る
本来の勤務」と訂正する。
(二) 原判決七枚目裏一一行目に「再抗弁事実1項は認める。」とある次に、
「ただし、本件教研集会が教特法第一九条及び第二〇条に規定する研修に該当する
との点は争う。」と付加する。
2 市町村立学校に勤務する教職員(市町村立学校職員給与負担法第一条及び第二
条所定の職員をいう。以下同じ。)は、当該市町村職員たる身分を有する地方公務
員であつて、その身分上及び勤務上の取扱いは次のとおりである。
(一) 任命権及び服務監督権
(1) 任命権は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下地教行法とい
う。)第三七条第一項により都道府県教育委員会に属する(ただし、指定都市が設
置する学校の教職員は除く。同法第五八条第一項。)。また、都道府県教育委員会
が実際に任命権を行使する場合は、同法第三八条第一項に基づく市町村教育委員会
の内申をまつて行う。
ここに任命権とは、任命の権限だけでなく、任用、免職、復職、懲戒、給与の決定
等身分上の一切を含むものである。
(2) 服務の監督は、同法第四三条第一項により当該市町村教育委員会が行う。
服務に関する事項としては、職務に専念する義務、上司の命令に服する義務、信用
及び名誉を保持する義務、秘密を守る義務、営利行為にたずさわらない義務等があ
る。
なお、市町村教育委員会が所属職員に対して行う具体的な服務監督に伴う処分とし
ては、地方公務員法第三五条所定の職務に専念する義務の免除を行うこと、兼職、
兼業の許可、休暇の承認、さらには、出張命令を発し、また違反行為のないように
事前に注意を促すなどの職務命令及び不作為の命令を発すること等がある。
(3) これを本件控訴人についていえば、控訴人は白老町に勤務する地方公務員
であつて、その任命権は北海道教育委員会に属し、服務の監督は白老町教育委員会
が行う。従つて、職務に専念する義務の免除も同教育委員会が行うのであるが、同
教育委員会は地教行法第三三条の規定に基づく学校管理規則を制定し、同規則によ
り校長が所属職員の職務に専念する義務の免除を行つている。
(二) 給与及び勤務時間
(1) 給与は、市町村立学校職員給与負担法によつて都道府県が負担する。この
ため、給与及び勤務時間は地教行法第四二条により都道府県が定めることとされて
おり、これを本件控訴人についていえば、給与は北海道が負担し、具体的には、
「市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員の給与に関する条例」(昭和二
七年北海道条例第七九号)第二条第二項で、「北海道学校職員の給与に関する条
例」(同年北海道条例第七八号、以下給与条例という。)を準用している。
(2) 勤務時間については、「市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員
の勤務時間及び休暇等に関する条例」(昭和二七年北海道条例第八一号)第二条
で、「北海道学校職員の勤務時間及び休暇等に関する条例」(同年北海道条例第八
〇号)を準用し、一週間の勤務時間は、「北海道学校職員の勤務時間及び休暇に関
する規則」(昭和二八年北海道人事委員会規則一三-一)第二条により四四時間と
定められ、勤務時間の割振りは、「市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職
員の勤務時間の割振に関する規則」(昭和三二年北海道教育委員会規則第三号)第
二条により市町村教育委員会が定めるものとされているところ、白老町教育委員会
は、具体的には前記学校管理規則によつて勤務時間の割振りを校長に行わしめてい
る。
3 教員が研修を行う際の服務については、法令上の取扱いとして次の三種類に分
けられる。
(一) 勤務時間外の自主研修
勤務時間外においては、どのような種類、内容、程度の研修を行おうとまつたく自
由であり、本人の自発的、自主的意思により決せられるべきものであるから、この
場合について服務上法律的な問題はない。
(二) 勤務時間内の研修
(1) 職務命令による研修
これは、研修を勤務そのものとして職務命令により行う場合であり、職務命令とし
て研修命令を出すのに、服務監督権者である市町村教育委員会又は校長等の上司で
ある。この場合には、研修に従事すること自体が職務の遂行となるのであるから、
研修の内容が勤務そのものとして評価し得るものでなければならず、このために本
来の勤務場所を離れる場合には公務出張として旅費が支給される。
(2) 職務専念義務の免除による研修
これは、地方公務員法第三五条の規定を根拠として各市町村が制定している職務に
専念する義務の特例に関する条例の研修規定、すなわち本件においては「白老町職
員の職務に専念する義務の特例に関する条例」(昭和二六年白老町条例第四号)第
二条第一号の規定あるいは、教特法第二〇条第二項の規定に基づき、あらかじめ服
務監督権者もしくは校長の承認を得て職務に専念する義務を免除されて行う研修で
あるが、この場合には地方公務員法第三五条所定の職務専念義務を免除されて研修
が行われるのであり、またこの場合には後述のとおり勤務しない間の給与の減額も
なされないのであるから、右研修の内容は職務と密接な関連を有し、今後の職務の
遂行に役立つものであり、かつ、授業に支障がない等相当合理的な理由の存在する
ことが必要であり、この点の判断は所属長が行う。
ちなみに、職務に専念する義務が免除されることと、給与が減額されないこととは
制度を異にするものであるから、ある事由に基づき職務専念義務が免除されても、
その間の給与が当然に支給されるものではない。しかし、給与条例第一三条が「学
校職員が勤務しないときは、その勤務しないことにつき教育委員会の承認のあつた
場合を除く外、その勤務しない時間について、一時間につき、第一八条に規定する
勤務一時間当りの給与額を減額して給与を支給する。」旨規定していること、さら
に「給与の支給に関する規則」(昭和四二年北海道人事委員会規則七-二八〇)第
一三条は、勤務をしないことについての承認の基準として、「給与条例第一三条に
規定する勤務しないことにつき任命権者の承認があつた場合とは、職員団体のため
の職員の行為の制限の特例に関する条例(昭和四一年北海道条例第三六号)又は市
町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員に係る職員団体のための職員の行為
の制限の特例に関する条例(昭和四一年北海道条例第三七号)の適用がある場合の
ほか、別表に掲げる基準により勤務しないことにつき任命権者が承認を与えた場合
とする。」と規定し、その別表の八で「研修を受ける場合」を掲げていることか
ら、研修を行うことについて校長等から承認を受けた場合は、右規則の勤務しない
ことについての承認基準に合致し、給与条例第一三条所定の勤務しないことにつき
承認のあつた場合に当るので、その間の給与が減額されないこととなるのである。
4 地方公務員法第五二条は、「職員団体とは職員がその勤務条件の維持改善を図
ることを目的として組織する団体又は連合体をいう。」としているから、職員団体
として社会的作用を営む範囲、すなわち権利能力、行為能力の範囲は、職員の勤務
条件の維持改善を図ることに限定されることは法文上明らかである。しかしその目
的は、地方公務員法第五四条が準用する民法第四三条の解釈並びに労働組合法第二
条の規定との関連上、目的自体を狭く解すべきではなく、目的達成に必要な行為は
すべて職員団体の活動と認むべく、団体交渉、苦情処理等の対使用者活動、福利共
済活動、教育活動等の対内的な自向活動、さらに各種の政治、文化活動等の対外的
な社会的活動の一切が含まれると解すべきであるから、職員団体のなす行為は、客
観的かつ明白に職員団体の目的を逸脱していると認められるものを除けばすべて職
員団体の活動の一環であるというべきである。ところで、職員団体が主催して行う
教育研究集会は、職員の勤務条件の維持改善を図ることを目的とする職員団体が組
合員の資質の向上並びに組合員相互間の結束及び理解を深めるため毎年計画事業の
一環としてその財政負担のもとに行つているものであり、また右集会への参加者の
決定も、所属学校長及び非組合員のまつたく関与しない職員団体の機関で行つてい
るのであるから、これらの点を勘案すれば右集会は、その名称及び内容のいかんに
かかわらず、職員団体の活動の一環であることは明らかである。従つて、右集会参
加者に対し有給義務免の措置を講ずることは現行法制上不可能であり、あえてこれ
を行うならば、いわゆる不当労働行為にあたるといわざるを得ない。
5 教職員組合の二面的性格に基づく控訴人の主張は、(1)教職員組合は職員団
体と職能団体との両性格を併有し、職員団体が主催する教育研究集会は右後者の活
動であるという意味にこれを解しても、また、(2)集会は職員団体が主催するも
のではあるが、職員団体の活動とはまつたく関係がないという意味にこれを解して
も、いずれも次に指摘するとおり理由がない。
(一) 職員団体は、憲法第二八条により保障された勤労者の労働基本権を保障す
る手段として、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件の維持改善を図ることを目
的として設立されたものであるのに対し、民間教育研究団体等の職能団体は、構成
員の職務能力の深化と地位の向上を図ることを目的とするものであつて、憲法第二
一条によりその結成が保障されるものであり、両者は設立の目的及び根拠を異にす
る。従つて、教職員組合が職員団体としての性格と職能団体としての性格を併有す
る二面的性格をもつ二重団体であるという理論は、現行法上認められない。
(二) また、前記集会が職員団体の毎年度の計画事業の一環としてその財政負担
のもとに行われ、参加者の決定ももつぱら職員団体の機関が行つている事実に照し
てもすでにこれが職員団体の活動と無関係であるとはいえないこと前叙のとおりで
あるが、さらに具体的に本件教研集会をみても、その開催要項中には、組織化の重
点の一つとして、教育研究活動と組合活動を一体的に発展させることを挙げてお
り、また日本教職員組合第一九次、日本高等学校教職員組合第一六次教育研究全国
集会要綱の開催宣言の中でも、「教育研究活動は賃金闘争や権利闘争などと一体的
にすすめられるとき、もつともよく前進してきました。(中略)教育研究活動を教
育闘争、組合の組織活動としてとらえ、発展させることが重要になつています。」
と述べていること、その他本件教研集会参加者を決定するために行われた北海道教
職員組合胆振支部主催の第三回全胆振教育研究集会開催要項からみても、職員団体
が主催する教育研究集会が職員団体の活動の一環として行われているものであるこ
とは明らかである。
四 控訴代理人は当審における新たな立証として甲第一八ないし第二九号証、同第
三〇号証の一ないし九、同第三一ないし第三四号証を提出し、当審証人A、同B、
同C、同D、同Eの各証言及び当審における控訴人F本人尋問の結果を援用し、当
審で提出された乙号各証の成立をすべて認めると述べ、被控訴人は当審における新
たな立証として乙第一五号証の一、二、同第一六号証、同第一七号証の一ないし
五、同第一八ないし第二〇号証、同第二一号証の一ないし五を提出し、当審で提出
された甲号各証の成立をすべて認めると述べた。
○ 理由
一 控訴人が白老小学校を勤務場所とする同小学校の教諭であり、市町村立学校職
員給与負担法第一条の規定により被控訴人から給与を受けていたものであるとこ
ろ、昭和四三年一一月六日午後から同月九日の勤務時間終了時までの間、勤務時間
にして合計二四時間右勤務場所を離脱して同所における勤務をなさず、同月八日か
ら同月一〇日までの三日間帯広市で開催された本件教育研究集会(以下、本件教研
集会という。)に参加したこと、及び同月二一日控訴人が右勤務場所離脱期間中の
給与相当額金七〇一五円を含む同月分の給与全額を被控訴人から支給を受けている
ものであることは、当事者間に争いがない。
二 控訴人の給与、勤務時間その他の勤務条件は、市町村立学校職員給与負担法第
一条、地教行法第四二条、地方公務員法第二四条第六項の規定により北海道条例で
定めらるべきものというべきところ、「市町村立学校職員給与負担法に規定する学
校職員の給与に関する条例」(昭和二七年北海道条例第七九号)第二条第二項は給
与条例を準用し、同条例第四条は「給料は、正規の勤務時間による勤務に対する報
酬である」と定め、同第一三条は「学校職員が勤務しないときは、その勤務しない
ことにつき教育委員会の承認のあつた場合を除く外、その勤務しない時間につい
て、一時間につき、第一八条に規定する勤務一時間当りの給与額を減額して給与を
支給する。」と定めている。これによれば控訴人が「教育委員会の承認がなく」
「勤務しない」場合において右勤務しない時間につき支給を受けた金員は、法律上
の原因なくこれを不当に利得したものというべきである。
三 給与支給の対象たる勤務
被控訴人は、控訴人が勤務場所を離脱した前示二四勤務時間は給与条例第一三条所
定の「勤務しない」場合に当るから右勤務しなかつた時間の給与相当額金七〇一五
円を減額支給すべきであると主張し、控訴人は右時間内は研修として、勤務したも
のと争うので、まず給与支給の対象となる「勤務」について判断するが、控訴人が
白老町立白老小学校の教諭として同小学校を勤務場所と指定されているもので、前
記二四勤務時間右勤務場所を離脱して「勤務場所における勤務」をしなかつたこ
と、また右二四勤務時間を勤務した場合に支給さるべき控訴人の右時間相当分の給
与が金七〇一五円であることはいずれも前判示のとおりであり、しかも控訴人の給
与が前示のとおり「勤務時間内における勤務」の対価として定められていることに
照すと、給与条例第一三条が給与の減額事由として定める「勤務しないとき」とは
「勤務時間内における勤務をしないとき」であると解すべきであるから、右勤務時
間内におけるものであることを前提として、以下給与支給の対象となる「勤務」
を、「勤務場所」との関係においてまず検討した上、更にこれと「研修」との関係
について検討する。
1 勤務時間内における勤務と勤務場所
国は、憲法第二六条において国民に対し教育を受ける権利のあることを定めるとと
もに、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を課し、これに照応して、学
校教育法を制定して児童に初等普通教育を施すため、物的要素たる施設として市町
村に小学校の設置義務を課し(同法第一七条、第二九条)、国、地方公共団体等が
学校を設置する場合には監督官庁の定める設置基準に従うべきものとし、且つ学校
には校長及び相当数の教員を配置すべきことを規定し(学校教育法第二条、第三
条、第七条)、国民に対し教育を受ける機会を与えているのであつて、学校は、そ
の意味において国民に教育を受けしめる公共目的に提供された営造物というべきで
ある。しかして市町村立小学校における人的要素たる教員については、児童の教育
をつかさどるものとされている教諭(同法第二八条第六項)を含め、教特法第二
条、第三条により身分は地方公務員の地位にあるものと定め、地方教育行政の組織
及び運営に関する法律第二三条により右第学校の運営並びにその教員の任命及び服
務の監督は教育委員会の権限に属せしめているのであつて、教育委員会は特定の営
造物たる教育施設の活動として、すなわち教育を施すため、当該教育施設における
人的要素たる教員をして児童に対する教育をつかさどらせるものとしているもので
あるから、教育公務員たる教員としての小学校教諭(以下、これを単に教員ともい
う。
)に対し支給さるべき給与の対価に対応する勤務は、特定営造物たる学校、すなわ
ち、当該教員に対し勤務場所として指定された教育を施すための特定の施設と切離
されたものではなく、右「勤務」の基本は、「指定場所において所定の勤務時間内
に果すことを予定された具体的、個別的な教育を施す業務」に携わることにあると
いうべきである。もとより、小学校教員の教育を施す職務としての日常的業務に
は、右勤務場所たる学校施設内での活動にとどまらず、校外授業、校外指導等、勤
務場所を離れてなされざるを得ないものがあることは、その本質が精神活動にある
ことからしていうまでもないが、右は人的、物的総体としての小学校に課された児
童に対する直接的教育作用、すなわち右小学校の教育における活動の内容範囲とし
て当然に予定されているものということができるから、その日常的業務の中に右の
ように勤務場所たる現実の施設を離れて行われるものがあるということ自体は、給
与の対価に相当する教員の職務が、本来、勤務場所として指定された特定の施設に
おいて所定の勤務時間内に果すことを予定された教育を施す業務を基本とするもの
であるというその原則を否定するものではない。
なお、教員たる公務員も、一般的には教育者たる社会的地位にあり、教育が人格の
理想的完成を目指して行われる人に対する実践的作用であることから、この面から
考えられる教育者に要求される責務は、一定の場所での当該教育施設の活動と密接
不可分な一定時間内における授業その他の日常業務的職務に限られるものではな
い。
しかし、社会的地位としての教育者の責務は、教育者一般の立場において期待され
る教育者にふさわしい人格者として要請されるそれであつて、特定営造物の人的要
素たる教員の給与に対応して予定される業務の担当すなわち勤務は、質量ともに無
限定、無定量ともいうべき右教育者一般の責務とは異なり、施業主体との雇傭関係
における身分上の地位に基づき課される日常的業務としての教育活動に限られると
いわなければならない。
そうであれば、教員の「勤務」は、「勤務場所における教育を施す活動」を原則と
する「特定教育施設の運営活動たる日常的業務に従事すること」であるというべき
であり、教育を施す活動として右日常的業務といい得るものは勤務場所である施設
外で行われてもなお勤務であり得るが、右教育を施す活動たる日常的業務に含まれ
ないものは、たとえ勤務場所で行われても、対価として給与が支払わるべき「勤
務」ではないといわなければならない。
2 教特法第一九条、第二〇条と研修の勤務性
控訴人は、本件教研集会は教員の自主的研修として行われたものであるところ、憲
法第二三条、第二六条、教育基本法第一〇条、教特法第一九条、第二〇条は、教員
にとつて不可欠な自発的、自律的な自主的研修をその権利として保障した規定であ
るから、控訴人の本件教研集会への参加は右自主的研修の実施として、当然に教員
としての勤務の内容をなし、教特法第二〇条第二項の適用上も本属長の承認あるも
のとして取扱われるべきであると主張する。
そこで更に進んで、教員の「研修」と前記日常的業務としての「勤務」との関係を
検討する。
憲法第二三条が一般国民に対し学問的研究、発表を内心の自由ないし表現の自由の
面から保障するものであり、教授の自由は右学問的研究、発表の自由と密接にかか
わるものということができ、且つ小学校教諭の職務が「児童の教育をつかさどる」
(学校教育法第二八条第六項)ものであるにしても、小学校教育の目的と大学にお
ける教育の目的は異なる(同法第一八条、第五二条)のみならず、教諭の職務内容
は研究に従事することをその職分とする大学教授(同法第五八条第五項)のそれと
も異つていることは明らかであり、ひとしく教育公務員ではあつても、その職分を
異にする以上、研究の勤務に対する意義は同質ではあり得ず、憲法第二三条が右の
差異を無視して一律に勤務と研究の意味を定めているものとは到底解し得ないとい
うべきである。まして自主的研修のように修養の意味をも含むひろい行動の自由に
属する教育的活動の一般的自由までが、同条によつて勤務として保障されているも
のでないことはいうまでもない。また憲法第二六条、教育基本法第二条、第一〇条
も、これらはいずれも教育に関する理念規定ないし行政主体に対する教育行政上の
配慮義務を定めた規定であるにとどまり、これらの諸規定が教育公務員の自主的研
修参加の一般的自由を具体的に保障するのみならず、これを勤務たる職務とした根
拠規定であるとは到底認められない。けだし、自主的研修は、本来これを行う者の
自発的意思にかかわる自己研鑚の意義を有する事柄であつて、それは時間的、場所
的に拘束されるものではなく、内容的にも意思を離れては無定量、無限定のものと
いうべきであるから、その義務は性質上職業倫理として要求され得るにとどまり、
具体的に法的義務としてこれを要求するには適さず、従つてこれに対応する権利と
しても具体的にこれを保障するには親しまないものというべきである。
控訴人はまた、自主的研修が勤務として保障さるべき実質的理由として、教育は本
質的に自発性、自主性、創造性を尊重すべきものであるから、これをつかさどる教
員には専門職にある者として自由で自主的研究等ができなければならない旨を強調
するが、専門職概念は必ずしも一義的ではなく、教職一般がいかなる意味において
も自明の専門職であるとは必ずしもいえないのみならず、公務員等職務に基づく一
定の身分関係を有する職にある者は、右身分上の地位からこれに伴う服務上の規律
を受けることを免れず、これを無視してその職務の専門性に基づく自由な自律性、
自主性のみを絶対視することができないことはいうまでもない。そうであれば控訴
人が本件において教員を専門職にある者として主張する主旨は、要するに、教員は
教育を専門的職務として担当する者であるから、教育に関する限り教育の本質的属
性である自発性、自主性、創造性は、教員自身にも確保されなければならないとい
うところにあると解すべきものである。
そこで右の点を自主的研修との関係において更に検討するに、控訴人は地方公務員
としての身分を有するものであるが、同時に教員であり、教員は、窮極的には対象
者の人格的完成を目的として対象者に対し具体的影響力を及ぼす実践的作用を担う
者であることから、これにふさわしい能力識見を有する人格者であることが要請さ
れ、職務の遂行においても、このための研鑚においても、それなりの自主性及び責
任の重要性が十分に認識されなければならず、その身分は公務員であつても、他の
一般公務員に比しその職責が特殊性を有することは明らかである(教特法第一条参
照)。すなわち、教育基本法第一条、第二条によれば、国の定めた教育の目的は
「人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛
し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに
健康な国民の育成を期」するところにあり、その目的を達成するための方針として
「学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力に
よつて、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない」ものとしてい
るのであつて、教師たるものが右方針に従いその目的を達成する教育を施すために
は極めて高度な知的能力を要請されることはいうまでもなく、教育の本質が教師と
教育対象者間の精神的交流を基盤として行われる全人格的なものであることに鑑
み、教育対象者に与える教師の全人格的影響には多大且つ深刻なものがあるといわ
なければならない。それゆえ、理想像たる教師はその教育を施す職責の遂行上まず
自ら専門分野における先達たるべき能力と高邁な人格を具有する者であること、し
かしてその成果を残りなく良き成果として教育対象者に伝承せしめることが要求さ
れるのであつて、教師たる者はかかる理想像に向けて自主研鑚に努むべく、社会一
般が個々の教師に要請し期待するところも右の如きあるべき姿の教師であつて、そ
のゆえにこそ教師は単なる専門的職務の従事者たるにとどまらず、いわゆる聖職者
としての敬意を表されるべきものといわなければならない。従つて、教師にとつて
研究修養は、自己完成目的に志向された手段であるとともに、教師たる資格を具備
するための必要不可欠の要件ともいわなければならず、その自由と自主性は尊重さ
れなければならない。教特法第一九条、第二〇条において、教育公務員は「絶えず
研修と修養に努めるべき」こと、「研修を受ける機会が与えらるべき」ことを明示
し、使用者の地位にある任命権者、本属長は、研修のための物的施設、研修実施方
法についてこれに協力すべきことを定めるとともに、一定の条件のもとに勤務場所
外における研修をも認め得る途を開いているのも右趣旨に副うための規定と解すべ
きである。しかし、教特法第一九条第一項は、「職責を遂行するため」に、「絶え
ず」、すなわち場所及び時間を超えた無限定のものとして「研究と修養」に努める
ことを義務づけているのであつて、「職務の遂行として」これを義務付けているの
ではないのみならず、これを給与支給のための勤務とみることは教育公務員にとつ
て極めて過酷を強いることになり、教育公務員の一般的な給与体系に照して到底是
認し得ず、同条はその文言からして教育公務員についても前示理想像たる教職者と
しての人格能力の具有を期待する趣旨においてこれに必要不可欠な研究、修養への
努力義務を、理念的、職業倫理的意味において規定したにとどまるものと解するほ
かはない。同法第一九条第二項及び第二〇条各項は、第一九条第一項における「研
究及び修養」とは異なり、文言上は「研修」に関する規定である。しかして「研
修」の語は、広義においては右「研究及び修養」と同義においてその種類、内容等
を問わないものと解する余地ある反面、狭義においては、職務性の強い職員の勤務
能率の発揮及び増進のために職員に対して施される教育訓練(人事院規則一〇-三
第一条参照)と解する余地もあるのであるが、教特法が教員の職責の前記特殊性に
基づき「研修」に関する規定を設けている趣旨を考慮すれば、右後者のごとき受容
的な、与えられる義務的研修に限定してこれを解すべきではなく、教育に携わる者
としての自覚に基づく自主的、自発的な研究修養を包摂するものといわなければな
らず、特にこれを第一九条第一項の「研究及び修養」と異る勤務性を付与した規定
と解すべき理由はない。しかしまた教特法は、公務員たる身分にある教職者として
の教員につき、その服務との関係においてこれを規定していることも明らかであつ
て(地方公務員法第五七条、第一条、教特法第一条参照。)、同法第二〇条第二項
において、教員の日常的業務の中心的存在である授業の支障を配慮しながら、勤務
時間内における勤務場所の離脱を考慮しているところからすれば、これが服務に関
する具体的効力規定としても用いられていることも明白である。従つて教特法は、
第一九条第二項で職業倫理的義務に対応する研修についても前記教育に関する理念
に副うものとして任命権者にその助成措置を講じ、自らも積極的にその実施に努む
べき一般的義務あるものとしてこれを定め、同法第二〇条では第一項において、右
一般的義務に基づき具体的に実施される公的研修への参加の機会のみならず、教員
が自主的、自発的になさんとする右研修についても可及的に機会を与うべきことを
任命権者、本属長の一般的義務と定め、これにより勤務時間内においても、勤務場
所においてなされる限り、服務監督権者である本属長の服務監督権行使が随時事実
上可能であり、学校運営上の支障が生じないものとして、日常的業務すなわち勤務
とはいえない研究修養についても、研修といえるものについては教員の自主性を尊
重し、個別的な承認行為を要さぬものとして取扱うことを認めたものと解すること
ができ、一方勤務時間内に勤務場所外で行われる自発的研修については、勤務場所
を離れることにより本属長の服務上の監督権が事実上及ばないこととなる関係上、
それが右監督権の例外的離脱によつて本来的職務として第一義的に行われるべき勤
務場所での授業その他の日常的業務に及ぼす支障の有無、更には研修と称する右行
為が右の離脱を相当とすべき前示「研修」に当るか否かを服務監督義務上服務監督
権者においてまず判断せしめる必要があるため、同法第二〇条第二項においてこれ
を本属長の承認にかからしめた上、右勤務場所外での自発的研修をなすことをも許
容したものと解するのが相当である。してみると、同法第二〇条第二項所定の要件
のもとに行われる勤務場所外での研修も、その性質上後述する職務専念義務違反と
なるか否かの点は格別、これを勤務もしくは勤務に準ずるものとして把えることは
できないというべきであり、本件教研集会への参加は仮にこれが研修であるとして
も給与支給の対象たる勤務には当らず、従つて給与条例第一三条所定の「勤務しな
いとき」に該当するといわなければならない。
よつて、本件教研集会への参加を勤務であるとし、これを前提としてなす控訴人の
各主張は理由がない。
四 職務専念義務の免除
1 教特法第二〇条第二項の承認と白老町条例に基づく承認
控訴人はまた、本件教研集会への参加が右「勤務しないとき」に該当するとして
も、職務専念義務免除の申出に対し白老小学校長(以下、単に校長ともいう。)の
承認があつたというべきで給与条例第一三条所定の「勤務しないことにつき教育委
員会の承認のあつた場合」に当る旨主張する。
「給与の支給に関する規則」(昭和四二年北海道人事委員会規則七-二八〇)は第
一条において、同規則は給与条例に基づき同条例の適用を受ける職員給与の支給に
関し必要な事項を定めるものであることを明らかにした上、第一三条において、給
与条例第一三条に規定する勤務しないことにつき任命権者の承認があつた場合の一
つとして「別表に掲げる基準により勤務しないことにつき任命権者が承認を与えた
場合とする。」とし、その別表で「研修を受ける場合」を挙げている。
ところで、地教行法第三五条に基づき控訴人にも適用のある地方公務員法第三五条
は、法律又は条例に特別の定めがある場合を除き、職員には職務専念義務があるこ
とを定めているが、成立に争いない乙第九号証によれば、地方公務員法第三五条に
基づき制定された「白老町職員の職務に専念する義務の特例に関する条例」(昭和
二六年三月二六日条例第四号、以下「白老町条例」という。)第二条には、「職員
は左の各号の一に該当する場合においては、あらかじめ任命権者またはその委任を
受けた者の承認を得てその職務に専念する義務を免除されることができる。」とし
て、第一号に「研修を受ける場合」が挙げられており、右規定は地教行法第三五条
により控訴人にも適用されるものである。この場合、控訴人の任命権者は地教行法
第三七条第一項により北海道教育委員会であるが、その任命権の行使は同法第三八
条第一項により具体的には白老町教育委員会の内申をまつて行われ、かつその服務
の監督については同法第四三条第一項に基づき白老町教育委員会がこれを行うもの
であるところ、成立に争いない乙第二〇号証によれば同教育委員会が地教行法第三
三条の規定に基づき制定した「白老町立学校管理規則」(昭和四六年教委規則第二
号)第一九条は、「職員の職務に専念する義務の免除については、職員の職務に専
念する義務の特例条例(昭和二六年白老町条例第四号)の定めるところによる。職
員の職務に専念する義務の免除の承認は、校長にあつては教育長が、所属職員にあ
つては校長が行なう。」と定めていることが認められる。
右にみたところからすれば、控訴人が校長から白老町条例に定める職務専念義務免
除の承認を受けて本件教研集会に参加したものであれば、給与条例第一三条所定の
「勤務しないことにつき教育委員会の承認のあつた場合」に当るものとして給与減
額の対象とはならないということができる。
ところで前示のとおり教特法第二〇条第二項は服務監督権者たる本属長の承認のも
とに教員が勤務場所を離れて研修をすることができる旨を定めているから、右研修
を勤務と解することができないとしても、法律が許容しているものとしてこの場合
における勤務場所の離脱を服務関係上職務専念義務の違反とすることはできない。
従つて教特法の右条項の承認は、これに基づき研修を行う者につき法律上当然に職
務専念義務を免除したものと解すべきであつて、地方公務員法第三五条所定の除外
事由たる法律に特別の定ある場合に当るということができる。そうだとすれば、教
特法第二〇条第二項による本属長の承認と、白老町条例に基づく職務専念義務免除
の承認とは根拠法規としては別個のものであるとはいえ、いずれも具体的には白老
小学校長が本属長として、もしくは教育委員会の委任を受けた者として、「研修」
に関し控訴人に対し服務監督権者として職務専念義務を免除する行為であり、承認
主体の点においても両者はとくに異なるところはなく、両者はいずれも承認の効果
において給与条例上も別異に解する理由はない。従つて白老小学校における教員の
職務専念義務免除の承認は、白老町条例に基づく承認という手続形式をもつて実施
されているものと認めることができるとしても、控訴人のなした白老町条例に基づ
く職務専念義務免除の承認の申出は、同時に教特法第二〇条第二項に基づく承認の
申出たる意味をも有するものと解するのが相当である。そうであれば本件教研集会
参加のための職務専念義務免除の申出及びこれに対する校長の承認、不承認の措置
に関し控訴人の主張するところは、第一次的には教特法第二〇条第二項の承認とし
て、第二次的には白老町条例に基づく職務専念義務免除の承認として主張されてい
るとしても、控訴人は白老町条例に定める研修の意義につき教特法第二〇条第二項
により修正せられている旨を主張しているので、以下教特法第二〇条第二項に定め
る研修の承認につきこれを判断する。
2 本件教研集会参加とその承認
本件教研集会が「北海道教職員組合第一八次、北海道高等学校教職員組合連合会第
一二次、北海道私立学校教職員組合第二次、北海道地区大学教職員組合第二次合同
教育研究集会」と呼称され、右呼称中の各組合及び連合会の主催になるものである
こと、右を共催し控訴人もこれに属する北海道教職員組合が地方公務員法第五二条
所定の職員団体であること、並びに控訴人が本件教研集会への参加に先立ち、昭和
四五年一一月五日右集会への参加を理由として校長に対し職務専念義務免除の申出
をなし、これにつき校長の明示の承認がなかつたことはいずれも当事者に争いがな
い。
控訴人は、本件教研集会は内容的には教職員の自主的研修にはかならないとして控
訴人の右集会参加を職務専念義務が免除さるべき行為であると主張し、一方被控訴
人は、本件教研集会は右開催形式のみならず内容的にも控訴人との関係においては
右職員団体の活動であつて有給での職務専念義務免除は不当労働行為となるべきも
のであるから、右義務免除の対象とはなり得ず、少くともこれを承認することはで
きない旨主張して抗争するから、まず本件教研集会の性格との関係において控訴人
がこれに参加する行為の意義を検討した上、更にその職務専念義務免除の点を判断
する。
(一) 本件教研集会参加行為の性質
弁論の全趣旨により成立を認める甲第一号証の一、二、原審における控訴人本人尋
問の結果及びこれにより成立を認める甲第三号証並びに右争いない事実によれば、
本件教研集会はその開催主体である道内における前記各教職員組合所属組合員であ
る教員が、教員としての自主的な教育研究活動の発展を目的とし、各種教科にわた
る教育、生活指導のすすめ方等につき研究テーマごとに研究調査の結果を報告討議
するものであることが認められるから、この点において右集会は組合員である教員
の自主的研修の場たる意義をもち、従つてこれに参加することはそれなりに教員と
しての自主的研修を行うことになるものということができる。ちなみに、右甲第一
号証の一によれば、控訴人は本件教研集会においていずれの分科会にも研究発表者
として予定されておらず、従つて控訴人の本件教研集会参加による研修の意義とし
ては、右一般参加者としての研修に留まるものというべきであり、これへの参加が
控訴人にとつて、右以上にとくに意味ある研修であることを窺わせる特段の事情を
認むべき資料はない。
しかしまた、右に掲記の各証拠と、更にいずれも成立に争いない甲第三一号証、同
第三二号証、乙第一五号証の一、二、同第一六号証、同第一七号証の一ないし五、
同第一八号証、同第一九号証、当審証人Bの証言、当審における控訴人本人尋問の
結果をも総合すると、国家公務員法、地方公務員法上の職員団体である教職員組合
の全国的規模における連合団体である日本教職員組合は、文部省ないし学校当局が
開催する教員のための教育研究集会、講習会等を、管理組織のもとに行われるいわ
ゆる官製研修であるとし、これに対置さるべき組合員たる教員の自主的、自律的な
教育研究活動を組合の組織的活動の一環として推進するため、かねて「全国教育研
究集会」(当初は「全国教育研究大会」)を原則として毎年開催しているものであ
るが、本件教研集会は、右と同趣旨においてこれを北海道内における教職員組合の
実践的活動として行うため、道内の前記教職員組合等により教員の自主的な教育研
究活動を組合活動と一体的に発展させる目的のもとに組合活動の一環として開催さ
れたものであることが認められ、他に右各認定を覆えすに足る証拠はない。
右に認定した各事実からすれば、本件教研集会は、開催の形式のみならず、実質に
おいても控訴人との関係においては地方公務員法上の職員団体が労働運動たる組合
活動の一環として組合所属教員に自主的研修の場を与えているものということがで
きるのであつて、これに参加する教員は、右集会に参加して研修をすることが、と
りも直さず組合活動としての本件教研集会の成立及び運営に加担することでもある
から、控訴人の本件教研集会への参加は一面において自主的研修を行うものである
と同時に、これと不可分一体のものとして他面職員団体のための活動を行うもので
あるといわなければならない。
(二) 職務専念義務免除の対象となる研修
被控訴人は、右のとおり控訴人の本件教研集会への参加行為が職員団体のための活
動を行うものたる性格を具有するものであるとして、本件教研集会参加の研修性を
否定し、またこれを承認した場合は給料が支払われることになるところから地方公
務員法第五五条の二第六項違反になるとして、およそ右集会への参加は法律上承認
できない性質のものである旨主張するのであるが、控訴人の本件教研集会参加がも
つぱら職員団体のための活動たる性格のみを有するものではなく、他面研修性をも
有し、両者不可分のものとして二面性をもつものであることは前判示のとおりであ
るから、前者の性格のみを把えて、これを当然に研修性がないとみることはできな
い。また、教特法第二〇条第二項及び白老町条例第二条の規定により研修につき承
認を受けることは、前示のとおり、これを勤務と認めるものではなく、職務専念義
務を免除するものに外ならず、本件教研集会に参加することが職員団体のための活
動たる性格をもつこと自体は右承認の当否の判断において考慮されることは格別、
右承認を、法律上当然に不可とする理由となし得ないこともいうまでもないところ
である。しかして本件教研集会参加をその研修性の観点から承認する場合には、前
叙のとおり給与条例第一三条の適用上、結果として給与が支払われることになるも
のであるところ、地方公務員法第五五条の二第六項は職員の服務関係につき、「職
員は、条例で定める場合を除き、給与を受けながら、職員団体のためその業務を行
ない、又は活動してはならない。」と規定し、いずれも成立に争いない乙第一、二
号証によれば、右条項の除外事由を定めた「市町村立学校職員給与負担法に規定す
る学校職員に係る職員団体のための職員の行為の制限の特例に関する条例」(昭和
四一年北海道条例第三七号)及び「職員団体のための職員の行為の制限の特例に関
する条例」(昭和四一年北海道条例第三六号)は、「(1)地方公務員法第五五条
に規定する適法な交渉を行なう場合、(2)休日及び休暇日(特に勤務を命ぜられ
た場合を除く。)、(3)有給休暇(年次休暇に限る。)及び休職の期間」を右除
外事由としているものであることが認められるから、控訴人の本件教研集会への参
加は、職員団体活動性の面においては右除外事由に当らず、従つて右集会への参加
を承認することはなるほど地方公務員法の右条項に牴触するかの如くである。しか
し、本件教研集会参加の右職員団体のための活動性は研修性と不可分一体のものと
してあるのであり、その研修性を無視できないとすれば、その承認に当り右両面の
もつ性格を考量して承認、不承認を判断すべく、その結果研修の相当性を認めて承
認する限りでは、反面において不可避的に伴う右職員団体のための活動は職務専念
義務を免除された時間内におけるものとみることが可能である。そして、前記地方
公務員法五五条の二第六項の規定とその趣旨を同じくすると認められる国家公務員
法第一〇八条の六第六項については、「職員団体のための職員の行為」(昭和四三
年人事院規則一七-二)第七条第一項により、「国家公務員法第一〇一条第一項の
規定に基づき職務に専念する義務が免除されている期間中は、給与を受けながら、
職員団体のためその業務を行ない、又は活動することができる。」旨を定めてお
り、北海道条例上はこれに相当する規定がないにしても、前示北海道条例第三六
号、第三七号の趣旨と対比すれば、右人事院規則の趣旨は右各条例の解釈適用上尊
重されて然るべきものと考えられる。そうであれば、本件教研集会参加のような二
面性ある特殊な研修については、北海道条例上は右人事院規則の条項に相当する規
定がなくとも、事柄の性質上、校長において後記裁量判断のもとに研修参加の相当
性を認めてその承認をした場合には、右人事院規則の条項と同旨に解するのを相当
とし、この場合には職務専念義務が免除されているのであるから給与が支払われる
ことになつても地方公務員法第五五条の二第六項違反にはならないというべきであ
る。従つて、本件教研集会参加が一面で職員団体のための活動たる性格をもち、こ
れに給与が支払われることになるからといつて、これを法律に反するものあるいは
当然に承認し得ない行為であるということはできない。
(三) 本件不承認措置の可否
控訴人は、控訴人のなした職務専念義務免除の申出に対し校長は承認、不承認の明
確な意思表示をなさず、結果において不承認の措置をとつているが、明確に不承認
の意思表示がない以上は、職務専念義務免除の承認が与えられたものとして取扱わ
るべきであるとの見解のもとに、右結果として不承認とされた措置は無効又は取消
さるべきものである旨主張する。
しかし、控訴人の右申出に対し校長が承認、不承認の意思表示を明らかにしなかつ
たことを認めるに足る証拠はなく、かえつて、校長が不承認の意思を表示していた
ものと認め得るものであることは、この点に関する原判決の理由説示(原判決一三
枚目表五行目から同一四枚目裏二行目まで)と同一(ただし、原判決一三枚目表八
行目の「証人」を「原審及び当審証人」と、同一四枚目表七行目の「証人」を「原
審証人」とそれぞれ改める。)であるからこれをここに引用する。しかして、仮に
右不承認措置に無効又は取消事由がある場合には、承認、不承認の判断が択一的な
ものであることにかんがみ当然に承認のあつたものとして取扱われることになると
解するのが相当であり、右控訴人の主張は校長の措置が明確に不承認の措置と認め
られる右場合をも含む主張と解し得るから、以下更にこれを検討する。
(1) 控訴人は、本件不承認措置は合理的理由が告知されなかつたから違法であ
ると主張するが、右措置につき理由の告知を必要とすることを定めた条規はなく、
右主張は理由がない。
(2) 次に控訴人は、教員の職務の専門性を考慮して教特法第二〇条第二項を解
釈すれば、本属長たる校長は授業に支障のない限り本件教研集会への参加を同条項
所定の研修参加として承認すべく覊束されているものであり、かつ授業への支障の
有無の実質的判断権は校長にはなく、研修に参加する当該教員又は職員会議のみが
これを判断し得るものであるから本件不承認措置は違法であると主張する。なるほ
ど教員の職責たる教育に、教員の研修の自主性、自発性が要求され、尊重されなけ
ればならないことは所論のとおりであるが、一定の営造物の構成員たる教員につ
き、その職務の専門性のみから右主張の如き解釈を導き得ないことは、その専門性
について先に判示したところからも明らかである。却つて、特定の雇傭関係の上に
立つ勤務、すなわち職務専念義務を前提とした規定と解すべき教特法第二〇条第二
項の規定の上段判示趣旨に照せば、右規定は、本属長に服務監督権者として、校務
の運営に遺憾なからしめる見地から授業は勿論勤務場所での勤務全般に及ぼすこと
あるべき支障の有無を判断せしめると共に、教育公務員たる身分を有する教員に職
務専念義務を免除し当該研修をなすことを公に承認することから直接、間接に生ず
べき広義の学校運営上の影響の有無、程度等をも考慮して申出に対する承認の当否
を判断せしめる意味において、承認権を付与しているものと解すべきである。すな
わち教特法第二〇条第二項は、「本属長の承認」とは別に、「授業に支障のない限
り」との要件をとくに規定していることに鑑みると、同法は校務の中でも教員の中
核的職務たる授業についてはこれをまず優先せしむべく、授業に支障がある限りは
研修参加の承認を許さないものとして本属長の承認権を覊束しているものと解され
る。しかしまた同法は、研修を本属長の承認にかからしめているのであり、本属長
は当該学校運営全般にわたりこれを総括する責務を有し、個々の教員の勤務場所で
の職務内容も授業のみではなく、他の学年、学級との関連を考慮した教育課程の編
成、これに基づく諸計画の立案、学級運営、課外での児童の生活指導、学校運営上
の校務分担等に伴う各種業務があることはいうまでもなく、授業以外のこれら校務
運営上の支障を無視して職務専念義務免除をなし得ないことも自ら明らかである。
のみならず、校長は教員に対する服務監督権者として研修であるが故に職務専念義
務を免除するものである以上、社会的に多義的評価を受ける研修行為については客
観的にこれを相当とする事由があると認め得て始めてその承認をすべきものであ
り、右校務の支障をこえて更に行為の態様、場所等を勘案し、あるいは教育公務員
としての身分に伴う参加の相当性等についても諸般の事情を配慮してその当否の判
断をすることが必要であるというべきである。教特法第二〇条第二項の承認は、こ
の意味において本属長に研修の承認に伴う授業以外の諸影響を教員の服務監督者の
立場において比較考量せしめるための裁量判断権を付与しているものといわなけれ
ばならない。本件教研集会のように前記二面性をもち、当該研修行為が必ずしも一
義的性格のものでない場合にあつては、これを構成する各属性の相関関係ないしは
その属性の程度、態様の如何により健全な社会常識に照して評価し、これを研修と
して承認し得る場合と承認し得ない場合を生ずることが考えられるのであるから、
かかる場合に右属性中の一のみを把えて承認すべきものとし、もしくは承認すべか
らざるものとすることはできないというべきで、この意味においても校長としては
承認による影響、効果を多角的に考慮判断してこれを検討することが必要である。
しかして前記引用にかかる認定事実及び当審証人Aの証言によれば、A校長は、職
員団体の主催する教育研究集会への参加に公的便宜供与をすべきでないとする北海
道教育委員会の指導に基づき本件教研集会が職員団体の主催するものであり、その
研修性についても教育上の疑問があるとして控訴人の本件職務専念義務免除の申出
を不承認としたものであり、同校長としては控訴人が年次有給休暇をとつて本件教
研集会に参加するのであれば右休暇を承認する意向であつたことが認められるか
ら、本件不承認措置は授業等への支障があることを理由とするものではなく、本件
教研集会参加行為のもつ前記二面性を比較考量した上、右集会においてはその研修
性より職員団体のための活動性が重視さるべきものとして裁量判断したものである
ということができる。そうであれば、職務専念義務免除の承認判断において右二面
性の比較考量もその内容たり得ること前叙のとおりであることからして、右判断に
基づく本件不承認措置に無効事由があるとは認められない。また、前記認定の本件
教研集会の性格に照せば、右集会への参加行為が具有する前記二面性は、その一面
のみが他の一面に対し顕著に優越しているものでもないのであるから、そのいずれ
に着目して判断をするも校長の裁量権の範囲内の問題であるというべきであり、右
比較考量の判断に裁量権の濫用ないし逸脱があるとまでにわかに認め難く、他に本
件不承認措置に無効もしくは取消事由があると認定するに足る証拠はない。従つ
て、控訴人の右各主張は理由がない。
五 本件過払給与返還の可否
控訴人は、被控訴人が前記金七〇一五円を支給したのは支払債務のないことを知つ
てなしたものであるとも主張するが、右主張が採用できないものであることは原判
決理由説示(原判決一六枚目表二行目から同裏一行目まで)と同一(ただし、原判
決一六枚目表一一行目に「前記乙第一号証」とあるのを「公務員が職務上作成した
ものと認められるから真正な公文書と推定される乙第一四号証」と改める。)であ
るからこれをここに引用する。
六 結論
以上によれば、控訴人は勤務しなかつた前記二四勤務時間の給与相当額金七〇一五
円を不当に利得したものとして被控訴人に返還すべき義務あるものといわなければ
ならない。また、控訴人の本件職務専念義務免除の申出に対し、A校長においてこ
れを不承認とする旨意思表示し、控訴人に年次有給休暇の手続をとるよう説得して
いるものであること前判示のとおりで、控訴人はこれにより本件教研集会参加中の
勤務時間相当分の給与については、年次有給休暇をとらない限り減額の対象とされ
るものであることを了知していたものと認めるのが相当であるから、控訴人は悪意
の受益者として被控訴人に対し、右金七〇一五円に対する受益の翌日である昭和四
三年一一月二二日以降完済まで民法所定年五分の割合による利息金の支払義務ある
ことも明白である。結局被控訴人の反訴請求部分は理由があるというべきで、これ
と同旨の原判決は相当であるから、本件控訴は理由がない。
よつて、民事訴訟法第三八四条第一項に従い本件控訴を棄却することとし、控訴費
用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小河八十次 落合 威 山田 博)

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